【氏 名】
ポップ・マーカストン(1387年3の月24の日-1472年9の月8の日)
【出 身】
ベンガーナ王国 ランカークス村
【師】
エウレカの里の民、アバン・デ・ジニュアール3世、マトリフ・サザーランド
【字名】
氷の大賢者、勇者
【職 歴】
大賢者、新生リンガイア王国顧問(後に宰相)、ベンガーナ医療大学 講師(後に初代学長)
【人物評(戦役終結前)】
ポップ・マーカストンは、1387年3の月24の日に、ジャンク、スティーヌ夫妻の長男としてベンガーナ王国ランカークス村で生を受ける。その後5歳で同村の神父から初歩の回復魔法である
彼に最初の転機が訪れたのは6歳の年であった。その年彼は、当時ギルドメイン山脈の中腹に隠れ住むようにして暮らしていた魔物の集落『エウレカの里』の里長より招待を受け、以後8年間に渡ってその里で
彼の習得呪文数はその8年間で加速度的に増し、世界で初めての医療魔法である
また、一説によれば、彼はその8年の間に『災厄の魔物』として知られるライオンヘッドの亜種バクーモスを単独撃破したとも伝わっているが、これについては当時の関係者の皆が一様に口をつぐんでいるため、はっきりとした記録は残されていない。
誤解を受ける事が多いが、彼が同時に二つの魔法を使いこなす者の事を指す
二つ目の転機が訪れたのは彼が14の歳であった。彼の噂を聞き付け、当時才能豊かな次世代の戦士あるいは魔法使いに教育を行う事を自らに課していた魔王戦役の勇者アバン・デ・ジニュアール3世がランカークス村を訪れたのである。
その後彼はアバンの求めに応じ弟子となり、以後彼は師と共に約1年に渡りベンガーナ王国、テラン王国(現在のテランの里)、オーザム王国、リンガイア王国そしてカール王国と修業の旅を続けた。
その間、彼ら師弟は各地で水面下で活動していた魔王軍の暗躍を挫き、あるいは
彼は弟弟子となる勇者ダイと出会った直後、デルムリン島を襲撃したかつての魔王ハドラーによって師アバンを弑されるが(後に生存が確認される)、師を失った事が、魔王軍にとっては皮肉な事にその後の彼の躍動に繋がっていく。
彼は仲間と共に、魔王軍の侵攻によって国家存亡の危機に直面したロモス王国を救い、その後一度は滅ぼされたパプニカ王国の奪還に助力するが、彼の代名詞である『氷の賢者』の異名が世に広まったのはこの時期である。
そして彼は、このパプニカ王国の奪還時に生涯で3度目の師を得る。その師とは、魔王戦役において勇者アバンと共に魔王ハドラーと対峙した当時の人間界最高の魔法使い、大魔道士マトリフだった。既に世捨て人同然の生活を送っていたマトリフとの出会いが彼を更なる高みに登らせ、彼はマトリフに師事して直ぐに『大賢者』の称号を名乗る事を師より許される。
以後彼は、勇者
【人物評(戦役後)】
大魔王戦役後は、後に『バウスンの一刺し』で語られるリンガイアの智将バウスン・ヴァレスタインの策略によって新生リンガイア王国の実質的な宰相の地位に就き、長く同国の復興と発展に力を注いだ。
また同時に彼は、幼年期の友人達と協力して、世界初の医療大学『ベンガーナ医療大学』を設立し、医療魔法の普及に力を尽くした。彼の大学での役職は講師であり、彼の立場からすればあまりに相応しくないが、それは同時期に一国の宰相の地位に就いた彼の心身の負担を友人達が慮った結果だったと言われている。実際、彼が60歳になるのを契機に新生リンガイア王国の第一線から退いてすぐに、彼は友人や同僚達に背中を押される形でベンガーナ医療大学の初代学長に就任している。
ベンガーナ医療大学が開校されてから44年もの間学長の席が空位だったのは、医療魔法の創始者である彼こそが初代学長に相応しいと、彼以外の関係者全員がその席に座る事を固辞していたためである事は、彼の人望と声明が極めて高かった事の証であろう。
私生活では、大魔王戦役を共に戦い抜いた戦友でもある3人の女性を伴侶に戴き、後に7人の子の父となった彼は、ロモス王国の南に位置するネイル村で平穏な生活を送った。
大魔王戦役後、名実ともに世界最高の魔法使いとなった彼は各国の為政者から重きを置かれるが、同時にその飾らない人柄は多くの市政の民から愛された。
また、家族に対しては、一部の者からやっかみを込めて『天然ジゴロ』という悪評は立ちつつも、実際は愛人や隠し子を設けたという記録は存在せず、時折突拍子の無い言動で家族を困惑させつつも、総じて良き夫であり良き父であったという妻や子の残した証言が現在まで残されている。
彼が85の歳で逝去した時、その葬列には――
疲れた目で文字を追っていた俺は、そこで開いていた本をパタンと閉じた。
もう良い。十分だ。やはり確認するまでも無かった。どう考えても、日本からの転生者はポップ・マーカストンその人だ。こいつだけが明らかにおかしい。ダイが戦役後に行方不明になっていない事や、ノヴァが鍛冶師になっていない事など、原作を知っている人間からすれば、思わず首を傾げたくなる人生を送っている者もいるにはいるが、それらはおそらくポップ・マーカストンが影響を及ぼした結果だろう。
……何だよ。マァムとメルル、それにエルサか? 3人もの女性と結婚して我が世の春のつもりか? どうせ魔王軍との戦いも余裕綽々でこなしていたんだろう? そんなに、俺TUEEEがしたかったのかよ。キルバーンの正体も、ミストバーンの正体も知っていたら、そりゃあ楽な冒険だったよな。
俺がこの世界に忌避感を抱く最大の要因は、こいつの存在だ。こいつが好き勝手して原作ブレイカーした世界を生きるなんて反吐が出る。こんなの『ダイの大冒険』の世界じゃねえよ。せめて俺に原作の延長線上の世界で生きさせてくれよ……!
思わず俺は、安楽椅子のひじ掛けにガンっと拳を打ちつける。
悔しい。どうして俺はこの世界に、この時代に転生したんだ。どうして……。憤懣やるかたない思いを抱きながら、夜は更けていった。
「大したおもてなしも出来ず、申し訳なかったですね。調べたかった事は分かりましたか?」
翌朝、アイザックに辞去の言葉をかけると、彼がそう尋ねて来た。
「はい、フレデリカ女王のおっしゃっていた通りの蔵書量でした。おかげで目的を果たす事が出来ました」
「そうですか。本当は朝食でもご一緒に、と思っていたのですが、船を待たせているのではしかたありませんね。私も十代の頃にベンガーナ医療大学に通わせていただきましたが、あそこは実に良い所ですよ。知識を得られる事はもちろんですが、私としては各国の若者と知己を得る事ができたのが、何よりの財産でした。あ、それと、大学の中央棟にあるジーン食堂は必見ですよ」
「……そうですか。それは今から通うのが楽しみです」
俺はアイザックに対してそんな心にもない返事をし、ジニュアール邸を後にした。
「さあさあ、ドムは身が引き締まっている事で定評のパプニカはバルジ産、ソースは正真正銘ロンテ印の最高級品だ! 1パック5G! おっ、どうだい、兄ちゃん! 観光客だろう!? こいつはランツェの町でもなかなか食べられない逸品だぜ!」
その威勢の良い誘いの言葉と、同時に俺の鼻に漂ってきた懐かしいソースの香りの誘惑に抗えなかった俺は、たこ焼きとでかでかと書かれた出店でたこ焼きを2パック購入する。
サンディさんにもお土産は必要だしな……。あ、あと島の皆にお菓子を買って帰るって約束していたんだった。どこでお菓子が買えるかな……。そして俺は、ふらふらとお菓子を取り扱っている店を探し始めた。
「ふー、これぐらいあったら施設の皆の分も足りるかな。それにしても、お腹空いたな。もう俺の分だけで先に食べちゃおうかな」
島の皆に頼まれたお土産をどうにか買いそろえた俺は、港へてくてくと足を運びつつ、自分用に買ったたこ焼きのパックを広げ、爪楊枝を刺したたこ焼きを一つ口に運んだ。
ん……。確かに美味いな。別にたこ焼きを食べた事が初めてな訳では無いが、あの店主が言っていた通りタコ、いや、ドムの質が良いのか、あるいはソースが良いのかデルフィン島で食べたたこ焼きより数段上の味わいだった。
「この味なら、あの妙にたこ焼きにうるさかった先輩も合格点を出すだろうな……」
そう独り言を呟いた俺は、前世で同じゼミで一つ年上だった先輩の事を思い出す。その先輩とは、大学入試の面接時に作品は異なるものの、共に架空のキャラクターを医師として尊敬していると面接者に対して堂々と発言したという共通点があり、互いにそれを知った後は、色々と行動を共にする関係になっていた。一つ年上ではあったものの、俺達は歳を感じさせない気の置けない付き合いを続けた。
気さくで、相談を持ち掛けるとどんなに忙しくしていても親身になって聞いてくれ、誰からも慕われていた。ただし、病的なほどに女心に疎く、軽音楽部に所属していた先輩のライブに好意を抱いていた女性が駆けつけても、先輩はその女性の好意に気づく様子が皆無だったり、関西出身じゃないのに妙にたこ焼きに拘りがあったりと変わった所も多々あった先輩だったが、俺はあの先輩が大好きだった。
だけど、その先輩は大学を卒業する事が出来なかった。何故なら、その先輩は在学中に交通事故によって亡くなったからだ。先輩をはねた車の運転手はその後結局見つからなかった。前世で記憶している限りでも、事故から5年以上が過ぎていたのだから、おそらくもう見つかる事はないんだろうな。あの日俺は先輩に、『終電に乗り遅れたので、家に泊めてくれませんか?』とLINEのメッセージを送っていたが、それに既読が付く事は無かった。
「途中までしか『ダイの大冒険』の漫画を読んでないって言っていたから、今度貸してあげますよって言った矢先にあんな事になって……」
もう先輩からLINEの返事が返ってくる事も、先輩の写真を眺める事も、墓前に花を供える事もできなくなったな……。かつては先輩の命日には欠かさずその墓前まで花を供えに行っていた事を思い出す俺。
先輩……、俺、こんな世界に来たくなかったですよ。こんな時こそ相談に乗って欲しいのに、どうして今俺の側に先輩はいないんですか。本当に、肝心な時にいないんですから、もう……。
港の岸壁でこちらに気づいたのか、手を上げるサンディの姿が何故か俺には滲んで見えた。