転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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37話 原作開始 1年前 オーザム国王との謁見

今俺達は、港からオーザムの町までの街道を移動中だ。

 

なんとその移動は、犬ぞりを使っている。前世の知識で、寒い地域では馬では無く犬にソリを引かせると言うことを知っていたが、経験するのは初めてだ。

 

思ったよりずっと力強くスピードがあって驚いた。ソリを引いている犬は8頭で、皆シベリアンハスキーのような外見をしている。

 

「凄い力ですね、この犬たち。いつもこうして人を運んでいるんですか?」

 

「ええ、毎日港で働く人間を送り迎えしていますし、荷物の運搬もしていますからね。犬は私達に取って家族も同様です」

 

レイドさんが俺の質問に前を向きながら答えてくれる。このソリは縦長になっていて、先頭にレイドさん、次に俺、最後にアバン先生の順でソリに設置されている椅子に座っている。

 

先頭のレイドさんの席からは8本のロープが繋がれていて、それぞれ前を疾走する犬に繋がれている。他に2つのソリが後ろを着いてきている。

 

俺は周囲に目を向ける。左右には広大な森林が広がっていて、目に付く範囲全て真っ白い雪で埋もれている。

遠くの小高い山にある木は木全体が凍っているようだ。あれが樹氷というやつなんだろうか? しかし、まだ8の月だよ。どうしてこんな雪景色になっているんだろう?

 

「オーザムでは、雪が溶けきると言うことは無いんですか?」

 

俺のその質問に、前から目をそらさないままレイドさんが答える。

 

「ありませんね。さすがに5の月から10の月の間で雪が降ることはありませんが、そもそもの気温が低いですからね。11の月から4の月までの間に降った雪の一部は溶けずに残りますので、雪がその間なくなると言うことはありません」

 

なるほどな。この時期、雪は降らないまでも、冬期に降った雪が残っているのか。聞けば聞くほど過酷な環境だな。おや、徐々に森が開けてきたな。俺はレイドさんの背中越しに前に目を向けると、空に立ち上る煙がいくつか見えてきた。もしかして、あれが……

 

「もうすぐオーザムの町です。大変申し訳ありません。お疲れでしょうが、アバン殿とポップ殿にはそのまま我が主ライオネルにお会いしていただきたくございます。どうぞ宜しくお願いします」

 

レイドさんがそう俺達に言った。やはりあそこがオーザムの町なのか。特に城らしい城は見受けられない。

その代わりに大きめの建物が町の中央付近にある。あそこが王の住まいなのかな? ライオネル王か。どんな人なんだろう。

 

少なくとも港からここまで移動する中では、特に不穏な気配は無かった。オーザムの町では違うのだろうか? 

 

俺は遠くにそびえ立つ山を見つめながらそんなことを考えていた。

 

オーザムの町は、レイドさんが言うには、人口およそ5000人というところらしい。

 

俺の育ったランカークス村よりは当然多いが、国の首都と言うことを考えると、どうだろう? ベンガーナの町は2万人以上の人口だったはずだから、やはり国としては小さめなのかも知れない。

 

その町に建っている家々は、屋根が急勾配に尖った構造になっている。これは理解できる。

 

前世の日本でも豪雪地帯はこんな屋根の形状をしていた。屋根に積もった雪を地面に落としやすくしているんだろう。そうしないと雪の重みで家が潰れるから。

 

俺達の乗ったソリは、スピードを大分落として町に入った。そして、そのまま中央にある大きな屋敷を目指している。

 

俺は、町を行き交う人々に目を移した。

皆それほどの厚着はしておらず、半袖の人が多い。積雪も町の中では見受けられない。

さすがに町の中では除雪も徹底しているんだろう。広大な土地を有する国だからだろうか。

家と家の間隔が広く、人が行き交う通りもずいぶん広く取られているように感じた。

 

 

「よく来てくれた、勇者アバン!」

 

町の中央にある建物に入り階段を上った先にある部屋に入った俺達を、開口一番でそう出迎えてくれたのは、30代くらいの大柄の男だった。

 

眼光鋭く、威風堂々とした戦士の風格が漂っている。実用的に見える軽装の出で立ちと狼の毛皮で作ったと思われるマントをつけている。

「はじめまして、ライオネル王。私はアバン。こちらは弟子のポップです」

 

アバン先生がライオネル王にそう返事を返しながら、握手を求めてきたライオネル王の手を握り返している。

 

「王などと呼ぶな、アバン。俺はお前と対等の立場でつき合いたい。ライオネル、で良い」

 

「そうですか。……ではライオネルさんと呼ばせていただきますね」

 

ライオネル王は、アバン先生の肩を叩きながら、初対面だというのに長年の友人のように語りかけている。なかなか気さくな感じの王様だな。

部屋の中にはライオネル王と俺達の他にレイドさんを含めて4人がいる。皆、この王の振る舞いをいつもの様子といった感じで見ており、特に驚いたりしている様子は無い。

 

「お前はポップと言ったな。お前も同じだぞ」

 

ライオネル王は、アバン先生の後ろにいる俺にも握手を求めてきたので、俺も握手を返して返事をした。

 

「分かりました、ライオネルさん。ご招待いただきありがとうございます」

 

「なんの。こちらが無理に招待したのだ。滞在している間は、ここを自分の家だと思ってゆっくりしてくれ」

 

そういいながら、ライオネル王は俺達を暖炉の前にある椅子に座るよう促したので、アバン先生と俺は並んで椅子に腰を下ろした。

ライオネル王はテーブルを挟んでアバン先生の向かいの椅子に座った。

レイドさん達はライオネル王の後ろで直立している。

 

この部屋は暖炉から漂ってくる熱気によって、むしろ熱いくらいに暖まっている。

 

「さて、忙しいところ俺の急な呼び出しに応じてくれたこと、まずは感謝する」

 

ライオネル王はそう言って俺達に頭を下げた。確かに急な呼び出しだったけど、それをまず頭を下げて感謝する姿勢を示すところ、中々人間が出来ている。

俺は改めてライオネル王に好意を抱いた。

 

「いえいえ、それはお気になさらずに。むしろ我々もオーザムの国を見聞できて良かったと考えています」

 

「そう言ってくれるとありがたい。……それで、早速だが相談に乗って欲しいことがあるのだ」

 

そう言って、ライオネル王は少し身を乗り出してくる。さあ、どんな話だ?

 

「……と言うわけで、近頃この大陸に生息している魔物の動きが妙なのだ。活発化しているかと言えば、逆にそうでは無くむしろおとなしい。だが、俺にはむしろその方が気になる。それに、これまでは特に徒党を組むと言うことが無かった魔物達が、集団で行動をし始めた。俺は今の現象がまるで……」

 

「……侵攻を開始する前、つまり『嵐の前の静けさ』ではないかと危惧している?」

 

アバン先生が、ライオネル王の言葉の続きを引継ぎそう言った。

 

「……そうだ。正に今アバンが言った状態を俺は危惧している」

 

「その危惧は当たっているかも知れませんね。今マルノーラ大陸以外の大陸でも、魔物の動きがこれまでと変わってきています。突如として凶暴化する魔物、集団で徒党を組み始める魔物、その集団を指揮する強力な魔物の出現。……私は、これら全てが、魔王軍の再侵攻の可能性を指し示していると考えています」

 

「――なんと! しかし魔王軍は、かつてそなたが魔王ハドラーを倒して瓦解したはずでは……」

 

「……確かに魔王ハドラーを倒して、魔王軍は瓦解したように見えます。ですが、魔界にはもしかするとハドラーをもしのぐ力を持つ魔王がいるかもしれません。3ヶ月ほど前、私達は妖魔師団ザボエラの配下と称すバルバロッサという魔物と戦いました。その言葉から、魔物達は何者かの強力な魔物の指揮の下、いずれ軍団としてこの世界に侵攻をかけてくると言うことが推測できます」

 

アバン先生の言葉に、ライオネル王が放心したように椅子に深く腰掛ける。そして、しばらく目元を押さえた後、ため息と共に言葉を発した。

 

「……師団、か。その話が本当なら、最近の魔物達の動きも合点がいくな。……いつだと思う?」

 

その問いが、魔物達の再侵攻の時期を問うているのは明白だった。アバン先生はその問いに静かに答える。

 

「……おそらく1年以内。早ければ半年と言うこともあり得るかも知れません」

 

「――なんと!」「早すぎる!」

ライオネル王の背後の人達がアバン先生の言葉に反応する。早くて半年、遅くても1年か。本当に時間が無いな。俺自身の能力アップもそうだが、国家単位の侵攻に対する備えもだ。

 

アバン先生の言葉に、しばらく沈黙していたライオネル王が口を開いた。

 

「……アバン。頼みがある」

 

「……何でしょうか?」

 

「我が国の、魔物に対する備えに協力してもらえないか。魔物との戦いに精通したアバンに、知恵を借りたい」

 

なるほど。これがアバン先生を呼んだ本当の理由だった感じだな。ライオネル王も魔王軍の再侵攻の可能性について薄々と気が付いていたのだろう。

 

先ほどまでのアバン先生とのやりとりは、自分のその感覚が正しいか、アバン先生と会話することで掴もうとしていたように感じる。

 

「……分かりました。どこまでお力になれるか分かりませんが、できる限り協力しましょう。ポップもよろしいですか?」

 

「もちろんです、アバン先生」

 

「おお! 助けてくれるか! いや、本当に感謝する、勇者アバン。それにポップも」

 

ライオネル王がアバン先生の返事に全身で喜びを表す。後ろの人達も皆一様にホッとした表情をしている。アバン先生、頼りにされているな。

 

「それでは、早速ですが、ライオネルさんが考えている具体的な戦略をお聞かせ頂けますか?」

 

アバン先生がライオネル王にそう問うと、ライオネル王は笑みを収め再び真剣な眼差しになり、アバン先生に返事を返した。

 

「うむ。我がオーザムの町には城壁が無い。これでは魔物の襲撃に持ちこたえられないため、まずは城壁を作ろうと思う。そして、長期間籠城できるだけの兵糧の用意と武器の調達。オーザムの国は陸地で他の国と接していないからな。リンガイア国とは友好関係を結んでいるが、危急の際に直ぐに助けに来ることは困難だろう」

 

「なるほど。十分な兵糧の用意と武器の調達。それは大事なことですね。1つだけ助言をさせていただくとすれば、おそらくこの地を攻めてくる魔物は、氷への耐性を持った魔物でしょう。そうで無ければ、この地で十分に活動できませんからね。そして、そういう氷の耐性を持った魔物というのは、一般的に炎を苦手としています。つまり、武器の調達では、炎による攻撃が可能な武器、例えば火薬や火矢などを多めに用意すると良いでしょう。そして、可能なら炎の魔法を使う魔法使いの育成も出来れば良いのですが、この国に戦闘に耐えうる魔法使いはどの程度おられますか?」

 

「ふむ。炎を用いた攻撃手段が執れるように武器を調達すべき……か。うむ、良い考えだと思う。それと、魔法使いか……。レイド、どうだ?」

 

ライオネル王が後ろに立っているレイドさんに問いかける。

 

「は。我が国には、残念ながらそれほど多くの魔法使いはおりません。私が把握している限りでは、およそ10名程度でしょうか。後は現在町に滞留している冒険者も含めると多少増えるでしょうが、それらを合わせても20名いくかどうかと言うところだと思います。その上、炎の魔法を使える人間となると、更に数が減ってくるかと」

 

「ふむ。数は心許ないが、どう思う、アバン」

 

「……そうですね。その方々に対して炎の魔法の伝授を行うのは当然として、後は魔道具を活用して、数の少なさを補うのはいかがでしょう?」

 

「しかし、アバン。魔道具というが、それは中々高価なものだぞ。それほどの余力は……」

 

「いえ、購入する必要はございません。この国は、魔道具の元となる魔結晶を採掘できますよね。その魔結晶を使い、私とポップが炎の魔法を行使する魔道具を大量に作りますよ。できますよね、ポップ?」

 

「はい、素材の魔結晶さえあれば、問題ありません」

 

炎の魔法程度を発現する魔道具ならそれほど苦労せずに作れるだろう。

 

「おお、なるほど。その手があったか。それは、是非お願いしたい。ランス、直ぐに魔結晶を確保するよう手配を」

 

「はっ。早速連絡してきます」

 

ランスと呼ばれた人物はライオネル王に返事を返し、部屋から退出していった。対応が早いなー。

 

「後は、城壁の効率的な作り方も過去の文献で見たことがありますので、それは後でお教えしますね。とりあえず、私が今思いつく助言はそれぐらいですが……、ポップ、あなたからは何かありませんか?」

 

アバン先生はそう言って俺の方を向いた。ん? 俺に聞くのか? そうだな。確かこの国を襲ったのは、氷炎将軍フレイザードだったな。だから、属性持ちの魔物が襲ってくると言うアバン先生の推測は正しい。

 

後は、このフレイザード自身はこの国を滅ぼした後、遠い南の大陸のパプニカに渡り、そこでダイ達に敗れて滅びる結果だったはずだ。

その後原作では描写が無かったと思うが、指揮をする将軍のいなくなったこの地で魔王軍がそれまでと同様の働きが出来たとも考えにくい。となれば、……。

 

「……そうですね。死んだふりなんていかがでしょうか?」

 

「死んだふり!?」

 

「ポップ、それはいったいどういう……」

 

俺の言葉にライオネル王が驚愕し、アバン先生は困惑している。

 

「……ええと、具体的には先ほどまでのライオネルさんとアバン先生のこの地で籠城するっていう作戦の続きの話です。もちろんこの地で敵を最後まで防ぎ切れたら良いんですが、敵の規模も分かりませんし、他国からの援軍が確実に来るかどうかも分かりません。ですので、万が一のために、逃げ道を用意しておいて、この町が陥落しても逃げた人達はその先で息を潜めて魔王軍の脅威が去るのを待つ、という考えなんですが……駄目ですかね?」

 

俺はより具体的な案を皆に提示した。要するに、万が一のための避難場所を構えておきませんか、という話だ。

 

俺の予想では、組織された魔王軍の猛攻は長くは続かない。だったらその期間だけ息を潜めて隠れていれば、大多数の人は助かるのではと思ったんだが、消極的すぎる提案だろうか?

 

「ふーむ。万が一のための民の避難場所を確保しておくというのは、王として考えておく必要のある提案だと思える。アバン、お前はどう思う?」

 

「はい、ポップの提案は言われてみればその通りだと思います。付け加えるとすれば、このマルノーラ大陸はほとんどの土地が未開の地ですので、いったんその未開の地に避難をすれば、いかに魔王軍といえど、すんなりとは避難先を把握する事は困難かも知れません。少なくとも、分かりやすい攻略目標のあるこの町よりは敵も攻略に手間取るかと」

 

「うむ。俺もそう思う。だが、今ポップが言った提案を採用するにはいくつかクリアすべき点があるな。1つ目は、敵に気づかれずいかにこの町から住民を避難させるか。2つ目は、避難先の構築。この過酷な環境だ。屋根、壁のある施設は当然として、薪などの暖をとる手段がないと住民は1日と持たずに凍死するだろう。これらについて、ポップはどう考える?」

 

「はい。自分もその2つはクリアすべき課題と考えます。ですが、解決案はございます。1つ目の、この町から住民を避難させる方法ですが、それは僕の魔法で地下に通路を作り、そこから住民にこの町から安全に退去して貰います。そして2つ目ですが、この国は魔結晶を採掘していますよね? それなら廃坑になった坑道もいくつかあるのではないでしょうか? そういった坑道を少し工夫することで、仮の住まいを製作できると思いますし、暖を取る手段についても少し魔結晶を融通していただければ解決できると思います」

 

俺の言葉に、ライオネル王は一瞬驚いた表情をして、アバン先生の方を伺った。多分俺の言ったことが、本当に出来るのか疑念を持っているんだろう。

 

まあ、そりゃそうだろう。アバン先生と違い俺はまだ実績が無い。実績が無い者の発言を、どこまで信じれば良いか困惑しているんだと思う。

 

そんな疑念の表情を向けられたアバン先生は、少し考えた後ライオネル王に言葉を発した。

 

「ライオネルさん。このポップは年は若いですが、既に魔法力においては私を凌いでいます。そして、先ほどの提案を聞いて分かるように、柔軟な発想力も持っています。ポップが出来ると言うのでしたら、信じて良いと私は思いますよ」

 

おお、アバン先生は信じてくれたようだ。後はライオネル王だが……。アバン先生の言葉を聞いて、ライオネル王は少し目を閉じた後、こう言った。

 

「……よし、分かった。元々お前達に助言を請うたのは俺だ。その俺がお前達を信じずにどうする。アバン、ポップ。お前達の提案を受けようと思う。すまんが、この国のために力を貸してくれ」

 

そう言いながら、改めてライオネル王は俺達に頭を下げた。後ろに立っている人達も皆一様に頭を下げてくる。

 

「分かりました、ライオネルさん。それでは私達は私達に出来ることをさせて頂きます。これからどうぞよろしくお願いします」

 

アバン先生は、そうライオネルさんに声をかけて、再び硬く握手をした。これによって、俺達のオーザムでの助力が決定した。

 

 

その会談の後、簡単に仕事内容の分担が決められた。アバン先生は、城壁の構築についての助言と魔法使い候補の人達への魔法の指導及び魔道具の製作。

 

俺は、町から脱出するための地下道の構築と、避難先での仮設備の構築。どうしたって長期間の滞在になりそうだったから、ライオネル王が俺とアバン先生のために1軒の小さな屋敷を提供してくれた。

 

小さなと言っても、2人で住むには十分すぎる広さだ。料理や洗濯と言った細々な事をしてくれる家政婦さんも通いで来てくれることになっていて、至れり尽くせりだ。

 

 

 

 

 

そうして、俺達がオーザムの町に着いてから1ヶ月の月日が過ぎた。

 

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