転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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13話 原作開始 9年前 分水嶺

「さて、ようこそ、人族の童(わらべ)よ。儂は、メッサーラ族のサーラという名じゃ。童よ、さあ、こちらに来てくれ。これでは話しづらい」

 

その魔物が発した言葉は、流暢な人族の言葉だった。俺はその言葉に素直に従い、その魔物の前まで歩みを進め、あいさつを返した。

 

「お招きいただきありがとうございます。僕はランカークス村のポップと言います。ここは、ギルドメイン山脈の中腹に位置しているという理解でいいのでしょうか?」

「そうじゃ。ここはちょうどギルドメイン山脈の中ほどに位置している。よく来たの、ランカークス村のポップ」

 

メッサーラ族のサーラと名乗った魔物は、俺の質問に答えを返してくれた。

 

メッサーラか……。そんな名前の魔物が前世でよくやったゲームにいたような気がするが、よく覚えていないな。今俺の目の前にいるサーラと名乗った魔物は、逆三角形の肉体に、首から足下まで続く長いローブをまとっている。ローブの隙間から時折覗く肌は、真っ赤な色をしている。頭はヤギ頭で、右手には杖をついている。

 

俺は、そのサーラと名乗った魔物の周囲にいる魔物に目を移した。

 

ふむ、種族を知っている魔物も知らない魔物もいるな。知っているところでは、スライム(当然知っているさ)、キメラ、パペットマンに、お、踊る宝石もいる。宝石をふわふわと吐き出しては食べてるぞ。

 

うわ、鳥山先生のデザインした魔物が、実体を持って俺の目の前にいるよ。これは感動ものだな。あのスライムに足が生えているような姿でふわふわ浮いている魔物は、もしかしてホイミスライムかな? いったいどうやって浮いているんだろう? 仲間になってくれたりしないかな?

 

おっと、いけない。初めて会った魔物に感動している場合じゃない。大事なことを聞かないと。

 

「僕を招待してくれたように思えますが、その理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

「うむ、いかにも君を招待させてもらった。理由は、セリーヌの紹介があったからじゃの。ああ、セリーヌというのは君をここまで案内してきたキラーパンサーの事じゃよ。ちなみに小さいのはパンという名じゃ」

 

あの2匹はセリーヌとパンという名前なのか。そういえば、さっきそんな会話をしていたな。……ていうか、パンってライカがベビーパンサーに勝手につけた名前と同じじゃないか。やるな、ライカ……。

 

「なるほど。それは僕が、……パンちゃんで良いのかな? パンちゃんの怪我を癒したからという事でしょうか?」

 

「ふむ、それもあると言ったところかの。最初から説明すると、儂は以前からセリーヌに頼んでおったのじゃ。たとえ魔物であろうとも偏見を持たずに接する事のできる者、仲間を守る勇気を心に秘めた者、そして一定以上の力を有する者。これらを満たす人族を見つけた時には、この里に招待したいとな。そして、セリーヌがその条件を満たす者を見つけたと2ヶ月ほど前に儂に報告して来たので、旅の扉を隠している結界を一時的に解除し、今日君を招いたのじゃよ。しかし、まさかその者がこれほど年若い童とは思わんかったがの。ほっほっほっ」

 

俺はセリーヌという名のキラーパンサーに目を移した。セリーヌは俺の右前方の方で、俺に背を向けて優雅に寝そべっていた。そのまま、こちらを振り返りもせずその立派な尻尾をパタパタと振っている。

 

しかし、たいそうな条件だが、よく俺がその条件に合致していると判断したな。まあ、ありがたい話だが。

 

「その条件に僕が合致しているかどうかは、……まあ良いでしょう。セリーヌが僕をここに案内してくれた理由は分かりました。ただ、……」

 

「そうじゃの、それではおぬしの疑問は解決せんじゃろうな。さしずめ、次は、ではなぜ儂がそのような条件を満たす人物を探しておったのか、という質問じゃろう?」

 

そうだ、俺が知りたいのはそこだ。この魔物は俺に一体何をさせようと考えているのか。俺は、無言で肯定の意味を込めて頷いた。

 

「ふむ、それはの、一言で言えば未来への投資ということじゃな」

 

「未来への投資? それはいったい……?」

 

「今から10年ほど前に、この世界を席巻していた魔王は討伐された。おぬしら人族の勇者によってな。しかし、果たしてその魔王は本当に滅んだのか? そして、その魔王より更に強大な魔王が侵攻を開始する可能性は無いのか?」

 

俺は、その答えを知っている。そう、魔王ハドラーは滅んでおらず、そして更に強大な大魔王がこの世界への侵攻を開始する。ただ、今の俺はその知識を持っていないことになっている。

 

「……その可能性があると言うことですか?」

 

「そうじゃ。儂らは魔物。人族よりその辺りの事を詳しく知りうる立場じゃからの。おそらく間違いなかろう。数年後、以前より更に強大な魔王、すなわち大魔王がこの世界への侵攻を開始するじゃろう。そのようなことになれば、人族はもちろん、我ら魔王の邪気から逃れて生活しておる魔物達もその影響を受けることは必至じゃ。じゃから儂は、その前に儂らを魔物だからと言うだけで偏見を持たず、他者を思いやり、邪悪を跳ね返す力を持った人族を見いだし、その危険性を警告し、それに対抗するだけの力をその者に授けたいと思い、探しておったのじゃよ」

 

「なるほど。理解しました。ですが、いくつか質問をしてもよろしいでしょうか?」

 

「もちろんじゃ。何でも聞いてくれい」

 

「ありがとうございます。では、1つ目。先ほどサーラさんは自分達のことを魔王の邪気から逃れて生活しているとおっしゃいましたが、確かに皆さんからは邪気を感じません。これは何故なのでしょうか?」

 

「うむ、それについてはこの霊峰ギルドメインのおかげじゃな」

 

ギルドメインのおかげ? この山の事か? 何故この山が魔王の邪気から逃れる事の出来る理由になるんだ?

 

「この霊峰ギルドメインは、太古の昔に神々より祝福を受けて誕生した山じゃ。今でもこの山には神々の力の余波が薄く漂っておる。この山に降った雨水は、地下に浸透し長い年月をかけて水脈を通り、この洞穴に湧き出ている。そら、儂らの後ろに見えるじゃろう? 水が長い年月をかけて霊峰ギルドメイン内を通過する事で、その水自体が邪気を払う特別な力を有するようになったのじゃ。そして、儂らは日常的にその水を飲用することで、次第にその肉体から邪気が失せていき、魔なる破壊の衝動から逃れられているという事じゃ」

 

なんと、そんなことがありえるのか? つまりここは、ダイの育ったデルムリン島の魔物と同じく邪気を払った魔物の集落と言うことになるのか。すごいな、神の力。

 

「なるほど、皆さんから邪気を感じない理由は分かりました。ですが、もう1つだけ質問させてください。先ほど旅の扉を隠している結界を解いたとおっしゃっていましたが、それはいったい?」

 

「それについては、魔道具を使用しているのじゃよ」

 

「魔道具?」

 

「そうじゃ。ほれ、人間界にも様々な用途の魔道具があるじゃろう? それと同じじゃ。この霊峰ギルドメインは魔道具の核となる魔水晶が多く取れる。それを使って、旅の扉の位置を隠す魔道具を作って、普段はそれを祠周辺に設置しているのじゃよ」

 

そうだったのか。そんな魔道具で祠の位置は隠されていたのか。あんな分かりやすい位置にある祠が、今まで知られてこなかったのはそういうことだったのか。

 

「さて、質問は以上かね? では、ランカークス村のポップよ。今度はこちらからの質問に答えてくれるかね? そなたは、この里で新たな知識を得ることを求めるか?」

 

若干立ち振る舞いを改めたサーラさんが、俺にそう問いかけてきた。その目は真剣に俺を見据えている。

 

先ほどまでのんびりと俺たちの会話を聞いていた周囲の魔物達も、気が付いたら俺の方を見つめていた。セリーヌもいつの間にか俺の方に向き直っている。パンは、……あ、お腹を見せて寝てる。

 

俺はじっと考え込んだ。ここが恐らく俺にとっての分水嶺だ。原作のポップはこの里のことを知らず、ここで知識を得ていない。しかし、俺はその機会を得た。

 

実を言うと、俺の答えはもう決まっている。俺は今後訪れるであろう大魔王との戦いを、勇者ダイやその仲間達と共に戦い抜くつもりだ。他でもない、今俺の生きているこの世界を守り抜くために。

 

俺は覚悟を決めて、こう答えた。

 

「はい、求めます。僕はこの世界が好きです。その世界を蹂躙しようとする存在に立ち向かうために、僕は力を求めます。どうか皆さん、僕に知識を与えて下さい」

 

少しの間を空け、サーラさんが言った。

 

「良く決心してくれた、ポップよ。それでは、来たる日に備え、そなたにこの里であまたの知識を学ぶことを許可しよう」

 

サーラさんがそう答えた瞬間、周りの空気がふわっと和んだ気がした。多くの魔物が俺の側に集まり、人族の言葉をしゃべれる魔物は自己紹介をしてくれた。

 

ふふ、やっぱりスライムの名前はスラリンだったか。人族の言葉をしゃべれない魔物は、しゃべれる魔物が代わりに紹介してくれた。皆と言葉を交わし、俺はこの里に以前から住んでいたかのように、受け入れられた。

 

 

~~~~3日後~~~~

 

……どうしてこうなったんだろう?

 

今、俺の目には、サーラさんと陽気に酒を酌み交わす父さん、ジャンクの姿が映っていた……。

 

事の発端は3日前。俺がこの里の皆に受け入れられた後、ランカークス村に帰ってからの事だった。

 

あ、ちなみに里の名前はエウレカの里と言うらしい。何やらこの洞穴を発見し住み始めた最初の魔物の名前がエウレカという名だったらしく、以後この里はエウレカの里と名付けられているらしい。それが今から150年ほど前の事だって。

 

そのエウレカの里で知識を得ることになったのは良いことだけど、そのためにはまとまった時間が必要だ。

 

しかし、まだ6歳の俺では両親に黙って日中に村を離れることは困難だ。どうせ早晩両親にバレてしまうだろう。それなら、事前にきちんと両親に説明し、許可を貰った上でエウレカの里を訪ねることにしようと、父さん、母さんにその日のうちに打ち明けた。

 

父さん、母さんは、俺のこんな話を真剣に聞いてくれるものだろうかと心配していたが、意外にすんなりと信じてくれた。

 

そして、父さんがそれなら自分が実際にその魔物達に会って、邪なるものじゃないと言うことを確認するということになり、俺は本日父さんを連れて、エウレカの里を再び訪れたのが先ほどの話。

 

サーラさんには、事前に両親に話をすること、もしかするとこの里に確認のために来るかもしれないと言っておいたから、特に驚かれることも無く父さんを受け入れてくれた。

 

最初、父さんとサーラさんは儀礼的な会話を交わしていた。「息子に知恵を授けてもらえるとのこと、感謝する」、「いやいや、我々が望んだことで、逆に我々こそ感謝しておる」といった内容だ。

 

そういった会話を二言三言交わしたかと思うと、父さんがおもむろに懐から、父さん秘蔵の酒を持ち出し、まあ一杯いかが? とやり出したのだ。それに対して、一瞬サーラさんの目がキランと光ったかと思うと、深く頷き、これまた何やらアルコール度数の高そうな酒を奥から持ってきた。

 

なんとその酒、この洞穴内の湧き水で造った酒らしい。神の力が宿った水で酒を造るなんて、なんて罰当たりなことを!? と驚いていると、いつの間にか周辺に他の魔物も集まってきて始まる大宴会。

 

俺にも、まあまあと言いながら酒を勧め出す始末。最初は断っていたけど、パンも飲んでいるのに、ポップはお子ちゃまか? とスラリンに言われては、俺も男だ。ああ、飲んでやるよと飲み始めたのがいけなかった。その神の力の宿った酒が実に美味しく、俺も父さんも完全に酩酊するほど飲んでしまった。

 

当然酔い潰れた俺達は、その日のうちにランカークス村に帰ることが出来ず、そのままエウレカの里に一泊した。意外にこの里、人族が泊まった時のためにと人族向けの寝床が用意されており、実に快適に泊まることが出来た。

 

そうして目が覚めた次の日、俺と父さんはこれはまずいと朝早くランカークス村に帰ったが後の祭り。家では、母さんが俺達が昨夜戻ってこず、何かあったのではと心配で一睡も出来ずに待っていたようだ。

 

そこに酒の臭いをさせた俺と父さんが帰ってきたものだから、怒髪天をつくとはこの事だろう。

 

俺は父さんと並んで床に正座をさせられ、半日程懇々と説教をされてしまった。

 

だけど、まだ俺は良かった方だ。父さんはそのまま夜になるまでその体勢のまま母さんの怒りの矛先を向けられていた。一足先に解放された俺は、父さんの方に向けて合掌しておいた。父さんの縋ってくるような視線はあえて無視をしてだ。

 

そんな訳で、ようやく俺の「目指せ、賢者!」計画が軌道に乗り始めた。この後、俺の魔法取得数は加速度的に伸びていくことになる。

 

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