転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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24話 原作開始 1年前 アバンとの出会い

チリン、チリン。

 

4の月の終わりの頃だった。俺が武器屋の店番をしていた日の昼下がり、ふいに店の扉が開き、鈴の音が鳴った。

 

そして、1人の人間が店に入ってきた。扉を開き、店の中に入る。たったそれだけの行動で、その人物がその辺の冒険者と一線を画している事が分かった。所作がどうにも美しいのだ。左右にくるんとカールがかかった、この辺りでは見たことのない変わった髪型、顔にはこれまたこの辺りではめったに見ないメガネをかけていた。

 

俺はその人物を一目見た瞬間、その正体が分かった。

 

「……いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

 

俺は心のわくわく感をどうにか抑えつけながら、陳列している武器に時折目をやりながらこちらに向かってくるその人間に声をかけた。

 

「……そうですねー、2つ目的があって立ち寄らせて頂きました。ここに来る途中で愛用の剣がとうとう限界になったので、新しい剣を見繕いたいのが1点目。それと、ポップ君。君に会うのが2点目ですね」

 

その人物は顔の前で右手の指を2本突き出し、にまっと笑った。俺はその所作に何かデジャブのようなものを感じながらも、返事を返した。

 

「……お使いの武器は、拝見したところロングソードのようですね。それでしたら、あちらの壁際に陳列していますのでご覧になってください。ロングソードは当店の売れ筋商品ですので、きっとお眼鏡にかなう剣が見つかると思います。それと、2つ目の件ですが、確かに俺の名前はポップですが、あなたはどちら様でしょうか? 俺に会うのが目的と言われましたが、一体?」

 

「ああ、これは失礼しました。私の名前はアバン・デ・ジニュアール3世と申します。長ったらしいのでアバンで結構ですよ。私は世界を旅しておりましてね。その旅の間に、これはと思われる人物に必要な修行をつける、いわば家庭教師的な真似をしております。あなたの名前を旅の途中で耳にし、是非お会いしたい、そして可能ならあなたを弟子として育ててみたいと思ったのです。いかがですか? 私のもとで修行をしてみませんか? 今なら格安セール中ですよ?」

 

「……なるほど、お話は分かりました。アバンさん、でよろしいでしょうか? アバンさんという名前は、この村に来る冒険者達から以前聞いたことがあります。確か魔王を倒した勇者がアバンという名前だったと思いますが、そのアバンと同一人物と考えて良いのでしょうか?」

 

「イエース! その通りです。私が魔王と戦ったアバンです。と言っても、私一人で戦っていた訳ではありませんけどね。頼りになる仲間達がいたからこそ、魔王を倒せたんですよ。そこをお忘れ無く」

 

「本当に魔王と戦ったあの勇者アバンなんですね。そんな勇者が、この村に来るなんてびっくりしました。でも、自分なんかが勇者アバンの弟子になって良いんですか? それに俺は勇者じゃなくて、魔法使いなんですが……」

 

「ノンノンノン。勇者だろうが魔法使いだろうが、弟子にするには全く問題ありません。それに、私の目は節穴ではありません。あなたを一目見た時から、既にあなたは完成の域に近い魔法使いだという事は分かりました。正直、あなたを弟子にとっても私があなたに教えられることはあまり多くは無いでしょう。ですが、魔法使い、いえ、賢者として完成の域に近いあなたでも不足している部分がある。この世界はちょっとした油断で命を落とします。あなたをそんなちょっとした油断で失うわけにはいきません。……それに、その年でそれほどの力を身につけているのです。あなたにも何らかの目標があって、そのために力を身につけたのではないですか?」

 

そうだよな、この世界は本当にちょっとした油断で命を落とす。俺も、自身に欠けている部分があることは百も承知している。瞬間移動呪文(ルーラ)などの魔法はもちろん、各魔物の特性や分布、各地に自生している動植物の知識、旅をするための知識、数え上げたら切りが無い。

 

だいたい、俺の中で勇者アバンに弟子入りしないという選択肢は最初から無いんだ。これは、勇者の魔法使いになるためのファーストステップだ。

 

「確かに、俺には目標があります。それは、勇者の魔法使いになっていずれ訪れるであろう魔王軍による脅威に対抗し勝利することです。むしろこちらからお願いします。アバンさん、俺を弟子にしてください」

 

「……ほう、魔王軍の蠢動に気づいていましたか。さすがですね、ポップ君」

 

アバン先生は、俺の言葉に幾分雰囲気が変わった。

 

「魔王は、アバンさんが15年前に倒されました。それで、表だっての魔王軍の侵攻は止まりましたが、俺にはあれで全てが終わったとは思えません。俺にそう忠告してくれた人もいます。だから俺は、俺の大好きな人達を守るために魔王軍に対抗しうる力を身につけたいと考えました」

 

「ポップ君のおっしゃるとおりです。魔王軍は、今はその身を潜めていますが、いずれ再び侵攻を開始すると私も考えています。私が世界を旅して次世代の戦士を探して育成しているのもそのためです」

 

「俺はアバンさんと一緒に世界を旅し、自分に足りない所を補いたいです。そして、勇者の魔法使いとなって俺の大好きな人達を守りたい。是非、俺を弟子にしてください。……ただ、父さんと母さんにはきちんと話をして了承を貰っておきたいので、少しだけ待って貰えませんか」

 

父さんと母さんにはこれまで、俺の好きなように過ごさせて貰った。俺がこれほどの魔法を覚えることが出来たのも、父さんと母さんの理解があったからだ。だから、旅立つときにはしっかりと話をして、納得してもらって旅立ちたい。

 

「ふむ、ご両親に話を通しておきたい、ですか。それは当然の話ですね。私も、ご両親の許可も頂けていないのに、大事なご子息をお預かりするわけにはいきません。……それでは、もう今聞いてしまえばどうですか、ポップ君?」

 

えっ、今? でも今父さんも母さんもいないけど、と一瞬俺がそう考えていると、背後の家に繋がっている扉が不意に開いて、父さんと母さんが顔を出して来た。

 

「その必要はねえよ、ポップ」

 

「そうよ、ポップ」

 

そう俺に語りかけながら、二人は俺とアバン先生の側までやってきた。え、いったい、いつからそこにいたの? ていうか、アバン先生はそれに気づいてたの? すげえな、気配察知っていう奴かな。俺、魔法的な技術以外のスキルが皆無だから、こういう技能も身につけられると良いな。

 

「アバンさんよ、話は聞かせて貰った。こいつは、この年にしちゃー、出来過ぎなほど出来た子だ。だけどよ、俺たちにとったらまだまだ危なっかしいガキなんだ。手間を取らせてしまうが、こいつのことをよろしく頼むよ」

 

「アバン様、ポップはずっと勇者様の魔法使いになるんだと言って努力をしてきました。親としては、子供は危ないことからは遠ざけたいんですけれど、それをすればこの子の今までの努力を否定することになります。だから、せめてこの子に万が一のことが無いよう、この子に自分の命を守れるだけの力を与えてくれる方の所に預けたいと思います。どうか、ポップのことを宜しくお願いします」

 

父さんはいつもの仏頂面の表情で、そして母さんは目に涙をためながらアバン先生に俺のことを託している。……ああ、俺は両親に恵まれたな。何があってもこの人達は守らないと。

 

「ポップ君のお父さん、お母さん、確かにお二人の気持ちは受け取りました。きっとポップ君を今より更に大きく成長させて、お二人のところに戻すとお約束します。どうか、このアバンをご信頼ください」

 

お、さすがアバン先生。大人の対応だな。これならうちの両親も安心するだろう。

 

「それでは、気が変わらないうちにこの契約書にハンコを! あ、サインでも結構ですよ! さあ、是非とも早急な契約手続きを!」

 

……前言撤回だ。何言い出してんだよ、アバン先生。父さんなんか、さっきまでの感動の表情から目が点になってるじゃないか。ほら、母さんなんて、悪い詐欺か何かで息子を騙し取ろうとしているんじゃないかって、契約書の細かい部分までしっかり読み始めたぞ。

 

でも、元々アバン先生ってこういう人だった気もするな。

 

……いやしっかし、締まらないな、アバン先生。

 

 

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