でも、なんとか最後まで書き上げましたので、本日より毎日の投稿を始めたいと思います。
基本的には各日の21時に投稿予定です。
全16話を予定しています。
どうぞよろしくお願いします。
世界一の人口密度を誇る大都会 東京。東京メトロのとある駅からほど近い場所に、決して大きくはないものの清潔そうな外見の病院が存在した。そして今、その病院に向かって駆ける一人の青年が。既に夜はとっぷりと暮れており、青年が駆けている歩道に面した車道上を、ヘッドライトを灯した車がひっきりなしに通り過ぎていく。
どれほど駆けていたのか、息せききったその青年は、病院の手前の交差点で赤信号により立往生を余儀なくされ、苦虫をかみつぶしたような表情で左手に巻いた時計に視線をやった。
「やっばいな。本当にギリギリだ。この病院、ちょっと時間に遅れるだけで、バイト料めちゃくちゃ引かれるんだよな……」
ただ信号が青に変わるのを待つだけの時間すら惜しんだ様子の彼は、腰に巻いたポシェットに手を突っ込み、紐づけされた身分証を取り出し、それをおもむろに自身の首にかける。その身分証には、『西千葉医科大学 消化器内科 医師 鎌田 雄一郎』の名と彼の顔写真が。
彼は昨年都内の大学を卒業し、現在は研修医として同大学病院に入局し、研修医として日々激務に追われている26歳の青年だった。研修医は医師の卵のような存在であり、一言で言えば見習い期間中の医師である。当然その給与は薄給で、研修医はそれを補うために割りの良いバイト、つまり自局以外の病院の宿直などと言ったアルバイトに精を出す。彼もその御多分に漏れず、彼は本日、道路を挟んだ向かいにある病院で宿直をする予定だった。
車道の信号が緑から黄色へ、そして点滅を経て赤色に変わる。連動して、歩行者用信号が赤から青色に。それを確認した彼は、足早に一歩足を踏み出した。その時……。
キキィィッッ!!
けたたましいスリップ音が周囲に響き渡ると同時に、ヘッドライトの光が、車道に足を踏み出した彼の顔を煌々と照らした。
~~~~デルフィン島~~~~~
カール王国の北部に広がる海岸線から約20㎞ほど沖合にその島 デルフィン島は存在する。島内の主要な産業は、平野部の半分以上の範囲で栽培されているサトウキビから得られる砂糖。
加えて、目と鼻の先にあるかつては死の大地であった海域の調査あるいは観光を目的とした作業員や観光客をターゲットとした産業だった。いずれにしても、島内に永住する者全ての者の数を合わせても500人を切るほどの、取るに足らない程の小さな島。それがカール王国の北の離島 デルフィン島だった。
そんなデルフィン島に唯一存在する孤児院。日が落ちたとある日、孤児院で働く職員が赤ん坊の泣き声を耳にした。
「確かに聞こえたのよ」
「ああ、分かっているよ、フラン。しかし、もう真っ暗だ。早くその声の主を見つけないと……!」
カンテラを手にしたスタッフらしき男性が隣の女性にそう応えながら、グラングリード孤児院と書かれた門の周囲を伺う。フランと呼ばれた女性も、男性同様に切迫した表情で周囲に忙しなく視線を送る。その時、彼女の視界の隅に小さなゆりかごが入った。
「クリフ! あそこ!」
女性が指し示した声の先にカンテラの明かりを向けた男性が駆け寄る。ゆりかごの中には、清潔な着ぐるみに包まれこちらをつぶらな瞳で見つめている黒髪の赤子がいた。
「あー、あー……」
まだ生後半年も経ってはいないのではないだろうか。自分を見下ろす二人の大人に対してゆりかごの中から精一杯に手を伸ばす赤子に、クリフとフランは慈しみと悲哀が混在した瞳を向けた。孤児院のスタッフである彼らは、その孤児院の玄関にこの赤子が置き去りにされていた事の意味をとうに悟っていた。
「両親は……ふう、探しても名乗り出ないだろうな……。この間長期滞在していたベンガーナの民間調査船が島を離れていったが、どうもその線が濃いな」
「そうね。この子の名前が書かれたものは……無いわね」
クリフの言葉のとおり、赤子の両親が今更名乗りを上げるはずもないと悟っているフランは、ゆりかごの中に手を伸ばし、赤子について何か記された物が無いか探るがそのような物は何も残っていなかった。
「ねえ、ボク……で良いのよね? ボク、自分の名前を言える? ふふ、まだ難しいわよね?」
探るのを諦めたフランが、先ほどの鳴き声から男の子だろうと見当をつけ、赤子をあやすように話しかける。その時、赤子はその言葉の意味を理解したのか、していないのか分からないが、その問いかけに応えるように声を上げた。
「あーあー……。かぁた。かぁぁたぁ」
その言葉に、「……? かあた? かた?」と首を傾げながら反芻するフランの隣からクリフが「“かんた”じゃないのか?」と、口を挟む。
「――かぁた!!」
やはり言葉の意味を理解しているように思えるほど、赤子は瞬時に声を上げる。その様子がおかしかったフランは、くすくすと笑みを零しながら赤子に言葉を投げかける。
「そっか。『かんた』、じゃないんだね。分かった、君の名前はカナタね! ね、そうでしょ?」
「あう! かぁた! かぁぁた!」
その赤子の返事に我が意を得たりとばかりに、満面の笑みで背後のクリフを振り返るフラン。クリフは、「カナタ、カナタ」と連呼するフランと「あう! あう! かぁた!」と連呼する赤子に交互に視線を投げかけ苦笑する。
「うーん、それも違うんじゃないか? ほら、違うって言っているように俺には思えるんだが……」
「何を言っているのよ、クリフ。絶対にこの子の名前はカナタよ。ほら、この子もそうだ、そうだと言っているじゃない」
その言葉に再び赤子に視線を投げかけるクリフ。その赤子は違うとばかりに首を振っているが、正直もうこの段階でクリフはその名づけに意味を見出さなくなっていた。どのみち、孤児であるこの年端もいかない赤子に名前を付けるのは、大人である自分達の役割だ。フランがそうしたいなのなら、この赤子の名前が分かる物がない限り好きにすればいい。
そう考えたクリフは、苦笑しながら降参とばかりに両手を上げた。
「はいはい、フランの言う通りで良いよ。じゃあ、カナタだったっけ? こんな所にいつまでもいたら、そのカナタが風邪を引くから、早く中へ入ろうぜ」
「それもそうね。さあ、いらっしゃい、カナタ。ここが今日からあなたのお家よ。よろしくね」
宝物を抱くかのように、しずしずとカナタをくるんでいるゆりかご毎胸に押し抱いたフランが、その足を孤児院に向ける。
彼らの上空を一条の流れ星がそっと西の空から東の空へ流れていった。
そして、時は流れて15年後。
「おい、カナタ? カナタってばよ。聞こえているか?」
白波の間を縫うように飛び跳ねる無数の小魚をぼーっと見つめていた俺は、不意に俺を呼ぶ声に我に返った。
「え、何ですか、サンディさん?」
普段は、かつて死の大地の存在した海域を観覧する観光客のために使用している、10人ほどが乗船可能な中型の帆船。その船の船首付近にいた俺は、船尾で舵を握っているはずのサンディを振り返る。いつもならこの船には、見どころのスポットを説明するガイドの姿もあるのだが、今この船には俺とサンディ以外に乗員はいない。
「何ですか、じゃないぜ。全くお前は本当にぼんやりする事が多いな。そんなんで、女王陛下の前に出て大丈夫なのかよ?」
「知らないですよ。だいたい、向こうから会いたいって言ってきたんだから、仕方ないじゃないですか。文句があるなら、呼ばなきゃ良いんですよ」
「おまっ!? おい、カナタ! そんな不敬な事を向こうで言うんじゃないぞ! 曲がりなりにも、お前はデルフィン島の代表みたいな形で王都に行くんだからな!」
「はいはい」と生返事を返しながらも、カナタは内心で、(俺はカナタじゃねぇよ。鎌田だよ)と呟く。
そうだ、もうお分かりだろう。前世で鎌田という名だった俺は、この世界で新たにカナタという名を与えられて早15年になる。あの時、必死で鎌田だって訴えたのにな……。15年前の嫌な記憶を脳裏に思い起こした俺は、遠くの海に視線をやりながら苦い顔をする。
東京で研修医、つまり医師の卵として働き出したばかりの俺は、おそらく自動車事故で命を落としたのだろう。今でも、ときおり俺に向かってくる自動車のどぎついヘッドライトの光を夢に見る事がある。
そして俺は、何故か意識を保ったままこうして新たな世界に転生した。この新たな世界、それが前世でよく知られた漫画の世界、つまり『ダイの大冒険』の世界である事に俺はほどなくして気づいた。
そりゃあ、分かるさ。いくら離島とは言え、地図もあれば、書物も多少は存在する。その地図や書物に、カール王国やロモス王国、ベンガーナ王国などの名が記されていては、学生の時分に『ダイの大冒険』を愛読していた俺が気付かないわけが無い。
「しかし、カナタも、もう少しで成人か。早かったというか、何と言うか。成人したらどうするつもりなんだ? お前は確か
そんな問いかけをするサンディに、俺は肩越しに首を回し生返事をする。
「そんなの、何も考えていませんよ……」
嘘だ。考えている事はある。……15年。孤児院で育てられた俺は、サンディの言葉の通り、後3か月足らずで成人する。俺の育った孤児院では、孤児の食い扶持を奪わないために、成人してから時を置かずその孤児院を去らなくてはいけない決まりになっている。
孤児院を去った後、どうするか。島に残っても良いし、島の外に出ても良い。だけど、俺はそういった未来に何の展望も抱いていなかった。
何故なら成人した後、俺はこの世界に別れを告げる事を密かに胸に抱いていたから。
理由……? そんなの分かり切っているじゃないか。俺はこんな、インターネットもSNSもない、繋がりの感じられない世界で、これ以上生きていたくない。前世で大学に通っていた時、飲み会の席で俺は一つ上のゼミ室の先輩に、『ダイの大冒険』の世界に転生出来たら本望だとかなんとか言った覚えがあるが、あれは大間違いだった。本当、馬鹿だったよ。
この15年は待った。孤児院での生活は悪いものでは無かった。でも、悪くない。ただ、それだけだ。もう十分だろう。俺は成人してデルフィン島を離れて早々に、この世界から別の世界に旅立つんだ。そして、俺は次こそ前世で生きた日本で生を得るんだ。絶対に……!
ギルドメイン大陸北部の海岸線を左手に見やりながら、船は進む。船を動かしている動力源は、今俺が右手で触れている小さな魔道具だった。突風を発生させる呪文の刻まれたその魔道具から発せられた風の力によって船の帆は押し上げられ、十分な推進力が得られる仕組みだ。
当然ながら魔道具を起動させるには魔力が必要だが、俺はサンディに王都まで送ってもらう事への僅かながらのお礼としてその魔力を提供していた。サンディがその様子を見て感心したように口を開く。
「しかし、お前の魔法力は大したものだなぁ。普通、そんなに魔道具に魔力を注ぎ込んだら、すぐに根を上げるもんだぞ。お前は
「よしてくださいよ。神官や治癒士なんてガラじゃありませんよ」
「だけど今でもお前は診療所で小遣い稼ぎしているじゃないか。あ、そうか。さては、お前の目当てはミランシャだな? くくく、色気づきやがって」
「違いますって。ミラ姉の所に行っていたのは、孤児院の先生方に頼まれたから、ってだけですよ」
サンディとの会話でミランシャことミラ姉の事を思い出した俺は、顔を赤らめている事を自覚しながら、昨日の出来事を思い出す。
時は少しだけ遡る。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……こうして、勇者アバンとその弟子ポップは、悪い魔物にさらわれた女性を助け出し、女性と共に町に戻りました、とさ。めでたし、めでたし」
「わたし、知ってる! そのあと、そのおんなの人、ポップとけっこんしたんだよね♪ いいなぁ、わたしにもいつか、かっこいい王子さまが迎えに来てくれないかなぁ」
「ミラせんせい! 次は、『まじゅうクラーゴンとのたたかい』をよんで!」
「あっ、ずるいぞ、おまえ! ミラせんせい、おれは『よろいのまけんのゆくえ』がいい!」
「はいはい、押さないの、あなた達。もうすぐお手伝いの人が来てくれるから、今日の読み聞かせはお終い!」
「「「ええーーーーー!!」」」
診療所の扉に手をかけた俺は、扉の向こうから聞こえて来たそんな子供達のかわいい非難の声を耳にし、思わず口元が緩んだ。くすっ、どこの世界の子供も反応は一緒だな。俺は、前世で手が空いた時に入院中の子供達に読み聞かせをしてあげていた研修医時代の事を思い出していた。
カチャッ。
扉を開けて診察室に入った俺に、ミラ姉を含めた子供達の視線が集中するが、すぐにミラ姉が「いらっしゃい、カナタ君」と微笑みかけてくれる。同時に、振り返ったミラ姉のポニーテールで纏めたライトブルーの髪が左右に揺れる。
「ああ、もうきちゃった……。はやいよ、カナタ」
「そうだよ。おれ、きょうこそ『よろいのまけんのゆくえ』をよんでもらうつもりだったのに……」
俺を笑顔で迎えてくれるミラ姉の隣で渋い顔をする子供達。俺は、そんな子供達に苦笑いを浮かべながらポケットに手を入れる。
「そりゃあ、悪かったな。お詫びにこれで手を打とうじゃないか」
そうして子供達の前に広げた俺の手には、色とりどりの小さな飴玉が。
現金なもので、「やった!」、「私、これが良い!」などと口々に言って、俺の手から飴玉を引っ掴んで診療所を出ていく子供達。
ふふふ。子供達にこの手が有効なのは向こうもこちらも一緒だな。研修医時代からの癖で、常にポケットの中に小さなお菓子を潜ませておく習慣があった俺は、苦笑いを浮かべながら部屋から退出していく子供達を見送った。
「そっか、女王様にお会いしに行くのは、明日だったのね。きちんとした服装で行かなきゃ駄目よ?」
「分かってますよ。でも、女王様直々のご指名なんて、いったい何の用なんでしょうね。会うなり首をはねられたりしたら嫌だな」
本日予定していた診察を終え、俺とミラ姉は束の間雑談に興じていた。この島には教会が存在しないため、怪我をした患者と病気の患者の両方が診療所にやってくる。俺はミラ姉のように医療魔法は使えないため、もっぱら怪我をした患者に対して
「くすくすくす。馬鹿な事を言わないの。女王様はとってもお優しい方と評判よ。お呼びがかかるなんて名誉な事なんだから、カナタ君はカナタ君らしく堂々と挨拶してきたら良いわ。はい、どうぞ」
ことっと、側のテーブルにミラ姉は湯気の立つ珈琲カップを置いてくれる。「ありがとうございます」と返事をしながらその珈琲カップに手を伸ばした俺は、その不気味な装飾の施されたカップを見て思わず苦笑いを浮かべる。
「ミラ姉、また変な物を買って……。どうしてそんなに趣味が悪いんですか?」
「むっ? 何よ、このカップのどこがいけないのよ。この土偶みたいな顔が付いているのが可愛いんじゃない」
可愛い……。このカップの側面いっぱいに『エビルスピリッツ』の顔のようなものが無数についたカップが可愛い。思わず軽い頭痛を覚えた俺は、眉間を指で抑える。……これだ。20歳そこそこの身目麗しいミラ姉唯一の欠点。カップだけの話ではない。ミラ姉は何故かこういう不気味な置物や装備品を好んで収集する悪癖がある。
デルフィン島唯一の診療所。その診療所で働くやはり島唯一の治癒士、ミランシャことミラ姉。生まれも育ちもこの島で、今から5年前、成人してほどなくその才能を見出されベンガーナ医療大学に入学。ほとんどの生徒が卒業時に4級治癒士としての資格を得るのが精いっぱいだというのに、数少ない3級治癒士の資格を得て卒業したミラ姉は卒業後、多くの条件の良い就職の誘いを断りこの島に戻ってきた。
その後ミラ姉は、先任だった高齢の3級治癒士と共にこの島の診療を一手に引き受けていたが、1年ほど前にその高齢の治癒士が健康上の理由で島を出て行ってしまった。そういうわけで、その前から時折診療所に手伝いに来ていた俺だったが、高齢の治癒士が不在になってからは一層、手伝いと言ってしまうには過小なほどこの診療所に日参する事になった。
もっとも、俺はミラ姉のように
「せっかくカナタ君に来てもらったけど、今日は急患の患者さんが少なかったわね」
「良い事じゃないですか。半年前の食中毒騒ぎの時のような事はもう御免ですよ」
俺は、半年ほど前に島で起きた集団食中毒事件を例にしながら珈琲を啜った。今思い返しても、あれは大変な騒ぎだった。本土から来た観光船がデルフィン島に接岸したと思ったら、その船の乗客が次々とこの診療所に担ぎ込まれてきたのだ。
後で分かった事だが、それは船中で皆が食べた昼食の弁当が腐っていた事が原因だった。あの時俺は、ミラ姉の診察を待っている腹痛で呻く旅行客に、気休め程度にしかならなかっただろうが
「こんな小さな島で、さすがにあんな事はなかなか起こらないわよ。それより、カナタ君。そろそろ
その誘いが、後3か月で成人を迎えて孤児院を出る事が決まっている俺の将来の事を考えての事だという程度の察しはつく。……いや、ミラ姉はもしかすると、俺が成人した後に取ろうと考えている選択肢に薄々と気付いているのかもしれない。だからミラ姉は俺に少しでも良い就職先にありつけるように、こんな言葉をかけてくれているのかな。
「……そうですね。それじゃあ、王都から戻って、ミラ姉が忙しそうにしていなかったらお願いして良いですか?」と、胸の内を悟られたくなかった俺は彼女に言葉を返す。
「ええ、もちろんよ。……ねえ、カナタ君。君、もしかして――」
「それじゃあ、明日は早いですから、俺はこれで帰りますね。珈琲ありがとうございました。向こうで良い豆が手に入ったら、お土産に買ってきますよ。それじゃあ」
そうして俺はミラ姉の言葉を遮り、席を立った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「おっ、見ろよ、カナタ。空を花びらが舞ってるぜ。あの岬を超えたら、いよいよ花の都カールが見えてくるぞ」
サンディの言葉に、魔道具を握り締めたままうつらうつらしていた俺は寝ぼけ眼をこすりながら前を向く。デルフィン島を早朝に出て、今は昼過ぎといった時刻だった。以前なら優に3日はかかっていた旅程だが、
サンディの言葉の通り、風に乗ってか、空をひらひらと花びらが舞っていた。カールか……。『ダイの大冒険』の世界ではあの町は超竜軍団に壊滅させられ、その復興した姿の描写は無かった。だから俺はほんの少しの期待を胸に抱き、遠くの景色に目を凝らした。
岬をぐるっと回ってしばらく進んでいると、徐々に俺の視界にクリーム色を基調とした家々が整然と連なる街並みが映り始める。町の中央には、白鳥が翼を広げたように優雅なロココ様式の巨大な城が。
「……あれが、『ギルドメイン大陸の真珠』と名高いカール城。凄い……」
どこまでも蒼い空と今や無数の花びらが空を舞う背景をバックに優雅に屹立する白い城に目を奪われた俺は、思わず嘆息と共にそう口にする。
「ああ、そうだ。あれが女王様の住まうカールの王城。俺もここへ来るのはかれこれ2年ぶりだぜ」
「じゃあ、俺は明日の朝ここで待ってるからよ。女王様への謁見、失礼の無いようにしろよ」
「はい、ここまで送ってくれてありがとうございました。サンディさんは、今日は?」
半日ぶりに硬い地面を踏みしめた俺は、岸壁に接岸している背後の船を振り返る。サンディは、岸壁に突き出した
「へへ。久しぶりの王都に加えて、今日はこのお祭り騒ぎだからな。町で一杯引っかけて楽しむ事にするつもりさ」
お祭り騒ぎ、と聞いて、俺は自分の今いる港区から中央区に繋がる広い通りに視線を投げかける。確かに、多くの出店が通りの左右に立ち並んでおり、その間はにこやかな笑顔を浮かべた住人で埋め尽くされていた。なるほど、この賑わいは都会だという事以外の理由があったのか。
「……随分と賑やかだと思っていましたが、今日は何かのお祭りでもしているんですか?」
俺の問いかけに、サンディは(知らなかったのか、お前?)と言いたげな呆れた表情を顔に浮かべた。
「何かの、ってそんなの決まっているじゃないか。今年は、ちょうど大魔王戦役の終結から150年経った節目の年だろう? それを祝ったカールのフラワーカーペット祭りさ!!」
今日は2話投稿で、明日からは1話投稿を予定しています。