転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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ここからは文字通りの最終決戦です。


186話 最終決戦① 戦場に集う者達

「メルル、バウスン将軍! 状況は!?」

 

レオナは、戦士団の後方で指揮を取っているバウスンとその側にいたメルルを遠くに見つけ、駆け寄りながら声を張り上げた。前線からは魔界から現れた魔物の雄たけびと、戦士達が上げる鬨の声が聞こえてくる。既に戦端が開かれてる事は明白だった。

 

後方から前線に細かな指示を飛ばしていたバウスンが、その聞きなれた声に肩越しに振り返った。

 

「おおっ! レオナ姫! ご無事で何よりです!」

「レオナ姫! よくご無事で!」

 

レオナが大魔宮(バーンパレス)から戻って来ていた事を知らなかったバウスンとメルルは、彼女の無事な姿に歓喜の声を上げた。

 

手短にレオナ達は互いの情報共有をする。

 

「じゃあ、ポップさん達は皆無事なんですね! 良かった……」と、ポップ達の無事を喜ぶメルル。

 

「なんと! では、先ほど空に浮かんでいた巨大な化け物が大魔王バーンの変異した姿なのですか!?」

 

「ええ、でも、バーンにはダイ君達が向かったわ。私達はダイ君達がバーンを倒すまで耐えきればいいわ! そうすればきっと戦局が変わるはずよ。戦況を教えて、将軍!」

 

「はっ! 中央はフローラ様率いるカール軍とリンガイア軍が受け持っています。右翼はアキーム殿率いるベンガーナ軍と冒険者達が、左翼はライオネル国王の率いるオーザム軍とロモスからの勇士が展開しております。パプニカの魔法兵団には、その中央後方で魔法攻撃と回復を担っていただいています。ですが、連戦が続いており、魔法兵団のほとんどの兵の魔力が限界に近付いているとエイミ殿から報告が……。魔法の聖水も、もう残りわずかに」

 

「そう……」と呻くように呟いたレオナは、思わず唇を噛んだ。魔法力だけはいかんともしがたいものだった。ロモスから届けられた補給物資には貴重な『魔法の聖水』がたくさん含まれていたが、それが尽きたら戦局が一気に傾きかねないと言うバウスンの懸念を、レオナも直ぐに理解した。

 

「各戦線にヒュンケル殿やクロコダイン殿、マァム殿を始めとする一騎当千の戦士達が入ってくれたのはとても助かりますが、後方支援が滞ればいずれは……。ポップ殿はいずこに?」

 

後方支援のスペシャリストであるポップの参陣をバウスンは期待したが、その問いかけにレオナは首を振る。

 

「ポップ君には、空でダイ君と一緒にバーンの相手をしてもらっているわ。こちらに来てもらう事は出来ないわ」

 

「なるほど……、それでは致し方ありませんな。現有戦力でやってみるだけです」

 

最も困難な戦場がバーンとの決戦の場である事を理解しているバウスンは、それ以上は言葉を重ねなかった。

 

「そう……ね……」と思案に沈むレオナに、メルルが「待ってください!」と叫ぶ。そのメルルは、東の空を一心に見つめていた。

 

「まだ、まだ……ここに来る、いえ、来てくれる方達がいます!!」

 

その言葉に、レオナとバウスンがメルルの見つめる東の空を振り返った時だった。二筋の光が、ほとんど同時に戦場に着弾した。それは瞬間移動呪文(ルーラ)の光だった。

 

二筋の光のうち、一つは戦場の最後方で指揮を執る彼らの至近に着弾していた。着弾と同時に舞い上がった土煙がその姿を覆い隠すが、戦場を吹く一陣の風により、徐々に土煙が晴れていった。

 

その土煙が晴れた後現れたのは、優に50体を超える数の魔物の集団だった。先頭には見事な体躯のキラーパンサーが4本足ですっくと立っている。その背にはスライムが、その隣にはふよふよとホイミスライムが宙に浮いている。彼らの後ろにも、リリパット、キメラ、踊る宝石、ゴーレム、ドロヌーバなど多種多様な魔物が続く。

 

バウスン達司令部の面々に緊張が走った。敵が、司令部の殲滅を目的に魔物を直接後背に投入して来たと考えるのは当然だった。すぐさま司令部に詰めている数名の騎士が剣を抜き、バウスンやレオナを背に庇う動きを取った。

 

「待ってください!」

 

そんな周囲の行動を制止する声が飛んだ。メルル。皆が突然のその制止の声に驚く中、彼女が突如現れたキラーパンサ―の前に飛び出した。

 

「メルルッ!?」と驚きの声を上げるレオナをよそに、メルルは魔物達を警戒する素振りも示さず、近づいていく。そのメルルの歩みに合わせるように、成獣のキラーパンサーの足元からまだ幼い、と言っても既に豹のような大きさのキラーパンサーがするっと現れた。

 

メルルはその年若いキラーパンサーの登場に一瞬動きを止めたが、直ぐに地面に膝を着き、その豹のような大きさのキラーパンサーを迎えるような素振りをする。それを見て、メルルに勢いよく駆けてその胸に飛び込むキラーパンサー。

 

一瞬レオナ達に緊張が走ったが、その緊張は直ぐに霧散した。何故なら、当のメルルから笑い声が上がっていたためだった。

 

「くすくすくす。やっぱり、パンちゃんですね? あんっ、くすぐったいですよ。久しぶりです、お元気でしたか? びっくりしましたよ、急にそんなに大きくなって」

 

メルルの顔をペロペロと舐めるその邪気のない若いキラーパンサーの姿に呆気に取られたか、剣を構えた騎士たちの腕が次第に下がっていく。

 

メルルは顔を舐めるパンの動きを手で抑えつつ、自分達を優しい目で見つめている成獣のキラーパンサーに目をやった。

 

「あなたは、セレーナさんでしたね。後ろの皆さんは、エウレカの里の方達ですか? もしかして、私達のお味方をしに来てくださったんですか?」

 

「そういう事! 俺はスラリン! 君、メルルでしょ? ポップから聞いているよ! うわー、本当にかわいい女の子だね。ポップには、もったいないよ!」

 

ピョン、ピョンと飛び跳ねながらメルルの前に来たスライムが、悪戯っぽい笑みを浮かべながらそう声を発した。驚いて目を丸くしているメルルの肩を、ちょんちょんと何かの触手が触れる。メルルがその触手の先を視線で追うと、そこには宙に浮かぶホイミスライムがいた。

 

「初めまして、だね、メルル。僕はホイミン。そう、君が言った通り僕たちは皆ポップの友達さ。メッキ―が瞬間移動呪文(ルーラ)を覚えたから、こうして皆で手伝いに来たんだよ」

 

ホイミンに顔を向けられたキメラが「キッキー!」と叫び、片翼をビシッと天にあげた。そのコミカルな仕草にクスッと笑みを浮かべたメルルは、背後のレオナ達を振り返った。

 

「皆さん、大丈夫です。この方達はポップさんの友達、エウレカの里の皆さんです。どうやら、私達の助けに来てくれたようです……!」

 

呆然としていたレオナ達だが、何故かポップの友達と聞き腑に落ちたように頷いた。よく分からない事態が起きた時は、往々にしてポップが絡んでいる。そんな共通認識がレオナばかりかバウスン以下多くの人間まで浸透しているようだったが、同時にポップの友達と言う一点だけで彼らは信用に足ると皆が認識した。

 

ホイミンが、エウレカの民の後ろの方に控えていたゴーレムを手招きで呼び寄せる。その仕草に応えて前に出てきたゴーレムは、重そうな木箱を両腕で抱えていた。

 

「メルル、体力や魔力の回復アイテムをいっぱい持ってきたよ。里長が霊峰ギルドメインの綺麗な水で作ったアイテムだから、効き目は保証するよ。足りていない所に持って行ってくれる?」

 

それはまさに、今バウスン達が喉から手が出る程に欲しかった物だった。疑う事も無く、バウスンは周囲の兵士に、その届けられた回復アイテムを前線に運ぶよう指示する。

 

「バウスン将軍! 右方にも、瞬間移動呪文(ルーラ)で現れた集団が! ベンガーナの旗が掲げられています!」

 

バウスンは首を伸ばして右方に目をやるが、距離が離れすぎていてその姿までは視認できなかった。しかし、ベンガーナの旗が掲げられていると言う事は、クルテマッカ王が手配した後詰の援軍だろうと考えたバウスンは、伝令に声を張り上げる。

 

「その援軍は、そのまま右翼のアキーム殿の元へ向かってもらえ。同じベンガーナ軍だ。連携が取りやすいだろう!」

 

「はっ!」と返事を残し、踵を返して走っていく伝令。

 

その間にも、先ほど現れたエウレカの里の魔物も前方にそれぞれ駆けだしていた。

 

 

 

~~~~ロロイの谷の戦線 中央後方 パプニカ兵本陣~~~~

 

「薬草の補充を急いで! 意識の無い人には砕いて飲み込ませるのよ!」

 

「はいっ!」

 

エイミの指示に、年若い魔法使いが駆けだして行く。

 

そんな時、「治療の必要な人達はここに集まっているの?」と、突然現れたホイミスライムに声を掛けられエイミはギョッと目を見開いた。しかし、直ぐに先ほど司令部から伝えられた内容を思い出したエイミは、戸惑いながらも返事を返した。

 

「え、ええ、そうよ。重傷を負った人達は皆ここに。でも、皆魔力が尽きていて回復魔法を唱えられなくて……」

 

負傷者が増えていくばかりで、魔法による治療ができず歯がゆい思いをしていたエイミが悔しげに俯く。そんなエイミを見て、ホイミスライムは触手の1本を自身の胸に触れさせて胸を張った。

 

「じゃあ、今からは僕が治療を受け持つよ。――広域回復呪文(ベホマラー)!」

 

ホイミスライムが呪文を詠唱した途端、その身体から緑色の清浄な光の粒子が全方位に広がっていく。その粒子は負傷を負ってうめき声を上げていた兵士達に降り注いだかと思うと、直ぐにその怪我を癒し始めた。

 

「す、すごい……。あなた、いったい……」

 

エイミが、その凄まじい癒しの力に目を大きく見開いて、感嘆の声を上げた。

 

「僕はホイミン! ポップに回復呪文を教えたのは僕だよ。回復なら任せてよ!」

 

 

 

~~~~ロロイの谷の戦線 右翼 ベンガーナ軍本陣~~~~

 

「撃てーッ!」

 

アキームが腕を振り下ろし叫ぶと同時に、ベンガーナ戦車部隊の大砲が火を噴いた。

 

その直後ドドーン、という耳をつんざくような轟音が周囲に轟き、進撃を始めていたソルジャーブルの前方に次々と火柱が立ち上がる。進撃の足が止まったソルジャーブルの集団に、ベンガーナ軍の歩兵が突っ込んでいく。

 

その様子を見たアキームは、部下に大砲への次弾装填を急がせる。

 

「2番隊、準備できました!」

 

他の隊に先駆けて装弾の済んだ2番隊が、アキームに声を張り上げた。

 

「よしっ! 準備が出来た隊から撃って良し! 歩兵に当てるなよ!」

 

「――! 隊長! 上ですっ!」

 

「!?」

 

「キキキキ! バーン様にたてつく愚か者め! この鎌でその首掻き切ってくれる!」

 

それはソルジャーブルとベンガーナ軍の頭上を飛んできた『地獄のもんばん』だった。『地獄のもんばん』は、アキームの直上より手に握った大きな鎌を振りかぶって急降下してくる。咄嗟にアキームは腰の剣を抜き放ちその攻撃に備えるが、横合いから飛び出した何かがその『地獄のもんばん』の胸に突き立った。それは氷の槍だった。

 

「グハッ!」と、宙で緑色をした血反吐を吐く『地獄のもんばん』。そこに止めを刺す様に飛び出した何者かが、空中で剣を一閃しその首を胴から切り離した。

 

突然の来援にアキームが「おおっ!」と声を上げる。見事な剣技で『地獄のもんばん』の首を切り落としたその者は、地上に足を着けると同時に肩越しにアキームを振りかえって、笑みを浮かべた。

 

「お久しぶりです、アキーム殿! 我ら、ロックハート砦の有志、これより戦線に加わります!」

 

「おお、ジャンではないか! バウスン殿からの伝令は聞いておったが、ロックハートの者達だったか! 陛下のご下知という訳だな! ありがたい事だ!」

 

しかしジャンは、そのアキームの言葉に一瞬複雑な表情を浮かべた。何故なら、彼らは主君であるクルテマッカの命でこの場に参陣したわけでは無かったからだった。

 

「ジャン隊長、ご無事ですか?」

 

ジャンの背後から見目麗しい女性が突如現れ、アキームは思わず赤面した。

 

「ジャン、こちらの女性は……?」

 

「ああ、こちらはエルサ嬢。先ほど魔物に氷の槍を叩きつけた女性です」

 

紹介されたエルサ嬢は、緊張した面持ちでアキームに頭を下げる。しかし、ジャンは知っている。この女性はこのようなしとやかな態度を取っていても、いざ魔物、特に悪魔神官などを目にすると我を忘れたように果敢に立ち向かう事を。

 

「姉ちゃん、前に出すぎだって!」

 

「そうだぞ、エルサ。まだ俺達は着いたばかりで右も左もわからないんだ! 突出するんじゃない!」

 

エルサに続き、彼女の弟と、ラドル村の村長リックが現れた。リックは斧を肩に担ぎ、周囲の喧騒に青い顔をして愚痴を飛ばす。

 

「まったく! 魔物から逃れるために購入した『キメラの翼』なのに、大魔王との決戦の場に参入するために使うなんて、こりゃいったい何の冗談だ!?」

 

ジャンはさておき、続いて現れた人間がおよそ兵士とは思えない者達ばかりなのを見て、アキームは目を丸くする。

 

「ジャン……、彼女達はいったい……」

 

「エルサ嬢を除く民間人は2人。兵士は自分を含めて35名です。民間人の2人は、エルサ嬢の護衛とお考えください」

 

「護衛?」

 

護衛の必要なうら若い女性を何故このような場に連れてきたのだ、と訝しげな視線を向けるアキームに、ジャンは言葉を続ける。

 

「彼女は、あの『氷の賢者』ポップの愛弟子エルサです。聞いた事がありませんか? 『氷の女王』あるいは『悪魔神官キラー』の異名を。氷結魔法に関しては、大賢者にも引けを取らない実力者ですよ、彼女は」

 

その言葉にアキームは目を向いて驚くが、すぐに動揺から立ち直ったのは、さすがクルテマッカの信任が厚いだけの事はあった。

 

「そうか! ポップ殿クラスの魔法使いが、来援に来てくれたとはありがたい! では、彼女を有効に生かすための戦略を立てよう!」

 

「はっ!」

 

 

 

 

~~~~ロロイの谷の戦線 中央後方 パプニカ兵本陣~~~~

 

 

「ありがとうございます、ホイミン殿!」

 

「サンキュー! 今度酒をおごらせてくれよな!」

 

ホイミンの広域回復呪文(ベホマラー)で回復した戦士や冒険者達が再び前線に戻って行く。

 

エイミはその様子を視界に収めながら、矢継ぎ早に魔法兵団に指示を発する。

 

「『魔法の聖水』が届いたわ! 皆、今のうちに魔法力の回復を! 負傷者はホイミン殿の近くに! 空からの敵には注意しなさい!」

 

つい先ほど空から数体の『れんごくちょう』が襲撃をかけてきていたため、エイミはその注意喚起も忘れない。幸いそれらの魔物は、ちょうど来援に駆けつけたマァムが迎撃したため大きな被害は生じなかったが、エイミからすれば冷や汗ものだった。

 

エイミは後方から前方に視線を移した。中央の最前線にはクロコダインとマァムが、右翼にはベンガーナからの増援が入った事でどうにか持ち応えているように見えた。そして左翼も……。焦燥の想いを胸に抱きながら、エイミは左翼の戦場から視線を逸らした。

 

その直後、戦場を清浄な光の粒子が放射状に走った。その粒子の波は、エイミ達ばかりか前線の部隊の大半を囲むように走っていた。驚くエイミが空に目をやると、空には大きな五芒星が浮かび上がっている。

 

「これはいったい……」と、エイミは身体に蓄積した疲労が軽減している事を感じながら、疑問の声を上げる。

 

「これは、アバン先生の破邪呪文(マホカトール)を破邪の秘法で増幅したものよ。お待たせ、エイミ」

 

「姫様! ああ、良かった。ご無事だったのですね」

 

エイミは、レオナの無事な姿に安堵の息を吐いた。

 

「ええ、留守を任せて悪かったわね、エイミ」

 

レオナはアバンが生存していた事、アバンの破邪呪文(マホカトール)によって範囲内では回復呪文の威力が上がっている事などを伝える。

 

「勇者アバンが……。ああ、神よ。奇跡に感謝します」

 

エイミが、手を胸の前で組み合わせ祈るような所作を取る。レオナはそんなエイミを見つめながら、口を開いた。

 

「エイミ、ここの指揮はこれからは私が取るわ。あなたは、左翼に行きなさい。ライオネル王に頼まれたの。オーザム兵は回復魔法を使える人がほとんどいないから、3賢者のエイミに助力願いたいって」

 

その思わぬ言葉にエイミは思わずレオナを見つめ返した。

 

「……よろしいのですか、姫様?」

 

「ええ、もちろんよ。彼の事、心配なんでしょう? 側に行ってあげなさい」

 

レオナは悪戯っぽい笑みを浮かべたかと思うと、そっとエイミの背を左翼の部隊の方に押し出した。エイミは僅かに戸惑いながらも、主君であるレオナの気遣いを素直に受け取る事にした。

 

「はい……ありがとうございます、姫様」

 

そしてエイミは左翼の方に駆けだした。ちょうどその左翼では、魔物の軍勢に対して十字の形をした光の奔流が放たれた所だった。

 

 

 

~~~~ロロイの谷の戦線 中央最前線 カール軍本陣~~~~

 

「……」

 

フローラは、最も激戦が続いている中央最前線で果敢に指揮を取っていた。魔王軍との激突当初は、アークデーモンやギガンテスと言った地上ではまずお目にかかれない魔物の群れに劣勢となったが、先ほどクロコダインやマァム、キラーパンサーを筆頭としたエウレカの里の魔物達が来援として来てくれてからは、かろうじて戦線が維持できていた。

 

矢継ぎ早に指示を出すフローラだったが、時折その目が上空に泳ぐように向いている事に側近のレオンが気づいた。

 

「フローラ様、空に何か? バーンには、勇者殿達が向かったと聞きましたが……」

 

その言葉どおり、ロロイの谷の遥か上空の雲の上からは時折凄まじい爆音が地上まで轟き、稲光が雲を挟んで地上からも見えた。勇者達と大魔王バーンとの死闘が始まっているのは間違いなかった。

 

しかしフローラは、彼らの事を見ていたのではなかった。彼女の視線が向かっていたのは、もっと低い場所。そう、彼女達の上空を頻繁に飛び回り、各戦線で綻びを見せ始めている所に的確に援護をして回っているマントを羽織った戦士だった。

 

ちょうど彼女達の上空をそのマントを羽織った戦士が通過したのを視認したレオンは、頬をひくっと引き攣らせた。

 

「……ねえ、レオン。先ほどから私達の上空を飛び交っているあの戦士。私のよく知る戦士にそっくりに見えますが、レオンはどう思いますか?」

 

その声は、思わずレオンの心の臓が縮みあがるほど底冷えのする声だった。レオンの敬愛するフローラ女王は、常日頃から微笑みを絶やさない優しさと、どんな状況にも負けない凛とした強さを併せ持つ理想の主君だった。

 

しかし、そんなフローラ女王が感情を乱す事がまれにある事を側近のレオンは知っていた。そしてそれは、まさにこのような時だと言う事も。迂闊な事は言えない。レオンは敬愛する主君の問いに、言葉を選びながら答えた。

 

「そ、そうですね……。暗闇の上遠くてはっきりとは見えませんが、もしかすると我が国が世界に誇る勇者のように見えるような、見えないような……。いや、眼鏡をかけていて左右の髪をくるっと巻いた飛翔呪文(トベルーラ)が使える戦士など、世界にいくらでもいるでしょうから、違う可能性の方が高いとは思いますが……」

 

 

(世界広しと言えど、そんな戦士あの人以外いないよ……)と、レオンを除いたフローラの側近達が心の中で呟く。

 

レオンの断定を避ける煮え切らないその答えにもかかわらず、フローラはフッと笑みを浮かべた。

 

「……そうね。私にも彼のように見えるけれど、恐らく違う人物でしょうね。だって、彼ならこの戦場に到着したらまず何をおいても、()()()()()帰還の報告に来るはずですものね。……偽物よ、彼は」

 

上空を飛び交う戦士を偽物と断定するフローラに、レオンは思わず首を竦めた。フローラは、上空の戦士に絶対零度の視線を向けたままレオンに命じた。

 

「確か、『大陸十弓』のハーレイが参陣していたわね。申し訳ないけれど、彼女を呼んできてくれないかしら?」

 

「か、彼女を呼んでいかがなされるおつもりですか、フローラ様?」

 

「もちろん、私のもとに顔を見せないあの偽物を撃ち落と……いえ、捕獲してもらうのよ。今は味方のふりをしているみたいだけれど、私のもとに来ないあの偽物が何を企んでいるのか分からないわ。もう少し高度を落としたら、私の鞭が届くのに。……口惜しいわ」

 

腰に吊るした鞭を手で撫でつつ、空を見上げたまま口惜しそうにつぶやくフローラ。その様子をみて、誰に対しても気が利く事で定評のあるレオンは咄嗟に返答した。

 

「……ざ、残念ながらハーレイは今前方で交戦の真っ最中です。彼女には手が空いたらこちらに来るように伝えておきますので、どうかそれまでお待ちください」

 

「そう……。残念だわ。急ぐように伝えてね、レオン」

 

「はっ! 必ずや! それでは私もこれで!」

 

フローラに頭を下げ、逃げるようにその場を離れるレオン。その胸中を占めていた感情は1つだけだった。

 

(アバン先輩! 早くフローラ様の元に顔を出さないと、本当に殺されますよ!!)

 

 

 

~~~~ロロイの谷 上空~~~~

 

 

「――はっ!」

 

巨大な鬼眼王の額の位置に下半身を埋めたバーンが、鬼眼王の右手を操りカイザーフェニックスを放った。変異する前となんら変わらない威力の火の鳥が、鬼眼王の右手を離れポップ達目がけて飛翔する。

 

「くっ! その身体になっても魔法は使えるのかよ!」

 

「ポップ、俺に任せて! ――海波斬!!」

 

ダイの放った海波斬が火の鳥を真っ二つにする。その隙に元ハドラー親衛騎団のヒムとシグマが鬼眼王に肉薄しようとするが、無造作に振った左腕に薙ぎ払われ苦悶の声を上げながら後ろに吹っ飛んでいく。そして同時に鬼眼王の周囲に展開させていた無数の爆裂呪文(イオラ)の爆球をダイとポップに対して放った。

 

「くっ! 相変わらず早い上に、重たい!」

 

ポップは、氷系壁呪文(アイスウォール)を唱えその爆発の衝撃を緩和しようとするが、爆球の数が多いため、氷の壁を突破した爆球の爆発に巻き込まれ少なくないダメージを受ける。

 

「フハハハハ! その程度か、うぬれら! この鬼眼王の生誕を祝う宴なのだ! もう少し抵抗してもらわねば、興ざめも良い所よ! フハハハハハ!」

 

ダイ達を嘲笑するバーンの元に、魔界の門をくぐり地上界に現れた配下から思念が届けられた。

 

(バーン様……)

 

(おお、来たか、キングレオ)

 

(はっ。ゾルデもこれに。ただ、デスカールの姿が見えませぬな)

 

(クククッ。奴の事はいい。奴には、既に別命を与えておる)

 

(さようでございますか。では、我らも地上のゴミ共の掃討にお力添えをさせていただきます)

 

 

地上に現れた配下との思念を終えた後、鬼眼王となったバーンは一人ほくそ笑んだ。それは狂気の笑みだった。

 

(全て滅ぶがよい。余が魔獣となった以上もはや配下など不要……! 全ての生物を道連れに地上を崩壊させてくれる。クックック、アーハッハッハッハ!!)

 

 

 

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