転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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38話 原作開始 1年前 オーザム国での日々

 

「おや、ポップ。今帰りですか。疲れたでしょう。お風呂が沸いていますので早く行ってきなさい」

 

「ああ、アバン先生。今戻りました。はい、それでは行かせて貰います」

 

俺はアバン先生にそう返事を返して、浴室に向かった。

 

今は午後6時ぐらいになる。

 

俺は今日の地下道の構築作業を終えて、ライオネル王が貸してくれている一軒家に戻ってきたところだった。

 

アバン先生と俺はそれぞれが別の作業をしているので、この1ヶ月ほどは朝それぞれの持ち場に出かけて、夜帰ってきて顔を合わすという生活をしていた。

 

俺はほぼ毎日、ライオネル王の住んでいる屋敷の敷地内から地下に降り、そこから町の外に向かう地下道を作っていた。

 

地下道の構築に使用している魔法は泥沼呪文(ドロヌーバ)だ。この呪文で地盤を泥状に変化させ、その泥をかき分けることでどんどん地下道を作っていく作業だ。

 

泥の運搬作業のために、俺の元には10人程度の作業員が付けられている。皆、年少の俺の指示に嫌な顔一つせず従ってくれる。ありがたい話だ。皆の協力もあり、この1ヶ月で3kmほど地下道を掘り進むことが出来た。

 

最終的には、5km程の地下道になる予定だから、ようやく半分を折り返したと行ったところだ。毎日泥にまみれて地下で作業しているため、自分がモグラになったような気分だ。

 

お風呂に入り、汚れた身体をさっぱりさせた俺は食堂に向かった。食堂からは既に良い匂いが漂ってきている。この匂いはシチューだな。

 

バレリアさん(通いで来てくれている家政婦さんだ)の作る料理は美味しいから楽しみだな。食堂では既にアバン先生が部屋着に着替えて俺を待っていた。

俺達は日中別々に行動しているから、夕食時には基本的に一緒に食べて情報共有を図ることにしている。

 

「お待たせしました、アバン先生。バレリアさん、いつもありがとうございます」

 

俺はアバン先生とバレリアさんに挨拶して席に着く。

 

「いえいえ、バレリアさんと楽しく会話をさせて頂いておりました」

 

「お帰りなさい、ポップさん。今日はビーフシチューですよ。いっぱいおかわりして下さいね」

 

そう言いながら、バレリアさんは湯気のでている鍋から俺達に料理をよそってくれる。実に美味しそうだ。

このバレリアさん、30代前半の恰幅の良い女性で、旦那さんと3人のお子さんが居るらしい。

 

「バレリアさん、後は我々で出来ますので、今日はもう帰って頂いて結構ですよ。お疲れ様でした」

 

「そうですか。いつもありがとうございます、アバンさん。それでは、お言葉に甘えて失礼しますね。あ、ポップさん、昨日の服は洗濯が終わっていますので、部屋に置いています」

 

「分かりました。ありがとうございます、バレリアさん。お疲れ様でした」

 

バレリアさんは軽く会釈をしながら、自宅に帰宅するため部屋を出て行く。その様子を見ながら俺はバレリアさんのよそってくれたシチューを口に運ぶ。うーん、相変わらず美味しい。

 

「どうですか、ポップ。地下道の進捗状況は?」

 

アバン先生もシチューを口にしながら、俺の方の仕事の進捗状況を確認する。

 

「はい。おおよそ6割方と言ったところでしょうか。既に町の真下は通過しているので、これから先はもう少し進捗率が上がると思います。アバン先生の方はいかがですか?」

 

どうしても町の真下を掘っている間は、沈下などの懸念もあって慎重に行っていたが、町を抜ければもう少し効率も上げられるだろう。もちろん安全第一が基本だが。

 

「私の方は、城壁の構築、魔法使いの方達への指導についてはおよその目処が付きました。後は火の魔法を発する魔道具の作成ですが、こちらの方はあればあるほど良いので、時間の許す限り続ける感じですかね。……あぁ、そうそう。ライオネルさんがポップを気晴らしに狩猟に連れて行きたいと言っていましたよ」

 

「そうなんですか。それじゃあ、明日ライオネルさんに話してみます。楽しみだな」

オーザムに来てからというもの、ほとんどの日数を地下にこもって過ごしている俺を、申し訳ないと思ったらしいライオネル王が、俺をオーザム近傍の森に連れて行きたいと言ってくれているのは、以前から聞いていた。

明後日ぐらいなら大丈夫そうだから、明日聞いてみよう。

 

 

それから更に1ヶ月が過ぎた。

 

地下道の構築は2週間前に無事完成した。今は、ライオネル王が選定した箇所に避難施設を作っているところだ。ベースは、俺が提案した通り、すでに廃坑となった坑道だ。

 

約5000人の住民に対して5箇所の避難施設を作ることになったため、1箇所当たり約1000人が住めるような大規模なものになる。5人家族として考えても200の部屋が必要な計算だ。

 

使用した魔法は、やはり泥沼呪文(ドロヌーバ)の魔法だ。とにかくアリの巣のように坑道内の200もの箇所を泥沼へと変化させ、その泥を掻き出すことで作成している。

この魔法を教えてくれたルーサには、もう足を向けて寝られないほど感謝している。

 

ただ、さすがに1000人もの人数を収容できる規模の施設を作るのは魔力量の関係で、1箇所に1週間はかかった。

 

そして、管理ルームにあたる部屋には大型の魔道具を設置し、その魔道具には温風を発する呪文を刻み込んだ。つまるところ、超大容量エアコンだ。これは、俺が前からドライヤーとして使用していた熱風呪文(メラパ)をただ転用しただけだ。

 

薪の絶対量が足りなかったため、その部分は魔法で応用したわけだ。この魔道具は温風の魔法が使えなくても、魔力のある人間が触れるだけで魔法力の充填が出来る。

 

魔法を唱えられるほどの魔力を持った人間は少なくても、最低限の魔力はほとんどの人間が持っている。住民が交代でこの魔道具の魔力を充填していけば、避難している間稼働させる分には問題ないはずだ。

 

そうして俺は次々と避難施設を構築していった。あまりのエンドレスな作業に、俺は途中で何故死んだふり作戦なんて提案したんだと後悔したこともあったが、アバン先生も頑張っているし、オーザム国の人達も食料の備蓄など生き残るために必死で頑張っているので、どうにか自分を奮い立たせて頑張った。それに、ここだけの話、始めてみるとクラフト作業みたいで意外に楽しかったりもしたんだよな。

 

そうして、この町に来てもうすぐ3ヶ月という頃、ようやく全5箇所の避難施設が完成した。どの施設も、遠くからはもちろん、近くで眺めても雪山としか見えないほどの出来ばえだ。

 

ライオネル王も避難施設の入り口に案内されても、入り口がどこか分からなかったほど偽装は完璧に施している。

 

「……ポップ。俺は約束するぞ。これから先、たとえ俺が死んでも俺の子孫には、お前に最大級の敬意をとり続けることを厳命する。もちろん、アバン。お前にもだ」

 

ライオネル王は、俺とアバン先生にそう言った。アバン先生の方も、城壁の構築、魔法指導、魔道具の作成作業を完了していた。

 

「……まだ何かを成しえた訳ではありません。オーザム国が、この3ヶ月で我々が用意したものを最大限に活用しえた後に、その謝意を受けたいと思います」

 

アバン先生がそう返答する。そうだな。俺達が用意したものはまだ何の役割も果たしていない。全てはこれからの事だ。

 

「ライオネルさん。オーザムにとって大変なのはこれからです。今後発生するであろう事態を切り抜けてから、俺は改めてこの地で皆さんとお会いしたいです」

 

俺もライオネル王にそう返答する。

 

「……ああ、そうだな。全てはこれからだ。お前達のこの3ヶ月の努力を無駄にせぬよう、民を一人でも救えるようにしなくてはな。これからは俺達の仕事だ。アバン、ポップ、本当に感謝する。全てが終わったら必ずもう一度この地に来てくれ。朝まで共に飲み明かそう!」

 

ライオネル王とその部下の方達が一様に俺達に頭を下げる。アバン先生は、照れたように苦笑しながら、ライオネル王と握手をした。

 

それから2週間、俺達は更にオーザム国に滞在した。ライオネル王と約束した作業は終えていたが、この3ヶ月あまりの間、ほとんど修行らしい修行が出来なかったため、アバン先生から修行の時間を確保しようと提案されたためだ。

 

もちろん俺としても断る話では無いので、それから2週間ほどアバン先生と2人で修行に明け暮れた。

8の月にこの地に足を踏み入れ、今は11の月の半ばになっている。10の月の終わり頃から雪が次第に降り始め、11の月に入ると、ほぼ毎日雪が降っている。

 

そんな豪雪地帯で修行を繰り返したからか、俺の魔法スキルは主に氷結系で向上が見られた。

そう、とうとう氷結魔法最上位呪文である氷系呪文(マヒャド)の制御に成功したのだ。これで魔法を詠唱しても、根こそぎ魔力を持って行かれる事態を防ぐことが出来る。

 

しかし豪雪地帯で修業したことで氷系呪文(マヒャド)を習得できたのなら、火炎呪文(メラゾーマ)を習得するにはどこか火山地帯にでも行けば習得できるんだろうか? あったかな、そんな場所?

 

もちろんその間、アバン先生に棍の修行もつけて貰った。

 

魔法スキルの向上に比べて、牛の歩みのような棍スキルの向上率だが、それでもどうにかアバン流刀殺法の初伝にあたる『大地斬(だいちざん)』に相当する『地竜閃(じりゅうせん)』という技を指南して貰うところまでこぎ着けることが出来た。

 

しかし、この地竜閃と言う技、やはりなかなか難しく、アバン先生と同じ行動を取っているにもかかわらずなかなか発動しない。

 

上手く発動すれば大地が裂けるほどの威力らしいんだが(実際にアバン先生がやった時は大地が裂けていた)、いくらやっても大地は裂けてくれない。

……うーん、まあ、練習有るのみだな。

 

そうしてアバン先生に修行をつけて貰って2週間が過ぎ、いよいよ明日オーザム国を去るという日が来た。

 

今日は、先ほどまでライオネル王の屋敷に招待され、アバン先生と共に食事をご馳走になっていた。

これまでの感謝と言うことで、たくさんのご馳走がテーブルに並んでいた。さすがに今後発生するであろう魔王軍との戦いに向けてできるだけ備蓄を増やしている段階のため、多少質素ともいえる内容だったが、そんな中でも俺たちに対してできるだけの歓待をしたいという気持ちが伝わってきて、とてもうれしかった。

 

3ヶ月もこの国に滞在したことで、ライオネル王やレイドさん以外にも親しい人が沢山出来た。ずっと身の回りの世話をしてくれていたバレリアさんも招待されていたので、皆と楽しいお別れ会をする事が出来た。

 

……大魔王との戦いが終わった後、また皆に会いたいものだ。

 

そしてお腹いっぱいになるまで食事をいただき、その後貸し出されていた屋敷に戻った際に、アバン先生から就寝前にコーヒーでも一杯どうかと誘われた。

 

なので、今はアバン先生と2人、リビングに置かれているソファに腰掛けてゆっくりコーヒーを頂いている。

コーヒーはランカークス村でも飲んだことがあるが、もともとコーヒーにそれほどこだわりの無い俺はこの世界と前の世界のコーヒーの違いが分からない。

 

「思いのほか、このオーザム国での滞在が長引いてしまいましたね、ポップ」

 

「そうですね、アバン先生。でも、とても貴重な経験が出来たと思っています」

 

「ふふふ。ポップはどこに行っても前向きで良いですね。……さて、それでは本当に今更の話で恐縮ですが、ポップの賢者育成コースの卒業の話をしましょうか」

 

「――ごふっ! ちょっ、え、待っ……」

 

ちょ、待ってよ、アバン先生! そんな爆弾発言いきなりされたもんだから、コーヒーが気管に入ってしまったじゃ無いか。く、苦しい……

 

「ああ。大丈夫ですか、ポップ。ほら、これで顔を拭きなさい」

 

そう言ってアバン先生は懐からハンカチを出して俺に貸してくれる。俺はそれを受け取りながらアバン先生に返事を返す。

 

「い、いきなりそんなことを言い出すからですよ、アバン先生」

 

「そんなに驚くようなことですか? あ、そうそう。卒業と言っても、別に卒業すればランカークス村に帰れなどと言うつもりはありませんよ」

 

アバン先生は手を左右に違う違うと振りながら俺にそう言った。

 

「ポップは、もう私にとってただの弟子ではなく、パートナーだとも思っています。ここオーザムでも、ランツェやラドルでもそうですが、ポップがいないと大変な所でした。たとえ賢者育成コースを卒業しても、ポップさえよければ、ポップには私の旅に同行してもらいたいと思っていますよ。……棍の修業もまだまだ先は長いですしね」

 

アバン先生はそう言って、にまっと俺に笑みを返してくれた。

 

「……それなら安心しました。もちろん俺も、先生の旅にこれからも同行したいです」

 

「そうですか。それでは、最初の話に戻りましょう。ポップには、賢者育成コースの卒業試験を課したいと思っています」

「卒業試験……ですか。それはどのようなものでしょうか?」

 

卒業試験か。原作でそんな場面あったかな? よく覚えていないな。

 

「試験と言っても、ポップの魔法方面の技術については恥ずかしながら既に師である私を超えています。最初こそ経験不足な場面も否めませんでしたが、今では十分練達の域にあると言えますしね。今更その分野の試験をポップに課しても意味が無いでしょう。ですので、私がポップに課したい試験は、……ずばり魔法の1週間使用禁止です!」

 

「き、禁止ですか……。それは、どんな魔法も、という意味ですか?」

 

「そうです。あらゆる魔法の1週間使用禁止を試験としたいと思います。この試験の目的は、ポップに魔法の効用というものを初心に戻って理解してもらおうと思ってのものです。魔法を使えるようになったことで、知らず知らずのうちに魔法を使えなかった頃の苦い経験を我々は忘れがちです。ここはポップに一度初心に戻っていただき、魔法を使えない不便さを思い出してもらおうと思いました」

 

なるほど。確かに魔法を使えるようになってからは、魔法を使えなかった頃の不便さを忘れかけている気がする。だけどそれはただ忘れていいものではなく、きちんと覚えておかないといけない事も多くある。アバン先生は、今回の試験でそれを俺に思い出してもらいたいのだろう。

 

「分かりました。その試験受けさせていただきます」

 

俺はアバン先生にそう返事を返した。

 

「ポップなら受けてくれると思っていました。心配しなくても、試験に失敗してもまたやり直しは認めますからね。……ポップは直ぐ無理をしますから。失敗しても、また再挑戦して良いんですよ」

 

「はい。でも気持ちだけは、試験は一度きりのつもりで受けたいと思います。試験は今この時間からでよろしいですか?」

 

「そうですね。今ちょうど午後8時頃と言ったところですから、1週間後のこの時間まで使用を禁止することにしましょうか。つい忘れて、使ってしまっても駄目ですからね」

 

「はい、分かりました。気を付けます」

 

確かに寝起きとか、つい魔法禁止を忘れて使ってしまいそうだ。気を付けよう。

 

その後はアバン先生と少し話した後、それぞれの部屋に戻って明日からの旅の準備をした後就寝した。

 

翌日、俺達はオーザム国を出発した。帰りは、俺達の次の目標がリンガイア国であることを知ったレイドさんが、リンガイア国まで送ってくれた。

 

オーザムからリンガイア国までは約3日というところらしい。アバン先生はリンガイア国は城塞都市と言っていたけど、どんな国なんだろう。

 

俺はまだ見ぬ国の姿を期待して船上の人となった。

 

 

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オーザム建国史の1ページには、大魔王戦役勃発直前に行われた対魔王軍を想定した対策も記されている。その中には当然、アバン・デ・ジニュアール3世とポップ・マーカストンの助力を得て行った城壁の構築や地下道整備、避難施設の名も記されている。

 

残念ながら、当時のオーザムの町の城壁については大魔王戦役時に失われてしまったが、当時のオーザム国兵士約千人に対して1万もの大群で攻め寄せた魔王軍に甚大な被害を与え、1週間の長きにわたりオーザムの町を守り通したほどの城壁であったという。

 

また、ポップ・マーカストンの製作した避難施設については大魔王戦役から150年経った今でもその一部は現存している。この避難施設は、大魔王戦役時に活用されただけではなく、戦役終結から数十年が経過した後のオーザム国による未開地域への入植計画でも、入植者の仮住まいとして使用されている。

 

その後、大規模な雪崩によって3ヶ所の避難施設が埋没してしまったが、2ヶ所は現在でも残っており、その歴史的な価値は極めて高いと言われている。

 

特に、ポップ・マーカストンがこの施設内部に構築した統一的な室温調節室や密閉空間で居住者が快適に生活するために用意した様々な魔道具については、その後の集団住居施設建築時に必ずと言って良いほど参考にされている。そして、その施設の一部は、現在の知識・技術でもってしても再現不可能と言われるほど先進的なものであった。

 

大魔王戦役から150年経った今でも、歴代オーザム国王はアバン・デ・ジニュアール3世とポップ・マーカストンに連なる者を国賓待遇で遇しており、毎年オーザム国内で取れた海産物などの特産品を彼らのもとに送り届けている。

 

それは、彼らと直接交友のあった第8代国王ライオネルの代から続いており、ライオネル崩御後も、遺言により必ず守り通されるべき事の最上位に挙げられるほど王族内で徹底されているという。

 

この事実は、彼らがこの地で行った無償の助力に対し、いかにオーザム国が謝意を抱いているかを如実に表している例として広く世に知られている。

 

 

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