ギルドメイン大陸の南の海は、北で見た海よりずっと青々としていた。それはまるで、前世で言うところの太平洋と日本海の海の違いのようだった。
俺は前世では日本の太平洋側で生まれ育ったから、今目の前に広がる太平洋と似た色の海の方に馴染みがあり、ほっとしていた。
「ほら、ポップ。あまり身を乗り出すと危ないですよ」
アバン先生が、甲板上の手摺りに身を乗り出して下を覗いている俺の背後からあきれたように声をかけた。俺は、アバン先生の方を振り返って、返事をする。
「でも、アバン先生。オーザムで見た海と大分違いますよ。初めて見る魚も居ますし、昨日も思ったんですが、ギルドメイン大陸の北と南で海って全然違うんですね」
「そうですね。ギルドメイン大陸の北と南で海流の流れが違っているらしく、魚の種類も多少違うと聞いています」
そうなのか、海流が違うのか。いつか潜水艦のような乗り物を作って、海の中を探検してみたいな。魔王軍との戦いが終われば、研究してみよう。
「そうなんですね。ところで、アバン先生。俺達は、ロモス王国にたどり着く前にこの船を下船すると聞いたんですが、どうしてなんですか?」
「ええ、私達はロモス王国の首都の2つ手前の港町『カーゴ』という名の港で下船します。その港からが1番デルムリン島が近いんですよ」
……そうか。俺は世界地図を頭に思い出しながら納得した。確かにロモス王国の首都まで行ってからデルムリン島に向かうと、かなりの距離をまた戻ることになって非効率だ。
それよりは、ラインリバー大陸の最南端に位置する港町から小舟でデルムリン島に移動した方が近いんだろう。確かに原作でもアバン先生達は小舟でデルムリン島にやってきていた。あれは、今回のアバン先生の選択と同じく、『カーゴ』という町で小舟を調達していたんだろう。
「なるほど。カーゴには明後日の朝着く予定でしたね。……じゃあ、俺はまた舳先で瞑想していますね」
俺はアバン先生にそう言って、舳先の方に足を向けた。
「あまりやり過ぎてはいけませんよ、ポップ。舳先は風が強いですから、しっかりと防寒も忘れないように。それと、昼食時には瞑想をやめるんですよ」
「ははは。分かっていますって、アバン先生。じゃあ、また後で」
俺はアバン先生にそう返事を返して、修行を行うために舳先に向かった。どこで瞑想をしても良いんだが、なんとなく気分的に舳先で行うと集中力が増すんだよ。風も気持ちいいし。
アバンは、舳先に向かう弟子の背中を苦笑しながら見つめていた。元々向上心の強い弟子だったが、カールに帰還した1週間ほど前から特にその傾向が強くなった。
修行に熱心なのは良いことだが、アバンとしては弟子が生き急いでいるようにも感じられ、そこが少し不安に思うところでもあった。
昨日などは昼食も抜いて瞑想に没頭し、夕食まで抜こうとしていたのでさすがに3食はしっかり取る事をポップに言い聞かせないといけないほどだった。
もしかすると、ポップなりに今回のデルムリン島行きの旅に感じるところがあるのかも知れない。パプニカ王国からの依頼が発端のダイという少年への家庭教師。手紙には、勇者育成コースでと書かれていたが、もしかするとこのダイという少年が、ポップのかねてより求めていた勇者なのかもしれない。
その可能性をポップも感じ、今まで以上に自身の技能向上に励んでいるのかもしれない。
魔法使いがその能力を十二分に発揮するには、頼りになる前衛がどうしても必要になる。これまではその役割を自身が務めていたが、ダイというポップと同世代の少年がその役を務める事が出来るのならそれに越したことはない。
アバンは、ポップのためにも今回の勇者候補生ダイの指南役を成し遂げなくてはいけないと心に誓った。
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「へー、ここがカーゴの町ですか。同じ港町でもランツェの町とは大分趣が違いますね」
「そうですね。私も来るのは初めてですが、ランツェの町よりは小さい感じですね」
俺達は、ロモス行きの船から、途中カーゴの港町に船が立ち寄った際に下船した。
俺達以外にこの町で下船した人間はいないようだった。
「さて、まだ早朝ですし、まずは朝ご飯を頂ける店を探してみませんか。もしかしたらそこで船の調達の話も出来るかも知れませんし」
「良いですね。やっぱり魚が美味しいんでしょうかね? 地元の漁師さんが集まるお店とか見つけられると、ご飯も美味しそうだし、船の交渉もできそうで一石二鳥ですね」
俺はアバン先生の提案に全面的に賛成し、まずはご飯を提供してくれそうな店を探すことにした。
歩き出して直ぐに、漁師さんらしき人達が複数入っていく店が目に付いたので、その店を覗いてみると思っていたとおり、食堂のようだった。俺はアバン先生と顔を見合わせ、互いにニヤッと笑みを浮かべて、その店に入った。
「はい、お待ち! カナーデのタタキ丼2丁ね」
ドン、と俺達の座ったテーブルに置かれたのは、まさにご飯の上にカツオのタタキが乗ったタタキ丼だった。
炭火で焼かれた美味しそうなカツオのタタキが実に食欲をそそる。さすが太平洋に似た色の海だ。魚もカツオとカナーデという名前の違いこそあるが、紛れもなくカツオだ、これは。
俺は感激しながら、そのカナーデのタタキ丼を口に運ぶ。
「――うま! アバン先生、これめちゃくちゃ美味しいですよ!」
「! 本当ですね。それに、このカナーデの下に敷かれている白い食べ物はもしかしてお米ですか? こういう風に食べるのは初めてですが、実に美味しいですね」
そう、この世界でも米が存在するという事はランカークス村でも確認していたが、それほど世間に普及はしていないようだった。しかし、この町では米をまさに前世の世界と同じ使い方で主食として使っているようだ。
「あの、この米という食材はこの辺りでは皆さん主食として使用しているんですか」
俺は、食事を運んできてくれた気っぷの良い女性の店員さんに聞いてみた。
「ああ。この地方ではほとんどの人が米を主食として食べているよ。この町の北の方は、土地が水はけが悪くてなかなか作物が育たないんだけど、逆に米を育てるのには向いていてね。だから、この辺りは米と魚を特産品として売り出しているんだよ。両方が一度に食べられる丼は大人気なんだよ。気に入ってくれたんなら、米だけでも販売しているから、是非買っていっておくれよ!」
おお、なんとこの町の周辺は米の一大産地だったのか。知らなかった。これは、レシピは構築していたものの、十分な量の米が集まらず出来なかったあの料理が作れるかも知れない。
この町はしっかり記憶に刻んでおかなくては。いずれルーラで何度も食材を買いに来ることになりそうだからな。
「お、お姉さん。是非その米を売ってください!」
「あいよ! 後で会計の時に言ってくんな」
「……ポップ。ずいぶん沢山買い込みましたね。私が持ちましょうか?」
「い、いえ。アバン先生にそんなことをさせるわけにはいきません。大丈夫です。行きましょう」
俺は今、左右の肩にそれぞれ5kgづつ、合計10kgの米が入った袋を背負い、アバン先生の後ろをふらふらしながら歩いている。
久しぶりに見る大量の米に思わずテンションが上がってしまい、買いすぎたのかも知れないが後悔はしていない。これは必要なものだ。
絶対にデルムリン島に持って行って、ダイやブラスさんと食べるんだ。
「ま、まあポップがそう言うならお任せしますが。辛くなったら言うんですよ」
「はい、アバン先生。ありがとうございます」
今俺達は、先ほどの食堂を出て、港の外れに置いてあるという小舟まで移動している。
食堂で小舟を売ってくれる人がいないか、という話を店員さんにしたところ、丁度店に食べに来ていた漁師の一人が、もう使わなくなった小舟で良ければ売っても良いと言ってくれたのだ。
特に傷んでいる訳ではないという事だったので、その場で交渉してうまく小舟を調達することが出来た。
「おや、どうやらあの船のようですよ、ポップ。先ほどの方もおられますし」
「あ、本当ですね、アバン先生。マストもついていますし、結構綺麗じゃないですか」
俺達が港の隅の方に目をやると、小さな船がポツンと港に浮かんでいた。その側には、さきほど価格交渉をした漁師の人もいる。
「よう、あんたら。遅かったな。この船だが、話していたとおりだろう。見ての通り、特に問題なく海に出れるし、マストも多少傷んでは居るが、まだまだ現役で使えるぜ」
「ええ、十分です。ありがとうございました。おかげで助かりました」
「良いって事よ。金も十分貰っているしな。だけどあんたら、本当にあの島に行くつもりかい?」
漁師はそう俺達に問いかける。
「……? あの島に何か問題があるのですか?」
「おいおい、あんたら知らずに行くつもりだったのか? あの島は別名『怪物島』と言われていて、俺達この町の漁師は誰もあの島に近づきやしないぜ。実際何年か前に勇者様一行があの島に行ったらしいが、魔物だらけでひどい目に遭ったと言っていたぜ」
何年か前に勇者様一行が行った? それって、自称勇者の一行がゴールデンメタルスライムのゴメを誘拐しに行ったときの話じゃないのか? 全くあいつら碌な事しないくせに、あることないこと言いふらしやがって。
あそこは、地上に残された最後の楽園と言っても良いところだぞ。
「そうなんですね。ですが、我々の目当ての人物があの島にいるらしいので、行くしか他に手はありません。ご心配頂きありがとうございます」
アバン先生が、漁師にそう返答した。
「全く物好きなことだな。ああ、それと今日は天気は良いが、どうも海の様子がおかしい。さっきまで漁に出ていた連中が言うには、今日の漁獲はさっぱりだったらしい。何かおかしな事が起きる兆候かも知れん。気をつけてな」
「分かりました。貴重な情報ありがとうございます」
アバン先生はそう返事を返すのを横耳で聞きながら、俺は荷物を船に移す作業を始めた。
「アバン先生、空の様子が……」
俺は船の上でマストに
「……ええ、これはいよいよゆっくりしている暇はありませんね」
アバン先生も空を眺めて厳しい顔をしている。
カーゴの町を出て約2時間。デルムリン島までは後半分程度といった距離まで来たところだった。
先ほどまでの快晴が嘘のように、北の方から暗い雲があっという間に空を覆い尽くすように広がってきた。
この雲は、雨天時の雲ではないな。なぜなら、雲自体に邪気のようなものをかすかに感じるからだ。これは、いよいよその時が来たのだろう。
……そう、世界規模での魔物の凶暴化だ。
「急ぎましょう、ポップ。デルムリン島が気になります!」
「はい、アバン先生!」
俺はアバン先生にそう返事を返し、
待っていろよ、ダイ! 今行くからな!
いよいよ物語が動き出す! 俺はそのことに緊張を感じつつも、ずっと会いたかったダイにようやく会える喜びも同時に感じていた。
※現時点のポップの習得魔法と装備品
攻撃魔法:火炎呪文(メラ、メラミ)、氷系呪文(ヒャド、ヒャダルコ、ヒャダイン、
マヒャド)
閃熱呪文(ギラ、ベギラマ)、爆裂呪文(イオ、イオラ)、
真空呪文(バギ、バギマ)
混乱呪文(メダパニ)、即死呪文(ザキ)、自己犠牲呪文(メガンテ)
極大消滅呪文(メドローア 合成魔法 *封印中)
回復魔法:ホイミ、ベホイミ、ベホマ、ベホマラー、キアリー、キアリク
補助魔法:スカラ、スクルト、ピオリム、ルカニ、ラリホー、ラリホーマ、トヘロス、
インパス、マヌーサ、マホトーン、ザメハ、レミーラ、バシルーラ、
フバーハ、モシャス、ルーラ、トベルーラ、リレミト、トラマナ、
アストロン、マホカトール(補助品必要)
オリジナル魔法:ウォーター(水を発生させる)
メラータ(合成魔法。熱湯を発生させる。温度は調節可能)
メラパ(合成魔法 熱風を発生させる。温度は調節可能)
ラリホーボール(合成魔法 ラリホー成分入りの水球)
パキ(突風を発生させる)
ファイヤーウォール(炎の壁を発生させる)
アイスウォール(氷の壁を発生させる)
メラゾロス(合成魔法 火炎竜巻 炎の竜巻を発生させる)
マヒアロス(合成魔法 氷刃嵐舞 無数の氷の刃を発生させる)
ドロヌーバ(地面を泥の沼に変化させる)
トンネラー(地中内に存在する特定の鉱石を探し出し抽出する)
インパディ(医療魔法 体に潜む病気の原因を把握することがで
きる)
ベホマメント(医療魔法 病気の回復に特化した回復魔法)
特殊技能:魔力圧縮、二重魔法詠唱、アバン流棍殺法『初伝』
装備品 :みかわしの服、祈りの指輪、アバンのしるし、ミサンガ
ようやく2章が終わりました。次の目標としていた地点まで到達できて良かったです。
まさか40話以上を自分などが投稿できるとは思っていませんでした。このような文をお読みいただいた読者の皆様、感想をいただいた皆様ありがとうございます。
正直に申しますと、何分初めてのことですので、感想欄を見るのを恐怖に感じることもありました。本当はもう少しゆっくり投稿を考えていましたが、1話1話の投稿でびくびくするより、もうまとめて一度にやってしまえと開き直り、2章は最後五月雨式で投稿しました。
さて、3章以降はようやく原作開始になるので、ダイの大冒険の愛すべきキャラクターがたくさん出てきます。自分も書いていて楽しいです。
最後まで書き続けたいですが、ショートステップとして、①メルルと再会するまで ②ノヴァ君と再会するまでをあげておきます。①はやはりそのために早めにエンカウントさせていますし、②は、ノヴァ君にギャフンと言わさないといけませんので。やられっぱなしはいけません。でも②は遠いな……。やっぱりやられっぱなしで終わるかも。
ストック分が後数話分しかないので、3章は少し投稿した後、長めの充電期間をとるかもしれません。
これからはますますご都合展開、独自解釈、独自設定が目についてきます。気にならない方だけお付き合い下さい。
どうぞよろしくお願いします。