転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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181話 知られざる主従 ①

~~~~大魔宮(バーンパレス) 白い宮庭(ホワイトガーデン) ~~~~

 

 

「さて、どうする、マァム? 順番通りいくなら、まずはあいつの闇の衣を脱がさなきゃならないが、空の技は……」

 

「そんなの、私とあなたがタッグを組んだ時点で決まっているでしょう? 私が主攻、あなたが助攻よ」

 

「いや、しかし……」と、眼前のミストバーンに目を向けたまま一瞬だけマァムを伺う俺。一瞬視界に入ったマァムの横顔は、自信に満ちているように見えた。

 

マァム……。くすっ、こんな顔をされちゃあ、主攻を譲れだなんて言えないじゃないか。確かマァムはアバン流の空の技は会得していないはずだが……、そんな事は大した問題じゃないな。

 

「そうか。じゃあ、少しばかり早いが、未来の夫婦の初めての共同作業ってやつを、あいつに見せつけてやるとしようかね……!」

 

「言い方! もうっ! あなたは黙って援護をしてなさい!」

 

その言葉を残してマァムがミストバーン目がけて駆けた。同時に俺も右手を突き出し呪文を詠唱する。

 

「――氷系呪文(ヒャダルコ)!!」

 

マァムを追いかけるように、13本の氷の槍がミストバーン目がけて飛翔する。これに対するミストバーンの手は――。

 

「――ビュートデストリンガー!」

 

もはや見慣れたと言っていい、左手の爪を伸ばした攻撃だった。

 

「――そんな攻撃!」

 

マァムはその攻撃を、空中に身を翻すことで躱す。宙に身を置くその行動には、ミストバーンの十八番 闘魔滅砕陣から逃れる意図もあったのだろう。だがそれは、先ほどあえて片手で攻撃していたミストバーンに誘導されたものという見かたも出来た。

 

「愚か……。――死ね!」

 

もう片方の腕を空に向けて伸ばしたミストバーンの爪が伸び、宙のマァムを貫かんと迫る。だが……。

 

甘いな、ミストバーン。相性抜群の俺達の共同作業が、こんなに底の浅いもののはずがないだろう?

 

刹那、宙に身を置いていたマァムがミストバーンの爪撃を危なげなく躱す。そればかりか、宙で八艘飛びをするかのような小刻みなステップを踏みながら、ミストバーンに迫っていくマァム。

 

「――何!?」

 

くくっ、観察力が足りていないぜ、ミストバーン。まだ気が付かないのか? 俺が最初に放った氷の槍が忽然と姿を消している事に。

 

「――氷! そうか、氷の槍を足場に!」

 

ご名答! だけど、気が付くのが少し遅かったなぁっ! 俺がマァムの周囲に衛星のように飛ばした氷の槍。マァムはそれを巧みに足場に用い、ミストバーンの背後に着地する。

 

「――はあぁっ!」

 

「小癪な! だが、聞いているぞ! お前では私の闇の衣を剥がす事は―― ――!?」

 

マァムの放った正拳突きが、振り返ったミストバーンの肩口に突きこまれる。その瞬間、ミストバーンの羽織った長套の右肩から黒い霧のようなものが、その身体から剥がされたかのように立ち昇った。

 

「くっ! 娘! 貴様、それは……!?」

 

マァムの全身に白いオーラのようなものが纏われている。あれは光の闘気……? いや、違う気がする。あれってまさか……。

 

後退したミストバーンにマァムが拳を突き出し宣言する。

 

「ミストバーン……。暗黒闘気に対抗する手段は、なにも空の技や光の闘気だけじゃないわ。命の力、そう、生命力だって立派な対抗手段となるわ! フェンブレンが私にそれを気づかせてくれた」

 

フェンブレン……。そうか、マァムは彼との戦いで新たなステージに到達したんだな。生命の力……か。それは生あるもの全てに慈しみを与えるマァムにしか扱えない力なのかもしれない。その証拠に、マァムが首にかけているアバンのしるしが、淡いピンク色に輝いていた。

 

 

 

マァムとミストバーンの激闘が続く。ときおり俺が援護の魔法を飛ばすが、その必要は無かったかもしれないと俺が思うほど、マァムの動きがミストバーンのそれを凌駕していた。彼女の拳、あるいは蹴撃がミストバーンを捉えると、白い長套の下にある黒い瘴気が蒸発するように消えていく。

 

「くっ! よもや貴様ごときにこれほどまで追い込まれるとは! キルバーンめ、勇者(ダイ)戦士(ヒュンケル)以外に闇の衣を剥がせる者はおらぬと言っておきながら……!」

 

まただ……。こいつ、もしかして……。

 

「ええい! ならば、これならどうだ! ――闘魔最終掌!!!」

 

ミストバーンの左手に濃厚な闇の闘気が集中していく。それはまるで、左手にブラックホールが誕生したかのように思える程に圧縮された漆黒の闘気だった。

 

「――!」

 

その動きを視界にとらえたマァムが、自身の前方に掌を一閃し白亜の石床に横一文字の裂け目を作る。そして自身に迫るミストバーンを前にして、仁王立ちしたまま静かに目を閉じた。マァムの全身が、目が焼けそうに感じるほどの白い闘気に包まれる。それはまるでマァムの身体の全身の細胞が活性化しているようだった。

 

「……父さん、フェンブレン、見ていて。2人が私をここまで導いてくれた。――武鋒・豪破一闘!!!」

 

俺などでは目で追いつかないほどの速度でマァムに肉薄するミストバーン。そのミストバーンがマァムが先ほど傷つけた一線を越えた瞬間、マァムが右足を一閃する。白と黒の闘気がぶつかり合い、激しい気流の嵐が両者の間で吹き荒れる。

 

「ぬううっ! こ、これしきの力……!」

 

ミストバーンが、マァムの右足から放たれた白い衝撃波を抑え込もうとするかのように、暗黒闘気を纏わせた左腕をじわじわと押し込んでいく。その力のぶつかり合いは拮抗しているかのように見えた。

 

だが、マァムの攻撃もまだ終わっていなかった。マァムは右足を振り切った勢いのまま、その右足を軸にして今度は左足を回転させる。その左足にも先ほど放った右足と同様に、眩いばかりの生命力のエネルギーが纏われていた。

 

「これがカール騎士剣と武神流が融合した技よ! 武鋒・豪破一闘 双龍脚!!!」

 

廻し蹴りのように一閃された左足から再び白い衝撃波が放たれる。その一撃は、先に放たれていた衝撃波を押し込むかのようにミストバーンに到達し、黒い瘴気は純白に染められていった。

 

「お、おのれぇっーーーー!」

 

断末魔の叫びに似た声を上げながら、ミストバーンがその白い帳の中に消えていった。

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ! や、やったわよ……、ポップ。ど、どう? 私も……少しは……成長している……でしょう?」

 

「少しは、どころの話じゃないよ。まったく、共同作業だって言ったのに、ほとんどマァム一人でやってしまったじゃないか。もう少し俺にも頼ってくれよ」

 

さすがに体力の限界が近いのか、肩で息をする状態のマァムの身体を横からそっと支える俺。そんな俺に、疲れ切った様子のマァムが苦笑いしながら返事をする。

 

「馬鹿……。私は……、私達は、いつもあなたを頼りにしているわよ。……でもポップ。分かっているでしょう? まだ戦いは……」

 

そう言いながら前方を見やるマァム。そのマァムの視線を追った俺も口を開く。

 

「……ああ、ここからが本番だな。マァム、まだ動けるか?」

 

「ええ、もちろんよ」と、俺に預けていた身体に力を入れ、自身の足で立つマァム。俺達の前方では、シューシューと黒い瘴気を身体全体から立ち昇らせている満身創痍のミストバーンがいた。

 

そしてミストバーンは、とうとう闇の衣をその身体から脱ぎ去るのだった。

 

 

 

この姿を目の当たりにするのはこれで2度目だな。闇の衣を脱ぎ去ったミストバーンの姿は、かつて天魔の塔で目の当たりにした姿と全く変わっていなかった。傷一つない綺麗すぎるほど綺麗な肉体。その両目は閉ざされており、代わりに額の部分に闇の眷属のような瘴気が纏わりついている。

 

「驚いたぞ……。よもやお前達が、私にこの姿を取らせるほどの健闘をするとは……。だが、それもここまでだ。この姿で顕現した以上、もはやそなた達の攻撃は一切通じぬ……」

 

「それは、『凍れる時間の秘宝』の効力がその身体に宿っている……からだな?」

 

俺の言葉に、「ほう……」と呟くミストバーン。

 

「……やはりそなたも辿りついていたか。さすがは、キルバーンが警戒していただけの事はある」

 

()()()()……か。なるほど、だからヒュンケルだったのか。ちっ、キルバーンめ、引っ掻きまわしてくれるじゃないか。

 

「それで、あんたの事は何と呼んだら良いんだい? もう()()()バーンじゃあ、無いんだろう?」

 

「ポップ……?」と、怪訝な表情を向けるマァム。だが、ミストバーンの姿を取った何者かは、顎に手をやり俺を試すかのような視線を投げた。

 

「ほう……。何故、そう考えた? 私が、今でもミストバーンだと思わないのか?」

 

「思わないな。だってあんた、キルバーンの事をキルバーンと呼んでいるじゃないか」

 

「……それのどこがおかしいのかな?」

 

「知らないのかよ。ミストバーンとキルバーンはこれまで互いにミスト、キルと呼び合っていたんだぜ? ミストバーンがあの死神を、キルバーンと呼んだ事なんて一度だって無いよ」

 

俺の言葉にミストバーンの姿をした何者かは、ああ、と頷きを返す。

 

「……なるほど。互いの名の呼び方で悟られるとは迂闊だったな。それだけが理由かね?」

 

「いいや。他にもあるぜ。あんた、ダイと姫さんがバーンの所へ向かうのを積極的に止めようとはしなかったよな? これまでバーンにあだなす者を排除する事を最優先にしていたミストバーンには、あるまじき行動だ。

それと、次が一番大きな理由。ヒュンケルさ。あいつがミストバーンを相手にしていたと言うのに、そのミストバーンが平気な顔をして俺達の前に現れるのがおかしい。あいつがやるべき事をやりそこなった事は、これまで一度だって無いんだよ」

 

俺の言葉に、続けたまえ、と言いたげな素振りをする正体不明の男。

 

「俺が思うに、ヒュンケルはきっちりとミストバーンを倒したはずだ。だけど、その状況を利用した者がいる。それはもちろんキルバーン。では、そのキルバーンはいったい誰のために動くかと言う事を考えると、おのずと答えは出てくる。あんた……冥竜王ヴェルザーだな?」

 

「ヴェルザー!? ど、どういう事よ、ポップ?」と驚愕の声を上げるマァムに、俺はそもそも目の前の肉体が秘匿され続けていたバーンの肉体である事、ミストはそのバーンの肉体を預かっていたに過ぎない存在だった事を説明する。

 

俺がそれらの事をマァムに説明する間沈黙していたミストバーン、いや、ヴェルザーが、少しづつ肩を震わせ、徐々にその震えを大きくしていった。

 

「フ、フハハハ。見事、見事だ、氷の賢者! そなたの読みどおりよ! 貴様がバーンとミストバーンの間に隠されていた秘密の真相に辿り着いたのと同じく、我が配下キルバーンも気づいたのだ」

 

そしてヴェルザーは続ける。ミストと呼ばれるバーンの身体に取りついていた魔物がヒュンケルによって敗れた直後、死したミストの身体を使役する事で、間接的にバーンの肉体を自在に操る事に成功したと。

 

「つまりミストバーン、いや……、ミストはキルバーンに裏切られたわけだな。かわいそうに、互いにあだ名で呼び合うほどの仲だったというのに、最後は身体を友人に売られたようなものじゃないか」

 

「クククッ! 何がかわいそうなものか……。もともとキルバーンはバーン暗殺を目的に奴の陣営に潜り込ませていたのだ。ミストとの友誼など、キルバーンにとっては路傍の石以下の価値しかないわ!」

 

「ひどい……」と、沈痛な表情を浮かべるマァム。ああ、確かにひどい話だが……、同情はできないな。おそらくヒュンケルがミストに育てられた理由は、実体のないミストの依り代としての役割を担わせるためだったのだろう。これこそひどい話だよ。あいつはそんな道具のような生き方を強いられるような男じゃないのに。ヒュンケル、生きていろよ。空を見上げて涙をこらえながら歌を口ずさんでいたお前は、絶対に感情の必要とされない道具じゃないんだから……!

 

 

「さあ、答え合わせはもう十分だろう。俺の正体を見破ったところで結果は変わらぬ。凍れる時間の秘宝の呪力有る限り、何人たりとも俺を傷つける事はできぬ。お前達を早々に倒して、バーンの下へ行ってやるとしよう。数千年の長きにわたって隠していた自身の肉体を奪われた奴の顔が見ものよ。クククッ!」

 

「ポップ、来るわよ!」

 

「ああ、分かっている! お前の言うとおりだ、ヴェルザー! ミストバーンだろうと、ヴェルザーバーンだろうと俺のやる事は変わらない! お前がバーンの下に行く事はない! ここで俺達に倒されるからな!」

 

「面白い! ならばやってみよ、人間! 冥竜王ヴェルザーの名、決してバーンにひけをとるものでは無いわ!」

 

 

 

「――あぐっ!」

 

ヴェルザーの放った衝撃波がマァムに達し、壁際まで吹き飛ばされる。その直前に彼女が放っていた豪破一闘は、一瞬その衝撃波を停滞させる効果しか作用していなかった。

 

「マァム! くっ、今行く――「お前にそのような余裕があるのかな?」」

 

突然俺の背後からかけられた言葉に、とっさに俺は右手に炎を纏わせ、それを背後に放った。

 

「――火炎呪文(フェニックス)!!」

 

ドオォォーン!

 

間違いなく火炎呪文(フェニックス)が直撃する。しかし、業火の中ヴェルザーは涼し気な笑みをその表情に浮かべていた。

 

「フハハハハ! これは何のつもりだ、人間! 凍った時間の中を生きる肉体に、どのような呪文も、どのような技も通じぬ事はとうに承知の上だろう!」

 

分かっているよ、そんな事は! 俺はヴェルザーから距離を取り、おそらくだろうが唯一奴に通じるだろうと思われる呪文のセットアップを可能な限り迅速に行う。

 

……もう少し、もう少しだ! よしっ、完成だ!

 

「……ほう。なるほど、確かにその呪文ならば俺を倒せる可能性はあるな。しかし、それを俺が容易く喰らうと思っているのか?」

 

うるせえよっ! どのみちお前に通じる攻撃はこれしかないんだ! 

 

「――極大消滅呪文(メドローア)!!」

 

ギリギリと引き絞った右手を離すと、消滅の矢が一直線にヴェルザーに向かっていく。

 

「下らぬ……! 俺の動く速度の方がその呪文より速いというのに、俺がそれを喰らうと―― 何っ!?」

 

のうのうとご託をほざいていたヴェルザーの態勢が突如崩れる。それをしたのはもちろんマァムだった。自身に回復呪文をかけたマァムは、かつてバランに対して放ったのと同じ技『武神流 土竜昇破拳』を、俺とのやり取りで気を取られていたヴェルザーの背後から放っていた。

 

もちろんこの一連の流れは、直前に交わしたマァムとのアイコンタクトで行った結果だった。よしっ、あの態勢からはもう躱せない。決まった!

 

「フッ! 惜しかったな! ――フェニックスウィング!」

 

「なっ!? 極大消滅呪文(メドローア)を弾いた!? ――ちぃっ!」

 

原理は分からないが、炎に包まれたヴェルザーの右手がまるで不死鳥フェニックスの様に羽ばたき、俺の放った必殺の極大消滅呪文(メドローア)を弾き返した。

 

「ポップーー!」

 

危険極まりない呪文をはじき返されたが、頭の片隅でその可能性を考慮していた分、俺の回避が僅かに間に合う。ほんの指先数本分ほどの距離で、自身に向かってきた消滅の矢をかろうじて躱す俺。

 

俺の背後で極大消滅呪文(メドローア)が命中する音が響く。全身から冷や汗を発しながら背後を振り返ると、極大消滅呪文(メドローア)によって生じた特徴的な断面を有する巨大な空洞が、突如としてその場に出現していた。

 

「クックック! よく避けたな、人間よ。」

 

「今のは呪文返し(マホカンタ)じゃあないよな? まさか物理的手法で極大消滅呪文(メドローア)を返したのか?」

 

ごくっと唾を飲み込みながら、先ほどどうやって呪文返しをしたのかを確認する。

 

「そうだ、呪文返し(マホカンタ)ではない。フェニックスウィング。高速で放たれた手刀が物理的障壁を発生させ、それによりあらゆる物理攻撃、魔法攻撃を断絶する。それは、お前の極大消滅呪文(メドローア)すら例外ではない」

 

「なるほど、フェニックスウィング……か。カイザーフェニックスと言い、実にバーンらしいネーミングの技だな。しかし、恥ずかしくないのか、ヴェルザー。お前はただ、バーンの習得したきねづかでどや顔しているだけじゃないか」

 

「ハッハッハ。それで挑発しているつもりか、人間。魔界では勝者が全てだ。誰が習得した技だろうが関係ない。この肉体は、今は俺の物だ。それ以上でも、それ以下でも無いわ」

 

ちっ、まあ、そうだろうな。しかしまずいな。呪文返し(マホカンタ)によらない呪文反射技能まで有しているとは。極大消滅呪文《メドローア》以外の魔法攻撃は通じず、極大消滅呪文《メドローア》も先ほどの技ではじき返されてしまう。普通にやっていたら打つ手なしだな。

 

「ポップ。ミストバーン、ううん、ヴェルザーがさっきの技を放った腕を抑え込めれば……」

 

「マァム……」

 

まだ傷ついた身体を引きずるようにして俺の隣にやってきたマァムが、ヴェルザーに視線を投げかけながらそう提案する。

 

マァムの提案は間違ってはいない。極大消滅呪文《メドローア》が通じないわけではないんだ。ただ、あのフェニックスウィングが邪魔なだけ。だからフェニックスウィングを放つ両腕(右腕でしか放てないという保証はないからな)を封じさえすれば、極大消滅呪文《メドローア》は通じる。両腕を封じ込んだ仲間を犠牲にして……。

 

「クックック。確かにその手は残っているな。だが、娘、お前1人で私の両の腕を抑えられるのか? 片腕ですら不可能と思われるのに?」

 

「くっ……」と悔し気な表情を浮かべるマァム。言われるまでもなくマァム自身も理解しているのだろう。彼女の戦闘スタイルは基本的にはヒット&アウェイだ。いくら彼女でも純粋な腕力勝負では勝機は無い。

 

じりじりと追い詰められている俺達だったが、そんな俺達に、先ほど極大消滅呪文(メドローア)で開けられた空洞から良く見知った声が届く。

 

「……ぐっふっふ。まだ出番が残っているかと心配していたが、どうやらその心配は杞憂だったようだな」

 

「なんだぁ? あれがミストバーンの正体か? ずいぶんと拍子抜けする姿じゃねえか」

 

「見かけで判断しないことだ、ヒム。あの肉体からは、凄まじい威圧を感じるぞ」

 

「ええ、ポップさんとマァムさんのお二人で苦戦しているのですから、それも当然ですね」

 

「マァムさん! 僕が来たからには、もう安心ですよ!」

 

 

白い宮庭(ホワイトガーデン) の広い空間に突如としてそんな言葉が投げかけられる。振り返るまでも無かった。

 

そこに現れたのは、クロコダイン、ヒム、シグマ、それにノヴァとチウの5人だった。

 

 

 

 

~~~~大魔宮(バーンパレス) 先端~~~~~

 

 

白亜の壁に囲まれた空間に突如歪みが生じ、その歪みから道化師の格好をしたキルバーンが出現する。その姿を目にして、彼の使い魔であるピロロが宙をピョコピョコと飛び跳ねながらキルバーンを迎える。

 

「おかえり、キルバーン♪ 僕、キルバーンならきっと勝ってくれるって信じてたよ!」

 

「フフフ。当然じゃないか、ピロロ。しかし、どうやらジャッジの自己犠牲呪文(メガンテ)の余波で帰還地点がずれてしまったようだね。向こうでは……ほう、どうやら闇の衣を脱いでいるようだね。クスクスクス、意外に善戦しているじゃないか。だけど、アバン君が死んだ今、どう頑張っても彼らに勝ち目は無いさ」

 

そう言ってピロロを従え白い宮庭(ホワイトガーデン)に続く階段を昇り始めたキルバーンに、いずこからか声が投げかけられた。

 

「誰が死んだと……? このとおり、私はピンピンしていますよ?」

 

「――!?」

 

その声に驚いたキルバーン達が周囲にキョロキョロと視線を巡らせるが、その彼の目の前に突然閃光と共にヒュンケルを背負ったアバンが現れた。そのアバンの足元には、自己犠牲呪文(メガンテ)を唱えた事でバラバラに破壊されたジャッジの破片が散乱している。

 

「「アバン!?」」

 

驚くキルバーンとピロロに対して、ヒュンケルを再び横たわらせたアバンは、自身が異次元からキルバーンを追って戻ってこられた理由を説明する。

 

「……僕が驚いているのは、そんなチャチな手品の事じゃないッ……! 何故ッ! 何故、生きていられる!? ジャッジの自己犠牲呪文(メガンテ)を喰らって……! まさか本当にアバン流忍法なんてものがあるなどとは言わないだろうね!」

 

「アバン流忍法……? やれやれ、まったくあの子は……」

 

激高するキルバーンだったが、アバンはそれに取り合わず、ジャッジの残骸から鎌状の武器を取り上げ、その先端をへし折った。

 

「さあ、死神よ。邪魔者はもういない。私とあなたのどちらが倒れるか、決着をつけましょう……!」

 

「邪魔者がいない? ウフフフ。何を言っているんだね、アバン君。これを見てもそんな事が言えるのかい?」

 

キルバーンが右手をスッと高く掲げると、彼の背後の空間にゆがみが生じ、そこから次々と魔物が出現する。それは、魔界に住まう魔物の集団だった。きりさきピエロ、キラージャック、キラータイガー、ケルベロス、キラーマジンガ、地獄の門番……。

 

続々と現れるそれら魔物を従え、キルバーンが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 

「ウッフッフ。ほら、ご覧よ。彼らは、僕の舞台を彩るバックコーラス隊だよ。本当は彼らをけしかけてあのしぶとい男の息の根を止めようと思っていたんだが、先に君の相手をさせるとしよう」

 

「キャハハ。じゃあ、あいつの所にはアバンの首なし死体を持って行こうよ、キルバーン。その時のあいつの顏が見ものだよ♪」

 

「……」

 

ギリッとアバンが奥歯を噛みしめる。キルバーンの背後には50体は下らない数の魔物がいた。1体1体の強さもさることながら、これほどの数を相手にしては……。アバンのこめかみを一筋の汗が流れる。

 

「さあ、君達! こんな所までのこのこと死にに来たアバン君の命を、摘み取ってあげるんだ!!」

 

その声に、無数の魔物がアバン目がけて殺到する。それを迎撃しようと、アバンはグッと腰を落とす。

 

ドガァァァッ!!

 

その時、大きな音を立てて、白亜の壁の一部が吹っ飛んだ。魔物も、キルバーンも、そしてアバンさえも何事か、と時が止まったかのようにその吹き飛んだ壁を凝視する。

 

もうもうと舞い上がる土煙の中から、一人の男のシルエットがゆらっと陽炎のように浮かび上がる。その男の右の手には長い棒のような者が握られているようにキルバーンには見えた。

 

「き、君は……!?」

 

そのシルエットに見覚えのあったキルバーンが驚愕の声を上げる中、その男はゆっくりとした足取りのまま土煙の中から現れた。

 

「陸戦騎ラーハルト! 馬鹿な、君の命は確かに僕が刈り取ったはず! 何故、生きているんだ!?」

 

「ラーハルト……。では、彼がポップ達の言っていた……」

 

そう、キルバーンの言葉の通り、その土煙の中から現れた男は、先の戦いで死んだと思われていた竜騎衆の一人 陸戦騎ラーハルトその人だった。

 

ラーハルトは、爛々と光る目でキルバーンをキッと睨んだ。

 

「そんなに俺が生きている事がおかしいか? ならば教えてやろう。俺の命は……、俺の命は、貴様が卑劣極まりない手を用いて暗殺したバラン様によって、蘇らせていただいたのだ!!」

 

「バラン君が……? ――! そうか、あの時の――!」

 

キルバーンは、先の一戦でバーンによって切断されたバランの右腕がクルクルと宙を舞いラーハルトの傍に落ちた時の事を思い出す。同時に、テランの地で一度は命を落としたはずの氷の賢者が、どのようにして再び命を吹き返したかも……。

 

「キルバーン……。貴様だけは絶対に許さん……。俺はこの槍でお前の心臓を貫くためだけに、生き恥を堪えて生き返ったのだ……!!」

 

キルバーンの背後に従う魔界の魔物達をも黙らせる凄まじい殺意の波動が、ラーハルトから発せられる。

 

しかし、眼光鋭く自身を睨みつけるラーハルトに対して、キルバーンは余裕の笑みを崩さない。

 

「ウッフッフ。良いだろう。バラン君暗殺の手駒として動いてくれた君に免じて、僕がもう一度君を冥府に送って上げるよ。そこでバラン君と感動の再会を果たす事だね」

 

 

槍をキルバーンに向けて構えるラーハルトの隣に、アバンがそっと並び立つ。

 

「ラーハルトさん……ですね。あなたの事はポップ達から聞いています。――! あなた、耳が……?」

 

ラーハルトに語りかけていたアバンの目がかっと見開かれる。それは、ラーハルトに本来備わっているはずの両耳が存在しなかったためだった。

 

そんなアバンにラーハルトは視線を投げかける。

 

「お前がディーノ様の師アバンだな。死んだと聞いていたが……、まあ良い。あの男は俺が仕留める。邪魔をするというのならたとえお前でも……」

 

「あなた、声が……」

 

耳が無いにも関わらず意思の疎通が図れている様子のラーハルトに、アバンが驚きと共に口を開く。

 

「……口の動きで、言葉は分かる。これは、俺の贖罪だ。この程度の事で、バラン様の命を奪ってしまった事の償いになるとは思っていないがな」

 

その言葉で、アバンはラーハルトが自らの意思で両耳を切り落とした事を察した。そんな2人の会話に耳をそばだてていたキルバーンが、ラーハルトを揶揄する。

 

「ウフフフ。その耳、どうしたかと思っていたが、自分で切ったとは。これは傑作だ。よほど僕の演奏が気に入らなかったと見える」

 

「ほんと失礼だよね、キルバーン。あんなに情熱的に聞いてくれたのに。キャハハハ」

 

「……」

 

無言のままグッと、一歩踏み出そうとしたラーハルトの腕をそっと抑えるアバン。ラーハルトが怪訝そうにアバンに顔を向けると、そのアバンは、口の前に手を当てラーハルトを見つめていた。

 

(私も、読唇術の心得はありますので声は出さないで下さい)

 

(……?)

 

首を傾げるラーハルトに、アバンは口だけをキルバーン達に見えない様にパクパクと動かす。

 

(よく聞いて下さいね、ラーハルトさん。……、……、……)

 

(――!? それは確かなのか……?)

 

(はい、ポップが掴んだ情報ですので、信頼して良いかと……)

 

(あの男か……。分かった、ならば信じよう……)

 

ポップの名が出た事で、嫌そうに顔をしかめたラーハルト。しかし、その所作とは裏腹に、彼はアバンの言葉をすんなりと信じたようだった。

 

意図が伝わったと理解したアバンは、今度は声を上げてラーハルトに語りかける。

 

「では、キルバーンは私に任せて下さいね。その代わり……」

 

「分かっている。それ以外の魔物は俺が相手をしよう」

 

「ウッフッフ。話し合いは終わったかい。僕の相手はアバン君か。良いよ、付き合ってあげるよ。では、君達。君達は、あの槍使いに遊んで貰うと良い」

 

キルバーンのその言葉で、先ほど次元の狭間から現れた魔物達が大挙してラーハルトに殺到した。そんな魔物達を相手にラーハルトは槍を突きつけ声を張り上げた。

 

「来いっ、雑魚共!! 竜騎衆最後の一人、ラーハルトの名をお前達の魂に刻みつけてやる!!」

 




今日は切りのいいところまで投稿したいため、3話連続投稿します。
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