転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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32話 原作開始 1年前 ベンガーナ国王との謁見

 

「うわー! これがベンガーナの町ですか! 大きいですねー、アバン先生!」

 

俺は町の入口に立って、初めて見る大都市の威容に圧倒される思いでいた。ここはベンガーナ国の首都、ベンガーナの町。

 

俺とアバン先生はラドルの村を出発してちょうど1週間後にこの町にたどり着いた。

確かにこの町は大きい。ランカークス村の10倍くらいあるんじゃないか。

煙突の数を見るに、武器屋も1つや2つじゃ利かないくらい沢山ありそうだ。

 

もちろん人の出入りも盛んで、俺はさっきから人とぶつからないよう気を付けるのに精いっぱいだ。

 

「そうでしょう。これだけの規模の町は大陸広しといえど、そうはありません。まあ、私の母国のカール王国も負けてはいませんがね」

 

「へー、カール王国も大きいんですね。いつか行ってみたいなー。あっ、あそこがアバン先生がメルルと会ったという商店街ですか!?」

 

俺は、店が立ち並ぶ一角を指さして先生に聞いた。

 

「ええ、そうですよ。ですが、先日言った通り、私がメルルさんと出会ったのは、もう何年も前の話ですよ。今はおそらく別の町にいることでしょう」

 

「そうなんですか。今どこにいるのかな、メルル。会いたいなー」

 

俺は、大きくなったメルルを想像して、いつか会う時を楽しみにしていた。

 

メルルとアバン先生が出会った経緯については、この間ようやくアバン先生が話してくれた。

 

まさか俺がメルルへ渡したネックレスにアバン先生が興味を持ったことが、アバン先生がランカークス村を訪問する事になった理由の1つだったとは知らなかった。

 

でも、メルルあの時渡したネックレスを大事に使ってくれていたんだな。

旅の役に立っているようで良かったな。

 

「さあ、今日の所はまずベンガーナの王城に向かって、国王に挨拶をさせていただきましょう」

 

「えっ、アバン先生、ベンガーナの国王様と面識があるんですか?」

 

「ええ、だいぶ昔の事になりますが、ベンガーナ国王には魔王との戦いの折にお世話になったことがあります。一個人の力には懐疑的な方ですが、為政者として見れば悪い方ではありませんよ」

 

……へー、そうなんだ。『ダイの大冒険』の世界での王様と言えば、ロモス王やレオナ姫くらいしか知らないけど、どんな王様なんだろう? 

アバン先生は世界的に名の知れた英雄だけど、俺はただの平民だからな。

失礼のないようにしないと。

 

その後、俺達はいったん宿屋を確保し、荷物を預けてから王城に向かった。王城は、ベンガーナの町の隣のちょっとした高台に建造されている。

 

俺は、この世界で見る初めての城に感激していた。

これは明らかに前世で見た中世時代のヨーロッパの城に似ている。

王城を囲む城壁は堅牢な石積みで高く積み上げられていて、王城自体はゴシック様式で威圧感の感じられる作りをしている。

王城や城壁の至る所には武装した兵士が一定の間隔で立っていた。

 

うーん、全てが絵になっていてかっこいいな。俺はキョロキョロと周りを見回しながら、アバン先生の後ろを着いて行った。

 

王城の入り口にあたる門をくぐると、『ズーン、ズーン』という爆発音のようなくぐもった音が立て続けに聞こえてきた。

 

何だろうな、この音は?

 

「アバン先生、この音はいったい何ですか?」

 

「ああ、この音は大砲の音ですよ。ベンガーナ国は火薬の技術が発展していて、大陸一の大砲の保有数を誇っています。今はおそらく大砲の調練を行っているのだと思いますよ。……少し寄り道して見に行ってみますか?」

 

「え、良いんですか! 見たいです、見たいです」

 

やった。この世界で初めて火薬を使った武器を見ることが出来る。一体どんな形状をしているんだろう。

 

俺はアバン先生の案内で大砲の音がしている場所に行ってみた。

ここまで特に城の兵士の人達にとがめられることは無かった。見学自体は自由なのかな?

 

「あそこですよ、ポップ」

 

アバン先生がそういって、前を指し示す。

 

そこは、城下町とは王城を挟んで反対側に位置する場所だった。

俺は、アバン先生の後ろから顔を出して、示された場所を覗いてみた。

 

なるほど、確かに大砲が横一列に10個ほど並んでいる。それぞれの大砲に2、3人の人が張り付いており、皆忙しそうに玉を入れ替えたり、中の煤を取り除いたりしている。

 

どうやら、ここから海に向かって大砲を撃っていたようだ。

ふむ、大砲の形状は俺が知っている前世の大砲と酷似しているな。なんか幕末の時代くらいに日本が海岸線に設置していた大砲にそっくりだ。

 

遠くに見える海の方を見ると、波の上に目標物なのか、赤いポールのようなものが立っていた。

 

「2番隊、次弾装填時間がかかりすぎだ! もっと手際よくやらんか!」

 

「はい!」

 

隊長と思われる人物が、玉の交換作業をしている人達を叱咤している。

うーむ、なかなか厳しいな。

 

俺が大変そうだなーとぼへーと見ていると、先ほど部下を叱っていた隊長がギロっとこちらを睨んできた。

おっとっと、気を散らせてしまったんだろうか。

 

「……ふむ。我々も叱られる前に、ここを離れた方が良いようですね。どうですか、ポップ? もう十分ですか?」

 

「十分です、十分です。連れてきてくれてありがとうございました、アバン先生」

 

その後俺達はその場を離れて、王城に入って直ぐの所にある受付で、ベンガーナ王への面談希望を告げた。

受付には大勢の人が並んでいたけど、ベンガーナ王への面談希望の列はそれほど並んでいない様子だった。

 

「あんまり王様への面談希望の人はいないんですね。人気が無いんですかね?」

 

俺がアバン先生に率直な感想を述べると、アバン先生は苦笑しながら言った。

 

「いえいえ、人気が無いことはありませんよ。ただ、実務的な打合せはそれぞれ大臣や事務官が担当していますので、国王自体への面談希望はそれほど多くないのでしょう」

 

ふーん、そういうものなのか。まあ、役割分担がしっかりしていると言うことだから、国としては正しい姿なのかも知れないな。

 

その後俺達は、城の兵士に待機部屋のような場所に案内され、そこでしばし呼ばれるのを待つことにした。

 

そして、待つこと小一時間ほど。

 

この部屋に案内してくれた兵士が俺達を迎えに来て、王様の前に通されることになった。

 

ずいぶん簡単に通されるなと考えていると、大きな扉の手前で、荷物や剣を兵士に預けるように言われた。

ああ、一応凶器になりそうなものは預けておくんだ。俺達は荷物を兵士に預けて、ようやく大きな扉の前に立った。

 

俺達が扉の前で少し待っていると、その扉が徐々に開いていき、中の様子が目に入ってきた。

 

……うーわ、これは凄い。中は、ダンスホールとしても利用出来そうなほどに広く、まっすぐに赤い絨毯が先まで伸びている。

奥行きは大体30mくらいありそうだ。右側には壁がほとんど無く、そのままバルコニーに繋がっていて、そこからは青い海の景色が広がっている。

天井には無数のシャンデリアが吊るされていて、実に荘厳な雰囲気を醸し出している。絨毯の先では3段くらいの段差が付いていて、一番高い位置に豪華な椅子がおかれている。

 

そして、今はその椅子に誰かが座っている。多分、あの人が国王なんだろう。

その左右にはシルバーメイルを着込んだ護衛の兵士がずらっと並んでおり、じっとこちらの様子を伺っている。

 

そんな様子に俺が戸惑っていると、アバン先生がスタスタと進んでいくので、俺は慌てて後ろを追いかけた。

王様と思わしき人との距離がおおよそ10mくらいになった辺りで、アバン先生が片膝をついて頭を下げたので、俺も先生の右後ろくらいの位置で同じ行動を取った。

 

「これはこれは。久しぶりだな、勇者アバンよ。……かまわん、顔を上げよ。」

 

片膝をつく俺達の前方の王座に座っている男性がアバン先生に声をかける。

 

その声を聞いてアバン先生が顔を上げたので、俺も同じ行動を取る。

近くで王様を見ると、ずいぶんと口ひげの立派な男性だと思った。年は40代ぐらいだろうか。

 

「ご挨拶が遅れ、大変失礼をしました。この度、旅の途中でベンガーナ国を訪れましたので、一度ご挨拶をと思い、お伺いさせていただきました」

 

「なに、構わんよ。しかし、そなたはカール王国を出奔し、今は世界各地を次世代の勇者を育成するために旅をしていると聞いていたが、どうだ? そろそろそなたも身を落ち着けても良いのでは無いか? カール王国から離れたのであれば、我がベンガーナ国に騎士として仕えぬか? そなたなら、騎士団長待遇で召し抱えるぞ?」

 

おおっと。いきなり国王からヘッドハンティングされているぞ、アバン先生。

 

いや、俺はアバン先生がここでベンガーナの騎士になるはずが無いと知っているからあれだけど、知らなかったら焦っていただろうな。

 

「ありがたいお話しなれど、今も私は次代の勇者を指導しているところです。大変申し訳ありませんが、辞退させていただきます」

 

アバン先生がはっきりと仕官の話を断った。

 

「ふむ、まあそんな事だろうと思っておったわ。……その次代の勇者というのは、今そなたの後ろにいる少年もその一人か?」

 

おっと、俺に話が飛んできたぞ。アバン先生は一瞬俺の方を見た後、王様に向き直り回答した。

 

「はい、彼は賢者としての資質があったので、2ヶ月ほど前より弟子にして指導しています。ポップ、ご挨拶を」

 

アバン先生に促された俺は、できるだけ丁寧に発言することを意識しながら声を出した。

 

「はい。私は2ヶ月ほど前よりアバン先生に師事しておりますランカークス村のポップと申します。以後お見知りおきください」

 

……うん、まあ普通すぎる挨拶だけど、これで問題ないだろう。元々俺は緊張しいだから、こんな場面は苦手なんだよ。

 

「ほう。ランカークス村と言ったか。……そういえば、数年前にランカークス村に小さな賢者と噂される子供がいると報告を受けた覚えがあるな。もしかして、そなたが?」

 

おっとー。まさか小さな賢者の噂がベンガーナ国王の耳にまで届いているとは思わなかったな。

知られているなら仕方ない。別に隠すことでも無いから正直に答えよう。

 

「はい。村では一時期そのように呼ばれておりましたので、それは私のことだと思います」

 

「やはりそうか。一度会ってみたいと思い、何度かランカークス村の村長宛にその旨をしたためた手紙を送っておったのじゃが、一度も村長から色よい返事をもらえず、会えずじまいであった。それがまさか、今日会える事になるとは。はっはっは。人の縁とは分からぬものよ」

 

「そ、それは存じなかったこととはいえ、失礼しました」

 

俺は、知らぬ事とは言え、結果的に国王の召喚を拒んだことになるので一応謝罪しておいた。しかし村長、そんな話があったなら一言ぐらい言っておいてくれよな。

俺は、いつも暇そうにしてお茶を飲んでいたランカークス村の村長を少し恨んだ。

 

ただまあ、言われたとしても、俺にそんな暇な時間は無かっただろうから、むしろ知らなくて良かったとも言えるけど……。

 

「ポップは、年こそ若いですが既に優れた賢者として実績を積んでおります。現に、この町に来る前に立ち寄ったラドルの村でも……」

 

アバン先生が、ラドル村で起こった窮状について説明する。

 

そう、今日国王に面談したのは、ラドル村で起こった窮状を伝えて、ベンガーナの国内全域で魔物に対する警戒を高めて貰おうという狙いもあった。

 

「ふむ、なるほどな。最近魔物が活発に動いているという報告は受けておったが、妖魔司教ザボエラに、その配下バルバロッサか。そのような具体的な名は初めて聞いた。情報の提供感謝するぞ、アバンよ。……しかし、アバンよ。そなたもこの国の防御を担っている膨大な数の大砲を見ただろう。我が国の軍事力を持ってすれば、魔王軍の脅威などいかほどのことも無いわ。なあ、アキームよ!」

 

……いやいやいや。確かに大砲が一定の役に立つことは認めるけど、それだけじゃあ、魔王軍の幹部クラス以上に通じるわけ無いじゃないか。

ていうか、大砲をいくつ集めたって、ドラゴンの咆吼1つで帳消しにされるって。

 

しかし、ベンガーナ国王は自身の傍らに控えている騎士に対してそう発破をかける。

アキームと声をかけられた騎士は、静かに黙礼を国王に返した。

 

あれ、あの騎士って、さっき大砲の発射訓練していたときに指導していた人じゃ無いかな。アキームっていうのか。

 

「……ベンガーナ王。確かに貴国の軍事力は万民が認めるところですが、それだけでは魔王軍には……」

 

「分かった分かった。相変わらず心配性だな、そなたは。まあ、確かに田舎の方までは、我が国の威光は届きにくいからの。この上は、国の隅々に至るまで兵士による巡回を行い、魔王軍に我が国の威光を見せつけてやるわ。サボテンと言ったか、その妖魔司教とやらは。その者も我が国の軍事力を見れば裸足で逃げおるわ! はっはっは!」

 

「……どうぞ宜しくお願いします」

 

アバン先生が、若干失望した表情で言葉を発した。

 

いやいやいや、失望したのは俺も一緒だよ。だいたい誰だよ、サボテンって。ザボエラだっての。『ボ』しか合ってねえじゃねえか。

 

いくら強国だって言っても、もっと真剣に向き合ってくれよな、全く。

あんたの対応次第で、ランカークス村やラドル村の今後が変わるんだからな。

 

……そうは思っていても、当のアバン先生がこれ以上何も言っていないので、俺もそれ以上言わず、その後はそのまま国王の前を辞し、引き下がることになった。

 

 

 

「全く、何を考えているんでしょうね、ベンガーナ王は。せっかくアバン先生が貴重な情報をもたらしたって言うのに」

 

宿に戻った俺は、部屋でアバン先生に対して先ほどのベンガーナ王の対応について愚痴を言っていた。

 

「まあまあ。ベンガーナ王は兵士の巡回を強化すると言っていたではありませんか。あの方は一度口にした言葉は守る方です。今はそれだけでも良しとするべきですよ」

 

「でも、それだけじゃあ……」

 

「もちろん、それだけではいけません。ですが、ああいうタイプの方は、何か自身の信条を打ち砕くような強烈な経験でもしない限り、そうそう意見を翻したりはしません。私では、それを行うのは無理でしたが、いつかそういう経験をする機会が訪れてくれれば良いのですが……」

 

なるほど。とにかく強烈なインパクトを経験して貰って意識を変えて貰うしか無いと言うことか。

でも、そのインパクトが、どこかの村の滅亡とか言う取り返しの付かないことだったら嫌だな。

 

「それより、ポップ。せっかくベンガーナに来たのです。明日は1日それぞれ自由行動にして、明後日にこの町を出発しようと思いますが、いかがですか?」

 

「はい、俺はそれで良いです。ベンガーナの次は何処を目指すのですか?」

 

「ベンガーナを出発した後は北上して、テランという名前の国を通って、ギルドメイン大陸の北岸まで行こうと思います。その後は船で東に進み、リンガイア国に行く予定です」

 

テラン? 何か聞いたことがある地名だな? 俺はリュックの中から1枚の地図を取りだして、先生が今行ったルートをなぞってみた。

 

「アバン先生、リンガイア国という名前はこの地図に書かれていますが、テラン国という名前は見当たりません。その国はどこにあるのでしょうか?」

 

「ああ、その地図は簡易的なものですので、記載されていないようですね。テラン国は、この辺りにある小さな国ですよ」

 

アバン先生はそう言いながら俺が持っている地図に、指で1点を指し示した。へー、このベンガーナ国の直ぐ近くにあるな。ていうか、曲がりなりにも国と名前がついているのに、地図に名前が載っていないって……。

その国の知名度が低すぎるのか、この地図が欠陥品なのかどっちなんだろう?

 

俺はそんなことを考えながら、今アバン先生が指し示してくれた場所に、「テラン国」という名前を鉛筆で書き込んでおいた。

 

 

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