転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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172話 騎士(ナイト)の誇りにかけて

~~~~大魔宮(バーンパレス) 尾翼~~~~

 

「さあ、氷の賢者ポップ。君をハドラー様のもとに行かせるわけにはいかない。君にはここで私の相手をしてもらうぞ……!」

 

シグマは俺にそう宣告すると同時に、胸部から『シャハルの鏡』を取り外し、それを左腕に装着する。そんな戦う気満々のシグマに対し、俺は1つ提案を試みた。

 

「なあ、シグマ。そういう事なら尚更、俺達戦いをやめないか?」

 

俺の提案に、シグマは槍を構えたまま不審そうな表情を顔を浮かべた。

 

「何を言っている? 君の助力があれば、勇者はより一層その力を発揮するだろう。ハドラー様のためにそれは――」

 

「だから、それは無いって言っているんだよ。何故なら、俺がダイの元へ駆けつけた所で、肝心のダイが俺の援護を拒否するに決まっているからさ」

 

シグマの言葉を遮り、俺は提案の中身を説明する。

 

「お前が言ったように、ハドラーが最後の生命(いのち)を燃やしてダイに一騎打ちを挑むと言うのなら、ダイは恐らくそれを受けるだろうさ。あいつはそういうやつだ。だから、お前が必死で俺をここに食い止める事は意味が無いんだよ。だって、あいつは一騎打ちの最中に俺の援護を求める奴じゃないから」

 

「馬鹿な……! 君と言う賢者がいて、そのような選択をするはずがあるまい!」

 

「おや、お前はハドラーを崇拝していると思っていたが、どうやら違ったようだな?」

 

「――何を!」と激高するシグマを俺は静かに諭す。

 

「お前達の崇拝するハドラーが最後の生命(いのち)を燃やして戦う事を熱望するのが、勇者ダイなんだぜ? 俺が駆け付けた所で、ダイがこれ幸いと俺に援護を求めると思うのかい? その可能性を疑うと言う事は、ひいてはハドラーの人を見る目を疑うという事に繋がるんじゃないのか?」

 

俺の言葉にシグマは、「む……」とうなり声を上げ、押し黙る。

 

「それにな、シグマ。実のところ、俺はハドラーに恩義を感じているんだよ」

 

「恩、だと……? 敵に対して何を言っているのだ、君は……」

 

「敵……か。そうだな、単純にアバン先生の仇、憎い魔王軍の1人、と今でもハドラーの事を思えたら楽だったんだけど、あんな風にダイを守られちゃったら、なかなかそうもいかないんだよな……」

 

そして俺は、前回大魔宮(バーンパレス)に乗り込んだ時に、ハドラーがバーンの命令を無視して造反した時の様子をシグマに語る。

 

「……そんな事が。フッ、フッフッフ。『勇者との戦いは、全てに優先する』、か。ハッハッハ。実に痛快だ。良い話を聞かせてもらった事を感謝するぞ、ポップ!」

 

「そいつはどうも。そんな訳で、俺はハドラーに対して恩を感じているんだ。だから、俺はこんな事はあり得ないと思うが、ダイがハドラーとの戦いを拒否したら、ハドラーと戦ってあげるよう俺からダイに頼み込んでも良いとすら思っている」

 

ようやくシグマも俺の提案に一理ある事を飲み込み始めたようだった。相変わらず槍の矛先は俺に向けられたままだが、思案に沈み始めた。良い感じだ。

 

さあ、止めを刺そう。実を言うと、この提案には一つ隠れた狙いがある。それは、魔法力の温存だ。俺はダイがハドラーに1対1で負けるなんて露程も思っていない。あいつはきっとハドラーに勝ってくれるはずだ。

 

……と言う事はだ、ハドラーが倒れると言う事は、奴に生み出された禁呪法生命体であるシグマも同時に倒れると言う事だ。ここで頑張って魔法力を浪費してまで厄介極まりないシグマを倒さなくても、ハドラーに追随してシグマは勝手に倒れるんだ。……先は長いんだ。俺の鞄の中にはロモスから送られた虎の子の『魔法の聖水(濃縮版)』が3本入っているが、できるだけ魔法力の温存を図るに越した事はない。

 

「……見に行こうぜ、シグマ。互いの大将の一騎打ちを特等席でな……」

 

俺はシグマの答えを静かに待つ。正直、相手がこいつでよかった。これが粗野な言動の多かったヒムや、残虐性の高かったフェンブレンが相手では交渉自体が成立しない可能性もあった。

 

それほどの時間をかけずに、シグマが言葉を発した。

 

「君の提案は実に興味深い。だが、1つ懸念がある。たとえ勇者が君の支援を拒否しても、君なら無理にでも勇者に支援が出来るのではないかね?」

 

「それをして俺にどんなメリットがあるんだ? 確かにそれをすれば、確実にハドラーを倒せるかもしれない。だけど、まだミストバーン、キルバーン、そしてバーンと強敵が残っているんだ。ここで肝心要の勇者との関係性が崩れても、続く強敵との戦いを乗り切れると、俺がそんな楽観的な計算をしていると言うのか、お前は?」

 

「ふむ……。確かに、な。勇者一行(パーティー)の頭脳とまで呼ばれている君だ。それは確かになさそうだ。君が、ハドラー様が倒れる事で労せずに私を倒す事ができる、と皮算用を弾いているとしてもな……」

 

げっ……。ばれてるよ、おい……。

 

「な……なんの事かな……? そんな事、俺はこれっぽっちも考えてなかったけど……」

 

「フッ……。ごまかさなくても良い。君は、冷静沈着な思考と情に厚い激情を共存させている稀有な人間。逆に、だからこそ私は君の言葉を信じてみようと思ったのだ。打算の有った方が、むしろ信じられるというものだ。……良いだろう、君の提案に乗ってやろう」

 

おおっ! やったぜ、戦闘回避成功だ。いやー、言ってみるもんだな。

 

「じゃあ、さっそく……「やれやれ、やはりその男の口車に乗せられましたか……」」

 

――!?

 

突然投げかけられた言葉に、俺は周囲をキョロキョロと見回す。シグマも俺と同じく驚愕の表情を浮かべていた。

 

「誰だ!?」と叫んだ俺の言葉に、上空から返事がかけられた。

 

「私ですよ。親衛騎団アルビナス……。氷の賢者ポップ、あなたの首を頂きに参りました」

 

 

 

「どういう事だ、アルビナス! 君はハドラー様のお側でその最後の戦いに立ち会う事を求められていたはずだろう!」

 

シグマのその問いにアルビナスは、何故か無言でただ冷笑を返しただけだった。地面に降り立ったアルビナスを、シグマは更に問い詰める。

 

「氷の賢者は私が担当する事が決まっていたはず! 何故――」

 

「それですよ、シグマ」

 

アルビナスの言葉に、僅かに首を傾げるシグマ。

 

「氷の賢者は、勇者一行(パーティー)の中で異質の存在です。私が自分の持ち場を離れてまでここに来たのは、あなたがこの男に先ほどのように口先三寸で丸め込まれた時に、私があなたに代わってこの男の相手をするためというのがまず一点」

 

まず一点、ね……。当然、二点目があるんだろうな……。やれやれ、嫌な予感がし始めたぞ。

 

アルビナスはそこで言葉を区切り、俺の顔をじっと見つめて続けた。

 

「そして二点目ですが、勇者一行(パーティー)の中で最もその首に高値がつくのが氷の賢者だから、ですよ。フフフフ……」

 

「な!?」と絶句するシグマをよそに、俺はアルビナスに問いかける。

 

「高値、と来たか。そいつは光栄だね。しかし、そういうからには、当然俺の首を高値で買い取る上客にも当たりが付いているんだろう? そいつは誰かな?」

 

「クスクスクス。決まっているでしょう? 大魔王バーンですよ」

 

やはり、な……。しかしだとすると、こいつはハドラーの(めい)に……。

 

「馬鹿な!? 大魔王バーンは、ハドラー様のお身体に黒の核晶(コア)を埋め込んだ男ではないか! 何故大魔王のためにこの男の首を欲するのだ! ――答えろ、アルビナス!!」

 

「簡単な事です。ハドラー様はこのままでは死ぬ……。それは誰にも止められない。……だが、大魔王バーンなら話は別です。バーンの超魔力ならば、ハドラー様をお救いする事が出来るかもしれない。この私が1人で氷の魔術師や戦士、武闘家を、そして勇者をも始末する……! その上でバーン様に懇願するのです。……ハドラー様を救ってほしいと!!」

 

「何を言っているのだ、アルビナス……。ハドラー様から、勇者には手を出すなと言う指令が下っているだろう……。それを……!」

 

「……なるほどね。それはお前の独断って訳だ。そのついでに、俺の首を持ってハドラーの所に戻り、ダイに揺さぶりをかけたりって事も考えていそうだな。それならハドラーの、手を出すなという(めい)にも背いた事にならないしな」

 

アルビナスは俺のその問いかけにただ冷笑で返してきた。……ふー、仕方ないな。結局、戦いになるのかよ。

 

肌のひりつくような緊張が、俺とアルビナスの間を走った。しかしその時、まるでアルビナスから俺を庇うかのように、シグマが俺とアルビナスの間に立ちはだかった。

 

「シグマ……、何のつもりですか? あなたに用はありません。下がりなさい」

 

「……断る。ハドラー様の指令に背き、大魔王におもねる君の行動は容認できない。ましてや、この男の首で勇者の動揺を誘うなどと聞いてはなおさらだ。ハドラー様が生命(いのち)をかけた勇者との一騎打ちを、君は汚すつもりか!」

 

そのシグマの言葉に、アルビナスは一瞬両目を大きく見開いた。そして手を口に当てて、さもおかしげに高笑いした後、常に冷静沈着なアルビナスには珍しく激高する姿を見せた。

 

「大魔王におもねる? 私が大魔王におもねると……? クスクスクス。これは可笑しな事を。勇者との一騎打ち? 下らない……! たとえその戦いに勝った所で、ハドラー様にその先は無いではないか! そこをどきなさい、シグマ! その男の首さえあれば、大魔王はハドラー様を許すかもしれないのですよ!」

 

「断ると言った! ハドラー様のために、この男の首は渡さん……!」

 

アルビナスとシグマの間に激しい舌戦が繰り広げられる。先にしびれを切らしたのはアルビナスだった。

 

「……いいでしょう。あくまで私の邪魔をするというのなら、まずシグマ。あなたから排除するまで……!」

 

そのアルビナスの言葉に、初めてシグマがその槍の矛先をアルビナスに向けた。

 

「……本気のようだな、アルビナス。ならば騎士(ナイト)シグマ、全力をもって君を止めて見せよう!」

 

 

 

そうして、想像だにしていなかった親衛騎団同士の、激しくも……悲しい戦いが幕を開けた。

 

 

 

最初に動いたのはシグマだった。その圧倒的な跳躍力で瞬時にアルビナスとの間合いを詰め、手に握った槍を矢継ぎ早に突き出す。それをアルビナスは後退しつつ軽やかに躱していくが、アルビナスが劣勢なのは明らかだった。

 

そもそもアルビナスには両手が存在しない。外装のようなオリハルコン製のコートを肩からすっぽりとかぶっているのみで、どう見ても接近戦が得意なタイプには見えない。親衛騎団の中では最強の駒女王(クイーン)で通っているが、あいつの持ち味はおそらく情報収集及びその分析、または指揮能力と言ったところなのだろう。端的に言ってしまえば、俺のような後衛タイプだ。

 

逆に騎士(ナイト)シグマは、バリバリの前衛タイプだ。瞬時に敵との距離を詰め、手に持ったオリハルコン製の槍で敵を貫き、守っては『シャハルの鏡』で物理的にも魔法的にも敵の攻撃を完全にシャットアウトする。

 

はっきり言って、アルビナスにとってシグマは相性が悪すぎる相手だ。

 

「アルビナス、なぜ同じ親衛騎団同士で戦わねばならないのだ! 今からでも遅くはない! ハドラー様の元へ戻れ! 君には、我々の目となってハドラー様の最後の戦いを見守ってもらいたいのだ!」

 

「――くどい! 見守ってどうなる!? あの方の身体は、ただ朽ちていくだけの魔獣の身体ではないか! 私の考えは変わらない! あなたこそ、そこを退きなさい! ――クッ!!」

 

シグマの突き出した槍が、アルビナスのオリハルコン製の外套の裾を穿つ。砕かれたオリハルコンが、キラキラと細かな破片となって宙を舞った。

 

俺は2人の戦いを傍観しながら、悲しい戦いだな……と感じていた。そして同時に、やはりハドラーは化けたな、とも。師匠が言っていた。術者によって禁呪法で生み出された存在は、術者の性質をよく反映する、と……。

 

あの2人、いや、あの2人に限らず親衛騎団全員に言える事だ。彼らは、かつて同じくハドラーによって生み出されたフレイザードとは比べようもないほど高潔に、そして真摯にハドラーに忠誠を誓っている。

 

こういう出会い方をしていなかったら、あるいは俺達と共同戦線を張る事だって出来ただろうに。

 

「――これで!」

 

防戦一方のアルビナスを塔に追い詰めたシグマが、大きく手の中の槍を後ろに引いた。しかしアルビナスは、その槍が突き出される直前、ただ一言「……ニードルサウザンド」と呟いた。

 

次の瞬間、アルビナスの全身から、針のような細さの無数の閃光が放射され、シグマの身体に叩き込まれた。あの閃光は、まさか閃熱呪文(ギラ)の光か? しかし、あの量は……。

 

「グアッ!」

 

アルビナスを追い詰めていたシグマが、その無数の閃光を浴びて後ろに吹き飛ばされる。大地に横たわったシグマは、全身から煙をたち上らせながら苦しそうに起き上がろうとする。

 

おいおい、あの閃光、オリハルコンの身体を貫いたのかよ……。ツーと俺の頬を冷や汗が流れた。シグマの身体を見れば分かる。そのオリハルコンの身体の表面には無数の小さな穴が穿たれ、高熱によってただれていた。それを先ほどアルビナスが放った無数の閃熱呪文(ギラ)がやった事は、一目瞭然だった。

 

「私のニードルサウザンドは極大閃熱呪文(ベギラゴン)を拡散して放つ技。これほどの至近で受ければ、いかにあなたとて無事では済みませんよ」

 

「クッ! ば、馬鹿な! 君のその技は承知していたが、まさかオリハルコンの身体をも傷つけるとは……!」

 

槍を杖代わりにしながらどうにか立ち上がったシグマが、アルビナスに問いかける。

 

「フッ。勉強不足ですよ、シグマ。我々、親衛騎団同士ならば互いの技で互いを傷つける事ができるのです。さあ、もう十分でしょう。下がりなさい、シグマ」

 

そして、シグマを退けたアルビナスが俺に怜悧な視線を向けた。ちっ、やるしかないか! 凍てつくような殺気を感じた俺は、再び戦闘態勢を取った。

 

 

しかし……。

 

「ま、待ちたまえ……アルビナス。まだ……終わってはいないぞ」

 

よろめきながらも、再びアルビナスと俺との間にその傷ついた身体を進めるシグマ。

 

「シグマ……。もういいよ。アルビナスの狙いは俺なんだ。後は俺が対処する」

 

どう見ても勝負はついたように見える。これ以上シグマの背中に庇われるのに抵抗を感じた俺は……、いや、違うな。俺は、これ以上2人が傷つけあうのを見たくなかったんだ。こんな悲しい戦いで、仲間同士で傷つけ合うのを見るのはもうたくさんだ。

 

しかし、俺の制止の言葉はシグマに届かなかった。

 

「邪魔をするな、ポップ! これは、私の誇りとアルビナスの誇りをかけた戦いだ。君には関係ない……!」

 

その覚悟を決めた言葉に、俺は伸ばしかけた右手を戻さずにはいられなかった。

 

「シグマ……、それほどまでに私の考えを否定しますか。いや、それがあなたでしたね。私達の誰よりも騎士道精神を重んじ、主にただひたすら忠誠を尽くす。私などよりあなたの方が、よっぽどあの方の隣に立つのにふさわしいのでしょう」

 

そう言って悲しげに顔を伏せるアルビナス。しかし次の瞬間、決然と顔を上げてシグマを見据えて吠えた。

 

「しかし……! あの方を思う気持ちだけは、私は誰にも負けていない! あの方をこのまま死なせはしません。たとえ全ての者に裏切り者と罵しられても、私はハドラー様のためだけに動きます……!」

 

ドンッ!

 

どこにそんな力が残っていたのか、シグマが凄まじいスピードでアルビナスに向かって駆けた。そして魂の雄たけびを上げる。

 

それをハドラー様が望んでいないと何故分からないのだ、アルビナァーース!!!

 

分かった上で、私はあの方のために動いているのです! あなたこそ何故それが分からないのか、シグマァッ!!!

 

シグマの叫びに応えるアルビナス。鬼気迫る勢いで自身に肉薄するシグマに、アルビナスは後退しつつ先ほどの技を放った。

 

「次は手加減しません! ――ニードルサウザンド!!」

 

後退しながら放ったアルビナスの全身から、無数の閃熱呪文(ギラ)がシグマに向かって放たれた。しかし、それを見てもシグマは全く速度を緩めることなく、さらに加速する。

 

「――手加減など、誰が望んだかぁッ!!」

 

無数の閃光がシグマに届く寸前、シグマが左手に握ったオリハルコンの槍を円を描くように高速で回転させた。そしてそのままそれを身体の前方で構え、ニードルサウザンドの閃光を防ぐ盾としながら、アルビナスに突進する。

 

「――クッ!」

 

閃光をやり過ごしアルビナスの懐に入り込んだシグマは、オリハルコンの槍を宙に放り投げ、その勢いのまま手首から先を外した右腕をアルビナスの外装の胸元に突き込んだ。

 

「私達の技は、互いの身体にも通じると言ったな!! ――ライトニングバスター!!」

 

バキバキバキッと、オリハルコンの砕ける音がアルビナスの身体の内部から聞こえた。そして、ピシッという音が発せられたかと思うと、シグマが右腕を突き込んだ部分を中心に、アルビナスの身体の表面に無数の亀裂が入り始めた。

 

その亀裂はとどまることなく、アルビナスの身体全体に及び始める。

 

「……残念だよ、アルビナス」と、アルビナスの身体に生じた亀裂から目を背けながら、静かにそう口にするシグマ。

 

しかし、戦いはまだ終わっていなかった。

 

「……私も残念ですよ、シグマ。本当に……」

 

「――!?」

 

アルビナスの徐々に崩壊し始めていた外装の内側から突然何かが飛び出し、それはそのままシグマの大きく開いた胸部に突き刺さった。

 

「ガフッ!! ば、馬鹿な……! こ、これは腕か!? ア、アルビナス、君は……!」

 

そう、それはアルビナスの右腕だった。その手刀に胸部を貫かれたシグマは、驚愕の表情を浮かべた。

 

「さぞかし驚いたでしょうね。何しろこの姿は、あなたはおろか、ハドラー様にもお見せした事がありませんからね。ご安心を。(コア)は貫いていません。ですが、あなたにはこのまま大人しく眠っていてもらいましょう……。――サウザンドボール!!」

 

ドォォォォォーーーーーン!!

 

「――グァァァァ!!」

 

左腕に溜めた光弾をそのままシグマの身体に押し付けるように放ち、凄まじい爆発と共にシグマを吹き飛ばしたアルビナス。

 

サウザンドボール……。あの威力からすると、極大閃熱呪文(ベギラゴン)クラスと言った所か。威力は俺の方が上だと思うが、連射性能では確実に負けているな。その上、スピード自慢のシグマを凌ぐほどのあの機敏な動き。まさか外装の下に、あんな隠し玉を持っていたとは……。

 

 

 

 

サウザンドボールによって吹き飛ばされたシグマは、背後の壁に激突したまま意識を失ったようだった。シグマ……。止められなかったか……。さぞかし無念だろうな。

 

アルビナスはしばしそんなシグマを見つめていたが、直ぐに俺に視線を向けた。

 

「さあ、お待たせしましたね。……残念ですよ、ポップ。できる事なら、あなたと敵対したくはありませんでした。あなたが、その魔力でハドラー様の命を延命できるというのでしたら、私はあのような卑劣な男の手ではなく、あなたの手を取っていたでしょう」

 

卑劣な男の手だと……? それはザボエラ……、いや、違うな、おそらくあの男の事だろうな。しかし、ハドラーの延命か。ここで『ハドラーの延命なら任せておけ』、などと出来もしない事を口にすると、この場を収める事ができるのだろうか。

 

だけど……。俺はそっと嘆息しながら、「……すまない、アルビナス。俺にハドラーの延命は出来ないよ」と口にする。

 

「フッ。正直ですね、ポップ。詭計をめぐらす事に長けたあなたですが、ときに驚くほど無警戒な言動で周囲を困惑させる。そんなあなたを、私は嫌いではありませんでしたよ」

 

……俺もだよ、アルビナス。

 

「……なあ、1つだけ聞かせてくれないか。お前達親衛騎団には、性別があったりするのか?」

 

「フッ。あなたらしくもない愚問ですね。我々のように禁呪法生命体として生まれた存在には、性別などありはしませんよ。あるのは、ただハドラー様への忠誠心だけ……」

 

「……そうか。つまらない事を尋ねたな」

 

「いえ……。私からも1つだけ言わせてください。私はハドラー様の副官に任ぜられたその時から、あなた達アバンの使徒の記録には全て目を通し、分析しました。その上で言わせていただきます。氷の賢者ポップ……。あなたは、アバンの使徒達の中であまりにも異質です」

 

「異質……。さっきもシグマにそんな事を言っていたな。それは、誉められているのかい? それとも(けな)されているのかな?」

 

俺の問いに、アルビナスはフッと口角を上げた。

 

「そうですね、どちらかと言えば誉めていますよ。あなたの洞察力、判断力は元より、パーティーを纏める指揮能力に作戦立案能力と、どれをとっても抜きんでています。しかし驚くべき事にそれらはあなたの本質の余剰部分でしかない。私があなたを異質と判断するのは、その発想力です。型に囚われない自由な発想、それがあなたの戦闘能力の根幹に揺蕩っています。その発想力は、ともすれば大魔王をも凌ぐほどです」

 

……発想力ねえ。まあ、こことは違う文明下で生きた記憶がある分、引き出しは多い方なんだろうけど。でも、別にそれは俺の境遇が特殊なだけで俺自身が凄い訳でもなんでもないから、くすぐったくてしょうがないな。

 

「死神が(ドラゴン)の騎士バランの暗殺に成功したらしいですが、私から言わせれば、彼は(ドラゴン)の騎士などより、あなたの暗殺の方を優先すべきだったとすら思っていますよ」

 

その過大な評価に、俺は思わず吹き出してしまった。

 

「くっ。そいつは過大な評価ありがとうよ。それで、俺の首をバーンに持って行くという話は無くなったのか?」

 

「とんでもない。だからこそあなたの首には価値があるのです。……無駄話が過ぎましたね。どうですか? あなたが大人しくその首を差し出せば、痛みを感じさせる事無く切り落としてやりますが……?」

 

「お前の分析では、そう言われたら俺は大人しく首を差し出す男なのか?」

 

「……いえ、私の分析では、あなたは今この瞬間も私に勝つための戦略を水面下で構築しようとしているはずです」

 

「ははっ! ――良い読みしているじゃないかっ!! ――はっ!!」

 

魔力を纏わせる事で一瞬で5mほどの長さに伸びたブラックロッドを横薙ぎに振るう俺。その奇襲をアルビナスは涼しい顔で躱す。

 

「そうですね。詮無きことを言いました。さあ、始めましょう、氷の賢者ポップ。あなたの首を、敬意をもって落として見せましょう……!」

 

 

 

こうして、親衛騎団最強の駒『女王(クイーン)』アルビナスと俺の戦いの幕が切って落とされた。

 

 

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