「いけませんねー、ポップ。ただでさえ影の薄い師匠の、数少ない見せ場を奪おうとしては」
その声が俺の背後から聞こえた瞬間、俺は
そこには、俺がずっと再び相まみえる事を切望していたあの人がいた。
「……嘘、だろう……?」と、思わず呟いていた俺の目に、同じように驚愕に目を見開いているハドラーの姿が映った。
「アバン……だと……。馬鹿な……、お前はあの時確かに……」
そして、「アバン先生……」と呟くダイの声も俺の耳は確かに拾った。
幻覚じゃ……ない? いや、しかし、そんな馬鹿な……。アバン先生が生きているはずがないんだ。アバン先生の代わりに俺は生かされたんだから。
時が止まったように感じていたのは俺達だけではないようだった。キルバーンや周囲のアンデッド達まで微動だにせず、まるで散歩するかのようにこちらにゆっくりと歩いてくるアバン先生を見つめていた。
「ポップ、少し下がってください。その先は、私がやります」
「……え、うぇ? あ、い、いや。で、でも……」
呆然としている俺のそばに、いつの間にかアバン先生が立っていた。そして、泡を喰っている俺の肩をアバン先生はそっと押して、輝聖石に囲まれ
「ふむふむ……。うん、完璧な魔法陣ですね。さすがはポップ。ベリーグッドですよ。ですが……」
俺が展開した魔法陣をざっと検分しそう評したアバン先生は、次いで魔法陣の周囲においてある輝聖石に視線を固定し、こちらには苦言を投げかける。
「……ですが、この輝聖石はいただけませんね。これ、偽物ですよ?」
「に、偽物ッ!?」
驚愕の表情を浮かべる俺にアバン先生はフッと微笑む。
「ええ、1つは本物ですが、残る3つは精巧に作られた偽物です。これを作ったのは、おそらく私の旧友でしょうね」
「……」
驚きのあまり二の句が継げない俺。聞こえるはずもないが、何故か俺の耳に『くくっ。俺を出し抜こうなんざ100年早え!』と言う不敵な声が届いた気がした。
アバン先生は俺に視線を投げた後、腰のポケットから銀色をした鳥の羽のようなものを数本指に挟んで取り出した。羽の根元側には、小さな輝聖石が嵌め込まれているように見える。
「私にはこれがあるので、輝聖石が無くても問題ありません。さあ、弟子がここまでお膳立てしてくれたのです。その醜悪な異形の門を打ち砕かせていただきましょう……!」
そう言って、アバン先生は厳しい視線を階段の上の『冥界の門』に向けた。
アバン先生は皆が呆然と見つめる中、指に挟んだ銀色の鳥の羽を魔法陣の周囲に打ち込んだ。次いで右腕を高く掲げたかと思うと、次の瞬間その右腕を足下の魔法陣めがけて振り下ろした。
「……邪なる威力よ、退け! ――
途端に、ブワッと緑の清浄な波動がアバン先生を中心に発生した。そのショックウェーブは、あれほど倒れては蘇るという事を繰り返していたアンデッドと化した魔物達を、瞬時に粉微塵へと変えていく。
そして、そのショックウェーブが『冥界の門』に達した瞬間、ズーンという大きな音を立てて門が脈動した。次の瞬間、門が上部からサラサラとゆっくりと崩れ始めた。その粉は上空を吹く強い風に煽られ、高く大空へ舞い上がっていく。
「『冥界の門』が、まさか……そんな……」
ワナワナと震えるキルバーンが、燃えるような視線をアバン先生に向けるが、アバン先生はその視線を涼しい顔で受け流す。
「『冥界の門』……ですか。かつて耳にした事はありましたが、想像以上に醜悪な力ですね。死して眠りについていた亡者を無理矢理目覚めさせ、己の目的のためだけに使役する。これが冥竜王ヴェルザーの力だとすれば、そのヴェルザーの品性に疑問符をつけざるを得ませんね」
「……貴様。冥竜王は、大魔王様と並び立つほどの権勢を誇った魔界の覇者だよ。たかが人間如きが彼を評するのは感心しないね」
「冥竜王ヴェルザーの事なら、承知していますよ。何やら、今は天界でその身を封印された状態だとか。そのような状態でこの戦いに関与しようとは、未だにこの大地に未練がおありなようですね。ああ、ご挨拶が申し遅れました。私の名は、アバン・デ・ジニュアール3世。憚りながらここにいる彼らの師をさせて頂いておりました。短いお付き合いになるかもしれませんが、どうぞお見知りおきください」
俺の隣で、腰に手を当てて優雅に自己紹介するその姿は、俺の記憶にある在りし日の先生の姿と完全に重なっていた。
「これは、ご丁寧に。では僕も自己紹介を。僕の名は大魔王バーン様の配下 キルバーン。彼らアバンの使徒、とりわけ氷の賢者君とは仲良くさせてもらっているよ。ウフフフ……。そしてこちらは……使い魔のピロロ。ピロロ、挨拶を……」
「勇者アバン、勇者アバンが生きていたよ! びっくりだねー、キルバーン♪」
「大魔王バーンの配下……ですか。ですが、先ほどからのあなたの言動とその冥界の門の力を行使した所を見ると、どうやらあなたの忠誠心はもう一人の方にも向いている様ですね。いや、……最初からあなたの忠誠心はバーンでは無く――」
「そこまでだよ、アバン君」
アバン先生の言葉を遮り、キルバーンが剣呑な気配をその身に纏わせる。
「なるほど、君の愛弟子の氷の賢者君には随分と苛立たしさを感じたものだが、それは師匠譲りだったという訳だ。是非君とも交友を深めたいところだけど、まずは急ぎバーン様に報告しなければいけないね。せっかく会えたばかりだけど、これで失礼させてもらうよ、アバン君。シーユーアゲイン♪」
そしてキルバーンとその使い魔ピロロはスッと俺達の前から姿を消して行った。後に残ったのは、ゆっくりと崩壊しつつある『冥界の門』だけだった。
その様子をじっと見つめていたアバン先生は俺達を振り返る。
「さて、皆と親交を温めたい所ですが、少し待ってくださいね」
そう言って、アバン先生はハドラーの側に膝をつきハドラーの身体をその腕の中に包み込んだ。
「まさか私の弟子達が、あなたを庇うように戦っているとは……。ふふふ。いったい、あなたと彼らの間に何があったのでしょうね」
ハドラーは、微笑を浮かべているアバン先生を呆然と見上げていたが、直ぐに同じように笑みを浮かべた。
「フッフフフ。どうやら本物のようだな。まさか最後の最後でお前と再会するとは……。人間どもの神も粋な事をしてくれる」
「ハドラー……」
「アバン、大魔王バーンは恐ろしい男だ! 情けは捨てろッ! 冷徹になれッ……! お前が……、お前の力こそがこれからのダイ達の戦いに必要なのだッ!」
そう言葉を発している間にも、ハドラーの身体がボロボロと崩れていく。とっくに朽ちていてもおかしくなかった身体が、今ここに来て限界を迎えたようだ。
「……素晴らしかったぞ。お前の残した弟子たちは……! 俺の生き方すら変えてしまうほどにな……!!」
そしてハドラーは、シグマにも視線を投げかける。その時にはもうハドラーの身体は、半ば灰と化していて、ほとんど原型をとどめていなかった。
「シグマ、もはや親衛騎団はお前だけとなってしまったようだ。これまでのお前達の忠誠に心より感謝する。叶うなら、これからは俺に変わってアバン達の力になってやってくれ。それが俺の最後の命令……いや、願いだ」
「……ハドラー様?」とシグマが問いかけるが、その時にはハドラーの身体は既に完全に灰と化して空に舞い上がっていっていた。
ハドラーの最後を看取ったアバン先生がすっくと立ち上がった。そして俺達を見渡し、見慣れた優しい笑顔を向けてくれた。その笑顔につられて、立ち上がったダイやマァムが先生に抱きつく。姫さんはその様子を涙を浮かべて見つめていた。
「先生……会いたかった。死んじゃったかと思っていたんだよ、俺」
「私もです。ポップ達から先生が死んだって聞いてどれほど悲しかったか……」
アバン先生は、涙ぐむ2人を見つめてニコッと笑みを浮かべる。
「すみません、ダイ、それにマァム。私にも事情があったのです。ですが、見違えましたよ、2人共。ダイはもう、立派な勇者ですね。マァムは、まさか武闘家になっていたとは思いませんでした。2人ともこれまでよく頑張りましたね」
アバン先生は、2人の頭に手を置いてそう労いの言葉をかけている。その様子を俺は、1人離れた所から見ていた。本物だ……。最初はザボエラあたりが、
不意にダイとマァムが何かに気が付いたように俺を振り返り、不思議そうな顔をする。
「ポップ、どうしたの? アバン先生だよ、嬉しくないの?」
「そうよ、ポップ。そんな所で突っ立ってどうしたの?」
嬉しくないか、だって? 嬉しいよ、嬉しくない訳がないだろう。だけど、何だよ、俺のこの腹立たしさは……!
俺は、キッとアバン先生を睨みながら先生に近づいた。アバン先生は、抱き留めていたダイとマァムをそっと離し、穏やかな表情で俺を迎える。
アバン先生の前まで足を進めた俺は、そんなアバン先生の襟元を両手で引っ掴み、大声を張り上げた。
「ぐぅッ! い、生きていたなら、どうして……どうして今まで俺達の元へ帰って来てくれなかったんですか!? 俺がどれだけ……!! い、いや、俺の事なんかより、皆がどれだけアバン先生が死んだと思って悲しんだか、辛い思いをしたか、……あなたは分かっているんですか!!」
思いの丈をぶちまけた俺はアバン先生の胸に顔を押し付け、硬く握りしめた拳で先生の胸を叩いていた。およそ師に対して行って良い行為では無かったが、アバン先生は黙って俺のその行為を受け入れている。
う、うう……。違う、こんな事を言いたかったんじゃないんだ。俺もアバン先生の無事をただ本当に喜びたかったんだ。だけど……。アバン先生に対する申し訳なさで、俺は顔を上げられなくなってしまった。
そんな俺達にマァムが声を投げかける。
「アバン先生……。ポップは、アバン先生の死を他の誰よりも悲しんで、先生が死んだのは自分のせいだとずっと自分を責め続けていました。だから、ポップの……ポップの問いにだけは、正面から向き合っていただけませんか?」
「マァム……。いや、俺の事は……」
思いがけないマァムの言葉に俺は戸惑ったが、ダイもマァムに続いてアバン先生に訴えるように口を開いた。
「そうだよ、アバン先生。ポップは、ずっとアバン先生の代わりをしようと頑張ってたんだよ! ここにはいないけれど、ヒュンケルもポップに助けられたようなものなんだよ……!」
「ヒュンケル? まさか、あの子もここに……?」
「はい、ヒュンケルは今もミストバーンと……」
マァムがアバン先生にヒュンケルの事を説明する。
「ポップは私達の誰よりも先生を求めていたんです。先生ならどうするかっていつも考えて、いつも必死で……。お願いです、先生。ポップの言葉に、しっかりと答えてあげてください……!」
アバン先生は、マァムの言葉を噛みしめるように一度瞑目した後、俺の顔をしっかりと見て答えてくれた。
「……ポップ、あなたには大変な重荷を背負わせてしまったと思っています。本当に申し訳ありません。あなたの質問に答えさせていただきますね。どうして私があなた達の元へ戻らなかったか、という問いですが、その答えの一つは、あなた達の成長を促したかったためです」
「成長を促したかった……」
「そうです。ダイの潜在能力は計り知れないものがありました。その潜在能力はデルムリン島の時点で私を凌駕するほどに。それに気が付いた私は、このまま私がダイの指導を続けるより、むしろ私がいない方がダイの潜在能力を最大限に開花させられると考えました。」
「じゃあ、先生は俺のために……?」とダイはアバン先生に問いかけるが、先生は首を左右に振った。
「ダイのためだけではありません。それは同時に、ポップの成長を促すためでもありました」
アバン先生はダイの顔を見つめた後、俺に顔を向けた。
「ポップ、あなたは私との旅の間、常に師である私を立てる行動を取っていました。あなたが自己を主張すれば、私以上に周囲に影響を与えられるのに、あえてそれを抑えるかのように振る舞って……」
俺はアバン先生のその言いように思わず反論していた。
「そんな事はありません……! 俺は、本当にアバン先生の元でたくさんの事を教わって……」
「……確かに、私があなたに教えられる事も少なくはなかったでしょう。ですが、師思いのあなたは大事な場面ではいつも私を立てたり、判断を私に委ねるような消極的な態度を見せていました。
私はそれではいけないと考えたのです。私を超えない事を、たとえ無意識でも自らに課しているようでは、私などよりはるかに強大な大魔王には勝ちえない。そう考えた私は、ポップの前から姿を消し、あなたが自らに課した私という枷を外そうと考えたのです。
私という枷がなくなれば、あなたは私などよりはるかに高い所まで手を届かせうるという確信を持っていたから……」
アバン先生はそこで一呼吸を置いて、俺の肩に手を置いた。
「……いいですか、ポップ? いつまでも師を立てる弟子のままでいる事が、師に報いる道ではないのです。弟子が師を飛び超えてその先に進む事こそが、真に師が弟子に望む事なのです」
「アバン先生……」
俺は、アバン先生の俺の成長を願った言葉に、また涙が溢れてくるのを感じた。そんな俺を、アバン先生は優しく抱きしめて言った
「ですが、そのためにあなたに辛い思いをさせてしまった事は事実です。本当に申し訳ありません。そして……ありがとうございます。あなたという弟子を持ち得た事を、私は心から誇りに思います」
う、うう……。駄目だ、また涙が出てきた。俺、最近泣いてばかりだ。でも、嬉しい。アバン先生と、まさかこうしてまた触れ合う事が出来るなんて思ってもいなかったから。ただただ嬉しいよ、アバン先生。
「泣き止みましたか、ポップ? それじゃあ、そろそろ先に――」
「お待ちいただきたい!」
アバン先生の言葉を遮って、突如制止の言葉が飛んだ。一歩を踏み出しかけていたアバン先生は、およっとした顔で、思わずつんのめりかけている。
その言葉を発したのは、シグマだった。
「取り込み中申し訳ないが、どうしてもお聞きしたい。ハドラー様に禁呪法で生み出された私は、ハドラー様が亡くなられると同時に、命を落とす運命だったはず。それが何故、私はまだこうして生きているのだ!?」
そのシグマの真っすぐな問いかけに、アバン先生を含む皆が『お前に任せる』と言いたげな視線を俺に向ける。うーん、まあ、仕方ないか。俺は頭をポリポリと掻きながら、シグマに話しかけた。
「何故生きているかって質問だけど、そんなの決まっているだろう? お前はもう禁呪法生命体じゃあ、なくなったんだよ」
「何を馬鹿な!? 我々親衛騎団は、皆がハドラー様から生み出された存在。それは君もよく知っているはずだ……!」
「うん、だから最初は禁呪法で生み出された存在だったかもしれないけど、今は違うんだよ。ほら、その証拠にお前がアルビナスと戦った時に負った傷、今は癒えているだろう? それは俺がお前に回復魔法をかけたからだけど、禁呪法生命体なら回復魔法では治らないだろう? それが治っているって事は、お前はもう禁呪法生命体でないって事なんだよ」
シグマは、俺の言葉に今初めて傷が癒えている事に気が付いたようだ。自分の身体を、目を見開いて見つめている。
「い、言われてみれば確かに……。しかしポップ、いったい君は、いつ私に回復魔法をかけたのだ?」
「そんなの、お前におぶさっていた時に決まっているじゃないか。お前の事だから普通に回復魔法をかけてやるって言っても必要ないって断っただろう? だから俺はお前におぶってもらっている間に、お前に気づかれない様に少しずつ回復魔法をかけていたんだよ」
俺の言葉に、シグマばかりかマァム達まで驚愕の表情を浮かべた。
「な、何だよ、皆? まさか俺がへばって動けないからシグマにおぶってもらっていたと、本気で思っていたんじゃあないだろうな?」
「「「「思うに決まっているでしょ!/思っていたよ/思っていたわ/ピピィ!」」」」
「……」
マァム、ダイ、姫さん、そしてゴメのその言葉に、俺は思わず無言で天を仰いだ。おいおい、もうこの冒険も最終盤だぜ? 何だよ、ここに来ての皆のこの俺への評価は……。ちょっとおかしいだろう。仮にも俺、大賢者よ? 俺の一挙手一投足、全てが深慮遠謀に繋がっていると思ってくれる奴は、どこかにいないのかよ。そんな事を考えていると、俺の脳裏にノヴァの顔が思い浮かんだ。
……。うーん、いや、やっぱいいや。あいつほど派手に勘違いされると、逆に暑苦しいし。やっぱ俺はこれぐらいの扱いで、ちょうど良い気がしてきた。
「し、しかし、ポップ、君は何故、私が禁呪法生命体でなくなっている事に気が付いたのだ? 回復魔法を私にかけたと言う事は、何かそう判断する根拠があったのではないのか?」
「ん? そりゃあ、あったさ。あれ、お前気が付いてなかったのか?」
俺の問いかけに、シグマは不思議そうに首を傾げた。何だよ、気が付いていなかったのかよ。だったら教えてやるよ。
「お前、アルビナスの事を想って、涙を流していたじゃないかよ。禁呪法生命体が、涙を流すわけないだろう? あれを見て、俺はお前が全く新しい生物に変貌した事を悟ったんだよ」
俺の言葉に固まってしまったシグマ。そんなシグマの胸を、俺は拳で軽く叩いた。
「どうして禁呪法生命体から脱却したか、までは分からないからな。アルビナスとの魂をぶつけ合った戦いがお前を新しいステージに昇らせたのかもしれないし、ハドラーがお前に何かしたのかもしれない。あるいは、神様みたいな存在がお前に奇跡を授けてくれたのかもしれない。この世界には、アバン先生が生き返ってくるような奇跡だってある事だしな。
だいたいお前、まだこの世に生まれて10日足らずだろう? 時間はたっぷりあるんだ。これから世界を見聞して、じっくりとその答えを探してみたらどうだ?」
シグマは神妙な表情で俺の言葉を聞いていた。
「ま、俺には俺なりの見解って言うか、一つの答えらしきものを持っているけどな。……聞きたいか?」
俺のその言葉にシグマはこくっと頷いた。
「……大賢者と称えられる君の見解は、万金に値するな。是非聞かせてもらおう」
「なら教えてやるよ。俺が思うに、ハドラーが自身の最後の闘いを語り継ぐ者を死なせたくなかったのと同じように、アルビナスもお前に親衛騎団の事を未来に語り継いでいって貰いたかったのさ」
「未来に……語り継ぐ……」
「そういう事。ああ、それと、せっかくハドラーと2人きりになれるんだ。邪魔をしてくれるなっていう想いもあったのかもしれないな。ほら、古来より”人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ”っていう言葉もあるしな。くくくっ」
シグマは俺の言葉を咀嚼するかのように、ただ静かにその場に佇んでいた。
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アバンは、まるで昔からの親友だったかのようにシグマに気安く語りかけるポップを、眩しそうに見つめていた。
「……みなさん。ポップは、これまでもずっとあんな調子で冒険をしてきたのですか?」
そのアバンの問いに、ダイは誇らしくてたまらないと言う顔で応える。
「うん! ポップはデルムリン島を出てからずっと、あんな調子だったよ! えへへ。ポップは俺の自慢の兄貴なんだ!」
「くすくすくす。ダイったら、本当にポップが好きなんだから。でも、先生。ポップは本当にずっとあんな調子なんです。だから周りがもう、本当に大変で、大変で……」
そう呆れたように言うマァムも、どこか誇らしげにポップの事を見つめている。そのマァムを、レオナが揶揄する。
「そんな事を言っちゃって。そんなポップ君だから、マァムは惚れちゃったんでしょ? 苦労するわよー。彼、筋金入りの人たらしだから」
「そう……なのよね。だから本当に目が離せなくて……」と、投げかけられた言葉を否定せず、ただ困ったように頬に手を当てるマァムを、レオナは優しげな表情で見つめる。
「ふふふ。ポップは、皆に愛されていますね。師、冥利に尽きるというものです。さあ、それでは疑念も解決したようですし、今度こそあの中央にある城に向かいましょう。聞けばヒュンケルが魔王軍の幹部を一人で抑えているとか。では、今が大魔王に肉薄する絶好の好機です。それに、今なら
アバンの言葉に皆が頷き駆け始めるが、駆け始めてすぐにポップが首を傾げた。
「……。ん……? あれ……? 結局、アバン先生、どうして生きていらっしゃるんですか?
アバンを除く皆が、そう言えば……、という顔をアバンに向けるが、当のアバンは「おや、言っていませんでしたか……?」と、キョトンとした顔で応える。
そんなアバンに、ポップは目を吊り上げて詰め寄る。
「聞いていませんよ、俺は……!」
「それは失礼しました。とっくに言ったつもりになっていました。失敬、失敬……」
「失敬、失敬じゃありませんよ! だいたいアバン先生は、昔から大事な事を言わないんですから! ダイが海波斬を覚えた時だって、俺は本当に死ぬかと……!!」
「ああ、そんな事もありましたね、いやー懐かしい。ですが、ポップ。あなた、久しぶりにお会いしましたが、なんだか小姑のようになっていませんか?」
「――誰のせいだと思っているんですかッ!!」
ポップの怒鳴り声が、
その『冥界の門』の内から外に向かって2筋の黒い染みが、白亜の石畳にまるでペンキを零したかのように残されていた。その黒い染みは白亜の石畳に濃密な瘴気を残したまま、宙に飛び出す様に通路の端で途切れており、それは眼下の地上へと続いているようだった。
ゆっくりと崩壊を続けていた『冥界の門』に変状が生じたのはその時だった。大きく開かれた門の表面にレリーフされた醜悪な紋様が、光の粒子へと変わり空に消えていく。同時に瘴気をまき散らしていた門全体が白い清浄な光に覆われ、その漆黒の帳の内側からキラキラと輝く光の粒子が外へ放出され始めた。
それはもしかすると、人間の神が『冥界の門』と『
無数の光の粒子が門の内側から外へ放出されている中、その光の粒子に紛れて幽体のような実体のない何かが2体姿を現す。その透き通るように実体のない何かは人の姿を形作っていて、共に同じ鎧を身に付けているように見えた。
その2体は、先に地上に墜ちていた2筋の瘴気の後を追うようにして地上に墜ちて行った。
前話の反響が大きくて驚きました。皆さん、あの方が本当にお好きなんですね。私ももちろん大好きですが(笑)