転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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144話 激突!!! 集団戦闘 ②

「……そろいましたか、アバンの使徒達。これは引っ込みがつかなくなりましたね。フフフッ……」

 

 

互いに距離を取って睨みあう俺達と、奴らハドラー親衛騎団。今度は5対5だな。俺は到着したばかりのおっさんとヒュンケルに簡単にこれまでに得られた情報を伝える。

 

「なるほど……。では、あいつらはフレイザードと同様に禁呪法で生み出された金属生命体という事だ。ならば、(コア)を見つけ空の技を決めれば倒せると言う弱点もあるはずだ」

 

ヒュンケルの言葉にダイが、「そうかっ! 奴らの急所を探し出せば良いのか!」と弾んだ声を上げるが、それにヒムが反応する。

 

「……探す必要などない! 俺達の(コア)はここだ!」

 

そう言ってヒムは、人間でいう所の心臓の位置をコンコンと指さしながら、そう声高く宣言した。

 

……なるほどね。やはりハドラーが一皮むけたのは間違いなさそうだ。ハドラーの精神状態がハドラーに生み出された禁呪法生命体に及ぶのなら、逆に目の前の敵からハドラーの精神状態を類推する事ができる。

 

皆もそれを認識しているのだろう。決して侮れない敵と言う共通認識に至っているように見える。

 

「皆、これは前哨戦だ。ここで、できるだけ敵の情報を引き出しておきたい。ダイはヒムを、マァムはシグマを頼めるか?」

 

俺の言葉に、ダイとマァムが頷きを返したので、俺は更に続ける。

 

「おっさんはブロックと言うあのでかいのを、ヒュンケルはあの全身刃物で出来ている奴を頼む。俺は、あの司令塔然としているアルビナスの相手をするよ」

 

おっさんとヒュンケルからも了承の言葉があったが、マァムから俺を心配する声が飛んだ。

 

「でもポップ。あなたは後方から全体を支援した方が良いんじゃ……」

 

「ん……。まあ、出来れば俺も後方で優雅に見物をしていたい所だけど、あいにくこちら側にもそんな余裕が無いからな。まあ、そんなに心配しなくても、あいつは積極的に戦闘は仕掛けてこないと思うよ。さっきもあいつは傍観していただけだったしね。ちょっと彼女とおしゃべりするだけさ」

 

「……ポップ。あなた、美女なら人間でも金属生命体でも見境無しに――」

 

「――違うよ!? そんなんじゃ無いから!」

 

俺に対して剣呑な殺気を飛ばし始めたマァムに、俺は全力で否定する。マァムは俺の言葉を信じたのか、信じていないのか「後でメルルに報告が必要ね」と呟いている。いや、信じてないだろう、絶対!

 

「さあ、人の事を気にしていられる相手じゃないんだ。マァムもシグマに集中してくれ。可能なら、戦いの中であいつが左腕に装備している『シャハルの鏡』を奪い取ってくれると嬉しい」

 

話題を切り替えた俺の言葉にマァムはシグマに目を移し、不承不承「分かったわ」と応える。

 

皆が自身の戦う相手を了承したようだから、俺は1つだけ皆に策を伝えた。俺の言葉に皆が呆れ交じりの苦笑を浮かべる。……良いじゃないか。これが俺の戦い方なんだから。勝てば官軍なんだよ。

 

さあ、第2ラウンドの開始だ。

 

 

 

緊張が頂点に達した際に偶然発生したガラスの落ちた音を契機に、俺を除く皆がそれぞれの相手に対して突進した。

 

ダイはヒムと接敵し、早速戦闘を開始する。どうやらダイは最初から無手でヒムと対峙するつもりらしいな。そしてマァムもシグマとの高速戦闘を始めた。マァムはヒムとの戦いで何か思う所があったのか、組手重視の戦い方をしているようだ。

 

ヒュンケルもフェンブレンと激しい剣戟を始めている。フェンブレンは全身刃物のような奴だから、両手を使ってまるで二刀流のようにヒュンケルに切り付けているが、ヒュンケルは右手に握った鎧の魔剣1本でそれに相対している。鎧の魔剣の刀身はミスリル銀のためその硬度はオリハルコンより劣っているはずだが、それを全く感じさせない鍔迫り合いはヒュンケルの技量の高さを証明していた。

 

そしておっさんだ。おっさんとブロックは互いにドシドシと地響きを上げながら接近し、激突した瞬間は周辺に衝撃波を発生させるほどのぶつかりあいだった。そして今、おっさんとブロックは互いに両手を組み合わせ力比べをしている。プロレス用語でいう所のロックアップという奴だ。うん、もうあれだな。まるで、ゴジラ対キングコングみたいな肉弾戦だ。

 

「――ブローム!」

 

「――! くっ、くくっ!」

 

しかし、どうやら力勝負はブロックの方に分があるようだ。徐々にブロックがおっさんに覆いかぶさるように圧し掛かってきている。ブロックの金属の身体に変化は見られないが、おっさんの両腕は血管が浮き出る程パンパンに張っているから、おっさんが全力を出している事は明らかだった。

 

やれやれ、しかしおっさんも好きだねー。俺が、自分には絶対にできないパワーファイター同士のぶつかり合いに羨望の眼差しを送っていると、そのおっさんから後方の俺に対して言葉が飛んだ。

 

「――ポップ、限定解除だ!! やってくれ!!」

 

くっくっく。おっさんってば、意外に厨二病の気がありそうだ。俺がその方がかっこいいと言った言葉を真に受けて、その通りにしているんだもんな。しかも、限定解除って……。いいなー、俺も腕力は無理だけど、魔法力の限定解除って奴ならいつかやってみたいな。激しい攻防の最中、突如5倍に膨れ上がる俺の霊力ならぬ魔力。俺の背から吹き上がる可視化する程の魔力の圧を目にして狼狽える邪なる者。

 

その様子を涼しい顔で眺めつつ、天を指さし宣告する俺。

 

「……全ての天は俺の支配下だ」

 

「何……だと?」

 

俺の魔力に呼応するかのように突如天を覆う分厚い薄墨色の雲。そして、その雲の合間から無数の氷の結晶が敵に対して無慈悲に降り注ぐ。次の瞬間、戦場に巨大な氷の花が突然顕現する。その花の芯に驚愕の表情を浮かべた敵を包み込んで。

 

俺はそれを眼下に見下ろしながら、「六芒星にしてやれなくて、すまなかったな……」と、すまないとは微塵も考えていないかのような表情でクールに吐き捨てる。

 

うーん、これぞ俺の理想像。まさにオサレというか、ロマンというか……「おいっ、早くせんか、ポップ!!

 

おっと、いけない。俺が一人悦に入ってにやにやとほくそ笑んでいると、マジ切れした様子のおっさんの怒号が飛んだ。ハッとして俺が意識を前方に戻すと、エビ反り状態で今にも背中をへし折られそうになっているおっさんの姿が視界に映る。

 

「――! 悪い、悪い! 少しばかりロマン、――じゃなかった、戦略立案に没頭していたぜ! 今、解除する!」

 

俺は即座におっさんに向けて魔力の塊を飛ばす。それは正確にはおっさんにではなく、おっさんの着ている鋼鉄の鎧の中のある魔道具に向けて放ったものだった。

 

目に見えない魔力塊がおっさんに届くと、一瞬おっさんの身体が白く瞬いた。そしてその輝きが収まるのとほぼ同時に、グググッとおっさんはブロックに押されていた身体を逆にブロックの方に押し戻し始めた。

 

そう、おっさんはマトリフ師匠から貸与された重力を増す魔道具を、今この瞬間まで起動したまま戦闘に臨んでいた。そして、俺の魔力によってその魔道具の効力をオフにされ、今初めて最大の力でブロックに対峙した形だった。

 

おっさんの腕力が、あの魔道具でどれほど強化されたのか俺にはさっぱり分からない。しかし確実に言えるのは、リミッターを外したおっさんの腕力は、おっさんをしても倍以上の体格を誇るブロックに対して、互角あるいはそれ以上の力を有しているという事だった。

 

「ブ、ブローム……?」

 

ブロックが困惑した声を上げる。今や互角を通り越して、逆にブロックの方におっさんが圧し掛からんとしている。

 

そして、「ブローム!」と大声を上げて無理やりに力を込めてきたブロックに対して、おっさんはとっさに身体を捻り、バックブリーカーよろしくブロックの巨体を頭上に抱え上げ、勢いよく地面に叩きつけた。

 

ズシーンッという地響きが辺り一帯に響き、俺を含めて他のメンバーも思わずたたらを踏むほどの衝撃が発せられた。

 

「グッフッフ。でかいの、ハドラーに伝えておけ。次に相対した時には、あの時の借りを返してやるとな!」

 

と、ととと。おっさんの口上を耳にしながら、魔力を纏わせて僅かに身体を地表から浮かす事でその衝撃を受け流す俺。そんな俺に対して、右手方向から涼しげな声が掛けられた。

 

 

「フフフ。皆、なかなかいい戦いをしている様ではありませんか」

 

 

それは、いつの間にか俺の側に来ていたアルビナスが発した言葉だった。

 

 

 

俺は、アルビナスに正対し口を開いた。

 

「まあな。でも、お前達も大したもんだよ。まだ生まれたばかりだろうに、何度も死線を繰り抜けてきた俺達と、互角の戦いをしているんだからな」

 

「それはもちろん、ハドラー様直属の親衛隊として恥ずかしい戦いは出来ませんからね」

 

そんな事を言いながら、俺に対して特に戦闘態勢を取ってこない。やはりこいつからは、積極的に戦おうという意志が見えにくいな。

 

「それで? 俺の所に来たと言う事は、俺と戦うために来たんじゃないのか? のんびりとおしゃべりをしていて良いのかい?」

 

「戦っていますよ? 我々が最も避けるべきなのは、賢者であるあなたに後方から前衛の支援をされる事です。私がここにきてあなたにその隙を与えないだけで、十分その役割は果たしていると考えますが?」

 

……なるほど。やはりこいつはやりにくい相手だな。でも、支援ね……。ふーん。

 

「そうか。……まあ、俺も争いが好きな訳じゃないから別に良いけどね。それはそうと、お前達はチェスの駒をモチーフにしているんだろう? だったらキングもいたりするのか?」

 

「……いませんよ。我々のキングはハドラー様ですから、私達親衛隊の中にキングは存在しません」

 

フッと笑みを浮かべながら俺の問いかけに答えるアルビナス。本当かな……? キングがいなくてチェスが出来るとは思えないんだけどな。

 

「……そうか。もう一つ聞きたいんだけど、お前達にはそれぞれがチェスのルールに沿った特殊能力を与えられていたりするのか?」

 

できるだけこいつらの情報を入手しようと問いかけるが、アルビナスは口角を上げてクッと笑みを深めた。

 

「クスクスクス。喰えない男ですね、あなたは。彼らが武力で我々の能力を把握しようとしているのに対して、あなたは話術で我々の能力を把握しようとしている。それがあなたのいつものやり方ですか?」

 

「そうだよ。俺は元来、臆病な性格をしているからな。話が通じそうな相手なら、まずは対話から入るのを基本としているのさ」

 

「臆病な性格? 敵とこのように泰然と会話を楽しむあなたが? ふふふ、まあ良いでしょう。その質問に答える前に、私からも質問させていただきましょう。あなた達と(ドラゴン)の騎士であるバランとの闘いの記録を拝見させていただきました」

 

ふーん、やはり俺達の情報は筒抜けって訳か。

 

「あの戦いであなたは、呪文封じ(マホトーン)を囮に、見事に幻惑呪文(マヌーサ)を隠し通しました。その戦略には脱帽しかありませんが、なぜ呪文封じ(マホトーン)を囮にしたのですか? あれほど高度に隠蔽した幻惑呪文(マヌーサ)なら、囮など用いなくても見破られなかったのでは?」

 

思いの他真摯に問いかけてきたアルビナスに、俺は何故か正直に答えを返してやりたくなった。

 

「……それはバランに、求めていた答えを与えてやった方が良い気がしたからだな」

 

「求めていた答えを与えてやった方が良い? それは……?」

 

「つまり、バランならきっと自身の不調の原因を突き止めようとするだろう? そんな動きをするのが分かっているのなら、それをこちらが用意した答えに誘導してやった方が都合が良いと判断したのさ」

 

誰の言葉だったかな……。前世の事ではっきりと思い出せないが、その残した言葉だけは記憶に残っている。

 

「戦略の最上なるものは、敵を喜ばせながら、あるいは上手くいっていると思わせながら罠にかける事……。つまり、落とし穴の上に金貨を置いておくのさ。……言っておくが、俺の言葉じゃないぜ。かつて存在した智者の残した金言さ」

 

俺の言葉にアルビナスは、「……なるほど。実に勉強になりました」と、妙に納得した顔で頷いた。

 

「面白い話のお礼に、あなたの先ほどの質問に答えましょう。確かに我々にはチェスのルールに則った特殊能力がそれぞれに備わっています。どのような特殊能力かは控えさせていただきますがね」

 

「……なるほど、やはり特殊能力は存在するのか。でも、チェスのルールとは別にそれぞれの得意な呪文も決まってそうだな。シグマがイオ系、ヒムがメラ系、フェンブレンがバギ系、ブロックは……分からないな。後、あんたはクールな感じがするから、ヒャド系かな?」

 

俺は、ダイやヒュンケルとの戦いでヒムとフェンブレンが使っている呪文を見て、そう推測を立てた。

 

「フフフ。クールに見える者ほど、反対にその内面は激情に支配されているという事もありますよ? ですが、後はご想像にお任せしましょう。それでは、次は私が質問させてもらいますよ、ポップ。先ほどは何故、極大消滅呪文(メドローア)をシグマに対して放たなかったのですか? 彼が『シャハルの鏡』を持つ事を知っていた訳では無いでしょう?」

 

ああ、やはりこいつらは極大消滅呪文(メドローア)についても情報を共有していたか。バラン戦の事と言い、魔王軍の連絡網、なかなか侮れないな。

 

「ん……、そりゃあ、シグマの態度が明らかに怪しかったと言う点が一つかな。口には出さなかったけれど、あれでは自分には対抗手段があるぞって言っていたようなものだったし。戦士としては一流でも、役者としては三流だな、あれは」

 

あいつは生真面目すぎる。多分俺がシグマを倒すなら、何らかの策略をもって倒す事を選択するだろうな。

 

「なるほど……。シグマは我らの中で最も礼節を重んじる戦士です。謀を苦手とするのは仕方のない事ですね」

 

「まあ、そうだな。だけど、あれはあんたの失敗でもあるぜ?」

 

俺の言葉に、アルビナスが「私の?」とキョトンとした顔をした。

 

「そうだよ。あんた、俺とシグマの戦いを見ていただろう。だったら、地上からシグマに伸びる氷の蔦を目にしていたはずだ。それに対して何の声掛けも、援護もしなかったのはいただけないな。あれじゃあ、俺に極大消滅呪文(メドローア)を撃たせるための状況を作り上げるのに、一役買っていると言っているようなものだぜ? シグマの三流役者振り、あんたの不可解な演技指導、この2つが俺にシグマに何らかの呪文への対抗手段がある事を悟らせたのさ」

 

アルビナスは、ほんの少し思案した後、納得したかのように頷いた。

 

「理解しました。まさかあの攻防の最中に、私の動向まで視界に収めていたとは。『氷の賢者』ポップ。ハドラー様が、ある意味でダイ以上に警戒するだけの事はありますね。それでは、折角の機会ですので、私に集団戦における仲間への指示の出し方についてご教示いただけませんか?」

 

その言いように俺は内心で吹き出しそうになったが、チラッと見たアルビナスが意外にも本気で尋ねている様子なのを見て、俺も会話に付き合っても良いか、という気になってしまった。ハドラー親衛騎団の女王(クイーン)アルビナス。なかなか面白い奴だ。

 

「そうだな、俺も自分の指示出しに自信があるわけじゃないが、パーティーを構成するメンバーのレベルが十分な力量に達していたら、あまり細かく指示をする必要はないんじゃ無いかな」

 

「ほう……」と、呟いたアルビナスに俺は続ける。

 

「戦場ってさ、生き物だと思うんだよね。どれほど決め事を伝えていても、決して思う様な流れで進まない。そんな時に、ああして、こうして、と細かくメンバーに伝えていると、それが逆に足かせになって臨機応変に対応出来なくなると思うんだ。さっきのシグマみたいにさ……」

 

「ふむ……、実に興味深い言葉です。それで……? それでは、あなたはどういう指示を仲間にされるのですか?」

 

「俺かい? 俺は『こんな用意をしているから、もし良かったら使ってよ。でも、使いにくかったら使わなくても良いよ』と言うような、ふわっとした指示出しをするかな。基本的には仲間の自主性に任せるって言うか……」

 

俺は、皆が戦っている様子から目を離さないまま、そうアルビナスに答えてやる。

 

「こんな用意をしているから、もし良かったら使って……。――!? あなたは、もしや!?」

 

アルビナスが驚愕の表情を浮かべたその時、突如前線から発せられた苦悶の声が戦場全体に響き渡った。

 

 

「ガ、ガアァッ!?」

「グッ! こ、これは一体……!?」

 

その声は、シグマとフェンブレンが発したものだった。彼らは再び、黒い重力磁場に捕らわれていた。

 

 

 

~~~~さかのぼる事5分前~~~~

 

マァムは、シグマに肉薄した至近戦を演じていた。それは、シグマの手にした槍の間合いの内側に入らなければ不利になる事を悟っていたためだった。激しい攻防の最中、マァムは何度かシグマの左手に装着された『シャハルの鏡』に手を伸ばすが、さすがにシグマはそれを奪われるような隙を見せてはくれない。

 

「ふっ。いじらしいな、マァムとやら。あの賢者のために、私の鏡を欲するか」

 

「べ、別にポップのためじゃないわよ!」

 

そう言い返しながら、図星を指された格好のマァムは戦闘中にも関わらず僅かに顔を赤らめた。この呪文を跳ね返す鏡さえ奪い取る事が出来れば、ポップの戦術の幅が広がる。それは延いてはポップの身の安全に繋がると考えていた事は、否めなかったからだった。

 

「理由はどうあれ、この鏡は私が直々にハドラー様から頂いたもの。そう易々と奪えると思うな!」

 

シグマはマァムとの攻防の最中、右足で廃墟となった家屋のがれきを蹴り飛ばし、その破片をマァムに浴びせる。マァムはその対処のために足を止め、自身に向かってくる瓦礫を両手で裁く。

 

その一瞬の隙に、シグマはマァムと距離を取り右手に持った槍をマァムに突き込んだ。役者としては三流でも、戦士としては一流とシグマを評したのはポップだったか。シグマはその槍の穂先を、マァムに向かって飛んだ瓦礫の裏から突き込む事を選んだ。

 

マァムにとって、その一撃は意識外からの攻撃だった。自身に迫った瓦礫を破壊し、突如眼前に迫った槍の攻撃に、一瞬マァムの身体は硬直する。そのためか僅かにマァムの回避が遅れる。

 

マァムはギリギリの所で僅かに身体を逸らせるが、その槍はマァムの右肩を掠めその肩から鮮血が舞いあがった。

 

「くっ!」と苦悶の表情を浮かべるマァムに対して、「よく避けた!」と称賛の声を上げるシグマ。

 

シグマは槍の間合いを維持したまま、マァムに対して高速でその槍を突き込んでいく。いったん距離を取られてしまった上、右肩の出血から思うように右腕を動かせないマァムには、その攻撃を小刻みな足さばきで躱すしか手は無かった。

 

「見事な動きだ。だが、いつまでその動きが出来るかな?」

 

シグマに言われるまでも無かった。短時間ならまだしも、長時間にわたってシグマの攻撃を捌ききる事が不可能な事はマァムにも分かっていた。マァムの視線はシグマのその先、開けた広場の一部分だけやや黒く変色している場所に向けられていた。

 

槍による乱撃の僅かな合間に、マァムの右手が自身の腰のベルトに吊るしてあった魔弾銃に伸びる。そしてベルトに吊るしたままの状態でマァムはその魔弾銃の引き金を引いた。その銃口は、シグマの足元を向いていた。

 

ズガーン!という爆音と共にシグマの足元から大量の土砂が巻き上げられる。その魔弾に込められていた呪文は爆裂呪文(イオ)だった。

 

「ヌウッ!?」

 

槍を繰り出す起点となる右足の地面が爆裂呪文(イオ)により突如陥没し、よろめくシグマ。時間にして僅か数秒と言った時間であったが、マァムにとってはそれで十分だった。そう、豪破一闘を撃ち込むには。

 

「小癪な真似を!」と毒づきながらもシグマが体勢を立て直した時、その眼前にはマァムの放った豪破一闘の衝撃波が迫っていた。とっさに右手に持った槍の柄でその衝撃波を受け止めるシグマ。しかし、シグマはその衝撃までは受け止められず、背後に大きく吹き飛ばされた。

 

「おのれ! だが、これしきの事で……! ――!? ガ、ガアァッ!?」

 

背後に吹き飛ばされながらもシグマが体勢を立て直し、再びマァムに跳躍しようと考えた時だった。吹き飛ばされる自身の身体が戦場のある一角、地面が黒く変色した場所に達した途端、彼の身体を凄まじい重力波が襲い、それは一瞬にしてその身体を地面に縫い付けた。地面に接触して初めてシグマは認識した。そこは、周辺にあるような土を均して転圧しただけの地表では無かった。まるで、超重力に地盤が耐えられるよう何か固い鉱石が地表を覆っているような……。

 

「こ、これはあの男の呪文! いつの間に!? グワッ!」

 

「グッ! こ、これは一体……!?」

 

動揺するシグマに、上空からフェンブレンがシグマ同様弾き飛ばされたようにぶつかってきた。シグマは直ぐに悟った。ここは、あの男が事前に仕込んでいた超重力磁場が展開された囲い罠の中だと。そして、ここに留まる事は致命的な失策である事も。

 

「フェンブレン、あの男を!」

 

苛烈な重力下の中、シグマの言葉にフェンブレンが「おう!」と答え、両手を組み合わせる。先の脱出方法を再度取る意図であることは明白だったが、それを許さない男がいた。

 

「――させん! ブラッディースクライド!!」

 

フェンブレンを囲い罠に突き飛ばした勢いのまま、必殺の一撃を放つ体勢を取っていたヒュンケルが、その鎧の魔剣の切っ先を彼らに向け必殺剣を放った。

 

とぐろを巻いた闘気流が、重圧魔法に囚われて身動きの取れないシグマとフェンブレンを襲う。

 

 

ドォォォォーーーン!!

 

着弾と同時に土埃と瓦礫が空に舞い上がり、直撃を喰らった2体の姿を覆い隠す。

 

ヒュンケルと、その隣に駆けつけたマァムが油断なくその土煙に覆われた方向に目をやった。

 

 

 

港町特有の浜風が土埃を徐々に払っていく。その様子に目を凝らしていたヒュンケルとマァムだが、土埃が完全に拭い去られた時、ポップの仕掛けていた囲い罠に2人の姿が無い事に大きく目を見開いた。

 

「あそこだ、マァム……!」

 

キョロキョロと周囲を見回すマァムに、ヒュンケルが囲い罠の奥の通りを指し示した。そこには、右足の膝から先を失ったフェンブレンに肩を貸すシグマが立っていた。そのシグマにしても、そのオリハルコンの体表を、まるでドリルで縦に抉ったかのような激しい傷跡が走っていた。

 

「……危なかった。後少しあの重圧魔法に囚われていたら、君の技に我々は(コア)ごと貫かれていただろう」

 

「そう……だな。口惜しいが認めよう。アルビナス、感謝する……」

 

フェンブレンがそう背後に首をめぐらせて口を開くと、いつの間に移動したのか、そこにはアルビナスが静かに立っていた。

 

「いえ、こちらこそ彼の策略に気づくのに遅れた事をお詫びします。まさか、あのような手を打っていたとは……」

 

アルビナスが視線を向けた先に、ヒュンケルとマァムも目をやる。

 

そこには、片膝をつき左腕を押さえてうずくまるポップがいた。

 

「「ポップ!!」」

 

ポップのその姿に、2人はポップの元に駆け寄る。2人の声に、ダイとクロコダインも戦闘を中断しポップの元に走った。

 

 

 

 

 

「ポップ、大丈夫!?」

 

マァムが、膝を着いてうずくまる俺を横から覗きこむように声を掛けてくれる。俺がそのマァムに顔を向けると、そのマァムの向こうにヒュンケルの心配そうな顔も見えた。

 

「あ、ああ。ごめん、心配かけた。どうやら毒矢を放たれたみたいで、治療中なんだ」

 

相当強力な毒だったのだろう。突然左腕に激痛を感じた俺は、それでも密かに展開していた重圧呪文(ベタン)の魔法を維持しようと試みたが無理だった。毒の成分に幻覚の効力もあったのか、集中が途切れてしまい、ただでさえ高い集中が必要な重圧呪文(ベタン)の魔法の維持が出来なくなってしまった。

 

今も左腕の患部に右手を添えて解毒呪文(キアリー)の魔法を唱えているが、全身をめぐった毒の解毒が完全には出来ていない。俺はマァムに支えられて、よろめきながらもかろうじて立ち上がった。首を巡らせると、皆致命傷は負っていないようだが、どこかしら負傷は負っているようだった。マァムは肩口からの出血が痛々しいし、おっさんもブロックに殴られたのか口から出血している跡がある。……いけない、俺の事より皆の回復を優先しないと。

 

「皆、広域回復呪文(ベホマラー)をかけるから集まってくれ」

 

俺の言葉に、アルビナスが冷笑を向ける。

 

「フフフ。余計なおせっかいかもしれませんが、その毒は当たり所が悪ければ即死するほどの猛毒ですよ。今は自身の治療に専念すべきでは?」

 

「そうだよ、ポップ! 俺達は後でいいから、まず自分の身体を治せよ!」

 

「回復なら私だってできるから、あなたは早く身体に回った毒を治療しなさい!」

 

アルビナスに加えて、ダイとマァムにも目を剥いて叱られた俺は思わず首をすくめた。アルビナスは、俺達の様子を見て更にフフフと笑みを浮かべる。

 

「それにしても、まさか乱戦になる前に、先ほどの重圧魔法をフィールドにかけていたとは。私があなたの元に行った時には、既に前衛への支援を終えていたのですね」

 

「ああ、言った通り、前衛の戦闘は流動的で予測できないしな。重力磁場と言う囲い罠の存在だけ伝えておいて、それを使用するのは各自の判断に任せていたんだよ。罠を仕掛ける時はそのための動きを最小限にした方が、その存在を察知されにくいだろう?」

 

俺の言葉に、アルビナスは「見事です」と氷の笑みを浮かべるが、俺の方は内心忸怩たる思いだ。地中内に存在する特定の鉱石を探し出す鉱石抽出呪文(トンネラー)をかけて、地盤の強度を上げる。

 

その上で、密かに重圧呪文(ベタン)の魔法をかけて作り出した超重力磁場の囲い罠。手間がかかった上に、重圧呪文(ベタン)の呪文の常時展開でかなりの魔力を消耗したのに、結局はギリギリの所でこいつに邪魔されてしまった。

 

解毒を完全に終えた証なのか、俺の左腕に刺さっていたつま楊枝のように細い針がポロッと地面に落ちた。これも銀色に輝いている。こんな小さな針もオリハルコン製なんだろうか?

 

ようやく一息ついた俺は、改めて敵を見つめる。アルビナスとブロックは無傷。シグマとフェンブレンはそれぞれ小さくないダメージを受けている。ヒムは……左拳にひびが入っているな。ダイにやられたのかな?

 

ヒュンケルが敵を厳しい目で睨みながら、俺に声を掛けた。

 

「……もう良いのか、ポップ?」

 

「ん、ああ、もう全快だ。済まなかった、ヒュンケル。あと少し呪文を維持できていれば、少なくとも2体は片付けられたかもしれないのに……」

 

「気にするな。好機はまた訪れよう。それより、こちらはお前を()られる方が影響が大きい。お前は攻めるより、自分の身を守る事を第一に考えるべきだ」

 

「そうだぞ、ポップ! お前は扇の要なのだ! いい加減、その自覚を持たんか!」

 

バンっとおっさんに背中を叩かれてよろめいた俺は、「へいへい、ご心配をおかけしてすいませんね、皆さん」と笑顔を向けた。ダイとマァムは、俺のその言葉にようやくホッとした顔を向けてくれた。

 

そして、ちょうどそんなタイミングで奴らの頭上にハドラーの映像が突然出現した。

 

 

 

 

 

 

~~~~死の大地 地下 ~~~~

 

 

ハドラーは自身に与えられた椅子に腰かけながら、サババの町より戻ったばかりの親衛騎団をじっと見つめた。アルビナスとブロックは無傷だが、ヒムは左手の甲に大きく亀裂が入り、シグマは胸に大きく抉られた跡があった。そしてそのシグマに肩を借りているフェンブレンは、右足を欠損しており自力で立つ事が困難な様子だった。

 

親衛騎団を代表して、アルビナスが口を開く。

 

「……任務完了いたしました」

 

「ご苦労!」

 

「ハドラー様。ヒム、シグマ、……そしてフェンブレンの復元をお願いできますか」

 

ハドラーは了承の意を伝えながら、改めて配下の状態を見て口を開いた。

 

「思ったよりひどくやられたな。……やつらをどう見た?」

 

その問いに、ヒムがニヤリと笑みを浮かべて応える。

 

「気に入りましたね。燃える相手ですよ。ですが先の戦いでは、最後まで勇者の剣を抜かせられませんでした。次こそは必ず……!」

 

「フフフ。ヒム、勇者はハドラー様の獲物ですよ。差し出がましい真似は慎むように。そうそう、『氷の賢者』とも少しおしゃべりをしましたが、ハドラー様が気にされるのも分かりますね。どうにも彼は、単純な強弱で語れない底の見えない男のように感じました」

 

 

アルビナスのその感想のような言葉に、ハドラーは思わずクッと笑った。

 

「ああ、それにあの男は、戦力的な意味以上に奴らの精神的な支柱とも言える男だ。ダイとはまた違った意味で侮れん男よ。おそらく今頃は、俺達に対する戦略でも練っている事だろう」

 

ハドラーのその氷の賢者に対する評に感じ入るところがあったのか、アルビナスが静かに頷いていた。

 

「いずれにしても、決戦は『死の大地』。皆、それぞれ万全の状態で奴らを迎え撃とうではないか」

 

そのハドラーの不敵な笑みと共に放たれた言葉に、親衛騎団の全員が深々と頷いていた。

 

 

 

 

~~~~サババの町~~~~

 

 

「おい、ポップ。お前はいったい先ほどから何を探している?」

 

「いや、お前があのフェンブレンって奴の足を切断しただろう? その千切れた足は何処に行ったのかな、って……」

 

「それなら、奴の身体から離れて間もなく、爆発して跡形もなく消滅していたぞ」

 

「……」

 

「……ねえ、マァム。ポップが肩を落としているよ。大丈夫かな?」

 

「放っておきなさい、ダイ。ほら、ポップ。いつまでも落ち込んでないの。そんな事より、負傷者を連れて来たわよ。早く広域回復魔法(ベホマラー)をかけてあげなさいよ」

 

「む……。皆、どうやらレオナ姫達も来られたようだ。軽傷の者と重傷の者を分けて、通りに並べておこう。チウ! こっちだ、手伝ってくれ!」

 

 

 

アバンの使徒とハドラー親衛騎団……。後に決戦の地を舞台に激しい激闘を繰り広げ、後世まで語り継がれる事になる彼らの最初の接触(ファーストコンタクト)はこのような形で終わった。彼らの戦いが最終的にどのような終わりを迎えるのか……。各陣営の頭脳(ブレーン)である氷の賢者も、親衛騎団の女王(クイーン)も、現時点では知りようもなかった。

 

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