転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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155話 敗戦 片翼を捥がれた大賢者

最初に俺の脳裏に浮かんだのは、『どうして俺の右腕があそこに?』という素朴な疑問だった。だって、俺の右腕はここにあるじゃないか……。

 

何の疑念も抱かず俺は視線を自身の右腕に向ける。ドラゴンローブの右袖がバタバタと風に煽られている。どうしたわけか、そのローブの下に膨らみを感じない。

 

妙だな……。俺が上手く働かない頭でそう考えた時、突然鋭い痛みを感じた。

 

それは、最初は熱さという形で現れた。『熱いッ!』と思った直後、経験したことの無い程の激痛が俺を襲う。

 

「うっ!! あっ、があぁぁぁッー!!」

 

風がローブを煽り、俺の右腕が露わになる。俺の右腕は、上腕部の半ばから先が存在していなかった。

 

戦闘中だというのに、俺は思わずその場で膝を着く。涙と鼻水が次々とこみあげてくる。あまりの激痛に意識が遠のきかけるが、同時にその激痛により意識が覚醒するという事を繰り返す。左腕で右腕を強く抑えるが、出血が止まらない。

 

「「ポップ!!」」

 

意識のあったヒュンケルとマァムの俺を呼ぶ声が聞こえるが、それに返事を返す余裕なんてなかった。切断面からは止めどなく出血が続き、俺を中心にして真っ赤な血だまりが広がっていく。

 

「く、ぐうううーーー!」

 

血が出るほどに下唇を強く噛みしめる事で、気絶しそうになる痛みをやり過ごす。俺の目は、バーンの足元に無造作に転がる自身の右腕に固定されていた。右腕の人差し指にはめていたアバン先生からかつて頂いた『祈りの指輪』が、日の光りを反射しキラッと瞬いた。

 

「……フッフッフ。どうしたね、氷の賢者。そなたは回復魔法にも精通しているのだろう? 早く治療せねば、出血多量で人間は死んでしまうのではないかね?」

 

バーンは、早く治療したまえ、と何ほども無い口調で俺を促す。

 

ぐっ……。治療はしてえよ! 今すぐにもしてえよ。だけど、今治療したら俺の右腕は……。俺の右腕は永遠に失われてしまう……!

 

人間の身体は、たとえ最上位の回復呪文(ベホマ)をかけたとしても、欠損部位が再び生えてきたりはしない。繋げる事ができるとしたら、それは欠損部位が残っていた場合だ。この場合は、バーンの足元にある俺の右腕を繋いだ上で回復呪文(ベホマ)をかける必要がある。

 

しかし……。俺は自分の右腕から視線を外し、バーンに目をやる。バーンは俺の反応を面白がるように、両膝を着いて苦悶の声を上げる俺を悠然と見下ろしていた。

 

ああ、理解した。こいつはこれも計算ずくだ。このままじゃあ、こいつに主導権を握られたままになってしまう。

 

俺の視界の端で、マァムとヒュンケルの視線がバーンの足元に転がっている俺の右腕に注がれているのを捉えた。

 

駄目だ、一刻の猶予も無いな。俺はほんの少しだけ俯き、覚悟を決めた。

 

……ごめんな。

 

顔を上げた俺は左手をバーンに突き出し、「――火炎呪文(メラ)!」と唱えた。俺の手から飛び出したその小さな火球は、寸分の狂いもなく狙った場所に着弾する。

 

着弾した場所。それは、俺の右腕だった。

 

炎に包まれるかつて俺の身体の一部だった右腕。嗅ぎたくもない肉の焼ける嫌な匂いが、俺の鼻を漂った。

 

「ほう……」と呟くバーンをよそに、俺は徐々に灰になっていく自身の右腕を瞬き一つする事なく見つめていた。それほどの時間は必要としなかった。完全に灰と化した俺の右腕は、風に流されさらさらと散っていく。

 

ああ、十の歳から俺の戦闘スタイルを支えてくれていた相棒が消えていく。この瞬間、2重魔法詠唱者(ダブルキャスター)としての俺は死んだ。それはつまり、俺の保有呪文の中から極大の名を冠する呪文が消えた事はもちろん、この決戦のために用意した奥の手も一度も唱える事無く死んだ事を意味していた。

 

感慨に浸る間も惜しんだ俺は、未だ出血の続く自身の右腕に回復呪文(ベホマ)の魔法をかけた。

 

途端に痛みが引いていく。それを確認した俺は安堵の息をそっと吐き、ゆっくりと立ち上がる。しかし、血を流し過ぎたためなのか、はたまた右腕を失った事で重心がずれたためなのか、俺はふらっとよろめいた。

 

そんな満身創痍の俺を、バーンが静かに評した。

 

「……判断が早いな、氷の賢者。さすがは勇者一行(パーティー)の頭脳と呼ばれるだけの事はある。見事だ。誉めて遣わそう」

 

同時に「ポップ、どうして……」とマァムの悲壮な声が風に乗って聞こえてくる。その問いかけに答えたのは、ニヤニヤと笑みを浮かべているキルバーンだった。

 

「分からないかい? あのまま彼の腕がバーン様の足元に転がっていたら君達はどうしたかな? 彼の腕を取り戻すために、バーン様の前にその無防備な姿を晒したんじゃないかい?」

 

マァムは目を見開いて驚いた表情を浮かべ、ヒュンケルはその答えを予想していたのかただ悔し気に顔を俯けた。

 

そうだ……。キルバーンの言う通りだ。実際、俺の腕があそこにあったままだと、十中八九マァム達は俺の腕の回収に動いただろう。しかし、それこそがバーンの狙いだ。その行為を取ったが最後、マァム達の命は無かったはずだ。仲間の命と俺の右腕、比べるべくもないな……。

 

俺の推測が正しかった事を示す様に、バーンはその事については何も触れる事無く、俺に言葉を投げかけた。それは、これまで俺が耳にしたことが無いほどの柔らかな口調だった。

 

「どうかね、氷の賢者。片腕を失いそなたの技能の一部は失われた。これでもまだ私に抗うかね?

正直に言うと、残念に思っている。余とここまでの魔法戦を展開しえた者は、魔界でも片手で数えられる程しかおらぬ。惜しい事だ……。そこで提案しよう。余の手を取らぬかね? 余の軍門に降れば、その失われた右腕を蘇らせる事も不可能ではない。余の庇護のもとで、生きてみぬか?」

 

そしてバーンは俺に対して手を差し出した。それは、俺がその手を取ることをさも当然のように思っている無造作な所作だった。俺は、失われた右腕にそっと左手を這わせ、視線を落とす。

 

「……お前の手を取れば、本当に俺の右腕を蘇らせてくれるのか?」

 

「無論だ。それだけではない。そなたが望むのなら、そなたが望む者を側に侍らすことを許可しよう。つがいを設け、子を残したいのならそうすれば良い」

 

は、ははは……。つがいか。まるで愛玩動物だな。くくく……。胸中で生じた冷めた笑いが、いつの間にか喉元を通り過ぎ俺の口から洩れていた。

 

「く、くくく。そうか、右腕を元に戻してくれるばかりか、つがいを持つ事まで許可してくれるか。そいつは良い話だな。魔界ってのにも、興味があるしな。それも良いかもしれないな……」

 

「そうかね。では――」と口角を上げて更に俺に対して手を指し伸ばすバーンだったが、その言葉を遮るように俺は静かに口を開いた。

 

「だが断る」

 

「何……?」

 

ピクリとバーンの眉が上がる。ああ、言ってやった! 言ってやったぜ、いつかは口にしたいと思っていたセリフを、一番突き付けてやりたい奴に言えた。もう満足だ。思い残す事はねえぜ!

バーンは俺の答えに、薄笑いを顔に浮かべたまま、なおも問いかける。

 

「ふむ……。この状況で錯乱をきたしたか、氷の賢者よ。そなたほどの男なら、もはやこの状況から勝ち目など無い事は悟っていよう。無駄に命を散らすより、余の庇護のもとで生きた方が賢明ではないのかね?」

 

は、ははは……。お前の庇護のもとで生きるだって……?

 

ここにきて俺は完全に腹が据わっていた。日本男児がこれほどの事をされて、それを無かった事になんてできねえよなぁッ……! 賢明だ? 食えるのか、それは?

 

「……俺の腕を元に戻してやろうだと? 笑わせるなよ、バーン。お前の事だから、そのついでに俺の身体に黒の結晶(コア)を埋め込むつもりじゃないのか? お前に生殺与奪の権を握られた状態で、俺に生きろっていうのか?」

 

ハドラーに対してやった事を俺が暗に責めるが、バーンはどこ吹く風と言った様子だった。

 

「……それのどこがいけないのかね? 生きていられるだけで十分であろう?」

 

生きていられるだけで十分だって? 十分なわけがないだろう……!

 

「……かつて存在した智者が残した金言があるよ。『意志を放棄した人間は、人間にあらず。ただ笑いと媚に生きて、何が人間か』とね。……俺もそう思うよ。お前の庇護下で生きるだけなんて、真っ平御免だね。そんなのは生きているとは言わねえよ。生きている者とは、闘っている者だ! 俺は最後の瞬間までお前と闘ってやるよ!」

 

「ならば交渉決裂だな、氷の賢者。それだけの魔法技術を持ちながら、惜しい事よ。そなたの言葉通り、最後まで余に抗って死んでいくと良い」

 

――来るっ! その時、グッと腰を落とした俺の背後で空気が動いた気配を俺は感じた。それは俺の勘違いでは無かったようで、バーンが僅かに目を見開き「ほう、目覚めたか」と声を上げる。

 

そのバーンの視線は俺の左後ろに向いていた。俺が背後を振り返ると、そこには俺のかけた睡眠呪文(ラリホー)から目覚めたダイがいた。

 

「ダイ……。お前、もう大丈夫なのかよ?」

 

それは、ダイの精神状態次第では、再びダイを抑える必要があると思って発した言葉だった。俺はダイの両肩に手を置こうとして、片手しかない事に気が付いた。思わず苦笑いする俺を、ダイが悲しそうな顔で見返した。そして、中身の無いドラゴンローブの右袖をダイは、震える手で固く握りしめる。

 

「ごめん、ごめんよ、ポップ。俺が、俺が不甲斐ないから、ポップを一人で戦わせてしまったんだよね。もう、もう、俺は大丈夫だから……!」

 

俺を見返すダイの潤んだ瞳の中に、これまでは存在しなかった陰りが混在している事に気づく俺。しかし同時に、その瞳の中に冷静さが戻って来ている事も確認した俺は、ダイに頷きを返す。

 

「分かった! じゃあ、一緒にやろう、ダイ。俺達はまだ……終わっていない!」

 

俺の言葉に大きく頷いたダイは、一転して険しい表情でバーンを見つめる。そうだ、父親を亡くしたばかりのダイに酷な事を言っている自覚はあるが、今は前だけを向いて貰わなくてはならない。

 

全ては勝つために……!

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ダイは、フラフラとよろめきながらも立ち上がった。ポップとバーンの会話は耳に入っていた。どうか嘘であって欲しい、と願って、まだ焦点の良く合わない目でポップの右腕を見つめたが、それはもうどこにも存在しなかった。風にあおられバタバタと波打つローブの右袖がその事実を否応なしにダイに告げており、ダイの胸は心臓を鷲掴みにされたかのように痛んだ。

 

俺の頭をガシガシとなで回す乱暴な手、何度も俺達の危機を救ってくれた頼りになる手、俺達のために無理をしていつも傷だらけだった……優しい手。毎朝欠かさず続けていた棍の修練も、片腕では出来ない。ポップがアバン先生との繋がりを求めて、魔法技術よりも大切にしていた棍棒術なのに……。

 

まだ戦闘中だというのに、ダイの瞳には涙がにじんでいた。それは、俺のせいだ……、俺が我を忘れて飛び出さなかったらこんな事になっていないのに、と後悔にさいなまれた涙だった。

 

「分かった! じゃあ、一緒にやろう、ダイ。俺達はまだ……終わっていない!」

 

ダイはその声に涙を拭って前を向く。そうだ、これ以上ポップや皆に迷惑をかけるわけにはいかない。今度は勇者として俺が皆を救うんだ、と。

 

「バーン、俺は、……俺達は絶対に諦めないぞ!!」

 

「「「ダイ!」」」

 

ダイの魂の叫びに呼応してか、クロコダイン、ヒュンケル、マァム達がゆっくりと立ち上がる。

 

「フッフッフ。ならば行動でそれを証明してみるがいい! だが、魂などでは余は倒せぬぞ……!」

 

バーンの初手は燃え盛る火の鳥、カイザーフェニックス。ダイはそれをアバンストラッシュで迎撃する。続いてバーンが放ったのは、無数の爆裂呪文(イオラ)の嵐。竜闘気(ドラゴニックオーラ)を全開にする事でそれを防ぐダイ。

 

「――ぬうっ!」

 

バーンの放ったいくつかの爆球をダイの背後から放たれた一筋の閃光が貫き、バーンの目前で爆球の一部が誘爆を起こした。その一瞬の隙をついて、ダイがバーンに向かって駆けた。その手には既に『ダイの剣』が逆手に握られていた。

 

これに対するは、やはりカイザーフェニックスだった。大きく翼を広げながら向かってくる火の鳥にダイは足を緩める事なく加速する。衝突までのわずかな時間に、取るべき最適の戦略がダイの脳裏で描かれていた。

 

アバンストラッシュで迎撃? いや、それでは先程と同じだ。威力が相殺されてしまう。では、宙に逃れてそこから放つか? それも駄目だ、バーンは一瞬で第2波を放つ。

 

どうする……? そこまで考えた時、ダイの目前、ちょうど火の鳥との衝突予定地点の地面が泥状に変質した。

 

それを誰が行ったかは考えるまでもなかった。これによって、ダイに第3の選択肢が与えられた。

 

 

 

バーンは右手でカイザーフェニックスを放った姿勢のまま、左手を後ろに引いた。初撃のカイザーフェニックスが勇者に直撃すればその追撃を。宙に逃げたとしても、直上目がけて第2波を放てばよいと考えて。

 

結果、フェニックスは直撃しなかった。巨鳥故に小柄な勇者の動きを視界に捉えられなかったが、直撃時の衝撃が感じられない事からそれは明白だった。不意に、バーンの頭上から指す太陽の光が陰った。ニヤッと笑みを浮かべたバーンは、上空を見る事なく、咄嗟に気配だけで自身の直上に第2波のカイザーフェニックスを放つ。

 

ドオォォォォーーーン!!

 

それは確かに命中した。勝利を確信しながらバーンが空に顔を向けると、空からはなぜか細かな氷の欠片がパラパラと落ちてくるだけだった。

 

「……?」

 

一瞬、ほんの一瞬だけバーンの思考は停止した。上空の物体は勇者では無かった。あれはただの氷の塊だった。では、勇者は? 勇者は一体、どこに消えた?

 

ハッとした顔のバーンが再び地上に目を落とすのとほぼ同時に、バーンの眼前の地面の下から一筋の斬撃が飛び出した。それは、泥沼に潜った状態からダイが放った渾身のアバンストラッシュだった。

 

「――!」

 

バーンの想定していない場所への回避、バーンの視線を上空に向ける誘導、さらに想定外の場所からの意表をつく攻撃……。ダイとポップが瞬時に構築した無言の連携に、さしものバーンと言えど後れをとった。

 

――ズバァッ!

 

縦一文字にバーンに浴びせられたその斬撃は、バーンの左腕を切断する。くしくも、先ほどポップの右腕が飛んだのと同じく、バーンの左腕もまた、宙を舞っていた。

 

「「バーン様!!」」 

 

バーンの背後で戦いを見守っていたミストバーンとキルバーンの声が重なる。

 

バーンの左腕の切断部からは、魔族特有の緑色の鮮血が吹き上がっていた。そして、突如泥沼の中からダイが飛び出してきた。

 

苦悶の表情を浮かべていたバーンはとっさに右手で光魔の杖を握りしめ、その魔力が具現化した光の刃で振り下ろされたダイの剣を受け止める。

 

「よもや地中に回避していたとは……! やりおるッ……!」

 

「バーン、お前はここで!」

 

眼前でつばぜり合いをする両者だが、バーンが徐々に押し込まれ始める。それは、両手で剣を押し込むダイと、片手で杖を握るバーンの差が影響していた。

 

「……バーン様!」

 

ボタボタッと左腕の切断面から地面に落ちる緑の血に危惧を抱いたミストバーンが飛び出すが、そのミストバーンに鎧の魔剣が振り下ろされる。長い爪を束ねてそれを受け止めるミストバーンが怒りの声を上げた。

 

「ヒュンケル、貴様!」

 

「――あいつらの邪魔はさせん!」

 

鎧の魔剣とミストバーンの硬質化した爪が、火花を上げて交錯する。

 

 

「おやおや、ミストが動けないんじゃあ、仕方ない。僕がバーン様の窮地をお救い――! おぉっと!」

 

突如頭上より振り下ろされた巨大な斧による斬撃を、身をよじらせて躱すキルバーン。同時に、手に持つ大鎌を斧の表面を滑らせるようにして振るおうとするが、自身の右側面に気配を感じたキルバーンはその鎌の柄で蹴撃を受け止めた。

 

「ここより先へは行かせぬぞ、死神!!」

 

「ダイとポップの邪魔はさせないわ!」

 

クロコダインが斧を構え、マァムが油断なく腰を落とす。

 

「やれやれ、これでは救援に行きたくてもいけないね。バーン様にはご自身でどうにかしていただくしかなさそうだ。ウフフフフ……」

 

主の救援に向かえない現状を特に気に病んだ様子もないキルバーンのその所作は、ヒュンケルに抑えられて焦りを見せるミストバーンとは対照的に見えた。

 

 

 

ダイとバーンの剣戟は続く。ダイは、習得したアバン流刀殺法を駆使してバーンに斬りかかる。ダイとしては、ようやく与えたダメージをバーンに回復させられないためにも、息をつく隙も与えず攻め続けるしかなかった。

 

光魔の杖が、ダイの剣と幾度となく刃を交わす。

 

「やはり折れぬか……」

 

その事実は、バーンに自身の魔法力も少なからず消耗している事を悟らせていた。(ドラゴン)の騎士とはかくもやっかいな存在よ、と内心毒づきながらも、バーンはバランとダイの違いを冷静に分析していた。

 

そして、その違いが次の一手に現れた。

 

ダイの横薙ぎに振るった剣を受け止めるのではなく身を逸らす事で躱すバーン。同時に光魔の杖を握るバーンの右腕から一瞬の溜めもなく圧倒的な冷気が吹き出す。それは、戦場全体に広く展開が可能な氷系呪文だった。

 

身を切り裂くほどの冷気がバーンの前方に放たれ、パキパキパキと音を立てて周囲の全てが氷の世界へと変貌していく。

 

だが、それでもダイは自身の身体に纏わせた竜闘気(ドラゴニックオーラ)を最大展開しつつ、攻撃の手を緩めない。それは、今はバーンに対して攻撃の手を緩めない事が最善手とダイが判断したためだった。

 

「……ふむ。さすがは竜闘気(ドラゴニックオーラ)。攻防一体の優れた技能よ。だが、強者の(さが)よな。その優れた技能を有しているのが己だけと言う事に、そなたは気が付いていないと見える」

 

「――何をっ!」

 

バーンが手に握った光魔の杖と剣を打ち合わせながらダイが応える。その問いに応える様にバーンが、一瞬ダイの肩越しに背後に視線を投げた事に気づくダイ。

 

「――! ポップ!?」

 

その視線の先を追ったダイの目には、氷系呪文への対処のためなのだろう、ポップが張った半球状をした緑色の光幕が映っていた。しかし、ダイの見ている目の前で、その光幕はあまりの威力の氷系呪文に耐えきれないかのように、徐々に消失していった。

 

「フフフ。先ほど氷の賢者の呪文を破った余の氷系呪文……、魔界では氷の地獄(コキュートス)と呼ばれ、恐れおののかれておる。その力に(ドラゴン)の騎士は耐えられても、非力な人間は耐えられまい。防御光幕呪文(フバーハ)の効力が消えされば、ものの数秒であの男は氷の彫像と化すであろう。……助けに行かなくていいのかね、勇者よ?」

 

そのバーンの言葉が聞こえたわけでは無いだろうが、後方のポップからダイに対して白い息と共に声が飛ぶ。

 

「ダイ! 俺の事は気にするな! どのみち俺にはもうお前を援護してやれるだけの魔法力が残っていない! お前はバーンを倒す事だけを考えろ! グゥッ!」

 

光幕が完全に消失し露わになったポップの全身が見る見るうちに白く染まっていく。彼の纏っているローブの裾から魔力抵抗の証なのか魔力光が滴のように垂れているが、それでは到底バーンの氷系呪文に対応できていない事が明らかだった。

 

ダイは一瞬の逡巡も見せなかった。

 

「ポップ!」と叫ぶと同時に、ダイはポップの眼前に移動し、火炎呪文(メラ)を唱える事でポップを半ばまで包み込んだ冷気を中和しようとする。その行為によってポップの命は辛うじて現世に繋ぎとめられたが、同時にそれは彼らにとって千載一遇の好機が失われた事を意味していた。

 

「フッフッフ。ダイよ、やはりそなたはバランとは違うな。バランなら、目的を達成するためなら仲間であろうが、友であろうが全てを切り捨てただろう。その甘さ故に、お前はせっかく掴んでいた好機を逃した……」

 

ダイが見つめる前で、バーンの失われた左腕が再生される。そしてバーンは光魔の杖を手にした右腕を下段に構え、復元したばかりの左腕を頭上に掲げて仁王立ちする。

 

その異様な構えに、ダイはグッと唇を噛みしめた。それは、バーンのこの構えの危険度を彼の本能が察知したためだった。

 

「フフフ。どうした、来ないのかね? そこな賢者を始めとして、お前の仲間達は皆満身創痍の状態だろう。お前が余を倒す事が出来れば、この戦いの決着がつくのだぞ。勇者の一太刀を放ってみよ」

 

バーンは、その両腕をそれぞれ天と地に向かってゆらりと伸ばした体勢のまま、ダイをそう挑発する。

 

「くっ……。ダ、ダイ。待て、挑発に……乗るな」

 

ダイの隣で両膝を地面についたポップが、息も絶え絶えの様子でダイを見上げてそう声を投げ掛ける。

 

「ポップ……。ううん、俺、やってみるよ。今の俺にできる最大の技をあいつに……! ――雷撃呪文(ライデイン)!!」

 

ズガァァァァーーーン!!

 

右逆手に持つダイの剣に天空より雷が落ちた。更にその雷光が纏われた剣を、(ドラゴン)の紋章が浮かんだダイの拳から徐々に白い輝きが覆っていく。魔法と闘気。(ドラゴン)の騎士にしか扱う事の出来ない魔法剣が、ダイの手の中で完成していく。

 

「ライデインストラッシュか……。フッフッフ。相手にとって不足は無い。さあ、来るがいい」

 

不動の構えを崩さないバーン。ダイは傍らで膝を着いたままのポップ、そしてミストバーンとキルバーンを身体を張って抑えているクロコダイン達を視界の端で捉える。頭の中でバーンの構えに対する警鐘はずっと鳴り響いていた。だが、ダイはそれ以上にこの危機的状況を打開する事の出来るバーン打倒という一縷の望みに賭けた。

 

次の瞬間、ドンッという音と、踏み込んだ左足によって宙に舞った白亜の石床の破片だけを残して、ダイがバーンに向かって一直線に駆けた。

 

雷光を纏った白く輝く剣を逆手に握りバーンに肉薄するダイ。左腕を天に、光魔の杖を持った右腕を地に向けたままの姿勢を崩さないバーン。そして、バーンの口角が上がった。

 

ガキィィィーーーン!!

 

ダイが右手に握ったダイの剣と、バーンが右手に握った光魔の杖がぶつかり合う。勝ったのは光魔の杖だった。刀身の中ほどから切断されたダイの剣が宙をクルクルと舞う。だが、その残酷な結末を見届ける余裕はその時のダイには存在しなかった。

 

何故なら、光魔の杖によってダイの剣が切断されたのと同時に、ダイの身体は火の鳥に包まれていたためだった。その炎は、竜闘気(ドラゴニックオーラ)を突破して確実にダイの身体を蝕んでいた。ダイは気が付いただろうか。それが、バーンの左手刀によって鉄壁の防御を誇る竜闘気(ドラゴニックオーラ)が切り裂かれたためだと言う事に。

 

火の鳥の勢いに押され、炎に包まれたダイが後方に吹き飛ばされていく。もはやダイが意識を手放している事は明らかだった。

 

その様子を見て愉悦の笑みを浮かべるバーンだったが、左右の手で天と地を指す独特の構えを解いた彼は、僅かに苦笑を顔に浮かべ誰にも聞こえないほどの小声で「……ふむ。光魔の杖の力を借りたとて、やはりこの身体では三位一体とはいかぬか……。忌々しいものだな、時の流れとは……」と呟いていた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ダイが俺の目の前で大地にたたき付けられる。斬撃と業火による攻撃を同時にその身に受けた事で、ピクリとも動かない。出血が少ないのは、受けた傷を瞬時に炎が焼いたからなのだろうか。皆が協力してやっとの思いで手に入れたダイの剣は、半ばからその刀身が切断されている。

 

右手に握った光魔の杖でダイの剣を切断、同時に左手刀でダイの竜闘気(ドラゴニックオーラ)をぶち抜き、そうして出来た狭間にカイザーフェニックスをダイの身体に直撃させる。……信じられない。この3連撃を、バーンはほとんど同時に行ったんだぞ。あんなの誰が受け止められるんだよ……。

 

 

ダイ……。俺は、ドラゴンローブの耐魔性能すら追いついていけていない凄まじい冷気で身体が満足に動かず、倒れてピクリとも動かないダイに駆け寄る事すらできなかった。いや、駆け寄ったところで既に魔法力のつきた俺は何の役にも立たない。だから俺は叫んだ。

 

「マァム、来てくれ! ダイの治療を、早く!」

 

すぐにマァムが血相を変えて飛んでくる。一瞬俺の状態とダイの状態を見てどちらの治療を優先すべきか悩む素振りを見せるマァム。そんなマァムに俺は、「俺の事は良い! ダイの回復を急げっ!」と声を張り上げた。俺の傷が癒えた所で、これ以上俺が皆の役に立てる事はない。それよりダイだ。ダイが回復さえすれば、俺達にはまだ勝機が残っている……!

 

マァムは俺の言葉に一瞬躊躇したようだったが、意識の無いダイの回復を優先させるべきだと彼女も判断したのだろう。ダイの側に膝をついたマァムは、彼女が唱えられる最高位の回復呪文(ベホイミ)をダイにかける。

 

意識の無いダイの胸に置いた手から薄緑色の魔法光が発せられるが、ダイの意識が戻る兆しが見えない。

 

早く、早く……! マァムが必死でダイへ治療を施しているのは分かっているが、それでも俺は逸る気持ちを抑える事ができなかった。

 

そしてやはりバーンは、俺達のそんな行動を指をくわえて見ているつもりは無かったようだった。焦る俺達に冷や水を浴びせるかのようなヒヤリとした声が、俺達の前方から投げかけられる。

 

「ここまでだな。だが、お前達は誇っていい。余とこれ程の時間戦えた者は今までもほとんどおらぬ。誇るのだな……、あの世で……。――カラミティウォール!!!」

 

バーンが地を掃う様に放った光魔の杖の軌跡から、衝撃波のカーテンのようなものが天に向かって噴出し、それが俺達目がけて向かってきた。駄目だ、これは防げない。下から吹き上がる大瀑布のような衝撃波の壁に、俺とマァムはなすすべも無かった。

 

だが、その俺達の前に突然ヒュンケルとおっさんが駆けつける。2人は、自分の身体を盾にしてバーンの放ったカラミティウォールを防ごうとする。

 

「「うおおおおっ!!!」」

 

だが、2人のそんな必死の献身すらバーンはあざ笑う。

 

「フッ、無駄だ。一度放たれたカラミティウォールは、誰にも止められはせぬ……」

 

その嘲笑を受けても、ヒュンケルとおっさんの2人は俺達の盾となる事を諦めなかった。ヒュンケルの纏った鎧が、衝撃波に抉られて粉々に砕かれていく。鋼鉄の身体を誇るおっさんの身体から、おびただしい量の血液が血風となって空に舞い上がっていく。

 

 

「ヒュンケル、おっさん! 無茶だっ! もう、下がってくれ!」

 

「構うなッ!! 俺はお前達の盾となるためにここにいるのだ! それで死ぬなら、本望よ!!!」

 

「そうだ、ポップ!! 俺の命は一度お前に救われている! 今がその借りを返す時だ!」

 

おっさんとヒュンケルが必死で迫る衝撃波を受け止めるが、その衝撃波のベールの向こう側からバーン達の涼しげな声が届く。

 

「無駄な事を……。フッフッフ」

 

「ウフフ。バーン様の手にかかって死んでいくとは、裏切り者の軍団長に相応しい末路と言えるんじゃないかな。ゲームオーバーだよ、勇者一行(パーティー)

 

「……」

 

ゲームオーバーか……。そうかもしれない。おっさんとヒュンケルの献身があっても、バーンの放ったカラミティウォールは確実に俺達に迫ってきている。凍傷によって未だ満足に動く事の出来ない俺は、あの衝撃波に触れた瞬間粉々に砕かれてしまう事だろう。ここまでか……。俺はどこで間違ったのだろう。もう一度やり直せるとしたら、俺はどこからやり直したら良いんだ……。分からない、分からないよ、アバン先生。

 

 

「くっくくっ!! ガルーダァ!! ――来いっ!!」

 

その時、突然おっさんが空を見上げて叫んだ。すると、何処に待機していたのか、おっさんの愛鳥ガルーダが上空より猛スピードで急降下して来た。バーン達からの攻撃は飛ばなかった。ちょうどカラミティウォールで、バーン達との間に衝撃波の壁が出来ていた事が有利に働いたのだろうか。

 

バフっと翼を大きく羽ばたかせ、俺達の上空で急停止するガルーダ。そのガルーダをおっさんが肩越しに振り返り、声を張り上げた。

 

「俺の言った事を覚えているな、ガルーダ! ダイとポップ、マァムを連れて飛べッ!!!」

 

「おっさん、何を!?」

 

「そんな、クロコダイン! どうしてっ……!」

 

突然のおっさんの行動に俺達は驚き、カラミティウォールの衝撃を必死で食い止めているおっさんを、目を見開いて見つめる。そのおっさんは俺達を振り返り、血だらけの顔にニヤッと笑みを浮かべた。

 

「捲土重来を期すんだ、ポップ……!! お前達なら、お前ならきっとそれができると俺は信じている! 行けっ、ガルーダ!!」

 

「マァム! ポップとダイを頼んだぞ! 2人を絶対に死なせるな! お前達ならきっと……!!」と、ヒュンケルも首だけを後ろに巡らせて俺達にそう声を張り上げた。

 

ガルーダはバサッと翼を広げたかと思うと、その大きな1対のかぎづめに意識の無いダイとマァム、そして俺を掴んで再び上昇を始めた。

 

「待ってくれっ! おっさん、ヒュンケル! ガルーダ、戻れッ!! まだあいつらが!」

 

しかし俺の言葉をガルーダは一切聞く事無く、その身体を大魔宮(バーンパレス)から浮き上がらせる。それは、眼下の海目がけて落ちていくと表現した方がしっくり来るかのような飛翔だった。

 

だが、バーン達もそれを黙って見ていた訳では無かった。

 

大魔宮(バーンパレス)を飛び出し降下を始めていくらもしないうちに、ガルーダの身体が全身炎に包まれたのだ。

 

「「ガルーダ!」」

 

ガルーダを心配した俺とマァムの声が重なる。

 

だが、ガルーダは自身の身体が業火に包まれても俺達を離そうとせず、そのまま海面すれすれまで急降下して俺達を海に落とした。そして、ガルーダ自身は俺達を離した後、燃え盛る炎に包まれたまま自身を囮にするかのように海面すれすれをしばらく飛んだ後、最後はもんどりを打つように海面に激突し、海に沈んで行ってしまった。

 

海面に着水した俺達は、はるか上空に浮かぶ大魔宮(バーンパレス)を見上げる。まるで大きな鳥が翼を広げた、まさに凶鳥のようなその威容に戦慄する。

 

そしてその凶鳥は、ゆっくり、ゆっくりと南の空へと飛び去っていった。

 

 

 

 

 

~~~~大魔宮《バーンパレス》~~~~

 

先ほどまでの戦闘が嘘だったかのように静まった大魔宮(バーンパレス)の天魔の塔で、キルバーンがバーンに言葉を投げかけた。

 

「やれやれ、あんな手段で逃げられてしまうとは……。どう思います、バーン様。生きていると思いますか?」

 

「さて、……な。しかし、生きていようが、死んでいようがもはや構わぬ。余にとって最も脅威であったバランは死んだのだ。もはや地上に我らを止められる強者はおらぬ」

 

「……彼らはどうしますか、バーン様」

 

ミストバーンが、天魔の塔の隅で意識を失って倒れているクロコダインとヒュンケルを指差し尋ねる。

 

「フッフフ。あやつらは地上のネズミどもを呼び寄せる生贄として使えるだろう。大魔宮(バーンパレス)の航行に問題は無いか?」

 

「……ドラムーンによれば、例の攻撃によって航行速度は通常の半分ほどに落ちているとの事です」

 

「そうか。では、ゆるりと行くとしよう。なに、この光景を目にするのも後、数日の事だろう。1,000年を超える刻を待ったのだ。今更急ぐ必要は無い。フッフッフ」

 

笑みを浮かべるバーンの視線の先では、(ドラゴン)の紋章が刺繡された絨毯が炎に包まれながら空を舞っていた。火の粉を飛ばしながら風に煽られ散り散りに消え去っていくその様子は、大魔王バーンの目に(ドラゴン)の騎士の終焉と自身の勝利を約束しているかのように映っていた。

 

###########################################

 

 

『死の大地』……。その大地がかつて存在した北の海域は現在、150年前に決戦の舞台であった事が噓だったかのように、多種多様な生物が生息する穏やかな海域と化している。この海域には、近隣の町から日々多くの漁船が集っているが、同時に、魔王軍の残した遺物を求めた探索の手も幾度となくこの海域に及んでいる。

 

しかしながら、海底には『死の大地』の残骸がうずたかく積み重なっているだけであり、これまでの所価値のある何らかの遺物が発見されたとの報告は上がっていない。

 

ただ、この海域がかつて魔王軍とそれに抗う者達の死闘の舞台となった事を示す痕跡は現在でもいくつか確認する事ができる。それは、多種多様な魚の集う漁礁と化した死の大地の残骸の合間から時折発見される朽ち果てた剣や鎧なども含まれるが、最も顕著な痕跡は海底に大きく空いた直径30mにも及ぼうかという大空洞であろう。

 

この海底にぽっかりと空いた空洞については、数十年ほど前に人族と魔物が共同で探索を行い、少なくともその空洞は海底から更に100m以上続いており、それより先は確認出来なかったという調査結果が公表されている。また、その調査で判明した空洞の特徴的な断面から、それは勇者一行(パーティー)の一人であった『氷の大賢者』ポップ・マーカストンの放った極大消滅呪文(メドローア)により生じた空洞であろうと、ほぼ断定されている。

 

現在は伝承で伝え聞く事でしかその威力を類推する事が出来ない失われた呪文の一つ、極大消滅呪文(メドローア)。大魔王戦役から150年経った現在でも未だにまざまざとその痕跡をこの地に残している事が、この呪文の凄絶な威力を物語っている。

 

しかし、これほどの爪痕を大地に残すほどの威力の呪文を有していたにも関わらず、『死の大地』での一戦にて彼を含む勇者一行(パーティー)が一度は敗れた事実は、いかに大魔王バーンの力が強大であったかを示す一つの指標として知られている。

 

大魔王バーン……。いかに150年前の事とは言え、今を生きる人間でその名を聞いた事が無い者は存在しないだろう。特に長い時を生きる魔物は、その名を聞けば今でも聞きたくないものを聞いてしまったかのように耳を抑えて身震いし、中にはその場から逃げるように立ち去る者も少なくない。

 

それほどの力を有していた大魔王バーンに対して、何故アバンの使徒を始めとする地上の勇者達が勝利する事が出来たのか。それについて述べた考察は星の数ほど存在するため、ここではあえて語るまい。

 

ただ私は、とある勇者一行(パーティー)の墓前で偶然出会った一体の魔物の口にした言葉が、いつまでも心に残っている。その魔物は、ロウの実の供えられた墓を見つめながら、こう静かに述べた。

 

『僕は……、僕達はただ、彼の隣に立って、苦しい時も楽しい時も一緒に歩んで行きたくて行動を起こしたんだ。……大魔王にはいたのかな? 後ろに続く誰かはたくさんいても、隣に立って一緒に歩いてくれるような存在が。時には寄りかかる事の出来る存在が……。

彼と大魔王はよく比べられる事が多いけれど、僕はね、彼と大魔王の一番大きな違いはそこじゃないかな、と思うんだ……』

 

この魔物の発した何気ない言葉が、なぜか私の心をいつまでも捉えて離さなかった。

 

 

 




はい、これにて『8章 魔界の神』終了です。次話より、最終章という事になります。最終章をどの段階から始めるのかは少し迷いましたが、ポップ君にとってどん底からのスタートを選択しました。だって、もう下がりようがありませんから。これからはただ上がっていくだけですから! 

という事で、最終章は彼が様々な困難を克服しながら、再び上へ上へと(時折下に降りつつ……)駆け上がっていける章になれば良いなぁと思っています。

 最終章はまだ詳細を詰めきれていない部分がありますので、少々充電期間をいただこうと思っています。ここまで来たら最後まで書き切るつもりでいますが、一度投稿を始めたら最後まで休載はしたくありませんので、コンスタントに最終話まで投稿できる見込みがつきましたら、また再開させていただきます。感覚的には1か月程度の休載になる……でしょうか。お約束はできませんが、展開を忘れないうちに、あるいは、忘れられないうちに再開したいとは思っています。

それでは皆様、ここまで本作にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。おかげさまで、残りは最終章のみとなりました。投稿を再開しましたら、是非またご感想をいただけますと幸いです。

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