転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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164話 エウレカ

軟着陸の態勢に入っていた瞬間移動呪文(ルーラ)をゆっくりと解除すると、ザクッと足が深みにはまり、それがここが砂浜である事を俺に悟らせた。同時に、ギルドメイン大陸とは明らかに異なるホルキア大陸特有のムワッとした湿気を含んだ空気が、俺の肌を包み込む。

 

そっと俺が目を開けると、目の前にはマトリフ師匠の住居である良く見知った洞窟が、薄闇の中微かに見えた。

 

時間が無い。俺は「マトリフ師匠! いらっしゃいますかー?」と声を掛けながら、その洞窟の中に一歩足を踏み出した。

 

 

 

「……たく、これから寝ようって時に叩き起こしやがって。年寄りの夜は早いんだぞ。分かってんのかよ。……照明呪文(レミーラ)。――! お前、その腕……」

 

寝入り端を起こされてブツブツと文句を言っていたマトリフ師匠だったが、照明呪文(レミーラ)によって部屋が明るくなり俺の様子が分かると、大きくその目を見開いた。その視線が、俺の失われた右腕に向かっている事は明らかだった。

 

「すみません、師匠。……しくじっちゃいました」

 

頭を残された左手でポリポリとかきながら、事もなげに厚みの無いローブの右袖をひらひらと振ってみせる。そうしながら俺は、茫然としている師匠のベッドに近づき、傍に腰を下ろした。

 

ベッドに上半身を起こした師匠は、俺の失われた右腕をまじまじと見つめた後、ぐっと俺の身体を掻き抱くようにして、胸に抱きしめてくれた。

 

「……よく、……よく戻って来たな」

 

「師匠……」

 

その短いが万感の思いのこもった師匠の言葉に、俺は思わず目に涙をにじませていた。

 

 

 

「なるほど……な。大魔王と言うのは、それほどの奴だったか。……しかし、その状況から良く生きて戻ってこれたな、お前達」

 

「まあ、それは色々ありまして、どうにかこうにか。でも、直ぐにまた大魔宮(バーンパレス)に乗り込む予定なんです」

 

俺の言葉に、師匠は目を剥いた。

 

「その身体でか……?」

 

「……ええ、この身体でです」

 

俺の言葉に絶句していた師匠だが、直ぐに「へっ……」と笑みを顔に浮かべた。

 

「ったく、相変わらず馬鹿だなー、お前は。それで……? その身体でもう一度大魔王に挑むって言うんだ。何らかの勝算があって、俺の所に来たんだろう? 言ってみな。出来の悪い弟子でも、弟子には違いねえんだ。師匠の俺が一肌脱いでやるよ」

 

くっくっく。さすがマトリフ師匠。話が早い。

 

「ありがとうございます。実は、バーンとの戦いで一つ気づいた事があるんですよ。それを上手く使う事で、バーンを出し抜けないかなって思ってまして」

 

そう言って、俺は片腕でも実現可能な戦略について師匠に相談した。師匠は俺の言葉に口を挟む事なく、静かに聞いていた。

 

 

 

「……お前の話は分かった。確かにそれを完成させるのは、知識もそうだが、時間を考慮すると今のお前には無理だろう。俺でも、はたしてどうかと言うレベルだ。少なくとも、ヒュンケル達の処刑時間までには、到底間に合わねえぞ」

 

「それは覚悟の上です。最悪、もう一度バーンと対峙する時までに習得できれば、と思うのですが、師匠でも不可能でしょうか?」

 

「不可能だと……? 誰に物を言っているんだよ、ポップ。俺は地上界最強の大魔道士マトリフ様だぜ? 俺の辞書に不可能だなんて言葉はねえんだよ……!」

 

そう口にして、師匠は不敵な笑みを浮かべた。

 

「……そ、それじゃあ、間に合うのですか?」

 

「普通にやってたら、間に合わねえよ。いくら俺でもな。だがな、お前の考えでは、その呪文を使いたいのはあれだけなんだろう? それだけの限定的な呪文で良いのなら、間に合うかもしれねえ。まあ、やってみねえと分からねえがな。なんせ、取っ掛かりがお前の持ってきた術式の一小節だけなんだから。期待しねえで待ってな」

 

その師匠の物言いに、えも言われぬ頼もしさを感じた俺は、「――ありがとうございます! 期待して待ってます!」と言葉を返した。

 

そして俺は、ゆっくりと師匠の部屋を見渡した後、立ち上がった。

 

「……すいません師匠、ほっとしたら喉が渇いちゃいました。あっちでお茶を入れてきて良いでしょうか。あ、自分でやりますので、お構いなく」

 

もう勝手知ったるというやつになっている師匠の住居だ。厨房は、このベッドのある住居区画に隣接した場所にある。俺がそちらに向かって足を一歩踏み出すと、いつの間にやら師匠がベッドから起き上がっていた。

 

「おい、よせ。片腕でやられて、皿を割られちゃ困るんだよ。俺がやってやるから、お前は座ってろ」

 

言葉とは裏腹の俺を労わるその物言いに、俺は黙って頭を深く下げた。頭を下げた俺の視界の端には、雑多に物を詰め込んだ宝箱が映っていた。

 

 

 

「それじゃあ、師匠、行ってきます。こんな頼みごとをしておいてなんですが、どうかお身体を労わってくださいね」

 

「けっ、本当だぜ。これで俺はしばらく徹夜作業だ。だが、おもしれえ。これは、俺の90年余に及ぶ魔法技術の集大成になるぜ。こっちの事は気にするな。それより、お前はこいつの使い道を良く考えておけ。また失敗しやがったら許さねえからな……!」

 

「はい、今度こそ、必ず……! 師匠、事が終わったら一緒にパプニカの町で飲み明かしましょうね。約束ですよ!」

 

おう、と良い笑顔で頷く師匠の顔を見つめながら、俺は再び瞬間移動呪文(ルーラ)を唱えた。

 

 

 

足が固い地面を踏んだ瞬間、俺が感じたのは「――寒っ!」という感覚だった。いや、ちょっと待ってくれ。さっきまでいた南国の海辺との落差が激しすぎるんだが。瞬間移動呪文(ルーラ)で一瞬にして長距離を移動するのも考え物だな。移動前後の気温差が激しすぎて、風邪を引きそうだ。

 

そう、俺はギルドメイン大陸の最後の砦に戻ったわけではなかった。吹きすさぶ、冷たく強い風が俺の身体を打ち付け、思わず俺は両足に力を入れる。

 

俺が今いる場所は、幼少期に何度も修行のために往復したギルドメイン山脈の中腹、旅の扉の祠から出たあの見晴らしのいい高台だった。

 

あいにく日はとっぷりとくれているため、あの濃緑色のギルドメイン大森林という絶景を見る事は叶わなかったが、空を見上げると天上にある無数の星々が平地で見る以上に、煌々と瞬いていた。

 

しばし空を見上げていたら、いつの間にか寒さを感じなくなっていた。ローブの裾から滴のように零れる魔力光がいつもより多い所を見ると、おそらくドラゴンローブが仕事をしてくれたのだろう。バーンとの戦いではこのローブにも随分と世話になった。オリハルコン製の武器にも匹敵する鋭いバーンの手刀による一撃は防げなかったが、奴の氷結魔法で即死しなかった事や、その後の北の海での漂流で俺の命がギリギリの所で繋がったのは、間違いなくこのローブのおかげもあった事だろう。

 

さて、と……。ここに来た目的を果たすため、俺は視線を山脈の中ほどに移した。少人数ほどしか同時に通れないほどの広さの獣道が、ここから緩やかに山肌に沿って続いている。その先には、山脈にぽっかりと穴が空いているように見える洞穴が存在していた。

 

ああ、戻って来たな、という感慨に俺は浸った。あそこは、6歳の頃からほとんど毎日のように通った場所だ。ある意味でそこは、俺にとって実家の次に馴染みのある場所だった。

 

メルルが与えてくれた『師を求めよ』という星読み。俺はそれを正しく受け取ったつもりだった。だって……、俺にとっての師は、アバン先生とマトリフ師匠だけじゃない。この地に住まう皆が俺の師だった。

 

エウレカの里……。久しぶりに目にする光景は、俺の記憶と全く変わっていないように見えた。

 

 

 

「ポップー、お帰りー! 元気だった!?」

 

俺が洞穴に足を踏み入れた途端、俺の顔目がけて1体のスライムが飛びついて来た。そのスライムは、とっさに顔をかばった俺の左腕の上にポヨンと乗っかって、その青い水滴型の身体をプルプルと震わせた。

 

「あはは。久しぶりだなー、スラリン! スラリンこそ、元気だったか? 皆はどう? 変わりないか?」

 

「あったりまえだよ! ホイミン、ルール―、コドラン、皆―、ポップが帰って来たぞー!」

 

そのスラリンの声で、ホイミンを始めとする皆が続々と集まって来た。ホイミスライムのホイミンはふわふわと宙に浮きながら俺に近づき、「おかえり、ポップ」と声をかけた後、その触手を伸ばして俺の身体に異常がないか確認するように優しく触れてきた。

 

だから俺の身体の欠損にいち早く気がついたのは、そのホイミンだった。

 

「ポップ、腕が……!?」と、何も反応を示さない俺の右袖に触手を当てながら、驚きの声を上げるホイミン。

 

「うん、ちょっとしくじっちゃってね。でも、もう痛みは無いから大丈夫だよ」と言葉を返すが、優しいホイミンはその触手を俺の右肩に置いたまま、今にも泣き出しそうな顔をしている。

 

「本当だ、ポップの右腕がなくなってる……。でも大丈夫だよ、ポップ! 俺なんて手も足もないけど、どうにかなっているから……! ほら、こんな風にピョンピョン跳んだら良いんだよ」

 

そう言って、水滴型の身体を器用に上下に動かしながら俺を励ますスラリン。

 

「ぷっ、本当だ。じゃあ、スラリン。今度足まで無くしたら、移動の仕方を教えてよ」

 

「オッケー、任せてよ!」

 

「スラリン、そんな問題じゃないよ! ポップもそんな簡単に言わないの!」と目をつり上げて憤る常識人のホイミンに、俺とスラリンは肩をすくめるようにして笑いあった。

 

そうしてひとしきり笑った後、スラリンは「あれ……?」と、人間で言う所の首を傾げるような動作をした。

 

「それで結局ポップは何しに戻って来たの? セリーヌとパンならランカークス村に行っていて、今はいないよ?」

 

「ん? ……はて、何しに来たんだろうね? 俺もよく分からないよ。スラリン、教えて?」

 

俺の言葉に、集まっていた皆が「何だよ、それ?」と大笑いする。いや、だって、首を傾げるしかないじゃないか。俺は『師を求めよ』という星読みに従ってここに来ただけだし、ここからどうすれば良いかは、全く考えていなかった。

 

「相変わらず、ぬけてるなあ、ポップは。それじゃあ、とりあえず里長に会ってみたら? サーラもポップの事を心配していたし」

 

ああ、そうだな。ここまで来た以上、サーラさんには会わないとな。まあ、ダイの剣の捜索の過程でランカークス村で会ったけど、あれはあれ、これはこれという奴だ。

 

「そうだね。皆、案内してくれるかい? あっ、ルーサ、元気だった? ルーサに教えてもらった泥沼呪文(ドロヌーバ)の魔法、もう大活躍だったよ」

 

俺の言葉にドロヌーバ族のルーサはゴボゴボと泥を吐きながら喜んでくれた。皆に囲まれて歩く間、俺はそうやって皆に旅の間の出来事を話していく。良かった、1年以上ここに来ていなかったけど、皆変わりないようだ。

 

 

 

皆に囲まれて洞穴の通路を歩いていると、すぐに体育館ほどの広さの大空洞にたどり着いた。天井には、いつも誰かの唱えた照明呪文(レミーラ)の光球がふよふよと浮かんでいて、昼夜を問わずここは太陽が降り注いでいるかのように明々としている。

 

ああ、ここも懐かしいな。初めてこの大空洞にたどり着いた時の事を思いだす。あの時は、この空洞の中ほどにメッサーラ族のサーラさんが杖を突いて立っていて、俺を迎えてくれた。

 

そして、今日もあの日を再現しているかのように、右手に杖をついたサーラさんが俺を出迎えてくれた。

 

「よく戻って来たのう、ポップ」

 

「ただいま、戻りました。ふふふ。サーラさん、今はランカークス村の村長をしていなくて良いんですか?」

 

「ほっほっほ。あっちは定時退庁したゆえ、今はオフタイムというやつよ。しかし、里長と村長の兼任はなかなかに重労働じゃぞ、ポップ」

 

俺の肩に乗っていたスラリンが、そのサーラの言葉を揶揄する。

 

「そんなの、サーラが好きでやっている事じゃないか。ポップ、気にしなくていいぞ」

 

「あははは。やっぱりスラリンも、サーラさんがランカークス村で村長をしている事を知っていたのか。俺だけ知らなかったなんて、ずるいな」

 

「それはポップが鈍すぎるのがいけないんだよ! それよりサーラ、ポップの右腕を見てよ!」

 

スラリンの言葉に、眉間に皺を寄せたサーラが俺の傍にゆっくりとやってくる。そして無言のまま俺の右袖をめくり、じっくりと上腕部の切断面を検分した後、口を開いた。

 

「ポップ、これは大魔王に……?」

 

「ええ、何をされたか分からないほど、一瞬で斬り飛ばされました」

 

「ポップ、痛そう……」と、また泣きそうな顔を向けるホイミン。

 

そんなホイミンに、大丈夫、大丈夫と笑いかけていると、サーラさんがめくっていた俺の右袖を戻し、口を開いた。

 

「ふむ……。ポップ、ついてきなさい。ホイミンも」

 

重苦しいその言葉に、俺は思わずホイミンと顔を見合わせた。

 

 

 

「この部屋には、初めて入りました……」

 

「そう? 僕は何度かあるよ」

 

その部屋は、洞穴に隣接したこじんまりとした小さな洞窟だった。広さは10畳ほどだろうか。むき出しの岩が周囲を覆っていて、天井はドーム状にくり抜かれている。その穴の一辺の壁には、本棚が設置されていて、中にはぎっしりと本が詰まっていた。

そして部屋の中央には、大の大人が横になれるほどの大きな作業テーブルがどーんと鎮座していて、その上には作りかけのように見える魔道具や紙片が散乱していた。

 

「ふっふっふ。ここは儂の里長としての執務室のようなものよ。と言っても、里長としての仕事などこのエウレカには無いゆえ、もっぱら儂の趣味のための部屋と化しておるがな」

 

なるほど……、サーラさんの魔道具制作の腕前はここで磨かれていたのか。俺がキョロキョロと周囲を見渡していると、サーラさんは「さて……」と妙に居住まいを正した。

 

「さて、本題に入る前に、ポップにはこの姿を見せておこうかのう」

 

「この姿……? 何を言って……。 ――! サーラさん、身体が透けて……!」

 

突然、俺の前に立つサーラさんの姿がぼやけたように二重に見えた。俺の目が追いついていかず、いったいこれは、と戸惑っていると、途端に二重に見えたサーラさんの身体から強い光がほとばしった。

 

「うっ、まぶしっ……」と目を左腕で庇いながら、薄目を開けていると徐々にその光が収まっていった。

 

完全に光が収まった時、サーラさんが立っていた場所には、見たことの無い異形の魔物がいた。その魔物は、黄緑の人魂のよう見えるエレメント系の魔物の姿をしており、その顔に当たる部分に存在する2つの目は、まるで泣いているかのようだった。

 

「えっ、……メラゴースト? いや、色が違うか。もしかして、マネマネ……?」

 

「ほう! よう知っておったな、ポップ。そうじゃ、今そなたの前にいるのは、確かにマネマネじゃ」

 

その実体のない、黄緑色の炎がメラメラと燃え上がっているようにも見える魔物が俺のつぶやきを拾って返事をした。声も姿も俺の良く知る人物とは異なるが、その口調には聞き覚えがあった。

 

「え、もしかして……サーラさん、なんですか? まさか、変身呪文(モシャス)でマネマネに変身したんですか? 何のために……?」

 

俺の答えが面白かったのか、目の前のマネマネが身体を小刻みに揺らす。それにつられて、特に熱いわけではない火の粉が、その人魂のような体からポッポッと立ち上がった。

 

その時、ホイミンが自身の1本の触手を伸ばして、俺の右肩にそっと触れた。

 

「……ポップ、違うよ。サーラは変身をしたんじゃない。変身を()()()()()

 

俺はホイミンのその言葉に、えっとホイミンを振り向いた後、再びマネマネをまじまじと見つめた。

 

「えっ、じゃあ、メッサーラ族っていうのは……」

 

「ほっほっほ。あの姿自体が、儂が変身呪文(モシャス)で変身した姿というわけじゃな。だいたい、メッサーラ族が変身呪文(モシャス)を使えるわけがないじゃろうが」

 

い、言われてみれば確かに……。前世でよくやったゲームでも、メッサーラが変身呪文(モシャス)を唱えていた記憶がない。どうして俺は、そんな単純な事を今まで疑問に思わなかったんだろう。まだ状況に頭がうまく追いついていない俺を、サーラさんは更に困惑の渦に突き落とす。

 

「儂の本当の種族名はマネマネ。そして、この姿に戻った儂の名は……エウレカじゃよ」

 

「――!? エウレカって、確かこの洞窟を最初に発見したって言う150年前の……」

 

「さよう。儂こそが、『エウレカの里』の語源である、そのエウレカよ。どうじゃ、驚いたか?」

 

いや、そりゃ驚くよ。今まで種族としてはメッサーラ族とばかり思っていたサーラさんがマネマネ族であった事に加えて、話に聞いていたこの里の創始者エウレカその人だったなんて……。

 

「マネマネ族はもともと数が少ない。その上、特技の変身呪文(モシャス)のせいで、儂らは人間ばかりか、同じ魔物からも迫害されてのう。一人、また一人とちりぢりになる中で、儂だけがこの洞窟にたどり着いたのよ。そして、ここで過ごす内に霊峰ギルドメインの泉の力で邪気から解放された儂は、この地に誰にとっても安住できる理想の場所を作ろうとした。

じゃが、儂がマネマネ族という事を知られたら、また迫害されてここを追い出されてしまうと儂は考えた。そこで、エウレカという魔物は何処かに旅立ったと皆に告げて、メッサーラ族のサーラとして生きる事を選んだのじゃよ」

 

そう、だったのか……。確かマネマネという魔物は、ドラゴンクエストⅣで出てきた魔物だったはずだ。変身呪文(モシャス)で仲間の誰にでも変身し、その仲間の力をそのままコピーして攻撃してくるやっかい極まりない魔物だった覚えがある。俺も何度、マネマネが変身したクリフトもどきに即死呪文を喰らって、全滅の憂き目にあった事か。

 

「マネマネ族の扱う変身呪文(モシャス)は、他の種族が扱う変身呪文(モシャス)とは雲泥の違いがあるからのう。よほどの相手でない限り、見た目はもちろん、その対象とされた者の能力、特技まで完全に模写できる。マネマネ族以外の者が、我らを忌み嫌うのも分かるわ。どれほど努力して得た力も、どれほど危険と隣り合わせで得た技も、たった一つの呪文で完全に模写されてしまうんじゃ。嫌にもなろうというものよな……」

 

ただでさえ泣いているように見えるサーラさんが、そう静かに呟くのを見て俺はいたたまれなくなった。

 

「サーラさん……。あ、いえ、エウレカさん……」

 

「ふふふ。サーラでよい、ポップ。もう、エウレカという魔物はおらんのじゃから。この姿を見せるのもこれが最後よ。お前にこの姿を一度は見せておかんと、今から儂のやろうとする事に理解ができんと思うての……」

 

そう言って、再びサーラさんはその姿をメッサーラ族のサーラの姿に変貌させた。もう俺の前には、山羊の頭にローブを羽織った逆三角形の姿、そして右手に杖を握ったいつものサーラさんの姿があった。

 

「このメッサーラ族の姿が、変身呪文(モシャス)で変身した姿だなんて……。すごい、全然分からないや。あれ、そう言えば、この事をホイミンは知ってたの?」

 

俺は、そばでサーラさんの独白を悲しそうな表情で聞いていたホイミンを振り返った。

 

「……うん、知っているよ。僕とスラリンにセレーナといった最古参はね。僕達は、エウレカを迫害したりしないって言ったんだけど、エウレカったらそれを聞かずにサーラになっちゃったんだ。僕達の事を信用してくれなかったのは、つらかったんだよ?」

 

ホイミンが、その触手をクタッとしおらせてサーラさんを恨めしそうに見つめた。

 

「すまんのう、ホイミン。しかし、儂はもう一人で生きていくのが嫌でのう。種族を隠してでも、皆と一緒におりたかったんじゃよ」

 

「そうだったんですね。話してくれてありがとうございます、サーラさん。それで、俺にこの事を話した上でやろうとする事って一体……?」

 

「ああ、そうじゃったのう。そなたもあまり時間がなかろう。早くやってしまおう。ホイミン、手伝ってもらうぞ」

 

そうホイミンにも声をかけ、サーラさんが俺をじいっと見つめた。

 

何をするつもりなんだろう、と俺が思った時、サーラさんの右腕だけが、突然人間の右腕に変貌した。

 

えっ! ちょっ、一体何が……? あっ、これ、前に見た事がある。そうだ、この腕は俺の……!

 

俺の動揺をよそに、サーラさんは左腕を振り上げて、おそらく俺の腕を模したと思われる右腕の根本に振り下ろした。

 

ボトッという音を立てて俺の右腕は地面に……落ちなかった。それが地面に落ちるその前に、その切断された右腕はホイミンの触手が押さえていた。

 

「もう、地面に落としたら雑菌が入るでしょう? 繋ぐ時にそれがポップの体内に入って、合併症が起きる危険だってあるんだから、気をつけてよサーラ」

 

「ああ、すまん、すまん。そこまで考えなんだ。ほら、ポップ。呆けてないで受け取らぬか。お主の新しい右腕ぞ」

 

「はっ!? ちょっ、えっ!? これが俺の新しい右腕? い、いったい何を言っているんですか、サーラさん!?」

 

理解が追いついていかない。いきなり自分の右腕を俺の右腕に変貌させ、その腕を俺に使えと言う。そんな事、出来るわけないじゃないか。いくら変身呪文(モシャス)で変貌させたと言っても、それはただ呪文の力でそれらしく見た目を変貌させているだけだ。それは、マァムが以前言っていたように、闘気の質で見分けられる程度の表面的なものでしかない。

 

しかも、それを人体にくっつけるなんて……!

 

「いやいやいや、サーラさん、いくら何でもそれは無茶ですよ。一時的に見た目を取り繕うだけならともかく、長期間にわたって戦闘に耐えられるレベルで変貌させるなんて、不可能ですって!」

 

俺のその言葉に、サーラさんが呆れたように肩をすくめた。

 

「やれやれ、何のために儂の正体を明かしたと思うておる。先ほど言うたであろうが。マネマネ族の変身呪文(モシャス)をそんじょそこらの変身呪文(モシャス)と同列にするでない。その右腕は、お主の本来の右腕と寸分の差なく同じ働きができるはずじゃ。儂が魔力を込め続ける限りはな」

 

マジか……? いや、確かにそんな様な事をさっき言っていたけれど、本当に……?

 

ゴクッと唾を飲み込んだ俺は、迷った末にホイミンの顔を見つめる。そのホイミンは、ふうっと息をついて口を開いた。

 

「……決めるのは、ポップだよ。サーラはこう言っているけど、自分の腕を他の人の腕に変貌させて、その人に繋げるなんて事はやった事が無いはずだから」

 

正直な意見だ……。確かに、決めるのは俺だ。俺はもう一度サーラさんの顔を見つめる。サーラさんは、先ほど俺に自身の唱える変身呪文(モシャス)の力が特別だと認識させるために、もう150年前に捨てたはずのマネマネ族としての姿を俺に見せた。

 

秘密が漏れて、再び迫害されるかもという恐怖もあっただろうに、俺のためにそれをした。俺なら、迂闊な事は言わないだろうと俺を信じて。

 

……だったら、俺も信じるべき……だな。

 

「……分かりました。サーラさんを信じます。その腕、貸していただけるものなら、貸してください……!」

 

「ふっふっふ。いい顔じゃ。それでこそエウレカの里の子よ。さあ、そうと決まればそこに横になるがよい。ホイミン、準備は良いか?」

 

俺はサーラさんの指示に従い、いそいそと部屋の真ん中に置かれたテーブルの上に這い上がり、仰向けになった。俺の右袖をめくったホイミンが、右上腕部に何かの液体を振りかける。不思議そうにしている俺の顔に気が付いたホイミンが、ニコッと人好きのする笑顔を浮かべた。

 

「これはアルコールだよ。ここはこんな欠損部位をもう一度繋ぎ合わせるような真似をするには、あまり適した場所じゃないからね。念のためだよ。さあ、痛みを和らげるために回復呪文(ホイミ)をかけるよ」

 

ホイミンはそう俺に声をかけながら、触手の一つを俺の右腕に触れて回復呪文(ホイミ)を唱えた。徐々に俺の右腕から感覚が無くなっていく。え、ちょっと待って。アルコールの使用と言い、これってまさか……?

 

「ちょっ、ホイミン。もしかしてこの回復呪文(ホイミ)って麻酔の効果が……? えっ、どうして?」

 

俺の驚きの言葉に、ホイミンは悪戯が成功した時の様に「うふふ……」とほくそ笑んだ。

 

「僕はね、ポップがここで書き上げていた医学書を時々読ませてもらっていたんだ。だからポップの開発した診断呪文(インパディ)医療呪文(ベホマメント)も使えるんだよ。ふふふ」

 

マジか……。確かに、俺はあの医学書をここにいる間に書いていたから、書きかけの書物を読む時間はホイミンにはいくらでもあっただろう。しかし、読むだけであの内容を理解するとは……。そんな事を考えていたが、麻酔が効いてきたのか徐々に俺の身体を眠気が襲ってきた。

 

「ねえ、ポップ。僕はね、この戦いが終わったらポップと一緒にやりたいことがあるんだ。それが僕の今の夢。だから、その夢のために僕も、ううん、僕達も大魔王と戦うよ。ポップの隣でね。一緒に頑張ろうね、ポップ」

 

そんな言葉が俺の耳朶からかすかに入って来た気がしたが、それを理解する前に俺は意識を手放していた。

 

 

 

「ポップ……。ポップったら……。ほら、そろそろ起きてよ?」

 

「う、ううん……。あ、ああ。ホイミンか……。 くっ、背中が痛いな。いったいどれほどの時間寝ていたんだろう?」

 

寝ぼけ眼を擦りながら、俺は片手で懐の内ポケットを探り懐中時計を取り出した。

 

……午前1時……か。ここに来たのが、午後10時ぐらいだったはずだから、約3時間眠っていた事になるのか。中々の大手術だったみたいだな。さて、手術の結果はどうなっただろう。ふふふ、まるでダイジョーブ博士に手術をしてもらった時のようにドキドキしているな。

 

「ホイミン、接続手術はどうだった? 上手くいったかい?」

 

「くすくすくす。ポップ、気が付いていないの? 今、その時計を握っている手はどっちの腕?」

 

「どっちって……。――!? あっ、腕がある! えっ、俺いつの間に……!?」

 

ホイミンに指摘されて初めて気が付いた。俺は右腕でしっかりとアバン先生の形見である懐中時計を握りしめていた。

 

「え……? 全然違和感がなくて、分からなかったんだけど……。すごい、普通に動いてる。え、どうして……」

 

俺が、あまりに自然に動く右腕の手の平を開いたり閉じたりとニギニギしていると、こつんと杖のような物で俺は頭を小突かれた。

 

俺が顔を上げると、そこにいたのは呆れた表情をしたサーラさんだった。

 

「これ、ポップ。何をそのように驚いておる? 最初に言っておっただろうが。完璧にそなたの腕と同じにしてみせると」

 

「あ、いや、信じていなかったわけでは無いのですが、さすがにこれほど違和感なく接続されるとは思っても見なくて。ちょっと信じられないです……」

 

いや、本当にびっくりだ。右腕を接続した部分もその跡が全く残っていないし、あの時のバーン戦で受けた熱い衝撃の記憶が無かったら、絶対に昔からの俺の右腕としか思えない。ただ、魔王軍との戦いの日々で蓄積された傷跡だけがそこには存在しておらず、それが確かに今誕生したばかりの腕だと言う事を俺に知らせていた。

 

「そうじゃろう、そうじゃろう。しかしポップ。それはまだ最後の仕上げをしておらん。その腕、そなたが望むなら魔物特有の人外の膂力を与える事も、魔力の大幅な上乗せも可能じゃが、どうする? そこだけはそなたの意見を聞こうと思い、起こしたのよ」

 

「……そんな事が出来るのですか?」と、ちょっとワクワクしながら確認する俺。

 

「うむ、出来る。今ならな。完全に処置を終えてしまうと、もうそれはできん。どうする、ポップ? 儂のお勧めは、グリズリーのパワーと、だいまどうの魔力を上乗せした腕じゃが……」

 

サーラさんも、色々やってみたいのか子供の様にウズウズした表情で俺にそう問いかける。

 

「ふふっ。ピンチになった時のお約束、『今こそ俺の封印されし右腕の力を解き放とう……!』、ってやつですね。実に厨二的でそそられる誘惑です。でも……」

 

「むっ? でも……?」

 

「でも……やめておきます」

 

俺の言葉に、サーラさんは面白そうに眉を上げた。

 

「大変ありがたいお話ですが、俺の腕は失う前の能力を発揮できればそれで十分です。それ以上は、やめておきます」

 

「どうして、ポップ? ポップは前によく『もう後もどりはできんぞ。巻き方を忘れちまったからな』とか、『右手が……疼く……!!』とか言ってニヤニヤしていたのに、本当に良いの?」

 

「ぐはっ!! ちょっ、ホイミン、俺の繊細な心を言葉のナイフでゴリゴリ削るのはやめて!」

 

た、確かに誰も見ていないと思って、空に手を伸ばしながらそんな風な発言をした事もあった。だけど、やめてくれ。もう俺は、その病気から卒業したいんだ。

 

「ゴ、ゴホン! と、とにかく、今のままでいいです。ていうか、親から授かった肉体と、この15年の間に努力して身につけた能力さえ備わっていれば、それが俺の考えるベストの状態です。それでもう一度、バーンに挑戦したいです」

 

サーラさんは、俺の顔をジッと見つめて、「うむ、分かった。では、そのように取り計ろう」と頷いてくれた。

 

 

 

俺の右の掌から、ボワッと小さな炎が噴き上がる。うん、発動速度、魔力圧縮、制御能力等々、全てにおいて問題なし。完璧だ。

 

「どうじゃな、ポップ? おかしなところは無いか?」と、俺に右腕を提供したため隻腕になったサーラさんが、俺にそう問いかけた。

 

「はい、大丈夫です。問題ありません」

 

「うむ。その右腕は完全にそなたと同化した。傷を負えば赤い血が流れるし、痛みも感じる事じゃろう」

 

「本当にありがとうございます、サーラさん。バーンを倒したら、必ずこの右腕、返しに来ます……!」

 

「……? 何を言っておる、ポップ。その右腕は、むしろ平和な時代にこそ必要なものじゃろう。返しに来る必要などないわ」

 

「え? い、いや、でも俺がこの腕を返さないと、今度はサーラさんがずっと隻腕のままじゃないですか。そんなの駄目ですよ。そこまでご迷惑をおかけできません」

 

返さなくていいと言い出したサーラさんに、俺は「駄目です、駄目です」と手をパタパタと振った。しかし、サーラさんの意思は固かった。

 

「迷惑などと、何を言うておるか。もともとは、儂がそなたに大魔王と戦ってもらう事を望んだために負った怪我ではないか。その怪我を、儂が肩代わりするのは当然よ」

 

「いえ、それは違います。大魔王と戦うのを望んだのは俺です。俺は戦うための力をサーラさん達から分け与えられたんです。戦いが終わったら返しに来ます。絶対に……!」

 

「ええい、分からん奴じゃのう」とイライラした様子のサーラさんが、ポンと俺の肩を叩いて耳打ちした。

 

「ポップ、そなた、聞く所によれば、決戦の後には2人の女子と良い関係になるのじゃろう? ならばなおのこと、両手が必要じゃろうが。……片手では、両輪の花は抱けんぞ」

 

その言葉に、俺は赤面するのを自覚した。ホイミンが不思議そうな顔をしている。

 

「ちょっ、それとこれとは関係が……」

 

「大有りじゃ、たわけ。それに、どのみち儂の右腕は、長い間杖を握る事しか使っておらなんだのじゃから、気にするでない。まあ問題は、儂が死ねば魔力の供給が途絶えてその腕も消失するという事じゃが、なあに、いくら年を取ったとはいえ、儂も後100年から200年は生きようぞ。どう考えても、そなたの方が早くこの世を去るのじゃから、それも問題なかろうて」

 

「サーラさん……」

 

「ポップ、借りておいてあげなよ。サーラ、手術の間、君が腕を失ったのは自分のせいだって、ずっと自分を責めていたんだよ。サーラはその腕を、大魔王との戦いじゃなくて、むしろ平和になった世界をポップに謳歌してもらう事にこそ使ってもらいたいんだよ」

 

「こりゃ、ホイミン。余計な事を言うでない。……とにかく、そういう事じゃ。その腕は、定命の定めに生きるポップが、いつか遠い遠い将来に大往生で死する時に返してくれればそれで良い。儂の腕を、そなたの旅に同行させてやってくれんか……?」

 

そう言って、俺の両手を片手でぐっと握りしめるサーラさん。そこまで言われて、ようやく俺の腹は決まった。

 

「……分かりました。この右腕、俺がいつか大地に帰るその瞬間までお借りします。このご恩、生涯忘れません……!」

 

 

 

「あっ、ポップ。……もう、遅いよ。待ちくたびれちゃったよ」

 

「ごめん、スラリン。ちょっと話が長引いちゃって……」

 

サーラさんの研究室の扉の前に、まるで門番をしていたかのように佇んでいたスラリンに俺は声を掛けた。

 

「ま、許してあげるよ、ポップ。それよりその腕を見ると、サーラの事を知ったんだね、ポップ。……何か変わった?」

 

「……? 何も変わらないよ? サーラさんはサーラさんだよね。お酒が好きで、怖い顔なのに本当はお茶目で、それで……とっても優しい」

 

「ふふふ。ポップならそう言うだろうと思ったよ。みんなー、ポップが出てきたよ!」

 

スラリンの呼びかけで、大勢のエウレカの里の魔物達が集まって来た。

 

「ポップ、儂は一足先に外に出ておる。ゆっくり皆と挨拶をしてくるが良い」

 

サーラさんは皆にもみくちゃになっている俺を見て、そう声をかけて先に外へと続く通路にホイミンを伴って向かう。

 

俺はサーラさんに頷きを返し、取り囲んだ里の皆一人一人に声をかけていく。そうやって声を掛けていると、何故か里の皆が遠巻きになったな、と思ったら足元に一体の魔物がいた。

 

「やあ、ロッキー。相変わらず転がりやすそうな身体をしているね。あまり皆を驚かせたら駄目だよ」

 

「メ……」と強面で呟くばくだん岩のロッキーに俺も内心冷や汗を流しながら、その岩状の身体の表面をそっと撫でた。そこで俺は、遅ればせながら気づいた。

 

「あれ、ロッキー。なんか、色が変わっていないかい? ……赤、でいいのかな? ――! まさかロッキー、君……」

 

「メ……?」と呟くロッキーを、俺は大きく目を見開き凝視した。

 

 

 

俺がギルドメイン山脈内の大空洞を後にして外に出ると、出てすぐの場所でサーラさんとホイミンが空を指さしながら何やら話し込んでいた。

 

俺の気配を感じたのだろう。サーラさんが肩越しに振りかえって俺に言葉をかけた。

 

「おお、遅かったな、ポップ。皆もそなたを懐かしがっておったからな。なかなか離してくれなかったのだろう」

 

「ははは、まあそんな所です。お待たせして、すいません。それより、ホイミンも一緒になって、いったい何を見ていたんですか?」

 

俺は2人が見ていた空の方角を見つめた。まだ深夜と言って良い時間帯だから、空は星を除けば漆黒の(とばり)が降りたままだった。

 

ん……? 何だろう、遥か遠くの南の空に、薄らと白い靄がかかっている……?

 

「ポップも気が付いた? ずっと、ずっと遠くだからはっきりとは分からないんだけど、強い魔物の匂いを感じるんだ。サーラもそうだよね?」

 

「うむ……。儂は何と言うたら良いか、そうじゃな、……大気の揺らぎを感じるのう。得てしてそういう時は、術者が強力な魔力を放出した時に生じるものじゃ」

 

2人も、それぞれの感覚で何らかの異変を感じているようだ。あちらは、カールの方角では無いから砦に何かあったわけでは無いだろう。方角的にはベンガーナの町、いや、更にその南……か。

 

ベンガーナの南と言うと、……ラドルの村の周辺か。

 

俺の脳裏に、1年以上前に別れたきり会っていない姉弟の顔が思い浮かんだ。

 

懐中時計に目をやる。時刻は午前2時過ぎ。まだ姫さん達が破邪の洞窟から戻ってくるまで時間はある。

 

……何かあってからでは遅い。行ってみるか。

 

そう考えた俺は、サーラさんとホイミンに別れの挨拶をして、ギルドメイン山脈を後にした。

 

 




次回は『氷の競演』、です。
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