転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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163話 5人目のアバンの使徒

「……みんな、大魔王バーンは強い。そんな奴を相手に戦って必ず勝てるなんて俺は言えない。いや、やられてしまう可能性の方が強いと思う……」

 

フローラ様に促されて皆の前に立ったダイが、集まった多くの戦士の前で正直な気持ちを語っている。その様子を、俺はダイの後ろで静かに聞いていた

 

「……。でもこのまま力任せに世界を踏みにじろうとするあいつを放っておくことはできないっ……!」

 

この部屋に集まっている戦士達は、ダイの言葉に素直に耳を傾けている。彼らの表情を見て俺は安堵した。

 

ほら、ダイ。皆分かっているんだよ。……いや、分かったんだよ。勇者が自分達と同じようにときに壁にぶち当たり、ときに涙する弱い人間だと言う事に。お前はそれで良いんだ。傷跡を隠したらいけない。

 

だって、その傷跡がお前をお前らしくしているんだから。それが結果的に、バランとソアラさんの身に降りかかった悲劇の再来を防いでくれるはずだ。

 

そんな風にダイの言葉を聞いている俺の隣で、姫さんが俺にだけ聞こえるように不満げに零した。

 

(あーあ。結局ダイ君を立ち直らせたのは、またポップ君か……。悔しいな……)

 

(くすくすくす。当分は、ダイの一番を譲るつもりはないかな。姫さんもまだまだ修行が、いや、色気が足りない事で――!? 痛っ!)

 

突然俺の足の甲に激痛が走る。姫さんの左足かかとが俺の右足の甲にめり込んでいる。

 

(今に見てなさい、ポップ君。絶対に、君からダイ君を奪って見せるんだから……)

 

その姫さんの剣幕に、側にいたマァムとメルルがクスクスと笑っていた。

 

 

 

その後、フローラ様がテランのフォルケン王からもたらされた大破邪呪文(ミナカトール)の事を皆に説明する。なんとその呪文は、アバン先生の得意とした破邪呪文(マホカトール)すらはるかに超える威力の呪文らしい。それさえ唱えることが出来れば、大魔宮(バーンパレス)の動きを止め、直接中に乗り込む事が可能になるようだ。

 

ただし、その呪文を唱えるには条件があり、一つはこの砦のすぐ側にあるという破邪の洞窟でそれを習得してこないといけない事。そしてもう一つは、『アバンのしるし』を5つそろえる必要があるという事だった。

 

『アバンのしるし』に聖なる力を高め、邪をはじく能力が秘められているという事も初めて聞く話だったが、それ以上にフローラ様の話には問題があった。それは、『アバンのしるし』は、俺、ダイ、マァム、ヒュンケルが持つ4つしかないため、残る一つをどうするのかという問題だった。

 

だが、それについてもフローラ様には既に考えがあったようで、フローラ様はおもむろに姫さんに目をとめ、彼女に5つ目の『アバンのしるし』を手渡した。

 

なんと、フローラ様はかつてアバン先生に『カールのまもり』を渡した時に、『アバンのしるし』を交換に受け取っていたらしい。

 

フローラ様は姫さんに『アバンのしるし』を渡して、明日の陽が沈むまでに破邪の洞窟で大破邪呪文(ミナカトール)を身に付けてほしいと頼む。

 

姫さんは、フローラ様から手渡された『アバンのしるし』をじっと見つめている。

 

ダイが、「そんな無茶なっ……!」と声を荒げるが、フローラ様は静かに姫さんの答えを待っている。

 

大破邪呪文(ミナカトール)……か。破邪呪文(マホカトール)ですら輝聖石の力を借りてようやく発動させられる程度の俺では、恐らく大破邪呪文(ミナカトール)は習得できないだろう。ここでフローラ様が俺では無く、姫さんにそれを求めると言う事は、俺より姫さんの方が破邪呪文に関しては素質があると判断している事を意味する。

 

正直、代われるものなら代わってあげたいが、出来ないものは出来ない。俺もダイもマァムも、姫さんの答えを待っていた。

 

そして、それほどの時間をかけずに、姫さんは俯いていた顔を上げて、ニコッと微笑んだ。

 

その固い意志を瞳に宿した表情は、答えをその口から聞く必要すらないほど明らかだった。ダイもそれを察知したのか、彼女が口を開く前から彼女を留めようとする言葉を吐いた。

 

「だ、駄目だよレオナ! 無茶だよ!」

 

しかし、ダイの制止の言葉で、自分の意見を翻す姫さんでは当然なかった。姫さんはダイの目をはたと見つめてはっきりと思いを口にした。

 

「ダイ君、あたし絶対にやるわ……! 本当はね、今までもずっと思っていたのよ。あなた達アバンの使徒と痛みを分かちあえない自分がもどかしいって……!」

 

姫さん……、そんな風に思っていたのか。

 

「これじゃ言いたい事も言えないじゃない……! ……あたし、受ける! どんなに厳しい試練でも!! そうしてはじめて私、皆の本当の仲間になれる……。そんな気がするの!!」

 

くすっ。これで姫さんが俺達のパーティーに加わる事が決まったな。ダイには悪いが、正直に言うと、俺はこれには賛成だ。大破邪呪文(ミナカトール)回復系呪文(ベホマ)の使い手が加わると言うだけの話じゃない。彼女はきちんと現実を直視できる人間だ。為政者らしく大局的な判断もできる。俺に何かあったり、視野狭窄に陥った時に、彼女なら俺に代わって的確な判断を下せるはずだ。

 

だからダイの、「ポップからも何とか言ってよ!」という俺からの制止を期待する問いかけに、俺は迎合できなかった。

 

「そうは言っても、俺じゃあ血筋がものを言う大破邪呪文(ミナカトール)は習得できないし、片腕になった俺としちゃあ、回復系呪文(ベホマ)が使えるレベルの賢者の加入は正直助かるぜ?」

 

俺の言葉に、ダイはハッとした表情を浮かべて押し黙った。そんなダイを放っておいて、俺は姫さんに正対する。

 

「ふふふ。ポップ君の片腕の代わりを求められると困るけど、司令塔のあなたが賛同してくれて嬉しいわ。他に何か言いたい事はあるかしら?」

 

「……うーん、じゃあ、一つだけ。さっき姫さん、『言いたいことも、言えない』って言ってたけど、どの口が言ってるのかな? いい加減、姫さんとの付き合いも長いけど、姫さんが俺達に遠慮した事なんて、記憶にないんだけど……」

 

「なっ!?」

 

愕然とする姫さんの表情がおかしかったのか、マァムとダイが「確かに……!」と声を合わせて大笑いする。そしてその笑いに釣られるように、部屋に集まった戦士達からも爆笑の声が上がった。フローラ様まで口に手を当てて、おかしそうに笑っていた。

 

「ポップ君、あなたねー……!」

 

皆から物笑いの種にされた姫さんが、こめかみに青筋を浮かべながらギリギリと俺の首を締め上げる。

 

「あ、あはは。ごめん、ごめん」と謝りながら、不意に俺の脳裏にパプニカで留守番をしているテムジンの顔が浮かんだ。竜騎将だったバランとの決戦にレオナ姫を同行させただけであれほどの剣幕で俺を叱ったと言うのに、今度は大魔王との決戦に同行させるわけだろう。いったいどれほどの怒りを見せるだろうか……。

 

俺はテムジンの反応を想像し、ぶるっと身震いした。駄目だ、駄目だ。俺はこの件にはノータッチだからな。視界の端にエイミさんの姿を見つけた俺は、全ての責任を彼女に押し付ける事を決めた。

 

 

 

 

 

「でも、どうして大破邪呪文(ミナカトール)は私達5人でなくちゃ駄目なんですか? 私なんか回復魔法くらいしか使えないのに……」

 

マァムは、邪気をはらう効力のあるカールの法衣に袖を通しながら、そうフローラに尋ねた。今、マァムがいる部屋には、フローラとレオナ、それにマァムとメルルがいるだけだった。彼女達はその部屋で、破邪の洞窟に挑戦する者の正装とも言える衣服に着替えていた。

 

フローラの答えは、大破邪呪文(ミナカトール)には、魔法力だけではなく、邪悪に打ち勝たんとする人間の心の力が必要と言うものだった。そしてアバンは、力や技の優劣より世界を救うにふさわしい魂の持ち主に『アバンのしるし』を与えてきた。だから、ダイにも、ポップにも、ヒュンケルにも、そしてレオナにも皆それぞれにしかない力があると、マァムに説明した。

 

「魂の力……。それじゃあ、私にも……?」

 

「もちろんよ、マァム。『アバンのしるし』を持って、あなたが今一番心配している人の身を思い浮かべてごらんなさい」

 

そのフローラの言葉に従い、マァムは自身の『アバンのしるし』を手に取って、今囚われの身となっているヒュンケルとクロコダインの姿を思い浮かべた。

 

すると、確かにマァムの手の中の『アバンのしるし』が赤く輝いた。

 

「これが、私の魂の力……」

 

「そうよ。マァム、あなたの力は『慈愛の心』。人を慈しみ、いたわりぬく気持ち。それがあなたの力の根源なのよ……」

 

「慈愛の心……。そうか、そうだったんですね。だから、ポップの『アバンのしるし』も光っていたんですね」

 

マァムは、これまでに何度か目にしたポップの胸の『アバンのしるし』が光るさまを思い出し、ようやくその訳を知った。

 

「そう言えば、マァムさんが以前言っていましたね。ポップさんのしるしが緑色に光る所を、何度か見た事があるって」

 

メルルの言葉に、マァムが頷きを返した。そして少し悩んだ後、マァムは控えめに自身の考えを述べた。

 

「ええ、そうよ。私、ポップの魂の力は……『勇気』だと思うんだけど……」

 

「え、でも、それだとおかしくないかしら? 5色の光は、それぞれが『勇気』、『慈愛』、『闘志』、『正義』とまだ判明していない何かを示すのでしょう? 勇者であるダイ君は当然『勇気』でしょう? だったら、ポップ君はそれ以外の何か、って事にならないかしら?」

 

「そう、……よね。でも、……」

 

マァムもレオナの言いたい事は分かる。光の色が重複しない事を考えると、勇者であるダイが『勇気』ならポップはそれ以外という事になる。『慈愛』が私、おそらく『闘志』はヒュンケル。そして、マァムの想像では『正義』はレオナ。つまり、ポップの放つ緑色の光は、古文書から読み取れなかった未だ不明の力という事になる。

 

しかしマァムは思う。これまでポップの持つ『アバンのしるし』が輝いて来た時は、いつも彼の勇気が強く発露していた瞬間だったと。決して人より強い心を持つわけでは無いポップが、誰よりも強く強靭な精神力を発揮していた時は、いつも勇気を必要とする場面だった。なにより、これまでマァム自身がそのポップの胸元に光る緑色の光跡を見て勇気を奮い立たせてこれた、という自覚があった。

 

「気になるわね……。マァムが見ているんだから、ポップ君のしるしが光るのは間違いないでしょうけれど、彼の魂の力がなんなのか、興味があるわ」

 

そんなレオナの言葉に、薄い衣服に袖を通していたフローラがふっと笑みを浮かべた。

 

「だったら、直接ポップに聞いてみたらどう? 今までの戦いで、何を強く心に思い浮かべていたかって。今、レオンが破邪の洞窟を進むための準備をしてくれているけれど、まだ少し時間がかかりそうだし、その間にポップの元に挨拶をかねて顔を出してきたらどうかしら?」

 

そのフローラの提案に、メルルが喜色で頷いた。

 

「あっ、そうさせていただけると私も助かります。洞窟に入る前に、ポップさんに伝えたい事が出来たので」

 

「そう言えば、メルル、さっきまで占いをしていたわね。あれって、ポップに関係する事を占っていたの?」

 

「ええ。お役にたてるかどうか分かりませんが、何かのヒントになりそうな結果が出たので、ポップさんに早くお伝えしたくて」

 

メルルは占いに使った道具を片付けながら、マァムに返事を返した。

 

「なら、ちょうど良いわね。私もポップ君の魂の力には興味があるし、ちょっと彼の所に行ってみましょうよ。今、彼はどこにいるんだっけ?」

 

 

そしてレオナ、マァム、メルルの3人は、途中で出くわしたチウにポップの居場所を尋ね、その場所に向かった。

 

 

 

~~~~最後の砦 屋上~~~~

 

 

砦の屋上を吹く風が、瞑想するために座り込んだ俺の右袖をバタバタとなびかせる。いつもは、丹田の前で両手の指を組み合わせるのだが、いかんせん今の俺は隻腕だ。左手だけを丹田の前に置き、そっと目を閉じていた。

 

日はとっくに落ちていて、昨夜と同様にときおり涼しい風が身体を凪ぐのが心地よかった。

ヒュンケル達を助けに行くためにこの砦を離れるまで、もう30時間を切った。マァムとメルルは、姫さんの大破邪呪文(ミナカトール)習得の手伝いのため、今頃は破邪の洞窟に向かった頃だろうか。

 

ダイは今頃、ノヴァと『ダイの剣』が無い状態で放てる新しい技の修業をしている頃だろう。

 

皆が自分にできる事をやろうとしている。俺も立ち止まっている訳にはいかない。

 

片腕では、極大消滅呪文(メドローア)はおろか、その他の極大呪文や合成呪文すら放つ事が出来ない。当然、師匠に手伝ってもらった改良版の極大消滅呪文(メドローア)も放てない。

 

では、どうする……? 片腕でもそこらの魔物には遅れは取らないだろうが、これからの相手はそこらの魔物のレベルで語れない奴らばかりだ。

 

……片腕でもバーンに脅威と認識させられる唯一の手段。……やはり、あれしかないだろう。しかしどうにかあれを習得できたとしても、それを生かすには百に一つどころじゃない、千に一つ、いや、万に一つの勝ち筋にたどり着かないといけない。

 

……出来るだろうか、俺に。『氷の賢者』などと呼ばれてもてはやされていても、俺の実態はただの平凡な元医大生だ。魔界の神とまで呼ばれるあの男とは比べるべくもない。

 

いや、出来るとか出来ないとかの問題じゃないんだ。やるんだ。挑戦しないと、その万に一つの勝ち筋すらなくなるんだ。やろう……! 最後の最後まで、俺はあがくと決めたんだから。

 

覚悟を決めた俺は目を開け立ち上がろうとして、側に置かれた紙片に気が付いた。その紙片の上には、風に飛ばされないようにするためなのか、重し代わりに小石が置かれていた。

 

「何だろう……?」と一人呟きながら、その紙片に目を落とす。その紙片には、見慣れた綺麗な字でこう書かれていた。

 

『“師を求めよ”……そんな星読みを頂きました。何かの力になったら幸いです。メルル』

 

俺は紙片から目を離して、階下に繋がる階段に目をやった。そこにはもう誰もいなかった。

 

俺は誰もいない階段を見つめながら、ふっとほくそ笑んだ。

 

 

師……か。そうだな、俺には頼りになる師匠がいるんだ。自分一人で悩むより、師匠に相談してみよう。……ありがとう、メルル。助言に従って、行ってみる事にするよ。メルルも、破邪の洞窟の踏破、気を付けて。

 

そして俺は空を見上げて、瞬間移動呪文(ルーラ)を捉えた。

 

 

 

 

 

「ねえ、メルル。ポップ君と直接話をしなくて良かったの?」

 

フローラとの合流地点に向かうため砦の中を歩いていたレオナは、同じく隣を歩くメルルに問いかけた。メルルは、レオナにニコッと笑みを返した。

 

「はい、必要な事は紙に書き付けておきましたから、大丈夫です」

 

その言葉にレオナはふーん、と返しながら今度はマァムに顔を向けた。

 

「ねえ、マァム。マァムが言っていたポップ君の魂の力の事だけど、もしかすると彼のは本当に『勇気の力』なのかもしれないわね」

 

「あっ、私もそう思いました。だって、先ほど瞑想をされていたポップさんの胸元で緑色に輝く光を見ていたら、何だか私まで勇気を貰えた気がしましたから……!」

 

マァムは、初めてポップの『アバンのしるし』が光る様子を見て興奮しているメルルに、「そうでしょう? だから私、ポップの魂の力は『勇気』だと思ったのよ」と、返事をする。

 

「でも、そうなると分からないのはダイ君ね。勇者だからダイ君の魂の力は『勇気』だって考えていたけど、違うのかしら?」

 

歩きながらそう首を傾げるレオナに、マァムは笑顔を浮かべ諭す様に返事を返した。

 

「ふふふ。レオナ、今はまず大破邪呪文(ミナカトール)の習得に集中しましょう。ダイの魂の力が何かを考えるのは、それからでも良いはずよ」

 

「……それもそうね。皆、悪いけどよろしくね!」

 

「ええ、任せて、レオナ」

 

「精一杯お手伝いします、レオナ姫」

 

 

そして3人は、気持ちを新たにフローラの元へ駆けて行った。

 




本日は用意が出来たので2話投稿予定。次話は、『エウレカ』です。
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