転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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29話 原作開始 1年前 救出作戦①

俺達は今、ラドルの村の東にある森の中を進んでいる。空には既に月が昇っており、村を出てから3時間ほど経っていた。

 

「アバンさん、ポップさん。もうすぐこの森を抜けられるよ。抜けたら右の方に峡谷が見えるから、後はその峡谷をまっすぐ進んでいくんだ」

 

ルーンのその言葉通り、それほど時をおかずに俺達は森を抜ける事ができた。森の中では不思議なことにただの1匹も魔物に出くわさなかった。

 

いったん俺達は足を止めて周りを見渡した。森を抜けた先は、土と岩だらけの景色だった。右の方に左右にそびえ立つ峡谷が見える。

 

嘆きの峡谷というのはあそこだな。峡谷の方からは、狭く切り立った峡谷を風が通るためなのかヒューヒューという不気味な音がかすかに聞こえてくる。

なるほど、嘆きの峡谷の由来はこの風の音のようだな。

 

「ルーン、嘆きの峡谷のどこかに儀式を行うような祭壇があると思うんだけど、どの辺りか見当はつきそう?」

 

「うーん、多分だけど、峡谷の先端じゃないかな。あの峡谷の先端は断崖になっているんだけど、その手前は谷が開けていて広場になっているから、大勢集まるならそこじゃないかな」

 

「ふむ、ルーン君の言う通りかも知れませんね。姿は見えませんが、この先に大勢の魔物が集まっている気配がします。もうすぐ10時になります。時間がありません。急ぎましょう!」

 

アバン先生は、懐から取り出していた懐中時計をしまいながら、俺達に声をかけた。

 

アバン先生の言葉で、俺達は峡谷の先端に向かって駆けだした。ルーンも俺達に遅れることなく付いてきていて、真剣な眼差しで先を見据えている。お姉さんを救おうと必死なんだろう。

ルーンにとって、たった一人の肉親なんだ。絶対に救出してみせるぞ。

 

 

今、俺達は峡谷の先端近くにある岩場の陰に隠れている。

 

先頭のアバン先生が俺達の方を振り返った。そして、静かにするように指を口の前に持って行くジェスチャーをして、俺達を手招きした。

 

俺とルーンは顔を見合わせ、互いに頷いた後、アバン先生のいる所まで移動し、その先をそっと覗いてみた。

すると、その先は谷が開けた広場になっていた。その一番奥に、断崖に向かって1体の悪魔神官が、両手に先端が丸く突起の付いた鉄の棒『モーニングスター』を振り振りしながら祈祷している。

 

悪魔神官は人間の神官が着るようなローブを纏っているが、その表情はこちらに背中を向けているため分からない。

その悪魔神官の手前には祭壇が置かれていて、その上に、女性が1人縛り付けられて横たわっていた。多分あの女性がエルサさんなんだろう。

 

一瞬、ルーンが「……姉ちゃん」とつぶやいた声が聞こえた。

 

時折身動きしているので、意識はありそうだ。だが、恐怖のせいか顔色がとても悪い。無理も無いな。

 

エルサさんの横たわっている祭壇を挟んで左右にはおびただしい数の魔物が佇んでいた。まじゅつし、シャドーサタンにライオネック、ミニデーモン、ホースデビルまでいるな。

さすがは悪魔神官。見事に悪魔系の魔物ばかりの集団だ。

 

数は、左右の集団合わせて100匹は下らないんじゃないかな。ほとんどが初めて見る魔物ばかりで、なかなか強そうだ。

ホースデビルは下半身が馬の脚をしているから突進力には注意が必要だな。

それら魔物が皆、一様に悪魔神官の背中を一心不乱に見つめていて、異様な雰囲気が一体を覆っている。

 

……さて、どう切り込むか。エルサさんを人質に取られるとやっかいだ。作戦が必要だな。

俺がそう考えていると、アバン先生が顔を寄せて小さな声で話しかけてきた。

 

「ポップ、こういう作戦ではどうでしょう? …………、いかがですか?」

 

「……良いと思います。ですが、それではアバン先生のサポートが十分に出来ませんが、よろしいですか?」

 

「もちろんです。反対に私もポップの方の盾にはなれません。これは、それぞれがそれぞれの持ち場で課された役割を果たす事で初めて成功する作戦です。いけますか?」

 

「……いけます。その作戦でいきましょう。ルーン、聞いていたよな。できるか?」

 

「もちろん。任せてくれ、ポップさん」

 

俺とアバン先生は顔を見合わせて互いに頷いた。

 

 

火炎壁呪文(ファイヤーウォール)!!」

 

戦闘開始の号砲は俺が行う手筈になっていた。

 

俺は岩場から広場に飛び出すなり、両手で火炎壁呪文(ファイヤーウォール)を2発断崖に向かって放った。放たれた火炎壁呪文(ファイヤーウォール)は、その延長線上の魔物を焼き尽くしながら、悪魔神官の左右にそれぞれ達した。

 

良し、これで大量の魔物と悪魔神官の分断にほぼ成功した。

今俺の放った2発の火炎壁呪文(ファイヤーウォール)は、5mほどの間隔で一直線に悪魔神官を間に挟む形で断崖まで達している。

 

その火炎壁呪文(ファイヤーウォール)を追いかけていくかのように、アバン先生が悪魔神官に向かって矢のように突進した。俺とルーンも遅れてその後に続いている。

 

突然の炎の壁の出現に、辺り一帯の魔物が一斉にこちらの方を向くが、その頃には俺達は炎の壁の中に入っていた。

 

「何者だ、貴様ら!」

 

振り返った悪魔神官が俺達に対して叫んだが、それに回答を返している余裕は無い。

 

アバン先生は、エルサさんが横たわっている祭壇を一足飛びに飛び越え、悪魔神官に斬りかかった。

意外に反応が早かった悪魔神官は、両手のモーニングスターを頭の上で交差して、アバン先生の一太刀を受け止める。

 

「ルーン! どうしてここまで!?」

 

「姉ちゃん、今助ける!」

 

ルーンが祭壇にたどり着き、エルサさんを捕らえているロープを切断し始めた。ルーンの手には、俺が貸した父さんの打ったナイフが握られている。

 

よし、ここまでは作戦通りだ。

 

俺は祭壇の手前で断崖に背を向け、進入してきた方向に向き直った。俺の背後ではアバン先生が悪魔神官と1対1の戦いを始めた。

 

そう、俺達の作戦は、こういうことだった。

 

まず火炎壁呪文(ファイヤーウォール)で、悪魔神官とその他の魔物を分断し、敵の首魁である悪魔神官はアバン先生が、その他の魔物は俺が相手をして、エルサさんの直接的な救出はルーンが行うというものだ。

 

アバン先生と俺はそれぞれの持ち場で敵を後ろに絶対に逸らさない。逸らせば戦闘要員でないルーンとエルサさんに危険が及ぶ。

一見、敵に前後を挟まれてしまっているように見えるが、奇襲に成功さえすればエルサさんは確実に救出できる。後は、アバン先生と俺が踏みとどまりさえすれば、勝機が見えてくる。

 

魔物達が2つの火炎壁呪文(ファイヤーウォール)の間から進入してきた。当然だろう。

相手からすれば、自分達のボスである悪魔神官にたどり着くためには、片方が断崖絶壁のため、残るは俺達が進入してきた火炎壁呪文(ファイヤーウォール)の間を通ってくるしか無い。

 

だが、前後左右360度から攻撃されるのでは無く、一方向からの攻撃に限定できている時点で、俺の対処は容易だ。

 

「――閃熱呪文(ギラ)(×2)!」

 

即座に俺は、左右の手を前に突き出し、指鉄砲の様にして立て続けに閃熱呪文(ギラ)を連射する。

弾丸ならぬ、熱線を次々に照射された魔物が苦痛の悲鳴を上げ、その侵攻速度が大幅に落ちた。

 

「ギィー、ギィー!」

 

むっ、高度を飛行できる魔物が早速炎の壁を越えてこようとしているな。だけど、それは想定内だ。

俺は両手を左右の炎の壁に向け、突風呪文(パキ)の魔法を唱えた。炎と風は、その攻撃を受ける相手にとっては最悪の組み合わせだ。

突風をうけた炎の壁は更に空高く舞い上がり、その壁を越えようとしていた翼をもった魔物を一瞬にして灰へと変えていく。

 

良し、これで炎の壁を越えようと考える魔物はいなくなるだろう。

 

俺が、炎の壁を越えようとした魔物への対応に意識を取られたその一瞬に、再度前方の魔物が突進してきた。

 

先頭に立つ魔物は、ホースデビルか。……さすがに、早いな。

 

俺は先ほどと同様、閃熱呪文(ギラ)の魔法を唱えてその前進を押しとどめる。

続けて俺は左右両手に爆裂呪文(イオ)の爆球を複数発現させ、閃熱呪文(ギラ)の痛みにのたうち回っているホースデビルの集団に投げつけた。

 

だが、俺はこれが悪手だったことを直ぐに悟ることになった。

 

爆裂呪文(イオ)の爆発を食らった事で更に魔物達の侵攻が弱まったが、同時に辺り一帯の土砂が爆発によって舞い上がり俺の視界を塞いだ。

 

更に悪いことにこちらは風下だ。その土煙がこちらに迫り、よりいっそう敵を視認することが困難となった。まさに経験不足が露呈してしまった形だった。

 

土煙が迫る中、煙に紛れてこちらに突進してくる魔物の気配が濃厚に感じられる。

 

――まずい! 

 

この開戦直後の危機的状況に俺は、(大丈夫だ、まだ間に合う、冷静に対処を)と自分自身を叱咤し、まず左手を前に突き出し叫んだ。

 

「――突風呪文(パキ)!」

 

瞬時に俺の左手から突風が吹き出し、こちらに迫っていた土煙を押し返す。すると、その土煙に紛れて突進してきている複数のホースデビルの姿が露わになった。

 

大分接近を許してしまった。最初は彼我の距離は30m程だったが、今は15m程度の距離まで接近されており、なおもその突進力で距離を詰められている。

 

【接触まで15m】

【接触まで14m】

【接触まで13m】

 

俺は右手を前に出し、俺の手持ちの攻撃魔法の中で最も練度が高く、信頼を寄せている魔法『氷系呪文(ヒャダルコ)』を唱えた。

 

その1秒にも満たない時間に更に距離を詰められる。

 

【接触まで12m】

【接触まで11m】

【接触まで10m】

 

俺の右手の前に13本の氷の槍が生成される。

 

ここまでかかった時間は約2秒。大丈夫、十分間に合う。俺は、迫ってくるホースデビルに氷の槍をロックオンする。

 

【接触まで9m】

【接触まで8m】

 

ホースデビルがいよいよ間近に迫ってきた。その後ろからも遅れて他の魔物が鬼気迫る表情で突進してきている。

 

地響きを立てながら迫るその魔物の圧力に、俺は顔が引きつるのを感じた。

魔法使いにとって、前衛がいない状態での戦闘というのはこんなに恐怖を感じるものなのか。

戦闘開始早々に俺の悪手によって、敵にここまでの接近を許した。

 

――だけど、それもここまでだ! 

 

俺は右手を操作し、まず最も接近していたホースデビルの集団に13本の氷の槍をたたきつけた。もんどり打って倒れるホースデビル。それにつまずき、後方の魔物もその位置で急停止する。

 

それを見て俺は、今度は殺傷力を併せ持つ真空呪文(バギマ)を放ち、体勢の崩れた魔物達を一気に奥まで押し戻した。魔物達は身体を切り刻まれながら奥に吹っ飛んでいく。

 

よし、これで彼我の距離は再び30m程になった。

 

「……ふー、危なかったな。失敗、失敗」

 

俺はとりあえずの余裕が生まれたことから、そう自答しながらさっきの悪手の反省をしていた。

 

魔法使いにとって、敵に距離を詰められることは最も避けなければならない事態の1つだ。だからたとえ広域殲滅力に優れる爆裂呪文(イオ)の魔法でも、爆炎や舞い上がる土煙のリスクがある以上、前衛のいない戦闘では避けるべきだった。

 

俺はそう考えながら再び進撃を始めた魔物に対して、13本の氷の槍を縦横無尽に飛ばしながら対処している。

氷の槍なら土煙を巻き上げることも無く、淡々と敵を足止めし、とどめも刺せる。

 

初めての大規模な魔物との集団戦闘で、俺はこれらのことを学んだ。

 

 

さあ、少しこちらに余裕が出来たことから俺は背後を気にかける余裕が生まれた。

 

幸いにも敵も俺の誘導機能付きの氷の槍に甚大な被害を被ったようで、進撃がいったん止まっている。だから俺は、前方に意識を置いておきながらも、背後のアバン先生の戦闘を視野の片隅に入れた。

 

「なんだ、あれ……。既に悪魔神官の面影が無くなっているじゃ無いか……」

 

そこには、かつては悪魔神官だったんだろうが、その身体を倍以上に膨れさせ、両方の手を触手のように伸ばしてアバン先生にモーニングスターをたたきつけている異形の魔物の姿があった。

 

その顔は、目鼻口が無く能面のようだった顔では既になくなっており、目や口のある鬼のような鬼気迫る形相になっている。

その身体は、遠目だから良く分からないが、何か小さなこぶのようなものが無数に張り付いている。そして、その左右の触手のような手は、まるで鞭のように高速でしなり、アバン先生に襲いかかっている。

 

しかし、驚くべきは魔物だけでは無かった。

 

なんとアバン先生は、その高速の攻撃を目にも止まらない程の早さの剣捌きで防ぎきっていた。

そればかりか、じりじりと敵との距離を詰め始めている。

 

……すごいな。俺なんてあの間合いに入った瞬間に脳天かち割られて死んでしまう自信があるぞ。アバン流刀殺法恐るべしだ。

 

そして、俺とアバン先生の中間ぐらいの位置で、ルーンとエルサさんが祭壇の足下に隠れるようにして座り込んでいる様子も目に入った。

どうやらルーンは無事エルサさんを拘束していたロープを切断できたようだ。2人とも不安そうな様子で俺の方やアバン先生の方を時折覗いている。

 

……さっき俺が魔物の接近を許した時は、さぞかし恐怖を感じたことだろう。すまなかったな、だけど安心してくれ。もうさっきのようなミスは犯さない。

 

 

俺がそんなことを考えていると、こちらの戦場でも動きがあった。

 

ミニデーモンの集団が前の方に出てきて、何やら呪文を唱えだしたのだ。俺はアバン先生の方から意識を手放し、こちらの戦場に集中することにした。

 

ミニデーモンの集団は、皆が両手をこちらに突き出し何やら言っている。

そこは俺の氷系呪文(ヒャダルコ)のギリギリ間合いの外のため、俺はその様子を警戒しながら見ていた。

 

すると、次にミニデーモンの発した言葉に俺は驚愕した。

 

「……イ・オ・ナ・ズ・ン」

 

うっそだろ! マジか!? 

 

イオナズンと言えば、爆裂呪文(イオ)系の最上位呪文にあたる極大呪文じゃないか。

まさかそんな大呪文を放たれると思っていなかった俺は、一瞬パニックに陥って頭を抱えてしまった。

 

……ん? おかしいな。

 

思わず頭を抱えてしゃがみ込んでしまったが、いっこうに極大爆裂呪文(イオナズン)の衝撃が来ない。

不思議に思い前方のミニデーモンを見ると、その両手から小さな煙が出ているぐらいで、ミニデーモン達もどうしてこうなったのかと首をかしげている始末。

 

そこに至って俺は前世のゲームでの知識を思い出した。

……そうだ、確か、出来もしない呪文を唱えてこちらを驚かせてくる魔物がいたな。

ゲームの中でやられる分には、またやっているよこいつ、くらいの軽い気持ちでいたが、いざ実際にやられるとこれ心臓に悪すぎるな。

 

俺は、驚かせてくれたミニデーモンに対する怒りがふつふつと沸き起こってきた。

ちくしょう! あいつら絶対に許さないからな!

 

ミニデーモンは、極大爆裂呪文(イオナズン)が不発に終わったことから次の呪文に切り替えたらしい。

ああ、これなら分かる。火炎呪文(メラミ)だ。

ミニデーモンの集団の前に複数の巨大な火球が浮かび上がっている。そして、ミニデーモンは一斉にその火球をこちらに放ってきた。

だが、これは対処が可能だ。

 

俺は左手を突き出し、防御光幕呪文(フバーハ)の呪文を唱えた。防御光幕呪文(フバーハ)の青い半球体の幕が俺と背後のルーン、エルサさんを包み込む。

アバン先生までは防御光幕呪文(フバーハ)が届かないが、この火炎呪文(メラミ)の余波はあそこまで届かないだろうから問題ないだろう。

 

火炎呪文(メラミ)の火球が俺達に着弾した。だが、事前に張っていた防御光幕呪文(フバーハ)の中にその熱気は一切入ってくることは無い。背後にいるルーンから「……すげえ」というつぶやきが聞こえてくる。

 

敵の集団はこの隙に、と考えたのだろう。ライオネックやホースデビルの集団が再び侵攻を始めた。

 

だが、観察が足りないな。これまでの戦闘で俺が左右両手でそれぞれ魔法を使っていたのを見ていなかったのだろうか。

 

俺は左手で防御光幕呪文(フバーハ)を維持しつつ、右手に再び氷系呪文(ヒャダルコ)の13本の槍を出現させた。そして、接近を仕掛けてくる魔物を順にその槍で貫いていった。

ここで優先すべきはシャドーサタンだ。奴は即死呪文のザキが使える。即死呪文(ザキ)の射程距離は約10m程のため、その距離まで近づかれる前に奴を仕留める必要がある。

 

俺は淡々と、接近してくる魔物を優先順位をつけながら仕留めていった。

 

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