転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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158話 相身互身(あいみたがいみ) 支え、支えられて……

 

「ポップさん……」

 

船内の医務室のベッドに横になって未だ目を覚まさないポップを、ノヴァはベッド脇の椅子に腰掛けてじっと見つめていた。

 

ポップを見つめるノヴァの瞳には安堵と不安の色が混在していた。幼少時に北の海の潮の流れを父から教わっていた彼は、おおよその見当を付けてある特定の海域を空から捜索していた。そして、ちょうどその海域にオーザム王家の艦船として知られる『ナグルファー』が錨を降ろして停船していたのを上空から視認したノヴァがその船の甲板に降りたったのが、半日ほど前の事だった。

 

一縷の望みを託してこの船を訪れたが、ここでダイ、ポップ、マァムの3人が保護されている事を知れたのは僥倖だった。

 

マァムさんは先ほどまでこの部屋で一緒にポップさんの看護をしていたから、無事が確認出来ている。ダイ君も意識は戻らないものの脈は安定していると言う事だった。心配なのはポップさんだ、とノヴァは再び気遣わしげな視線をポップに向けた。白いシーツが身体にかけられているが、その膨らみから彼の右腕が欠損している事は直ぐに分かった。マァムさんから、大魔王との戦いの顛末は聞いた。

 

よくそんな絶望的な状況で生還できたものだと、感嘆を禁じ得ないがその代償としてはあまりに大きすぎた。ノヴァは、ポップのその失われた右腕から視線を外せなかった。

 

「う、うう……」

 

「――! ポップさん! ポップさん、僕です! 分かりますか!?」

 

その時、不意にポップが苦しげにうめき声を上げる。ノヴァは咄嗟に、身を乗り出すようにしてポップに声をかけた。その声がポップの耳に届いたのか、それからいくらもしないうちに、ゆっくりとポップの目が開く。

 

 

 

「そうか……。俺、丸2日以上も眠っていたのか。皆に心配かけたな。……マァムにも謝らなきゃな」

 

上半身をベッドの背もたれに預けて半身を起こしたポップが、ノヴァにそう言葉をかけた。

 

「マァムさん、この2日間ずっとポップさんの看護をされていたらしいですよ。今は仮眠を取りに行っていますけど、じきに戻ってくると思います」

 

ノヴァの言葉に、ポップはそっと頷きを返した。その様子を見て、ノヴァは心の底からほっとした表情でポップに語りかける。

 

「ヒュンケルさんとクロコダインさんの生死はまだ不明ですが、皆さんの無事だけでも確認出来て良かったです。これで、僕たちはもう一度魔王軍と戦える……!」

 

だが、ノヴァの言葉にポップはそっと視線を逸らすかのように顔を俯けた。

 

「ポップさん……? どうかされましたか?」

 

「ん……。いや……。ごめん、ノヴァ。……俺には……もう……皆の前に立って魔王軍と戦う資格は無いよ……」

 

ノヴァの記憶に無い程気落ちした様子で、そう言いづらそうに口を開くポップ。

 

「資格が無いって……何を言っているんですか、ポップさん!?」

 

上半身を起こしたポップの両肩に思わず手を置いてポップを揺さぶるノヴァ。そのノヴァの行動に、まだ身体に痛みが残っているのか、思わず苦悶の表情を浮かべるポップ。

 

「あっ、ご、ごめんなさい、ポップさん……。で、でも、どうしてですか、どうしてそんな事を言われるんですか。答えて下さい、ポップさん!」

 

血相を変えたノヴァの視線を受け止めかねたように、再び視線を逸らすポップ。そしてポップは、朴訥と口を開いた。

 

「……俺は……失敗した。お前を含めた世界中の勇士が、俺達を大魔王バーンの下に送り込むために力を尽くしてくれたというのに、……肝心の俺が失敗したんだ。皆の献身を無駄にしてしまった……。あの作戦で亡くなった人や負傷した人は大勢いるだろう?」

 

「……」

 

肩を落としてそうノヴァに尋ねるポップに、ノヴァは何も言葉を返せなかった。確かに、亡くなった人や負傷した人は少なからず存在する。幸い、勇者一行(パーティー)に扮した自分達に死傷者はいなかったが、あの後沖合で大型船に回収された際には、甲板上に傷つき横たわっていた戦士が大勢いたし、姿の見えない戦士も少なからずいた。それは、いかに智将と唄われるバウスンが指揮したとしても、避けようのない犠牲だった。

 

ノヴァのその表情でそれらの事情を察したのか、ポップは左拳をベッドに「ドンッ!」と叩きつけて声を荒げた。

 

「何が、大魔王と直接対峙する役割はアバンの使徒が担う、だ……!! 肝心の俺が失敗していたら世話無いじゃないか!! アバン先生なら、……アバン先生ならこんな失敗をするはずないのに、俺が至らなかったばかりに……あたら犠牲者を出して!」

 

ノヴァは、そんな風に感情を荒げるポップを見て、この人はどこまでもアバン殿の背中を追い求めているんだなと感じていた。アバン殿の背にいつまでも手を伸ばして、必死でその背を掴もうとしている、と……。

 

「失敗した俺には、もう皆の先頭に立って戦う資格が……ないんだ。皆もそれを望むはずが無い。ノヴァ、後はお前に任せるよ。お前なら、ダイ達と力を合わせてきっと……」

 

そしてノヴァは……安堵した。ポップが、決して大魔王と対峙する事を恐れてこのような発言をしているわけでは無いという事を理解したから。たとえ片腕になっていても、ポップの胸の内から再び大魔王と戦う意思は消えていない。

 

ポップはただ、その強い責任感から大魔王との決戦に敗れてしまった事を懺悔し、同時にアバン殿という手の届かない幻を生み出して自己を卑下しているだけだ。ノヴァは、……そう感じた。

 

「……ポップさん、歯を食いしばってください」

 

「……何だって?」と、虚ろな視線を向けるポップ。その左頬をノヴァは突然自身の右拳で殴りつけた。

 

「がっ!? くっ、お、お前、いきなり何を……」

 

突然殴りつけられて、目を白黒させるポップ。そんなポップに、ノヴァはニコッと笑みを浮かべて口を開いた。

 

「痛いですか……? 痛いですよね? 痛いって事は、生きているって事ですよ」

 

「……」

 

「ポップさん、以前僕にこう言いましたよね。『生きている限りやり直せる。失敗は誰だってする事だ。大事なのはその失敗から何を学ぶか』だって。あの言葉は嘘だったんですか?」

 

ポップはノヴァの言葉に、苦渋の表情を顔に浮かべる。もちろん彼は、かつてロモスでその言葉をノヴァに投げかけた事を覚えていた。ノヴァは、そんなポップを睨むように見据えて、更に言葉を続ける。

 

「あの時、僕はそのポップさんの言葉に救われたんです。アバン殿じゃない! あの時僕を救ってくれたのは、紛れもなくあなただ!!」

 

「ノヴァ……。だけど、俺は取り返しのつかない失敗を――」

 

「それは僕だって同じだ! 僕だって、僕の失敗で多くの人を死なせた! 忠誠を誓った主君も、肩を並べて戦った仲間も、守るべき民も……! だけど僕はポップさんの言葉でもう一度立ち上がろうと決心したんです! 僕とポップさんと、一体何が違うんですか!?」

 

そのノヴァの魂の叫びとも言うべき言葉は、ポップの未だ出血の続く心の傷を幾分乱暴に、しかし、確実に塞いでいったかのようだった。

 

2人の間に、長い沈黙が漂う。そんな中、目を伏せていたポップが消え入りそうな声で呟いた。

 

「……違わないな……」

 

「はい、違いません」 

 

瞬き一つしないまま、ただポップを見つめていたノヴァが、こくりと頷きながらそう返事をする。そのノヴァの言葉を聞き、視線をシーツに落としていたポップがゆっくりと顔を上げる。

 

「……皆は、もう一度俺のために力を貸してくれるかな? 俺がもう一度バーンと対峙する事に納得するかな?」

 

「当然です。ポップさんは僕達の希望なんですから。納得するも何も、引きずってでもポップさんをもう一度バーンの前に連れて行くと思います」

 

「くくっ。それは酷いな。俺に拒否権は無いのかよ?」 

 

ようやく顔に笑みを浮かべたポップが、ノヴァに苦笑いの表情を向ける。

 

「ポップさんが本当に嫌がっているのなら、無理にとは言いません。でも、ポップさんの胸にはまだ闘志が燻っていますよね?」

 

「そう……だな。燻っているどころか、今まさにもうもうと燃え盛っているよ」

 

そう言ってポップは、自身の失われた右腕を覆うローブにそっと左手を添えた。

 

「俺の相棒を奪いやがったんだ。あの性格の悪い爺に、一泡吹かせてやらないと気が済まないぜ……!」

 

「なら、僕がポップさんの右腕代わりになります。どうか僕を使ってください。次は一緒に戦いますから……!」

 

「……分かった。なら、一緒にあのすかした爺にかましてやろうぜ! 頼んだぞ、ノヴァ!」

 

「はいっ!」

 

 

ポップの伸ばした左拳とノヴァの左拳が鈍い音を発してぶつかり合う音が、狭い医務室内に響いた。

 

 

 

「しかしお前、目を覚ましたばかりの俺にいきなり殴りかかるってどうよ? 俺、お前にデコピンで済ませたよな? ちょっと差がありすぎないか?」

 

そうジト目でノヴァを見つめながら、先ほどノヴァに殴られた頬を痛そうに摩るポップ。そんなポップに恐縮した様子のノヴァがしどろもどろになりながら陳謝する。

 

「す、すいません。つい、ポップさんならこれぐらいやらないと分かってくれない気がして……」

 

「どういう意味だよ、それは。まあ、効きすぎる程効いたから今回は良いけど。それにしてもお前、ちょっと見ない間に随分と成長したな。大人びたっていうか……。――!? お前、まさか……!」

 

「まさか、何ですか?」と、キョトンとするノヴァにポップが言葉を続ける。

 

「まさかお前、ロモスで大人への階段を昇ったんじゃあ……!?」

 

「大人への階段? 何ですか、それは?」

 

「だから、ずるぼんさんに大人にしてもらったんじゃないかって言ってんだよ!」

 

そこまで言われてようやくノヴァもポップの言葉の意味を理解したらしく、途端に顔を赤らめてポップに唾を飛ばす様にして言葉を返す。

 

「な、何を言っているんですか! そんな事あるわけないでしょう!? ずるぼんさんは、ただ僕の看病をしてくれていただけです! 僕と彼女の間には、何もありませんよ!」

 

そうはっきりと断言された事で、ようやくポップも安堵の息を吐いた。

 

「そ、そうか。それなら良いんだ。お前、俺の弟分のつもりなら、兄より先に大人への階段を昇ったりするのはご法度だからな。そこは年功序列を考えて、弁えておけよ?」

 

そこで一息ついて、ふふんと、ドヤ顔を決めるポップ。

 

「まあ、俺はもう一足先にAまで済ませているけど(頬だけど……)」

 

その言葉に、そこはポップと同年代の、女性に対して興味のあるお年頃のノヴァが喰いついてくる。

 

「えっ!? だ、誰としたんですか、ポップさん! マ、マァムさんですか? メルルさんですか?」

 

「ふふふ。それはお前、当然――」

 

「何をくだらない事をくっちゃべってんのよ、あなた達はぁッ!!!」

 

ノヴァの問いかけに答えようとしたポップの言葉は、突然医務室に乱入して来たマァムの言葉で遮られた。ゼエッゼエッと荒い息を吐くマァムの後ろでは、ライオネルが腹を抱えて笑っていた。

 

そのマァムの怒髪天を衝くと言った剣幕に、思わず身を縮めるポップとノヴァ。その時、ふとノヴァが先ほどのポップが発した言葉に気付き、口を開いた。

 

「あれ、ポップさん、さっき僕の事を弟って言いました?」

 

「さあ、そんな事言ったかな? 気のせいじゃないか?」

 

「いえ、気のせいじゃないです! 確かに聞きましたよ、僕は!」

 

そんなやり取りを始めた2人を、マァムが呆れたような顔で見つめていた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

side マァム

 

ダイの身体にかけられている清潔なシーツの乱れを直した私は、ふうっと息を吐き自身に割り当てられているベッドの端に腰を下ろした。このまま横になって休みたい誘惑にかられるけれど、私はその誘惑を頭を軽く振る事で打ち払った。

 

ノヴァからは、しばらくポップの様子は自分が見ておくので仮眠を取って来て欲しいと言われて、半ば医務室から追い出される格好でダイと自分に割り当てられている部屋に戻って来ていた。

 

でも、容体の安定しているダイはともかくとして、ずっと低温症と出血過多で意識が混濁していたポップの事を考えたら、悠長に仮眠をする気がどうしても起きない。

 

やっぱりもう一度ポップの所に行こう。自分のいない間にポップに何かが起きたら、悔やんでも悔やみきれないと考えた私は、両手で自分の頬を叩き眠気を飛ばした。

 

 

 

……? 医務室に近づくと、その扉の前でライオネルさんが扉に耳を付けて中の様子を伺っている光景を目にした。

 

何をしているんだろう、とそのまま近づいていくと、私に気づいたライオネルさんが口に人差し指を当てて、来い、来いと、手招きをする。

 

この人には命を助けられた恩があるけれど、本当に王様らしくない人だわ。まるでレオナを男性にしたような竹を割った性格をしていて、船を動かしている兵士さん達からも慕われている。ポップが以前、尊敬に値する王様だとこの人の事を評していたけれど、それがよく分かる。

 

(どうしたんですか、ライオネルさん)と、ライオネルさんの隣で彼と同じように扉に耳をあてて、私は小声で問いかける。本当は、こんな盗み聞きのような真似をするのは嫌なんだけど……。

 

(まあ、聞いてみるんだな、マァム。ああ、それとポップの意識は戻ったぞ)

 

「本当ですか……!」

 

思わず、屈んでいた身体を起こしてそう叫ぶ私。でも、私の叫び声は、ちょうど扉の向こうから聞こえてきたガツンッ、という鈍い音にかき消されていた。

 

武闘家として、それが誰かが誰かを殴った打撃音だと察した私は、咄嗟に扉の取手に手をかける。でも、私がそれを引く前にライオネルさんがそっと手を重ねていた。

 

どうして、とライオネルさんを見上げると、彼は首を左右に振って、私にもう一度扉の前に座る様に指差した。

 

正直納得しがたい思いがあったけれど、その言葉に従うほどには私はライオネルさんの事を信頼していた。ポップが彼の事を信頼しているように、ライオネルさんからもポップに対する隠しきれない信頼を感じる。

 

そして私は、再び扉の向こうの会話を耳をそばだてて聞く。

 

「だけど、俺は取り返しのつかない失敗を――」

 

そのポップのか細い声を聞いた私は、彼が今何に苦しんでいるのかを理解した。おそらくポップは、皆が協力してくれたのにバーンとの戦いに敗れてしまった事を悔いているのだ。

 

だけど、それは決してポップだけの責によるものじゃないのに。むしろ、ポップはあの絶望的な状況の中で、私達のだれよりも勇猛果敢にバーンに対峙し怖気ずく私達を鼓舞していた。彼はバーンのあの圧倒的な魔力に膝を屈する事無く、たった一人で状況を打開しようと必死に戦っていた。

 

私達が非難されるならともかく、ポップが非難される点は何処にもなかった。他の誰も、たとえアバン先生が生きてらしたとしても、あの時のポップ以上の事が出来たとは思えない。

 

今すぐポップの側に駆け寄って、ポップの肩を抱いてそう言ってあげたかった。でも、私と同じようにポップの事を想っている人が、今扉の向こうにはいたようだった。

 

「それは僕だって同じだ! 僕だって、僕の失敗で多くの人を死なせた! 忠誠を誓った主君も、肩を並べて戦った仲間も、守るべき民も……! だけど僕はポップさんの言葉でもう一度立ち上がろうと決心したんです! 僕とポップさんと、一体何が違うんですか!?」

 

それは、ノヴァの決して傷の癒え切っていない心の奥底にある魂の叫びだと、私は思った。私は、ノヴァがロモスでどのような言葉をポップとの間で交わしたのか知らない。

 

でも、彼はリンガイアで魔王軍に敗れ、敵に拘束されたあげく道具のように扱われて、私達の前に現れた。ポップの話では、以前の彼は才能に恵まれ将来を嘱望されていた人物だったという話だった。普通の人間なら心が折れてしまいそうな絶望的な状態から、再び魔王軍と戦う決心をして、先日の戦いでも親衛騎団と対峙するという危険な役回りを、自ら望んで引き受けてくれた。

 

とても強い人間だと私は思ったけれど、それはおそらくロモスでポップの投げかけた言葉のおかげもあったのだろう。ポップの言葉には、本人の自覚がとても薄いけれど、ときに人を奮い立たせたり、ときに人を優しく包み込む力がある。それは私達パーティーの誰もが気づいている事だったし、おそらくバランもそれに気が付いていた。だから彼はサババで過ごしたあの夜、感謝の言葉をポップに対して投げかけたのだ。

 

ノヴァは恐らく、そんなポップが自分の発した言葉を否定するような態度を取った事がどうしても許せなかったのだろう。彼の怒り、ううん、悲しみが痛い程伝わってくる、そんな叫びだった。

 

 

 

「ポップさんが本当に嫌がっているのなら、無理にとは言いません。でも、ポップさんの胸にはまだ闘志が燻っていますよね?」

 

「そう……だな。燻っているどころか、今まさにもうもうと燃え盛っているよ」

 

そのポップの答えを聞いた私は、ポップが完全に立ち直った事を悟った。良かった……と、胸をなでおろす一方、どこかでポップの心に再び火を灯す役割は私がしたかったな、とほんの少しノヴァに嫉妬したのは内緒だ。こんな時、男はずるいと思う。女が少しずつ詰めた距離を、そんな距離など最初から無かったかのように、一足飛びに越えていくから……。

 

だけど、私には1つの懸念が残っていた。「皆は、もう一度俺のために力を貸してくれるかな」と、先ほどポップが口にした言葉。これは以前レオナが言っていたように何故か自己評価の低いポップだからこそ発せられた言葉だけど、その自己評価が低い原因がアバン先生にある事を私は気づいていた。

 

ポップの自身への評価の基準は、常にアバン先生なのだ。でも、ポップはアバン先生では無いのだから、アバン先生と同じ事が出来なくて当然だ。逆に、アバン先生にも出来ない事がポップにはできる。それで良いはずなのに、何故かポップはアバン先生と同じ事が出来ない自分を必要以上に卑下する。ううん、恐れている? いずれにしても、それが彼の自身への自己評価の低さに繋がっている。

 

それが間違っている事を指摘してあげられるのは、誰だろうか。それはもしかすると、アバン先生の事を一番よく理解している人が適任かもしれない。そんな人、どこにいるだろう、と私が考えていた時、ろくな事を考えていない時特有のポップの浮ついた声が聞こえてきた。

 

「まあ、俺はもう一足先にAまで済ませているけど……?」

 

「えっ!? だ、誰としたんですか、ポップさん! マ、マァムさんですか? メルルさんですか?」

 

ブフッと、隣で耳をそばだてていたライオネルさんが口を抑えて吹き出した。瞬時に自身の顏が紅潮した事を自覚しながら、私は扉を大きく開いて中に飛び込んだ。

 

「何をくだらない事をくっちゃべってんのよ、あなた達はぁッ!!!」

 

 

身体だけは大きな2人の子供が、まるで親に悪戯が見つかった時の様な青い顔をして、右往左往していた。ほんっとに男達って、集まるとろくな事を考えないんだから! 肩を落としてしゅんとなった2人を、私は呆れた目で見つめていた。

 

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