転生大賢者の冒険   作:怪盗218

132 / 223
132話 再会した親子 side ノヴァ

side ノヴァ

 

ベッド脇の窓からは遠方にあるパプニカの港が見下ろせ、エメラルドブルーの海が日の光を反射してキラキラと輝いていた。僕は、故郷リンガイアから見る海の色と、ここホルキア大陸南に広がる海の色の違いに今初めて気がついた。故郷であるリンガイアの町は、北に広大な海が広がっており、遠くに目を移せばその先にマルノーラ大陸をうっすらと望むことができる。マルノーラ大陸から運ばれてくる冷たい北風と雲が太陽からの日差しに与える影響か、その海は深い蒼色に染められている事が常だった。

 

……しばらく故郷の海を見ていないな。南国らしいエメラルドブルーの海を見つめながら、故郷の深い蒼の海を僕は脳裏に思い浮かべていた。

 

僕は今朝、ロモスの宿屋に迎えに来てくれたポップさんに抱えられて、このパプニカにやってきた。パプニカの城では、事前にポップさんが話を通してくれていたようで、すぐにこの見晴らしのいい部屋に案内された。

 

最初に挨拶に来られたテムジンさんという方が部屋の差配をしてくれたらしく、体調が完全に戻るまでゆっくりとここで静養すると良いと言ってくれた。清潔に掃き清められた部屋の枕元には小さな花が活けられていて、僕なんかのためにここまでしていただいた事に内心恐縮する思いだ。

 

ロモスの町で過ごした3日間は、ずるぼんという名の女性僧侶が僕の世話を買って出てくれた。ポップ君に頼まれたからよ、と彼女は笑って言っていたが、ずいぶんとお世話になったから落ち着いたら改めてお礼に行かないといけない。

 

僕は、ベッドのそばに備えられている棚の上で鎮座しているシーザーに目をやった。知性持つ鎧(インテリジェンス・アーマー)であるシーザーは、ロモスでの戦いの後ほとんどの時間を寝て過ごしている。

 

僕がまだ回復していないように、おそらくシーザーもロモスで消耗した力を回復できていないのだろう。シーザーを見ていると今は雌伏の時間だと言われているように感じ、僕も逸る気持ちをどうにか抑えようとしていた。

 

余談だけど、漆黒の鎧の姿をしているシーザーの胸元には、先日まで存在しなかった獅子の顔がレリーフされている。これはポップさんの、『話す度に口が鎧の表面に浮かぶのは不気味だから、最初から獅子の顔を付けていたらどうだろう』と言う提案に、シーザーが従った結果だった。

 

獅子の顔はヴァレスタイン家の家紋でもあるから僕も否やは無かったけど、ポップさんが「うんうん、まさにブラック・シーザーだ。良きかな、良きかな」と、しきりに頷いていたのには首を傾げた。

 

風がサッとレースのカーテンを靡かせたため、僕は再び視線を窓の外の景色に向けた。遠方にある大きな細長い建物の側には、山のような瓦礫がうず高く積み上がっており、多くの人々がその瓦礫をバケツリレーで撤去している様子が遠目にうかがえた。もしかすると、あれがポップさんの言っていた、昨日この町を襲った鬼岩城の残骸なのだろうか?

 

あの途方もない量の瓦礫が合体し人型を成して襲って来たとは……。その光景を直に見ていない僕ですら、それを可能とする大魔王の圧倒的な魔力に戦慄せざるを得ない。しかし、ポップさんをはじめとするアバンの使徒の皆さんはそれすら撃退して見せたという。実際、町全体を見渡しても大きな被害を受けている箇所は港付近だけのようで、その他の箇所は目立った被害は受けていないように見える。僕は、この町を守った彼らと自分との力の差を突きつけられたように感じ、思わず拳を握りしめていた。

 

コン、コン。

 

部屋の扉が外からノックされ、同時に「ノヴァ、入るぞ。良いか?」とポップさんと思われる声が聞こえてきた。それに返事を返すと、直ぐに扉が開かれる。

 

「さあ、どうぞ。ノヴァが待っていますよ」

 

扉を開いたポップさんは、扉から少し身体をずらし後ろにいるらしい誰かに先に入るように促した。

 

扉からゆっくりと部屋に入ってきたのは、僕がずっと再会したいと願っていた……最愛の父だった。

 

お互い、声を発する事すら出来なかった。父は、信じられないものを見たかのように目を大きく見開き、その場に呆然と立ち尽くしていた。痩せられた……。僕が不甲斐ないせいで、いったいどれほどの辛苦を父さんに味合わせてしまったのか……。

 

そんな父に僕は、「帰りが遅くなってすいません、父さん」と声をかける。父はその声に我を取り戻したようで、ゆっくりと、今にも腰から崩れ落ちそうな足取りで僕に近づいてくる。

 

父の目には涙が溢れていた。僕の頬にも、いつの間にか涙が伝っていた。その涙で滲む僕の目に、ポップさんが優しげな笑みを浮かべながら扉を閉めて、立ち去っていく様子がかろうじて見えた。

 

 

 

 

 

「ノヴァ……! よく……よく、無事でいてくれた」

 

「父さん……。ごめんなさい、心配をかけて……」

 

ベッドに横になる僕の右手を、父が涙を零しながら両の手で握りしめている。父に手を握りしめてもらったのなんていつ以来だろう。リンガイアで一緒に住んでいた時に遡っても、はっきり思い出せない。もっと大きいと思っていた手は、いつの間にか僕とさほど変わらない大きさになっていた。

 

父と約2ヶ月ぶりに再会した僕は、リンガイアで敗れてからこれまでのことを語った。敵としてバルジの島に現れた際の事、そしてロモスの町での事。僕の口から語られるそれらを、父は静かに聞いていた。

 

「……父さん。僕は愚かだったよ。北の勇者と褒め称えられた事で自惚れた挙げ句、父さんの忠告を真摯に聞かず、自分の力を過信して無謀な戦いに挑み多くの仲間を死なせてしまった。僕は、あの戦いで死んでしまった皆になんて詫びればいいか……」

 

「……ノヴァ。過ちを犯したのはお前だけじゃない。私とて選択を誤り、仕えた王も、リンガイアの民すらも守る事が出来なんだ。その過ちによって失われた命は、……もう戻らぬ。だから終わった事はもう気にするな、などと無責任な事は、私には言えない。

 だが、もう戻らない命はあっても、まだ救える命はある。神ならぬ人の身の私達は、救えなかった命ではなく、これから救える命の事を考えるしかないんだ。生きるんだ、ノヴァ。生きて、救えなかった命以上の命を、これから救うんだ。私も、たとえ地べたに這いつくばってでもその生き方を全うする事を、亡き国王と守れなかった民に誓った」

 

僕は、不器用な、しかしそれでいて愛情の感じられる父の言葉に「分かりました」と涙を零しながら言葉を返した。僕も父に習い、どんなに生き恥を晒そうともこれから多くの人の命を救おうと、心に誓った。

 

 

 

 

 

「ポップ殿。ノヴァを助けてくれた事、改めて心より感謝する。ありがとう」

 

父が、ポップさんに深く頭を下げる。その行動に、慌てたようにポップさんは手を振った。

 

「い、いや、そんな大した事はしていませんから。むしろ、バルジの島で助けられなかった事が申し訳ないです」

 

父さんと再会してしばらく経った後、ポップさんを含むアバンの使徒の皆さんがお見舞いに来てくれた。僕は上半身を起こして、ベッドの周りに置いた椅子に座る彼らを見つめる。その中には、ここに来て初めて出会う人もいた。

 

今僕のベッドの周りには、父さん、ポップさん、ダイ君、マァムさん、メルルさん、それにヒュンケルさんという人がいた。ダイ君の肩の上には僕の事を心配そうに見つめる羽の生えたオレンジ色のスライムもいた。後一人、クロコダインというリザードマンも彼らの仲間としているらしいけれど、あまり城の中には入りたがらないみたいで、今は港区で瓦礫を撤去する作業の手伝いをしているらしい。

 

「……ノヴァ。医療魔法で身体の内部を治療したといっても、長い間の無理がたたっているんだ。あと、最低1週間程度は絶対安静だからな」

 

ポップさんが僕に「絶対に守れよ」と何度も念を押す。うん、シーザーも我慢して回復に努めているんだ。ポップさんに言われるまでもなく、僕だってまずはこの身体をしっかり治す事に専念するつもりだ。無理をして身体を悪化させたら、また父さんに心配をかけてしまう事にもなるし。

 

「はい、分かっています、ポップさん。早く身体を治して僕も皆さんの力になりたいですから……」

 

「ノヴァが仲間になってくれたら、俺も嬉しいよ。剣も魔法も得意なんだよね?」

 

ダイ君が僕を透き通るような青い瞳で見つめるけれど、僕は彼にそんな風に言ってもらえるほどの戦士ではないと思っていたから、苦笑いを浮かべつつ訂正をしておく。

 

「ダイ君はそう言ってくれるけれど、僕は剣術では君やヒュンケルさんにはかなわないだろうし、魔術でもポップさんにかなわないんだよ。……器用貧乏な自分が悔しいよ」

 

僕はそっとヒュンケルさんに目をやった。彼とは初めて会ったばかりだけど、彼の剣士としての腕が抜きん出ている事は、先程部屋に入ってきた際の彼の所作で既に推察できていた。こうして無造作に椅子に腰掛けていても隙が全くなく、どのような状況にも対応できるよう常に周囲に気を配っている事が、同じ剣士として僕には見て取れた。

 

僅かに視線を下げた僕に、マァムさんとポップさんが僕を励ますように声をあげた。

 

「でも、逆に言えば剣術ではポップを凌いで、魔術ではダイやヒュンケルを凌いでいるって事じゃない。そんなに自分を卑下するものじゃないわよ、ノヴァ」

 

「そうだぞ、ノヴァ。お前の場合は、器用貧乏ではなく高度な万能性という言葉がふさわしいと俺は思うけどな。闘気剣を使えるレベルの剣術に加えて、最上位の氷結魔法、機動力に直結する瞬間移動呪文(ルーラ)飛翔呪文(トベルーラ)まで使える人材は、とんでもなく貴重だぜ? それは、どんな状況に陥ったとしても、たった一人で対処できるって事だ」

 

「……そう、でしょうか?」

 

これまで負け続きだった僕はとてもそうは思えず懐疑的だったけれど、ポップさんは「お前には単独任務も任せられるし、正直、周りが脳筋ばかりで困っている俺のブレーンになってくれると嬉しい」と笑って言ってくれた。

 

 

「ふふふ。皆さんもそう言っていますし、安静にして早く身体を治して下さいね、ノヴァさん」

 

メルルさんが、「脳筋とは誰の事よ!?」、とマァムさん達に詰め寄られているポップさんを一目見て、僕に優しく微笑んだ。

 

「はい、ありがとうございます、メルルさん。あっ、ヒュンケルさん。身体が治ったら俺に剣の稽古をつけてくれませんか? 俺、アバン流刀殺法の型をどうにかして自分の剣術に取り込みたいんです」

 

「ああ、それは構わないが、お前はアバンの剣を一度も受けた事がないのか?」

 

「はい。以前リンガイアの城でアバン様とポップさんに会った際は、ポップさんと対峙しただけでしたから……」

 

「あっ、そういえばポップが前にそんな事を言っていたね。ノヴァにこてんぱんにされて、危ない所をアバン先生に助けられたって」

 

「ダ、ダイ君! それは……!」

 

僕は、突然古い話を持ち出したダイ君を慌てて止めようとする。今なら違うと分かるけれど、僕はあの時のポップさんを、棍を使う戦士職だと勘違いしていた。賢者であるポップさんに魔法を使わない戦いで勝って誇っていたなんて、顔から火が出る思いだ。

 

「ほう……。ポップをこてんぱんに……。こいつに勝つのは俺でも容易でないが、お前はどうやってポップに勝ったのだ?」

 

ヒュンケルさんの問いに僕は項垂れながら、あの戦いではポップさんに魔法が使えないという縛りがあったから、とても誇れたものではなかったと説明する。

 

「なるほど……。確かにそれなら誇れないのも頷けるな。魔法の使えぬポップなど、女子供にも劣るからな」

 

僕の言葉を聞いて納得した表情のヒュンケルさんだったけれど、それに反応したのはポップさんだった。

 

「おい、ヒュンケル! お前、今さらりと俺をディスったな!? いくら何でも、魔法がなくたって女子供よりは強いわ! アバン流棍殺法初伝を舐めるなよ!」

 

ポップさんは、顔を真っ赤にして指先をヒュンケルさんに突きつける。しかし、マァムさんがそんなポップさんに意見する。

 

「でもポップ。あなた、ロモスでは私におんぶされているし、パプニカではダイにおんぶされているんでしょ? それって、世間一般的には女子供より弱いって見られているんじゃないかしら?」

 

「――なっ!?」

 

そのマァムさんの言葉と、泡を食ったようなポップさんの表情に、僕や父も含めて部屋の皆が大笑いをする。

 

くすくすくす。良いな、彼らのこういう雰囲気。僕もアバン様に弟子入り出来ていれば、彼らの一門として輪の中に入れたのだろうか。僕はほんの少しの後悔と共に、ほっとするような彼らのやりとりを見つめていた。

 

 

 

「あら、ずいぶんと賑やかね、あなた達。でも、病人がいる部屋なんだから、もう少し静かにしなきゃ駄目よ」

 

そう声をかけて、部屋に入ってきたのはここパプニカ王国の第1王女レオナ姫だった。レオナ姫が入ってきた時はちょうど、「霊長類最強の女と子供勇者を、その辺の女子供のくくりに入れるんじゃない!」と口にしたポップさんを、怒り心頭のマァムさんが追いかけ回している所だったから、苦言を呈されるのももっともな状況だった。

 

レオナ姫は、王女らしい楚々とした所作で僕のベッドのそばまで歩み寄る。

 

「レオナ姫。この度は、魔王軍の襲撃の余波が冷めやらぬ中、愚息のために過分な対応をいただき、心から感謝します」

 

「僕からも、改めてお礼を言わさせてください。貴国も大変な状況の中、負担をかけてしまい申し訳ありません」

 

父と僕からの謝罪と感謝の言葉に、レオナ姫は快活に言葉を返す。

 

「そのような事はお気になさないでください。魔王軍と戦いうる戦士を保護するのはパプニカの王女として当然の事です。しっかりと静養して、来たるべき戦いでの活躍を心より期待しています」

 

レオナ姫の輝くような瞳に、僕は「……必ず」と返事を返した。

 

父は、この後いったんリンガイア王国に戻る予定と聞いている。それは、1週間後に予定している魔王軍の本拠地『死の大地』に向かう兵士を選別し、橋頭堡と考えているカール王国のサババで合流するためだった。

 

その間、僕は荒廃したリンガイア王国ではなく、ここパプニカ王国でお世話になる事になっている。気は急くけれど、きっとまだ僕にもやれる事があるはずだ。その時に備えて、僕は力を蓄える事だけを考えよう。

 

 

 

それからしばしレオナ姫も交えて歓談していたが、僕は1つポップさんに伝える事がある事を思い出した。

 

「そうそう、ポップさん。先日ポップさんに尋ねられていたエルフの女性の件ですが、エルフの女性には会いませんでしたが、ダークエルフの女性には会った事がありますよ」

 

「マジで!?」

 

ポップさんは僕の言葉に驚愕の声を上げ、身を乗り出すようにして口を開いた。いつも冷静沈着なポップさんらしくなく、興奮して目が爛々と輝いていた。

 

「よりにもよってダークエルフってお前、俺を殺しに来ているな!?」

 

「……え、い、いえ、そんなつもりは。僕はただ思い出したので……」

 

僕がそう更に言葉を続けていると、いつの間にか席を立っていたマァムさんとメルルさんがポップさんの背後に立っていた。

 

そして、目だけは笑っていない冷ややかな笑みを浮かべた2人が、興奮しているポップさんの両肩に軽く手を置いた。

 

「ポップ、ちょっと向こうでお話ししましょう?」

 

「ポップさん、詳しくお話を聞かせてくださいね?」

 

「――!? し、しまった、つい我を忘れて! いや、違うんだって! こ、これには海より深い訳が……!」

 

そうポップさんが言葉を発している間にも、マァムさんはポップさんをまるで荷物のように肩に抱えて、部屋から出て行こうとする。

 

「あっ、マァム、メルル。長くなりそうだったら、隣の部屋を使ってくれていいわよ」

 

「分かったわ。ありがとう、レオナ」

「ありがとうございます、レオナ姫」

 

気配りの聞いたレオナ姫の言葉に、2人がにこやかに返事を返し部屋から退出していった。ポップさんは僕に大声で何か言っていたが、最後まで聞き取る事ができなかった。その様子をあっけにとられた顔で見ている僕を見て、レオナ姫は「気にしない、気にしない」と手をパタパタと振る。

 

「いいのよ、ノヴァ。あの子達の関係は、あれが平常運転みたいなものだから。こってり絞られたら良いわ。それにしてもポップ君ったら、昨日の大賢者然とした振る舞いからのギャップが酷すぎて、さすがに頭が痛くなってきたわ」

 

「ふふ。常に気を張り続けている事もできんだろうし、私としてはああいう姿も彼の一つの側面だと思えると、微笑ましく感じるがね」

 

父さんの言葉に、ダイ君も「そうだよ。それに、ギャップが酷いって言うなら、レオナだって人の事言えないじゃないか」と、呆れたような口調でレオナ姫に話しかけた。

 

「あら、そんな事はないわよ? 私は普段から楚々とした女性で通しているわ。ポップ君と一緒にしてほしくないわ」

 

そう言ってホホホと笑うレオナ姫を、ダイ君とヒュンケルさんは苦笑して見つめ合った。

 

「ふっ。ノヴァ、レオナ姫はともかく、あいつの本質はあんなものだから、あいつの言葉は話半分で聞いておくぐらいにした方が良い。さあ、ダイ。そろそろ俺達も行くとしよう」

 

「うん! でも、俺はパプニカが落ち着いたら一度戻って来いってロン・ベルクさんから言われていたけど、ヒュンケルもロン・ベルクさんに用があるんだね」

 

「ああ、ポップが俺にも会いに行けと言っていたからな。あいつの事だ。何か考えがあるのだろう」

 

僕が首を傾げてヒュンケルさんを見つめていると、僕の視線に気づいた彼は「これは真面目に聞いておくべき所だな」と、うっすらと笑みを浮かべた。その表情にはポップさんに対する彼の無条件の信頼が浮かんでいて、先ほどマァムさんとメルルさんに連行されるポップさんを呆れた表情で見つめていた表情とは正反対だった。

 

「ふふふ。捉えどころがないでしょう、ポップ君は。まあ、君ももう少し付き合ったら『氷の賢者』とか『勇者一行(パーティー)の頭脳』とかといった異名で一括りに出来ない、彼の本質が見えてくると思うわよ」

 

そう言って笑みを浮かべるレオナ姫からも、ポップさんに対する強い信頼が見て取れた。

 

 

 

「父さん、どうしました?」

 

皆さんが部屋から退出した後、所要のため席を外していた父さんが何やら引きつった顔をして戻ってきた。

 

「ん……、そうだな……」

 

言葉を選びながら、静かに父さんが僕のそばの椅子に腰を下ろす。父さんが言うには、隣の部屋の扉がわずかに開いており、その扉の隙間からは、床に正座をさせられたポップさんの前に仁王立ちする2人の女性の背中が見えたそうだ。

 

「……ノヴァ。私は、お前が将来選ぶ伴侶について口出しをするつもりはないが、相手は1人にしておきなさい。……良いな?」

 

そう真剣な表情で語る父さんに、僕は身震いを感じながら静かに頷きを返す。同時に僕は、父さんにこの戦いが終わったらポップさんをリンガイアに引き込もうと思っている事を相談する。

 

「なるほど、ポップ殿を……。ふむ、それは私も良い考えだと思うが、事はそう簡単には進まないぞ」

 

父さんは、先の世界会議で大国ベンガーナまでポップさんを取り込みたいと名乗りを上げていた事を口にする。

 

「カールに、ベンガーナ、それにパプニカ……ですか。それでは、やはりリンガイアに来ていただく事は難しいでしょうか……?」

 

カールの状況は分からないけれど、亡国と化したリンガイアは、大国ベンガーナはもちろんここパプニカにも後れを取っている。あのポップさんを引き込むだけの魅力ある対価を用意できるかどうかも怪しいと感じた僕は、思わず不安を口にする。

 

僕のその問いに、父は「いや……」と口ごもる。

 

「私はまだ彼と知己を得たばかりだが、私が見たところ彼は、見返りを期待して仕官する国を選ぶような人間ではないように思える。そして、おそらくだが彼は自分自身については驚くほど疎い人間ではないかな。そういう人間を相手にするには、……。ふむ……、憲章に詳しい者がいたかな……」

 

そうブツブツと呟く父さんだったが、僕の視線を受けて顔を上げた。

 

「何にしても、彼をリンガイアに招くのは賛成だ。だからその件は私に任せて、ノヴァはまず身体を癒やす事を優先しなさい。いいな?」

 

その父さんの言葉に、僕は頷きを返した。うん、智将と名高い父さんが任せろというのなら、任せて良いはずだ。今の僕にできることは一刻も早くこの身体を回復させて、戦線に復帰することだ。

 

父さんの言葉に頷きベッドに身体を深く預けた僕を、父さんは優しい眼差しで見つめていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。