~~~~
「六大軍団なんてものを組織していたわりには、各軍団の侵攻状況には関心を払っていなかったようだな。マルノーラ大陸のオーザム国は、町は滅びてもそこに住んでいた民は健在だ。その民が、お前の落としたピラァの秘密に気づいたんだ。
そして、各地点に落とされた黒の
黒の
バーンは、六芒星による地上の壊滅作戦を看破されていた事を聞かされても、何も言葉を発しなかった。しかし、その後顔を上げてアバン先生をジッと見つめたかと思うと、静かに口を開いた。
「そなたがアバンか。直接顔を会わすのは初めてだな。……なるほど。思っていた通り余の信じる強さとは異質の強さを感じるな。3か月前のあの日、余はハドラーにそなたの抹殺を命じた。その判断が誤りであったとは思わぬが……」
「ええ、分かりますよ、バーンさん。私より優先すべき抹殺対象がいた事に、ようやく気が付いたようですね」
おお……。大魔王バーンまでさん付けかよ。やっぱアバン先生、ぱねぇなぁ……。しかし、アバン先生より優先すべき抹殺対象か。でも、あの時点では気づけなくて当然だよな。まさかダイが、バランの一粒種の
「フ、クックック。かつての勇者より、あるいは、未来の
……。まさかとは思うが、ただ1人の無名の人間って、俺の事じゃないだろうな? こいつは一体何を言っているんだ? アバン先生は、わけの分からない事を言いだしたバーンを、涼しい顔で見つめているだけだ。
「――! そうか、もしやアバン……、そなた……! そのために、氷の賢者を弟子に……?」
カッと目を見開いてアバン先生を凝視するバーン。そんなバーンに対してアバン先生はふっと笑みだけ浮かべて答える。
その仕草をどう捉えたのか、バーンが続ける。
「なるほど……。そなたがいる間は、そなたが。そしてそなたがいなくなった後は、
ひとしきりクックックと、自虐的に笑うバーン。この状況では勝ち目が無いと理解しているのか、以前ここで出会った時のような高圧的な態度は影を潜めている。
「それで……? そなた達は余に何を求めるのかね?
アバン先生はバーンの前に一歩進み、奴に宣告した。
「……大魔王バーン。降伏しませんか? 我々にとって最も脅威だったのは、あなたが全盛期の肉体を手に入れ降臨する事でした。ですがそれは、ポップによって防ぐ事ができました。今のあなたがまだ並ぶもののない強者である事を否定はしませんが、これだけの戦士を相手に勝てると考えるあなたでもないでしょう。
……あなたをそのまま放免する事は出来ませんが、破邪の秘宝の力を使えば、命までは奪わず冥竜王ヴェルザーのようにその力を抑えて、封じさせてもらう事は出来るでしょう。いかがですか、大魔王バーン?」
バーンはそのアバン先生の問いかけを黙って聞いていた。しかし、徐々にその肩を震わせ始め、直ぐに大声を上げて肩を上下させた。
「ク、ククク……。フ、フハハハハ……! 何の冗談だ、アバン? あのヴェルザーの無様な姿を知っている余がそのような屈辱を容認するはずがないではないか……。認めよう……。余はそなた達の力を見くびっておった。まさか定命の者達に、ここまで追い込まれようとは……な」
光魔の杖を投げ捨てたバーンが右手を額に重ねると、突如バーンから異様な波動が立ち昇り始めた。おいおい、バーンの様子が何やら妙だぞ。俺は嫌な予感がビンビンし始めた。
「な、何をするつもりだ、バーン!」
ダイが思わず声を張り上げるが、バーンはそれには取り合わず、狂気じみた笑い声を上げる。その姿には、かつて見た俺達を見下す不遜な姿は消えていた。
「ハ、ハハハハ! ……だが、余は負けぬ! たとえ二度と元には戻れずとも、余に敗北などあってはならぬのだ……! ハハハハ! 今ならハドラーの気持ちが分かるわ! 勝利!! その二文字のために、余は魔獣と化そう!!!」
ビチャッ!
何を考えたのか、突如バーンが額に指を突っ込み何かをズルッと引きずり出した。
次の瞬間、バーンの肉体が眩く輝き、突然その場から消えてしまった。皆が驚きの声を上げるが、バーンの行方を気にする余裕は直ぐになくなった。それは
「ポップ、危ない!」
マァムが俺を抱えて、横っ飛びに飛んだ。俺がさっきまでいた場所に巨大な瓦礫が落ちていた。もちろん崩落が始まっているのはそこだけでなく、もともと崩壊寸前だった天魔の塔の天井から次々と瓦礫が落ちてくる。
ヒムが落ちてきた瓦礫を拳で砕きながら叫んだ!
「お、おいおいポップよ! これは一体……!?」
んな事問われても分かんねえよ、俺にも! だけど、このままここにいるのがまずいって事だけは分かるさ!
「皆さん、どうやら
アバン先生の言葉で、皆が俺と先生の側に集まる。
俺はアバン先生と顔を見合わせ頷いた後、
ズザザッと俺の足が大地を踏みしめる音がする。濃厚な土の匂いが、ここが
ここは、ロロイの谷を眼下に見下ろす事の出来る高台だった。周囲を見渡し
「ポップ、あそこに皆が!」
ダイの指し示す方に目をやると、ここよりかなり距離が離れているが、ロロイの谷に集結した戦士団の無事な姿が見えた。向こうはまだこちらに気づいていないようだ。遠すぎて見えないが、メルルもあの中にいるのだろう。
「皆、ピラァの直撃からは逃れる事が出来たみたいね。良かった……」
「ここの黒の
マァムと姫さんの会話を聞きながら、俺はアバン先生に問いかける。
「アバン先生……、バーンはあのまま終わったりは……」
「ええ、バーンは何か奥の手をまだ残している様子でした。まだ気を抜くわけにはいきませんよ……」
アバン先生の言葉に、俺だけでなく皆が周囲を警戒の眼差しで見つめた。最初に異変に気付いたのは、ヒュンケルだった。
「くっ! 皆、あそこだ! あそこに凄まじい程の力を感じる……!」
ヒュンケルが指し示す上空を皆が見つめる。そこでは、猛烈な風に周囲を覆われた巨大な何かが出現しようとしていた。
「む、むう……! なんという禍々しい気配だ!」
おっさんが、脂汗を流しながら呻く。
巨大な何かの全身を覆っていた突風が次第に晴れていく。その風の中から現れたのは、かつてパプニカで見た鬼岩城に酷似した大きさと形状の異形の怪物だった。
皆が、声も出せずにその巨大な怪物を見上げている。
「待たせたな、地上の強者達よ……」
――!? 俺達の脳裏に直接響くようなその呼びかけに、俺達は身体を強張らせた。
「やっぱりお前はバーンなのか……!?」
ダイの問いかけに、やはり脳裏に響く様に「いかにも……!」と返事が届いた。
「この姿は、予の魔力の源である第三の眼『
アバン先生が厳しい目で、大きく変化したバーンに問いかける。
「
「切り札? 違うな、アバン。余はこの姿を取るつもりは無かったのだ。この姿に一度変異すれば、余はもう二度と元の姿には戻れぬ……! 生涯、この魔獣の姿のままよ!」
「――! では、あなたは私達に勝つことだけを目的にその姿に……!?」
「そうだ! 余は決して敗北はせぬ! 大魔王バーンの偉大なる名に、敗北はありえぬのだ! ファッハッハッハ!! そのような顔をするな! 余は後悔はしておらぬ! このまま貴様達を踏みにじり、三界を支配する恐怖の魔獣となって未来永劫に恐れられ続けるのもまた一興よ!!」
ズンッ!
突然大地が激しく脈動し始める。
「今度は一体何が起こったんだっ……!?」
立っていられないほどの振動に、チウがゴロゴロと転がりながら叫んだ。
「皆、あっちを見てっ!」
マァムの声に皆がロロイの谷の先に広がっている平原に目を向けた。その平原上に、突如ブラックホールのような漆黒の空間が出現していた。しかし、漆黒と感じたのは一瞬だった。次の瞬間、その漆黒の空間に無数の赤い光が浮かぶように出現した。
「ハッハッハ! 本来ならば、地上界を崩壊させてから生き残った者共を蹂躙するつもりで集めていたが、もう良い。あれこそ、余が魔界に残しておいた魔王軍の本体よ……!!」
魔王軍の本体だって!? じゃあ、あのブラックホールみたいなのは魔界に繋がっているのかよ!?
どうやら俺のその想像は正しかったようだ。
整然と隊列の整った魔物の軍勢が、漆黒の空間から次々に現れ始めた。
もちろんこの事態に、眼下のフローラ様やバウスン将軍達も気づいているようだった。いや、むしろ最初からその出現が分かっていたように、陣形が整えられていた。
「ハッハッハ! 余の軍勢はこれだけではないぞ! 『魔界の門』の向こうにはこの地を埋め尽くすほどの魔物がひしめいているぞ!! さあ、足掻くがいい! この地を、『鬼眼王』の誕生に相応しい饗応の場とするのだ!」
ごくっ……。なんてこった。こちらに現れた魔物の軍勢だけでも、こちらの戦士団の数倍に達しているぞ。巨大化したバーンの相手と、地上の魔物の軍勢……。いったいどうしたら……。
呆然として眼下の光景を見下ろしている俺の肩に、アバン先生が手を置いた。
「ポップ、呆けている場合ではありませんよ! 鬼眼王と化したバーンと、魔物の軍勢。どちらに誰を向かわせるか、早急に決めねばなりません!」
「え……? そ、そりゃあ、早急に決める必要があるでしょうけど、アバン先生が決めてくれるんでしょう?」
俺の言葉に、アバン先生が呆れた表情をする。
「何を言っているんですか、ポップ。あなたは、勇者
うっ、と言葉に詰まった俺に、更にアバン先生は諭すように言った。
「それにポップ。ここに集まった方々は皆、あなたを中心とした冒険の過程で集まった人達ですよ。私の指示より、あなたの指示にこそ従うはずです」
アバン先生はそこで一呼吸置き、優しい笑顔を俺に向けた。
「自信を持ちなさい、ポップ。あなたはもう私を超えているのです。あなたの指示で敗れるのなら、私はもちろん他の誰でも駄目だったと言う事です。ですよね、皆さん?」
そう言って背後を振り返るアバン先生。その視線を追って俺も皆に目を向けた。
「わっはっはっ。そういう事だ。アバン殿も良いが、おれはやはり最後までお前に命を預けたい……!」
クロコダインの豪快な笑い声に、皆が頷く。……ラーハルトだけは渋い顔をしているがな。
「ほら、早くしなさい、ポップ。なんだかんだ言って、皆あなたの事を信頼しているんだから」
マァムにも背中を押された俺は覚悟を決める。実際こんな議論をしている時間も惜しいのは確かだ。
「分かった。それじゃあ、シグマとヒムは
「ふふふ。遊撃ですか。図らずも、あなたが以前言った通りの布陣となりましたね」
くすっ。先生も覚えていたか。俺もまさにそう思っていたよ。俺は皆の顔を見て声をかけた。
「これが最後の戦いだ。ここまで来たんだ! 誰一人欠ける事無く、皆でハッピーエンドを迎えようぜ!!」
そして俺達は、それぞれの持ち場に分かれて散って行った。
完結まで後14話…