転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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204話 閑話⑤ 氷の大賢者の足跡を追って その2 カールの女王との謁見

「そんなにかしこまらなくて良いのよ、カナタ。さあ、顔を上げて下さいな」

 

一段高い位置から発せられた言葉に、俺はようやく下げていた頭を上げる。俺の視界の先には、赤いカーペットの上に鎮座する玉座にゆったりと腰を掛けて柔和な笑みを浮かべている女性が。

 

「初めて御意を得ます、フレデリカ女王。お召しに従い参上しました。デルフィン島のカナタ・グラングリードと申します」

 

片膝を赤いカーペットにつきながら発した俺のその形式ばった言葉に、正面の椅子に腰を掛けたフレデリカ女王は、その笑みを更に深めて口を開く。

 

「はい、初めまして、デルフィン島のカナタ。私はフレデリカ。今日はごめんなさいね。急ぎあなたと直接会って確認したい事があったので、無理を言って来てもらったのよ」

 

確認したい事……? 何だろう、それは。内心の疑問を表に出さないよう、俺はフレデリカ女王に言葉を返す。

 

「とんでもありません。逆に到着が遅れてしまい、申し訳ありません。聞けば今日は、大魔王戦役の終結150年を祝うお祭りの真っ最中だとか。そのような祭事の最中にお邪魔してしまってよろしかったのでしょうか?」

 

「もちろんよ。でも、ちょうど良かったわ。今日は泊まっていけるんでしょう? 宿泊先はこちらで手配しておくから、是非カナタもお祭りを楽しんでいって」

 

初めてお会いする女王の、意外なほど気さくな言葉に俺は幾分緊張の糸を緩める。良かった、この調子ならいきなり首をはねられるような事は無さそうだ。良かった……? その方が面倒が無かったんじゃぁ? いやいや、いくら何でも斬首されるのは嫌すぎるだろう……。

 

「いけない。そのためにも、早く要件を済ませてしまわないといけないわね。アレン、こちらへ。どうかしら? あなたが言っていた青年は、こちらのカナタで間違いないかしら?」

 

フレデリカ女王の言葉に、側に控えていた20代後半と思わしき男がゆっくりと玉座に歩み寄る。その男がそのまま玉座の右隣に立つのを見て、俺は少しそれを意外に感じる。ずいぶん女王と近しいな?

 

アレンと呼ばれたその男性は女王同様に柔和な笑みを顔に張り付かせて、俺と視線を合わせる。……? どこかで会ったか? 会った気がする。どこだったかな? 俺のそんな疑問は、アレンと呼ばれた男の言葉ですぐに晴れる事になる。

 

「久しぶりだね。覚えているかな、カナタ君? ほら、半年ほど前にデルフィン島の診療所で君に回復呪文をかけてもらった者だけど……」

 

――! そうだ。あの時だ。食中毒に陥った人数があまりに多かったために、ミラ姉の治療を待っていた患者達の内の一人……。

 

「……思い出しました。あの時、確かに僕はあなたに……」

 

「ふふふ。カナタ。こちらのアレンは私の夫なのです。あの日、一目で良いからかつて死の大地だった海域を見たいと駄々をこねた夫がお忍びでそちらに向かったのですが、運悪く食中毒にかかってしまって。あの時はあなたにも、それとデルフィン島の治癒士にも迷惑をおかけしました」

 

夫……? 女王の夫という事はつまり王配という事か? え、あの食中毒の患者の中に王配がいたと? うーわ、それはびっくりだ。デルフィン島に戻ってミラ姉に伝えたら、ミラ姉も卒倒しそうだな。

 

あれ……? でも、あの時のお礼を言うために俺を呼びだしたのなら、俺なんかよりミラ姉を呼んでくれたら良かったのに。あの日皆の病気を、医療魔法(ベホマメント)で一人ずつ治療して回ったのはミラ姉なんだから。

デルフィン島で1人親方のような状態が続いて、たまにはカールの町でゆっくりと古物商巡りをしてみたいなぁ、と愚痴をこぼしていたミラ姉の姿を思い出す俺。

 

俺がそんな疑問を抱いたのを察したのだろう。王配であるアレンが、女王に目配せした後口を開いた。

 

「カナタ君、実の所君を呼び出したのは、あの日のお礼をするためだけでは無いのだよ。いや、もちろんお礼はさせていただく。デルフィン島の治癒士の方にもね。ただ、その前に確認したいのだ。カナタ君、君はまだベンガーナ医療大学に通った事は無いという認識で良いだろうか?」

 

何を言っているんだろう、この人は。俺は、そんな問いかけをしたアレンに戸惑いの視線を投げかける。

 

「はい、ありません。というか、デルフィン島を出た事自体が、今日初めての経験です」

 

「――! そうか。やはりな。フレデリカ女王、どうやら間違いないようです」

 

フレデリカ女王は、アレンの言葉にこくりと頷き、再び俺を見つめた。

 

「カナタ。どうやらあなたには、医療魔法の素質があるようです。どうですか? もし良ければ、来年4の月から始まるベンガーナ医療大学の149期生に加わってみませんか?」

 

――! その言葉に、俺は驚愕の表情を顔に浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

「俺の、あ、失礼しました。私の回復魔法(ホイミ)にそんな効果が……」

 

「ああ。あの時君にかけてもらった回復魔法(ホイミ)には、間違いなく麻酔の効果が付与されていた。それは、あの時周囲にいた旅行客にも後で確認したから間違いない。知っているかい? かの医療魔法の創始者と呼ばれるポップ・マーカストンの回復魔法(ホイミ)にも、医療魔法を開発する前から麻酔の効果があったという話を……」

 

アレンの言葉にフレデリカ女王が続ける。

 

「ベンガーナ医療大学を卒業し治癒士の資格を得た者の回復魔法(ホイミ)には、皆程度の差こそあれ麻酔の効果が付随します。ですが、それはあくまで、かの大学で医療についての知識を得てからの話。その知識を得ていないあなたの回復魔法(ホイミ)に、そのような効果があったという事は、あなたの才能はあのポップ・マーカストンに匹敵するのかもしれません。

 どうですか、カナタ。優秀な治癒士の誕生は、カール王国の国益に直結します。149期生の定員350名のうち、カール王国に割り当てられている人数は80名と少し。今ならあなたをその中に加える事が可能です。あなたは後数か月で成人する歳と聞いています。タイミングとしてはちょうど良いのではないですか? ベンガーナ医療大学に入学し、治癒士としての人生をスタートしてみませんか?」

 

……。ふー。まいったな。まさか女王のお召しがこんな理由だったなんて。俺の回復呪文(ホイミ)に麻酔の効果が付与されていた……か。まあ、それはそうだろう。その効果が発現するためのトリガーが医療知識というのなら、前世の知識を有している俺は既にベンガーナ医療大学で知識を得ていたに等しい事になる。

 

断る……、という選択肢はあるのかな。俺はちらっと上段にいる二人を覗き見る。二人は柔和な笑みを顔に浮かべて俺を見つめている。二人だけではない。この謁見の間で遠巻きにこちらに視線を向けている十数人の文官達も皆、早く返事をせんか、と言いたげな視線を俺に向けている。

 

俺が孤児院育ちである事はとうに彼らも知っているのだろう。そんな俺に、これは望外と言っていい程の破格の待遇だ。あるいは、これが先日の治療行為に対するお礼という名の報酬と考える事も出来る。今の話の流れなら、入学金や授業料も王国が出してくれそうだしな。

 

断ればどうなる? この人の良さそうな女王夫妻だったら、好意を袖にされても眉を顰める程度かもしれないが、周囲の文官達までは分からない。これは下手をすると、15年間お世話になった孤児院やミラ姉にまで迷惑をかけてしまう事になるかもしれない。

 

……仕方ない。こうまでおぜん立てされて、断る事は出来ない。断った時の負の影響を考えた俺は決心した。大丈夫、自死と判断されなければ大丈夫だ。入学前の不幸な事故。これなら誰も損をしない。俺は早く、こんな世界から、おさらばしたいんだ。悪く思わないでくれ。

 

「ありがたいお言葉、心より感謝します、フレデリカ女王、アレン殿下。私などにはもったいないお言葉です。ご期待に応えられるかどうかは分かりませんが、是非ベンガーナ医療大学に通わさせていただければと思います」

 

「まあっ! 嬉しいわ! 良かったわね、アレン」と、手を叩いて喜びを表すフレデリカ女王。その後俺達はいくつか言葉を交わし、最後にフレデリカ女王が口を開いた。

 

「カナタ、あなたはカールの町に来るのは初めてと言っていたわね? 見分を広げるためにどこか尋ねたい所があるようなら、できる限りの便宜を図るわよ? どうかしら?」

 

その言葉に、俺は渡りに船とばかりに密かに考えていた事を口にする。

 

「それでは、お言葉に甘えさせていただき、王都の図書館を閲覧する許可を頂きたく思います」

 

「王都の図書館? もともと図書館は広く民に公開しているから、そんな事ならお安い御用だけど、図書館で何か調べたい事でもあるのかしら?」

 

俺の言葉にフレデリカ女王が首を傾げたので、俺はこくりと頷く。

 

「はい。私は150年前の大魔王戦役時の記録に興味があります。デルフィン島ではあまり多くの蔵書がありませんでしたので、叶う事なら王都をお伺いしたこの機会にそれらの記録に目を通したいと考えておりました」

 

「大魔王戦役の記録……。分かりました。あなたの希望を叶えましょう。でも、読みたい書物が大魔王戦役に関する物だというのでしたら、図書館より良い場所がありますよ、カナタ?」

 

今度は俺がそのフレデリカ女王の言葉の意味を理解できず首を傾げる。

 

「くすくすくす。後で案内の者にその場所を伝えさせます。きっと気に入ってくれる事と思うわ、カナタ。今日は楽しかったわ。大学の入学は4の月です。後日デルフィン島に案内の者を使わせるから、それまで健勝にね、カナタ」

 

そう俺に悪戯っぽく笑う女王に俺は辞去の言葉を送り、謁見の間を後にした。

 

 

 

「メモによると、この辺りのはずなんだけどなぁ」

 

俺は右手に握ったメモに再び視線を落としながら、周囲をキョロキョロと伺う。ここはカール王都の中心部からいくらか外れた閑静な住宅街の一角だった。遠くの方から、賑やかな祭囃子の音が風に乗って運ばれてくる。大魔王戦役終結150年を祝うこのお祭りは今日を含めて3日間続くらしい。

 

おや、あれは……。住宅街を一人とぼとぼと歩いていると、城で案内の人に聞いた通りの門構えの家が視界に入ってきた。門から首を伸ばしそっと中を覗くと、綺麗に手入れされた庭園と、その奥にはやはり小奇麗な白を基調とした邸宅が。

 

どうやら、ここらしい。ここがフレデリカ女王に紹介された邸宅と考えた俺は、庭園に足を踏み入れ、まっすぐに邸宅の玄関扉に足を進める。

 

「ごめんくださーーい。……。あの、どなたかいらっしゃいませんか?」

 

扉に備え付けられている金属製のノックを叩きながらそう声をかけるが、返事が返ってこない。

 

留守かな……、と俺が考えるのと、扉の向こうから「はい、はい。ちょっとお待ちください」と呑気な声が返ってくるのは同時だった。

 

ああ、良かった、無駄足にならずに済んだ。俺は、フレデリカ女王との謁見のためにと孤児院の先生から借り受けていた服の襟元をそっと引き絞る。この綺麗に管理された庭園と邸宅から分かる。ここは貴族の家だ。

 

ガチャッと音を立てて扉が開く。中から現れたのは、一人の青年だった。

 

「やあやあ、お待たせしてしまい申し訳ありません。デルフィン島のカナタさんですね? ええ、ええ。女王陛下からの使いがありましたので、聞いていますよ。何やら、150年前の大魔王戦役に関する記録を読みたい――。……どうかされましたか?」

 

俺が、扉の向こうから現れた青年を見て驚愕に目を見開いている様子を目にし、彼はこてんと首を傾げる。

 

どうかされましたか? ……って、そりゃあ、どうかするだろう! だって、今俺の目の前にいるのは、かつて俺が前世で愛読していた『ダイの大冒険』の世界に登場する有名人中の有名人、アバン・デ・ジニュアール3世その人にそっくりだったんだから!

 

 

 

「あっはっは。そんなに私はご先祖様に似ていますか? それは光栄ですねぇ」

 

応接間に通された俺は、目の前の椅子に腰を掛けて屈託なく笑っているアイザック・デ・ジニュアールⅦ世と名乗った青年に、ははは、と乾いた笑みを浮かべる。いや、絶対に狙ってやっているだろう、あなた? 耳元でくるっとカールの巻かれた薄水色の髪型に加えて、顔には黒縁眼鏡が。

 

その容姿は、この応接間の壁にかかっている写真に写っている、かつての大勇者アバンにそっくりだった。俺が視線をその写真に向けた事に気づいたアイザックが、笑みを抑えてこくりと頷く。

 

「あの写真は、大魔王戦役終結から27年後に私の祖先であるアバンが、弟子であったポップ・マーカストンと共同で発表した写真機という魔道具で撮った集合写真です」

 

その言葉に、俺は改めて壁にかかった写真をまじまじと見つめる。この世界で写真を見たのが初めてというわけではない。それほど、写真機という魔道具はもうこの世界では一般的になっている。俺の興味を惹いたのは、その写真に写る人物達だった。

 

「この写真は、王城の最上階にある王家の私室で撮られたものです。中央は当時のカールの女王であったフローラ女王、その隣に私の祖先のアバン。アバンの隣に立っているのはフローラ女王の後に玉座に着いた嫡男のセシル様とその奥方のサクラ様。サクラ様の腕に抱かれているのは後に女王となられたレーラ様。ああ、セシル様の後ろに立っているのが、セシル様の弟にしてジニュアール家を継いだジニュアール四世です」

 

……なるほど。今俺の目の前にいるアイザックという名の青年の先祖は、あの勇者アバンと女王フローラとの間に生まれた子供というわけか。長男であるセシルはカールの王の座に就き、次男はジニュアール家の家督を残すためにジニュアール家を継いだ、というわけだ。

 

「それと、この魔道士の服を着ている方が――」

 

「ポップ・マーカストン、ですね? ついでに言うと、彼の周囲に立っているこの3人の女性は、それぞれマァム、メルル、エルサ。違いますか?」

 

俺がアイザックの言葉を遮りそう尋ねると、アイザックは俺の言葉に深く頷いた。

 

「その通りです。さすがは大魔王戦役時の記録を読みたいと女王陛下に訴えただけの事はありますね。よくご存じで」

 

どうやらこの写真は、家族ぐるみで付き合いのあったフローラ女王陛下家族とポップ夫妻が一堂に介した際の記念写真のようだ。

 

「しかし、王都ではお祭りが開催されているというのに、それに目もくれず過去の記録を読みたいとは。勉強熱心で結構な事です。確かに、我がジニュアール家は大魔王戦役の記録に関して言えば、王都の図書館にも負けない蔵書数を誇っています。

おっと、いつまでもここで私に付き合わせてせっかくのあなたの貴重な時間を浪費させては申し訳ないですね。

 どうぞ、こちらに。我が家の図書室にご案内しましょう」

 

そう言って席を立ったアイザックの後を、俺は静かに付いていった。

 

 

 

「後でここまで食事を運ばせますし、寝泊まりする部屋も用意しておきます。カナタさんの気が済むまで読んでいってください」

 

「何から何までお世話になります。ありがとうございます、アイザックさん」

 

邸宅の一室である図書室に案内された俺は、俺を残して部屋から去ろうとするアイザックに頭を下げる。パタンっと扉が閉まったのを確認して、俺は部屋の中をぐるっと見回す。

 

広さは約20畳というところか。中庭に面して小窓がいくつも備え付けられている壁際には、作り付けの机と、重厚な安楽椅子が一つ。そして、なんといっても部屋の中央には何列もの本棚が備え付けられていて、その本棚の中にはびっしりと書物が詰まっていた。

 

この邸宅にお邪魔していた時から感じていた事だけど、この邸宅はもしかすると150年前からジニュアール家の邸宅としてここに存在していたのかもしれない。邸宅内に存在する年季の入った家具を見て俺はそんな風に思っていた。

 

さあ、ずっと確認したいと思っていた事をようやく確認できる。早速始めるとしよう。

 

俺は本棚に近づき、最初に目に留まった書物をそこから抜き出した。その書物の背表紙には、『大魔王戦役を戦い抜いた英雄達の記録』と書かれていた。

 

 

 

『ダイの大冒険』……。今更語るまでも無い。この世界は、俺が前世で好んで読んでいたその名の漫画の世界だ。ただし、時代が違う。あの漫画の舞台は今よりおよそ150年前。それは、今このカールの町で開かれている大魔王戦役終結150年を祝う祭りからも明らかだ。

 

……どうして俺はこの時代に転生したのかな。どうせ転生するのなら、150年前が良かったよ。そうしたら、俺は勇者ダイや大魔道士ポップ、武闘家マァム、戦士ヒュンケル、獣王クロコダイン達と轡を並べて魔王軍と戦えていたかもしれないのに。

 

いや、もうよそう。それは、これまでの15年間で何度も何度も悔やんだ事だ。地球からこの世界に転生するような奇跡が起きても、時間を逆行するような奇跡までは起きないという事だ。

 

 

……だけど、だったらどうして、()()()()()()()()()()()()()は150年前の輝かしいあの時代に転生できているんだよ。そんなの、ずるいじゃないか……。

 

俺は、文字を追う事に疲れた瞼をマッサージするかのように軽く指で押さえ、安楽椅子の背もたれに身を預けた。ふーと、深く嘆息した俺は、再び机の上にうずたかく積まれた書物の内の一冊に視線を投げかける。視界の隅に映った窓から見える外の景色は、とうに夜の帳が降りていた。

 

 

先ほど俺は、この世界は『ダイの大冒険』の舞台から150年経った世界だと言った。だが、それは正確に言えば違う。正しく言えば、この世界は『一人の転生者によって変貌したダイの大冒険の世界から150年後の世界』だ。

 

カール王国の辺境にあるデルフィン島の片田舎で育った俺でも分かる。この世界は明らかに転生者の影響を受けている。ランツェの町のたこ焼き、今ではどの国にも浸透していると言って良いラーメンや餃子と言った中華料理の数々。食べ物だけの話ではない。先ほど目にした写真や、王家だけが所有すると伝わる通信機を始めとする、前世を覚えている俺からすれば数々のデジャブを感じる魔道具の数々。

 

そして極めつけは、つい数時間前にめでたく俺が入学する事が決定したベンガーナ医療大学だ。何だあれは? その大学の卒業生であり治癒士としての誇りを胸に抱いているミラ姉には言えないが、あれは前世でいう所の医科大学そのものじゃないか。

 

賭けても良い。この世界に転生した誰かは、絶対に前世で言う所の日本人だ。それも、医学の知識を持ち合わせた……。では、その日本人はいったい誰だ? デルフィン島で推測は立ててきた。今日俺は、その答え合わせをするために、ここに来ている。

 

俺の視線の先にある書物は、大魔王戦役で勇敢に戦った英雄達について記された書物だった。そして今、その開かれているページは、とある人物の事を詳細に記録したページ。

 

そのページで紹介されている今は亡き英雄の名。

 

 

 

それは、……『氷の大賢者』の名で知られるポップ・マーカストンその人だった。

 

 

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