転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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212話 閑話⑬ 氷の大賢者の足跡を追って その10 炸裂 極大消滅呪文(メドローア)!!

「あっ、カナタ! おーい、カナタ! 無事だった!?」

 

空洞に入ってきたレックスが俺にいち早く気づき、鋼の剣を握った手をぶんぶんと掲げる。

 

「て、てめぇ! いつの間に檻から逃げ出しやがった!?」

 

「ちっ! さっきの爆発音といい、お前俺達を謀りやがったな!? おい、ザイル! お前、こいつにハメられたんだよ!」

 

くすくすくす。そう言う事。俺は、奴らが仲たがいしている間に、フェルン達と合流する。彼らはここに駆けてくる途中でカンダタと眼帯の男(おそらくザイルという名だろう)以外の盗賊達を倒してきたのか、この空洞に新たに現れる敵はいなかった。

 

「さあ、今度こそ逃がさないわよ、カンダタ。覚悟しなさい」

 

「へっへっへ。そう言う事。おとなしく俺の鉄拳を喰らいな!」

 

フェルンが弓に矢をつがえ、ロックが拳をガツンっと組み合わせる。レックスは意外といっては失礼だが、鋼の剣を正眼に構えなかなか堂に入った構えだ。

 

「ぐうっ! よもや襲撃してきたのがお前達だったとは! こうなったら仕方ねぇ! ザイル! あれを出すぞ!」

 

「へ、へい、親分!」

 

カンダタとザイルは俺達に背を向けて大空洞の奥の方へ駆けていく。

 

「待ちやがれ!」とロックが追いかけるが、逃げ足だけは一級品の彼らは直ぐに目標としていた地点に辿り着いたようだった。

 

「へっへっへ! ここまで辿り着けたらこっちのもんよ! お前達に見せてやるぜ! ロロイの谷で発掘したこいつをなぁ!! 出てこいっ、キラーマシン・タイプG!!」

 

ズザァァァッ!!

 

カンダタの言葉に呼応し、突如として砂を押し上げる様にして地中から現れるキラーマシン。その身体は赤いメタリックボディで、右手に長いサーベル、左手にはボウガンが。タ、タイプ……G。キラーマシンなら原作の冒頭で登場していたから知っていたが、まさか『赤い流星』の異名を持つタイプGまでこの世界に存在したとは……!

 

「ロロイの谷だぁ……? また何てところから発掘してきたもんだ」

 

「……まずいわね。あの赤い装甲は青鍛鋼(ブルーメタル)を上回る強度と聞いた事があるわ」

 

俺達が突然の魔物の出現に動きを止めていると、キラーマシンのボディの胸部が突然バクンっと開く。一瞬見えたキラーマシンの内部には、詰めれば大の大人が二人ほどは入れる程度の空間が存在した。

 

「へへっ、こいつに入っちまったらこっちのもんよ!」

 

「親分が壊れて動かなくなっていたこいつを修理したんだ。俺達の操縦とこの魔物の身体があれば、どんな奴もいちころさ!」

 

二人をその胸部に格納したキラーマシンは、グオン、グオンと機械の駆動音を発しながら血のように赤いモノアイをギラッと輝かせた。

 

 

 

「タイプGだかなんだか知らないけど、俺にはアバン流刀殺法があるんだ! ――てやぁっ!」

 

若いレックスが鋼の剣を振りかぶってキラーマシンに切りかかる。

 

ガキィィーン!

 

キラーマシンの手にしたサーベルとレックスの鋼の剣がぶつかり合い、薄暗い空間内に激しい火花が飛んだ。

 

「――くっ!」

 

両者のつばぜり合いは長く続かなかった。おそらく体重差のためだろう。キラーマシンの振り払った剣の勢いに押されて、軽量のレックスが弾き飛ばされる。

 

「はははっ! ――死ねぇ!」

 

宙にあるレックスにキラーマシンの左手にあるボウガンが向けられる。ビュンっと音を立てて矢がレックス目がけて放たれたが、横合いからその高速で飛ぶ矢を打ち落とす別の矢が。

 

フェルンだ。矢を矢で撃ち落とすという神業のような真似をした彼女は、矢を射った姿勢のままレックスに声を張り上げる。

 

「気を付けなさい、レックス! キラーマシンには半端な技は通用しないわ! ――カナタ! あなたは後方で仲間の回復だけをしていなさい!」

 

ここは覚えたばかりの攻撃呪文 火炎呪文(メラ)の出番か、と足を一歩踏み出した所で、足手まといは下がっていなさい、という副音声付きの声が飛ぶ。

 

「そういうこった! お荷物はお荷物らしく、下手に動くんじゃねぇよ!」

 

こちらは副音声どころか、主音声で俺に叱咤の声が飛ぶ。ロックは俺にそう言い放つと、軽快な足さばきでボウガンの矢をヒラヒラと躱しつつキラーマシンの懐に飛び込んだ。

 

「おらぁっ! ――爆裂拳!!」

 

ドドドドドッと、まるで千手観音のように腕が増えたのかと錯覚するほどの速さで、キラーマシンの赤いボディにロックの拳が付きこまれる。だが……。

 

「――ちいっ! 硬ってぇなぁ、お前はぁ!!」

 

その艶めかしい輝きを有するボディに損傷が見られないのを見て、ロックが何故か笑みを浮かべながら吐き捨てる。

 

「俺の友達を返せぇ! ――アバン流刀殺法 大地斬!!」

 

キラーマシンに対して、直上よりレックスが鋼の剣を叩きつける。おお、大地斬! あのアバン流刀殺法の奥義の一つである大地斬を、まさかこの目で見る事が叶うとは!

 

もう完全にこの戦いに関与するのは無理だと諦め傍観者に徹していた俺は、原作で幾度となく目にしたアバン流の奥義に目を輝かせる。

 

しかし、次の瞬間砕けていたのはキラーマシンのボディではなく、レックスが手にしていた鋼の剣の方だった。砕けた剣の欠片がレックスの頬を傷つけ、赤い鮮血が舞った。

 

「そんなっ! なんて硬さだ!」

 

武器を失ったレックスの後退を援護するようにフェルンの矢が立て続けに放たれる。その正確無比な矢はメタルボディを傷つける事が叶わなくとも、巧みにキラーマシンの関節部に突き込まれ、その動きを阻害する。

 

「レックス、動くなよ。……回復呪文(ベホイミ)

 

思った以上に深手だったレックスの頬の傷を癒すため俺は回復呪文を唱える。治癒の間、悔しそうに根本しか刀身の残っていない、かつて鋼の剣だったものを見つめるレックス。

 

「剣が……。ちくしょう……!」

 

「なあ、レックス。お前は、海波斬とかアバンストラッシュは習得していないのか?」

 

俺のその問いかけに、レックスは悔しそうに下を向く。

 

「……覚えていない。デルムリン島でアイザック先生に教えてもらったけど、俺は大地斬を覚えるので精いっぱいだった。才能ないんだよ、俺」

 

アイザック。彼と別れたのがもうずいぶん前のように思えるな。ふふふ、勇者アバンの子孫であるアイザックは、やはりこの時代でも家庭教師を生業としているらしい。

 

と、そんな事よりレックスのフォローだな。しかし、この後ろ向きな態度もレックスの年齢を考慮すると、別におかしな事では無いと思うんだけどな。

 

「レックス。ちょっと顔を上げて、口を開けてみてくれるか?」

 

「……え?」

 

俺の言葉の意味が分からず図らずも大きく口を開けたレックスのその口に、俺はポケットの中から取り出した物をほいっ、とばかりに放り込む。

 

「――ぶっ! な、何をするんだよ、カナタ……て、甘い……。何、これ?」

 

「くすくすくす。カール名物『金平糖』さ。原料である砂糖は、俺の故郷デルフィン島産だぜ? 美味いだろう?」

 

「お、美味しいけど、こんな時に何してるんだよ、カナタ?」

 

「こんな時だからこそだよ。強いストレスを感じたら甘いものを取るのが一番さ。大地斬しか覚えていないのなら、それはそれで良いじゃないか」

 

「どこが良いんだよ!?」と食って掛かってくるレックスを手で制止しながら俺は続ける。

 

「だって、まだ成長の余地があるって事じゃないか。……失礼ながら殿下はまだ若干12歳。これからじゃないですか。これからいくらだって成長できる。成長できる余地がある。それはとても素晴らしい事だと俺は思いますよ?」

 

片目を瞑って俺がレックスをそう諭すと、レックスは「敬語はやめてよ……」と不満そうに呟く。

 

「で、でも、今この時に俺が強くないと、友達を助け出せない……」

 

レックスがキラーマシンと付かず離れずの距離で戦っているロックと、そのロックを援護しているフェルンに視線を投げかける。二人の奮闘をもってしても、キラーマシンには傷一つ付いていないように見える。

 

「一人の力で叶わなければ、皆の力を結集すれば良いのさ。微力ながら俺も手伝うよ。――ロックさん、フェルンさん! 一度態勢を立て直しましょう! 下がって下さい!」

 

背後からかけられた俺の言葉に、素直に二人は後方に下がる。キラーマシンの方も、操縦者が息をつくためなのか、彼らの後退を追って来ようとはしなかった。

 

俺とレックスの周囲まで下がってきた二人。その二人は、気のせいかもしれないが面白げな表情を、いや、むしろお手並み拝見、と言いたげな表情を俺に向けていた。なんでそんなに楽しそうなんですかね?

 

「何かいい考えがあるのか、カナタ?」

 

「あまり時間が無いわよ、カナタ。あれは直ぐに動き出すわ」

 

「カナタ……?」

 

三者三様の言動をとる彼らに、俺は自身が考えている作戦を伝える。途端にフェルンが、俺に対して何とも言えない呆れた表情を浮かべる。

 

「カナタ……、あなた、本当に……」

 

逆にロックは、実に嬉しそうな表情だ。

 

「いいねぇ。半信半疑だったが、ようやくフェルンの言葉を信じても良い気がしてきたぜ! おもしれぇじゃねぇか。実にあいつらしいぜ!」

 

「でも……、カナタの言う通りにできるかな。俺、剣がもう無いし……」

 

レックスがそんな弱気な言葉を発したので、俺はレックスの腰に刺さったもう一つの武器を指差す。

 

「武器ならあるじゃないか。レックスが腰に差しているそれは、パプニカ王家に伝わる由緒正しい『風のナイフ』だろう? 下手な剣よりよっぽど切れ味鋭いはずだぜ?」

 

「でも、ナイフなんかじゃぁ……」

 

「いける、いける。かの150年前の英雄 勇者ダイは、そのナイフで魔王ハドラーや軍団長を退けたんだぜ? 勇者ダイの血を引くレックスならきっとできるさ。自分のためじゃない、誰かのために頑張る事が、君にいつも以上の力を与えてくれるはずだから」

 

「誰かのために……。うん、俺頑張るよ!」

 

レックスは、こちらに接近し始めたキラーマシンに視線を投げて、俺に強く頷いた。

 

「よしっ、じゃあ、皆、作戦通りに!」

 

俺のその言葉に、俺を除いた三人が再びキラーマシンに向かっていった。

 

 

 

「はははっ! お前達をここで始末して、あのガキをもう一度捕えてやる。その後は、魔物の里にこのマシンで攻め入って、あいつが秘匿している呪文を手に入れるんだ!」

 

キラーマシンが、自身に向かって一直線に向かってくるロックとレックス目がけて右手のサーベルを勢いよく振り下ろす。……が、ロックとレックスは機敏にそれを左右に散って躱す。

 

「そいつは出来ない相談だな! お前は今日こそとっ捕まえてやるぜ!」

 

「悪い事をする奴は、パプニカから出ていけぇ!」

 

ロックはメリケンサックをはめた両拳で、レックスは右手に握ったナイフでキラーマシンに取りつく。

 

キラーマシンの肩口を狙ったフェルンの放った矢がわずかに逸れ、キラーマシンの背後に流れていく。

 

……キラーマシン・タイプG。なかなかに厄介な魔物だな。堅牢さはもちろん、右手のサーベルで接近戦、左手のボウガンで遠距離戦と何でもございだ。たすき掛けした矢筒には、十分な数の矢が残されている。

 

ビュンッ!

 

――とっ! 俺は横に転がるように飛んで、俺目がけて放たれたボウガンの矢を躱す。後方にいるから何とかそれを躱せるが、前線にいては躱しようもない程の速度だ。

 

フェルンが本日何度目かになる矢を放つ。だが、その矢はやはりキラーマシンの肩を掠めて後方に消えていく。あの図体で動きだってとろくはないんだ。俺の見ている前で再びフェルンが矢をつがえ、ぐっと右腕を後ろに引く。

 

ギリギリと絞られた弓がたわむ。ここからではフェルンの背中しか見えないが、彼女の緊張がここまで伝わるほど、神経を集中させている事が分かる。

 

「――はっ!!」

 

フェルンの裂帛の声と共に、再び矢が射られた。やはりその向かう先はキラーマシンの右の肩。シュンッと音を立てて矢はまたしても肩口を掠めて後方に消えていく。

 

しかし、今度はそれだけでは終わらなかった。

 

ガシャンッと大きな音を立て、キラーマシンが背中に背負っていた矢筒が地面に落ちる。

 

「――な、なんだとぉ!?」

 

突然軽くなった事で異変に気づいたのか、キラーマシンの焦ったような手が背中を探るが、その手は虚しく空を切るだけだった。

 

すっげぇ……。フェルンの狙いは、最初から矢筒を背中に留めている革紐だったんだ。さっきまでも矢を外していたわけじゃなくて、少しずつ矢尻で革紐に切れ目を入れていて、それが最後の一射で完全に断ち切れたって言う訳か。

 

これでキラーマシンに残された矢は、現在左手のボウガンにセットされている矢一本のみという事になる。

 

「――カナタ!」

 

――!

 

自分の仕事をこなしたフェルンが俺の名を大声で叫ぶ。ようやく出番が来たと感じた俺はそのフェルンのいる前方に駆け出した。

 

 

 

「ぐぅっ! ボウガンを封じたとて、まだ負けたわけでは――。――!?」

 

サーベルを縦横無尽に振るうキラーマシンの動きを、ギリギリのところで見切り躱していくロック。そして攻撃を躱したロックは、キラーマシンの間合いの中で腰を落とす。

 

「へへへ。次は俺の番だな。はぁっ!! ――正拳突き!!

 

ロックが腰だめに貯めていた左拳を一瞬で放った。それは、ドヒュンっという風と音がその動きに遅れて俺まで届くほど、超絶的な速度だった。

 

バリーーーーン!!

 

その拳は、キラーマシンの左胸にあるガラスに覆われた円型の空洞に、寸分の狂いなく吸い込まれていた。

 

「へへっ! やはりここの材質は青鍛鋼(ブルーメタル)じゃあなかったようだな。そらっ!」

 

空洞に突き込んでいた左拳をロックが引き戻すと、その左拳に捉われた赤や青といった配線がブチブチブチッと引きちぎられながら姿を現す。

 

「こ、こら、動け! 動かんか、キラーマシン!」

 

千切れた配線がキラーマシンの姿勢制御をつかさどっていたのか、キュイーーンという異音を発しながら突然酔っぱらったかのようにふらふらとたたらを踏むキラーマシン。

 

そこへキラーマシンの直上からレックスが仕掛ける。

 

「たあぁっ! ――アバン流刀殺法 大地斬!!」

 

「馬鹿め! 剣で傷一つつけられなかったものが、ナイフごときで傷つくはずがないわ!」

 

徐々に追い詰められながらも、キラーマシンの絶対の防御力への自信を崩さないカンダタ。そんな彼にレックスが叫ぶ。

 

「カンダタッ! 俺は一人で戦っているんじゃないんだ!」

 

ズシンッ!!

 

キラーマシンの足元の地面が突然陥没し、不規則に隆起した地面にその大きな4本の足が捉われる。そう、レックスが大地斬で狙っていたのは、キラーマシンを斬る事ではなく、文字通り大地を斬る事だった。

 

「お、親分! う、動けねぇ! まずいんじゃねえですかい!?」

 

「狼狽えるんじゃねぇ! 大丈夫だ、あいつらにこのキラーマシンの装甲を貫く事なんてできはしねぇ!」

 

「……それはどうかな?」

 

「「――!?」」

 

キラーマシンの赤く光るモノアイがギュンっと回転しピタリと俺に固定される。

 

「ガ、ガキ! そ、それはまさか……、まさか……!?」

 

姿は見えなくとも、カンダタがキラーマシンの操縦席で目を大きく見開いて俺を凝視している事が分かる。いや、正確には俺にではない。俺の手にあるこいつにだ。

 

そう、俺の手には白く光り輝く弓矢が出現していた。

 

 

 

「……メ、極大消滅呪文(メドローア)……」

 

くすくすくす。やはり知っていたか。まあ当然だよな。あれほどかつての大戦の英雄、とりわけポップ・マーカストンに執着していたカンダタだ。当然こいつは知っているだろう。

 

「そう、極大消滅呪文(メドローア)さ。こいつの威力は知っているだろう? 青鍛鋼(ブルーメタル)を超える強度? 無駄、無駄。万物全てを消滅させるこいつにかかっては、たとえそのキラーマシンの装甲がオリハルコンだったとしても耐えらないさ」

 

「は、はったりだ! お前如きがあの幻の秘匿呪文 極大消滅呪文(メドローア)を使えるわけがねぇ!」

 

「くくっ。カンダタ、忘れたのかい、あのポップ・マーカストンの残したメモを。迂闊だったな。お前達は、見せてはいけない物を、見せてはいけない相手に見せてしまったのさ……」

 

「なっ!? てめぇ、あれはただの日記だと言っていたはずじゃあ……!?」

 

「おめでたいなぁ、カンダタ。何故俺が正直に言う必要がある? あのメモには、ゴッドハンドの事だけじゃなく、極大消滅呪文(メドローア)の術式まで事細かく記録されていたぜ?」

 

「……う、嘘だろう?」

 

未だ俺の言葉を信じられない様子のキラーマシンに対して、俺は引き絞った輝く矢の照準を合わせる。

 

「嘘か真か、その身で味わうと良いさ。そのキラーマシンと共にこの世から塵一つ残さず消滅させてやるよ」

 

「ま、待ってくれ! 分かった、こ、心を改める! だから、ゆ、許してくれよ、な、な?」

 

キラーマシンの両手が降参を示すようにばたばたと振られるが、俺は一切の躊躇をせず最後の詠唱を唱える。

 

「ふん、ちょっと遅すぎたな。さあ、消え去るんだ! ――極大消滅呪文(メドローア)!!」

 

「「う、うわぁっ!!」」

 

俺が消滅の力を宿した光の矢を放つのと、キラーマシンの胸部がバクンっと開きカンダタとザイルが泡を食って飛び出してくるのは同時だった。

 

一刻も早く極大消滅呪文(メドローア)の射線軸上から逃れようと、互いに互いを蹴落とす勢いでキラーマシンの身体から這い出す二人。そんな醜い争いをしている彼らの背後で、俺の放った光の矢は歪な放物線を描き、明後日の方向に飛んでいく。

 

ぐさっ……。

 

光の矢の刺さったその先は、もちろんキラーマシンでは無かった。それは何でもない地面に浅く刺さった後、ぽてっと横倒しに倒れる。その様子を呆れの成分が多分に含まれる瞳で見つめていたフェルンは、(さもありなん)と言いたげに肩を竦めた。

 

「な……、な……」

 

カンダタ達もようやく異変に気付いたようだった。背後を振り返り、地面に転がる光の矢を凝視する二人。そして皆の視線が集中する中、光の矢から極大消滅呪文(メドローア)の特徴である目を焼かんばかりの光が徐々に薄れていった。

 

 

後にその場に残されていたのは、ただの木で出来た矢だった。

 

「ぷっ! 照明呪文(レミーラ)の呪文で光らせただけの矢に、あんなにびくびくしちゃって! おっかしいの!」

 

顎が外れんばかりに木の矢を凝視していた二人をレックスがそう揶揄する。くすくすくす。うまくいった。先ほどの極大消滅呪文(メドローア)は、ロックとレックスが奴らの意識を奪っている間にフェルンから彼女が愛用している弓矢を借り受け、それに最高照度で調整した照明呪文(レミーラ)をかけただけの、“なんちゃって極大消滅呪文(メドローア)”だった。

 

「こ、このクソガキィ! ぶっ殺してやる!」

 

ようやく事態が呑み込めたのだろう。血管が浮き出そうなほど血走った目で俺を睨むザイルだったが、彼がそういう態度を取れた時間はさほど長くなかった。

 

「ぶっ殺す時間がお前にあれば良いけどなぁ……」

 

「――!? がはっ!?」

 

突如自身の背後から投げかけられた言葉にザイルが振り返ると、そこにはロックが。彼はザイルの腹部に強烈な拳を打ち込み、一瞬でその意識を刈り取る事に成功する。

 

「やったぁっ! あれ、もう一人は!?」

 

ザイルが白目をむいて倒れたのを見て喜色を浮かべるレックスだったが、すぐにレックスは気付く。もう一人、ザイルより上手のカンダタが忽然と姿を消している事に。

 

 

周囲をキョロキョロと見回すレックスに、俺はそっと声を投げかける。

 

「レックス、あそこだ」

 

カンダタのいた場所。そこは大きな空洞が天井に出来ていて、今なお星明りがそこからこの大空洞まで届いている場所だった。

 

 

「あっ! てめぇ、いつの間に!」

 

「カンダタっ! もう諦めて俺の友達を返せよ!」

 

「……」

 

フェルンは無言のまま俺に返された弓矢を再び構え、その照準をカンダタに合わせる。その動きに気づいたのか、カンダタは脇に抱えていた籠を自身の身体の前に持って来て、まるでそれを盾にするかのように徐々に後退する。

 

「どこに逃げるんだよっ! もう逃げ場は無いぞ!」

 

レックスの言葉に、カンダタはニヤッと下品な笑みで返す。

 

「逃げ場だって? 逃げ場ならあるさ。あそこになぁっ!!」

 

そしてカンダタは俺が予想した通り、上空の空洞に視線を投げる。

 

「くくっ! 今日の所はこいつだけの戦果で満足しておくぜ! ガキィ! 今日の借りはいつか返してやるからな! 覚えておけっ!」

 

カンダタは上空から視線を剥がし、俺に対してそう恫喝の声を上げる。と同時に、カンダタの履いていた靴から何やら小さな翼のようなものが飛び出し、それがパタパタパタと羽音を響かせ始めた。

 

「あれはっ……! 空飛ぶ靴!?」

 

「なるほど……。前回はあれで私達から逃げ遂せたのね。そう言えば、あなたはベンガーナのポップ発明記念館にも忍び込んだ事があると聞いた事が……。私としたことが、迂闊だったわ」

 

ロックの驚愕の表情とフェルンの悔し気な表情を見て、カンダタもようやく満足したのか上気した顔で続ける。既にカンダタの足は地面から体一つ分は浮いており、その目は俺達を見下ろしていた。

 

「くっくっく。そう言う事だ。残念だったな。レックス王子、こいつの買い手は俺の方で見つけておくぜ。悪く思うなよ。さあ、行けっ! ――ベンガーナ!!」

 

恐らくカンダタが最後に発した言葉が、空飛ぶ靴の魔道具がその力を発揮するキーワードだったのだろう。途端に翼の羽ばたきが激しくなり、見る見るうちにその姿が小さくなる。

 

「あっ! 待てっ、カンダタ!!」

 

レックスが必死に追いすがろうと跳躍する姿勢を取るが、俺はそのレックスの肩をそっと抑えた。

 

「……カナタ?」

 

「大丈夫だよ、レックス。君の友達は、ちゃんとここに戻ってくるさ。まあ、見ていなよ」

 

俺の言葉に不審げに首を傾けるレックスだったが、すぐに俺達の上空から「ガツーーーン!!」という鈍い音が響き渡る。

 

「な、なんだぁっ!?」

 

「何かにぶつかった……?」

 

ロックとフェルンがそう口にしたその時、頭上から今しがた俺達から逃げようとしていたカンダタが堕ちてきた。目をくるくると回しているカンダタの頭には、緑色の帽子を下から押し上げる様に巨大なたんこぶが。

 

「くすくすくす。ポップ・マーカストンの編み出した独自呪文は、本当に使い勝手が良い」

 

「カナタ、お前いったい何を……?」

 

皆を代表してロックが俺にそう問いかける。

 

「ふふふ、ちょっとあの天井の空洞に氷の壁を張っておいたんですよ。カンダタの最後の逃走ルートにちょっと思う所があったので」

 

パプニカ王城内の展示ルームで聞いたカンダタ盗賊団の活動に加えて、俺の衣服を奪った念の入りようで俺はピンと来ていた。注意深いカンダタは、自身が魔道具『空飛ぶ靴』を保有しているからこそ、俺に同じ魔道具で逃げられる事を危惧していたのだ。

 

俺の説明に、ロックとフェルンは顔を見合わせながら肩を竦め、レックスは上気した顔で「すごいや、カナタ!」と俺を讃えてくれる。

 

「そんな事より、レックス。早く友達を助け出してあげたらどうだい?」

 

俺の言葉にレックスが「そうだった!」と気絶したカンダタの側に落ちている籠に駆け出す。

 

が、その時突然、薄闇の中に赤いモノアイがぼっと浮かび上がる。キラーマシンだ。

 

「「「――!?」」」

 

弛緩した空気が一瞬で緊張のそれに変貌する。

 

ギギギギギ……。

 

カンダタ達が胸部から逃げ出した事で完全に動きを停止していたキラーマシンが、突如として痙攣するかのように再起動する。それは、どのように改造されていても魔物としての(さが)を失っていなかったためか。タイミングも悪かった。フェルンとロックはカンダタ達に縄をかけに動き出しており、レックスも地面に転がっている籠の所へ駆け出した所だった。

 

左右にキョロキョロと動いていたキラーマシンの赤く光るモノアイが、俺を目にした途端ピタッと固定される。その無機質な赤い光源を見つめていると、逃げなければという考えが頭から抜け落ち、まるで金縛りにあったかのように動けなくなった俺。

 

俺は、キラーマシンのボウガンが装備された左腕が上がり、残された最後の一本の矢の照準が俺に合わせられるのを、何故かスローモーションのように見ていた。

 

「「――カナタ!!」」

 

切迫したフェルンとロックの声すら幻覚のように感じるほど感覚の麻痺していた俺は、この期に及んでも顔をひきつらせたまま回避行動を取る事が出来ずにいる。

 

だが、そのボウガンのピンと張られた弦が緩む事は無かった。何故なら、突然キラーマシンの赤く輝くメタルボディに、白く輝く斬撃が轟音を立てて到達したためだった。その斬撃はキラーマシンの身体を袈裟切りするように到達しており、光が納まった時には、内部の機械がはっきり見えるほど装甲に深い亀裂が発生していた。

 

俺に照準を合わせていた左手がゆっくりと下ろされると同時に、キラーマシンの赤く爛々と光っていたモノアイが不規則に点滅を繰り返し、そして最後はプツンッと糸が切れる様に途絶えた。俺はそれを見てようやく、その場にペタッとしりもちをつく様に座り込んだ。

 

その姿勢のまま斬撃の軌跡を逆にたどるように顔を巡らせると、その先にはパプニカのナイフを振り切った態勢のレックスが。

 

「レックス……。君、今のは……」

 

「ど、どうして、俺……海波斬を……」

 

意識してやったのでは無かったのだろう。レックスがナイフを見つめながら茫然と口にする。……なるほど。あれが海波斬か。アバン流最速の飛ぶ斬撃。初めて見たが、とんでもない威力だな。

 

「そ、そうか。良かったじゃないか。何にしてもありがとうな、レックス。命拾いしたよ」

 

「う、うん……」と、戸惑いながら返事を返すレックス。そんな彼に笑みを浮かべながら立ち上がろうとした時、俺の耳に微かにフェルン達の会話が聞こえてきた。

 

「なあ、フェルン。これ、本当に海波斬……か?」

 

「……。キラーマシンの内部に隠されていた動力炉を完全に断ち切る眼力、アバン流最速の海波斬にも匹敵するほどの斬撃速度、かつて同じ場所を切断されていたという点を考慮してもあまりある威力。これは海波斬というよりは、むしろ……」

 

「だよなぁ。くくく、(ドラゴン)の騎士の血は、大戦から150年経っても今なお健在って事かな?」

 

「そうかもしれないわね。でも、こんな力、開眼せずにすむならその方が良かったのかもしれないわよ。……どうしたの、レックス?」

 

彼らがキラーマシンの身体を検分していると、いつの間にかレックスが傍に近寄っていた。そしてレックスは、キラーマシンの身体に刻まれた切断面にそっと手を合わせた後、自身の額をキラーマシンの冷たい身体に触れさせ、瞑目しながら言葉を紡いだ。

 

「……ごめんね、魔物さん。本当ならもう痛い思いをせずに眠っていられたのに、悪い人間達のせいでまた痛い思いをする事になって……。痛かったよね? ごめん、ごめんよ」

 

「「レックス……」」

 

フェルン達はレックスのそのキラーマシンに対する弔いの様子を至近で、そして俺は一歩引いた場所から見つめていた。

 

(ドラゴン)の騎士の血か……。ロック、どうやらその血が受け継いでいるのは強さだけじゃないようだな。(ドラゴン)の騎士の騎士たる矜持。決して人間だけの味方をするのでは無い、時には魔物にだって味方をする尊い思考までちゃんと受け継がれているよ。

 

だから大丈夫だよ、フェルン。どんな力も使い方次第。レックスが今のままの心根でいる限り、その力は彼にとって足枷ではなく、守りたい者を優しく包み込む翼になるはずだから。

 

 

 

俺達は束の間、『(ドラゴン)の騎士』の血を引く心優しい戦士が行う弔いの儀式を、邪魔する事無く見つめていた。

 

 

 

皆が見守る中、レックスが籠の蓋をそっと開いた。そこには、籠いっぱいに敷き詰められた眠り草の葉っぱをベッドにすやすやと眠る、水滴型をした黄金色の魔物が。

 

……ああ、やっぱり。俺はレックスの肩越しにその初めて見る、しかし懐かしい姿に思わず頬が緩んだのを自覚した。

 

「ゴメちゃんっ! ねえ、起きてよ! 俺だよ、レックスだよ!」

 

籠の中から両手でそのキラキラと輝く魔物を取り出したレックスはそう声をかける。眠り草の影響下から抜け出したためなのだろうか、レックスの手に包まれた黄金色の魔物のつぶらな瞳がゆっくりと開いていく。

 

そしてその瞳が全て開いた時、水滴型の身体にピタッと張り付いていた翼がバサッと広がり、その魔物は宙を飛んだ。薄暗い洞穴内に光の雫がキラキラと零れる。

 

「――ピピィッ!!」

 

「ゴメちゃん!」

 

先ほどまでとは打って変わって元気いっぱいな様子で自身の周りを飛びまわる友人に、レックスも満面の笑みで応える。

 

ああ、なんだか伝説を見ているような気分だな。俺は、原作『ダイの大冒険』に登場するキャラクター、そう『ゴールデンメタルスライム』こと『ゴメちゃん』との遭遇に、胸を躍らせていた。

 




本日の投稿はここまでとします。お付き合いいただきありがとうございました。
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