27話 原作開始 1年前 指導の始まり
「いやー、しかし、ジャンクさんが打ってくれたこの剣、実に軽くて良いですねー。この剣、素材は鋼ではないですよね?」
「ええ、その剣はほとんどの素材がミスリル銀で出来ています。だから、通常の鋼で出来たロングソードより軽くて丈夫なはずですよ」
「なるほど、ミスリル銀ですか。では、さしずめミスリルの剣ですね。私は武器にはそれほど拘らないのですが、この剣を持ってしまうとそうも言ってられませんね。ジャンクさんには、後日改めてお礼の手紙を出すことにしましょう」
俺はアバン先生とそんな会話をしながら街道を歩いている。まだ村を出て1時間程度しか経っていない。
「それでアバン先生、俺達は今どちらに向かっているんですか?」
「ええ、まずは隣のルミナの町に行こうと思います。その町の近くに修行に丁度良い感じの山があるので、そこにまずは1週間ほど滞在してポップの修行を行おうと思います」
なるほど、ルミナの町か。まあ俺はランカークス村以外の町を知らないから、どの町に行ったとしても楽しみだな。……ん? ルミナの町? ……と言うことは、まさかあそこを通るのか? 俺は突然不安になり、アバン先生に聞いてみた。
「……あ、あのー、アバン先生。 ルミナの町と言うことは、もしかしてあそこを通るんでしょうか?」
「もちろん通りますよ。私は、あそこを通ってランカークス村に来たんですからね。いやー、実に便利な街道が出来ましたよね!」
マジか。やっぱりあそこを通るのか……。そう言いながら先生はずんずん先へ進んでいき、やがて大きな山の麓に着いた。山の斜面には直径10m程にもなる大きな穴が空いていて、先が見えないほどに深い。その穴を、今も商人らしき人達や冒険者風の人達が引きを切らさず通行している。……ご丁寧に、穴の入口に設置されている小さな祠に手を合わしてだ!
「さあ、着きましたよ、魔獣の咆吼に!」
……そう、俺は、かつて自分がやらかしてしまった大きな穴の前に来てしまった。
「しかし、この穴の側面は本当に不思議ですよね? いったいどうやれば、こんな風に削れるのでしょうか?」
「さ、さあ、どうしてでしょうかね? ちょっと俺には分かりかねますね……」
アバン先生が歩きながら斜面を手で触れ、首をかしげている。俺はその後ろを着いて歩きながら、早くこの大穴を抜けてしまいたいと考えていた。
「……ねえ、ポップ。私はランカークス村に向かう時に初めてこの道を通ったのですが、この穴は、物理的な力で作られたものではなく、何らかの魔法によって作られたものではないかと推測しているんですよ」
「……へ、へえ、どうしてそう思ったんですか、アバン先生?」
「私がかつて魔王軍と対峙していた時に、仲間の一人にマトリフという名の大魔道士がいたんですが、そのマトリフが切り札として使っていた魔法の痕跡に、これは酷似しています」
右手でそのなだらかな壁面をなぞりながら、アバン先生がそう言った。なるほど、マトリフ師匠もこの魔法を開発していたのか。やっぱりすごいなあの人。いつかあの人にも師事して色々な魔法を教わりたいな。
特に、重力魔法のベタンだ。あの魔法は、色々と潜在能力の高い魔法だと俺は見ている。エウレカの里でも研究してみたんだけど、どうしても開発できなかったんだよな。
「しかし、マトリフはずっと昔に南の大陸に渡っていて、この穴が出来たと言われている数年前には、この大陸にはいなかったはずなんですよね。……そこで、ポップに質問です!」
アバン先生はそう言って、バッと俺の方を振り返り指を1本立てて俺に問いかけてきた。……やばい、嫌な予感がする。
「……な、何でしょうか?」
「ランカークス村とルミナの町近郊に住んでいて、かつて魔王と戦った大魔導士が切り札としている程の呪文を使う事が可能な魔法使いに心当たりはありませんか?」
「い、いやー、ちょっと自分には思い当たる人はいませんね……」
俺は心理的に徐々にアバン先生に追い詰められつつある事を自覚した。すると、アバン先生はメガネをキランと光らせながら言った。
「ほう、心当たりはない……と。つまり、ポップ以外にはこの近くにこれほどの魔法の使い手はいないという事ですね?」
「あ、いや、そういうわけではないと思います。もしかしたら俺が知らないだけで、凄い魔法の使い手が……」
「……ねえ、ポップ? あなたはこの度、私の弟子になりましたよね? ……師弟の間で隠し事はいけませんよ?」
「う……」
俺は言葉に詰まってしまった。アバン先生は「フッフッフ……」と怪しく笑いながら俺を見ている。駄目だ、もう言い逃れができない……。
「……すいません、実は……」
俺は全てを話さざるをえなくなってしまった。
「やはりそうでしたか。初めてこの穴を見た時に、そうではないかと思ったんですよ。しかし、まさかポップが独力で、あのマトリフの切り札である呪文にたどり着いていたとは……。 やはりあなたの魔法の才能は、マトリフに匹敵するものがありますね」
「そのマトリフさんという方が、あの魔法を最初に編み出していたとは知りませんでした。ただ、俺はあの魔法は……」
「ええ、分かります。強すぎる力は、時に自分に降りかかることがあります。魔法に限らず強力な武器を持つ者は、常にそのことを頭に入れておかなければなりません」
そう言いながらアバン先生は、自分の腰のベルトにさしているミスリル銀の剣の柄を軽く撫でた。
「あなたが、あの魔法、
徐々に周りが松明の光を必要としない程度に明るくなってきた。アバン先生の言う通り、そろそろこの大穴の出口が近そうだ。
「うわー、あれがルミナの町ですね。やっぱりランカークス村より大きいや」
ようやく大穴を抜けた俺は、初めて見るルミナの町に感激していた。ランカークス村も村としては大きい部類に入ると聞いてはいたが、そこはやはりルミナの町だ。ざっと見たところランカークス村の2倍くらいの大きさだ。いくつか見える煙突からは煙が上がっている。俺も鍛冶屋の息子だ。煙突の形と煙の色でどの建物が武器屋か判別ができる。おそらくルミナの町には、武器屋は3軒というところだろう。
「ポップはランカークス村を出るのは初めてでしたね。ランカークス村も村としては大きい方ですが、ルミナの町はそれより大きいでしょう。これがベンガーナの町になると、ルミナの町のゆうに5倍程の大きさになりますよ」
「ベンガーナの町ってそんなに大きいんですか! すごいなー、いつか行ってみたいな」
「ベンガーナの町にも旅の途中に行くことになりますよ。さあ、今日はルミナの町に泊まる予定です。行きましょう」
「はい、アバン先生!」
俺はアバン先生の後ろをついてルミナの町に向かって歩いて行った。
アバン先生と俺は、ルミナの町に入ってすぐのところにある宿屋に入った。アバン先生は宿の受付で女将さんと思われる恰幅のいいおばさんに話しかけている。
「こんにちは。先日もこちらでお世話になりましたアバンです。今回は1人連れがいるので、2人部屋をお願いしたいのですが、空いているでしょうか?」
「ああ、アバンさん。覚えていますよ。いらっしゃい。2人部屋ですね。空いていますよ。1泊で良いのかしら?」
「ええ、それで結構です。夜も、食事は2人前でお願いします」
そう言ってアバン先生は女将さんに2人分の宿泊代を払い、2階に続く階段に向かったので俺もその後を付いて行った。
アバン先生に続いて入った部屋は、10畳程度(もちろん畳敷きでは無い)の広さにベッドが2つ並んでいた。窓からはルミナの町の商店街がよく見える。俺は気になっていたことをアバン先生に聞いてみることにした。
「アバン先生、俺の分の旅費は俺が出した方が……」
「何を言っているんですか、ポップ。弟子の面倒を師匠が見るのは当然ですよ。あなたはそんなことを気にせず、自分の力を高めることに集中してください」
いやいや、でも結局アバン先生は、ランカークス村でも俺の両親から契約金とかを貰おうとしなかったし、完全に先生の持ち出しになっているんだけど、良いのかな、これ。俺が戸惑っている様子なのを見て、アバン先生が自分の荷物の中からごそごそと魔紙を取り出しながら言った。
「ポップを立派な賢者として独り立ちさせることは私の目的でもあるのですから、ポップが気にすることではありませんよ。そんなことより、夕食までまだ少し時間が有りますので、早速ですが魔法の契約儀式を始めましょう」
「……はい、分かりました。それでは遠慮無くお世話になります。魔法の契約というと、ルーラとかですか?」
「そうです。さきほど聞いた限りでは、私がポップに伝授できる魔法は、
おぉ! ついに
「はい、宜しくお願いします!」
それから2時間後。俺は予定していた魔法の伝授をアバン先生から受ける事が出来た。ただ、破邪呪文がな……。悪しき魔物の侵入を防ぐ
「ふむ。予定していた魔法はおよそ伝授できましたね。ですが、やはり破邪呪文の方は中々難しそうですね」
「はい。
「ええ、その感覚は正しいと思いますよ。破邪呪文はちょっと他の系統の呪文とは違っていて、ある特定の血筋に関係する要素が多いと言われています。ですが、ポップに全く素養が無いわけでは無いようなので、私が持っているある道具を補助として使用すれば発動は可能だと思いますよ」
「ある道具って何ですか、アバン先生?」
俺がそう問うと、アバン先生は「ふっふっふ……」と怪しげな笑みを浮かべながら、こぶし大の半分程度の大きさの白い石を4つ鞄から出してきた。
「これは、我がジニュアール家に代々伝わる輝聖石です。これほどの大きさの輝聖石は中々無いんですよ。ほら、これを1つ持ってみて、
「はい、アバン先生」
俺は、アバン先生から渡された輝聖石の1つを手に取って、
「……アバン先生、これって……」
「はい、正真正銘
すごい。これが破邪呪文か。攻撃呪文や回復呪文とも違う、何か聖なる存在が傍に現れたような感覚に陥るな。これは確かに、邪気のある魔物は苦手かも。
「……びっくりしました。破邪呪文ってこういう感じなんですね。でも、自分ひとりの力で発動できなかったのは残念です」
「いえいえ、輝聖石の力を借りたとはいえ、これほど見事に
アバン先生はそういって、輝聖石を1つ俺に渡してくれた。
「ありがとうございます、アバン先生」
「どういたしまして。それより、そろそろ夕食が出来ている時間になりましたね。この宿の食事には定評があるんですよ。明日からは山籠もりの予定ですから、まともな食事はしばらくとれないかもしれません。今日はお腹いっぱい食べましょう」
「はい、アバン先生」
「はい、お待ち。今日のメインディッシュは、ほろほろ鳥の炭火焼きだよ」
宿の1階に併設された食堂の奥から、若い女性が本日の定食を2人前運んできてくれた。定食がそれぞれ俺とアバン先生の前に置かれる。メインディッシュと言っていた骨付き鳥のモモ肉には、程よく焼き目がついており、良いにおいが漂ってきて実に食欲がそそられる。
「さあ、いただきましょう、ポップ」
「はい!」
俺とアバン先生はしばらく談笑しながら食事を楽しんだ。そして、食後に出された温かいお茶をいただきながらアバン先生が言った。
「さて、明日から本格的な修行を始めるわけですが、最初に修行のコースを決めておきましょう」
「コース、ですか?」
「ええ。ポップは賢者の修業を希望されていると思いますが、どの程度の期間集中して行うか、そのコースを決めようと思います。具体的には、短期集中の1週間コース、中期じっくりの3ヶ月コース、そして長期ゆっくりの6ヶ月コースです」
なるほど、そういえばダイがアバン先生の修業を受けた時もそんなことを言っていたな。で、ダイは1週間のスペシャルハードコースを選んだと……。いやいや、あんなスパルタ俺が受けたら死んじまうよ。だって、たった1日で大地斬を会得してたんだぜ。修行させる方も受ける方もどうかしているよ。1週間コースは無しだな……。となると、後は……。
「そうですね、では、長期ゆっくりの6ヶ月コースでお願いしたいです」
「ほう……。意外ですね。ポップの事だから短期集中の1週間コースを希望すると思っていたのですが」
「いえ、俺はアバン先生との修業の期間をできるだけ長くとりたいんです。単純に賢者としての修業を積むだけではなく、それ以外の技能も先生から学びたい。それと、……」
「それと……、何ですか?」
「その、……既に勇者であるアバン先生に話すのは大変憚られるんですが、俺は勇者の魔法使いを目指しています。だから、俺は俺だけの勇者を、その……」
「なるほど……。つまりポップは、この旅の間で新しい世代の勇者も見出したいから、できるだけ私と旅を続けたいと。そういう事ですね?」
「……はい。すみません、アバン先生」
「何を謝る必要がありますか。私にマトリフがいたように、新世代の勇者もきっとあなたを望む事でしょう。立派な動機だと思いますよ。では、ポップは6ヶ月コースということで承知しました」
良かった。アバン先生にご理解していただけた。既に自身が勇者なのに、別の勇者の魔法使いになる事が目的だなんて失礼なこと言いづらくて困っていたけど、本当に良かった。あ、ついでにもう1つ頼んでおきたいことがあったんだ。
「それとアバン先生、もう一つお願いがあるんです。俺、賢者の修業とは別に、何か戦士系の修業もつけていただきたいんですが、よろしいでしょうか?」
「ほう、戦士系……。それは何故ですか?」
「俺は、魔法使いとしての技能ばかりに目をやってこれまで独力で修行してきました。ですが、魔法使いは魔法力が尽きれば戦いの役に立てませんし、敵に接近された時も不利になります。魔法力が尽きた時や、接近戦時でもせめて自分の身は自分で守れる程度に、戦士系の技能を身に付けておきたいと思いました」
「なるほど。目的は理解しました。魔法使いが戦士系の技能を身に付けることは大変困難だとは思いますが、限定的な場面での活用を考えているのでしたら、無駄にはならないでしょう。良いでしょう、戦士としての修業も賢者の修業と合わせてさせていただきましょう」
「ありがとうございます!」
「いえいえ、向上心があることは大変結構なことです。それで、どのような技能を身に付けたいのですか? 私が教えられる技能ですと、剣、槍、斧等になりますが……」
「えーと、棍(こん)は駄目でしょうか?」
「棍ですか……。ふむ、理由を聞いても?」
「はい。剣や槍、斧では重量があるため、俺の体格では長時間満足に振るえないと考えます。それに、本職である魔法使いとしての戦いにもそれらの武器は支障になりそうです。ですが、木でできた棍ならそれほど重量は無いですし、普段持っていなくてもいざとなれば現地調達も容易です。なんなら、自分で氷の魔法を使うことで戦闘中に棍を作り出すこともできます。そして、接近してきた敵と距離を取ることを考えても、リーチのある棍がベストかなと考えました」
「……なるほど。よく考えていますね。良いでしょう、では戦士系の修業は棍の技能という事にしましょう。私は棍の方面は専門ではありませんが、槍の技能はある程度の域に達しています。それを応用することで、修行を付けることはできるでしょう」
「ありがとうございます! よろしくお願いします。」
そうして俺はアバン先生に、賢者の修業と棍を用いた戦士の修業を付けてもらえることになった。