転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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187話 最終決戦② エウレカの里の民 参戦

~~~~ロロイの谷の戦線 中央最前線 カール軍本陣~~~~

 

 

己の主である大魔王と思念を通じた通信を終えたキングレオは、周囲を悠然と見渡した。既に日はとっぷりと暮れているため、話に聞いている太陽を目にする事は出来なかった。その事に僅かに落胆しつつも、魔界とは異なる地上の風にキングレオの銀の鬣がサラサラとなびき、彼は目を細めた。

 

キングレオは、巨大なライオンの形をした魔物だった。その8本ある足を、地上の土をその身に感じるかのように踏みしめる。

 

バーン様が地上を支配なされた暁には、地上の一角に城を賜りその城にバーン様からいただいたキングレオという我の名を付けよう。そう悦に入っていたキングレオに、オークキングが駆けつけてきて報告をあげる。

 

「キングレオ様、敵は少数なれど、なかなか手ごわい魔物が敵側についているようです。何やら、大柄のリザードマンが人間どもを守るかのように立ちはだかっているとの報告が――」

 

オークキングの報告をみなまで言わせず、キングレオは手をパタパタと振った。

 

「分かった、分かった。ヒドラ族から志願してきたあいつがいただろう。あれを前線に押し出せ。働き次第では名をバーン様から賜ってやると言えばやる気も出るだろう。なあに、少々腕が立つと言っても、所詮は地上にいる貧弱な魔物よ。魔界の住人である我らの敵ではないわ……! グワッハッハッハ!!」

 

 

 

「――どりゃぁー!!」

 

クロコダインが振り下ろしたグレイトアックスによって、キラーマシンは頭部から一刀両断され、その機能を停止した。クロコダインに庇われた格好のチウが、目をキラキラさせながらクロコダインに礼を述べる。

 

「あ、ありがとうございます、クロコダインさん!」

 

「うむ……! チウ、お前達は援軍に来たエウレカの里の者達と一緒に戦った方が良い。ゴメなどなかなか上手くやっておるではないか」

 

クロコダインが指し示した方向に目をやるチウ。そこでは、1体のスライムとゴールデンメタルスライムのゴメが連携しながら敵を翻弄していた。

 

「たぁぁぁーー!」と、威勢の良い声を上げてスライム族のスラリンが口に咥えた『やいばのブーメラン』をブンッと放り投げる。それはクルクルと回転しながら前方の魔物を切り付けて明後日の方向に飛んでいく。

 

「あっ、やばっ!」とスラリンが冷や汗を流すが、その飛んで行くブーメランをパクッと口に咥えた者がいた。それは翼を持つ金色のスライム ゴメだった。ゴメは口に咥えた『やいばのブーメラン』を、今度はスラリンから反対の位置で魔物目がけて放った。そしてそのブーメランはやはりスラリンの所に飛んできたため、はっしと宙で咥えるスラリン。

 

「へへん、なかなかやるじゃないか、お前! よしっ、俺達で順番にそれを投げようぜ!」

 

「ピピィ!」

 

スラリンとゴメはそんな風に連携を取りながら、果敢に次々に押し寄せる魔物に対抗していた。

 

「くっそー、僕も負けないぞ! わっ!? わわっ!!」

 

やる気を奮い立てていたチウだったが、そのチウの眼前にれんごく鳥が口から氷の息を放ちながら現れた。

 

「ひゃー!」と逃げ回るチウだったが、突然チウの背後かられんごく鳥が上げたと思われる「ギャーーー!」という断末魔の叫びが聞こえた。

 

恐る恐る振り返ったチウの前にいたのは、れんごく鳥の細い首を鋭い牙で咥えた一体のキラーパンサーだった。そのキラーパンサーは成獣と幼獣の中間のような大きさをしており、そのくびれのあるしなやかなプロポーションが、彼女が雌で有る事を現していた。

 

「え……、も、もしかして……君、パンちゃん?」

 

チウの驚愕に見開いた目を見て、パンと呼ばれたキラーパンサーは呆れ顔で返事をする。

 

(そう……。チウ、よわい。うしろに下がっているといい)

 

そう念話で返事をされたチウは、ついカッとなって言い返す。

 

「な、なんだとっ!? ぼ、僕だって本気を出したら、こんなのには負けないぞ!」

 

その言葉に、パンはヤレヤレという表情を顔に浮かべて、自身が右前足につけていた『ほのおの爪』をポイッとチウに放り投げた。

 

「え……? こ、これを僕に……?」

 

(ん……。パンには、きばとつめがある。チウにあげる)

 

それだけを伝えたパンは、次の戦場を求めてその場を立ち去る。「あ、ありがとう!」と礼を述べるチウに背を向けて。ただ、パンはサーラ作のその『ほのおの爪』に、何故か敵を呼び寄せてしまう一種の呪いの力が宿っている事をチウに伝え忘れていた。

 

そのためチウはこの後、「何で僕ばっかり狙うんだよー!」と大声を張り上げながら戦場を駆け巡る事になるのだが、そんな事はパンには知った事では無かった。

 

 

 

「さて、俺もあいつらに負けてはいられんな……。――む!? チィッ!」

 

クロコダインが己の戦場に意識を戻した時、前方より巨大な魔物が兵士を跳ね飛ばしながらクロコダインに突進をかけてきた。それは5つの首を持つ巨竜の魔物キングヒドラだった。クロコダインに倍するほどのその圧倒的な質量の突進を、クロコダインは正面から受け止める。それはクロコダインの背後には指揮を執る者がいて、何としてもここで食い止める必要があると判断したためだった。

 

ガシーンッというまるで鉄球同士がぶつかり合ったような音が戦場に轟いた。それは、その激突を見ていたチウが思わず顔を背けるようなぶつかり合いだった。ズズズズッとクロコダインの踏ん張る足が大地に跡を残していく。クロコダインの丸太のような腕から血管が浮き上がる。

 

10mほど後退したところでクロコダインの膂力が功を奏し、キングヒドラの前進がようやく止まる。周囲のカール兵達はその様子に歓声を上げるが、まだキングヒドラの攻撃は終わっていなかった。

 

組み合った状態のまま、クロコダインの頭部をかみ砕かんとキングヒドラの1本の頭部が迫る。そのキングヒドラの頭部をかろうじて首を逸らす事で躱すクロコダイン。しかし、その隙にキングヒドラの左右両端にある首が、クロコダインの両腕にくるっと巻きついた。

 

「ぐあっ!?」

 

そのまま凄まじい力で腕を締め上げられたクロコダインは思わず苦悶の声を上げた。そして両腕を巻き取られたクロコダインは、身動きが取れぬままその巨体を宙に持ち上げられてしまった。

 

「ぐっ! お、おのれ! 舐めるなぁッ!! カァアーー!!」

 

まるで供物のように持ち上げられたクロコダインが激高し、その口から焼け付く息(ヒートブレス)を放った。灼熱のブレスが、キングヒドラの全身を包み込む。そのブレスに煽られキングヒドラの紫色の鱗が、徐々に真っ赤に染まっていく。しかし、キングヒドラは火炎攻撃に対する耐性があったのか、苦痛の声は発しなかった。

 

「クロコダインさん! くっそー! クロコダインさんを離せ! 窮鼠包包拳(きゅうそくるくるけん)!!」

 

クロコダインの身を案じたチウが、キングヒドラの身体に体当たりを仕掛ける。しかし、巨大な身体と強靭な体表がキングヒドラにダメージを通さなかった。

 

「クロコダイン殿! 今助けます!」

 

周囲の兵士がクロコダインを助けようとその武器を振るうが、鋼鉄のような硬さを誇るキングヒドラの体表に武器が跳ね返され傷一つ負わせられない。逆に振り回した尾に跳ね飛ばされ彼らは地表に叩きつけられた。

 

「シャーーーー!!」

 

クロコダインを拘束している首を除くキングヒドラの3本の首が大きく鎌首をもたげた。その口は獰猛な牙を覗かせ、長い舌をチロチロと躍らせていた。ヒドラ族特有の縦に長い瞳孔が更に細長く絞られ、愉悦の感情を露わにする。

 

「くっ! ふ、不覚……!」

 

クロコダインが顔をしかめるも、凄まじい力で締め上げられた両腕はどうしても動かせなかった。

 

そしてキングヒドラの3本の首が、クロコダインの首を掻き切ろうと、獰猛な牙を光らせ一斉に飛び掛かった。

 

 

 

ズバンッ!!

 

そして首がクルクルと宙を舞った。

 

「ク、クロコダイン……さん。そ、そんな……」

 

チウが思わず膝を着き、ポロポロと涙をこぼした。そんなチウの前に、胴体と分かたれた首がゴロゴロと転がってくる。こみ上げる涙を拭う事も忘れたチウは、その首を呆然と見つめた。

 

その瞬間、チウの身体は固まった。

 

 

 

その首はクロコダインの首ではなく、……キングヒドラの首だった。

 

 

「ギャァアアオオオオー!!!」

 

耳をつんざくような悲鳴が、キングヒドラから発せられていた。その悲鳴は、頭部の無い首を除く4本の首から発せられている。残る1本の首は、だらしなく伸ばされた舌だけをピクピクと痙攣させてチウの前に転がっていた。

 

クロコダインは、自身の両腕を拘束しているキングヒドラの首の締め付けが緩んだ隙に、その拘束から逃れていた。

 

そのクロコダインの隣には、いつ現れたのか、意風凛然とした立ち姿で大地に両足を踏みしめたキラーパンサーの姿が。それは先ほどチウを救った幼獣に毛の生えたような大きさのキラーパンサーでは無く、立派過ぎると言って良い成獣のそれだった。

 

そのキラーパンサーの右前脚の爪には緑色の返り血が付着している。

 

クロコダインは、「ドルルルル……」と獰猛なうなり声を上げキングヒドラを睨みつけるキラーパンサーに視線をやって、思わず呟いていた。

 

「何と雄々しいキラーパンサーだ……」

 

そのクロコダインのつぶやきをキラーパンサーが拾ったのか、その耳がピクッと動いた。そしてクロコダインに、魔物同士だけで伝わる思念が飛んだ。

 

(雄々しい、という表現は雌に対する表現としていかがなものかと思いますが……?)

 

その言葉にクロコダインは驚愕の表情を浮かべた。

 

「なんと! そなた、雌だったのか!?」

 

そのデリカシーの欠片も無いクロコダインの言葉に、キラーパンサーは今度はキングヒドラにではなく、クロコダインに対して「グルルル……」と低いうなり声を発した。

 

「あ、いや、待て! 俺が悪かった! 俺の名はクロコダイン! お前の名を聞かせてくれぬか!」

 

(……。私の名はセリーヌ。エウレカのセリーヌ)

 

「うむ、セリーヌか! 良い名だ! 先ほどは危ない所を助けていただき感謝する!」

 

その裏表のない真っ正直な感情表現に、先ほどクロコダインに対して抱いた剣呑な気配を霧散させ、セリーヌは思わずニヤッと笑みを浮かべる。

 

……が、直ぐにクロコダインとセリーヌはその場から左右に飛んだ。直後、彼らの立っていた場所に巨大な首が叩きつけられる。その一撃は周囲の地盤もろとも陥没させるほどの威力だった。

 

「シャオーーー!!!」

 

首を切り落とされた怨みを晴らそうと、そのまま執拗にセリーヌを狙うキングヒドラ。次々と頭部を叩きつける連続攻撃でセリーヌに迫る。

 

しかし、突如そのキングヒドラの攻撃が止まった。何かにガクンッと引っかかったように、突如その身体を前進させられなくなったのだ。

 

「シャッ!?」

 

キングヒドラが自身の身体の後ろにある尾を振り返ると、そこには尾をむんずと掴んで離さないクロコダインがいた。

 

「先ほどはやってくれたな、ヒドラよ。だが、俺とてかつては百獣魔団を率いた身。いかに魔界の住人とはいえ、たかが蛇如きに後れを取ってなるものか……! うおりゃーーーッッ!!」

 

キングヒドラの尾を掴んだまま、その身体を後方に向かって放り投げるクロコダイン。キングヒドラはクロコダインを中心に放物線を描く様に宙を舞い、その巨体を地面にめり込ませた。

 

さながら怪獣決戦の様相を呈し始めたクロコダインとキングヒドラの戦いを、遠巻きに見守る戦士団の者達。

 

「シ、ジャーーーーッッ!!」

 

大地に叩きつけられた衝撃によろめきながらもその身を起こしたキングヒドラは、クロコダインとセリーヌを、瞳孔を細めた目で見つめる。その4つの首からはチロチロと炎を吹き上がり始めていた。その様子を見て、セリーヌはクロコダインに念話を送る。

 

(クロコダイン、周囲の人間達に私の後ろに来る様に伝えて下さい)

 

「――! 皆、セリーヌの、キラーパンサーの後ろに入れ! ブレスが来るぞ!」

 

その言葉に、周囲の戦士やチウ達が我先にとキラーパンサーの後ろに駆け込む。皆が駆け込んだのと同時だった。キングヒドラの4つの首から爆発的な威力の『炎の息吹』が放たれた。暗闇に覆われた戦場で、そこだけが煌々と光に照らされる。

 

しかし、その魔界の猛火が皆の元へ到達することは無かった。何故なら、その時には既に、キラーパンサーを射出点とした防御光膜呪文(フバーハ)の清浄な光の膜が彼らを覆っていたからだった。

 

「すっげー……。でもキラーパンサーって防御光膜呪文(フバーハ)を使えたっけ?」

 

「へへーん。セリーヌを、そんじょそこらのキラーパンサーと同じと思うなよ!」

 

光膜の中に入った一人の冒険者の感嘆の声に、いつの間にそこにいたのか、スラリンが水滴型の肉体(ボディ)をプルルンと震わせて、我がことのように自慢した。

 

「ほう、これは凄い……。よし、では防御はセリーヌに任せて俺は攻撃に専念するとしよう。――むんッ!!」

 

その気合いの言葉と共に、クロコダインの丸太のような両腕がさらに一回り大きくなる。そしてクロコダインはセリーヌの横に立ち、自身の持てる最大の奥義をブレスをはき続けているキングヒドラに向かって放った。

 

「――獣王激烈掌!!!」

 

クロコダインの両腕から放たれた回転方向の異なる2つの闘気流は、セリーヌの張った光膜を内側から貫き、そのままキングヒドラの放つ『炎の息吹』すら貫通しヒドラに直撃した。

 

「シャ、シャァァァアアーーー!!」

 

4本の首がそれぞれ異なる回転の闘気流に捉えられ、激しくねじられる。もはや『炎の息吹』を発するどころではなかった。そしてとうとう首の根元が闘気流のねじれに耐えきれなくなり、キングヒドラの4つの首が全て根元から切断された。

 

ドウッ、と音を立てて地面にひれ伏すキングヒドラ。その傷口からはドクドクと緑色の血が流れていた。強敵の撃破に、クロコダインとセリーヌの周囲は沸き立っていた。

 

 

 

しかし、キングヒドラを倒したとはいえ、彼らを取り巻く状況は到底楽観視できるものでは無かった。それは敵の軍勢に陰りは見えず、次々と魔界の門を通って魔物が地上に侵攻していたためだった。

 

 

 

 

「ハハハハッ! キングヒドラを倒すとはなかなかやるではないか! だが、その威勢がいつまでもつかな? こちらには、無限の軍勢が控えているのだぞ! さあ、蹂躙せよ!!」

 

キングレオは、そう後方で高笑いを上げながら指揮を取っていた。

 

 

 

 

 

~~~~ロロイの谷 中央後方 本陣~~~~

 

「中央は、クロコダイン殿とノヴァを核として敵の攻勢を受け止めよ!! 左右の陣はその隙に攻勢を!」

 

伝令達が、バウスンの言葉を各戦線の指揮官に伝えるべく走っていく。その時、突然地響きが発生し、駆けだしていた伝令がつんのめる様に転がった。

 

「ぬうっ! こ、これは……」と、バウスンも強くなる一方の振動に立っている事も精いっぱいだった時、突然目の前の大地が隆起した。その大地の隆起と共に姿を現したのは、両手に鋭い爪、長い尾の先には鋭い棘を有した全長10mは優に超える大きさの『死のさそり』だった。

 

「シャアァァァァーーーー!!」

 

地上に現れた途端、奇声を上げて周囲の戦士達を睥睨する『死のさそり』。その威圧に耐えようと、皆がグッと唇を噛みしめた。

 

そして本陣に詰める戦士の1人がそんな『死のさそり』に対して、横から剣を叩きつけた。しかし、バキーンという音を放ってその叩きつけた剣がへし折れる。

 

「なっ! ――!? ガハァッ!!」

 

折れた剣を呆然と見つめていたその戦士を、横薙ぎに振るわれた『死のさそり』の腕が弾き飛ばす。

 

「何と言う硬さだ……!」と、その様子を見ていた他の戦士が吐き捨てる。

 

無理も無かった。『死のさそり』の全身は硬い甲殻で覆われていて、生半な武器では傷一つつけられそうになかった。

 

「バウスン将軍、下がってください!」

 

その様子を見て、バウスンの副官がそう背後のバウスンに声を張り上げる。

 

「駄目だ! 私が引けば、各戦線の士気が乱れる! 本陣は一歩も引かぬところを示さねばならんのだ!」

 

圧倒的物量で迫る魔王軍に対してかろうじて戦線を維持できているのは、各戦線で要石のように踏ん張っている一騎当千の戦士達と、全ての戦士達の高い士気である事をバウスンはよく理解していた。ここは、引くわけにはいかない……!

 

バウスンも自ら腰の剣を引き抜き、こちらを見下ろす『死のさそり』に対峙する。

 

『死のさそり』は、甲殻の下のその大きな両目を細めて、自身に剣を向ける戦士達を見下ろした。その尾の棘は、誰から仕留めてやろうかと値踏みするかのように空でフラフラと揺れている。

 

ズバンッ!!

 

その時、突然『死のさそり』がピタッと動きを止めた。直後、『死のさそり』の頭部から尾にかけての正中線沿いに一筋の線が走り、直後緑色をした液体が噴水のように吹き出す。それは、『死のさそり』の血液だった。

 

皆が呆然とその様子を見つめていると、『死のさそり』の身体が真ん中から左右にぱっくりと分かれて大地に崩れ落ちた。

 

そんな『死のさそり』の巨体の後ろから現れたのは、抜身の剣を右手にぶら下げたロン・ベルクだった。それを認識したバウスンが、真っ先にロン・ベルクの下へ駆け寄り礼を述べる。

 

「助かりました、ロン・ベルク殿! もう、お身体はよろしいので?」

 

それは、先のミストバーンと超魔ゾンビを相手取った戦いで少なくない傷を負っていたロン・ベルクを心配しての言葉だった。その言葉にロン・ベルクは左手に握った酒瓶を口に含んでニヒルな笑みを浮かべる。

 

「なーに、酒が切れたので、補充に行っていたのさ。あっちに比べたらこちらの方が落ち着いて酒を飲めそうだ。しばらくここで勝手にやらせてもらうぞ」

 

そう言って、激しい剣戟と大砲の音が響く前線に顎を振って、ロン・ベルクはバウスンの隣に腰を下ろす。その言葉とは裏腹に、彼がここで本陣を直接襲ってくる魔物の相手をしてくれるつもりなのを察したバウスンは、「かたじけない、ロン・ベルク殿」と頭を下げる。

 

「将軍、あちらを!」

 

ホッと息を吐いたのもつかの間、戦士の1人が空を指差して大声を上げた。その声に、皆が空を見上げる。その指の先には、空を覆わんばかりの翼持つ魔物の姿があった。

 

「あの魔物達も『魔界の門』から来たのか……。だが、やつらはどこへ……?」

 

バウスンは空を見上げてそう自問した。何十体ものサタンパピーを先頭にその魔物の集団はここではなく、高度を上げて上空の薄雲に向かっていた。

 

「まさか、奴らの狙いは上空のポップ殿達か!? いかん、誰かアバン殿にすぐに――」

 

「落ち着け、将軍」

 

雲の上で大魔王バーンの相手をしているポップ達の所へ敵がなだれ込む事を危惧したバウスンだったが、そんな彼にまるで月見酒をするかのように空を見上げながら酒を飲んでいたロン・ベルクが声をかける。

 

そしてロン・ベルクはそのまま「あれを見ろ」と、その翼持つ魔物の集団に向かう1体のドラゴンを指差す。そのドラゴンの背には1人の戦士が騎乗しているようにバウスンには見えた。

 

「ここからでも分かる。あのドラゴンの背に乗った戦士が装備している武装は、俺が作ったものだ。俺の鎧の所有者なら、あの程度の有象無象の魔物どもに遅れは取らんよ。さあ、将軍。お前もいっぱいどうだ?」

 

「なるほど……。ああ、いえ、申し訳ないロン・ベルク殿。私はまだやる事がございますので、その杯は全てが終わった後で改めて頂きたく思います」

 

ロン・ベルクから向けられた盃をそっとおしやり、バウスンは再び全軍の指揮を執るため前方に視線を向けた。

 

 

 

 

 

「ふむ……。ガルダンディーに一度スカイドラゴンの背に乗せてもらっていた事が、こんな所で役に立つとはな」

 

かつての同僚が愛竜としていた種と同じスカイドラゴンの背に乗ったラーハルトが、向かってくる翼持つ魔物達を見てそう独白する。彼が今騎乗しているスカイドラゴンは、魔界の門から出現した魔物の一体だった。

 

空を飛ぶ手段がないため、主君の忘れ形見の戦いに介入できない事を残念に思っていたラーハルトが、このスカイドラゴンを目にして従わせたのは必然と言えた。

 

そのまま彼はスカイドラゴンを駆って、雲の上で繰り広げられている戦いに乱入する事を考えていたが、同じ事を考えていたらしき魔物の集団に気づく。

 

「貴様達を、ディーノ様の下へ行かせる訳にはいかぬ」

 

手に持った槍を魔物の集団に向けたラーハルトは一度だけ雲の上に視線を向けて呟く。

 

「ディーノ様。こやつらは1匹足りとてあなた様の下へ行かせはしません。どうか、ご武運を……!」

 

そしてラーハルトは、迫る悪魔の集団に身を投げだした。

 

 

 

~~~~ロロイの谷 上空~~~~

 

 

「ポップは後ろに下がって!」

 

「下がっていられる場合か!」

 

ダイの俺を気遣う言葉に怒鳴るように返事を返し、俺はバーンに対して左手を突き出し詠唱する。

 

 

「――氷系呪文(フェンリル)!」

 

俺の放った白狼が宙を駆け、鬼眼王と化したバーンの右腕に取り付いた。それを確認した俺は即座に反対の手から火の鳥を発現し、宵闇の中を飛翔させる。空が近いためか、月と星の光だけで十分に視界は効いた。地上の様子はここからでははっきりとは分からない。しかし、全てを飲み込みそうな漆黒の帳から、次々と無数の赤い光点が広がり始めているのが上空から見えた。

 

時間がないんだ……! 一刻も早くこいつを倒さないと……! バーンの呪文返し(マホカンタ)を警戒した俺は、ミストバーンを倒したのと同じ方法で極大消滅呪文(メドローア)を放とうとした。

 

しかし、やはり零式は一度きりの技だったようだ。俺の放った火の鳥はバーンの身体にとりつく前に、奴の放った氷系呪文によって氷の彫像へと変えられ、粉々に砕け散った。

 

「――!? ちぃッ!」

 

次いで、俺の視界いっぱいに無数の爆球が広がった。俺はそれを閃熱呪文(ギラ)で迎撃するが、数が多すぎる! 閃熱呪文(ギラ)の迎撃をかいくぐって俺に肉薄する爆球。

 

しかし突如俺の前に、シグマが現れた。

 

「私に任せたまえ! ――ニードルサウザンド!」

 

シグマの胸から飛び出した無数の閃光が、迫り来る爆球を次々と誘爆させていく。

 

俺は零式を諦め、奴の右腕に取り付いていた白狼をそのまま腕を駆け上がらせるようにして駆けさせた。狙いはもちろん、鬼眼王の額にいるバーン本体だ。鬼眼王の左腕が俺に振り下ろされそうとするが、ダイが拳に浮かんだ(ドラゴン)の紋章を全開にしてそれを受け止めてくれる。

 

もう少し……。白狼が鬼眼王の首を駆け上がる。バーン本体に取り付くことができれば、氷結で多少の隙ができるはずだ。そうしたら皆の一斉攻撃で……。

 

しかし俺のそんな予想をバーンは大きく上回った。バーンの身体に噛みついた白狼が一瞬で燃え上がって消失したのだ。絶対零度にも匹敵する冷気の塊が燃えただと!?

 

「――痛っ!」

 

おそらく錯覚だったのだろうが、白狼と魔力的なリンクを繋げていた俺にまでその熱量が届いた気がした俺は、思わず顔をしかめる。

 

「ク、クク……。ククククク……。氷の賢者よ」

 

不意に俺を呼びかけるその声が空に響き、俺はバーンを見上げる。

 

「余に対して再びその技を見せようとは、よほど命がいらぬと見える。……久遠(くおん)の刻を数えていた余の肉体だけでは飽きたらず、この鬼眼王の身体まで消滅させようと? ク、ククク。我ながら、怒りのあまりこの身体の血肉が燃え上がってしまったわ」

 

 

まだ俺達と鬼眼王との戦いは、始まったばかりだった。

 

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