転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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126話 VS 鬼岩城 ③ 蟷螂は蝉を狙うが、鳥はその背後に潜んでいる

「「ポップ!!」」

 

ヒュンケルとおっさんが地上から発したと思われる悲鳴に近い声が俺の耳に届く。バダックさん達は、突然俺の背後に現れたこいつから発せられる悪意の塊のような負のオーラを間近に感じてか、絶句して声も出ないようだ。

 

しかしキルバーンはそういった眼下の彼らの反応を気にもせずに、まるで俺がさも古くからの友人であったかのように、ことさら陽気に、かつなれなれしく話しかけてくる。

 

「会いたかったよ、氷の賢者君。かの竜騎将バラン君との戦いにおける君の八面六臂の活躍は、素晴らしいの一言だったね。まさか君達が、バラン君まで退けるとは思ってもみなかったよ」

 

キルバーンの背後からは、おそらく一つ目の魔族だろうが、そいつの発する「どうせ、まぐれだよ、まぐれ♪」という、囃し立てるような声も聞こえる。

 

「……それはお褒めに預かりどうも。お前からも温かい叱咤激励の言葉をいただいていたし、俺も頑張ったよ」

 

俺が掌中の光の矢を構えたまま後ろを振り返る動作を取ろうとすると、黒い鎌が俺に触れる面積が増えたのか、首に感じるひやりとした感触が強くなった。こめかみからつつーと冷や汗を流しながらキルバーンに視線だけを向けると、奴はその酷薄な笑みを更に深めた。

 

「ウフフフ。僕は小心者だからね。その手にある物騒な呪文を向けないでもらえるかな?」

 

「心外だな。俺はただお前と正対しようと思っただけさ。それで、今日はいったい何のようで来たのかな?」

 

「クククッ。相変わらず、たいした胆力だね。もちろん約束を果たしに来たんだよ。……君の暗殺というね」

 

愉悦に浸っているような酷薄な笑みを深めるキルバーン。それを聞いてヒュンケルとクロコダインが声を張り上げる。

 

「待て、キルバーン! 何故、裏切り者の俺達を狙わず、ポップを狙う! お前の狙いは本来俺達ではないのか!?」

 

「そうだ! お前は魔王軍の粛清人のはず! かつて魔王軍の六大軍団長だった俺達から襲うのが、お前の仕事ではなかったか!?」

 

「ウフフフ。確かに君達も僕の標的には違いないよ。だけど、優先順位というものがあるのさ。僕は君達、魔王軍の元軍団長よりこちらの氷の賢者君の首の方に、高値をつけているんだよ。それに、これはミストの依頼でもあるからね」

 

「ミストバーンだと! くっ、やむを得ん! ポップ、少々のダメージは覚悟しろ……!」

 

おいおい、何をするつもりなんだ、ヒュンケルは。鎌を首に突きつけられて下を向く事すら出来ない俺はその様子を確認する事が出来ないが、尋常ではない闘気が地上に集中していっている気配だけは感じる。ちょっと待ってくれ。それってもしかして、先日バランに喰らわしていたグランドクルスじゃなかろうな。

 

いやいや、竜闘気(ドラゴニックオーラ)すらぶち抜いた闘気技じゃないか、それ。そんなのを俺が喰らって、少々のダメージで済むはずないって。自分基準で考えるんじゃない! 頼む、やめてくれ。絶対に死んでしまう。

 

そんな冷や汗をかいていた俺を助けるために現れたのではないだろうが、この場にもう1人の男が突然出現した。

 

「……そこまでだ、ヒュンケル」

 

直接言葉を交わした回数はそれほど多くない。しかし、その声は一度聴いたら忘れる事が出来ないほど寒々しくて、それでいてどこか色気を感じる声質。うん、つまり思わず嫉妬してしまいそうになるほどのイケメンボイス、いわゆるイケボという事だ。

 

振り返らなくても分かる。それは魔王軍 魔影参謀 ミストバーンだった。

 

 

 

「ミストバーン! 貴様、いつの間に……! くっ、爺さん、皆下がれ! こいつは危険だ!!」

 

クロコダインがそう声を張り上げるが、それは一手も二手も遅かったようだ。眼下の大地を黒い電流がスパークして駆け巡ったように感じた俺は、続く皆の絶叫に思わず耳を塞ぎたくなった。

 

「逃がさぬ!! ――闘魔滅砕陣!!」

 

「ぐ、ぐあぁぁッ!! な、なんじゃこれはーー!!」

 

「い、痛いーー!! 身体が千切れそうだよッ!!」

 

「が、がはっ!! くっ、こ、これは何とした事だ!?」

 

ミストバーンの十八番を初めて喰らったバダックさん、チウ、アキームが絶叫を上げる。もちろんその黒い蜘蛛の糸は、ヒュンケル達も捕えていた。

 

「ぐうぅ! おっ、おのれえっ……!」

 

「くっ! なんという暗黒闘気の力だ! これではポップを……! ぐ、ぐああっ!!」

 

どうやら、皆がミストバーンの放った闘魔滅砕陣という名の蜘蛛の巣に捕らわれてしまったようだ。

 

「ふふふ。これで余計な邪魔が入る心配は無くなったね。ミスト、鬼岩城の方は良かったのかい?」

 

「……問題ない。あちらは、我が分身シャドーに任せてある。どうやら、世界の王達の居場所を掴んだようだ」

 

「へえ……、それじゃあ、勇者一行(パーティー)の要も、各国の主要な面子も今日で仲良く命を落とす事になるか。ウフフフ、これでまた大魔王様の大望に一歩近づいたね」

 

やれやれ、勇者一行(パーティー)の要って、もしかしてもしかしなくても俺の事だよな? どうでも良いが、俺の事を過大評価しているのはダイだけではなかったようだな。

 

それにしてもこいつら、略称で呼びあう所もそうだが、どうにも仲が良いな。コミュ症のミストバーンとサイコ・キラーのように見えるキルバーンは、意外に相性が良いという事か?

 

「さて、地上はミストに任せるとして、……氷の賢者君。優しい僕からのサービスだよ。喉を掻き切られる前に、彼らに何か別れの言葉を伝えたいのなら、どうぞ」

 

そう言ってキルバーンは、地上で蜘蛛の巣に捕らわれているヒュンケル達に目を落とす。

 

「へー、ずいぶんとサービスが良いんだな。だけど、良いのかい? 俺がこの呪文をお前に放つ、あるいは、別の攻撃呪文を唱えるかもしれないとは考えないのか?」

 

「ウフフ。僕がその呪文を受けるような隙を見せると思うのかい? それに、今の君はそれ以外の呪文は詠唱できないはずだよ。……違うかい?」

 

俺はわずかに肩を竦めて、「……違わないな」とキルバーンに答える。確かにここまで臨界点ギリギリの状態でとどめた極大消滅呪文(メドローア)を余所に、別の呪文を唱える事など出来ない。解除した後ならともかく、これを手中に収めたまま別の呪文を唱えるなんて事をしたら、この手の中の消滅のエネルギーが暴走してしまい、今度こそ俺はこの世から消滅する事になるだろう。

 

そして、極大消滅呪文(メドローア)を背後のキルバーンにぶち当てる動作も、先ほどのこいつの警戒レベルを考えると、こいつを斜線軸上に捉える前に俺の喉はこの漆黒の鎌によって掻き切られてしまうのは疑いようも無い。

 

……なるほどね。最初からこのタイミングを狙っていたと言う事か。そして、恐らくミストバーンもグルだな。どうりで、鬼岩城内の魔影軍団の生産場所を簡単に暴露したわけだ。俺の背中を一筋の冷たい汗が流れた。

 

「まあ、いいや。別れの挨拶は良いとして、せっかくだから冥土の土産に、お前の話を聞かせてくれよ。さっき俺の暗殺を依頼したのはミストバーンと言っていたよな。お前は大魔王直属の配下だとヒュンケル達に聞いているが、どうしてミストバーンがお前に依頼できるんだ? ミストバーンの立ち位置は何だ?」

 

「「……」」

 

俺の問いかけに、地上のミストバーンはもちろん、キルバーンも返事を返してくれない。だから俺は言葉を続ける。

 

「だんまりか……。そういえばミストバーンは、先のハドラーの乾坤一擲の奇襲にも参加していなかったらしいな。ザボエラはいたというのに。お前達2人の関係性を見ていると、どうやらバーン直属の配下はキルバーンだけではなく、ミストバーンもみたいだな? ……違うか?」

 

俺はさっきからキルバーンと会話をしつつ、その実、聞きたい内容はミストバーンに集中している。それは、このミストバーンから発せられる捉えどころのない不気味さからだった。正直に言うと、ここで再会するまで俺はミストバーンに対する脅威度をそれほど高く設定していなかった。

 

しかしこいつは今回、鬼岩城というバーンの玩具を自由に使用できる権利を得て襲来している。どうも、バーンからの優遇度では、ミストバーンはハドラーを上回っているように感じる。そしてバーン直属のキルバーンとの関係性も考慮すると、このミストバーンは只のハドラー麾下の軍団長としての立ち位置に留まらない存在に思えてならない。

 

……気になるな。俺は、ミストバーンはバーンから優遇されていると感じている。しかし、より正確に言うなら、優遇というよりは隠蔽されているように感じられるんだよな。隠されると、暴いてみたくなるのは本能のようなものだ。……あの白い長套、脱がせてみたいな。どうにも、そこに奴の秘密の一端がある気がするんだ。

 

俺は、背後のキルバーン、眼下のミストバーンに順に視線を投げかけるが、やはり返答はない。……沈黙は肯定ととるぜ?

 

そして、ふと気になった事を更に訪ねてみた。それは本当に俺にとっては雑談と言って良いほどの何気ない質問だったのだが、俺の言葉が彼らに与えた効果は、……俺の想像を超えていた。

 

「そう言えば、お前達は2人ともバーンの名を冠しているんだな。……どうしてだ?」

 

――!

 

その瞬間、眼下のミストバーンから殺気が吹き上がるように発せられた。

 

「キル……!」

 

ミストバーンのその言葉に、俺の首に添えられている死神の鎌がピクリと動き、一筋の赤い線を俺の肌に浮かび上がらせた。

 

――まずいッ! ここまでだ!

 

俺は一瞬でそう判断し、大声で叫んだ。

 

 

 

「――デルパァッ!!」

 

 

 

その瞬間、俺の腰に巻いたベルトに挿していた魔法の筒から白い煙が噴き上がると同時に……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「――な!?」

 

突如俺とキルバーンとの間に出現したマァムに、キルバーンが驚きの声を上げる。キルバーンは俺の首に添えていた死神の鎌で、俺の首を即座に掻き切ろうとする動作をとったが、その死神の鎌の柄を既にマァムはその手に掴んでおり、ピクリとも動かない。その隙に俺は、鎌の射程から距離をとる。

 

「はぁぁー! 武神流奥義 閃華裂光拳!!」

 

俺の背後から現れた勢いのまま、マァムはその光り輝く右拳を未だ動揺収まっていないキルバーンの胸部に叩き込んだ。

 

「ガハッ!!」

 

苦悶の声を上げながら、キルバーンが地上に散乱している瓦礫の中に突っ込んでいく。

 

よしっ! 生物に対して一撃必殺の威力を持つ閃華裂光拳が完全にキルバーンに入った。これでやっかいな存在だったキルバーンを仕留められたはずだ。マァムも会心の手応えがあったのか僅かに頷いたと思ったら、俺を振り返り文句を言った。

 

「もう! 呼ぶのが遅いわよ、ポップ! ヒヤヒヤしたじゃない!」

 

「ごめん、ごめん」

 

俺が苦笑しつつ返事を返す間にも、マァムは地上に落ちていく。ここから地上まで20m以上の高さがあるが、マァムにとっては何ということも無い高さなんだろう。体重を感じさせない軽快な動きで着地するマァム。

 

……残念だったな、キルバーン。お前は再び俺を狩るつもりだったのだろうが、今回狩られるのはお前の方だったのさ。俺は、ほんの少し前の大礼拝堂でのやりとりを思い出していた。

 

 

 

~~~~遡る事、半刻前~~~~

 

「待ってください、ポップさん!」

 

マァムとチウの手を引いて大礼拝堂のバルコニーから飛び立とうとした俺に、背後からメルルの制止する声が届いた。

 

「ど、どうかした、メルル?」

 

俺がメルルを振り返ってそう声をかけると、メルルはその両手で自分の体を抑えるかのように震えながらも声を張り上げる。

 

「嫌な、嫌な気配がします……! まるで、あのベンガーナの町で感じたような!」

 

その言葉に、あの町で起きた事を知っているマァムの顔色が変わった。恐らく俺も同じだろう。

 

「……ベンガーナの町というと、奴がいるかもしれないということだね、メルル?」

 

「はい、おそらく」

 

震えながらも、メルルははっきりと俺の問いに答える。なるほど、奴がいる……か。神託とも言えるメルルの言葉を疑う理由は俺には無い。メルルが言う限り、それは間違いないんだろう。マァムもそう考えているのか、俺に不安そうな視線を向けた。だから俺は2人を安心させるように笑みを浮かべた。

 

「大丈夫だよ。事前に分かっていたら対処は可能だ。メルルのおかげさ。ありがとう。……さて、となるとどうしようかな?」

 

俺は少し考えた後、作戦をマァムに伝えた。俺の考えた作戦は、ブラスさんをロモスの城からデルムリン島に送っていった際に使ったきり俺の鞄の中に入れたままだった魔法の筒に、マァムに入っていてもらう事だった。どうせ奴はまた俺が大技を使う際に現れるつもりだろう。だったらそれを逆手にとって、逆に奴を狩ってやろうという作戦だった。

 

俺の作戦に了承してくれたマァムに魔法の筒の中に入ってもらい、俺はチウの手を引いて今度こそバルコニーから飛翔した。

 

 

 

 

 

……ありがとうな、メルル。俺は改めてメルルに感謝しつつ、手の中の消滅の矢を再び鬼岩城に向け、そのまま放った。その光の矢は狙いを寸分違うことなく、鬼岩城の右胸に直撃し、虚空を貫いた。目映いばかりの光が収まった後、鬼岩城の右胸には直径15mにも達しそうな程の大穴が生じていた。

 

「ははは。これで際限なく動く甲冑(リビングアーマー)達が生み出される心配は無くなったな。これもお前が教えてくれた情報のおかげだよ。ありがとうな、()()()

 

 

「……キル! おのれっ!」

 

地上のミストバーンから激しい怒気が俺に対して放たれたが、どうやらミストバーンの相手をするのは俺ではなさそうだった。

 

「ふっ、どうやらポップの方が死神より一枚上手だったようだな! 何処を見ている、ミストバーン! お前にはそのような余裕はないはずだっ!」

 

「何っ!? ええいっ! もはや生け捕りなどと生ぬるい事はせぬ! 死ねっ! ビュートデストリンガー!!」

 

ミストバーンの右手の爪が鋭利な刃物と化して、ヒュンケルに向かって加速した。だが、ヒュンケルはそれが自身に届く前に闘気を爆発させるかのようにして、自身を拘束する滅砕陣を打ち砕く。

 

「――!?」

 

「ミストバーン! これが、アバン流刀殺法 空裂斬だ!!!」

 

凄い、ヒュンケルの奴、アバン流で最も習得が難しいとされる最高奥義の“空”の技を会得しやがった。ヒュンケルの放った空を切る斬撃が、ミストバーンの身体を切り裂いた。

 

「バ、バカな……! この一撃は、まさか!?」

 

その衝撃でミストバーンの身体は大きく後退し、同時に奴が展開していた闘魔滅砕陣の効力が消え、皆が拘束から解放される。

 

「ポップ! ミストバーンの相手は俺がする! お前は鬼岩城から各国の王を守れ!」

 

そしてヒュンケルは、ミストバーンに対して駆けていく。

 

どうやらヒュンケルはミストバーンとの因縁に決着を付けるつもりのようだ。まあ、そうだよな。アバン先生がヒュンケルにとっての光の師なら、ミストバーンはヒュンケルにとっての闇の師と言える。……奴はヒュンケルに任せるか。

 

それに、魔影軍団の無限製造機関は潰したと言っても鬼岩城自体は今も健在で、しかも大礼拝堂に少しずつ近づいている。あれの足止め役がどのみち必要だ。

 

「皆、俺は鬼岩城の足止めに行ってくる! ここは任せて良いか!?」

 

「おう、任せろ、ポップ!」と、おっさんが頼りになる返答を返す横で、マァムも頷きを返してくれる。そして、バダックさんとアキームも俺を見上げて声を張り上げた。

 

「うむ、ポップ君、レオナ姫を頼んだぞ!」

 

「私からもお願いする……! 陛下をどうぞお願いいたす!」

 

 

そんな彼らに俺は「ああ、任せな!」と言葉を投げ掛けて、鬼岩城に向かって飛翔した。

 

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