転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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3章 出会いと別れ
44話 デルムリン島での出会い


俺達がデルムリン島の砂浜にたどり着いたとき、島は大騒ぎの真っ只中だった。魔物が互いを傷つけ合い、血を流している。

中には頭を抱えて身体を震わせている魔物もいるが、あの魔物は魔王の波動に抵抗しているんだろう。見ているだけで辛そうだ。

 

そして、少し遠くの砂浜の中ほどに目をやると、1人の少年と1体の魔物がいることに気が付いた。

 

……おっ、あの子はもしかして。

 

 

「……じゃから、ダイよ。儂らはこのままではお前を傷つけてしまう。は、早くこの島から脱出を……」

 

「嫌だ! じいちゃん達だけを置いて俺だけ逃げるなんて、そんなの勇者のする事じゃない!」

 

船から下り砂浜を陸に向かって歩いて行く俺達に、そんな会話が聞こえてきた。

 

「アバン先生、あの子……」

 

「ええ。ですが、まずはこの場を鎮めなければいけませんね」

 

そう言ってアバン先生は、俺達にまだ気が付いていない様子の2人に話しかけた。

 

「……おほん! いやー、ダイ君、と言いましたか。君、実に良いことを言いますねー。君の言うとおりです。この島から逃げ出す必要なんて有りませんよ」

 

突然背後から声をかけてきた人物に驚いたのか、2人が一斉に俺達の方を振り返った。

 

「だ、誰だよ、あんた達! そ、それより、ここにいたら危ないよ! 早く逃げないと!」

 

「そ、そうじゃ。この島は、今魔王の波動によって正気を失った魔物だらけになっておる。どなたかは知らぬが、早くここを……」

 

ダイと、おそらくブラス老だろうと思われる鬼面道士が俺達に警告を発する。

 

ブラスさん、優しげな顔立ちをしているな。俺は初めて会った2人に、長年の友達だったような感慨を持っていた。

 

「ギャアォォォー!」

 

そんな時、雄叫びを上げて魔物の集団が砂浜に向かってなだれ込んできた。

どの魔物も目が真っ赤になっていて、正気を失っているであろう事が一目で分かる。

 

「い、いかん! 早く逃げるんじゃ!」

 

ブラスさんが、ダイを含めた俺達にそう声をかける。

 

俺は、一瞬だけ目をアバン先生と合わせて、ここは俺が、と意思表示する。アバン先生はそんな俺の意思を感じ取り、少しだけ頷いた。

 

そして、俺がダイとブラスさんの前に出て両手を迫ってくる魔物の群れに付き出すと、俺が魔物達に何かしようとしていることを察したのか、ダイが俺に縋って言ってきた。

 

「ま、待ってよ! みんな本当は悪い魔物じゃないんだ! 痛いことは止めてよ!」

 

俺がダイに何を言うべきか迷っていると、アバン先生がそんなダイの肩に手をおき、言った。

 

「大丈夫ですよ、ダイ君。ポップは、ああ、この子の事ですよ。ポップは、こう見えても高度な魔法の使い手です。きっと、魔物達を傷つけずに無力化させることが出来ますよ」

 

(こう見えても、と言うのは余計ですよ、アバン先生!)という俺の心の声を無視して、ダイはアバン先生のその言葉に安心したのか、ようやく俺の身体から手を離してくれた。

 

さて、それでは皆さんのご期待に添えるよう、この場を鎮めてみましょうかね。魔法使いの役割の一つは、様々な状況に応じて臨機応変に対応してみせる事だからな。

 

俺は、この状況で使用するのに最も適した魔法を構築し、それを両手から発動した。

 

睡眠水球呪文(ラリホーボール)!」

 

その言葉に呼応して俺の上空に20個近くの水球が発現した。1つ1つの水球に、ラリホー成分が含まれている、いわば睡眠薬入りの水球だ。

 

俺は、それを迫り来る魔物の頭部目がけて次々と放っていく。その水球が頭に当たった魔物は途端にその場で倒れ込み、いびきをかき出して深い眠りについていく。

通常の睡眠呪文(ラリホー)が嗅覚と聴覚に訴えかけて眠気を誘うのに対して、俺の睡眠水球呪文(ラリホーボール)は、直接相手の体内に液体を注入できるので、効き目に雲泥の差がある。この魔法は、俺が魔物や悪人を怪我させることなく拘束できるよう作った睡眠誘発魔法だ。

 

その睡眠水球呪文(ラリホーボール)を食らった魔物はただ1匹の例外もなくその場に崩れ落ちていく。

 

「す、すごい。皆寝ちゃった……」

 

睡眠水球呪文(ラリホーボール)じゃと……。あ、あのような魔法は初めて、……う、うぅ!」

 

ダイとブラスさんが俺の後ろでそんな会話をしている。ブラスさんはきつそうだな。早くどうにかしてあげないと。

 

「ふふ。ポップは、こう見えても大陸有数の魔法使いですからね。彼にとってはなんと言うこともありません」

 

アバン先生が2人にそう説明している。だから、こう見えても、って言うのは余計ですって、アバン先生!

 

「アバン先生。とりあえず今向かってきている魔物を眠らせることは出来ましたが、俺では根本的な解決が出来ませんよ?」

 

一通り向かってきている魔物全てを眠らせた俺は、アバン先生にそう声をかけた。そう、この島に生息する魔物はまだ大勢居るし、この眠らせた魔物達だって目を覚ましたら又襲ってくることになる。

 

「そうですね、それでは次は私の出番ですね」

 

そう言いながら、アバン先生は、旅の中で時折見かけた破邪魔法の発動体勢を取り始めた。

 

「な、何をするつもりなの?」

 

ダイがそう心配そうに呟いているから、俺は安心させてあげるためにダイに返答した。

 

「なーに、心配いらないよ。アバン先生は、希少な破邪魔法の使い手なんだ。先生に任せておいたら、この状況を改善してくれるさ」

 

「アバン……。アバンじゃと? そ、その名前、くっ、どこかで聞いたような……」

 

ブラスさんはアバン先生の名前に聞き覚えがあるようだ。まあ、ブラスさんも元魔王軍の一員だったんだろうし、アバン先生の名前を聞いていても不思議じゃないよな。

 

そういえば、俺達まだ自己紹介もしていないな。アバン先生が状況を打開したら、まずそこからだな。

 

「――ちょえー!」

 

俺がそんなことを考えていると、アバン先生がそんな気の抜けるような声を張り上げて急に島の内地に向かって駆け出した。

 

ぱっと見、走っているように見えるが、巧妙に分からないよう飛翔呪文(トベルーラ)がかけられている。さっきの変なかけ声と言い、今の無意味な走っているポーズと言い、何か意味があるんだろうか……。

 

ほら、ダイとブラスさんがあっけにとられた表情で走り去っていく、もとい、飛び去っていくアバン先生を見つめている。

 

そうやって、アバン先生を見送ること約1分。島の各地に剣で五芒星を描き終わったアバン先生が俺達の所に戻ってきた。普段はこんな風に五芒星を描く作業はしていないんだけど、さすがにこの島の大きさになると、必要になるんだな。

 

アバン先生は、俺達の所に戻ってきた後、いよいよ最後の破邪魔法発動のための呪文詠唱に移った。

 

「……邪なる威力よ、退け! 破邪呪文(マホカトール)!!」

 

アバン先生がそう叫び、地面に拳を叩きつけるような動作をすると、一瞬島全体に緑色の輪が浮かび上がり、次第にその外周から緑色の粒子がカーテンのように降り注いだ。

 

ああ、やっぱりアバン先生の破邪呪文(マホカトール)はすげえなーと、俺が思っていると、ダイ達も驚いた様子で上空を眺めていた。

 

「す、すごい……」

 

「……身体から魔王の波動である邪気が消え失せてゆく。こ、これはいったい……」

 

「どうだい、驚いたろう? この魔法は、世界でもアバン先生ぐらいしか使用できない伝説の魔法破邪呪文(マホカトール)なんだ。この光の幕の中では、邪気が消えていくし、半端な魔物は中に立ち入ることも出来ないのさ。どうだい? ああ見えても、アバン先生は実は凄い人なんだぜ」

 

俺はダイとブラスさんに対してアバン先生がいかに凄い人かを説明する。

 

「……ポップ。ああ見えても、とは一体どういう意味ですか?」

 

アバン先生がジト目でこちらを振り返り、そう文句を言ってくる。ふん、俺はさっきアバン先生に言われた仕打ちの仕返しをしただけだからな。俺はアバン先生と目を合わさず、余所を見て口笛を吹いてごまかした。

 

そんなことをしていると、先ほど俺が眠らせた魔物達が少しずつ目を覚ましてきた。

俺はそんな魔物達に近づいて、その様子をじっくり観察すると、ほとんどの魔物がどこかしら怪我をしている様子に気が付いた。

 

おそらく俺達が来る前に魔物同士で傷つけあったからだろう。全体で10体以上の魔物が血を流しているようだったから、俺は手っ取り早く回復してやることにした。

 

「……広域回復呪文(ベホマラー)

 

俺が魔物達に手をかざし、そう唱えると、俺の左手から発せられた緑色の光の粒子が魔物達に降り注ぎ、直ぐにその傷を塞いでいった。

 

「す、すごい。あんな回復魔法初めて見た」

 

「ま、まさか。広域展開の回復魔法を使うなど。この子はいったい……」

 

再び俺の後ろで2人が騒ぎ出したが、アバン先生がここでその流れをぶった切るように自己紹介を始めた。

 

「さて! 自己紹介が遅れましたね。私は、アバン・デ・ジニュアール3世と申します。アバンとお呼びくださいね。こちらは、私の弟子ポップです。本日は、パプニカ国第1王女レオナ姫からの依頼により、ダイ君の家庭教師を行うべくこの島にやってきました」

 

「レオナが!?」

 

「はい、そうです。レオナ姫より、デルムリン島に住むダイという少年を立派な勇者にして欲しいと頼まれたのでこの島に来たのです。どうですか? 私、かつては魔王とも戦ったことがある、この道15年のベテラン家庭教師ですよ。私の指導を受けてみませんか?」

 

アバン先生がそう言った時、突然ブラスさんが声を上げた。

 

「アバン! 思い出したぞ。確か15年前魔王ハドラーを倒した勇者の名前がアバンじゃったはずじゃ。まさか、あなたはそのアバン殿か?」

 

「ふふふ。その通りです。かつて私は信頼する仲間と共に魔王ハドラーと戦い、これを打ち倒すことが出来ました。……ですが、どうやら先ほどまでの様子を見ると、再びこの世界に新たな魔王が復活したようですね。世界は今混乱の中にあるでしょう。どうですか、ダイ君。勇者育成コースを受けてみませんか?」

 

アバン先生は、そう言って再びダイに問いかける。ダイは少し考えた後、はっきりとアバン先生に答えた。

 

「うん! 俺、勇者育成コースを受けるよ。宜しくお願いします、アバン先生。それと、ポップさん!」

 

「俺のことはポップで良いよ。その代わり、俺もお前のこと、ダイって呼ぶな」

 

俺はダイにそう返事を返し、笑顔で握手をした。うん、やっぱり良い子だな、ダイって。そう思っていると、突然ダイの服の首元から黄金色の物体が飛び出してきた。

 

「わっ! な、なんだなんだ?」

 

俺が思わずたじろいでいると、その黄金色の物体はダイの頭に飛び乗り、「ピピィ!」と声を発してきた。こ、こいつはまさか……。

 

「もう、駄目だろ、ゴメちゃん。驚かしちゃー。ごめんね、ポップ。こいつ、ゴールデンメタルスライムのゴメちゃんっていうんだ。俺の1番の友達なんだよ」

 

そう紹介された黄金色のスライムは、俺を友好的な目で見つめながら声を発した。

 

「ピ、ピー!」

うわ、めっちゃかわいいな、このスライム。原作では女の子の服の中に入り込んでいて、なんてうらやましい、もとい、けしからん奴って思っていたが、このかわいさなら仕方ないと許してしまうレベルだな。

 

「……ゴメちゃん、か。ふふ、よろしくなゴメ! 俺とも友達になってくれよな!」

 

「ピ、ピィーー!」

 

俺が右手をゴメの翼のような手に触れながら挨拶すると、ゴメがこちらこそって言わんばかりの声を上げてくれた。

 

「アバン殿。申し遅れましたが、儂は鬼面道士のブラスと言います。儂からもお願いします。ダイを立派な勇者に導いてやってくだされ」

 

俺がダイとゴメと挨拶を交わしている隣で、ブラスさんがそうアバン先生に話しかける。アバン先生も、ブラスさんの手を握り、「お約束します」と挨拶を交わしている。

 

この後、育成に割ける時間があまりないと言うことで、ダイは1週間のスペシャル修行コースを受ける事がなし崩し的に決まった。

 

まあ、この辺りは原作通りだな。

 

 

 

 

「キキキ! こんな所に人間がいるぞ!」

 

「キキ! おまけに結界まで張っているとは、生意気な!」

 

そんな金切り声が聞こえてきたのは、ブラスさんがアバン先生の手渡した家庭教師の契約書にサインしているところだった。

俺が声の方に振り向くと、2匹のガーゴイルがマホカトールの結界の外でそんな会話を交わしていた。

 

そういえば、こんなシーンがあったな……。

 

「ふむ。どうやら魔王軍の斥候と言ったところですか。逃がすとやっかいですね。ポップ、ダイ。それぞれ1体ずつ相手をしてください」

 

アバン先生が、サインの入った書類を懐に入れながら俺達の方にやってきた。1体ずつか。別に俺が2体とも相手しても良いんだが、ダイの力を測る目的もあるんだろう。

 

「分かりました」と答えた俺は、破邪呪文(マホカトール)の結界の外に出て、上空にいる2体のガーゴイルの前に出た。

 

「さあ、俺が相手だ。どっちでも良いからかかってきな!」

 

「生意気な小僧め! たたっ切ってくれるわ!」

 

俺の挑発に分かりやすくかかってくれたようで、1体のガーゴイルが急降下して向かってくる。

 

もう1体の方は、仲間がやられるとは微塵にも思っていないのだろう。上空に待機したままニヤニヤと笑みを浮かべている。

 

「――危ない!」

 

「――ピ、ピイ!」

 

ダイとゴメがそう声をかけてくれたが、実のところ俺は全く危ないとは思っていない。俺は、慌てることなく右手を前に突き出し、ただ一言呟いた。

 

「……氷系呪文(ヒャド)(×5)」

 

途端に俺の手から猛烈な冷気が吹き出し、向かってきていたガーゴイルを包み込む。そして、一瞬の後に、ガーゴイルの姿をした白い彫像ができあがっていた。

 

ただし、その彫像が上空にとどまっていたのはほんの一瞬の事で、もはや翼を動かすことの出来なくなったガーゴイルの彫像は直後にそのまま地面に落下し、粉々に砕け散った。

 

通常の5倍に圧縮した俺の氷系呪文(ヒャド)を真正面から食らったんだ。まあ、こんな所だろう。

 

「す、すごいや……」

 

「ピ、ピィィー……」

 

「なんという魔力じゃ。あの歳でこれほどの魔力を操るとは……」

 

ダイとゴメにブラスさんが、破邪呪文(マホカトール)の結界の中から俺の戦いを見て、そう感嘆の声をあげる。ブラスさんは良いとして、さて、次はダイだぜ。

 

「さあ、ダイ。次はお前の番だぜ」

 

仲間があっという間にやられたことに動揺している上空のガーゴイルを置いて、俺はダイにそう声をかけて破邪呪文(マホカトール)の結界の中に戻った。

 

「……よーし、やるぞー!」

 

ダイは俺に声をかけられて、自分の出番と言うことを思いだしたようで、意気揚々と結界の外に出た。

ダイの右手には、アバン先生から借りた長剣が握られている。さあ、ダイのお手並み拝見と行くか。

 

「……くっ! ま、まさかこんな小僧どもに手こずらされるとは! こうなったら、お前だけでも魔王様への土産として首を持って行ってくれる!」

 

そう言って、残った1体のガーゴイルがダイに向かって急降下を開始する。ダイはそんなガーゴイルをその場で迎え撃ち、そのままガーゴイルと激しい剣戟を開始する。

 

うん、ダイはまだアバン先生の指導を受けていないから剣筋が荒いように見えるけど、勘が良いのか十分相手の攻撃についていけている。

しかし、ガーゴイルの方が上背があり、若干上空から叩きつけるように攻撃してくる分ダイの方が体勢的に苦しそうだ。

 

ブラスさんがそんな様子をハラハラしながら見つめている。

 

そんな時、アバン先生がダイに声をかける。

 

「ダイ! 敵は足下への警戒が足りていません。そこを狙いなさい!」

 

ダイはそのアバン先生のアドバイスを聞き、狙いをガーゴイルの足下に切り替えた。途端にダイの剣がガーゴイルの身体を捉えだした。ガーゴイルから流れる緑色の血が辺りに飛び散る。

 

戦況が苦しくなったガーゴイルは、状況を打開しようと焦ったか、次第にその攻撃が大ぶりになってきた。

 

「――今です、ダイ!」

 

アバン先生のそのアドバイス通り、ダイは大ぶりになったガーゴイルの剣を大きくはじく。そして、剣を持った手を大きく後ろにはじかれ大きな隙の出来たガーゴイルに対して、ダイは一瞬溜めを作った後、縦一文字に剣を上から振り下ろした。

 

ザザーン!

 

大きな衝撃音が聞こえたが、ガーゴイルに変化は見えない。だけど、俺とブラスさんは目を見張った。

 

……何故なら、ガーゴイルに変化はなくとも、その背後にある海が大きく左右に割れていたからだ。

とんでもない、剣圧だな。俺は、自身に向けられた攻撃ではないが思わず冷や汗が出ていた。

 

しかし、そんなことに気づいていないガーゴイルは、ダイに虚勢を張る。

 

「な、なんだ……。このガキ、驚かしやがって! 今度こそ、こいつで……!」

 

そこまで喋ることが限界だったようだ。突然ガーゴイルの正中線沿いに緑の血が噴き出し、そこから左右に身体が裂けていき、一言も発せぬままそのまま海に没してしまった。

 

「や、やった……。やったよ! アバン先生!」

 

ダイはその結果を見届け、大きく飛び跳ねて喜びの声を上げている。ゴメがその周りを喜びながら飛び回っている。

 

「……これは、凄いですねー。もしかすると、我々はとんでもない逸材を発見してしまったのかも知れません……」

 

アバン先生が俺の隣でそう呟いていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

side ダイ

 

俺は今、島中から集まってくる傷ついた魔物に、ひたすら回復魔法をかけているポップを眺めていた。

 

これは、ポップが、他にも今回の騒動で怪我をした魔物がいるなら治療するから連れてくるようにって言ったからだった。

 

皆魔王の波動と言う奴に侵されて激しく傷つけ合ったみたいで、島に住む大勢の魔物がここに集まっていた。

 

ポップはそんな集まった魔物にさっきからずっと回復魔法をかけている。

 

俺は、アバン先生といい、ポップといい不思議な人達だと思った。人間は、魔物を見ると攻撃するか逃げるかどちらかの態度しか取らないと思っていたけど、アバン先生やポップを見ているとそんなそぶりは全く見られない。

 

ポップなんてさっきから傷ついた魔物に対して、「痛かったな」、「よく我慢したな、偉いぞ」なんて人間に話しかけるように接している。

 

アバン先生も、先ほどから鬼面道士であるブラスじいちゃんと一緒に晩ご飯の支度をしている。自分の大好きな友達や肉親とも言える魔物を怖がらず接してくれるアバン先生やポップが、自分の先生で兄弟子と言うことがとても誇らしかった。

 

「よう、さっきからぼーっとしてどうしたんだよ、ダイ」

 

俺がそんな事を考えていると、ポップが隣に立っていた。どうやら、傷ついた魔物の治療は終わったようだった。

 

「ううん。ポップ、皆を治療してくれてありがとう。皆も凄く喜んでいるよ。……だけど、ポップはどうしてこの島の魔物を怖がったりしないの? 普通は怖がったり攻撃したりすると思うのに……」

 

「ああ。そりゃー、俺もダイと同じで魔物達と接するのに慣れているからだよ」

 

「え、それ、どういう事?」

 

魔物達と接するのに慣れているってどういうことだろう? ポップも魔物に育てられたんだろうか?

 

「ああ、それはな……」

 

そこからポップが話してくれた内容は、びっくりするものだった。6歳の時から魔物だけの里に一人で出入りして、そこで色々な魔法を魔物達から教わったらしい。

確かにそれなら魔物に慣れているという話も納得出来る。

 

「……そうだったんだ。この島以外にも優しい魔物が住んでいる所があったんだ。……あっ、でももしかしたらそこも今頃は……」

 

「いや、それは大丈夫だと思う。その里を出る前にその話をしたんだけど、その里にある洞穴は天然の破邪呪文(マホカトール)がかかっているのに近いような場所だから、魔王の波動が強くなればそこに籠もってやり過ごすってさ」

 

「そうなんだ。良かった……」

 

俺は、ポップの言うエウレカの里の魔物達は心配いらないという話を聞いてホッとしていた。

 

「ダイは、明日から猛特訓だろ? 大丈夫か? 1週間で勇者育成コースを卒業するなんて無茶も良いところだぜ?」

 

ポップは、そう俺を心配して声をかける。

 

「大丈夫だよ、ポップ。俺、早く1人前の勇者になってレオナのいるパプニカ王国を助けに行きたいんだ」

 

俺はポップにそう返事を返す。

 

「はは。レオナ姫……か。俺は会ったことはないんだけど、かわいい女の子なんだろうな。ダイ、お前その子のこと好きなんだろう?」

 

ポップが、ニヤニヤしながらそう言って俺の肩をつついてくる。

 

「――ち、違うよ! そんなんじゃないったら!」

 

俺は顔が赤くなるのを自覚しながら、ポップの言葉を否定する。

 

「ははは。照れるな、照れるな。それじゃあ、早く一人前になってレオナ姫を迎えに行かなきゃな」

 

「もう! そんなんじゃないったら!」

 

俺がポップにそう反論しても、ポップは笑いながら立ち上がり、「良い匂いが漂ってきたな。ご飯食べに行こうぜ!」と言って先に歩き出す。

 

もう、本当に違うのに……。俺は、軽口を叩くポップに腹立たしい気分を抱きながらも、久しぶりに魔物ではない人間とそんな会話が出来ることに、うれしさも感じながら先を行くポップの後を追いかけた。

 

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