転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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113話 ロン・ベルクとの邂逅 そして、ロモスへ

~~~~ギルドメインの森~~~~~

 

 

鬱蒼とした茂みの中を、父さんを先頭に俺達は進んでいく。朝早くに家を出たため、まだ太陽は頭の上まで登りきっていない。ここは、街道からギルドメインの森に入って直ぐの場所だ。誰かが頻繁に通っているためか、獣道のような人一人が通れる程度の道ができており、歩くのにそれほど支障はなかった。

 

「おい、パン。お前、いつまで俺の肩に乗っかって楽をしているんだよ。少しは歩かないと太るぞ、お前。――!? わっ、噛むな、こら!」

 

痛い、痛いってば! 俺の肩に乗っかって眠そうにしていたパンが、俺の太るぞという言葉に反応したのか、俺の頭を甘噛みし始めた。

 

「くすくす。ポップさん、女の子に太るなんて言うからですよ」

 

「えー。でもパンって、女の子って、がらじゃないと思うんだけど――。 だから痛いって、こら!」

 

俺がメルルにそう返事を返す間も、パンが俺の頭をガジガジと囓るもんだから痛くてたまらない。

 

そんな俺とパンの様子を父さんが呆れたように振り返り、「おい、お前達、ちゃんと付いてきているか?」と声をかけた。今俺達は父さんを先頭に、俺(+パン)、メルル、マァム、ダイ(+ゴメ)の順に森の中を進んでいた。

 

俺は肩に乗ったパンを足下に下ろしながら後ろを振り返り、最後尾のダイまできちんと付いてきている事を確認した。

 

「うん、付いてきているよ。でもこの辺りは、エウレカの里に行く時も通らなかったな。よく父さん、こんな場所に小屋を構えたそのロンという人と友達になったね?」

 

俺は、前を歩く父さんの背にそう問いかけた。

 

「ああ、この先に、質の良い鉱物の取れる鉱床があってな。ロンとはそこで偶然出会ったんだよ。お前が俺の後を継ぐ気があるなら、その場所も教えておいたんだがな……」

 

なるほど……鉱床か。良い鉱物が取れる鉱床は、鍛冶師にとって秘匿すべき場所だ。おそらく父さんもその鉱床に行く時は、誰にも知られないように行っていたのだろう。

 

「ああ、見えてきたぞ。あの小屋があいつの作業小屋だ」

 

俺は父さんの背中越しに、その視線の先を追った。本当だ。少し開けた広場に、小さな小屋が建っていた。

 

「おーい、ロン。いないのか!?」と、父さんが小屋の前で大声を上げるが、小屋からは何の返事も返ってこなかった。

 

「いないのかな……?」と、ダイが小屋の方を伺う素振りをする。そんな時、俺達の背後の茂みがガサガサッと揺れ、そこから一人の男が姿を現した。その男の顔には、十字を切るような刀傷がまざまざと刻まれていた。

 

すぐさまダイとマァムが俺とメルルの前に進み出て、いつでも動けるように戦闘態勢を取った。無理もない……。戦士としてせいぜい二流でしかない俺でも、その男が尋常でない力を有してる事が分かった。隙のない立ち振る舞いに、眼光鋭い眼差し。剣は履いておらず酒瓶を無造作に手にしているが、それが逆にこの男の隠しきれない強さを際立たせているように思えた。

 

だが、俺達の警戒は無用だったようだ。

 

「よおッ! ロン、帰って来たか!」

 

そう気安に声を掛けた父さんに、手に持った酒瓶をグイッと口に運んだ後その男は答えた。

 

「……困るな、ジャンク。お前以外の人間をここにつれて来ては……」

 

 

それが、俺達と魔界の名工 ロン・ベルクとの初めての出会いだった。

 

 

 

その後、ロン・ベルクは父さんの頼みを聞く形で俺達を小屋に招待してくれた。しかし、彼は二度と気合を入れて武器を作る気は無いという。その理由は、『最近はロクな使い手がいない』という理由だった。しかし、彼はダイの『鎧の魔剣』で真魔剛竜剣を折ったという話を聞いて突然声を荒げた。

 

「真魔剛竜剣だとぉっ……!! あの剣と戦ったのか!? 結果は……、結果はどうなったっ!?」

 

突然肩を掴まれ困惑した様子のダイが、その問いに答える。

 

「あ……相打ちだった。でも、相手の剣も折れたけど、こっちは剣が消滅しちゃったんだから負けかも……」

 

しかし、ロン・ベルクはその答えを聞いて人が変わったかのように大声を上げて破顔した。

 

「いいぞ!! ……そいつはすごい!!」

 

「お、おい、ロン、どうしたんだ?」

 

余りに普段の様子と異なるからだろう。父さんが、高笑いするロン・ベルクを訝しんで声をかける。その声に、ロン・ベルクは「何故分からん!?」と相変わらず興奮した様子でまくしたてる。

 

「これが喜ばずにいられるか。真魔剛竜剣こそ神が作ったと言われる地上最強の剣。この俺が100年以上も追い求めてやまなかった究極の武器そのものなのだ! それを強度的に劣る金属で作ったあの魔剣で折ったんだからな……!! 大したボウズだよ、お前は! ワハハハッ!!」

 

うん、よく分からないけれどダイがロン・ベルクに気に入られた事は分かった。これは、いよいよ『ダイだけの剣ゲットだぜッ!!』と、思ったが……やはりそうは問屋が卸さなかったようだった。

 

 

 

「……あいにく俺は錬金術師じゃないんでね。材料が無きゃ剣は作れんよ。話はオリハルコンを見つけてきてからだ」

 

無情にも、冷静になったロン・ベルクはそう俺達に告げる。うん、まあそりゃあ、そうだよね。オリハルコンのような鉱物がそこらに転がっている訳がない。どんなゲームでも、まず素材であるオリハルコンを入手する所から始まるのが定番だ。

 

しかし、……なるほどね。ここで、メルルのもう一つの占いの結果が生きてくる訳か。

 

「どうする、ポップ? 素材が無いと、いくらロン・ベルクさんでもダイの力に耐えられる剣を打てないみたいだけど……」

 

マァムは、もうメルルの占いの事をきれいさっぱり忘れているのか、俺にそんな不安そうな声を投げかける。

 

「いやいや、マァム、思い出してみろよ。メルルが占った場所は、ここランカークス村だけだったか?」

 

「え? ――! あっ、そうか! ロモスね……!」

 

「そう。メルルの占いは完璧だったんだよ。ここランカークス村では剣を打てる者の手がかりが、そしてロモスでは……」

 

「そうか! 剣の素材になるオリハルコンの手がかりがあるんだね!」

 

ダイの言葉に、俺は「そういうこと」と返事を返し、メルルのお手柄だとメルルの手を高く掲げた。

 

「ふふふ。私でも、少しはお役に立てたようで、良かったです……」

 

「少しどころじゃないよ! ありがとう、メルル!」

 

「ピィ、ピィ♪」

 

ははは。ダイとゴメに囲まれてメルルが赤面している。

 

 

 

「どうやら、オリハルコンがありそうな場所に心当たりがあるようだな。……さっそく行くのか、ポップ?」

 

「うん、そうするよ、父さん。オリハルコンを手に入れたらまた戻ってくるから、母さんにもそう伝えておいて」

 

「分かった。気をつけろよ」

 

俺が父さんにそう返事を返し瞬間移動呪文(ルーラ)を唱えようとすると、ロン・ベルクの小屋の周りをぶらぶらしていたパンが、「置いていくな」とばかりに突然俺の肩に飛び乗ってきた。

 

「え? パン、お前もロモスに行きたいのか? だけどお前、家の護衛は―― ――!」

 

俺がパンにそう問いかけていると、突然前の藪から大きな魔物がぬっと姿を現した。

 

その魔物は、後ろ足で立つとおっさんの上背をも上回る大きさの、立派な成獣のキラーパンサーだった。普通なら緊張が走る所だが、俺は……。

 

「セリーヌ! セリーヌじゃないか! 久しぶりだなー。元気だったか?」

 

俺はそのキラーパンサーがエウレカの里のセリーヌだと一目でわかったので、一目散に駆けていき、そのふさふさの毛をした首筋に顔を埋めた。

 

「……お、大きいわね。ポップのこの様子を見ていなかったら、敵かと思う所だったわ」

 

「そうですね。でもマァムさん、よく見るととても優しい眼差しをしていますよ、あのセリーヌさんという方」

 

「すっごく綺麗なキラーパンサーだね。俺、大人のキラーパンサーって初めて見るよ。ポップ、俺も紹介してよ! ゴメちゃん、行こう!」

 

「ピィ、ピィ!」

 

ダイ達もセリーヌを怖がる事なく傍にやってきて、そのダイ達の自己紹介をセリーヌはいつもの優しげな目で見つめていた。

 

 

 

「こいつは見事なキラーパンサーだな。これほどの個体は、魔界でもついぞお目にかかった事がない。しかし、地獄の殺し屋とまで謳われるキラーパンサーが、これほど人族と馴染んでいるとは……」

 

ロン・ベルクが視線をセリーヌに向けて、心底珍しいと言いたげにそう口を開いた。

 

「ああ、前に言っただろう、ロン? あのベビーパンサーもそうだが、あいつらがギルドメイン山脈に里を構えているエウレカの里の住人だよ。ポップを通じて俺も交流があるが、なかなか気のいい奴らだよ」

 

「はっはっは。人族同士の足の引っ張り合いが嫌でこんな田舎に住んでいるお前が、魔物と交流をしているとは。なかなか面白いじゃないか」

 

「ほっとけっ! おい、ポップ。セリーヌは、パンのいない間の留守は任せておけと言いたいんじゃないのか?」

 

その父さんの声に、俺はセリーヌと目を合わせた。

 

「そうなのか、セリーヌ? パンの代わりを任せて良いのかい?」

 

俺のその問いかけに、セリーヌは大口を開けて「ぐぉーん」と言葉を発した。どうやら肯定のようだ。

 

「そうか、ありがとうセリーヌ。お前がいてくれるのなら安心だよ。……じゃあパン。付いてくるか?」

 

俺が肩に乗っかったままのパンにそう問いかけると、パンは当然と言わんばかりに胸を張った。やれやれ、トラブルメーカーが加わっただけのような気もするが、これほど付いて行く気満々のパンを置いていくのもかわいそうか。

 

そう判断した俺は、改めて父さん達に別れを告げ、パンを加えてラインリバー大陸ロモス王国に瞬間移動呪文(ルーラ)で移動した。

 

 

 

 

 

~~~~ロモス王国 城門前~~~~

 

 

久しぶりにやってきたロモス王国は、ギルドメイン大陸より南方に位置するためか、幾分ムワッとする熱気が周囲に漂っていた。ここは、ロモス王城の城門前だった。前方には、お城の四方をとり囲むようにして発展しているロモスの町並みが見える。

 

ああ、前にロモスを発つ時はまだ崩れた家がたくさんあったが、今視界に入る範囲ではそうした建物は見当たらない。逆に耳に聞こえてくる喧噪が、ロモスの町で平和な営みが行われている事を証明しているかのようだった。

 

後ろを振り返ると、俺の視界いっぱいに大きなロモスの城が映った。

 

「どうやら、ロモスはあの時より復興しているようね。安心したわ」

 

マァムが周囲を見渡しながら、安心したように言葉を発した。

 

「ロモスに着いたは良いけど、どこにオリハルコンについての情報があるんだろうね?」

 

そのダイの疑問の声に、俺は「とりあえずお城の誰かに聞くのがいいんじゃないのか?」と答え、皆で城門に向かった。パンは初めて見るロモスの町が物珍しいのか、俺の肩の上でキョロキョロと周囲を見渡している。

 

城門の前には、槍を持った兵士が2人門番として詰めていた。俺は、その門番をしている兵士の1人に声をかける。

 

「すいません、オリハルコンについてお聞きしたい事があるんですが、何かご存じないでしょうか?」

 

「ん? あっ、あなた方は勇者様達!? よくぞロモス王国にお越し下さいました!」

 

おっと、俺達の事をご存じの兵士さんのようで、突然興奮気味に大声を張り上げられた。あまり目立ちたくないから、ちょっと声のトーンを落としてもらいたいんだけどな。

 

「あー、いえ、ちょっと用事があって寄らせてもらったんですけど、オリハルコンについてご存じないですか?」

 

俺はもう一度兵士さんに聞いてみた。

 

「オリハルコン? それはもしかして、この件でしょうか?」

 

そう言って、その兵士さんは懐から1枚のチラシを取り出して俺に手渡してくれた。

 

どれどれ……? 俺はそのチラシを一目見て、ニヤッと笑みを浮かべた。ああ、これだ。間違いない。俺はそのチラシを、後ろに立つダイ達に見えるように掲げた。

 

「皆、どうやらメルルの占いは、これを指していたみたいだ。さあ、誰が出場する?」

 

そのチラシには、『ロモス王国 大武術大会 優勝賞品:覇者の剣』と、でかでかと書かれてあった。

 

 

 

「じゃあ、出場登録はダイとマァムの2人で良いな?」

 

俺は、武術大会の受付の前でダイとマァムに対して最終確認をした。チラシに書かれていた出場申し込みの締め切りは今日の正午で、今は午前11時過ぎだったからギリギリ間に合った形だった。

 

「ねえ、ほんとにポップは出ないの? せっかくだから、ポップも出れば良いじゃないか」

 

「そうよ。別に魔法使いが出ても問題ないみたいよ」

 

ダイとマァムの2人が、俺まで大会に出たらどうかとしきりに誘ってくるが、俺は端からこの大会に出場するつもりはなかった。確かに魔法使いも参加はできるみたいだが、飛翔呪文(トベルーラ)での飛行制限まである闘技場で戦うなんて、後衛職にとって不利過ぎるじゃないか。

 

「別に俺が出なくても良いだろう。2人が出たら、どちらかが優勝間違いなしだよ」

 

「でも俺、武器が無いから勝てるかどうか分からないよ……」

 

……何を言っているんだ、ダイは。いくら武器が無くたって、天下の(ドラゴン)の騎士に勝てる奴がそうそういてたまるかよ。そんな奴がいたら、うちのパーティーにスカウトしたいくらいだ。

 

「ダイは模擬戦用の木刀を借りるといいさ。ほら、ここに木刀は何本でも借りられるって書いてあるぞ」

 

「えー、木刀? そんなの竜闘気(ドラゴニックオーラ)を纏わせたらすぐに壊れちゃうよ」

 

「だから良いのさ。パプニカで竜闘気(ドラゴニックオーラ)の絶対量不足をおっさんに指摘されていただろう? 良い機会だから、木刀が壊れない程度に竜闘気(ドラゴニックオーラ)を纏わせる練習をしてみろよ。竜闘気(ドラゴニックオーラ)の力加減を覚える良い機会だよ」

 

俺の言葉に、ダイが不承不承ながら頷いたので、俺は受付に2人の出場を申請した。

 

「はい、確かに受け付けました。予選開始は午後1時からですので、それまでにこの場所にもう一度お集まりください」

 

そうか。だったら腹ごなしをして時間をつぶすとしようか。さっきから俺の肩にいるパンの腹の音もうるさいし……。

 

「皆、登録も出来たし、お昼ご飯でも食べに――」

 

「お! おい、お前ら! いつ戻ってきたんだよ! 久しぶりじゃないか!」

 

突然、背後から声をかけられて俺達が振り返ると、そこにいたのは2ヶ月前にロモスで共闘したでろりん達勇者一行(パーティー)だった。

 

 

 

 

 

「おいおい、お前達まで出場するんじゃ、俺様の優勝が危うくなるじゃないかよ!」

 

骨付き鶏を豪快に頬張りながら、でろりんが俺達に対してそう文句を言う。

 

「でも俺、木刀で出場するつもりだよ? マァムだって素手だし、でろりんの方が有利じゃないか」

 

「ぼ、木刀!? お前、そんなので出るのか!? そうか。ポップも出ないようだし、それなら勝てるかもしれねえな。へっへっへ。よしっ、『覇者の剣』は俺がいただいたぜ!」

 

ダイが木刀で出場すると聞いて、途端に顔に余裕の笑みを浮かべるでろりん。

 

……甘いな、でろりん。いくら木刀とは言え、真の(ドラゴン)の騎士に覚醒したダイに勝てるはずがないだろう。まあ、希望は持ち続けた方が良いだろうから、この場であえて俺は何も口にしないが。

 

ここは、ロモスの城にほど近い食堂の一角だった。受付の前ででろりん達と出会った俺達は、旧交を温めるため、腹ごなしもかねて一緒に食事をとる事になった。

 

「でも、ロモスに着いて早々にでろりんさん達に会えて良かったです。皆さんにお土産を持ってきているんで、良かったら受け取ってくれませんか?」

 

そう、俺はロモスというメルルの占いの結果が出てから、でろりん達へお土産を渡そうと思って、事前に用意をしていた。彼らがロモスにまだいる事には確信を持っていたしね。それは、前回の別れ際に、『ロモスで勇者認定された事で、こちらで仕事が増えた』と、でろりんが言っていたからだ。

 

そういう事で、彼らにはロモスでは世話になったし、個人的に火炎呪文(メラゾーマ)のこつを教えてくれたまぞっほにもお礼がしたかったから、全員分のお土産を買い込んでいたんだ。荷がかさばって大変だったから、着いてそうそうに彼らに会えて良かった。

 

「おっ、気が利くじゃねえか! 良いぜ、もらってやるよ」

 

「あら、私にもくれるのかしら? ふふふ、何かしら? 楽しみだわ」

 

「ほう……。若いのに、殊勝な心がけでは無いか。ほっほっほ」

 

「ポップ。……ありがとう。うれしい」

 

俺は足下に置いてあった袋をほどき、一人一人に事前に用意していた土産を渡した。

 

「まずは、でろりんさんにはこれを。これは、魔界の名工ロン・ベルクの最高傑作 『まどろみの剣』です」

 

でろりんは、俺から手渡された剣を早速鞘から抜き放ち、その漆黒の刀身を舐めるように見て感嘆の声を漏らした。

 

「お、お前……。これ、とんでもない業物じゃねえか。鋼の剣より軽いし、切れ味も恐らく……」

 

それはそうだろう。でろりんに渡した剣は、父さんの店で売られていたロン・ベルク製の剣になる。この剣には名前などついていなかったが、俺はこれに『まどろみの剣』という名を勝手に付けてやった。

 

「『まどろみの剣』……。なるほど、これに切られた奴は眠るように死んでいく。そんな由来のある剣という事だな、ポップ?」

 

「……そ、そうですね。その解釈で間違いないかと」

 

うーん、本当の由来は、ロン・ベルクが居眠りしながら打ったと言っていたからなんだけどな。そんな由来なものだから、ゲームのように切りつけた相手を眠らせる効果などは付与されていないが、それでも希少なミスリル銀が一定量含まれている剣だ。気に入ってくれたようで何よりだ。

 

「へろへろさんには、これを。パプニカで入荷したばかりの『どたま金槌』です。パワーファイターのへろへろさんにぴったりだと思って」

 

俺のその言葉に、へろへろさんは破顔して『どたま金槌』を受け取ってくれた。うん、ちょっとダイやヒュンケルが身に付けるには抵抗のある兜だけど、へろへろには良く似合っている。

 

「ずるぼんさんには、これを。パプニカの絹で縫られた『僧侶の法衣』です」

 

「まあ、うれしいわ! パプニカの絹は、肌触りが最高なのよね。ふふふ、後で着替えを手伝ってくれないかしら、ポップ君?」

 

「え? ま、まあ俺で良かったら手伝うくらいは―― ――!? 痛ってー!」

 

突然、椅子に座っている俺の足の甲に激痛が走り、俺は思わず叫び声を上げていた。しかも両足だ。ちなみに俺の左右の席には、マァムとメルルが座っていた。もうこれは、言わずもがなという奴だろう。

 

しかし、マァムは分かるが、メルルもか……。俺がメルルにそっと目をやると、「何か?」と言わんばかりにニコッと笑みを向けられたので、俺も曖昧な笑みを返しておいた。

 

俺は痛む足に涙目になりながらも気を取り直し、一番お礼をしたかったまぞっほにもお土産を渡した。

 

「むっ!? こ、これは、『みかわしの服』では無いか! しかもパプニカ産とは! お主……」

 

「ふふふ。まぞっほさんの助言のお陰で、火炎呪文(メラゾーマ)を憶える事が出来ました。これは心ばかりですが、お礼にとお持ちしました。是非、受け取ってください」

 

良かった。まぞっほが、『みかわしの服』に頬ずりせんばかりに喜んでいる。姫さんに頼んで、再開したばかりの服飾工房から直接取り寄せてもらった甲斐があった。しかし、まぞっほにはもう一つ渡したいものがあるんだ。

 

「……それと、まぞっほさん。これも受け取ってくれませんか?」

 

そう言って俺は、まぞっほに、もう一つのある物を手渡した。

 

「む? ――!? こ、これは、兄者のベルト!? お、お主、兄者に……!?」

 

「はい、パプニカでお会いして弟子入りしました。……驚きましたよ。まぞっほさんが、マトリフ師匠の弟弟子だったなんて」

 

そうなのだ。パプニカで師匠に修行をつけてもらっている時に偶然まぞっほの話が出たので、俺はまぞっほの兄弟子に当たる存在がマトリフ師匠だという事を知った。

 

「そのベルト、正直俺も手放すのが惜しくて惜しくて堪らないのですが、マトリフ師匠を敬愛する、他ならぬまぞっほさんのためです。師匠もそれを望んでいるはずですので、まぞっほさんに譲り渡したいと思います。さあ、どうぞ、ご遠慮なく……!」

 

「うーむ……。ポップ、その心がけ、若いのに見上げたものよ。うむ……。それでは遠慮なく兄者のベルトをいただくとしよう……!」

 

やった! これでようやく俺の手元から呪いのベルトが離れて行ってくれた。この『マトリフのベルト』、何度か捨てようとしたんだが、何故か『デロデロデロデロデーデン♪』という謎の音を発して、捨てさせてくれなかったんだよ。

 

こうしてまぞっほに譲る事が出来たのなら、もう問題ないだろう。ベルトの呪いを全てまぞっほが引き受けてくれたら、これ以上の喜びはない。まぞっほも喜んでいるし、これぞWIN―WINって奴だな。

 

「あ、皆さん。そろそろ受付の方に行った方が良いのではないですか?」

 

メルルの声に、俺は懐の懐中時計を取り出して時間を見た。本当だ。もうすぐ午後1時になりそうだ。

 

「本当だ。じゃあ、ダイ、マァム。俺とメルルは観客席で見ているから、頑張るんだぞ!」

 

「うん! 俺、絶対に『覇者の剣』を手に入れてみせるよ!」

 

そう宣言するダイに対して、マァムが「あら、それはどうかしら。『覇者の剣』は私が手に入れて、ダイにプレゼントしてあげるわよ?」と、挑戦的な笑みを浮かべている。

 

ははは。まあ、でろりんには悪いが、どう考えてもダイかマァムのどちらかが優勝してくれるだろう。隣の席でやはりパーティーメンバーから激励を受けているでろりんを横目に、俺はそんな風に楽観視していた。

 

 

 

 

 

「ああ、ここが空いているよ、メルル。ゴメ、飛んでいたら後ろの人が見えにくいだろうから、俺の肩に乗っかりなよ」

 

「ピ、ピィ!」

 

「ありがとうございます、ポップさん」

 

俺達はあの後、出場選手の控え室に向かうダイとマァムを見送り、観客席にやってきていた。ちなみにパンはお腹を膨らませて店を出た後、腹ごなしのつもりなのか1人でふらっとどこかに行ってしまった。まあ、パンが自由気ままな性格だという事は分かっているし、このロモスの町で何か危険がある訳もないだろうから好きにさせている。あいつは鼻が効くから、町の探索に飽きたらまたふらっと俺達の所に戻ってくるだろう。

 

「今日は予選だけなんですね、ポップさん」

 

「そうみたいだね。今日のうちにベスト8まで決定して、明日の午後から決勝トーナメントが始まるみたいだ」

 

俺は兵士から貰ったチラシを眺めながら、メルルにそう答えた。道行く人の会話を聞いた限りでは、最初は1日で予選から決勝まで行う予定だったらしいが、出場者数が当初の想定より増えた事で2日に分ける事にしたそうだ。

 

今日はまだ予選だけだというのに、既に周りには大勢の観客が席についていて、予選が始まるのを今か今かと待ち構えていた。この調子だと、明日の決勝トーナメントでは立ち見客が出そうだな。

 

さて、いくら何でもダイとマァムが同じブロックというのは勘弁してもらいたいな。あの2人の戦いは事実上の決勝戦なんだから、予選なんかでぶつかるのはもったいなさ過ぎる。後、でろりんも別のブロックだったら良いんだけどな。いずれ何処かで敗退するとはいえ、予選ぐらいは突破させてやりたいものだ。

 

「でもポップさん。この大会、2位と3位の方も賞品が貰えるらしいですよ。ポップさんも出ていたら、1位から3位まで全部の賞品が貰えたかもしれませんね」

 

メルルが、俺が手に持ったチラシに視線を向けて言った。うん、確かに優勝賞品の『覇者の剣』に注目が行きがちだが、この大会は確かに2位、3位向けの賞品も存在した。そう、2位は『危ない水着』で、3位は『ステテコパンツ』だった。

 

誰がこの賞品のチョイスをしたのか知らないが、本当に意味の分からないラインナップだ。百歩譲って2位までは魅力的な賞品と言ってやっても良いが、3位は無い。いくらトルネコが『風通しが良くて蒸れないから良い』と評して愛用していたといっても、さすがにあれはない。

 

「ダイとマァムで、上手くいけば2位までの賞品は貰えるんだから、俺が出る必要は無いさ」

 

うふふ。マァムが2位で『危ない水着』を入手しても良いし、ダイが2位で『危ない水着』を入手しても、どうせマァムと『覇者の剣』を交換し合う事になるんだろうから、どっちに転んでも問題ない。絶対に着てもらおう。土下座してでも着てもらおう。うふふ。

 

「ふふふ。でも、マァムさんはもし自分が2位になっても、賞品は辞退するって言っていましたよ」

 

俺の壮大な計画が水泡に帰しかねないメルルのその言葉に、思わず俺は「嘘だろう!?」と叫んでいた。俺の泡を食った様子を見たメルルは、さも楽しそうに口に手を当ててコロコロと笑う。

 

「くすくすくす。ごめんなさい、ポップさんがマァムさんの言っていた通りの反応をされるから、ついおかしくて。なんでも、ご実家に『危ない水着』はもうあるそうですよ。お母様のらしいですけど」

 

再び俺は、「嘘だろう!?」と、大声を上げる。信じられない、あのレイラさんが『危ない水着』を所有していたなんて。

 

……レイラさんの水着姿……か。俺は、ネイル村で会ったマァムの母さんの姿を脳裏に思い浮かべた。露出の少ない落ち着いた服装で気づかなかったが、その服の下には、マァムと血が繋がっている事を示すわがままボディが隠れていたという事か……。なるほど、なるほど。もしかしたら、前大戦では月夜をバックに「いいわね、これ!」などと言いながら、あのレイラさんがあられもない格好で戦っていたと言う事だな。うーん、是非見たかったな!

 

俺がそんな事を悶々と夢想していると、突然俺の脇腹に引き攣るような痛みが走った。

 

「――い、痛いっ。な、何するんだよ、メルル!」

 

気付いたら、メルルの手が俺の脇腹に伸びて、ギュッとつねられていた。

 

「何するんだ、じゃないですよ、ポップさん! 今、マァムさんのお母様の水着姿を思い浮かべていませんでしたか? 駄目ですよ、私とマァムさん以外の人のそういう事を考えたら!」

 

「ご、ごめん、ごめん。じゃあ、メルルの水着姿なら良いって事だね? 危ない水着を着たメルル……。いったいどんな姿に――」

 

「わ、わわ……、私の姿も考えたら駄目ですッ!」

 

そんなほのぼのとしたやり取りを俺達がしていたら、メルルが不意に何かに気がついたかのように、胸元から藍色の物体を取り出した。

 

うん……? ああ、俺が以前渡したトヘロスの効果を付与したネックレスか。それがどうしたんだろう? メルルは何故かそのネックレスを凝視していたが、突然ネックレスから目を離し俺に叫んだ。

 

「ポップさん! ネックレスが!」

 

その声に驚いた俺は、俺に見えやすいように傾けられたそのネックレスに目をやった。すると、ネックレスの裏に刻み込んでいた文字が、見る見るうちに水色から灰色へと変色していくではないか。

 

「これは……」

 

「ポップさん、これって……」

 

メルルが心配そうに俺に問いかける。そうだ、このネックレスには魔を退ける効果があるが、強い魔物には効果がない。しかし効果が無くとも、そのネックレスに刻み込まれた文字の変色によって、魔物が近くに迫っているかどうかを、ある程度判別する事が出来る。実際メルルは、魔王復活後はネックレスをそういう使い方をする事で、危険から回避していたと言っていた。

 

俺がそんな事を考えている間に、鮮やかな水色に発光していた文字は完全に灰色に変色してしまった。

 

「……メルル、この変色の早さは今までにもあった?」

 

「いえ、これほど急激に色が変わったのは初めてです。以前これよりずっとゆっくりと変色した事があったのですが、その時は後からはぐれ竜が近くにいたらしいと分かりました……」

 

……なるほどね。つまり、今この会場の近くには少なくとも竜より強い魔物が潜んでいるという事か。

 

「メルル。どこに敵が潜んでいるか分からない。俺から離れないでね」

 

「はい……!」

 

ワァァァァ!

 

突然、周囲の観客が大声援を上げたため、俺達はネックレスから視線を外し、周囲をキョロキョロと伺った。その理由はすぐに分かった。闘技場の奥の扉が大きく開かれ、この大会に参加する選手一同がぞろぞろと舞台の上に上がってきたためだった。ダイとマァムの姿も、その集団の中に見る事が出来る。

 

「ロモスの民よ。今日この日、武術大会を開催できた事を喜ばしく思う。選手一同には、日頃の研鑽を十分に発揮して貰いたい!」

 

よく響くその声は、観覧席のひときわ高い位置にある貴賓席から発せられていた。そこには、ロモス王国 国王シナナとお付きの兵士達、それと以前この国に来た際には会わなかった文官らしき人影があった。

 




次回は、ロモスの夜の蝶 2本立てでお送りする予定です。
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