転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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3人称……になっているかな。なっていたら良いな。


22話 原作開始 4年前 探し物

 ベンガーナの町は今日も人手で賑わっていた。

 

ギルドメイン大陸のちょうど中央に位置するベンガーナ国は、近隣諸国に強国と知れ渡っており、その国のおひざ元であるベンガーナの町は、国内の村々はもとより、国外からも交易のための物資が集まってくる。

 

また、ベンガーナの町には港が併設されており、陸路に加えて海路からの交易も盛んに行われている。強国ゆえの安心感からか、商人だけでなく、冒険者や旅人が国中はもとより他国からも多く集まり、そして旅立っていくといった光景が日常的に繰り広げられている。

 

 今、ベンガーナの港に続く商店街を1人の男が港に向かって歩いている。その男はフードのついたマントを羽織っており、今はそのフードを頭から包み込むようにして被っているため、男の表情は周りからうかがい知れない。

 

ただ、買い物客で埋め尽くされているこの通りを、誰とも交錯することなく悠々と歩みを進めている様子を、見るものが見れば武術に精通した人物と判断することだろう。

 

 男の名は、アバン・デ・ジニュアール3世といった。年は20代後半といったところか。10年ほど前にはカール王国の騎士団に所属しており、当時世界を支配せんと猛威を振るっていた魔王ハドラーの軍勢に対して、仲間とともに抵抗し、これを撃破。その後カール王国を出奔し、次世代の戦士を育成するための伝道師として世界各地を旅してまわっていた。

 

 アバンは、数日前に陸路でベンガーナの町に到着した。そして、明日にはこのベンガーナの港からギルドメイン大陸の東部に位置するリンガイア王国に向かって、海路で旅をする予定だった。

 

その理由は、リンガイア王国にまだ年若いが優れた資質を持つ少年がいると旅の噂で聞いたためだった。そして、その旅に必要な糧食や様々な小道具を調達しようと、アバンはこの商店街を練り歩いていた。

 

 不意にアバンは、商店街の片隅にある小さなテントに目をとめた。この数日商店街には何度か足を運んだが、この小さなテントは昨日までは無かったものだ。どのような商品を売っている店か興味を引かれたアバンは、このテントを覗いてみることにした。

 

「あっ、ようこそいらっしゃいませ」

 

アバンが、テントの垂れ幕を片手でめくりながら身体を中に進み入れると、若い娘の声が迎えてくれた。娘は10歳前後のようで、黒い髪と黒い目が印象的な娘だった。そして胸には、藍色の小さなネックレスが揺れている。

 

「おや、まだ準備中でしたか? それなら失礼しました。少し早く来すぎたようですね」

 

アバンがフードを脱ぎながら、テントの中にテーブルと椅子しかない様子を見て、娘に声をかけた。

 

「いいえ、ここは商品を売るお店では無くて、占いをして差し上げるお店なんです。占いをご希望でしたら、どうぞこちらの椅子におかけください」

 

「……ほう、占い。すると、あなたが占いを?」

 

「いえ、私はまだ見習いです。占いは祖母がします。お婆さま、お客様がいらっしゃいましたよ」

 

そう言って、娘がテントの奥の衝立に向かって声をかける。

 

「ああ、聞こえているよ、メルル」

 

そう言って衝立の奥から姿を現したのは、アバンの背丈の半分ほども無い、年老いた女性だった。そして、その小さな手は、大事そうに水晶玉を抱えていた。

 

アバンはメルルと呼ばれた少女が指し示した椅子に腰を下ろしながらも、正直な所占いというものに懐疑的な思いを抱いていた。これまでの彼の人生で、最後の決断を占いに頼った事は無く、いつも最後は自分と、信頼する仲間で難局に立ち向かってきたからだ。

 

だから、正直な所このメルルと呼ばれた少女には悪いが、占いは辞退しようと思っていた。

 

「……ふむ、その年でずいぶんと数奇な人生を送っておるようじゃな。この町に来て最初の客じゃ。気に入らなければお代は構わぬから、このナバラに占いをさせてみんかの?」

 

そう声をかけて、アバンと机を挟んだ反対側の椅子に座り、机の上に水晶玉を大事そうに置いた。

 

「ナバラさんとおっしゃるのですね? 最初の客と言いましたが、昨日この町に着いたのですか?」

 

「ああ、そうじゃ。そこにおる孫娘のメルルと旅をしておってな。南のルーカスの町を5日前に出発して、昨日このベンガーナに着いたんじゃよ」

 

「ほう。それは奇遇ですね。私も数日前にルーカスの町を経由してこの町に来たところなんですよ。ですが、5日前に出発して昨日着いたと言うことは4日で着いたと言うことですよね? 私が移動した時はそれ以上の日数がかかったのですが、ナバラさん達は魔物に襲われなかったんですか?」

 

ルーカスの町からベンガーナの町までは、馬車で移動した場合通常4日から5日程度の距離である。

 

ただし、それは旅の途中で魔物に襲われなかった場合のことだ。

 

この時期そのルート上にはバブルスライムやいっかくうさぎ等の魔物が頻繁に出没し、遭遇する度に馬車の足が止まることになり、更に2、3日はかかってしまうことが常であった。

 

事実、アバンは頻繁に襲い掛かってくる魔物の相手に時間を取られ、この町までの移動に7日かかっていた。

 

「ああ、魔物には出くわさんかったの。まあ、その原因はおそらくあれじゃろうな……」

 

そういって、ナバラは自身の隣に立つ孫娘のメルルの胸に目を向けた。その胸には、ネックレスがきらめいている。アバンはその視線の先を追い、そのメルルの胸に掛かっているネックレスに気が付き、思わず椅子から立ち上がった。

 

「――! もしや、そのネックレスは魔道具ですか? ちょ、ちょっと見せて頂けませんか?あっ、と申し遅れました。私、アバン・デ・ジニュアール3世と申します」

 

アバンにそう自己紹介され問いかけられたメルルは、一瞬アバンにネックレスを持ち去られる事を警戒しつつも、先ほどまでの自分達との柔らかな受け答えと、特に体調も悪くなさそうな様子を見てその可能性は低いだろうと考えた。メルルはネックレスを首から外し、右手の上に乗せてアバンに見えるように差し出した。

 

「ありがとうございます。それでは、ちょっと失礼して……」

 

そう言ってアバンは、ズボンのポケットからハンカチを取り出し、ハンカチ越しにネックレスを掴み、時折裏返したりしながらじっくりと見聞したのち、再びメルルの右手に戻した。

 

「ありがとうございました。大変珍しいものを拝見させて頂きました。……このネックレスには、トヘロスの魔法が込められていますね? それもただのトヘロスでは無い。呪文の文字が一部変更されています。もしかして、この魔道具は魔物に対してだけで無く、人間にも効果が?」

 

「はい、おっしゃられるとおりです。このネックレスにはトヘロスの魔法が込められています。……あと、悪い気持ちを持って私に接してくる人に対しては、お腹が急に痛くなったり、めまいがしたりするようになる効果があるようです」

 

返して貰ったネックレスを再び大事そうに首にかけ、メルルはそうアバンに返答した。

 

メルルは内心、この短時間でネックレスにトヘロスの魔法が込められていて、更にその魔法効果の対象が魔物だけで無いと言うことを見抜いたこのアバンと名乗る人物は、いったいどういう人なんだろうと考えていた。

 

今までにもメルルのネックレスに興味を示す者は何人もいたが、誰もこのネックレスに込められた魔法を言い当てられた者はいなかった。

 

「やはりそうでしたか。大変貴重な品だとお見受けしますが、これは一体何処で手に入れられたのですか? 差し障りなければお教え頂けないでしょうか」

 

アバンは内心このネックレスは、かつて共に魔王と戦った自分のよく知っている大魔道士の手によるものでは無いかと考えて質問したが、その答えはアバンの予想とは違っていた。

 

「このネックレスは、この町に来る前にランカークス村で出会った同い年の男の子から頂きました。私が安全に旅を続けられるようにって……」

 

「ほう、ランカークス村……。……もしやその男の子とは、ランカークス村の小さな賢者と呼ばれている子供のことではありませんか?」

 

「――はい、そうです。そう呼ばれている子です。ポップさんと言うんですが、とっても強くて、優しい人なんです」

 

「……なるほど、ポップ君という名前の子供ですね。これは良いことを聞きました。いつか会いに行ってみるとしましょう」

 

アバンは、この町の前に立ち寄ったルーカスの町でその異名を耳にしていた。まだ年若いが、攻防共に優れた魔法の使い手で、賢者と名乗って差し支えないほどの実力の持ち主だと、ある酒場で冒険者のグループが話していたのを聞いた。

 

次世代の戦士を育成する伝道師としてはこの話を無視するわけにはいかず、是非一度会いたいと思っていたが、ここでその人物の名前まで知ることが出来るとは、僥倖だった。

 

「アバン、と言ったかの? それで、占いの方はどうするね? やってみるかね?」

 

「あっと、大変失礼しました、ナバラさん。……そうですね。はい、是非お願いします」

 

アバンは、当初占いは断るつもりであったが、貴重な魔道具を見せて貰ったお礼と、この2人の醸し出す不思議な雰囲気にあてられ、ものは試しとやってみる気に変わっていた。

 

「うむ。では、何について占って欲しい?」

 

「そうですね。……では、私の捜している者がどこにいるか、でいかがでしょうか? 私は世界各地を次世代の戦士を育成するために放浪しています。先ほどメルルさんから聞いたポップ君のような次世代の戦士に関する手がかりを、占って頂ければ」

 

「探している者……か。まだ自分自身もあずかり知らぬ人物となるとなかなか難しいが、まあ良かろう。占ってみるとしよう」

 

そう言って、ナバラは水晶球に手をかざし、瞑想を始めた。それから数分後、ナバラは瞑想をしたままの状態で口を開いた。

 

「……ふーむ、済まぬの。そなたの言う、まだ出会っていない人物の手がかりは掴めんかった。見渡す限り海しか見えんかったでの。掴めたのは、既にそなたが出会ったことがあり、今は行方の知れん人物についての手がかりだけじゃ」

 

「――! そ、それで結構です! 是非、その者に関する手がかりをお願いします!」

 

「む? それで良いのか? ……それで良いのなら、話そう。……その者は今、心を闇に閉ざしておるな。居場所は……暗いな、だめじゃこれでは分からん。ただ、……」

 

「ただ、なんですか、ナバラさん……?」

 

「……今、その者とおぬしは会えぬじゃろう。そういう星の目が出ておる。じゃが、その者の闇を拭い去る可能性がある物の場所がおぼろげに見えた」

 

「闇を拭い去る可能性のある物……。それはいったいどこに?」

 

「……ふむ、その場所は、ここより遠い南の大地。かつてこの地上の覇権を巡って、あまたの人間と魔物が殺し合った古い地下迷宮。その迷宮の一室に、それはある。……ふう、ここまでじゃの。これ以上は分からぬ」

 

ナバラは瞑想をとき、再びアバンと正対した。

 

「かつて人間と魔物が殺し合った古い地下迷宮。そして、ここより南の大地……」

 

「……心当たりはあるかの?」

 

「はい、思い当たる場所があります。……ナバラさん、メルルさん、今日は本当にありがとうございました」

 

そう言いながら、アバンは少しの時間も惜しむかのように椅子から腰を上げた。

 

「役に立ったのなら、それで良い。旅の無事を祈っておるぞ」

 

「はい、ナバラさんとメルルさんも。こちら、占いの代金になります。受け取ってください」

 

アバンは懐から金貨が入っていると思われる巾着を取り出し、その巾着ごとメルルの手にそれを乗せた。

 

「――! こんなに、いただけません、アバン様!」

 

手に感じた巾着の重みに中身を推し量ったメルルが、アバンにそう声をあげる。

 

「いえ、これは私の感謝の印です。貴重な魔道具も拝見させて頂きました。本当は、まだこれでも足りないぐらいです。どうか、受け取ってください。では、私は急ぎますのでこれで失礼しますね!」

 

そう言いながら、アバンは返事も聞かずにテントを出て行った。後に残されたナバラとメルルは互いの顔を見合わせた。

 

「アバン、か……。そういえば、10年ほど前に魔王を討伐した勇者の名前が確かアバンと言わんかったかの。もしかすると、あの男が……」

 

「……はい、お婆さま。私もそう思います。とても変わった方のようでしたが、お優しそうな方でしたね」

 

「そうじゃの、捜し物が見つかると良いが……。さあ、そんなことよりメルル、まだ看板を出しておらんかったじゃろう? 開店の準備をしておくれ」

 

「はい、お婆さま」

 

2人はその後、開店の準備を始めた。そして、その頃アバンは、旅の行き先をリンガイア王国からパプニカ王国行きに変更するため、港へ走っていた。

 

「待っていてくださいね、ヒュンケル。私はあなたをきっと救ってみせますからね!」

 

 

 

今アバンは、ベンガーナ国を出国し、ホルキア大陸パプニカ王国行きの船の船上にいた。

 

ベンガーナ国からパプニカ王国までは風向きがよければ船旅で約1週間といったところだ。急遽リンガイア王国からパプニカ王国行きに行先を変更した理由は、5日前にベンガーナの町で出会った占い師の助言にあった。普段は占いによって自身の行動を決めることは無いのだが、何故かあの時の助言には従ってみようと思える何かがあった。

 

「これは難しいですねー」

 

アバンは、自身に割り当てられた船室内でそうぼやいた。アバンは船室に備え付けられている机に向かっており、机の上には自身の保有する魔道具と製作中の魔道具が並べられている。

 

今、アバンは魔道具の製作を行っていた。それは、実の所占い師のところで拝見したネックレスの形をした魔道具に触発されての事だった。あの魔道具は素晴らしい技術で作成されていた。トヘロスの魔法の構築及びその改良、さらにその複雑な呪文を魔結晶という小さな結晶体に正確に刻み込む技術。アバン自身魔道具の製作を行う人間であったが、そのアバンが見ても、どの技術一つとっても完璧な仕事に思われた。それをまだ10歳にも満たない子供が行ったという。にわかには信じがたい事ではあるが、実際に実物を見ては疑う余地が無かった。

 

これには、さすがのアバンも祖父の代から続く発明家の血が騒いだ。1週間の船旅という隙間時間に、久しぶりに魔道具の開発に対する意欲に火が付いたのは無理のない事であった。

 

「……うーむ。なかなかうまくできませんね。いけませんねー。こんなことならもっと魔道具の作り方を勉強しておくのでした……」

 

そんなことをぼやきながら、アバンはパプニカ王国に着くまでの間、昼夜を忘れて魔道具製作に没頭していった……。

 

 

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