その間、俺は暇を見つけては魔法の修練に明け暮れていた。午前中は武器屋の手伝い。
といってもまだ子供の身体なので力を必要とする手伝いは出来ないけど、陳列された武器や棚の掃除ぐらいは出来る。
後は武器を製造する時に必要な水の水くみもやっている。この水くみ、井戸から水をくみ上げるんだけど、ポンプがこの世界にはまだ発明されていないらしく、毎回大変な労力がかかっている。あまり前世の知識を披露して内政力アップしたぜ、ドヤーみたいな事をするつもりは無いけれど、ポンプくらいは作っても良いのでは無いだろうか。
幸い、前世で通っていた大学の選択科目で、原理を教わっていたから作り方は知っている。父さんも鍛冶士なんだから、作り上げる環境は整っていると言えるんだ。だからこれについては、そのうち父さんに相談して作ってみようと思っている。
で、話を戻すと午後は基本的に自由時間だ。まだ子供だしね。ただ、
これについては、仕方が無いことだと思っている。元々マイル神父1人とシスターの1人ではこの村全体のけが人の治療は手一杯だったんだ。
俺もこの度
と言うことで、今日も怪我人が多いという事で手伝いを頼まれたので、俺は教会に来ている。最近は母さんも俺が教会に行くのに着いてきたりはしていない。ある程度奇行が減ってきた(火の中に飛び込もうとしたり、その他諸々……。)のと、慣れてきたというのもあると思う。
「マイル神父様、こんにちは」
「はい、こんにちは、ポップ君。いつもすまないね」
「いえ、良いんです。僕も魔法の熟練に役立っているので」
「そう言ってくれると助かるよ。もう怪我をした人たちには集まって貰っているから、早速始めようか。いつものように私とポップ君の半分ずつで良いかな? 今日は8人いるから、4人ずつだね」
「分かりました。宜しくお願いします」
シスターは、今日は巡回診療に行っているみたいだ。
怪我をした人たちが集まっている部屋に着いた。怪我をしていると言っても命の危険があるような重症の怪我人は今日はいない。だから部屋の雰囲気も落ち着いたものだ。
2人ほど骨にヒビが入っているのかなと思えるような症状を訴えていたくらいで、後は軽症の打撲程度だ。
「お待たせしました。それでは治療をしますので、そのまま楽な姿勢でいてくださいね」
俺は患者の一人にそう声をかけて治療を開始する。骨にヒビが入っているのかもしれないと感じた患者の1人だ。患部は、足の甲かな?
「すまないな、坊主。荷物を運んでいる最中に、手を滑らせて足に落としちまったんだよ。放っておいてもそのうち治るだろうと思っているんだけど、明日も作業があるからな。少しでも早く治したくて来たんだよ」
「そうなんですね。でも思わぬ重傷だったっていうこともありますから、これからも軽症だと思っても治療は受けに来た方が良いですよ。はい、それでは
俺はそう患者と会話をしながら、
そうそう、
でも、開発して独自に身につける分には問題ないらしいから、今こっそり
「すごいな、坊主。あっという間に痛みが無くなったぞ。そんな年で回復魔法を使いこなすなんて将来有望だな。坊主、名前は?」
「ポップと言います。お父さんは、ランカークス村の4番地で武器屋を営んでいます。もし良かったら、今度商品を見に来てくださいね」
さりげなく、自家商売の売り込みをかけておく。この売り上げ次第で食卓に並ぶメニューの量と質に差が出てくるからな。お金大事。
「ああ、戻ったら仲間にも声をかけておくよ。本当にありがとうな」
よし、新規の顧客ゲットだぜ。
その後も、自分の担当分となった患者さんの治療をつつがなく行った。ああ、マイル神父も丁度治療が終わったようだ。
「ありがとう、ポップ君。おかげさまで無事終わったよ。これは今日の分のお礼だよ。お母さんに渡しておいてね」
マイル神父は朗らかな笑顔で俺に声をかけてくれた。
「ありがとうございます、マイル神父様。お母さんも喜びます」
俺は、遠慮すること無くお礼という名の治療代とも言うべきお金を受け取った。実は最初の頃は受け取りを遠慮していたんだけど、これは治療を行った事に対する正当な対価であり、受け取ることは義務とも言えると、神父さんに諭されて、それから普通に受け取ることになったんだ。
まあ、お金はありすぎて困ると言うことは無いから、正直うれしい。
「じゃあ、今日はこれで帰ります。しばらくは手伝いは必要ないんでしたよね?」
「ああ、そうだね。大規模な事故でも発生しない限り大丈夫だと思う。また必要な時は声をかけさせて貰うよ」
「分かりました。それでは失礼します。お疲れ様でした」
とても5歳の子供の会話ではない気がするが、神父さんは何故かこのやりとりに違和感を覚えていないみたいなので、神父さんと話す時はいつもこういう感じだ。同年代の友達と会話する時とか、両親と会話する時はもっとくだけた子供らしい話し方をしているけどね。
帰りに、丁度巡回診療を終えて戻ってきたシスターのマリーさんにばったり出口で会ったので、挨拶をした。
マリーさんは、マイル神父に才能を見いだされて、回復魔法を身につけた女性だ。その後、遠い街の本部で更に修行を積み、数年前からこの村に戻ってきた形で働いている。
まだ20代前半のとても綺麗な金髪のお姉さんだ。この世界、やはり結婚は早めにする人が多く、20代になると行き遅れとも陰口を言われるくらいになるそうなんだが、俺の感覚から言うと、全く問題無いんだけどな。ていうか10代で結婚という方に違和感を覚えるよ。それにマリーさん綺麗だし。大事なことだから2度言った。
「ポップ君、今日もお疲れ様。いつも偉いわね」
「ううん、大丈夫です。マリーさんもいつも忙しそうだけど、倒れないように気をつけてくださいね」
「ふふ、ありがとうポップ君。でももし倒れたら神父様じゃ無くてポップ君に治療を頼んじゃおうかな」
「その時はいつでも言ってくださいね。直ぐにでも飛んで来ますから」
「あらあら。ふふふ」
綺麗なお姉さんとの会話はやはりとても楽しい。これは俺の精神年齢がこのお姉さんに近いからなんだろうか。決して、見た目が俺の好みど真ん中だからと言うわけではないはずだ。そんなことを考えながら、俺は家路についた。
「ただいま、お母さん」
「お帰りなさい、ポップ。今日も特に問題は無かった?」
「うん、大丈夫だったよ。あ、これ今日の分の治療代」
俺は、マイル神父からもらったお礼と言う名の治療代をそのまま母さんに渡した。
「ありがとう、ポップ。これはちゃんと保管しておきますからね」
母さんはそう言いながら、奥の部屋にある我が家秘蔵の金庫の隠し場所に下がっていった。本当は家計の足しにしてくれて良いんだけど、母さんも父さんもいつかポップが必要になった時に渡すためといって、話し合いの末、生活費とは別に保管する事に落ち着いたんだ。
その後、夕飯までの時間を母さんの手伝いで過ごして、父さんが武器屋を閉めて戻ってきてから一緒に食事をとった。
今日の夕飯は、俺の好きなハンバーグだった。しかもデザートにロウの実が付いていた。やったぜ、俺この実好きなんだよな。このロウの実というのは木に実る甘い果実で、前世で言うところの桃に非常に似た見た目と味をしている。この実を食べると不意に、前世の楽しかった思い出がよみがえってくるんだよ。
お腹いっぱいになるまで晩ご飯を頂いた俺は今、就寝までのわずかな時間に自分の部屋のベッドの上で魔法の修練をしている。
といっても、やっている内容はただの瞑想だ。でもこの瞑想が実は超重要っていう事に最近気が付いた。初めて
多分ここが魔法の発火点。それで、その後、
この身体の中をぐるぐると回る感覚、どこをどう回っているかを最初はきちんと認識出来ていなかったんだけど、瞑想中に魔法を発現することでだんだんと分かってきたんだ。
多分だけど、魔法を発現する時に身体の中でたどる経過は4つあるんだと思う。1つは、心臓付近にある発火点。次にその魔法に込める力を決定する制御室。その後更に魔法をかける対象を決定する選定室。そして最後に発動箇所になる射出点。俺の場合右手だな。名称は俺が勝手に決めたんだけど、とにかくこの目に見えない4つの機関を身体の中で順に通過する事で、魔法は発動されていると俺は推察している。
そこで、俺は発火点から射出点までにたどる魔法の光跡を瞑想中に何度も何度も確認した。これを行う度に発火点から射出点に至るまでの時間、つまり魔法の発動速度が少しずつ速くなってきているという実感があるんだ。
魔法の発動速度というのは、魔法使いにとっては特に重要な要素だと思う。だって、敵との戦闘中にほんのわずかしかないタイミングで魔法を撃たないといけなくなった時に、この発動速度はものを言うはずだ。
だから、俺は毎日寝る前にこの瞑想を繰り返している。
そして、最近気が付いた事があるんだ。
今の右手に至る魔法の発現ルートとは別に、左手に至る魔法の発現ルートがあるんじゃ無いかって事に。
※現時点のポップの習得魔法
ホイミ、キアリー、キアリク