カン、カン、カン。
見渡す限りの荒野の高台で、木と木がぶつかり合う音が時折聞こえる。ここは、テランの国から更に北上した所にある山岳地帯の一画になる。
既に季節は7の月になっているが、ここは高台だからそれほど気温が上がっておらず過ごしやすい。
西の地平線に沈みかかっている夕日を背景に、俺はアバン先生から武術の指導を受けていた。
俺の右手には棍が握られていて、アバン先生は木の枝を持っている。
俺はさっきから棍でアバン先生に何度も打ちかかっているが、木の枝を持ったアバン先生にずっとあしらわれ続けている。
「ほら、ポップ。足下がお留守になっていますよ。重心を片方の足にかけ過ぎていると、咄嗟の行動が遅れます。ほら、こんな風に……」
アバン先生が、俺の猛攻(猛攻で間違いない。……俺の中では)を軽やかに受け流しながら、木の枝をピシッと俺の足に打ち付ける。
「痛っ!」
くっそー。何で俺の棍は、木の枝を折れないんだよ。
アバン先生に一撃入れられないまでも、せめてアバン先生が手に持っている木の枝だけでも折ってやろうと、俺は全力で打ち込む。
「いけませんねー、そのような力任せの攻撃では」
そう言いながら、アバン先生は俺の棍を木の枝で受け止め(何でこんな細い木の枝で俺の棍が受け止められるのかさっぱり分からん!)、そのまま身体を反転させて木の枝を後ろに引いた。
すると、どういう技なのか俺の棍がその木の枝に引っ付いたかのようにそのまま引っ張られ俺は前方に大きく体勢を崩すことになった。
そして、右足に軽い衝撃が走ったと思うと、俺は宙で一回転して地面に仰向けに倒れていた。
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「ふむ。この焼き鳥は実に変わった味ですね~。とてもスパイシーで食欲がそそられます。この香辛料はベンガーナの町で買った物ですか?」
「はい。あまり人気は無かったようで安い値段でしたが、こうやって色んな料理に調味料として使用すると良い味が出ると思って」
「ええ、とてもデリーシャスです。この調味料は他の料理にも使えそうですね」
今俺達は、山岳地帯の高台の片隅で野宿をしている。
俺達の間には、たき火が煌々と焚かれていて、鶏肉が串に刺されてその炎に炙られている。
事前に鶏肉にまぶした調味料はカレー粉だ。
といっても、複数の香辛料を一定の割合で混ぜ合わせて作った俺特製のカレー粉になる。
ベンガーナの商店街で香辛料だけを売っている面白い店があって、そこで色々試食させてもらい、この組み合わせなら前世で言うところのカレー粉になるという組み合わせを見つけ出し、可能な限り購入したものだ。
今日は米が無いので作っていないが、いつかカレーライスを作ってみようと思う。実に楽しみだ。
「ポップも棍の扱いが少し様になってきましたね。最初の頃とは雲泥の差です」
「……そうでしょうか? 先生にはまだ1本も入れられないんですが……」
俺は先ほどの修練を思い出し、苦い表情でアバン先生に答えた。
「いえいえ、確実に上達していますよ。テランでお城の方と一緒に修練をした時も、十分互角に出来ていたではありませんか」
うーむ、確かにテランの城で兵士の人達と一緒に修練した際、兵士の方と何度か手合わせをして、2本に1本は取れるようにはなった。
そうか、そう考えると確かに成長しているのかも知れないな。
「……そうでしょうか。そうなら嬉しいです」
「ええ、その調子で頑張れば、いずれはアバン流の奥義も会得できるかも知れませんよ」
「本当ですか!? 頑張ります!」
おお、アバン流の奥義と言えば大地斬や空裂斬とかの技のことだろう。
魔法も良いが、やっぱりああいう武技を使えるようになるというのにも憧れるなー。
そしてなんと言ってもアバンストラッシュだ。出来たりするのかなー。これは夢が広がるぜ。
「もうすぐこの山岳地帯は越えられるでしょう。越えたら後はまっすぐ北に向かうと、2、3日でランツェという港町が見えてくるはずです。そこからは、海路でリンガイア国に向かいますよ」
「リンガイア国には、北の勇者と呼ばれている強者がいるんでしたね。楽しみです」
そう、アバン先生が言うには、リンガイア国にはどうやら北の勇者と呼ばれている強者がいるらしい。
俺達の目的の一つはその勇者候補に会うことだ。どんな人物なんだろう。
原作では聞いたことが無いな。
「ええ、私がその噂を聞いたのは4年ほど前でしょうか。確か歳もポップと近いはずですので、もしかすると将来ポップとパーティーを組む事になる、ポップの探していた勇者という可能性もありますよ」
そうか、俺と同年代なのか。
ダイはデルムリン島にいるはずだから、ダイで無いことは確実だが、原作で後から仲間になった人物かも知れないな。会うのが楽しみだ。
それから俺達は数日かけて山岳地帯を抜け、明日にはランツェという地点までやってきた。
あー、長かった。
そうそう、昨日初めて
いやー、もう最高だった。
自分がスーパーマンになった気がして、つい定番の右手を前に突き出すあのポーズをしながら空を飛んでしまった。
あんまり長時間俺が空を飛び続けるものだから、呆れたアバン先生が空まで迎えに来るほどだった。
いや、本当魔法使いになって良かったと心から思ったね。
「ほら、見えてきましたよ、ポップ。あの町が港町ランツェです」
「本当だ。漁船が沢山見えますね。魚が沢山捕れるんだろうなー」
「ええ。ランツェの魚料理と言えばこの辺りで評判です。北の海で採れる魚は脂がのっていて美味しいですからね。せっかくですので、リンガイア国に行く前に頂いていきましょう」
おお、やった。海の魚が食べれる。ランカークス村は内地だったからめったに海の魚は食べられなかったからな。
ベンガーナの町でもちょっと割高で食べる機会が無かったから、実に楽しみだ。
「やった! アバン先生、早く行きましょう!」
俺は先ほどまでの旅の疲れを忘れて、ランツェの町に駆けだした。
「はいはい。……全く、ポップは食べ物にはうるさいですね」
アバン先生は苦笑いしながら、俺の後ろをゆっくりと歩いてきた。
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「……ふーむ、おかしいですね。前に来た時より、何やら活気が無いように思えます」
「はい。なんだか町の人達も塞ぎ込んだ表情に見えますし、店もほとんどが閉まっているようです……」
俺はランツェの町の中で、周りを見回しながらアバン先生に答えた。
おかしいな。普通こんな港町だったら、魚を売り買いする人の声で活気があるようなもんだろうと思うんだけど、何かあったのかな?
「これは何かあったのかも知れませんね。ポップ、少し港の方に行って聞いてみましょう」
アバン先生も俺と同じ疑問を持ったらしく、2人で港の方に向かってみた。
港では、10人以上の漁師の格好をした人達が、手持ち無沙汰に座り込んでいた。
漁から帰ってきたという感じでは無さそうだな。皆の顔色は一様に暗い。
おや、その漁師の人達に交じって見知った顔の人がいるぞ。ああ、あの人は確かロンテさんだ。ベンガーナからテランまで馬車に乗せてくれた行商の人だ。
あれから大分経つのに、まだこの町にいたんだな。
俺達がその漁師の人達の集団に近づいていくと、その集団の中にいたロンテさんもこちらに気付き、声をかけてきた。
「アバンさん、それにポップ君。またお会いしましたね。いつこの町に?」
「こんにちは、ロンテさん。この町には先ほど着いたところです。ところで、ずいぶんと皆さんお悩みの様子ですが、何かあったのですか?」
「……それが、実は……」
アバン先生がロンテさんに挨拶を返し、この町で何があったのかを尋ねる。それに対するロンテさんの返答は驚くべきものだった。
どうやら異変が起きたのは1週間程前らしい。いつものように、この町の漁師の人達が沖合に船を出したところ、海上に1体の巨大な魔物が現れる様になったという。
その魔物は漁師達の船を襲い、乗組員たちは命からがら逃げ帰る事になった。幸い死者は出なかったらしいが、それからは漁に行く度にその魔物が立ち塞がり、とても漁どころではないのだそうだ。
そして、ロンテさんもこの町で新鮮な魚を仕入れてベンガーナに戻るつもりが、その肝心の魚が捕れないため、この町で足止めを食っているらしい。
「アバンさん、どうにかなりませんか?」
「そうですね。皆さんお困りのようですので、一肌脱がせていただきましょう。私とポップでその魔物の討伐に行ってみましょう。良いですか、ポップ?」
「もちろんです! 美味しい魚を食べるためです。そんな悪い魔物は懲らしめてやりましょう!」
俺もアバン先生にそう返事を返した。久しぶりの新鮮な魚を食べる機会なんだ。そんな魔物俺達でぶっ飛ばしてやる!
「おぉ! 本当ですか! 皆さん、こちらの方々は腕利きの冒険者です! きっとあの魔物を討伐してくれますよ!」
「本当か、あんたら! 頼むよ、船が出せなきゃ俺達はお先真っ暗なんだ」
「ありがたい。魔物を倒してくれたら、捕れた魚をたらふくご馳走するからよ。頼んだぜ!」
アバン先生と俺が快諾したことで、ロンテさんやその周りにいた漁師の人達に力がみなぎってきたようだ。
その後、誰がその魔物の現れる海域まで俺達を運んでくれるか、いつ討伐に行くかなど詳細を話し合い、出発は明日早朝という事に決まった。
その晩は、魔物討伐の話を聞いた町の宿屋が部屋を無償で提供してくれ、俺とアバン先生は明日に備えて早々に休むことにした。
~~~翌日~~~
今俺達は1隻の船に乗って、波に揺られながら沖を目指している。空は、雲一つ無い快晴だ。
船を出してくれたのは、漁師達のまとめ役のような立場をしているゴンゾという体格の良い漁師だ。40代くらいの脂ののったベテラン漁師らしく、先ほどから巧みに波を躱すように船を操船している。
今この船には俺とアバン先生の他に、ゴンゾさんを含めた船員の人達が5人乗船している。
俺達が魔物を倒せなかったら皆に危険が及ぶ仕事だが、ゴンゾさんが我先にと立候補してくれた。
ありがたいことだ。
「もうすぐ魔物が出没する海域だぜ。気をつけてくれよ、旦那!」
「分かりました。ポップ、私は正面から右を警戒します。ポップは正面から左をお願いします」
「はい、アバン先生!」
俺とアバン先生はゴンゾさんのその声を聞いて、それぞれ左右の海域に目を光らせ、少しの異変も逃さないよう警戒を強めた。
俺達が海に目をこらして、少し経った頃だった。
不意に、俺が監視していた左の方角の海面が少しずつ盛り上がってきた。
でかい!
何か巨大な物体が海面から浮上しようとしている。
「アバン先生、来ました!」
俺は、何かが浮上しようとしている海面から目を離さないままアバン先生に声をかけた。
直ぐにアバン先生もこちらに駆けつけ、その異様を目にする。
「これは……。ゴンゾさん、船が近すぎます。少し距離を取って下さい!」
「おうよ! お前ら帆を張り替えろ! 急げ!」
ゴンゾさんの指示で、船員達が慌ただしく動き出す。
帆がこれまでとは反対側に波打ち、少しずつ船がその異変が起きている地点から離れだした。
そんな作業を行っている間に、とうとうその魔物がはっきりと海面から現れた。こいつは……
「これは、クラーゴンですね。まさかこんな魔物まで活動を始めているとは……」
アバン先生がその魔物を見てつぶやいた。
そう、現れた物体は巨大なイカの姿をしたクラーゴンと言う名の魔物だった。
今クラーゴンはその凶暴な目をこちらに向け、10本ある足を空中でヒュンヒュンと振り回している。身体がただでさえ大きいから、その足1本が当たっただけでも、この船ぐらいなら木っ端みじんになりそうだ。
ゴンゾさん達は、クラーゴンのあまりの大きさに唖然とした表情で固まっている。
「――ポップ!」
アバン先生の緊迫した声に俺は直ぐに反応した。
突如、クラーゴンが振り回していた足の1本を上空からこちらに向かって振り下ろしてきたのだ。
――やらせるか! 俺は即座に右手を前につきだし叫ぶ。
「
俺の放った風の刃がその振り下ろされる足を迎え撃つ。そして、風の刃は狙い通り、クラーゴンの足の切断に成功した。
切断された足が宙を舞い、大量の水しぶきと共に海面に激突する。俺は、頭から被った海水をうっとうしそうに拭った。
「ガアァオォー!!」
クラーゴンは、足を切断された痛みを感じるのかそう叫び声を上げ、今度は反対側の足を振り下ろしてきた。
俺がそれも迎撃しようと、右手を向けた瞬間、それより一瞬早く一条の光が宙を駆け抜けた。
その瞬間、先ほどの俺の
俺は驚いて隣のアバン先生を見ると、丁度先生がパチンと剣を鞘に収めたところだった。
「ふふ。今のはアバン流刀殺法 海波斬です」
俺の視線に気づいたアバン先生がそう言った。おー、今のがアバン流刀殺法 最速の刀技という海波斬かー。かっけー!
俺がそんなことを考えていると、打撃による攻撃では足が無くなるだけだと気が付いたのか、今度はクラーゴンが何やら溜めをし始めた。
――むっ、あの様子は何か特技か魔法を使うつもりだな。
俺がそう予想したとおり、クラーゴンは突然息を大きく吸い込み、そして次にはその息を俺達に向かって吐き出してきた。クラーゴンの口の周りに氷の結晶が見える。
――これは、氷の息だ!
俺は即座に右手を突き出し、
俺の右手から半円状の緑の光が発現し、船全体を包み込む。かろうじて
即座にアバン先生は、俺の
その
氷の息で見通しの利かない中、見事な魔法の制御だ。
「ガアアアー!」
クラーゴンが痛みに、思わず叫び声を上げながらその巨体をくねらす。
氷の息の放出が止まったため、俺は
「イカの姿焼きにしてやる!
俺の左手から業火が吹き上がり、巨体のクラーゴンの身体を炎が一瞬で包み込む。
「ギャアアーン!!!」
今日1番の悲鳴が上がり、炎に包まれたクラーゴンがもだえる。
やったか? と思い、その様子を見ていると、クラーゴンが突如として海中に沈んだ。
しまった、海水で消火をされてしまった。
海上で海の生物と戦うのは難しいな。海中に逃げられると、こちらとしては手が出しにくい。
俺がそんなことを考えていると、なんと海中から高圧力の海水が海上に向かって噴出された。
その高圧水は船の直ぐ横をかすめていく!
――チッ、奴め、海中から姿を現さずにこの船を沈める方法を取り出したな。
「ポップ!
「はい、アバン先生!」
「おうよ!」
俺とゴンゾさんはアバン先生に返事を返し、言われたとおり行動した。
俺はパキの魔法を発動し、突風を船の帆に当てて推進力を船に与えた。そして、ゴンゾさんはその船を巧みに操り、海中から噴出される高水圧の水を避ける。
まるでモーターボートのように高速でジグザグに動く船。
そして、それを追いかけるように次々に海中から水柱が立ち上がる。
そうやって、高圧水から逃げていると、アバン先生が船の上で
おおっ、これはまるで潜水艦を沈めようとする爆雷攻撃だ。
アバン先生の意図を理解した俺は、アバン先生同様に空いている方の手で
すると、海中で次々に爆球が爆発し、大きな振動が海面上の船まで伝わってくる。
そんな攻防を1時間程続けると、突如海中から放たれる高圧水の噴出が収まり、次第に先刻と同様海面が大きく盛り上がってきた。
それを見て、俺達は再び船を動かし距離を取った。
そして、とうとうクラーゴンが再び海面に現れた。
その姿は、
ようやく海面に浮上してきたんだ。このチャンスを逃がしてはならない。俺は、目をつむり深く集中をした。そして、海面に現れたクラーゴンに対して、先手必勝とばかりに最上位の氷結呪文を唱えた。
「いっけー! ――
俺の右手から放たれた氷雪の嵐が、前方の海も巻き込みクラーゴンに襲いかかる。
この魔法は、氷系呪文としては最高位に位置する魔法だが、正直まだしっかりと習得できたと胸を張ることは出来ない。理由は、制御が難しく、一度使用すると魔法力が枯渇寸前にまで至るほど持って行かれてしまうためだ。実は、これは炎熱魔法の最高位に位置する
もしかするとこれは、幼少期に魔力を鍛えすぎたためかもしれない。威力が出すぎて制御が難しいのだ。だからまだ、こういう前方に味方がおらず、周辺に与える被害を気にせずにすむ戦場でないと使えない代物だ。
クラーゴンは自身に迫り来る氷雪の嵐を見てニヤリと笑みを浮かべる。
俺はその理由は想像が付いた。こいつは先ほど氷の息を吐いた。氷の息を吐くと言うことは、自身には氷系の攻撃に対して耐性があると言うことが容易に想像が付く。
もしかすると、耐性があるというレベルではなく、受けた傷すら回復することになるのかも知れない。
……だが、俺はそんなことは想定内だった。
そう、俺の狙いは最初から
クラーゴンは俺のその狙いに気づかず悠長に
その自慢の足も、大半が氷によって動かすことが出来なくなっており、海面上にある足はわずか3本と言ったところだ。
俺は、急激に襲ってくる疲労感に思わずその場で膝をついた。やはり、氷結呪文最上位の
クラーゴンの様子を見て、アバン先生が即座に動く。船から凍った海の上に飛び降り、クラーゴンに向かって疾走する。クラーゴンも残った足でアバン先生を打ち払おうと振り払うが、それを巧みな足捌きで避けながら接近する。
ならばと、クラーゴンはその口から再び氷の息を吐こうとするが、それは俺が許さない。
俺は、最後の魔法力を振り絞って発現させた13本の氷の槍を、そのクラーゴンの長い漏斗状になっている口に全方位から叩きつけ、その口を槍によって縫い付ける。
氷の息を封じられたクラーゴンは焦りの表情を見せる。
そして、ついにアバン先生は自身の間合いまでクラーゴンに近づいた。アバン先生の手にはいつの間にか逆手にミスリルの剣が握られている。
これは、もしかして!
「――アバンストラッシュ!」
おー! すごい。まばゆいばかりの光の一撃がアバン先生の放った刀身から放たれ、クラーゴンに襲いかかる。
そして、どう考えてもその刀身よりも長いクラーゴンの身体をその光の斬撃は斜めに切断する。
その結果、クラーゴンは体液をまき散らしながら、断末魔の悲鳴を上げることも許されず、凍った海の上に地響きを立てて倒れていった。
以前、嘆きの峡谷でバルバロッサに放った際は、最後しか見ることの出来なかったアバンストラッシュを、今回しっかり見ることが出来た感激に俺は打ち震えた。
「すっげー……。いやすっげーよ、アバンの旦那。おい、ポップ! お前もすげえよ!」
「やった。とうとうあいつをやっつけた!」
「凄いっす。アバンさん、ポップ君。あんな大きい魔物を……」
アバン先生がクラーゴンをぶった切る所を見ていたゴンゾさんや船員の皆が、俺達を褒め称えてくれる。
いやいや、しかし今回は船を巧みに操船して海中からの攻撃を躱したゴンゾさん達の働きもあったからこそ勝ったわけで、決して俺達だけの勝利じゃ無い。
「い、……いえ、ゴンゾさん。この勝利は、船を巧みに操ったゴンゾさん達の働きもあったからこそですよ。……これは、皆の勝利です」
俺は、魔力枯渇による疲労で息も絶え絶えになりながら、ゴンゾさん達の戦いぶりも褒め称える。
「ポップの言うとおりですよ、ゴンゾさん。皆、よく頑張りました。これで明日から漁を始められますね」
俺達の所に戻ってきたアバン先生が、俺と同様ゴンゾさん達の働きをねぎらう。
「……あ、ああ。そうだ、これで漁を始められる。やったぞ、やっと魚を捕れる。おい、お前ら! 早く町に戻って、仲間に知らせてやろうぜ。もう、いつでも魚を捕りに行けるってな!」
「はい!」
ゴンゾさんのその言葉に、船員達が反応し、皆が船の上を忙しそうに動き出す。
やった。これで美味しい魚を食べることが出来る。思った以上に苦労をしたが、その甲斐はあったぜ。
「ポップ。ナイスな援護でしたよ」
アバン先生が、膝をついている俺に手を差し出す。
「アバン先生こそ。凄い一撃でした。やっぱりアバン先生のような魔法戦士って、どんなシチュエーションにも対応出来て、かっこいいですね!」
俺は、そんなアバン先生の手を握り返し、立ち上がった。
「いやー、ただの器用貧乏なんですけどね。改めてそう言われると照れますね。はっはっは」
俺とアバン先生がそんな会話を交わしている間も、船は港に向かっての帰投を始めていた。