転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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127話 VS 鬼岩城 ④ ダイの剣

まともに立っている事が困難な程の下から突き上げてくるような振動と、ズシーン、ズシーンと言う音が聞こえてくる度に、大礼拝堂の天井からパラパラと細かな埃が落ちてくる。

 

そして一際大きな振動が、世界会議の会場である大礼拝堂の最上階にいる者達の身体を突き上げるように襲った。

 

満足に立ち上がる事も困難な諸王が外に目をやると、50m程の高さの大礼拝堂の最上階から鬼岩城の大きな頭部が間近に見えた。それは、もはや鬼岩城がその手を伸ばせば大礼拝堂に届きそうな距離まで接近している事を意味していた。

 

鬼岩城の右腕が大きく振りかぶられる。次の瞬間、その右腕を振り下ろされる……と、その場にいた誰もが思ったが、その右拳は不可視の壁にぶつかったかのように弾かれていた。思わぬ障害に、鬼岩城がたたらを踏むように僅かに後退する。

 

皆が呆然としてその様子を見つめていると、眼前の空間にビシィッと蜘蛛の巣状の亀裂が走った事で鬼岩城と大礼拝堂の間に何かが出現し、それが自分達を守っていた事を察した。

 

「これは……氷……か。誰がこんな……」

 

亀裂の入った透明の壁から伝わってくる冷気にクルテマッカが呆然とした様子で呟くが、その隣でロモス国王シナナが手を叩いて満面の笑みを浮かべた。

 

「ほっほっほ。このような分厚い氷の壁を瞬時に張れる者など、世界広しといえど一人しかおらぬじゃろう……!」

 

「……なるほど。『氷の賢者』の名の由来はこれか」とバウスン。

 

それに「どうやら彼に命を救われたようじゃのう……」とテラン国王フォルケンが続く。

 

そして、バルコニーから身を乗り出すようにして、メルルが声を上げた。

 

「ポップさん! 良かった、ご無事で……」

 

メルルはその姿を視認してはいなかったものの、邪気の塊のような何かが先ほどポップにまとわりついていたのを感じていたため、そのポップの無事な姿にほっと安堵の吐息を吐く。

 

「信じられん……。これほどの厚さの氷の壁を、ただ一人の魔法使いが作り出したというのか」

 

へなへなとその場に崩れ落ちるように膝を突くクルテマッカに、レオナが笑みを浮かべて手を差し伸べた。

 

「ふふふ。クルテマッカ王、これが勇者一行(パーティー)の頭脳として名高い『氷の賢者』の力です。……もう、遅いわよ、ポップ君! 皆やられちゃったのかって、ヒヤヒヤしたじゃない!」

 

レオナは、空中でこちらに背を向けて鬼岩城に立ちはだかっている緑衣の魔術師にそう文句を言うが、その顔には安堵の表情が浮かんでいた。

 

「ははは。ごめん、ごめん。ちょっと死神の横やりがあって、こいつの対処が遅れちまった。こいつは俺が抑えておくから、今のうちにそこから避難し――。 ……ん? あれは……?」

 

そう返事を返していたポップが、矢のような速さで向かってくる何かに目をとめた。その何かはポップの隣で急制動する。

 

 

 

……それは、皆がその到着を待ち望んでいたダイだった。

 

「ダイ君!」と声を上げるレオナに、ダイは肩越しに振り返り軽く手を振る。

 

「あれが、勇者だと……! まだ子供ではないか!」と、クルテマッカが初めて目にする勇者の姿に動揺の声を上げる。

 

「ふむ……。子供は子供でも、彼は世が乱れる時に現れる伝説の(ドラゴン)の騎士

……。クルテマッカ王、彼の姿をしっかりとその目に焼き付けておくと良い」

 

フォルケンにそう水を向けられたクルテマッカは、まだ信じられない様子で前方で鬼岩城と対峙する勇者の背に目をやった。

 

 

 

 

 

「よう、ダイ。その背中に背負った大層な剣を見ると、どうやら完成したようだな」

 

俺のその問いかけに、隣のダイは力強く「うんっ」と返事を返してくれる。ああ、良かった。ベンガーナにロモス、デルムリン島と随分回り道をしたが、やっとそれが実ったな。

 

「ポップ、皆は……?」

 

「皆はあっちの港の方でやり合っているよ。向こうにはミストバーンがいる。早めにこいつを片付けて、助太刀にいってやろうぜ。とっ……!」

 

目もくらむほどの眩しさで、俺は思わず手を顔にかざした。俺の眼前で突然火球が次々と炸裂したのだ。それは、鬼岩城がその胸部に残った砲門の全てをこちらに向けて撃ち放ってきたためだった。

 

もちろんそれは俺の氷系壁呪文(アイスウォール)によって防いでいるが、大砲が撃ち込まれる度に砕かれた氷の欠片がパラパラと俺達に降りかかってくる。

 

俺は既に展開していた氷の壁の厚みを増す事で、その攻撃に対処する。ふむ……、俺がやっても良いが、より万全を期するなら役割を明確に分けた方が良いだろうな。

 

それに、何といってもここは勇者の出番だろう。俺は背後でこちらを期待するように見つめる諸王の姿を一瞬振り返った後、隣で険しい視線を鬼岩城に向けているダイに顔を向けた。

 

 

「ダイ、見せ場はお前に譲るよ。俺はこのまま氷の壁を維持して防御に徹するから、攻撃はお前に任せた。……出来るよな?」

 

ダイは俺のその問いかけに、何故か背中に背負った剣に語りかけるように視線を投げかけた。妙な事をしているな……。もしかしてその剣、意思があるのか? まあ、ロン・ベルクが精魂込めて打ったダイだけの剣なんだ。それもあり得ない話じゃ無い……か。

 

「うん、大丈夫みたい。じゃあ、やってみるね……!」

 

そう言ってダイは、背中に背負った剣をすらりっと抜き放った。いや、抜き放ったと言うより、剣の方から飛び出したように俺には見えた。へー、あながち意思を持った剣という俺の推理も外れていないのかもな……。

 

これが完成したダイだけのための剣。陽光を反射してキラッと輝くその白銀の剣身は、まるで生きて呼吸をしているかのように俺の瞳に映った。その鍔は白を基調としてまるで(ドラゴン)が翼を広げたような形状をしており、刀身の根元には深紅の宝玉が埋め込まれている。これが、オリハルコンで出来た覇者の冠を素材としてロン・ベルクが打った至高の剣……。

 

ああ、今俺は、勇者の最強剣のお披露目を間近で見ているんだな。

 

 

 

それからはダイの独擅場だった。ダイがその剣を一振りするだけで、間断なく放たれていた大砲が連鎖的に吹っ飛ぶ。そしてダイが、俺が極大消滅呪文(メドローア)で風穴を空けた右胸から鬼岩城の中に潜入したと思ったら、一条の剣閃が内部より走り鬼岩城が文字通り真っ二つになって音を立てて崩れ落ちていった。

 

……。いや、ちょっと想像の遙か上を行く強さなんだけど。何この無茶苦茶な強さは? 鬼岩城を構成していた大量の岩塊が、ザーッと崩れ落ち今俺の目の前に山のようになって積み重なっている。

 

あいつ、ロモスでこんな一撃を俺に対して放ってみたいって言っていたのか……? いい加減、あいつの俺への評価をきちんと修正しておかないと、魔王軍との戦いの前にあいつに殺されそうだな、俺。

 

俺は、うずたかく積もった瓦礫の山の上で誇らしげに白銀の剣を天にかざしているダイの側に降り立った。

 

「やったな、ダイ。見せて貰ったぜ、その剣の力!」

 

「うん、剣がこう使えって、教えてくれた気がする。ポップ、色々とありがとう」

 

「馬鹿っ! お前がその手にふさわしい剣を手にするのは、皆の願いだったんだ。礼を言われるような事じゃないよ。ああ、ほら姫さんが手を振っているぞ。応えてやったらどうだ?」

 

俺が背後の大礼拝堂の最上階を見上げてダイにそう声をかけるのと、まさにその姫さんから声が掛けられるのは同時だった。

 

「ダイくーーーん!!」

 

その声に照れるように頭を掻いて応えるダイ。しかし、次いで発せられた姫さんの言葉にダイは途端に動揺する。

 

「いいこと、ダイ君! 後で、新しくできたガールフレンドの事を聞かせて貰うわよ! 分かったわね!?」

 

「え、ええ!? ちょっとポップ! どうしてレオナがリンちゃんの事を知っているんだよっ!?」

 

「ああ、悪いな、ダイ。ついポロッと姫さんに喋ってしまった気がする。まあ、大した事ないさ。せいぜいおれと同じで二股呼ばわりされるだけだから、気にするなダイ」

 

そうポンポンとダイの肩に俺は手を置くが、ダイの動揺は収まっていない様子だった。

 

「き、気にしないわけないだろう! ポップと一緒にするなよな!」

 

顔を真っ赤にして俺に抗議の声を上げるダイ。ふふふ、もう少しダイをからかっていたいが、向こうではまだ戦いが続いている。

 

「まあ、後でこってり姫さんから尋問されるんだな。それより、向こうに行くぞ、ダイ!」

 

そして俺はダイの手を引いて、飛翔呪文(トベルーラ)でヒュンケル達の戦っているであろう場所に飛んだ。

 

 

 

 

 

「あっ、もうっ! 行っちゃった! 久しぶりなんだから、もう少し私と感動の再会をしても良いじゃない!」

 

「いえ、向こうでまだ戦闘の続いている音がします。恐らく彼らはそちらへ向かったのでしょう……」

 

バウスンが、憤慨するレオナを宥めるかのようにバルコニーから港の方を指さす。

 

「ふーむ、しかし、あれが勇者の力……か。剣1つがこれほどの力を発揮するとは……、この目で見ても未だに信じられん」

 

クルテマッカは、大礼拝堂の眼前に積み上がった瓦礫の山を見てそう独白する。その独白に、これまでとは違って勇者の力を認めている心情を感じたレオナは、彼に胸を張って答える。

 

「ええ、あれが勇者ダイです。そして、その勇者ダイが最も信頼しているのが彼の相棒である大賢者ポップです。大賢者ポップが隣にいる時、勇者ダイの力が最も高められるのです。そうやって彼らは、これまで魔王軍に対して打ち勝ってきました。

クルテマッカ王、我々のすべき事は、これからの戦いで彼らを含むアバンの使徒をいかに支援していくか、それに尽きると考えています」

 

「そう……だな。それについては、儂のこれまでの見識を恥じるばかりだ。彼らの力無くして自国の軍事力だけで魔王軍に対抗しようと考えていたとは、儂が愚かであった。皆もすまなんだな」

 

そう言って、素直にその場にいる諸王に頭を下げるクルテマッカ。

 

「なんの、貴殿の国の力が抜きん出ているのもまた事実。我がロモスも協力するゆえ、レオナ姫の言葉に従い彼らへの支援体制を整えようでは無いか!」

 

シナナの言葉にバウスンも深く頷き、彼は自身の見解を述べた。

 

「それでは、会議の続きは彼らも交えて行った方が良いのではないですかな? 実戦部隊の希望を確認せずして、的確な支援はできません」

 

そのもっともな言葉にレオナが「そうですね。では、彼らを代表してポップ君に――」と返答していた時、側に控えていたメルルが突然バルコニーから身体を乗り出す様にして大声を上げた。

 

「邪悪な……邪悪な力を感じます……! 何かとてつもなく恐ろしいものが吹き出そうとしています!」

 

「どうしたの、メルル!?」

 

レオナがそう声をかけるも、メルルの身体の震えは止まらない。皆が不安な表情を顔に浮かべた時、突然その場に似つかわしくない陽気な声が彼らに投げかけられた。

 

「ウフフフ。僕の気配を察知するだけで無く、ミストの隠された力まで感じ取るとは。なるほど、シャドーの言っていたとおり、どうやらただ者じゃない娘のようだね。実に興味深い」

 

 

 

 

 

俺がダイの手を引いておっさん達の元に着いた時、まだヒュンケルとミストバーンの戦闘は続いていた。おっさんとマァムもヒュンケルの攻撃の合間を縫ってミストバーンに攻撃を繰り返しているが、有効打を与えられているようには見えない。

 

ただ、空の技だけは別のようでヒュンケルの放つ空裂斬だけは躱している。そんな戦いを繰り広げていた中にダイが加わったものだから、戦局は一気にこちらに傾いた。

 

そして俺は、どうせミストバーンには魔法が通じないんだからと割り切って、皆の援護に徹しつつミストバーンの戦い方を後方からじっと見つめていた。

 

「あの木偶の坊はダイが倒したぞ! もはやお前に策はあるまい!」

 

「黙れ、ヒュンケル! 大魔王様を裏切ったお前だけは決して許さん!」

 

ヒュンケルの言葉に、そう声を張り上げるミストバーン。妙だな……。コミュ症で無口なくせに、激高すると饒舌になる。もともと無口な性格なら、激高したって無口のままじゃないのか。それって、本来は無口な性格じゃ無いって事……か?

 

どれほどの攻防を続けただろう。明らかに劣勢だったミストバーンの纏う空気が突如として変貌する。

 

「……もはやこれまで……! 我が闇の衣を脱ぎ払い、ダイとお前達をこの場で消し去ってくれる! ……このミストバーンの真の力!! 今こそ見よっ!!」

 

そして眩いばかりの閃光がミストバーンから発せられるが、その閃光が消え去り俺達が再びミストバーンに目を向けると、ミストバーンの背後に黒い道化師の格好をした男が出現していた。

 

それは、信じがたい事に……先ほど倒したはずのキルバーンだった。

 

「はい、スト~~~~~ップ。そこまでにしておきたまえ、ミスト」

 

「キ、キル……!」

 

――!? どうして奴が生きている?! キルバーンの手には先ほど同様漆黒の鎌が握られており、その鎌は今俺では無く、ミストバーンの首に添えられていた。

 

「いーけないんだ、いけないんだ♪ バーン様に怒られるぅ~♪」

 

「そうだとも。キミの本当の姿は、いついかなる場合においてもバーン様のお許しが無くては見せちゃいけないんじゃなかったっけ? ……それを破ったらいくら親友のキミでもただじゃすませられない……」

 

俺達を無視して、キルバーンとミストバーンはそんな会話を交わしているが、ちょっと待て……!

 

「お前、どうして生きているッ!?」

 

そう俺が叫ぶと同時に、「そうよ! 確かに決まったはずなのに!」と、奴に直接必殺の一撃を浴びせたマァムの声が飛ぶ。その声が聞こえたのか、ようやくキルバーンが俺達にその酷薄な顔を向けた。

 

「ウフフフ。何を驚いているんだい? 僕は死神だよ……? 死神が死ぬわけがないじゃないか」

 

キルバーンは俺とマァムに対してそう挑発するように笑いかける。いや、死神だかなんだか知らないが、生物なら閃華裂光拳を喰らって生きていられるはずがない。と言う事は、奴は生物ではないという事だ。生物でないなら、何だ? ……分からない。

 

「そんな事より、氷の賢者君。これが何か分かるかい?」

 

俺が一人思案していると、キルバーンは左脇に抱えていた黒い布に包まれた何かを、俺に見せびらかすかのように差し出した。その黒い布は、人を包み込める程の大きさだった。

 

おい、まさか……。吐き気をもよおす程の嫌な予感を感じる俺。

 

「ふふふ。分からないかい? それじゃあ、ご開帳だ」

そう言ってキルバーンは、黒い布をバサッと剥ぎ取った。

 

俺の最悪な予感はいつも当たる……。

 

……そこにいたのは、口に猿ぐつわを噛まされたメルルだった。

 

 

 

「メルル! キルバーン、お前ぇ……!!」

 

「そんな、いつの間に……!」

 

最悪の想像が当たった俺は、キルバーンを睨み付ける。メルルを心配したマァムの声が聞こえるが、俺の意識はキルバーンの手に捉えられたメルルにのみ向けられていた。

 

メルルは意識はあるようで、口はきけないものの、俺の姿を両の目を見開いて見つめている。そして、どうにかして拘束を逃れようと身をよじらせるが、メルルの力でキルバーンの拘束から逃れられるはずもなかった。

 

「ウフフ。この娘はどうも不思議な力を持っているようだから、少し調べさせてもらおうと思ってね」

 

「そうそう。それに、こいつのせいでキルバーンは痛い思いをしたんだから、ちょっとお仕置きもしてあげようよ、キルバーン」

 

「もちろんだよ、ピロロ」と、キルバーンと使い魔のピロロが交わす言葉を耳にして、俺は奥歯が割れるほど強く歯を噛みしめていた。

 

メルルは2人の会話が聞こえているだろうに、怯えるのでは無く、自身が俺達に迷惑をかけていると案じているような表情をその顔に浮かべている。

 

「ふざけるなよ、お前達……。俺が、そんな真似を許すと思うのか? いいか、キルバーン。今すぐその子を離せ。さもないと、俺はどんな手段を使ってでもお前を殺す!!」

 

これほどの怒りを覚えたのは、いつ以来だ。可視化するほどの怒気を纏った俺の言葉に、キルバーンが肩を竦めておどけたような笑みをその仮面に浮かべる。

 

「おお、怖い、怖い。どうやら僕は、君の逆鱗に触れてしまったようだね。ウフフ……。さあ、ミスト。行くよ。氷の賢者君、この娘は用が済んだら返してやるよ。ただ、その時は今とはちょぉっと姿形が変わっているかも知れないけれど、許してくれたまえ」

 

「キャハハ。きっと気に入ってくれるよ。どんなお仕置きをしようかな。楽しみだね」

 

「……」

 

 

そう言って、メルルを抱きかかえたキルバーンとミストバーンは、瞬間移動呪文(ルーラ)を唱えてその場から矢のような速さで飛び立っていった。

 

 

 

無論俺も、間髪入れずにその後を追う。瞬間移動呪文(ルーラ)を詠唱するその直前、「待て、ポップ!」という俺を制止する声が複数聞こえた気がするが、そんな言葉を今の俺が聞くはずも無かった。

 

お仕置きだと? 姿形が変わるかもしれないだと? ふざけた事をほざいているんじゃねえぞ!! メルルは俺の側にいるんだ! ずっと、ずっとだ!! その薄汚い手でメルルに触れるなぁっ!!

 

 

「――逃がすかぁッ!!」

 

 

 

二筋の光の矢が、パプニカの空を切り裂くかのように南の空へと飛んでいった。

 




次話は、『大賢者 VS 死神』。明日投稿予定です。
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