転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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179話 騎士(ナイト)兵士(ポーン)

「あっはっは。それでは、ポップ達はもしレオナ姫が大破邪呪文(ミナカトール)の習得が出来なかったら、そのアキームさんの改造した大砲で大魔宮(バーンパレス)に撃ち込まれる羽目になっていたんですか……。それは見ものでしたねー」

 

「それは見ものでしたねー、って笑いごとじゃないですよ、アバン先生! アキームさん、本気だったんですからね!」

 

ダイ達はあはは……と乾いた笑いを浮かべている。まったくもう、と俺はぼやきながら、アバン先生が持ち込んでいた(どこに持っていたんだ?)お弁当を頂いていた。

 

ここは、大魔宮(バーンパレス)中央部にある城の中の広間だった。正面には100段はゆうにありそうな階段が鎮座し、その足元にはきれいな水の噴き上がる噴水が設置されていて、室内だというのに、まるで宮庭(きゅうてい)のような趣を感じる場所だった。

 

「でも、アバン先生。こんな敵のお城のど真ん中で休憩していていいのかな? 外ではシグマが戦っているし、ヒュンケルだって今もどこかでミストバーンと……」

 

言葉とは裏腹に、バスケットからたこさんウインナーを摘んで美味しそうに口に運んでいるダイがそう首を傾げる。

 

「良いんですよ、ダイ。回復して万全の態勢を整える事だって重要な使命の一つです。どうですか、ポップ? シルバーフェザーで魔法力は満タンまで回復しましたか?」

 

シルバーフェザーとは、アバン先生が破邪の洞窟内で作り上げた魔力回復用のアイテムだ。どういう原理かは分からないが、先端についている聖石には魔法力を蓄積しておくことが出来るようになっている。俺は先ほどアバン先生からその(フェザー)を手渡され、腕から魔法力の充填をさせてもらっていた。

 

「そうですね。だいたい2割ほどは回復した感じなので、腹八分目ってところでしょうか……」

 

大体だけど、『魔法の聖水(濃縮版)』を飲んだ事で半分ほどまで魔法力が回復していたので、そんな所だろう。

 

「それは凄いですね。この(フェザー)の中には並みの魔法使いの2~3人満タンにできるだけの魔法力があったんですよ。それで2割という事は、ポップの魔法力は常人の10倍ほどと言う事になりますよ。もう魔法力では、マトリフを超えているのではないですか?」

 

「ははは。たとえ魔法力がマトリフ師匠を超えていても、師匠には一生勝てる気はしませんよ」

 

「くすくすくす。マトリフは老いてなお現役ですからね。この戦いが終わったら、私も彼に久しぶりにお会いしたいです」

 

そう良いながら車座に加わっていたアバン先生がすっくと立ち上がり、数本の(フェザー)を手渡す。

 

「さて、ではマァム。これでダイとポップの魔法力を全回復させておいてください。私はその間にちょっとこの先を偵察してきます」

 

「アバン先生、それは危険では……」

 

「大丈夫ですよ、ポップ。私にはこれがありますから……!」

 

そう言ってアバン先生は、これもいったいどこに隠していたのか突然巨大なハンマーを取り出した。いや、さっきのお弁当と言い、一体どこにこんなかさばる物を持っていたんだよ。アバン先生って、もしかして破邪の洞窟でアイテムボックス的な魔法を習得してきたんじゃあるまいな。今度落ち着いたら、教えてもらおう。

 

……っと、そんな事より、どうしようかな。例の件、アバン先生には伝えておいた方が良いだろうか? しかし、ここは敵の本拠地だし、神出鬼没な奴の事だ。どこで奴が聞き耳を立てているかも分からない。ここは、俺の胸に秘めておいたままの方がいいだろうか。

 

 

「どうかしましたか、ポップ?」

 

アバン先生が、俺が口ごもった様子を見て首を傾げた。

 

「……いえ、何でもありません。気を付けてくださいね」

 

結局俺は、アバン先生には伝えなかった。理由は先ほど考えた通り、どこで奴が聞き耳を立てているか分からなかったと言う事と、恐らく奴が優先的に狙うのは俺だろうと判断したからだった。これまで奴の暗殺を3度躱している事で、奴のヘイトは先生より俺の方が稼いでいるだろうという判断が働いた。

 

その後、アバン先生は姫さんを助手に先行偵察に出て行った。

 

 

 

ダイが、アバン先生と、その先生に引きずられて悲鳴を上げて消えて行った姫さんの向かった先を見つめて、独白した。

 

「……変わんないなぁ、……先生」

 

「ぷっ、そうだな。でも、ああ見えて誰よりも深い所で思考を進めているのが、アバン先生なんだよな。俺の深慮遠謀も、実はアバン先生直伝で……」

 

「あなたの場合、いくら深くても明後日の方向で考えを進めているでしょうが……。少しはさっきの事を反省しなさい! あとでメルルにも叱ってもらうわよ!」

 

俺のその軽口にマァムがジト目で睨んだかと思うと、その拳を俺の頭に落とした。拳には、何かが握られているように俺には一瞬見えた。

 

グサッ!!

 

「痛ったー!! な、何を、いきなり頭にぶっさしてんだよ!? ――! あっ、これ、(フェザー)じゃないか! おま、こんなの頭に刺して良いと思ってんのかよ!」

 

「あら、先生はどこに刺しても問題ないって言っていたわよ? これは、さっき性懲りも無く破邪呪文(マホカトール)を唱えようとした罰よ!」

 

「何言っているんだよ! あれは未遂で終わったじゃないか! あ、痛たたた……」

 

俺がマァムに身を乗り出して怒鳴り返すと、その反動で俺の頭に刺さったままの(フェザー)がビーーンと左右に震え、鈍い痛みが頭から伝播する様に全身に伝わる。

 

「ぷっ。くっくっく。あ、あははは……。駄目だ、笑わせないでよ、ポップ。俺、こんな場所なのにお腹が痛くなっちゃうよ!」

 

「ピピピピィ!」

 

ダイが俺のそんな様子を見て、お腹を抱えて笑いだす。ゴメも涙を流す勢いで笑い転げている。

 

「ぷっ、くすくすくす。ちょっとポップ、それ動かさないでよ……。な、涙が出てきちゃったじゃない。あ、あははは。あー、おかしい」

 

あろうことか、この原因を作ったマァムまでもが、俺の頭の上で左右にピコピコと揺れる(フェザー)を見て、その目に涙を浮かべながら笑った。

 

「「「あははははは(ピピピピィィ)」」」

 

 

結局その笑い声は、俺が、笑い過ぎてピクピクと痙攣し始めたダイの頭にシルバーフェザーをぶっさすまで続いた。

 

 

 

 

 

~~~~大魔宮(バーンパレス) 本城前~~~~

 

 

「グフアァッ!!」

 

シグマが高速で突き出した槍で貫かれた巨漢の魔物グレンデルは、断末魔の雄叫びを上げて絶命した。その魔物だけではなく、既に数十体もの魔物が、シグマによってもの言わぬ躯と変えられている。

 

「さあ、次に死にたい奴はどいつだ?」

 

余裕の表情を崩さず、本城に続く通路の前で仁王立ちするシグマを、周囲の魔物達が憎々しげに睨む。

 

「くっ、こいつ! ただの敗残兵のくせに調子に乗りやがって。おい、てっきゅうまじん、こいつを倒すのは後回しだ! こいつをあの場所から引きずり出せ!」

 

「おうよ!!」と、ライオネックに声をかけられた複数のてっきゅうまじんが、その手に持つ鉄球をぶんぶんと振り回し始める。そしてその鉄球に十分な速度が乗った時、一斉にそれが放たれた。

 

「むっ! そんな物が私に……!」

 

自身に飛来してくる鉄球を見て、シグマはその場から宙に大きく飛び上がった。しかし、上空のシグマに新たに複数の鉄球が放たれて、それはシグマの両手首に巻き付いた。

 

「よーし、よくやった、てっきゅうまじん! お前達はそのままその人形を拘束しておけ! 俺達は、城に入った奴らを追う!」

 

身動きを封じたシグマの側を複数の魔物が通り過ぎようとする。しかし、それを横目で見つめたシグマはニヤッと笑みを浮かべた。

 

「残念だったな……。私を拘束したのが腕ではなく、足であったら良かったものを……」

 

「何!? ――!? なっ、右手が取れただと!?」

 

右手首に鎖を巻き付けていたてっきゅうまじんが、突然重しが外れたかのように後ろによろめいた。その理由は、シグマの右手首が外されていたためだった。

 

「お、おい! もう一度鉄球を投げるんだ! 急げ!」

 

「――遅い!」

 

慌ててそう叫ぶライオネックだが、それより早くシグマは左方に一足飛びに飛んで、左腕に巻き付いた鎖を握っていたてっきゅうまじんの体に右手首を押しつけ叫んだ。

 

「――ライトニングバスター!!」

 

「グボァアッ!!」

 

次の瞬間、てっきゅうまじんは内部の骨が粉々に砕かれ、口から大量の血を吐いて絶命した。

 

そしてシグマは再び自身の槍を拾い、通路に殺到し始めていた魔物を駆逐していく。

 

「この先には行かせぬと言った!! 彼らのためにな!!」

 

 

グヌヌヌ……と、悔しげに歯ぎしりする魔物達。

 

しかし、そんな魔物達の背後から突然声をかける者が現れた。

 

 

 

「おい、どういう事だ、これは? シグマ、お前の言う()()とは誰のことだ?」

 

その姿を見て、シグマは驚愕の表情を浮かべた。

 

「ヒム!? なぜ君がここに!? いや、それより何故生きているのだ……?」

 

そこに現れたのは、ヒュンケルに破れ地上に突き落とされたハドラー親衛騎団 兵士(ポーン) ヒムだった……。

 

 

 

「……何故生きているかだって? ハドラー様が亡くなられたのに……か?」

 

ヒムは、周囲の魔物達を押しのけながらゆっくりとシグマに歩み寄る。

 

「知っていたのか……?」

 

そのシグマの問いにヒムは、ヒュンケルに敗れてからの事を口にする。ハドラーの最後の戦いがなぜか脳裏をよぎりその時感じた『何か生きた証を残したい』という想いが胸の奥で爆発した時、いつの間にか受けた傷が回復していたと。

 

「それより、さっきの質問の答えを俺はまだ聞いていないぜ? お前がここで身体を張ってまで守ろうとしている彼らとは、誰の事だ? ……まさか、俺達の仇敵、アバンの使徒共の事じゃあないだろうな?」

 

 

シグマはその問いに思わず答えを詰まらせた。シグマ自身は、自身及びアルビナスと直接対峙したポップに対して感謝こそあれ恨む事など何もないが、目の前のヒムが、自身を打ち破った戦士(ヒュンケル)に対して復讐戦を挑みたがっている事は一目見れば分かった。

 

「ヒム……。それは……」と苦渋の声を発したシグマに、ヒムはさらに問いかける。

 

「そうかい……。やっぱりお前はあちら側に付いたのか。一応、確認しておくぜ? それは、ハドラー様の()()、じゃあないよな?」

 

シグマは一瞬グッと歯を食いしばった後、口を開いた。

 

「ああ、ハドラー様の命令ではない。これは私の意思だ……!」

 

今度はヒムがその言葉に、わずかに顔を俯かせた。そして再び顔を上げたヒムは、覚悟を決めた表情をしていた。

 

「そうか……。だったら、お前はもうハドラー親衛騎団の一員じゃねえって事だな。くっ……! この裏切り者がぁッ!!!」

 

突如ヒムは、右拳に闘気を集中させシグマめがけて突進した。その右拳は、確実にシグマの左胸の奥にある(コア)を狙っていた。

 

それを見てシグマは、構えるのではなく……無防備のままそっと瞳を閉じる。

 

「――!?」

 

 

 

時が止まったかのように戦場の空気が沈黙する。2人の親衛騎団の仲違いを見守っている魔物達も、ただ立ち尽くしていた。

 

ヒムの放った右拳は、シグマの胸に到達する寸前で止まっていた。

 

「なんで、抵抗しやがらねえッ! 俺に、無抵抗な奴を倒せというつもりか!」

 

激高するヒムの言葉に、シグマは閉じていた瞳をゆっくり開き言葉を発した。

 

「……私は、もう二度と親衛騎団同士で殺し合うのは御免だ」

 

「二度と、だと……」と呻くヒムに、シグマはハドラーの最後について静かに語った。

 

 

 

「じゃ、じゃあ、お前が今奴らのためにここを死守しているのは、ハドラー様の最後の願いを叶えるため……なのかよ。くっ……! だったら、最初からそう言えば良いだろうが!!」

 

ヒムがそうシグマに詰め寄るが、当のシグマは涼しい顔で答える。

 

「……これはハドラー様の願いだ。命令ではない。だから私は、君の言葉を否定したのだ」

 

その答えに、ヒムは頭部から伸びている銀髪をグシャグシャと掻きむしる。

 

「あー、これだからお前は、アルビナスに堅物だの、二流役者だの言われるんだよ! いい加減、その性格を直せよ、シグマ!」

 

「君こそ、いい加減人の話を最後まで聞く忍耐力を身につけたまえ。それより、どうするつもりなのだ、ヒム。私はハドラー様の最後の願いを、自分の意思で叶えたいと考えている。君は、あくまで戦士(ヒュンケル)への復讐を優先するのか?」

 

そのシグマの問いに、ヒムは腕組みをしてしばし瞑目した後、髪をかきむしりながら言葉を返した。

 

「あー、もう、分かった、分かったよ! 良いだろう、俺もお前に従おう。戦士(ヒュンケル)への雪辱戦は、後にしてやる!」

 

「良いのか、ヒム?」

 

「ああ、男に二言はねえ。それに、『ハドラー様のお言葉は全てに優先する』からな!」

 

「くっくっく。ヒム、その言葉を粗野な君が言っても似合わないぞ。あれは、常日頃より口数の少ないあの男だから響いたのだ」

 

「うるせえッ! んな事より、さっさとこいつらを片付けて、あいつらを追いかけるぞ!」

 

「同感だ。さあ、時間がもったいない。さっさとかかってきたまえ……!」

 

その言葉に、成り行きを見守っていた魔物達は大挙して2人に襲いかかった。

 

 

 

 

~~~~大魔宮(バーンパレス) キルバーン私室~~~~

 

 

キルバーンは大魔宮(バーンパレス)内の自身に割り当てられた部屋で、鏡の前に一人佇んでいた。

 

「ウフフ。ここまでは概ね計画通り……。しかし、まさかアバンが生きていたとはね。冥界の門を崩壊させるほどの破邪呪文の使い手……。危険だね、彼は……」

 

キルバーンは、先のアバンとの邂逅を脳裏に思い描いていた。あの男と目が合った瞬間、キルバーンはヴェルザーから与えられた真の狙いを洞察されたように感じた。

 

ポップがこの時抱いていた、キルバーンからのヘイトは自身が最も稼いでいるだろうという考えは間違ってはいなかった。ただし、ある一点において……彼は過ちを犯していた。

 

それは、キルバーンが最も警戒の対象とする相手を、自身から……アバンへと切り替えた事だった。

 

 

それがいったいどのような結果を生むのか、ポップはもとより、キルバーン自身もこの時点では分かろうはずも無かった。

 

 

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