転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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26話 原作開始 1年前 旅立ち

俺は今、自分の部屋で、旅に持って行く物を床の上に並べて最終確認をしている。

 

いよいよ明日ランカークス村を旅立つ。明日は早朝に、アバン先生と村の出口で待ち合わせをしている。

 

並べている物は、干し肉、糧食、下着、貴重な鉱石、魔結晶、ナイフ、薬草、毒消し草等々だ。干し肉は、ライカが宿で冒険者向けに普段販売している物を提供してくれた。糧食は、ジーンがやはり家のものを持ち出して持ってきてくれた。ナイフは、父さんがわざわざ俺のために打ってくれた特注品だ。せっかくオーダーメイドにしてくれるんだったらと、俺は前世で言うところの片面がノコギリ状の刃になっているサバイバルナイフを作って貰った。これでロープや木を切ることも可能だ。……まあ、俺には魔法があるから別に無くても良いんだけど、こんなのは気分の問題だ。ちょっとしたランボー気分を味わいたかったんだよ。

 

鉱石は、地中の鉱物を探し出す鉱物抽出呪文(トンネラー)の魔法を覚えてから、暇な時にまめに使用して少しずつ貴重な鉱石を集めたものだ。鉱石の名前は、ミスリル銀。鋼より硬度があるのに軽く、魔力を伝達しやすいめったに市場に出回らない貴重品だ。もっとも、俺もあまり見つけ出すことが出来ず、時々父さんに渡している事もあり、今俺の手元にはせいぜいこぶし大程度の大きさ分しか残っていなかった。でもせっかく集めた貴重な鉱石だし、旅の間にこれを使って何かを作ることもあるかも知れないから持って行くことにした。

 

魔結晶も少量だが持って行くつもりだ。これはサーラさんが持たせてくれた。余り大きなサイズの物は無理だが、これぐらいあれば小さなサイズの魔道具ならいくつか作成できる。

 

母さんの声が扉の向こうから聞こえた。

 

「ポップ、入るわよ」

 

「うん、どうぞ」

 

母さんは俺の声を聞いて扉を開けて入ってきた。

 

「いよいよ明日ね。……大丈夫? 怖くは無い?」

 

「……うん、大丈夫」

 

「そう……。アバン様の言うことをよく聞いて、危ないことをしてはダメよ?」

俺は心の中でちょっと吹き出した。これから先の俺の旅は、その危ない事だらけになるだろうから。でも、母さんを心配させたくはない。

 

「分かっているよ、母さん。アバン先生もいるんだから大丈夫だよ。それより、母さんも父さんも元気でいてね。俺は自分の事より、2人の事の方が心配だよ」

 

「もう……、ポップはいつも私達のことばかり。あなたはまだ子供なんだから、私達の心配より自分の事を考えなきゃ駄目よ」

 

「分かっているよ、母さん。……だからそんな顔しないで」

 

母さんは、今にも泣き出しそうな顔で俺を見つめている。ああ、心配されているな……。多分母さんの本心は、俺を止めたいんだろう。俺も本心を言えば、このまま俺を暖かく包みこんでくれる我が家と我が村で家族や友達とずっと暮らしていたい。父さんの剣を打つ音を聞いて過ごし、母さんの暖かい手料理を食べる、そんな生活だ。だけど、それではこの世界に魔王軍の侵略を許してしまうことになる。既にその兆候は、一部で見え隠れしている。ランカークス村は強国ベンガーナ内にあるけれど、いずれは魔王軍の脅威がここまで迫ってくるだろう。

 

……そうなってからでは遅い。俺一人では、その脅威に対抗できない。頼りになる仲間が必要だ。だから俺はこの村を旅立つんだ。皆を守りたいから。

 

「でも、ポップ……。何も、あなたが……」

 

母さんがとうとう涙を浮かべながら俺の頭をその腕に抱き込んだ。だけど、俺はその腕を優しく外しながら、母さんの目を見て言った。

 

「……大丈夫だよ、母さん。俺は絶対に帰ってくるから。だから母さんも、俺を信じて待っていてよ。お願いだ」

 

「う、うう……。ごめんね、ポップ。……ポップのことは信じているの。でも、ポップが私達の手の届かない危ない所に行ってしまうことが、どうしても……」

 

母さんは、とうとう俺に抱きついて泣き出してしまった。俺はそんな母さんを優しく抱きしめて、「大丈夫、大丈夫」と言い続けて、背中をさすっていた。……帰ってこよう、絶対に。

 

 

次の日、俺は、アバン先生との待ち合わせ場所に向かっていた。父さんと母さんは、俺より先に家を出ている。先にアバン先生に渡したい物があるらしい。おそらく剣だろう。

 

父さんはこの3日間、他の注文を全て断ってアバン先生のための剣を夜遅くまで打っていた。ちなみに剣の材料には、俺がこれまでに集めて父さんに渡していたミスリル銀がふんだんに使われている。

 

まだ時刻は朝の6時頃。村の出口にはそれほど人がいないだろうから、先生を直ぐに見つけられるだろうと思っていたけど違った。大勢の人が村の出口に集まっていた。100、いや200人を越えているんじゃないか? なんだなんだ、何があったんだ? 俺は何か事件が起きたのかと思って、その集団に向かって走った。

 

近づいていくとその集団の中に、ジーン、ルッツ、ライカとその家族がいるのが見えた。父さんと母さん、あ、その隣にはアバン先生もいる。アバン先生は、にこやかにその場に集まっている人達と談笑している。その光景を見て俺は理解した。ああ、そうか、この人達はアバン先生に会いたくて集まっているんだ。そりゃそうだよな、なんと言っても魔王を倒した勇者だ。一目会いたいと思うのは、当然だろう。

 

俺は、アバン先生の前まで行って挨拶をした。

 

「おはようございます、アバン先生」

 

「やあ、おはようございます、ポップ」

 

「アバン先生、すごい人気ぶりですね。サインでもしてあげた方が良いんじゃないですか?」

 

そう声をかけると、アバン先生は一瞬不思議そうな顔をした後、あきれた様子で俺に返答した。

 

「……何を言っているんですか、ポップ? ここに集まっている皆さんは、皆あなたの旅立ちを見送りたくて集まっている方達ですよ?」

 

「へ? そんなことは……」

 

俺はアバン先生の言葉にびっくりして、集まっている人達を見回した。父さん、母さん、それにルッツ達とその家族。あ、あと神父さん達もいるな。この辺りは俺を見送るために集まってくれているのかも知れないけど、それ以外の人達は正直あまり見覚えが……。

 

「坊主、俺を覚えているか? 俺はずいぶん前に足がちぎれるほどの大怪我をした時に、坊主に治して貰ったんだ。おかげで、俺は今でも仕事を続けられている」

 

「俺もだ。君は覚えていないだろうが、落ちてきた石の下敷きになって死にそうだった俺を、君は助けてくれたんだ」

 

「私もお兄ちゃんに、手の傷を治して貰ったよ。痛いの痛いの飛んでけーって治してくれたの。とっても嬉しかったよ」

 

皆が次々に、俺に感謝の言葉を贈ってくれる。……そうか、この人達は俺が教会で治療の手伝いをしていた時に出会った人達だ。そう考えると、確かに見覚えのある人がちらほらといる。

 

「ポップ君、君のおかげで村のネズミはほとんどいなくなった。おかげで最近はおかしな疫病の発生も聞かないし、糧食の余剰分を緊急時用として取っておくことまで出来ているんだよ」

 

そう言って声をかけてきたのは、糧食屋を営んでいるハイネさんだ。俺は、あの初めて駆除した年以来、毎年頼まれて駆除を続けてきた。

 

「やれやれ、どうにかあいつの旅立ちに間に合ったようだな」

 

「ケネディの段取りの良さに感謝しないとな。なあ、スティーブ」

 

「ああ、あいつはもう後方支援に関しちゃあ、ストーンを超えているかもしれんな」

そう言いながら、人混みをかき分けてやってきたのは、自警団のライナー隊長、ジョンさん、スティーブさんだ。あれ、皆隊商の護衛に行っていたはずなのに、どうして村にいるのかな?

 

「皆さん、どうして村に戻っているんですか? 遠征に行っていたはずじゃあ……」

 

「そりゃあ、お前さんの晴れの旅立ちの日なんだ。多少無茶してでも帰ってくるさ」

 

「あれが、多少か? ライナーなんて飯食う時間も惜しいって行軍しながら食って、慌てて帰ってきたんだぜ」

 

「全くだ。仕留めた獲物もろくに捌かずに行くなんて、獲物に対するとんだ冒涜だぜ」

 

「何言ってんだ! お前らだって似たようなもんだったじゃねえか!」

 

どうやら、皆僕の旅立ちに間に合うよう、夜間行軍して帰ってきてくれたようだ。わざわざ俺の旅立ちを見送るために。

 

「……ほら、ポップ。これが、あなたがこの村でこれまでに行ってきた行動の結果ですよ。皆、あなたの旅の無事を祈っています。さあ、皆に挨拶をしてはどうですか」

 

え、挨拶? こんな大勢の前で? 俺、緊張しいだからそういうの苦手なんだけどな……。うーん、でも俺のためにこんな時間にわざわざ集まってくれてるしな。きちんとお礼はしておかないといけないか……。俺は内心の緊張を隠して、皆の前に出て口を開いた。

 

「皆さん、朝早くから俺の旅立ちのために集まってくれてありがとうございます。俺はこの村で生まれ、この村の皆に育てられました。この村で培ったものを武器に、俺はこの村を旅立ちます。……えっと、いつか今より大きな人間になって、また村に戻ってきます。それまで、どうか皆さんお元気で!」

 

……ふー、緊張した。どうにか最後までたどたどしいながらも言い切ることが出来た。俺、やっぱりこういうの苦手だな。

 

あ、母さんがまた涙ぐんでいる。父さんは、俺の顔を見て大きく頷いている。ライナー隊長達は、『かましてこい!』と言わんばかりに皆そろって親指を立てている。マイル神父とマリーさんが静かに頷いている。はは、リンちゃんはマリーさんに抱かれて夢の世界に旅立っている。

 

ジーン、ルッツ、ライカの3人は少し涙ぐみながら俺に笑いかけている。そして、多くの村の人達が「頑張れよ」「元気でな」と声をかけてくれている。

季節は春。だいぶ暖かくなってきたとはいえ、まだまだ早朝は肌寒い。そんな時期に、これだけ大勢の人が俺の旅立ちに集まってくれたことを、俺は改めて感謝した。

 

その後、俺は皆に見送られながら、アバン先生と共に村を後にした。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「行っちゃったね……」

 

「うん。行っちゃった……」

 

「やっぱ、あいつがいなくなると寂しいな……」

 

ライカ、ルッツ、ジーンが、旅立つポップの後ろ姿を見えなくなるまで見送った後、そうつぶやいた。

 

「……あの本、すごい本だよね? ルッツ君は内容知ってた?」

 

「いいや、ライカ。僕も初めて知る事ばかりだよ。でも、読んでみると不思議と納得して頭に入ってくるんだ。ポップは、どうしてあんな事を知っていたんだろう?」

 

「そりゃあ、ポップだからとしか言いようが無いんじゃないか。俺の貰ったレシピ集も、初めて聞く調理法ばかりだったぜ」

 

「あの本を、レシピ集と一緒にされると困るんだけど……」

 

「ねえ、ルッツ君。今日もこれからあの本の勉強するんでしょ? 一緒に勉強しても良い?」

 

「うん、もちろん。僕はまず、あの本を写本することから始めようと思うんだ。そうしたらいつかポップにあの本を返した後も、自分で勉強できるから」

 

「そうだね。じゃあ、私も自分の分を写したいから、紙と鉛筆を持って後でルッツ君のお家に行くね」

 

「じゃあ、俺もポップに貰ったレシピの食べ物を作りたいから、これで家に帰るよ。2人とも、また今度な」

 

「うん、ジーン。また今度」

 

「ジーン君、美味しい料理が完成したら教えてね。私の家の看板料理にしたいから」

 

「ははは、ちゃっかりしているな。分かったよ」

 

3人はそう言って、その場を離れた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ランカークス村に唯一存在する3階建ての建物の最上階の一室。その部屋の中で、窓の傍にたたずむ一体の魔物が、次第に小さくなっていく一人の少年の後ろ姿を見て目を細めていた。

 

その部屋には、『村長執務室』と書かれた表札がかけられている。魔物は、逆三角形の肉体に、首から足下まで続く長いローブをまとっている。ローブの隙間から時折覗く肌は、真っ赤な色をしており、頭はヤギ頭で、右手には杖をついている。

 

そう、この魔物はエウレカの里ではサーラと呼ばれている魔物であった。サーラは、エウレカの里で里長を務めると同時に、密かにこのランカークス村でも村長を務めていた。

 

エウレカの里で魔物と共に暮らしているだけでは、人間界の情報を入手しづらい。そう考えたサーラは、15年ほど前に姿を人間に模してこの村に現れ、次第に周囲の人々の信頼を勝ち取り、自然な流れで村の村長に推薦され、それ以来この村で村長を務めていた。

 

「……ふふふ。とうとうポップは、儂の正体に気づかんかったようじゃの。儂の変身呪文(モシャス)も、まだまだ捨てたものではないようじゃ」

 

ポップにランカークス村の村長としての立場を黙っていたのは、単純にサーラの遊び心であった。気が付けばそれで良し、気が付かないようならそれはそれで面白いとサーラは考えポップに黙っていたが、結局ポップは気が付かないままランカークス村を旅立つことになった。

 

「……さよならは言わんぞ、ポップ。そなたは、そなたにしかできぬ役割を果たしてくるが良い」

 

サーラがそう一人呟いていると、不意に村長室のドアをノックする音が聞こえてきた。

 

「村長、昨日到着した隊商の方が参られました。下の会議室までお越しいただけますか?」

「……ああ、分かった。すぐに行く」

 

そう事務員に返事を返し、サーラは変身呪文(モシャス)の呪文を唱えた。途端に、魔物だったその姿形は、1人の高齢の男性の姿に変貌した。自身にかけた魔法の効果に満足したサーラは、部屋を出て階下の会議室にゆっくりと向かった。

 

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ポップ・マーカストンがルッツ・イグラントに託したこの書物(後に『最古の医学書』と呼ばれる)は、後世において最も写本された書物の1冊として広く知られている。

 

この書物は、大魔王戦役から150年経った現在も、医療魔法の習得を志す若者に当時の記載内容ほぼそのままの形で活用されている。この書物に記載されている内容の信憑性については、これまでの医療学問の発展によって実証されている。

 

しかし、ポップ・マーカストンがこの医学書に書かれている知識をいったい何処で知り得たのかは一切謎に包まれている。最も信憑性の高い説としては、『偉人伝 ポップ・マーカストン』、『ランカークス村の小さな賢者』等の書物の中に度々出てくる邪気を纏わない魔物の集落『エウレカの里』での修行中に魔物から教わったという説が有力である。

 

しかしながら、魔物が人間の身体の構造についてこれほど詳細に把握出来ていたのか、という反論もあり未だその答えは出ていない。いずれにしても、この書物の作成及び大魔王戦役後の医療魔法の創造並びにその発展に欠かすことの出来ない貢献があったことから、『医療魔法の開祖』という称号がポップ・マーカストンに与えられている。

 

なお、この時医学書をポップ・マーカストンから預けられた後のルッツ夫妻は後年、ギルドメイン大陸初の医療大学『ベンガーナ医療大学』初代事務総長並びに初代事務総長代理に就任しており、やはり医療魔法の発展に多大な貢献を果たした人物として後世に知られている。

 

 




これにて、1章完です。当初考えていた最低ラインまでひとまずたどり着けたので、まずは満足しています。こんなつたない文章に付き合っていただいた方には、深く感謝します。ありがとうございました。

最後の最後にポップに勝手に苗字を追加するという暴挙に出てしまいました。どうしても伝記風に記載すると、苗字がないとしまらないんですよね。

2章は、アバン先生との2人旅です。原作開始後も書きたい物語がいくつかあるので、次の目標は2章を完結させて、いよいよ原作開始の3章に突入することです。

もしよろしければ、今後もお付き合いください。
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