転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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閑話的な投稿になります


14話 原作開始 8年前 新年を皆で祝おう

年が明けた。

 

この世界では特に大晦日や正月のお祝いのイベントは無いが、それでもささやかながら新年の祝いを行う程度の催しは各家庭で行っている。

 

我が家でも母さんが、新年明けて初日の朝に、普段はあまり食卓に出ないようなメニューの食事を用意してくれた。

 

「ポップは今日もエウレカの里に行くのかしら?」

 

「うん、そのつもりだよ」

 

「だったら、黒豆を余分に作り過ぎちゃったから、皆さんに持って行ってくれないかしら?」

 

「うん、分かった。皆喜ぶと思う。ありがとう、母さん」

 

「ポップ、新年になったんだ。サーラさん達に挨拶を兼ねて俺も一緒に……」

 

「……あなた?」

 

「――! ……いや、何でも無い。……皆によろしくな」

 

おっと、母さんから今一瞬、ゆらりと蒸気のような湯気が立ち上がったぞ。よっぽど、先月のあの一件が腹に据えかねていると見える。俺も気をつけないとな。

 

「うん、皆にも新年の挨拶をしてくるよ。でも、今日は暗くなるまでには帰るから、心配しないで」

 

俺がエウレカの里に修行に行く件は、無事に両親の了承を得ることが出来た。

 

最近の俺は、教会の手伝いの日やルッツ達と遊ぶ約束をした日以外のほとんどの時間を、エウレカの里での修行に充てている。おかげで俺の魔法習得数がこの1ヶ月あまりの間にずいぶん増えた。

 

それと、最近は魔法の習得だけで無く、サーラさんから魔道具の作り方も教わり始めた。サーラさん、すごく魔道具作りに精通しているから、とても分かりやすく教えてくれて本当にありがたい。

 

「じゃあ、行ってきまーす!」

俺は母さん特製の黒豆を持って、家を出た。

 

今日もランカークス村周辺は快晴だ。ここ最近雪は降っていないので、地面は乾いていて歩きやすい。

 

俺は、以前ジーンの捜索を開始した地点からギルドメインの森に入った。ここから入ると、旅の祠まで最短距離で辿り着けるから、移動が楽なんだ。俺がエウレカの里に通い出してから、約1ヶ月が過ぎている。俺はもうかなり慣れた足取りで奥に進んでいった。

 

旅の祠まで、あと半分ぐらいというところまでたどり着いた時、突然右手側の藪がガサガサッと動いた。この辺りはギルドメインの森の深部ではないので、めったに魔物と出くわすことは無いが、昨年の自警団が遭遇したライオンヘッドの事もある。

 

俺は、いつでも魔法を放てる体勢で、若干緊張しながらその藪を凝視した。

 

俺が警戒していると、不意にその藪から1匹のウサギが飛び出してきた。しかし、そのウサギは決して野生のウサギではない。

 

何故なら、その額には大きな1本の角が生えていたからだ。こいつは、『いっかくウサギ』だ。俺はこいつに出会うのは初めてだったが、ランカークス村周辺で現れる魔物としては比較的ポピュラーな魔物と聞いている。それほどの強さではないが、集団で現れることが多い事と、その額の角にだけは気を付けるようにと、それこそ、この角で負傷して教会に治療に来た冒険者に以前聞いたことがある。

 

俺は、目の前に現れたいっかくウサギの背後に注意をしたが、続いて現れるいっかくウサギはいないようだった。……珍しく単独行動か。いっかくウサギの角は、細かく砕いて煎じて飲むと、ひざ痛などに効果があるらしく、村で一定の需要があるから倒すことはやぶさかではないが、俺は新年早々殺生はしたくないなと考えていた。

 

いっかくウサギの方も、藪を出た途端目の前に立っていた俺を即座に認識し、こちらをじっと見つめたまま微動だにしていない。俺は、何もしないからこのまま逃げてくれないかなと思いながら、じっといっかくウサギと目を合わせていた。

 

体感的には、そうして互いに目を合わせて30秒ほど経っただろうか。不意にいっかくウサギが俺から目を逸らし、反転して背後の藪に戻って行った。……どうしたんだろう?

 

魔物は、自分より格上の相手と出くわすと、逃げ出すことがあると聞いていたが、それだろうか? それとも、いったん逃げたように見せかけて、後から仲間を引き連れて再度襲撃をするつもりだろうか。

 

いずれにしても、いったん引いてくれたんだから、俺も早くこの場を離れてしまおう。万が一、後から追いかけてきても、旅の祠までたどり着ければ問題ないだろう。俺は、背後を気にしながら、幾分スピードアップして旅の扉に急いだ。

 

 

 

「あ、ポップだー! ポップー! いらっしゃーい!」

 

特にその後いっかくウサギに襲われることもなく、無事にエウレカの里に来た俺をスライムのスラリンが出迎えてくれる。スラリンはとても明るくてフレンドリーな性格だ。

 

「やあ、スラリン。こんにちは」

俺はスラリンに挨拶を交わす。すると、奥からふわふわと地表から浮かびながらホイミスライムのホイミンもやってきた。

 

「……ポップ、いらっしゃい。外、寒くなかった?」

 

「うん、すっごく寒かった。だから、この間覚えたメラの呪文で身体を温めながら来たよ。あ、ホイミン。母さんからお土産があるんだ。皆で食べてくれないかな?」

 

「わー、黒豆だ。僕、黒豆甘いから大好き。ポップ、ありがとう。皆でいただくね」

ホイミンはその触手を器用に動かし、俺の渡した鍋を掴み、奥にふわふわと戻っていった。ホイミンはちょっとおとなしい性格だけど、とても優しくて良い子なんだ。

 

俺は、途中の道すがら出会う里の皆に声をかけながら、奥に進んだ。その奥にはドロヌーバ族のルーサが足下に泥を作り、ぶくぶくとその泥の中で浮かんだり、沈んだりして遊んでいた。ドロヌーバ族とは、下半身は完全に液状で、上半身も半液状の形態をした魔物だ。

 

「ルーサ、今日も泥魔法を教えてね! よろしくね。」

 

「ごぼごぼごぼ」

 

ルーサは言葉を話せないし、表情もほとんど変わらない。でも、なんとなく雰囲気でルーサの言いたい事が最近分かるようになってきた。今の返事は、「ちゃんと覚えているよ」のはずだ。

 

ふと、足下を見てみるといつの間にかパンがくっついてきていた。俺はパンを抱き上げて頭の上にのせてあげた。ここが最近のパンのお気に入りの場所だ。

 

「にゃん、にゃん♪」

パンは気持ちよさそうに俺の頭の上で鼻歌を歌っている。遠くの方から、セリーヌが眠そうな目でこちらを見ている。

 

あ、サーラさん発見。サーラさん、普段はなかなか忙しいのか、俺が里に来ても時々不在の時があるが、今日は里でゆっくりしているようだ。

 

「サーラさん、こんにちは。今日も来ちゃいました」

 

「うむ、人族の暦では今日が新年明けたばかりだというのに、熱心じゃの。たまには休むことも必要じゃぞ」

 

「はい、分かっています。でも、皆から色々教わるのが楽しくて、つい来ちゃうんです。今日はルーサから泥魔法を教わりますけど、今度また魔道具の製作を教えて下さいね」

 

「ああ、ポップは筋が良い。儂も教え甲斐がある」

 

俺は、サーラさんと少し会話を交わした後、ルーサに再び会いに行った。サーラさん、父さんが来なかったことに少し残念そうにしていたな。せっかく秘蔵の酒を用意していたのに、とぶつぶつ言っていた。

 

しかし、父さんって思ったよりコミュニケーション能力高かったんだな。あんなに短期間でエウレカの里の人達と仲良くなるなんて。もしかして、そのうち魔族とも友達になったりして。……はは、いくらなんでもそれは無いか。

 

ルーサがいつも遊んでいる場所まで移動すると、ちょうどルーサは自分で作った泥のプールで遊んでいるところだった。ルーサは、「ごぼぼぼぼ……」と口にしながら泥のプールの中をクロールで泳いでいる。

 

実は、このクロールの泳法を教えたのは俺だ。だけど、教えるために泥のプールの中に入ってルーサと一緒に泳いだもんだから、服がとんでもなく汚れてしまった。その日家に帰った時の母さんの絶句の表情を、俺は今でも覚えている。

 

さて、ルーサのように言葉をしゃべれない魔物からも、呪文を覚えることが可能になったのは最近のことだ。

 

魔物が魔法や特技を使っている時にその魔物の身体に触れていると、その魔法がどのような原理で発現しているのかをなんとなく理解できることに気が付いた。ただ、たまにそうやって発動の原理を理解しても、到底人間にはマネできない原理で発動する特技なんかがあり(発動するために、心臓が2つも3つも必要だったり、炎臓や氷臓と言った、人では持ち得ない臓器が必要だったりだ)、そういう特技は習得が出来ない。

 

でも、中には魔法的な原理で発現している特技もあり、そういう特技は原理さえ理解すれば習得は可能だ。ルーサの使う泥魔法もそうだ。泥人形ルーサは、普段から日常的に泥魔法を使っている。自分の足下に泥を作り出して潜り込んだり、泥を手に発現してそれを投げつけたりだ。

 

俺はそれを先日、魔法的な理屈で発現していると判断したので、先週からずっと教えてもらっていた。

 

「じゃあ、ルーサ。この前と同じように僕が君の背中に手を置いておくから、それから泥魔法を使ってくれないかな?」

 

「ごーぼ!」

 

了解だってさ。

 

俺は、ルーサの背に右手を置いた。それを確認したルーサは、泥魔法を使い始めた。

 

「ごぼごぼごぼ」

 

すると、ルーサの手に泥が次々と現れては消えていく。ルーサは、俺のために何度も泥魔法を使ってくれている。俺はその魔法の原理を探ろうと、目を閉じ精神を集中させ、ルーサの魔法の発動原理を掴もうとした。前回までの解析でかなりいいところまでいっていると思うんだよな。感覚的にはあと少しと言ったところだ。

 

どれほどそうしていただろうか。

 

ようやく俺は、その魔法を発現させるための呪文構造を理解した。……ああ、多分この感覚だ。俺は理解したその呪文を忘れないように心に刻み込み、ルーサの体から手を離した。

 

「ありがとう、ルーサ。おかげで泥魔法の呪文が分かったよ。ちょっと見てて」

俺はルーサに礼を言い、少し離れた場所に右手を向けて、先ほど覚えた呪文を唱えた。

 

泥沼呪文(ドロヌーバ)!」

 

すると、岩盤だった地面が、徐々に岩から泥の沼に変化し始めた。その後30秒ほどかけて約2m四方の範囲全てが泥の沼に変化した。

 

うん、ちゃんと変化したな。ちなみに先程俺が唱えた『ドロヌーバ』という名前は、ルーサの特技を俺が呪文へと昇華した瞬間頭に思い浮かんできた言葉だ。魔法名が、ルーサの族名のドロヌーバと同じだったというのはなかなか面白いな。

 

ただ、発動スピードが遅すぎたな。これは今後の課題だな。もっとこの魔法の修練を積まなければ。俺が課題点を確認していると、ルーサは「ごぼごぼごぼー」と叫びながら俺の作った泥沼に勢いよく飛び込んだ。はは、表情は変わっていないけど、満面の笑みで新しくできた泥沼で泳いでいるよ。

 

「ごぼごぼー」

 

多分人族の言葉に直すと、良い泥だと言っているんじゃないのかな。俺はその様子を笑って見ていた。

 

「あ、ポップー。魔法の勉強が終わったんならさ、一緒に黒豆食べようよ」

スライムのスラリンがいつの間にか足元に来て、俺にそう声をかけてきた。そうだな、せっかくだからみんなと一緒に食べようかな。

 

「ああ、そうだねスラリン。一緒に食べよう」

俺はスラリンに返事をして、食事をしている魔物の所にスラリンと一緒に歩いて行った。

 

こんな調子で俺のエウレカの里での修行は進んでいっていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「あれっ、これってリュートだよな。なんで家にあるんだろう?」

 

ある日のこと、俺は家のリビングの隅に置かれている弦楽器リュートに気が付き、手に取った。やっぱりリュートだ。しかし、父さんは音楽はやらないし、母さんも弾けるところを見たことがない。誰かの忘れ物かな? 結構作りがしっかりしているから、そこそこの値段しそうだぞ。

 

俺がリュートを手に首をかしげていると、父さんが今日の武器屋での仕事を終えて戻ってきた。

 

「あー疲れたな。おっ、ポップ。そのリュート、気に入ったのか?」

 

父さんが、俺がリュートに触れて首をかしげている様子を見て声を掛けてきた。

 

「あ、お父さん。お帰りなさい。このリュート、どうしたの? 誰かの忘れ物?」

 

「いんや、違うぞ。そいつはな、この間武器を買いに来た流しの吟遊詩人が、ナイフ代の足しにしてくれって言って置いていったのさ。どうやら吟遊詩人からの転職を考えていたらしいんだが、武器を買うお金が足りないから、足りない分はリュートで払わせてくれって言って置いてったのさ」

 

なんと、そんな経緯でリュートがここにあるのか。でも、結構高級そうなリュートなのにもったいないな。

 

「そうなんだ。でも、どうしてその人は急に詩人をやめちゃったんだろうね」

 

「さあなー。それは俺には分からんが、この先詩人では食っていけんと思ったんじゃないか。それより、ポップが気に入ったんなら、そのリュートお前にやるぞ。欲しいか?」

 

「え、良いの!? 欲しい、欲しい! お父さん、ありがとう!」

 

「ははは。そんなもんで良ければやるよ。武器屋にリュートを置いていても、売れんからな。うまく弾けるようになったら、聞かせてくれよ」

 

「うん、分かった。上手に弾けるようになったら、聞いて貰うね」

 

やったぜ、リュート、ゲットだぜ!

 

この日以降、俺は時々時間が有る時にリュートの練習をするようになった。教えてくれる先生はいないけど、前世でのギターの演奏を頭に描きながら練習することで、少しずつではあるが上達していった。

 

 




新年明けましておめでとうございます。
卯年にちなんで、いっかくウサギに登場してもらいました。
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