転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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168話 アバンのしるし

俺が首にかけている『アバンのしるし』は光らなかった。当然、皆と同じように天に立ち昇る光の柱も出現しない。

 

俺は呆然として天を見上げる。円環を支えるように4柱が立ち上がってるのに、1柱が歯抜けになったように存在しない。あれほど聞こえていた周囲の喧噪が今はほとんど耳に入ってこないのは、俺が自分が思う以上にショックを受けているからだろうか。

 

予想はしていた……? いや、していなかった。だけど、胸中に一抹の不安は抱いていた。転生者である自分にその資格があるのか、そもそも原作ではここに立っているのがポップでは無かったのでは、などなどの不安が渦巻いていたが、俺はこれまでそれらから意識的に目を背けていた。

 

 

「――ポップ! ポップったら!」

 

肩を急にガクガクと揺さぶられ、俺はハッと意識を戻した。どれほど呆然としていたのだろうか。いや、実際は一瞬の事だったのだろう。マァムの俺を気遣うような表情が、俺の視界いっぱいに広がっていた。

 

「マァム……。あ、ああ、ごめん。どうやら俺、……資格がないみたいだ」

 

俺が精いっぱい平静を装って吐いた最後の言葉に、マァムはまなじりを上げて怒鳴った。

 

「資格が無いなんて、何を馬鹿な事を言っているのよ! アバン先生と一番心を通わせていて、私達をここまで引っ張ってきたあなたに資格が無くて、いったい誰にあるのよ!?」

 

「そ、そうだよ、ポップ! 俺ならともかく、ポップに資格が無いわけないじゃないか!」

 

「そうだ。一度はアバンを裏切った俺などがしるしを光らせる事ができたのだ。お前に出来ぬはずがないではないか」

 

マァムばかりか、ダイやヒュンケルも俺にそう声をかけてくれる。

 

「ほら、ポップ君。馬鹿な事を言っていないで、もう一度挑戦しなさい。皆の言う通りよ。君がそれを光らせる事ができなくて、いったい誰が光らせるのよ。君はこの後大魔宮(バーンパレス)に行って、バーンとどう対峙するつもりだったの? だいたい君は、色々と考えすぎるのがいけないのよ。今はそれだけを頭に思い浮かべて、もう一度やってごらんなさい」

 

そう言って姫さんは離していた手を再び俺に差し出す。隣に目を移すと、マァムもやはり手を差し出していた。

 

バーンとどう対峙するつもりだったか……。そんな事で良いのだろうか? いや、確かにあの震えるほどの恐怖を感じたバーンと、もう一度対峙するなんて並大抵の精神力ではできない。

 

思い出せよ、ポップ。お前はバーンともう一度相対する覚悟を持ったんだろう……! 他ならない、自分自身の夢の実現のために!

 

俺は2人に頷きを返し、その手を取って再び瞑目した。思い出せ。俺がバーンと再び対峙するために講じた策を。どれほど細く無数に分岐した糸だろうが、最後まで選択を誤らず渡り切ると決意したんだろうが……!

 

首にかけた『アバンのしるし』から、暖かな力が立ち上がるのを感じる。側にいるマァム達の安堵したような息づかいを耳が拾った。……ああ、これで良かったのか。手応えを掴んだ俺は、思考を進める。勝つために、どんな手でも使うんだ。そう、そのために俺は……!

 

しかし次の瞬間、俺が首にかけた『アバンのしるし』が急速に力を失い、ただのネックレスと化したのを感じた。

 

……そっと目を開ける。『アバンのしるし』はやはり光っていなかった。俺の胸中を絶望が占めていく。駄目だ、これ以上は。もうこれ以上、皆に迷惑をかけられない。

 

申し訳なさから顔を上げる事ができず、一人うなだれる俺。そんな俺にダイが声を張り上げた。

 

「もう一度、もう一度やってみてよ、ポップ! さっき確かに、緑色の光が立ち上がりかけたんだ。もう一回やればきっと……!」

 

「……ごめん、ダイ。多分、何度やっても駄目だよ。この場にいるべきは俺じゃなかったんだよ。そうだ、ノヴァなら俺の代わりに光を立ち上げられるかもしれない。あいつに頼んで――」

 

そうだ、ノヴァだ。あいつは、一度は魔王軍に捕らわれながらも、再び戦う意思を持った心技体の充実した男だ。俺などとは比べようもない。もしかすると、原作ではここに立っているのはあいつだったのかもしれない。

 

「――ポップの代わりがいるもんか!」

 

俺の後ろ向きな思考が、突然のダイの大声によって遮られる。その俺をはたと見据える蒼い透き通るような瞳が、俺のネガティブな思考を絶対に許さないと訴えていた。

 

だけど……。俺だって悔しいけど……無理なんだよ。それは俺自身がよく分かっている。俺は、眩しいほどの眼光で俺を射貫くダイの瞳を直視する事ができず、思わず顔をそらし呻いた。

 

「ダイ……。俺の事は、俺自身が一番よく分かっている。すまないけどここは――」

 

「いえ、違うわね」と、今度は姫さんが俺の言葉を遮った。

 

違う……? 何が違う? 俺の疑問をよそに姫さんは続ける。

 

「ポップ君の事はポップ君が一番分かっている? そんな事はないわ。あなた、自分がどれほど自分自身に対して無自覚、無頓着なのか分かっていないようね。間違いなく、ここにいる人間で一番ポップ君の事を分かっていないのは、……ポップ君、あなた自身よ」

 

ビシッと俺に指を突きつけて宣告する姫さんに俺は呆然とする。どうして俺の事なのに、俺自身が一番分かっていないという話になるんだ? しかもそれは姫さんだけが感じている事ではないようで、ダイやヒュンケル、マァムまでもが姫さんの言葉に強く頷いている。

 

姫さんは、なおも続ける。

 

「そして、ここにいる人間で一番ポップ君の事を理解しているのは、私の見たところマァムね。マァム、あなたから見てポップ君の『アバンのしるし』が輝かない原因に、何か心当たりはないかしら?」

 

そう姫さんに問いかけられたマァムは思案するように一瞬沈黙した後、静かに口を開いた。

 

「私は、これまでの闘いの中で、ポップの胸の『アバンのしるし』が輝いた所を何度も見てきたわ……」

 

そこで言葉を切ったマァムは、「でも……」と続けた。

 

「でも……、今思うと、ポップの『アバンのしるし』が光ってもおかしくない場面で光らなかった事があったわ。それは……ポップが、テランの地で自己犠牲呪文(メガンテ)を使う事を私達に黙って決意していたあの時……」

 

そのマァムの言葉に、俺の心臓はドクンッと脈打ったのを感じた。まずい、嫌な方向に話が進みかけている、と。

 

「……なるほど……ね。少し見えてきた気がするわ」と、姫さんが獲物を見つけて舌なめずりする肉食獣のような笑みを俺に向けた。

 

「ねえ、ポップ君……。あなた、私達が破邪の洞窟に挑んでいる間、メルルの助言で『エウレカの里』に行ったのよね? そこで何か、君の精神に影響を及ぼすような事が起きなかった?」

 

『君のような勘のいいガキは嫌いだよ』という名言を残した漫画のタイトルは何だったっけな、と半ば現実逃避しながら俺は沈黙していたが、獲物を見つけた姫さんの追及の手は緩まなかった。

 

「言っておくけど、その右腕は関係ないわよ。これは精神面の問題だから。もっと具体的に言ってあげるわね。ねえ、ポップ君。あなた、『エウレカの里』で何か新しい呪文を身に付けてこなかった?」

 

……うっ! 相変わらずポーカーフェイスの苦手な俺は、核心をつかれて思わず頬を引き攣らせた。

 

俺の狼狽える様子を見て、答えを確信したんだろう。姫さんは清々しい程の笑みを浮かべたかと思うと、ダイと繋いでいた手を離して、パン、パンと手を打ち鳴らした。

 

「はーい。ポップ君の保護者集合――! 大至急よーー!」

 

そのよく通る涼やかな声は、少し離れた場所で怪我人を治療していたメルルにまで届いたようだった。耳をピクンと反応させこちらを振り返ったメルルは、側にいた僧侶に後の事を託してこちらに一目散に駆けてきた。

 

……ちょっと待ってくれ。最初から傍にいるマァムも含めて、どうして『俺の保護者集合』の言葉に、迷いなくメルルが駆けつけて来るんだ。おかしいだろう、彼女達は俺の将来の恋人候補であって、決して保護者ではないはずだ。

 

何故かフローラ様まで祭壇下の階段に足をかけて登ってこようとしていて、「フローラ様は彼の保護者ではありません!」、「あらそう? でも私も彼を子供のように……」と、側近と何やらもみ合いを始めている。

 

そんな時、前線から野太い声が届いた。

 

「おい、大破邪呪文(ミナカトール)とやらはどうした!? あまり長い事は持ちこたえられんぞ!」

 

「ごめんなさい、クロコダイン! ポップがまた何かやっちゃったみたいなのよ!」

 

「ガァッハッハ! またポップか! ならば仕方ないな!」

 

マァムの返事を、クロコダインのおっさんが豪快に笑い飛ばす。それに追随する様に、オーザム兵の集団の中からも声が飛んだ。

 

「くっくっく! ポップは、相変わらずのようだな! かまわん、こっちはあいつの規格外まで想定済みだ!!」

 

ライオネルさんの、失礼と言えば失礼な言葉が戦場を飛ぶと同時に、ベンガーナの集団の中からも声が上がる。

 

「――うむ! ここはやはり戦車隊の出番ですな。ご安心を、ポップ殿! 改良した戦車もしっかとこの地に持ってきておりますゆえ!」

 

……うん、お願いだからあんたは黙っていてくれるかな。それにしても、なに、俺のこの扱い。ちょっとおかしくないか?

 思えば俺は、この冒険が始まった当初はクールイケメンを目指していたはずなのに、何故か今では黄門様一向の『うっかり八兵衛』みたいなポジションにいる気がする……。

 

俺がそんな葛藤を抱えているのを知ってか知らずか、いつの間にやら俺の前に立っていたメルルが俺に問いかける。

 

「それでポップさん、いったい何の呪文を覚えたんですか?」

 

「いや、それが違うんだよ、メルル。俺が何の呪文を覚えていようが、このしるしが光らない事とは無関係なんだ。多分俺には最初から資格が――」

 

な・に・を・お・ぼ・え・た・ん・で・す・か?

 

「……」

 

一語一語噛みしめるように、更に俺を問い詰めるメルルに絶句する俺。こんなメルル、見た事無い。こめかみに青筋を浮かべつつ、腰に手を当て仁王立ちするその姿は、まるで慈母の面から怒りの面に変貌した阿修羅のようだった。

 

かつてないほどの恐怖に駆られた俺は、何は無くとも身の安全を確保するため恐る恐る尋ねた。

 

「……お、教えても、怒らない?」

 

ドカァッ!!

 

言った瞬間、軽い振動と共に祭壇の石畳の一部に亀裂が走った。メルルの隣に立つマァムが強烈なキックを石畳に放ったのだ。そして、背後から真っ赤な炎を立ち上がらせて俺にすごんだ。

 

「今すぐ教えないと……、分かっているわよね、ポップ?」

 

コクコクと頷いた俺は、小声で呟いた。

 

「えっと、その……多分、いや、絶対今回の件には関係ないと思うんだけど……」

 

前置きの段階で、『早く吐け!』というまるで浮気がバレたかのような圧を2人からビンビンと感じる。だから俺は仕方なく白状した。

 

 

「……そ、その、メ、『自己犠牲復活呪文(メガザル)』などを少々……」

 

「「……」」

 

沈黙が怖い。どこぞの深窓の令嬢が頬を染めながら『華道などを少々……』と告げるかのような俺のその控えめな言葉に、2人は無言のまま顔を俯けた。だが次の瞬間、バッと襲い掛かるかのように俺の左右の手をそれぞれが握りしめ、例の禁断の呪文 封印呪文(マホドーン)の詠唱を始めた。

 

ああ……、やっぱりこうなるか。だから内緒にしたかったんだよな。あの『エウレカの里』に戻った時、爆弾岩のロッキーが何故か進化して、赤い岩肌のメガザルロックに変貌していた。だから俺は万が一の保険のつもりで、この呪文を覚えさせてもらっていたんだが……。それがこんな事で露見してしまうとは。

 

俺は2人に両手を取られたまま、遠い目をしてそんな事を考えていた。

 

 

 

「ねえ、レオナ。自己犠牲復活呪文(メガザル)ってどんな呪文なの?」

 

呪文に詳しくないダイが、姫さんにそう問いかける声が俺の耳朶に届く。姫さんはそのダイの質問に、俺をジト目で見つめながら答えた。

 

自己犠牲復活呪文(メガザル)っていうのはね、自己犠牲呪文(メガンテ)が自分の命を犠牲にして敵を攻撃するのに対して、自分の命を犠牲にして仲間の体力、魔法力ばかりか死者まで蘇生する呪文よ。

 その呪文の効果が攻撃的か守備的かの違いこそあれ、自分の命を犠牲にするという点では、自己犠牲呪文(メガンテ)と同じようなものよ」

 

「ふーん……。ポップ、後で頭突きだからね……」

 

ダイが、目の座った顔で俺をそんな風に恫喝する。

 

「いや、違うんだって、ダイ! 今回は使うつもりは無かったんだ! ただ、何かあった時の万が一の保険のつもりで……」

 

「万が一でも、駄目なものは駄目に決まっているじゃないか!」

 

その剣幕に俺がウッとたじろぐと、ヒュンケルまでもが俺をジロッと睨む。

 

「ポップ、後で俺も一発殴らせてもらうぞ」

 

「当然、私もね」と姫さんが続き、先ほどマァムが砕いた石畳みの欠片の中から手頃な石を拾う素振りを始めた。そしてそれは、俺の左右の手を取る2人も同様だった。

 

「ポップ、後で……分かっているわね?」

 

「ポップさん、今度と言う今度は、私、許しませんよ……」

 

2人の剣幕に俺が青い顔をしていると、不意に祭壇の下から、涼やかを通り越して冷ややかとも感じられる声が届く。

 

「ポップ、私からも後できついお灸を据えさせてもらうわよ。覚悟しなさい」

 

その声の主は、フローラ様だった。目だけは全く笑っていない良い笑顔を、こちらに向けていた。ア、アバン先生……助けて下さい……。愛弟子が、先生の想い人に命を取られようとしていますよ。

 

……最悪だ。今回は保険のつもりで覚えていただけなのに、皆からこれほどまでに糾弾されるとは。しかも、根本的な解決には全く至っていない。相変わらず俺が原因で大破邪呪文(ミナカトール)は発動できないままだと言うのに……。

 

俺が1人そうやって悶々としていると、ようやく俺の手を取っていた2人がその手を離してくれた。

 

「終わったわ、レオナ。ごめんなさい、まさか私達がいないあの短時間に、ポップがまたこんな馬鹿な事をやらかすなんて想像もしていなかったわ」

 

「私も反省しています。次からは、定期的にポップさんの習得している呪文を確認するようにします」

 

やっぱりどう考えても、2人の物言いはおかしいと思う。これではまるで、保護者呼び出しを受けた保護者が、学校の先生に謝罪しているようなものではないか。

 

「ありがとう、2人共。持ち場に戻って。時間が無いからポップ君への説教は後回しよ。さあ、早くポップ君も配置について!」

 

「いや、ちょっと待ってよ、姫さん。確かに自己犠牲復活呪文(メガザル)は封印されたけど、それと『アバンのしるし』が光らないのは別問題だろう? 俺に資格が無いのが問題なのであって――」

 

「うるさいわよ! 四の五の言っていないで、早く集中しなさい! マァムはもう光を立ち上げたわよ!」

 

「え……?」と俺が戸惑っている間にも、マァムは再び俺の右手を取った。そして姫さんも俺の左手をひったくる様に取って、言葉を続ける。

 

「いい、ポップ君? 君が心の奥底で頼りにしていた呪文は消えたわ。よく考えなさい。もう後が無いわよ。あなたはいったいどうやってバーンに対峙するつもりなの? 逃げずによく考えて!」

 

逃げずに良く考えろ、か。ふー……と、小さくため息をついた俺は、これが最後のつもりで瞑目した。これで駄目なら、俺はもう『アバンのしるし』を誰かに預けて前線で戦おう。その方がよっぽど皆の役に立つはずだ。

 

そう俺が考えて、再びバーンに対峙する気力を呼び起こした時だった。途端に俺が首に架けた『アバンのしるし』が眩いばかりに緑色に輝き、その直後俺の頭上から緑の光の柱が立ち上った。

 

「ひ、光った……。なんで……?」

 

天を仰いでその様子を呆然と見つめている俺を、姫さんが呆れ9割9分、感嘆1分の視線を俺に向けた。

 

「ほら、見なさい。やっぱりあの呪文が原因だったじゃない。最初からあの呪文が無かったら、もっと簡単に光の柱を立ち上げられていたのよ、ポップ君は」

 

「ど、どうして、こんな簡単に……」

 

「そんなの決まっているでしょう? 君はあの呪文を覚えた事で、心のどこかで楽な方に逃げちゃってたのよ。でも、それを『アバンのしるし』は許さなかったって事でしょう? 自分の命を軽んじる人間に、アバン先生は決して微笑まないのよ」

 

マジかよ……。いや、確かに状況的にあの呪文が原因だったのだろうという事は認める。俺は万が一の保険と考えていたが、心のどこかであれを万が一どころか戦略に組み込んでいたのかもしれない。

 

いや、しかし、それにしてもだ……。ちょっと俺の『アバンのしるし』、おかしくないか? マァムだって、『慈愛の力』のくせに俺に対して慈愛とは言えない行動をしょっちゅう取るし、姫さんだって『正義の力』を発露する姿はごくごく偶にしか見せないじゃないか。

 

それなのに俺だけ、あの呪文を覚える事で『アバンのしるし』が光らなくなるなんて、ちょっと感度が厳しすぎると言うか、ピーキー過ぎると言うか……。もしかしたら俺の『アバンのしるし』には、絶縁シールでも貼られていたんじゃないだろうな。

 

俺は、『バルス』と唱えられた飛行石もかくやと言わんばかりに、緑色の燐光を迸りながら輝いている『アバンのしるし』をジッと見つめる。ちくしょう。いつかあの世でアバン先生に会ったら、この件で小一時間は問い詰めてやるからな。

 

 

その後は、姫さんが遅れに遅れた大破邪呪文(ミナカトール)を唱え、直後俺が瞬間移動呪文(ルーラ)を唱える事で、何日かぶりに俺達は再び大魔宮(バーンパレス)へ乗り込んだのだった。

 

 

 

 

~~~~エウレカの里~~~~

 

「メ……」

 

赤茶色の岩肌をした、爆弾岩改めメガザルロックへと進化を果たしたロックが、ギルドメイン山脈の中腹から西の空を見つめていた。一見ただの岩塊にしか見えないそのロックの目には、空に向かって白線を引いたかのように伸びた光跡が微かに映っていた。

 

「なーにしてんだよ、ロック」

 

自身を呼ぶ声に、ロックがズリズリと身体を動かし背後を振り返る。そこには、ピョンピョンと地面を飛び跳ねながら近づいて来る同じエウレカの里の仲間であるスラリンがいた。そしてその隣には、宙をふよふよと飛びながら近づいて来るホイミンの姿も。

 

「メ……」と返事をよこすロックの頭上に、近づいて来る勢いのままにピョンとスラリンが飛び乗った。

 

「ははは。分かっているよ、ロック。どうせ、ポップに自己犠牲復活呪文(メガザル)を教えた事を悔やんでるんだろう? 進化しても変わらないな。自己犠牲呪文(メガンテ)を教えた時も同じだったもんな」

 

そのスラリンの言葉が図星だったのか、ロックは何も言葉を返さず、スラリンを頭上に乗せたまま西の空に再び目をやった。そんなロックの硬い岩肌に、不意にふにゃっと黄色い柔らかな触手がそっと触れた。

 

「大丈夫だよ、ロック。ポップが一人なら心配だけど、ポップにはポップの事を想っている仲間がたくさんいるんだ。彼らがきっとポップを止めてくれるよ」

 

「そうそう。きっとポップは、今頃仲間にめちゃくちゃ怒られていると思うぜ。なあ、ホイミン」

 

「うん、ポップは皆に好かれているからね。好かれているからこそ、きっとその反動でひどく叱られているんじゃないかな」

 

そんな2人の会話に「メ……」と返事をするロックだったが、ホイミンは更に言葉を続ける。

 

「……うん。それとね、ロック。僕はロックの事も心配しているんだよ。どうしてロックは、メガザルロックになったんだろうね」

 

先ほどまでのロックを慰めるような柔和な視線から、幾分咎めるような視線に変わったホイミン。ロックの頭上のスラリンも続く。

 

「……駄目だからな、ロック。絶対、駄目だ」

 

「……」

 

仲間達の言葉にロックは返事をしないまま西の空を見つめる。だが、その硬く乾いた赤い岩の表面には、何故か二筋の黒い染みが残されていた。

 

 

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