転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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47話 魔王ハドラーの襲撃

不気味な振動はどんどん大きくなっている。

 

「う、うううー……」

 

ブラスさんが頭を抱えてうずくまる。

 

「じいちゃん、どうしたの!?」

 

ダイがブラスさんを心配して声を掛けるが、ブラスさんは辛そうに頭を押さえて苦悶の表情を浮かべている。

ブラスさんには申し訳ないが、これはどうしようもない。やはり、来たようだ。

 

 

ドォオーン!!

 

突如として爆音とともに洞窟の天井の一部が崩壊し、外から日の光が入って来た。

そして、その崩壊した天井から浮遊しつつ徐々に降下をする魔物が2体。 

 

ん!? 2体だって!?

 

「くっくっく。……貴様の魔法陣にはなかなか骨を折らされたぞ」

 

先頭に立つローブをまとった魔物が、ゆっくりと天井から地面に降り立った。そして、その後ろには、先頭の魔物よりはるかに大きな体格の魔物が付き従っている。

 

何故だ……? 俺の記憶では、この場面に現れる魔物は先頭の1体だけだったはずだ。

 

「やはり、復活していたか、魔王ハドラー!」

 

アバン先生が、ローブをまとった魔物に対して声を張り上げる。そして、その言葉にダイやブラスさんが驚きの声を上げる。

 

「え、ええ!? こいつが、魔王!?」

 

「む、むう……。確かに、以前より若返っているように見えるが、間違いなく魔王!」

 

……やはりな。俺はこのローブをまとった魔物が魔王ハドラーであったことには、何の驚きも感じなかった。

 

……問題は後ろの魔物だ。

 

「ハドラー様。どうやらアバン以外の雑魚は、弟子が2匹と、鬼面導師が1匹の様子。奴らの始末は、私にお任せください」

 

大柄の魔物がハドラーにそう声を掛ける。

 

「良いだろう。……だが、やつらもにっくきアバンに連なる者ども。せいぜいいたぶってから殺してやれ、ザングレイ」

 

ハドラーが背後の魔物に少しだけ目をやり、ニヤリっと笑みを浮かべながら答える。……ザングレイ? それがこいつの名前か? 一瞬この体格からクロコダインか、と思ったが、やはり違うようだ。うん、見た目がワニではなくて、牛だもんな。

 

「バハハハ。ハドラー様の許可が出たぞ。お前達は、このザングレイが相手をしてやろう。光栄に思うのだな」

 

ザングレイと呼ばれた魔物は、俺とダイ、それにブラスさんをはるか高みから見下ろしながら言い放った。

 

なるほど……。要するにこいつは、アバン先生以外の者を相手するためにハドラーに付いて来たのか。

原作ではハドラーのみだったのに、何故こんなことになったのかな。俺が想定外の事態にそんな事を考えていると、アバン先生が俺に静かに話しかけてきた。

 

「……ポップ。ハドラーの相手は私がします。あなたは、ダイと協力してあのザングレイという魔物を倒してください。 ……ポップ? 聞いていますか?」

 

……と、いけない、いけない。戦闘に集中しよう。

 

「……すいません、アバン先生。ええ、聞いています。……分かりました。あのデカブツは、俺とダイで相手します。ですが、アバン先生……」

 

「ええ。ハドラーは、尋常な相手ではありません。私も最初から全力で行きますよ」

 

「……必ずあいつを倒して、アバン先生の援護に入ります。ですから、それまでは我慢の闘いをお願いします」

アバン先生と言えど、ハドラーを単独で相手取るとなると苦戦を強いられるのは必至だ。

元々俺は、アバン先生とハドラーの戦闘に介入することで、アバン先生の命を救おうと考えていた。

 

ここで俺がザングレイとやらの相手をせざるをえなくなると、 火竜変化呪文(ドラゴラム)の魔法力をアバン先生が温存できた事と剣が高性能なくらいしか原作より優位な点が存在しない。

 

アバン先生は、チラッと俺の方を見て「分かりました」とだけ答えた。

 

「よし! 聞いていたな、ダイ。あのデカブツは、俺とお前で相手をするぞ!」

 

俺は隣で緊張した表情をしているダイに声をかける。俺に声をかけられたダイは一瞬びくっとした後、直ぐに返事をよこした。

 

「うん、分かった! 早くあいつを倒して、アバン先生に加勢しなくちゃ!」

 

そうだ。何故こいつまで付いて来たのかは分からないが、ハドラーの襲撃日は想定通りだったんだ。

おそらく細かな違いは、俺が原作知識を持ってこれまでに色々してきたことがバタフライエフェクト的に作用したんだろう。

 

これぐらいの原作との誤差は、これからも許容していかないとやっていけない。

 

「ブラスさんとゴメは、危ないから後ろに下がっていてください! ……守備力変動呪文(スクルト)! 敏捷力変動呪文(ピオリム)!」

 

俺はそう背後の2人に声を掛けた後、即座に守備力変動呪文(スクルト)敏捷力変動呪文(ピオリム)の魔法を唱えた。当然この魔法の効果範囲には、俺とダイだけでなく、アバン先生も含めている。

 

先手必勝だ。これで少しでもアバン先生の闘いが楽になればいいんだが。アバン先生が目だけで俺に謝意を示したので、俺も頷きを返しておく。

 

ダイは、初めて補助魔法をかけてもらったのか、突然上昇した自身の防御力と敏捷性に興奮した顔をしている。

 

「ちっ! やっかいな魔法を……。ザングレイ、早くそいつらの相手をしないか! お前を連れてきたのは、何のためだと思っている!」

 

「は、ははっ! 申し訳ありません、ハドラー様! 貴様ら、余計な真似を!」

ザングレイは、そう叫びながら俺達をアバン先生から引き離そうと俺とアバン先生の間に突進をしてきた。

その右手には巨大なハルバードが握られていて、俺達にそれを叩きつけようと既に振りかぶっている。

 

うおっ、さすがにこれほどの巨体が向かってくると恐ろしいな。俺はとっさに飛翔呪文(トベルーラ)でその突進の射線上から逃れようとしたが、ダイの考えは違ったらしい。

 

「よーし、来い! 牛の化け物!!」

 

そう言ってダイはその場に両足をつけて、海波斬の練習用に渡されていた安物の剣で巨大なハルバードを受け止めようと構えている。

 

「馬鹿! そんなんで受け止められるわけないだろう!」

 

俺はとっさにダイを抱えて、横っ飛びに飛翔呪文(トベルーラ)で逃れた。

 

 

ズズーン!

 

爆風が飛翔呪文(トベルーラ)で逃れた俺の背中をなでる。思わず背後を見ると、とんでもない大きさのクレーターらしきものができていて、その中心にザングレイがいた。

 

「……すっげー」

 

ダイは、俺の腕の中で放心したようにつぶやいている。良かった。アバン先生も先ほどの一撃から逃れられているみたいだ。

ブラスさんとゴメは洞窟の入り口まで避難できている。よし、あちらは大丈夫そうだ。

 

「すっげー、じゃねえよ、ダイ! あんな見るからにパワータイプの敵に真正面からぶつかってどうするよ!」

 

俺は思わずダイに声を荒げて注意する。

 

「え? でも、ポップが守備力変動呪文(スクルト)の魔法かけてくれたじゃないか。あれで俺の身体の防御力ってあがっているんだろう?」

 

「んな訳ないだろう! いや、そりゃ確かに多少は上がっているけど、あんな攻撃を受け止められるほど上がってねえよ!」

「……そうなんだ。俺、てっきり全く怪我しないくらい防御力が上がったと思ってたよ」

 

たく、あんな攻撃受けたらいくら守備力変動呪文(スクルト)で強化していてもペシャンコだよ。

 

「いいか、ダイ。俺が援護するから、お前は1ヶ所にとどまらずに常に動きまわりながら接近戦を挑め。敏捷力変動呪文(ピオリム)で敏捷性が上がっているから普段より早く動けるはずだ。俺は隙が出来たら、遠距離から攻撃する」

 

俺は、ザングレイからある程度距離を取ったところで、ダイを地上に下ろしながらそう声を掛ける。

 

「うん、分かった!」

 

ダイは俺の提案に素直に頷く。

 

 

「……飛翔呪文(トベルーラ)まで使える魔法使いか。やっかいだな」

 

クレーターの中心にいるザングレイは、距離を取った俺達を見やりそう呟くと、右手に持ったハルバードを2つに分解した。

 

何だ、あれ? 

 

俺がそのおかしなギミックに驚いていると、分解した斧の方をメリケンサックのように右手の指にはめ、柄は左手に握りしめた。

 

どうするつもりだろうと俺が見つめていると、おもむろにその左手の柄を槍のように俺達目がけて投擲してきた。

 

「ダイ! 避けろ!」

 

「分かった!」

 

俺達はそれぞれその投擲を左右に分かれることで回避したが、攻撃はそれで終わらなかった。

投擲された柄が俺目がけて追尾して来たのだ。――追尾型かよ!

 

「――ポップ!」

 

ダイがその様子を見て俺を心配するが、俺は飛翔呪文(トベルーラ)で高速移動しながらダイに声を張り上げる。

 

「俺の事は気にするな! お前はやつを直接攻撃するんだ!」

 

俺のその返事を聞き、ダイは「分かった!」と一直線にザングレイに突っ込んだ。

 

「来るか、小僧!」

 

「――俺の名前はダイだ!」

 

ダイがザングレイの右拳による攻撃をかいくぐり、低位置から剣でザングレイの足を切り刻む。

 

ダイは、俺が言った通り決して1ヶ所にとどまらず絶えず動き続けながら、ザングレイに切り付けている。

 

うん、もともと小柄な体だから敏捷性が高いんだろう。それに敏捷力変動呪文(ピオリム)の効果が付与されていることで、ザングレイの攻撃を全く喰らうことなく攻撃を加え続けている。

ただ、身長的に足しか狙えないから、致命傷には程遠いな。なんとか上半身を攻撃できればいいんだが。

 

「ええい! ちょこまかと動きおって! ――これならどうだ!!」

 

ザングレイが、右足を大きく振り上げたと思うと、勢いをつけてその足を地面に叩きつけようとする。俺は即座にザングレイの意図を悟り、ダイに声を張り上げる。

 

「――! ダイ、跳べー!!」

 

「え! ――わ!?」

 

ズズーン!!

 

――駄目だ、一瞬遅かった! ザングレイの右足が地面に接した途端、洞窟内を強烈な地響きが襲う。俺は飛翔呪文(トベルーラ)で浮遊しているから影響は皆無だが、ダイはそうはいかない。

 

「わ、――わわ!」

たたらを踏むダイ。そして、それを見逃してくれる甘い相手ではなかった。

 

「バハハハ! もらったぞ!」

 

ザングレイは、大きく右腕を振りかぶり、振動で硬直しているダイの体をそのメリケンサック付きの右拳で思いっきり殴りつけた。

 

「ガハッ!」

 

ダイの身長ほどもあるザングレイのその大きな右拳が、ダイの全身を打ちつける。

苦悶の声を上げながら、ダイの身体が洞窟の内壁に向かって吹っ飛んでいく。

 

まずい、今の一撃だけでも致命傷のように見えるのに、その上洞窟の壁に叩きつけられたら!

 

「バハハハ! まだまだ!」

 

直後、ザングレイが壁に向かって吹っ飛んでいくダイ目がけて突進を始める。

こいつ、壁と自身とでダイを挟み殺すつもりか!

 

俺は一瞬の判断に迫られた。壁に吹っ飛んでいくダイの救出。ダイに追撃を掛けようと突進してくるザングレイの対応。俺の背後から迫ってくる巨大な柄からも意識を手放してはいけない。

 

――これだ! 俺は飛翔呪文(トベルーラ)で飛翔しながら、ダイの吹っ飛んでいく進行方向上に水流呪文(ウォーター)の魔法で直方体状の水の塊を構築した。

 

直後その水の塊の中にダイが飛び込んでいく。よし、これでどうにか洞窟の壁に激突する勢いを減じることが出来るだろう。

 

同時に俺は並行して、左手をザングレイの方向に突き出し氷系呪文(ヒャド)の魔法を唱えた。

 

「そんな魔法、効かぬわー!」

 

俺のヒャドをものともせずに突進を続けるザングレイ。しかし、次の瞬間ザングレイが大きく横倒しに倒れた。

 

洞窟中に、地響きが響き渡る。

 

「――ガ、ガハァー! い、一体何が……」

 

ザングレイが頭を振りながら、自身が倒れる原因となった地面を睨みつける。

 

……そこには、限定的なアイスリンクが誕生していた。

 

俺は、足を滑らせて倒れるザングレイを横目に見ながら、水の塊からちょうど飛び出してきたダイを受け止める。

 

もちろん俺の背後から柄が迫っているので、飛翔は続けたままだ。良かった、うまくいった。

 

ヒャドを使ったアイスリンクの製作は、毎年ランカークス村で行っていたから手慣れたものだった。

ザングレイが頭に血を上らせて、地面上のアイスリンクを叩き割っている。怒り心頭だな。それもそうか。奴にとっては、バナナの皮で足を滑らせたのと同じぐらいの屈辱なんだろう。

 

良い傾向だ。感情を高ぶらせた敵は、行動がワンパターンになるから対処がしやすい。

 

「ダイ、大丈夫か? ……おい、ダイ!」

 

俺は、腕に抱えているダイに声を掛ける。先ほど回復呪文(ベホマ)の魔法を唱えておいたから、怪我は癒えているはずだが、まだ意識が戻らない。

 

「う、うーん。……あれ、ポップ? 俺、何を……。――! あいつは!?」

 

ダイの意識がようやく戻った。良かった。

 

「大丈夫か、ダイ? 回復呪文(ベホマ)をかけておいたけど、どこか痛いところはないか?」

 

「うん、大丈夫! ポップが助けてくれたんだ。ありがとう。ポップの守備力変動呪文(スクルト)がかかってなかったら、危ない所だったよ」

 

いやいや、例え守備力変動呪文(スクルト)がかかっていても、俺だったらあの一撃で全身の骨が粉砕骨折して即死だったよ。間違いなく、お前の生まれ持った頑丈さのおかげだって。竜の遺伝子に感謝しろよ。

 

「まあ、そんなことは良いんだ。それより、今からあいつを倒すための作戦を伝えるから、良く聞いてくれ」

 

俺は、ダイを抱えた状態で飛翔しながら、ダイにそう話しかけた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

アバンは、ハドラーと激しい剣戟を繰り広げていた。

 

アバンはミスリルの剣で、ハドラーの両手から長く伸ばした鋭い爪ヘルズクローに対抗していた。隣りで戦っているポップとダイの様子が気になるが、今のアバンにそちらを気にしている余裕はなかった。

 

ダイはまだ経験不足が否めないため若干不安ではあるが、あちらにはポップがついている。ポップならダイの経験不足を補い、臨機応変にあのザングレイと言う魔物と対峙してくれるだろう。

 

「くっくっく。どうした、アバン。あちらが気になるか? 心配するな。師弟ともども仲良く地獄に送ってやるわ」

 

ハドラーがアバンを挑発するが、そのような挑発にのるアバンではなかった。

 

「あいにくと、私の弟子達は優秀ですからね。地獄に行くのは、あの大きな体の魔物の方だと思いますよ」

 

「ほざけ! ――爆裂呪文(イオラ)!」

 

距離を取ったハドラーが、アバンに爆裂呪文(イオラ)の爆球を放つが、アバンはそれを無造作に左の掌で握りつぶす。

 

「――な、何!」

 

アバンに思いのほか力技で自身の魔法を封じられたことに、驚きの声を上げるハドラー。同時に、アバンの全身から、あふれんばかりの魔力が噴き上がる。

 

「魔王自ら前線に立つとは……。考えようによっては、ちょうど良い! 今ここで、お前に引導を渡してやる、ハドラー! ――閃熱呪文(ベギラマ)ー!!」

 

 

アバンが付きだした右手から閃熱呪文(ベギラマ)の熱線がほとばしり、射線上のハドラーを襲った。しかし、熱線によってハドラーの身体が燃え尽きるかと思われたが、燃え尽きたのはハドラーが羽織っていた着衣のみであった。

 

「くっくっく……。何の真似だ、アバン? 俺の最も得意とする閃熱魔法で俺を倒せるとでも思っていたのか? 本物の閃熱呪文(ベギラマ)とは、こういうものを言うのだー!!」

 

ハドラーが左手を突き出すと、アバンのそれよりもさらに強力な閃熱呪文(ベギラマ)の閃熱がアバンを襲う。

 

「――くっ! 海波斬!!」

 

咄嗟にアバンは、『アバン流刀殺法 海波斬』を繰り出す。しかし、そのあまりの威力に海波斬といえど、完璧にはさばききれず、閃熱の余波がアバンの身を焼き焦がす。

だが、とっさにアバンは自身に回復呪文(ベホイミ)をかけることで、そのダメージを癒した。

 

「くっくっく。……そうこなくてはな。まだまだ楽しめそうではないか」

 

その様子を見て、ハドラーは不敵に笑う。

 

 

アバンは魔法を用いた戦闘の不利を悟り、再びハドラーに接近戦を挑む。

 

「接近戦なら分があるとでも思ったか、アバン!」

 

それに対して、ハドラーが再び両手にヘルズクローを出現させ、アバンの剣を受け止める。再びアバンとハドラーによる激しい剣戟が始まるが、突如としてハドラーの右側面に突風が巻き起こり、ハドラーの体を一瞬よろめかした。

 

「――何!」

驚くハドラー。

 

この事態を引き起こしたのは、アバンが唱えた突風呪文(パキ)の魔法だった。

 

剣戟の合間にアバンは、最もそれが効果を表す一瞬を狙ってハドラーに対して突風呪文(パキ)の魔法を唱えていた。この、魔法と剣術の高度な連携は、魔法剣士であるアバンの真骨頂とも言えるものだった。

 

「今だ! ――大地斬!」

 

その隙を逃さずアバンの剣がハドラーを上段から切り付ける。

 

「――グアァ!」

 

ハドラーの肩口から胸にかけて鮮血がほとばしり、ハドラーが苦悶の声を上げる。アバンは、自身の攻撃に手ごたえがあったことを悟っていた。

 

「グッ! お、おのれ、アバン……!」

 

憎々しげにアバンを睨むハドラー。アバンは、そんなハドラーを油断することなく見つめていた。

 

その時、突如洞窟内を大きな地響きが襲った。……それは、ザングレイのその大きな巨体が崩れ落ちる振動だった。

 

 

~~~~さかのぼること少し前~~~~

 

「たあぁー!」

 

ダイは再びザングレイの周りを小刻みに動き続けながら、ザングレイの下半身を攻撃していた。

 

俺はと言えば、ザングレイの上半身に対して氷系呪文(ヒャダルコ)による氷の槍で攻撃し、ダイへの攻撃の意識を逸らさせることを行っていた。

 

下半身にはダイがちまちまと動き回り、上半身には13本の氷の槍が飛びまわる。この状況にいらついたザングレイは、俺の予想の通り、先ほどとほぼ同じ手を打ってきた。

 

「えーい、うっとおしい!! もう一度吹き飛ばしてくれるわ!」

 

ザングレイは今度はその場で大きく飛び上がり、両足で大規模な地響きを発生させようとした。

 

「――ポップ!」

 

「おお! ――泥沼呪文(ドロヌーバ)!」

 

俺の唱えた泥沼呪文(ドロヌーバ)の魔法により、ザングレイが着地する地点の地面が一瞬にして泥沼に変化する。

俺は、オーザムの国での5kmにも及ぶ泥沼呪文(ドロヌーバ)の魔法による地下通路建設で、もはや息をするかのような発動速度と発動範囲でこの魔法を唱えることができるようになっていた。

 

グシャアーー!

 

地響きを発生させるどころか、どぶんっとプールに飛び込むような有様で泥沼に飛び込んだザングレイ。

自身の落下エネルギーも相まって、完全に下半身が泥沼の中に埋まっている。

 

「――な、何だとー!!」

思わぬ事態に、理解が追いついていないザングレイ。

 

「今だ! ――ダイ!」

 

「うん! たああー! ――大地斬!!」

 

ダイがその場で飛び上がり、ザングレイの肩口から一直線に大地斬を振り下ろす。下半身が泥に埋まっているため、うまくダイのジャンプ力でもザングレイの急所を攻撃することが出来た。

 

「――グゥオー!!」

 

激痛に苦悶の表情を浮かべるザングレイ。その様子を見ながら、俺はなおも自身を追尾している巨大な柄に真空呪文(バギマ)の魔法を放つ。

 

よし、ザングレイが弱ったからか思った通り柄の追尾機能が低下している。これならいけそうだ。

 

俺は、真空呪文(バギマ)の魔法によって発生した突風と風の刃を調整することで、その柄の向かう先をザングレイへと誘導した。

 

「――何!?」

 

直前にザングレイが気付いたが、もう遅い。一瞬の後に、槍と化した巨大な柄がザングレイの胸を貫いていた。

 

「グッ! ゴ、ゴホッ!」

 

激しく吐血するザングレイ。肩口から腹にまで達する斬撃に加えて、胸に巨大な槍状の柄が突き刺さっている。もうこいつは死に体だ。

俺は最後まで油断することなく、こいつから目を離さずにいたが、次第にその大きな上半身が地響きを立てて崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

「……ハ、ハドラー様。申し訳ありません……」

 

虚ろな目で、共にこの戦場で戦っているハドラーに謝罪するザングレイ。

 

俺は、敵とはいえこの状況でハドラーに自らの不首尾を詫びるザングレイに少しだけ同情していた。

ダイも同じ感情を抱いたのか、まだ戦闘中だというのに無警戒な様子で、死にかけているザングレイを見つめている。

 

「――ポップ、ダイ!」

 

突如かけられたアバン先生の大声に、俺は一瞬で警戒度を上げる。ダイは!? 大丈夫だ。アバン先生がダイの傍に駆けつけている。心配はないだろう。

 

……ハドラーは? ハドラーはどこにいった?

 

俺がハドラーの所在を探していると、ハドラーはいつの間にかザングレイのもとに出現していた。

 

「……ザングレイ。無様だな」

 

「も、申し訳ありません。ハドラー様。お役に立てず……」

 

ハドラーがザングレイと会話を交わしている。

 

敵に情けをかけるわけではないが、今このタイミングでハドラーに攻撃をかけるのは違う気がして、俺はアバン先生とダイのもとに移動してその様子を遠くから見つめていた。

 

「役に立てず? そんなことはない。お前は十分に役に立った……」

 

「お、おお、ハドラー様。な、なんともったいないお言葉……」

 

「いや……違ったな、ザングレイ。お前が役に立つのは、これからだったな……」

 

「? ……な、何をおっしゃられ……」

 

「くっくっく……お前は、俺のための血肉となれ、ザングレイ!!」

 

――突如ハドラーは、左手のヘルズクローでザングレイの胸を貫いた! な、何をしているんだ、ハドラーは? 俺は突然の事態に呆然とハドラーを見ていた。

 

「――ガ、ガハァッ! ハ、ハドラー様、い、一体、な、何を……」

 

「くっくっく。最初からアバンどもの始末は俺一人で十分だったのだ。それを、大魔王様の命などと言って、ミストバーンごときがしゃしゃり出てきおって……。せめて俺の血肉となって死んでいけ、ザングレイ!」

 

「グ、グオオォォォォー……」

 

な、何が起こっているんだ。ハドラーのヘルズクローに胸を貫かれたザングレイが、まるで干からびるようになってしわしわになっていく。

 

対照的に、ハドラーはアバン先生から受けたであろう傷が治っていくばかりか、一回り以上身体を大きくさせていく。

 

……どれほどの時が経っただろうか。いや、実際は1分も経っていないだろう。俺達は、その異様な光景に言葉も出ずに見入っていた。

 

不意に、ザングレイだったものの身体を無造作にその場に打ち捨て、ハドラーが俺達の方に顔を向けた。

 

「くっくっく。待たせたな。さあ、余計な邪魔者はいなくなった。続きを始めようではないか」

 

……ごくっ。俺は思わず唾を飲み込んでいた。こいつは、さっきまでのハドラーではない。

体が一回り大きくなっていることもそうだが、その身体にまとう雰囲気はまるで……。

 

「ハドラー……。今あなたが行ったのは……」

 

「うん? ああ、今のか? くっくっく。今のは、俺の配下の研究成果を試してみたまでよ。まだまだ未完成のものだが、お前達をここで皆殺しにするにはちょうどよかろう」

 

ハドラーはアバン先生の問いかけに、ニヤリっと笑みを浮かべながら答える。

 

研究成果だって? 何だそれは? そんな研究知らないぞ。ザボエラあたりが研究していたのか? ちくしょう。俺の知識が中途半端なのが悔やまれるな……。

 

「……ポップ、ダイ。既にお分かりと思いますが、ハドラーはあのザングレイと言う魔物の力を吸収して更にパワーアップをしています。ここは、私達も連携して戦わなくてはなりません」

 

アバン先生が、小声で俺達に話しかける。俺とダイは、それに対して頷きで返す。それを確認したアバン先生がさらに説明する。

 

「前衛は私が。ポップは後衛をお願いします。ダイは遊撃として、常にハドラーの背後に回り込んで攻撃を仕掛けてください。……良いですね?」

 

「分かりました」

 

「うん、分かった!」

 

役割分担が決まった俺達は、ハドラーに対して戦闘態勢を取った。

 

「くっくっく……。作戦は決まったか? ならば、来るがよい! ここを貴様らの墓標にして――」

 

「――閃熱呪文(ベギラマ)!」

 

直後、俺の放った閃熱呪文(ベギラマ)が洞窟内を赤々と照らした。

 

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