転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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120話 父兄観覧

「やれやれ、ようやく出番が終わったよ」

 

「ふふ。お疲れ様でした、ポップさん」

 

準決勝でマァムに敗退した俺は、観客席に戻ってメルルの隣の席に腰を下ろした。俺が席に座ると同時に、メルルの膝の上で丸まって寝ていたパンが、俺の膝の上に移動してきた。

 

その様子を見ながらメルルが「惜しかったですね、ポップさん」などと言うものだから、俺はさっきのメルルの裏切りの声を思い出して、ジトッとした目をメルルに向けた。

 

「メルルがバラさなかったら、勝てたかもしれないんだけど……」

 

「す、すいません。つい、マァムさんを応援してしまいました」

 

そう赤面して顔を俯けるメルルを見ながら、俺は手を振った。

 

「ああ、いや、冗談だよ、メルル。2人が仲良さそうで嬉しいよ、俺は」

 

これは本当だ。なまじ二股宣言しているから、マァムとメルルの仲が悪いと俺はいたたまれない。2人が仲良くしてくれて、その次に俺と仲良くしてくれたらそれで十分だな。

 

そんな事を考えていると、メルルがハッと何か思い出したような顔をしたと思ったら、今度はメルルの方がジトッとした目を俺に向けてきた。

 

……な、何だ、何だ。

 

「え、えーと、メルル。ど、どうかした……?」

 

俺のその言葉に、メルルは拗ねたように少しだけ俺から身体を離して、口を開いた。その顔は赤く紅潮していた。

 

「……マァムさんにばかり、ヤキモチ焼いてずるいです。私にも、ヤキモチ焼いてください!」

 

「……」

 

やっぱり二股って大変かも……、と少しだけ思ったのは内緒だ。

 

 

 

その後、俺達は『準決勝 第2試合 ダイVSフォブスター』の試合を観戦した。まあ、あれだな、やはり竜闘気(ドラゴニックオーラ)は魔法使い泣かせという事を再認識した戦いだった。フォブスターも、まさに今が一番脂の乗った全盛期と言って差し支えない実力派の魔法使いで、そんじょそこらの魔法使いとは一線を画す実力の持ち主だ。攻撃力だけに限って言えば、パプニカの3賢者をも凌ぐんじゃ無いかな。

 

しっかりと各呪文の術式を自身に合うようアジャストさせているし、竜闘気(ドラゴニックオーラ)さえダイが展開していなければ、ダイに手傷を負わせられたかもしれなかった。

 

……が、しかし悲しいかな。木刀に竜闘気(ドラゴニックオーラ)を纏わせ放たれた海波斬で火炎呪文(メラゾーマ)を一刀両断され、巧みにギリギリまで発動を隠して至近でダイに喰らわせた氷系呪文(ヒャダルコ)までをも、竜闘気(ドラゴニックオーラ)で無力化されてはフォブスターに勝ち目は無い。

 

それほどの時間をかけずに、ダイの勝利が確定した。

 

これで決勝戦は、マァムVSダイが決定した。

 

「メルルはどっちが勝つと思う?」

 

「そうですね……。お二人ともとってもお強いですから、私には見当もつかないです。ポップさんは、どちらが有利だと思っているんですか?」

 

「そうだなー、ダイがその手に相応しい剣を手にしていたら、ダイの勝利は揺るがないと思うけど、今の装備だと……マァムの方が有利かな?」

 

「そうなんですね。でも、どちらが勝ったとしても、私は2人とも怪我をされない事を願っています」

 

「まあ、仲間なんだから、酷い怪我をするほど激しくは戦わないと思うけどね。と言いながら、俺はさっきマァムに閃華裂光拳で殺されかけたけど……」

 

「ふふふ。ポップさんが浮気したら、マァムさんのあの技でドロドロに溶かされてしまうかもしれませんね」

 

「だから私達以外の女性に目移りしないでくださいね」と言って、クスクスと笑うメルル。いや、それ全然シャレになっていないんだけどな……。

 

『浮気、駄目、絶対』だな……。俺はその事をしっかりと心に刻み込んだ。

 

 

 

『さあ、皆様。3時間にも及ぶ熱戦もとうとう最後の一戦となりました。登場していただきましょう。勇者ダイ、そして、霊長類最――、おっと失礼しました、女武闘家マァムの登場です』

 

おや、ようやく決勝戦が始まるみたいだ。解説者がダイとマァムを舞台上に呼んだ。しかしマァムは、やはりあの解説者と個別にお話ししたみたいだな。でも、今更だと思うんだよな。俺達の座っている観客席の周りからも「霊長類最強ー!」と連呼する声が飛んでいるし。

 

舞台の上に、2人が姿を現す。ダイは予選を通じて同じ武装で、腰に2本の木刀を差している。対してマァムは、いつもの武闘家の服と、その両手には薄いパンチガードを巻いている。

 

『さあ、それでは決勝戦を始めます! ――始め!』

 

その開始の合図とともにマァムがダイに突っ込んだ。対してダイは腰から木刀を素早く抜き放ち、それに竜闘気(ドラゴニックオーラ)を薄く纏わせる。マァムの突き出した右拳と、それを迎え撃つ木刀が激突した。

 

ギィーーン!!

 

およそ人間の拳と木刀が打ち合ったとは思えないような硬質の音が、闘技場に響いた。その後もマァムの放つ拳や蹴りをダイが木刀で防ぐ度に、同様の音が響く。恐らくマァムの拳や足も、ダイの木刀も、闘気を纏わせる事でそれぞれが鋼のような強度を有しているんだろう。

 

ダイがマァムの拳を身を逸らして躱し、即座に宙に飛んだ。そして上空より、木刀を地上に対して横凪に振るった。

 

「たあーッ! ――海波斬!」

 

アバン流最速の飛ぶ斬撃が、マァムの直上から迫る。しかしマァムは、一瞬溜めを作ったかと思うと、その場でサマーソルトキックを上空に放った。それはただのサマーソルトキックではなかった。そのマァムの放った蹴り足からも衝撃波が発生し、宙で衝撃波同士がぶつかり合う。

 

その衝突の余波が一陣の突風となって、観客席にも達する。実力伯仲の前衛職同士の高レベルのぶつかり合いに観客も大熱狂だ。うーん、やっぱり武術大会ってのはこうでないといけないよな。俺みたいな後衛職が大会に出ると、こんなガチンコのぶつかり合いにはどうしてもならない。

 

再び舞台に足をつき、互いに距離を取って相対するダイとマァム。

 

「すごいや、マァム。海波斬が押し負けて、マァムの放った技が俺まで届いたよ」

 

「ふふふ。母さんが言うには、父さんの放った豪破一刀は、大地斬にも海波斬にも負けていなかったそうよ。娘として、ダイの技に負けてはいられないわ」

 

くくくっ、2人とも実に楽しそうだ。ダイとマァムは、普段パーティーとして戦っていてもこんな風に互いの技を自分の身に受ける事は無かったから、新しい発見が出来て気持ちが高揚するんだろう。ちなみに、俺は常日頃からマァムの鉄拳制裁を受けているため、今更ダイのように高揚する事も無い。……いや、全く自慢できる事では無いのだが。

 

一瞬の静寂の後、再び両者が激突する。先ほどと同様に拳と木刀がぶつかる度に硬質の音が響く。しかし、突如その音に木が砕けるグシャッと言う音が混じった。

 

一見互角に見えた拳と木刀の打ち合いだったが、数合の後、突如ダイの握った木刀がマァムの拳によって砕かれたのだ。

 

『あーっと、ダイ選手の木刀が砕けてしまったー! これにはダイ選手、即座に距離をとってマァム選手の攻撃から逃れたー!』

 

砕かれた木刀を即座に放り捨て、もう1本の木刀を正眼に構えるダイ。

 

 

 

「どうして、急にダイさんの木刀が砕けたんでしょうか?」

 

メルルがそう不思議そうに首をかしげたので、俺は自分の推測を説明した。

 

「多分マァムが、あの一瞬だけ拳に纏わせた闘気の量を増したんだと思うよ。突然変化したその闘気量にダイがついていく事が出来ずに、木刀を砕かれたんじゃないかな」

 

まあ、闘気に関したら俺も素人裸足のようなものだから偉そうな事は言えないけれど、多分そんなところだろう。闘気の総量はともかく、闘気の扱いに関してはやはりマァムに一日の長がある感じだな。

 

ダイも自分の木刀がさっきなぜ砕かれたのかを理解していると思うけれど、だからと言って、すぐにマァムのレベルで闘気を自在に操るのは難しいはずだ。

 

再び接近戦を挑んだマァムに対して、ダイが最後の1本の木刀でそれを防ぐ。ダイが先ほどまでとは違い、困惑の表情を浮かべている。おそらくマァムが細かく闘気の量を変化させて拳を打ち込んでいるためだろう。

 

ダイとしては、竜闘気(ドラゴニックオーラ)が足りなければ先ほどのように木刀を砕かれるし、強すぎると今度は自身の竜闘気(ドラゴニックオーラ)で木刀が破裂するといった、苦しいところだ。

 

だけど、この状況はダイが(ドラゴン)の騎士に相応しい剣を手に入れなければ、これからの魔王軍との戦いで同じ事が起きる事になる。さすがに木刀では戦わないが、これが鋼の剣であろうが、ミスリルの剣であろうが結局は同じ事だ。

 

やはりダイに、新しい剣を手に入れてもらう事は至上命題だな。

 

俺がそんな事を考えている間も2人は打ち合いを続け、その打ち合いの末、再びダイの木刀が破裂した。これはタイミング的に、ダイが木刀に竜闘気(ドラゴニックオーラ)を纏わせすぎた事による損壊だろう。

 

即座にダイは木刀を捨てて素手でマァムに打ちかかる。しかし、付け焼き刃の格闘術ではどうしてもマァムに後れを取るダイ。確かに竜闘気(ドラゴニックオーラ)を纏わせたダイの右拳はマァム以上のパンチ力を得ているように俺には見えるが、その拳の力をマァムは巧みに受け流して、決してそれを正面から受け止めようとはしない。

 

そんな訳で、無手となってからは防戦一方だったダイだが、突然雲一つ無い青空から一転して、舞台の上だけを覆うような小規模な雷雲が発生している事に俺は気づいた。

 

おいおい、ダイ……。まさかあれを……? 俺は上空を見上げて、頬をひくつかせた。そして、空を覆った雷雲の分厚い雲の奥でピカッと稲光が発せられたかと思うと、一条の雷がマァム目がけて走った。

 

ピシャー!

 

ダイなりに加減はしているのだろうが、それでも思わず目を背けたくなるほどの雷光が舞台を走った。

 

「――くっ!」

 

突然の空からの攻撃に、マァムは後方にバックステップする事でそれを躱す。先ほどまでマァムが立っていた場所からはバチバチ、とプラズマのような放電が発せられている。……が、雷撃はそれだけでは終わらなかった。下がるマァムを追いかけるように、次々と雷が舞台に落ちていく。

 

「なんと言う事でしょう! ダイ選手、空から雷を呼んでマァム選手に対抗しています! 私、雷を呼ぶ呪文がこの世に存在するなど、寡聞にして存じ上げませんでした! これぞまさに勇者の成せる技! これぞまさに大武術大会の決勝戦にふさわしい!」

 

解説者の興奮に当てられたのか、轟音と雷光瞬く派手な戦いに当てられたのか、ほとんどの観客がスタンディングオベーションで拍手喝采だ。貴賓席のシナナ王までもが立ち上がって、興奮した様子で拍手を送っている。俺の膝の上でくるん、と丸まって寝ていたパンが、(うるさいよ……)と言いたげに耳をパタッと伏せた。

 

「おいっ、ダイ! いくら何でも電撃呪文(ライデイン)はやり過ぎだ!」という俺のダイを止める声は、周囲の観客が上げる声援にかき消されてダイの耳には届いていない様子だ。

 

そんな俺の焦燥と周囲の熱狂をよそに、目で見てからでは回避のしようのない電撃呪文(ライデイン)を、持ち前の野生の勘を十全に発揮して躱し続けるマァム。

 

そして、後退に継ぐ後退を重ねていたマァムが突然意を決したようにダイ目がけて一直線に駆けた。その直線的な動きは、ダイにとってタイミングを計りやすかったのだろう。再びダイが、空に突き上げていた指を、自身に迫ってくるマァムに対して振り下ろした。

 

「――電撃呪文(ライデイン)!」

 

カッと、マァムの頭上で光が瞬いた。

 

しかし、ダイにとって攻撃のタイミングを計りやすかったという事は、マァムにとっても攻撃を受けるタイミングを計りやすかったという事と同義だったようだ。

 

マァムの頭上で光が瞬いたその時には、もうマァムの右手は腰の魔弾銃に伸びていた。そのまま魔弾銃を腰のガンホルダーから目にも止まらない速さで引き抜き、自身の頭上に銃口を向けて引き金を引くマァム。

 

 

ズガァァァァーーン!!

 

直後、空で大きな爆発が発生し、それによって巻き起こされた爆風が観客席までぶわっと襲いかかる。すっげぇな。マァムの奴、爆裂呪文(イオ)の魔弾を宙に放って、電撃呪文(ライデイン)と相殺させたぞ……。

 

この迎撃には、さしものダイも予想外だったと見える。そう言えば、俺もバランに対して爆球と氷塊の違いこそあれど、同じような対処を取った事がある。あの様子をマァムは見ていて、ダイは見ていなかった。

 

結果的には、この経験の差が勝敗を分けた。

 

意表を突いたマァムの電撃呪文(ライデイン)封じで、ダイの反応が僅かに遅れた。電撃呪文(ライデイン)を防いだ勢いのまますっとダイの懐に入り込んだマァムに対して、ダイが腰の入っていない拳を突き出す。

 

だがマァムは、その拳の打ち込みをスルッと受け流し、そのままダイの腕を脇で固めて足を払う。そしてそのまま石床の上でダイに関節技を決めた。

 

「……勝負あったな。マァムの勝ちだ」

 

俺のその言葉が終わるか終わらないかのうちに、ダイが降参したんだろう。解説者がマァムの勝利を宣言した。

 

『決勝戦、勝者はマァム選手でした! ダイ選手、ここまで木刀を武器に勝ち上がって参りましたが、さすがに相手が悪かった! マァム選手が雷をも躱す機敏な動きを見せ、最後は見事な関節技で、ダイ選手を降参に追い込みました。皆様、熱戦を繰り広げたお二人に盛大な拍手を!』

 

息詰まる熱戦に満足した観客達が、舞台の上で手を振るマァムとダイに万雷の拍手を送った。

 

 

 

 

 

「皆の者、儂の願いを聞き遂げて大会に出場してくれて、心より感謝するぞ。民も、皆の頼もしい姿をその目で見て、魔王軍との戦いに明るい展望を持ってくれたことじゃろう」

 

闘技場内にある選手控え室の一角で、そう第一声を発したのはロモス王であるシナナ国王だった。

 

シナナ国王は、俺達決勝トーナメントに参加したメンバーに感謝の言葉を述べるために、決勝戦の後こうして俺達に招集をかけていた。

 

「そうでしょう、そうでしょう。皆さんも僕の活躍で、魔王軍何するものぞという気持ちを持ったと思いますよ」

 

そう胸を張って威張るチウに、レスラーのような外見をしたゴメスが茶々を入れる。

 

「お前は、予選も含めて1度も勝ってないだろうが! 一体どこからそんな自信が出てくるんだよ!」

 

その言葉に皆がチウを笑う。笑われたチウは顔を真っ赤にして、「次は勝ってみせるさ! 特に二股賢者! 次は負けないからな!」と俺に指を突きつけて気勢を上げる。

 

「だれが、二股賢者だッ!」

 

俺がチウとそんなやりとりをしていると、魔法使いのフォブスターがゆっくりと俺の側にやってきた。

 

「ポップ殿。あなたと対戦してみたかったのですが、巡り合わせが悪かったようです。残念です」

 

「ははは。なかなかこういう武術大会では、俺達のような後衛職はやりにくいですよね。でも、あなたとゴメスさん、それにダイとの試合を見させてもらいましたが、見事な戦いぶりでしたよ。俺も勉強させていただきました」

 

「『氷の賢者』と評されるポップ殿にそう言っていただけると、嬉しいですな。……どうですか? この後、私と3位決定戦など?」

 

「えっ!? 3位決定戦ですか? い、いやー、すいません、俺達この後用事があるので、それはまたの機会と言う事で……」

 

フォブスターもそれほど本気ではなかったのだろう。俺の断りの言葉に、ただ「そうですか。それでは、またの機会に是非」と、特に拘る事なく意見を引っ込めてくれた。

 

そんな風に交流を深める俺達を見て、シナナ王が好々爺の笑みで口を開いた。

 

「ほっほっほ。強者同士の連帯感が生まれただけでも、無理を言って開催させてもらった甲斐があったのう。それにしても、マァムにはすまんことをした。せっかくあのような皆が熱狂する戦いぶりで優勝したというのに、何も賞品を渡せんとは……。――そうじゃ! 2位と3位の賞品はあるのじゃから、優勝したマァムと2位のダイにそれぞれ2位と3位の賞品を渡せるぞ!」

 

(何っ!? もしかしてこれは、マァムに『危ない水着』を着て貰うチャンス到来か!?)と、俺は思わずその言葉に身を乗り出しかけたが、肝心のマァムが俺に一歩先んじて口を開く。

 

「あ、せ、せっかくですが王様。私は遠慮しておきます」

 

「お、俺も、あのパンツは良いかな……。は、ははは……」

 

……なんてもったいない。いや、『ステテコパンツ』はどうでも良いんだが、『危ない水着』はマァムに是非受け取って欲しいんだけどな……。

 

「むう、そうか。良い考えと思ったのじゃが……。それでは、何か他に欲しい物があるようなら、褒美を用意するが……」

 

「いえ、王様。私にとってもこの大会では得られる物が多くありました。このような場を設けていただいただけで、私は満足です」

 

「がっはっは。姉ちゃん、良い事言うじゃねえか。あんたの動き、同じ無手の武闘家として色々聞きたい事があるんだよ。ちっくと教えてくれねえか」

 

マァムは、そんな風に声をかけてきたゴメスと、武闘家同士にしか分からない談義を始めた。どうでも良いが、ゴメスに『スクリュー・パイル・ドライバー』のかけ方を熱心に尋ねるのはやめてくれないかな、マァム……。

 

俺はその様子を戦々恐々とした目で見ながら、そっとシナナ王に提案してみた。

 

「……シナナ王。優勝したマァムへの褒美ですが、マァム本人はあんな事を言っていましたが、もしお構いなければ、こんな褒美はいかがでしょうか?」

 

そして俺がシナナ王にその褒美の提案を耳打ちした所、すぐにシナナ王は相好を崩して手を叩いた。

 

「それは良い考えじゃのう、ポップ! 儂としても、国の兵士の力が底上げされる話で、願ってもない話じゃ」

 

「ありがとうございます、シナナ王。ただ、マァム本人にまだそのつもりがあるかどうか分からないので、今はあくまで準備だけにとどめておいてくれれば」

 

「あい分かった。楽しみにしておるぞ、ポップ」

 

良かった、シナナ王の賛同が得られたら、後はマァムだけの問題だ。この件は魔王軍との戦いが終わったら、マァムに持ちかけてみるとしよう。

 

俺が周囲に視線を巡らせると、ちょうどバロリアとの会話を終えたダイと目が合った。

 

「ポップ、これからどうする? 俺とポップだけでデルムリン島に『覇者の冠』を探しに行って、またここに戻ってきてから、皆でロン・ベルクさんのいるランカークス村に行ったら良いのかな?」

 

俺はダイのその提案に、首を振って控え室に備え付けられている大きな窓から外の様子を見た。もう日が大分西の空に傾いている。今からデルムリン島に行って『覇者の冠』を探して戻ってきて、それからランカークス村に行ってももう夜になっているだろう。

いくら何でも、その時間にロン・ベルクの所に素材を持ち込んで剣を打ってもらうのは、非常識ではないだろうか。

 

そう考えた俺はダイに返事を返した。

 

「いや、もう暗くなるしロン・ベルクさんの所に素材を持ち込むのは明日にしないか?」

 

「そっか。それもそうだね。それじゃあ、今日はロモスで宿を取るか、またポップの実家に泊めてもらう?」

 

「それも良いけど、何なら今日は皆でデルムリン島に泊まらないか? マァムやメルルはデルムリン島に行った事が無いだろうから興味があるだろうし、ダイも久しぶりにブラスさんとゆっくり話をしてみたくないか?」

 

俺のその提案に、ダイは内心の喜びを隠しきれない様子で「良いの!?」という顔をしたから、俺は大きく頷いた。

 

「もちろん。ブラスさんもダイの様子が気になっているだろうし、『覇者の冠』だけ受け取って、はいさよならじゃあ、あんまりだろう。食材をたらふく町で買い込んで、今日はデルムリン島でお疲れさん会をしようぜ」

 

「うん、ありがとうポップ!!」

 

本当の両親の事を知った反動からなのか、故郷であるデルムリン島に望郷の念を抱いていたらしいダイは、少しほっとした表情をした。うん、どんなに強くなってもダイはまだ12歳、前世で言ったらまだ小学校に通っている年齢だ。いくらこの世界が早熟だからって、色々な葛藤を自分の力だけで呑み込むには早すぎるだろう。肉親枠のブラスさんと久しぶりにゆっくり過ごすと良いさ。

 

 

その後俺達は、シナナ王や武闘大会の出席者に別れを告げその場を後にした。どうやらシナナ王もこの後直ぐにパプニカに発つ予定だったらしく、幾分慌ただしい別れの挨拶となった。

 

 

 

「ダイさんの故郷ですか? ふふふ。是非行ってみたいです」

 

メルルが、俺の提案に賛同するように笑みを浮かべた。闘技場前の広場は、未だ興奮冷めやらぬ様子の観客が列を作って家路に着いていた。

 

つい先ほどは、マァムに気づいた小さな子供達が彼女の周囲に集まって、マァムに握手をねだったり、大きくなったら弟子にして下さいって言ってきたものだから、こういう事に慣れていない様子だったマァムはあたふたしていた。でも、子供達にキラキラした純粋な憧れの目を向けられてはにかんだように微笑んでいたマァムは、とても可愛らしかった。

 

ちなみに俺にも『クラブ バニー』のお嬢様方から労いの言葉がかけられ、またの来店を口々にせがまれたが、背中に突き刺さるような2対の視線を感じては、不用意にその言葉に頷く事ができなかった。

 

 

「デルムリン島かー。ダイ君の友達の魔物がたくさんいるという話だね。ふふふ。僕の家来にふさわしい魔物がいたらスカウトしてやるとしよう」

 

何でそんなに上から目線が出来るのか不思議になるが、そんな事をチウが得意げに口にしたものだから、俺はマァムに疑問をぶつけた。

 

「……なあ、マァム。本当にチウも連れて行って良いって、ブロキーナ老師は言ったのか?」

 

「……ええ。私もちょっと心配なんだけど、老師の許可が出ているのは本当よ」

 

マァムもチウを見つめながら、そっと息を吐いた。そうか、本当に許可は出ているのか。……まあ、良いか。同じ獣人繋がりで、クロコダインのおっさんとうまが合うかもしれないしな。そう言えば、チウはパンとは面識があったのかな?

 

俺が、足下で眠そうに欠伸をしているパンを見下ろしていると、今その存在に気がついたのか、突然チウがそのパンの脇に手を差し入れ、まるで赤ちゃんに『たかい、たかい』をするかのように自身の顔の前に持ち上げた。

 

そして、恐れを知らぬ勇者チウは、そのままパンの頭から下半身まで舐めるように目をやって、こう言い放った。

 

「……むむ? ベビーパンサーとは珍しい。よし、君を僕の子分1号にしてやろう。ふむふむ……。なるほど、君は女の子だな?」

 

その言葉に対するパンの反応は激烈だった。気怠げだったパンの全身の毛が一瞬で逆立ち、「フシャーッ!!」と猫が敵を威圧するかのような声を発した。直後、パンはその鋭くとがった両手の爪でチウの顔を引っ掻く。

 

「ぎゃーーー!! な、何をするんだ、君は!? 痛いっ! か、噛まないで! マ、マァムさん、お助けーーー!」

 

パンはチウの手からするりと身体を逸らし地上に降り立った直後、顔に手をやって苦悶の声を上げているチウのお尻をその鋭い牙でガプリっと深く噛んだ。そしてそのまま、必死に逃げ惑うチウを、怒り心頭の様子のパンが追いかけ始めた。

 

「もう、チウったら。いくらなんでも、そんな事をしたらパンちゃんでも怒るに決まっているでしょう?」

 

マァムもため息をつきながら、そんな2匹の追いかけっこを呆れたように見つめる。

 

「ま、まあこいつらは放っておいて、早いところ商店街で食材買ってデルムリン島に行くとしようぜ。俺、もう朝から働きづめだったせいで腹減ったよ。ダイもそうだろう?」

 

俺がダイにそう声をかけると、何故かダイは俺がザイード、いや、今はシーザーだが、その彼と戦っていた高台に目をやっていた。

 

「どうかしたのか、ダイ?」

 

「え、う、ううん。ちょっと変な気がしたんだけど、気のせいだったみたい。うん、俺もお腹ペコペコだよ。早く行こう、ポップ!」

 

ダイは俺の問いかけに、高台から視線を剥がし俺にそう答える。

 

そして俺達は、追いかけっこをしているチウ達を放っておいて、ロモスの町中にある商店街に足を向けた。

 

ちなみに、すっかりその存在を忘れていたノヴァの所にもついでに顔を出して、用事がすんだら迎えに来るので、それまでこのまま宿屋で身体を休めているように伝えてきた。ノヴァは俺達に付いてきたそうな顔をしていたが、さすがに今の体調のあいつを方々に連れ廻す事は出来ない。

 

ずるぼんさんも、あいつの世話をする事を引き続き買って出てくれたので、俺としても助かった。しかし、ずるぼんさんの目に相変わらずハートマークが浮かんでいるのが気になるな。……あいつ、今度迎えに来た時、俺をさしおいて、勝手に大人への階段を上っているんじゃないだろうな。もしそんな事になっていたら、バウスン将軍に告げ口してやろう。うん、そうしよう。

 

 

 

 

 

闘技場を見下ろせる高台に、2人の男が佇んでいた。彼らの視界には、武術大会に満足した様子で退出している大勢の人混みが写っていた。

 

「ディーノ様は、残念でしたね」と、槍を片手に持った男がもう1人の男に恭しく声をかけた。その槍を持った男の肌は青白く、耳が鋭利にとがっていて、一目で魔族の血が入っている事が分かる容貌だった。

 

対して、声をかけられた男の方は、見た目は人間に見えなくも無いが、その鋭い眼光がただ者で無い事を如実に告げていた。その男の左目には、爪にも翼のようにも見える特徴的な飾りが架けられている。

 

その男が、槍を持った男の言葉にほんの僅か沈考し、言葉を返す。

 

「いや、ディーノは負けていない。ディーノの放った雷撃呪文(ライデイン)は、私と対峙していた時のそれより随分と威力が抑えられていた。あの子は母親に似ているから、仲間を相手にしては、本気を出せなかったのだろう。そうでなければ、あの程度の爆裂呪文如きで、(ドラゴン)の騎士の放った雷撃呪文(ライデイン)を防げるはずが無い」

 

「さようでしたか。失礼しました」と、頭を下げる槍を持った男。

 

「ですが、覇者の剣の噂を耳にしてここまで来ましたが、どうやら一歩遅かったようですね。私がもう少し早くこの国にオリハルコンが存在する事に気づいていれば……。申し訳ありません」

 

じっと、眼下の闘技場の一角に目を落としていた男が、再び頭を下げた男を振り返った。

 

「……いや、もう覇者の剣の事は良い。ディーノの側には、あの男がいた。あれがいれば、悪いようにはならぬだろう。最初から私の出る幕では無かった。……さあ、もう戻ろう」

 

 

その男は、何故か幾分その眼光を和らげた目で配下と思わしき男に声をかけ、その場を後にした。

 

 

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大魔王戦役の最中に始まり、以後3年に一度の頻度で開催されているロモス王国主催の大武術大会。大魔王戦役から150年が経った今年、『第50回 大武術大会』への出場者及びその観覧者で、現在ロモスの町は人で溢れかえる程の賑わいを見せている。

 

本大会の歴代優勝者及び準優勝者は、第1回から余さず記録が残されており、それはロモス王国の王城の一角にある資料館に、優勝者及び準優勝者の来歴と共に展示されている。

 

その履歴は、

 

第1回大会 優勝者:マァム    準優勝者:ダイ (ただしエキシビション)

第2回大会 優勝者:ダイ     準優勝者:クロコダイン

第3回大会 優勝者:クロコダイン 準優勝者:ヒム

第4回大会 優勝者:アルビオーネ 準優勝者:ルーン

第5回大会 優勝者:チウ     準優勝者:パン

 …

 …

 …

 

などである。なお、第19回大会まではロモス王国の東部に当時存在した闘技場が用いられていたが、第20回より規模を大きくし南部に新たに建設された闘技場で大会が開催されている。その理由としては、旧闘技場で開かれた第19回大武術大会での一幕が発端と伝わっている。

 

その大会では、大魔王戦役の英雄の一人であるマァム・マーカストンが特別枠として、『特別功労賞』を受賞している。その賞は決して儀礼的なものではなく、紛れもなく彼女が第19回の武術大会において特別な功労を果たしたがために贈られた賞であった。

 

以下は、ロモス王城内の資料館の一角に掲載されている、闘技場が新たに建設されるに至った概要の抜粋である。

 

第19回大会の決勝戦は、当時カール王国の騎士団 副団長の地位に就いていたアーバイン(男性21歳)という名の剣士と、同じくロモス王国で戦士団 副団長の地位に就いていたレイシャ(女性 19歳)という名の女性武闘家の組み合わせであった。共にそれぞれの国の威信を賭けて戦った両者の戦いは、互いに一歩も引かず、剣技『豪破一刀』と拳技『豪破一闘』が乱れ飛ぶ凄惨極まりない戦いとなる。

 

両者の実力は伯仲しており、その戦いの余波を受けて観客席まで危険が及んだ。だが、この試合を観覧していた両者の祖父母に当たるポップ・マーカストンとマァム・マーカストンが事態の収拾に動いた事で、かろうじて最悪の事態は防ぐ事が出来た。

 

まずポップ・マーカストンが観客席と舞台の間に氷の結界を構築する事で、観客席に両者の激突による余波が及ぶ事を防いだ。それによってかろうじて試合は継続され、両者は手に汗握る熱戦の末同時に場外に落ち、大会史上初の両者優勝という結果となった。

 

しかし、この時アーバインとレイシャの両名は制止の声を挙げる審判の声も聞こえないほど戦いに没頭しており、決着が付いた後も両名の激突が続く。この両名の戦いはエスカレートする一方であり、ポップ・マーカストンの張った結界もあわや崩壊寸前の事態に陥った。

 

この時、両者の間に割って入って戦いを止めたのが、マァム・マーカストンである。既に老境に入っていたはずの彼女が颯爽と舞台の上に降り立ち、血気に逸る若い一線級の戦士をものの一合で諫めたのである。

 

この時の彼女の貢献が認められ、彼女には『特別功労賞』が送られる事となる。同時に、闘技場の安全性が指摘される事となり、新たに規模を大きくし、観客の安全性にも配慮した闘技場が建設される運びとなったのである。

 

 

 

以上が、新たな闘技場が建設されるに至った概要である。その契機となった第19回大武術大会を当時実際に観覧していた者が現在もロモスの町で存命中のため、その彼(ミラルダ・バークマン 男性 99歳)に当時の話を伺った。

 

『第19回大会ですか? ええ、よく覚えていますよ。忘れもしません。あれは儂が6つの時でした。決勝戦は、それは見応えのある戦いでしたね。怖くはありませんでしたよ。決勝戦が始まってすぐに、氷の透明な壁が私達と舞台との間に現れましたからね。

だけども、やはりあの大会で語るべきは、優勝した2人ではなく老師マァムに尽きるでしょう。我を忘れて戦いに没頭する2名の戦士の間に颯爽と現れたあの姿を忘れる事など、できやしません。

 剣士が振り下ろした大地を断つかのような剛剣を、2本の指でまるで箸で掴むかのように摘まんだんですよ? 武闘家の放った炎が拳に宿っていた正拳突きを、指一本でピクリとも動かせないように押さえ込んだんですよ?

 『婆ちゃん!?』、『お婆さま!?』と驚く2人に対して、よく通る涼やかな声で『いい加減にしなさい、あなた達!!』という叱責の声が投げかけられ、同時に目もくらむような閃光が発せられました。

 閃光が収まり、私が目を舞台にやった時にはもう、2人とも頭に大きなたんこぶをこさえて、舞台の上で大の字になって仲良く気絶しておりました、はい。

 もう、神々しいというのはあの方の事を言うのでしょうね。本当にお美しくて……。えっ、当時老師マァムは70の歳を数えていたはずですって?

 何を言っているのですか。あの凜とした立ち姿、ピシッと伸びた背筋、すらっとしたおみ足、若々しい肌の張り。50歳、いやいや40歳、いやいや30歳でも通じましたよ、あのお姿は。

もちろん、そのお姿に感動したのは私だけではありません。もう全ての観客が立ち上がって、『霊長類最強――!!』の大歓声ですよ。

だってあなた、久しく表舞台に現れなかったかつての英雄が若かりし日の姿そのままに現れて、その力が未だなお健在である事を見せつけてくれたんですよ。それは感動しますよ。あの時一緒に観覧していた私の祖父など、老師マァムに手を合わせて拝んでいましたよ。

そのまま老師マァムは、二人の戦士をまるで麻袋を担ぐかのように肩に乗せて……』

 

ミラルダ氏の当時の述懐は留まる所を知らないが、この証言から、老境にさしかかっていたマァム・マーカストンが衰える事を知らない力を、晩年まで保有していた事が窺い知れる。当然ながら彼女は既に他界しているが、彼女の血を引く者、彼女の技を受け継ぐ者が今年の大会にも複数名エントリーしている。観覧する者は、それも頭に入れて観覧する事を強くお勧めする。

 

また、前述したとおり、ロモス王国の王城には、大武術大会の年表、入賞者、関係者について記した資料を展示している資料館が存在するため、こちらもロモスを訪れたこの機会に目にしてみてはどうだろうか。

 

なお、その部屋の片隅に、第1回の武術大会を開催するに当たって尽力した者に対する当時の国王からの直筆の感謝状が掲げられており、その感謝状の末尾にはこのように書かれている。

 

『……。最後になるが、この大武術大会を開催するに当たって尽力してくれた妖魔学士ザムザ殿に、心より謝意を述べさせていただく。彼には彼の思惑があった事だろうが、彼の献身的かつ不断の努力がなければ、あの当時の情勢であれほどの規模の大会を開く事は出来なかった。それは、何人たりとも否定できない事実である。彼の冥福を心よりお祈りする。

                          ロモス王国 国王 シナナ』

 

 




明日もできれば投稿します。次回は、『勇者の里帰り』です。
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