転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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23話 原作開始 1年前 モラトリアムの終わり

俺は、今月の4の月で14歳になっていた。

 

メルルがランカークス村を旅立って約4年が過ぎたことになる。身長もかなり伸びて、現時点でだいたい160cm程になった。

 

この間、俺の周りにはいくつかの変化があった。まずは、マリーさんが3年前に結婚されたことだ。相手はなんとマイル神父だ。どうやらマリーさんは、ランカークス村の教会に赴任するその前からずっとマイル神父を想っていたようで、ようやく気持ちが通じ合ったということらしい。マリーさんとマイル神父には俺は小さい頃からお世話になっているので、この2人の結婚は本当に嬉しかった。

 

今では、2人には2歳になる女の子の娘さんがいる。とてもおしゃまで可愛らしい女の子だ。将来は、マリーさんみたいに年下の男の子を誘惑するいけないお姉さんになりそうだ。

 

そうそう、子供と言えば、ライナー隊長にも待望のお子さんが誕生している。2歳になる男の子だ。ライナー隊長とその奥さんは、子供を授かることについては、年齢的なところもあり半ば期待していなかったようだが、とても元気なお子さんが誕生した。

 

これについては、4年前にナバラさんとメルルがランカークス村に滞在した際に、ナバラさんが子作りに関する占いをライナー隊長の奥さんにしたとかしなかったとかいう噂が当時流れたが、それも関係したのだろうか。

 

まあ、いずれにしろめでたい話で結構なことだ。ちなみに、奥さんの出産時には、何かあった時のためにと俺もライナー隊長に首根っこを掴まれて奥さんの隣の部屋で待機する羽目になった。まあ、結局何事も無く出産が終わって良かったけど。

 

それ以降、ライナー隊長の息子への親バカぶりが止まらなくて、自警団の人達もあきれ顔をしているが、皆幸せそうで何よりだ。

 

それと少年探偵団の方だが、ジーンは最近糧食屋の仕事の一部を父親から引き継いで独自の商品仕入れルートを開拓するなど、もう子供とは言えないほど仕事に対して精力的に活動を始めている。ジーンは昔から食いしん坊だったけど、それが良い方に出たのか、珍しい食材を調達しては新しい料理を研究している。

 

ルッツは、ランカークス村の村長の下で、村の税金の計算や隊商との交渉など行政的な仕事を最近行いだした。ルッツは頭が良いし、誰に対しても公平で根が善良なやつだから、とても適した仕事だと思う。

 

そして、ライカ。彼女は現在両親の経営する食堂兼宿屋の看板娘になっている。働き者で明るいので、利用者の皆から慕われている。

 

……で、実はこのルッツとライカ。1年ほど前からつき合いだした。見ていると2人とも実に初々しくて微笑ましくなる。お似合いのカップルだと思う。ライカは小さい頃、俺の事が好きだったようだが(本人がそう言っていた)、成長するにつれて、恋とはちょっと違うかなと思うようになったようだ。

 

……まあ、良いんだけど、なんか俺としては振られたような気がしてちょっとへこんだのは内緒だ。

 

(……ポップ、ポップや)

 

 この4年で、俺の魔法の習得はかなり進んだ。もうエウレカの里で俺が覚えられる魔法は全て身に付けたつもりだ。

 

本当は、瞬間移動呪文(ルーラ)飛翔呪文(トベルーラ)と言った呪文も身に付けたかったんだけど、それらを俺に教えられる里の人はいなかったし、どうにも呪文のとっかかりが分からず、独力で研究するも習得までは出来なかった。成果と言えば、研究の過程で、敵を遠くにふっ飛ばす他者転移呪文(バシルーラ)の魔法を覚えたぐらいだ。でもこの魔法、使い道が微妙なんだよな。まあ、瞬間移動呪文(ルーラ)などの魔法の習得は、近い将来出会うだろうアバン先生が覚えているだろうから、それほど心配していない。

 

ああ、それと、集団向け回復魔法の広域回復呪文(ベホマラー)の開発にも成功した。これは回復呪文(ベホマ)の呪文構造のうち、魔法をかける対象を選定する部分を工夫することで習得できた。まだ実戦で使用していないが、この魔法はパーティー全体に回復魔法をかける時などに重宝するだろう。

 

次にオリジナル魔法についてだが、そう、実は俺の長年の悲願だった医療魔法がつい先日完成した。完成した魔法は2つで、それぞれ『診断呪文(インパディ)(インパス+ボディ)』と『医療呪文(ベホマメント)(ベホマ+トリートメント)』と名付けた。

 

診断呪文(インパディ)は、患者の身体の病気の原因や傷病部位を、まるで前世で言うところのX線をかけたかのように把握する魔法だ。

 

そして、診断呪文(インパディ)で判明した病気の原因や部位に、病気の回復に特化した回復魔法『医療呪文(ベホマメント)』をかけることで、病気を直すことが出来る。診断呪文(インパディ)という魔法を開発できたのは、やはり鑑定呪文(インパス)の魔法の解明が鍵だった。

 

3年ほどの期間をかけて鑑定呪文(インパス)の魔法を研究し、ついに俺は魔法をかける対象、『宝箱』に該当する部分の呪文を確定する事が出来た。そして、更にその呪文を『宝箱』から『人間』に変換する研究に2年の歳月をかけて、ようやく診断呪文(インパディ)の魔法は完成を見た。きっかけを与えてくれたパンには感謝してもしきれない。

 

医療呪文(ベホマメント)』の魔法は、その後半年ほどで開発できた。ベースとなった魔法は回復呪文(ベホマ)だが、この魔法の開発にはそれほどの苦労はなかった。診断呪文(インパディ)の魔法を唱え、患者の病症が頭に入った状態で回復呪文(ベホマ)をかけると、その回復呪文(ベホマ)は自然と病気を治す効果を発揮したのだ。

 

そして、俺は多少回復呪文(ベホマ)の呪文の調整を行い、その病気を治す効果を発揮する魔法を『医療呪文(ベホマメント)』と名付けた。

 

この2つの魔法は今のところ俺にしか使えない。俺は、将来的にこの医療魔法をこの世界の人々に公表し、広く活用して貰いたいと考えている。……だけど、恐らく今この魔法の契約の儀式を俺が執り行ったとしても、契約は出来たとしても実際に使用できる人間はまずいないだろう。

 

理由は、この世界の人々の人体の構造についての基礎知識の無さだ。脳や心臓、肺、胃、膵臓といった人体の臓器の役割を知らない状態では、おそらくこの魔法は発動しない。俺は前世で医学生だったから、この分野の知識が既に頭にあった。だからこの魔法は効果を発揮できているのだ。今思えば、俺の回復呪文(ホイミ)が病気の痛みを緩和する効果があったのも、医学知識があったからだと思っている。

 

つまり、この世界に医療魔法を浸透させようと思ったら、医学の知識を概要だけでもまず学ぶ必要がある。そのためには、俺が講師となって医療魔法の習得を希望する人達に教える必要があるが、大魔王の脅威が近づいている現状、そのような事を大々的に行う事は不可能だ。

 

だから俺は、いったんこの件については保留することにした。全ては大魔王を倒してからだ。

 

新たな魔法については以上だ。……合成魔法? いやいやいや、俺は温水呪文(メラータ)(熱湯を生み出す魔法)の開発以降、新たな合成魔法には手を付けていない。何故かって? 怖かったからだよ! 何だよ、あの魔法! 火炎呪文(メラ)氷系呪文(ヒャド)を合成すると、あんな魔法が発生するなんて聞いてないよ! あの時は、本当にもう死んだかと思った。よく五体満足でいられたものだ。暴走しかけた魔法力を咄嗟に山に向かって放出したから良かったものの、もう少しで俺はこの世界から消滅していたよ。あんな魔法、封印だ、封印。2度と使うもんか!

 

と言うわけで、若干不足している方面の魔法は今後アバン先生から教えて貰うとして、俺の目下の修行は、魔法力自体の向上、魔法発動時間の短縮と、魔法威力の増加を目的とした瞑想が中心になっている。

 

「ポップ? のうポップや、そろそろ村に帰らんと日が落ちてしまうぞ」

 

その声に、俺は意識の集中を手放し、閉じていた眼を開けて声のかかった方向を見た。

 

俺に声をかけたのは、エウレカの里の族長サーラさんだ。初めて会った時と変わらず、枯れたように小さい右手に杖をついて、座って瞑想をしていた俺の横に静かにたたずんでいる。

 

ここは、ギルドメイン山脈の中腹、旅の扉を出て直ぐの場所だ。この場所は、ギルドメインの大森林が眼下に見渡せ、遠くには海までかすかに見える俺のお気に入りの絶景スポットだ。

 

「……もうそんな時間ですか。瞑想に集中していて気が付きませんでした。教えてくれてありがとうございます、サーラさん」

 

「相変わらずお主は、瞑想中だと人の話も耳に入らんようじゃの。何度も声をかけたんじゃぞ。パンもさっきからお前のズボンを引っ張っておったというのに」

 

その言葉に、俺は自分の足元に目を向けた。そこでは、ベビーパンサーのパンが呆れたような顔をして俺を見上げていた。

 

「ごめんごめん、パンも俺に声をかけてくれてたんだね。全然気が付かなかったよ」

 

俺はパンの頭の鬣を撫でながら笑いかける。パンはくすぐったそうに首をかしげている。

 

「この里でのお主の修行も、もうかれこれ8年ほどになるかのう……。もう儂らに教えられることはほとんどあるまい。よう頑張ったな、ポップ」

 

「……サーラさんをはじめ、この里の皆さんには感謝してもしきれません。おかげさまで、きたる魔王軍との戦いに向けて十分な修行が出来ました。本当にありがとうございます」

 

「なんの、それはお主の努力のたまものじゃよ。……後は、お主が以前より度々口にしておった勇者の発見が待たれるの。勇者の魔法使いになる、じゃったかの?」

 

「はい、魔法使いでは大魔王には絶対に勝てません。俺が役に立てるとしたら、それは勇者の右腕となって、勇者のために魔法を行使することです。勇者の一太刀のみが、大魔王に土をつけることができるはずです」

 

「……そうじゃの、お主も人間にしては卓越した魔力を身に付けたが、それでも大魔王と比べればその差は歴然じゃろう。お主はお主の考えで、大魔王にあらがうと良い」

 

「はい、そうするつもりです。……じゃあ、今日はもう帰ることにします。パン、またな」

 

俺はサーラさんとパンに帰りのあいさつをして、最後にもう1度このギルドメイン山脈から眼下に広がる景色に目を向けた。

 

遠くに見える西の地平線では、太陽が大地にしみこむように赤く溶け始めている。……この世界は美しい。ここから見える世界だけでも、あまたの数の人間、動植物、魔物が生きている。

 

そして、世界はまだまだ広い。良い人間も悪い人間も、皆それぞれ日々を必死に生きている。魔物も同じだ。俺は前世の知識を思い出した5歳の誕生日から少しの間、この世界をどこかただの物語だ、生きている人もキャラクターの1人だと見下していたように思える。

 

しかし、実際はどうだ。キャラクターの1人と思っていた人間も身体に傷が付けば泣くし、心に傷を負っても泣く。そして、嬉しいことがあれば笑い、時にはやはり泣く。こいつはこの行動しかしないよね、と一言で語れるキャラクターなどどこにもおらず、そして人の数だけ物語は存在する。

 

そんな世界に俺は生きているんだ。俺はこの世界で生を受け、いつか好きな女と結婚し、子供ができたらその子を育て、そして老いて死んでいく……。魔王軍との戦いを生き抜ければ、そんな人生を送れるかもしれない。そんな風に一生を生きていく事になるだろうこの世界を、他ならぬ俺が好きにならなくてどうする。

 

前世は関係無い。俺は今、この世界で生きているんだ。

 

俺は眼下に広がる景色を目に焼き付けながら、文字通りこの大地、いや、この世界に骨をうずめる覚悟を新たに決意し、同時にモラトリアムの終わりが近い事を感じていた。

 

※現時点のポップの習得魔法

 

攻撃魔法:火炎呪文(メラ、メラミ)、氷系呪文(ヒャド、ヒャダルコ、ヒャダイン)

     閃熱呪文(ギラ、ベギラマ)、爆裂呪文(イオ、イオラ)、

     真空呪文(バギ、バギマ)

     混乱呪文(メダパニ)、即死呪文(ザキ)

     極大消滅呪文(メドローア 合成魔法 *封印中)

回復魔法:ホイミ、ベホイミ、ベホマ、ベホマラー、キアリー、キアリク、メガンテ

補助魔法:スカラ、スクルト、ピオリム、ルカニ、ラリホー、ラリホーマ、トヘロス、

     インパス、マヌーサ、マホトーン、ザメハ、レミーラ、バシルーラ、フバ

     ーハ、モシャス

オリジナル魔法:ウォーター(水を発生させる)

        メラータ(合成魔法。熱湯を発生させる。温度は調節可能)

        ラリホーボール(合成魔法 ラリホー成分入りの水球)

        パキ(突風を発生させる)

        ファイヤーウォール(炎の壁を発生させる)

        アイスウォール(氷の壁を発生させる)

        メラゾロス(合成魔法 火炎竜巻 炎の竜巻を発生させる)

        マヒアロス(合成魔法 氷刃嵐舞 無数の氷の刃を発生させる)

        ドロヌーバ(地面を泥の沼に変化させる)

        トンネラー(地中内に存在する特定の鉱石を探し出し抽出する)

        インパディ(医療魔法 体に潜む病気の原因を把握する)

        ベホマメント(医療魔法 病気の回復に特化した回復魔法)

 特殊技能:魔力圧縮、二重魔法詠唱

 

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