転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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122話 閑話① 女難の相 最後の刺客

 

ゴゴゴゴゴ……。

 

 

ダイを含む皆で、久しぶりのデルムリン島を楽しんだ翌朝。

 

前夜までの穏やかな空気から一変して、今はかつてハドラーが襲撃をかけてきた時のような凄まじい地響きと、まるで地獄の蓋が開いたかのようなおどろおどろしい異音がデルムリン島を包み込んでいた。

 

……いや、違う。それは錯覚だった。地響きは発生していない。地獄の蓋も開いていない。それは、俺を滅殺せんばかりの凄まじいプレッシャーを俺が感じているが故の錯覚だった。

 

この強烈なプレッシャーの主、それはマァムとメルルだった。ブラスさんの住居の一室で早朝から床の上に正座している俺とパン(※幼女形態)の前で、この2人は怒りのオーラを放ちながら仁王立ちしていた。

 

……本気だ。本気でこの2人は、俺の返答次第では俺の人生をここで終わらせる気だ。その証拠に、マァムの右手からは閃華裂光拳独特の輝きが煌々と発せられている。そしてメルルはと言えば、両の手に大きな水晶球をむんずと握りしめている。俺の返答次第では、メルルの手にある水晶球は占いという本来の目的では無く、人を撲殺するための鈍器としての役割を果たす事だろう。

 

本気で命の危険を感じた俺は、改めて状況を頭の中で整理する。だらだらと冷や汗を掻きながら正座する俺とパン(※幼女形態)の背後にある俺の寝具。その寝具の白いシーツの上には、まるでどこかの誰かが裂傷して零したかのような数滴の真っ赤な鮮血が、卑猥な染みを作っていた。

 

……事の発端は、今より1時間ほど前に遡る。

 

 

 

まだ日も完全に昇りきっていない早朝、俺とパンは突如マァムとメルルに寝具を剥ぎ取られ、有無を言わさぬまま2人並んで固い床の上に正座を強制された。何故、俺とパンなのかというと、俺の寝具の中にパンが潜り込んでいたからだった。

 

実は昨日の深夜、俺の布団の中にパンが潜り込んできていた。俺は就寝中うっすらとそれに気がついていたが、パンが俺の布団に潜り込んで来るのは、幼少時に時折合宿と称してエウレカの里に寝泊まりしていた時にもあった事だから、俺は特に気にもしていなかった。

 

ただ、今回これまでと違っていたのは、いつの間にやら布団に潜り込んだパンが変身呪文(モシャス)の魔法をかけて、幼女形態に変貌していたという事だった。大事な事だから何度でも言うが、パンの幼女形態はヒョウ柄のビキニのような露出の多い服を纏った10歳ぐらいの女の子の姿をしている。もちろんそれに、猫耳、猫尻尾付きだ。

 

そんな俺とパンが、同じ布団の中で抱き合って(抱き合っていた自覚は無いが、夢の中で何かに抱きついて寝ていたような覚えはある)寝ている所を、この2人が目撃してしまった。

 

「……それで、何か申し開きはあるのかしら、ポップ?」

 

俺とパンが無言で萎れているものだから、剣呑な目をしたマァムが俺達にそう詰問する。

 

「い、いや、だから言っているじゃないか。パンが俺の布団に潜り込んでくる事は、ランカークス村での修業時代からよくあった事で、何も特別な事じゃないんだよ」

 

その俺の弁解の言葉に、メルルが目だけは笑っていない凍り付くような笑顔で「……それは女の子の姿になってですか?」と続く。

 

「そ、それは、その頃はパンも変身呪文(モシャス)の魔法を覚えていなかったから、この姿になって潜り込んできたのは初めてだけどさ。だけど、ただそれだけだよ。なあ、パンも覚えたばかりの変身呪文(モシャス)を使って見たかっただけだろう?」

 

俺がそうパンに問いかけると、マァムもメルルもパンに目を移した。だが、俺達の視線を一身に受けたパンの答えは、俺の予期していない答えだった。

 

「ん、……ちがう。パン、ポップのこども、ほしかった」

 

「「「はあッ!?」」」

 

俺達に等しく衝撃が走った。それは、俺が想像だにしていなかった答えだった。マァムは大きく目を見開き、メルルは水晶球を脇に抱えた状態で口に手を当てて固まってしまっている。

 

「ちょっ、パン? な、何を言っている――」

 

狼狽えながらも発した俺の言葉を遮るように、パンが「ポップ、すき。こども、ほしい」と続けて更に爆弾を落とす。

 

い、いやいや、待って待って。そりゃあ俺もパンは好きだけど、いくら何でもそれは無いだろう。妹としてならともかく、子供って……。ていうか、お前自身がまだ子供じゃねえか。

 

あっけらかんとした態度のパンを俺が唖然として見つめていると、ようやくマァムとメルルも再起動したようだった。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい、パンちゃん。いくら何でも人間のポップとベビーパンサーのパンちゃんに子供なんて……」

 

「そ、そうですよ、パンちゃん。それに、パンちゃんはまだ子供じゃないですか。子供なんて、まだ早いですよ」

 

そのごく当然の2人の反応に、パンは更に燃料を投下した。

 

「ん……、はやくない。ポップのこども、できた」と、正座をした状態で心なしか胸を張るようにどや顔を決めるパン。

 

「「「はあッ!!?」」」

 

そのパンの放った核爆弾のような言葉に、俺ばかりか再びフリーズを起こすマァムとメルル。しかし、すぐに再起動した2人がバッと俺を振り返り、その直後2人から俺に対する激しい怒りの炎が立ち上がった。お、おお……。マァムの背中からは紅蓮の炎が、メルルの背中からは漆黒の炎が立ち上がっている気がするが、これが幻視というやつなのだろうか? もしかすると俺は、アバン流刀殺法の上伝である空の技に開眼したのではなかろうか……。

 

い、いかん、現実逃避している場合じゃない。いくら何でもきちんと否定しておかないと、魔王軍との戦いが終わった後2人とお付き合いするという話も、結婚したら混浴解禁という話も、全て水泡に帰してしまいそうだ。

 

いや、そもそもそんな未来の話より、今この時点で既に俺の命が危うい危機的状況だ。その危険度は、キルバーンの仕掛けた鳥かごすら遙かに凌駕している。言葉選びは、慎重にいかなければ。少しのミスが命取りとなる。

 

俺は、「んっ、んんっ!」と、自分を奮い立たせるように一度咳払いをした後、極めて論理的に主張を展開する。うん、ここは再び『眠りの小五郎』の出番だ。

 

「よし、ちょっと落ち着こう、2人とも。いくら何でもそれはない。ほら、証拠もここにあるだろう?」

 

俺は正座の姿勢を崩し、俺の背後の寝具をめくり、その白いシーツに何も汚れも付着していない事実を示す事で、身の潔白を訴えた。

 

俺が何を言わんとしているかを理解してくれたようで、マァムとメルルも身を乗り出すようにしてその真っ白なシーツを見つめ、そっと頷いてくれた。

 

「た、確かにそうね。その……汚れはついていないし。――!」

「そう……ですね。いくら何でもパンちゃんは初めてでしょうし……。――!」

 

俺が分かってくれたか、とホッと息を吐くのと、2人から「「何を言わせるのよ(んですか)!?」」と言う罵声と共に両頬をはたかれたのは同時だった。

 

頬をはたかれた拍子に流れた鼻血がポタッ、ポタッとシーツに落ちて染みを作る様子を、俺は静かに見つめていた。どうやら俺は初手で失敗したようだ。今日の小五郎は、小五郎は小五郎でも、眠っていない小五郎だったようだ。

 

羞恥に顔を真っ赤にしたマァムの右拳からは煌々とした輝きが発せられ、やはり顔を赤らめたメルルは脇に抱えていた水晶級をむんずと両手に握った(←今、ここ)。

 

 

 

「ちょ、ちょっとパン(※もうマァムは、ちゃん付けをやめている)! パンは、どうして子供ができたって思っているのよ?」

 

「そうですよ、パンちゃん。怒りませんから、正直に教えてくれませんか?」

 

そのパンの回答次第では、パンは許しても俺は許さないとばかりに、2人が俺の腕をわしっとそれぞれ掴んだ。パンは、詰め寄る2人の剣幕に怯むこと無く、ふふん、とばかりに胸を張ってどや顔で答える。

 

「おんなとおとこ、おなじばしょ、ねる。こどもできる、きいた」

 

「「……」」

 

そのパンの言葉に2人は一瞬キョトンとした後、すぐに2人は顔を見合わせて深く安堵の息を吐いた。うん、俺も密かに安堵の息をついた。さすがにそれは無いだろうと思っていたものの、眠っている間の事だから万が一があるかもと思っていた俺も、その言葉でようやく安堵した。

 

良かった、どうやら俺の罪状は幼女との同衾だけで済みそうだ。いや、前世だったらそれでも十分過ぎるほどの社会的制裁を受けた事だろうが、この世界ではそれは無視して良いだろう。俺の腕を跡が残る程強く握りしめていた2人からの拘束が大分緩められた所を見ると、俺はどうやら死地を脱したようだ。昨晩、粘り強い交渉の末獲得した『結婚したら混浴OK』という権利も、再び俺の手中に戻ってきたと考えて良いだろう。

 

 

 

「そもそもパン。お前、同じ場所で寝たら子供が出来るなんて話、いったい誰に聞いたんだ?」

 

そんな俺の疑問に、パンは「……らいか」と答える。

 

……。ライカ、恐ろしい奴……。たったそれだけの刷り込みで、かつて死神キルバーンに謀られた時以上の絶望的な状況に俺を追い込むとは……。

 

 

「え、えーと、パン。あながち間違っている訳じゃないんだけど、ただ一緒に眠るだけじゃあ子供はできないのよ?」

 

「マァムさんの言うとおりですよ、パンちゃん。まだパンちゃんは、子供はできていないと思いますよ」

 

ようやく俺への疑念が晴れた様子のマァムとメルルが、まるで背伸びする子供をあやすかのように、パンに言葉を投げかける。

 

その言葉にショックを受けたのは、今度はパンのようだった。びっくりしたような顔をして、2人を見つめ返す。

 

「わからない。こども、どうしたら、できる?」

 

首をこてんと傾げて、邪気のない顔で2人に対してそう問いかけるパン。

 

「え!? ……そ、それはちょっと、む、難しい質問ね。ね、ねえメルル?」

 

「は、はい。わ、私も、それはちょっと存じ上げないというか……なんと言うか……」

 

先ほどのお姉さんぶった所作から一転して、途端に顔を真っ赤にしてモジモジと挙動不審になる2人があまりに可愛いくて、よしたらいいのに俺もその会話の輪に加わる。

 

「……おしえて。マァム。メルル」と、無邪気にキラキラした目で2人に問いかけるパン。

 

「俺も知りたいなー。教えてよ、マァム、メルル」と、やはりその隣で無邪気にキラキラした目で2人に問いかける俺。

 

次の瞬間、羞恥で顔を真っ赤にした2人から俺は再び頬を右に左にと、張られる羽目になった。

 

……うん、口は災いのもとだな。もういらんことを言うのはやめておこう、と俺は心に誓った。

 

 

 

結局この後、『子供は、コウノトリという名の鳥が首にかけた風呂敷に包んで運んでくる』と俺がパンに説明する事で当座を凌いだ。マァムもメルルも俺のその説明に頭に疑問符をいくつも浮かべていた様子だったが、これ以上話をややこしくするのを避ける事を優先したのか、特に突っ込んでくる事も無かった。

 

 

 

こうして、ダイの初めての里帰りは無事(?)終わった。ロモスでは俺が霞んでしまう程のMVP級の活躍をしたパンに、最後の最後で一騒動起こされてしまったが、まあどうにか俺の命も首の皮一枚で繋がったんだ。もう深くは突っ込むまい。

 

 

さあ、次はいよいよダイの……、真魔剛竜剣にも負けないダイだけの剣の誕生だ。俺達は期待を胸にデルムリン島を後にして、再びランカークス村に飛んだ。

 

 

 




はい、これにて7章の前半パート終了です。まだ後半がありますが、年度末で仕事が忙しくなってきた上に、どうも今年は転勤で引っ越しまでありそうなのでいったん投稿はお休みしようと思います。新年度になって、新しい生活環境、職場環境に慣れたらまた戻ってこようと思います。

これまで感想で応援を頂いた皆様、ありがとうございました。しばらくお待たせする事になりますが、戻ってきましたらまた応援いただけますと大変うれしく思います。

それでは。
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