転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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前話で、3章完と言っておりましたが、3章のエピローグ的な話を入れたくて追加しました。


50話 魔王軍の侵攻

ダイとポップがデルムリン島を旅立った時をほぼ同じくして、世界各国では一斉に魔王軍の侵攻が始まっていた。

 

 

~~~~ベンガーナ国~~~~

 

「陛下! 各地から、魔物が徒党を組み組織だった動きを始めたと報告が入っております!」

 

ベンガーナ王国において戦車隊の隊長を務めているアキームが、玉座の間にある主君のベンガーナ国王クルテマッカⅦ世に報告する。

 

「なんと!」「数日前の天候の急変はやはり……!」

 

玉座の間に同席していた政務を司る複数の大臣がアキームの言葉に驚きの声を上げる。

 

王宮内の玉座の上でその報告を受けたクルテマッカは、その報告を受けて目を閉じて考え込んだ。

 

クルテマッカは、1年ほど前に勇者アバンから注進を受けていた。魔王軍が再び組織だった動きを取らんとしていると……。

 

クルテマッカは、その注進を受けて各地に自国の誇る戦車部隊や軍船を派遣してまだ見ぬ魔王軍に対してその威容を見せつける対応を取った。

同時に、各地の町や村の防備体制を確認し、必要とあらば自国内のより強固な砦に住民を避難させることが出来るよう砦の改修や備蓄食料を増やしていた。

 

クルテマッカは、思案をまとめ目を開いた。

 

「国中の町や村との連絡体制を密にせよ。アキーム、戦車部隊の主力はここベンガーナで臨戦態勢を取り、海軍と連携していつどこから魔王軍が侵攻を開始しても即座に援護に向かえるよう備えよ」

 

「――ははっ!」

 

アキームは主君の指示に頭を下げて返答し、さっそく海軍大臣と詳細を詰めるべく玉座の間から下がって行った。

 

「内務大臣。お前は情報統制を密にせよ。ここベンガーナの町の経済活動を止めてはならん。物資の買い占め、価格の高騰など起こさせぬよう、平時の経済活動の維持に努めよ」

 

「ははっ! 仰せのままに」

 

一人の大臣がクルテマッカに進言する。

 

「陛下、勇者アバンの所在を確認し、必要とあらば助力を求めてはいかがでしょうか?」

 

「……ふむ。いや、その必要は認めぬ。我が国には、大陸随一の戦車部隊と軍船がある。15年前とは違うのだ。今更少数の力ある者の出番でもなかろうよ。フッフッフ。魔王軍め、我が国の軍事力に恐れおののくと良いわ」

 

クルテマッカに進言を退けられた大臣は、引き下がる。

 

その後、クルテマッカは各方面に火薬や食料の確保を指示し、ベンガーナ国は着々と魔王軍の侵攻への備えを取っていった。

 

 

 

 

 

~~~~オーザム国~~~~

 

オーザム国第8代国王ライオネルは、オーザムの町の周囲を囲む城壁の上で、町の外に集結している魔王軍の大群を見下ろしていた。その大群の先頭には、炎の半身と氷の半身が合わさった異形の魔物の姿があった。

 

「陛下、ゴリョーカクのうち、1番砦から4番砦までの魔法部隊の配置は完了しました。5番砦は今少しかかるとのことです」

 

「そうか。――急がせろ。敵は余り長くは待ってくれそうにないぞ」

 

「はっ!」

 

報告に上がったランスと言う名の側近が、5番砦の配置指揮を執るため再び下がっていく。

 

このオーザムの周囲を囲む城壁の名前を、ゴリョーカクと名付けたのはポップの一言からだった。ポップが地下通路構築の作業を終え、初めて城壁全体を見渡せる場所に立った時に、彼がつぶやいた「……ゴリョーカクだ」という声をライオネルが拾い、その名を気に入ったライオネルが正式な名称とした経緯があった。

 

思わずポップの事を思い出し、こんな状況にもかかわらずライオネルは口元が緩んだ。ライオネルはポップを町の外に連れ出し、共に鹿狩りをした時の事を思い出していた。その鹿狩りの最中に、高台に現れた1匹の巨大なオオカミの姿に、ポップはしばらく魅入られていた。

またあいつと狩りをしたいものだ。

 

彼らは今、何処にいるのだろう? ライオネルは彼らの無事を疑ってはいない。アバンとポップ。彼らほど息の合った師弟は、世界のどこを探してもいないだろう。彼ら2人は今この場にいない。しかし、この場には彼らの残した城壁と避難施設、戦うための術が残されている。

 

ライオネルは今、彼らと共に戦っているという想いを抱いていた。

 

「陛下、援軍の要請をリンガイア国に行わないと伺いましたが、よろしいので?」

 

腹心のレイドが、主君にその判断の最終確認をする。

 

「ああ、援軍の要請は行わない。どのみちリンガイア国からの援軍は間に合わんし、それに……」

 

そこから先はあえて言わなかったが、レイドもその先に続く言葉は理解していた様子だった。アバンの情報から推測すると、この異変は全世界規模で発生している。となれば、リンガイア国も他国への助力に力を割ける状況では無いだろう。これは、各国が各国の持てる力を総動員して立ち向かうべき事態だ。ライオネルはこの状況下で、リンガイア国に寄りかかることを良しとしなかった。

 

「そんなことより、港の作業員は町に入れたか? 住民の避難計画はどうなっている?」

 

「はっ。港の者は、かろうじて敵の包囲が完成する前に町に入れております。避難計画も事前の取り決めの通り、1番街から順に誘導する予定です」

 

「……よし。では、計画通り城壁での攻防を可能な限り続けた後、徐々に敵を町の中に引き寄せる。最後は屋敷に火を付けて、華々しく散ってやるとしよう」

 

ライオネルはニヤリっと、不敵な笑みを浮かべてレイドを見た。

 

「――はっ! では陛下。ご武運を!」

 

レイドはそう主君に応え、避難計画の実行責任者としての責を果たすべくその場を去って行った。

 

ライオネルは、平野に集結している魔物の群れを見下ろし、自己を鼓舞するために呟いた。

 

「さあ、来るがいい、魔王軍。この国をたやすく滅ぼせると思うなよ。この地を、お前達の墓場にしてやるさ……」

 

オーザム国にとって、まさに国家の存亡をかけた戦いが今始まろうとしていた。

 

そして、ライオネルのこの時の決断が、ある一人の少年の運命を変えてしまったことを、彼は当然知る由もなかった。

 

 

 

 

 

~~~~カール王国~~~~

 

カール王国は、魔王軍の来襲前から厳戒態勢をとっていた。それは、10日ほど前にアバンの残したフローラ女王宛の書簡から始まっていた。

 

国内視察から戻ったフローラ女王が、側近に預けられたアバンの書簡に目を通す。そして、それから1時間後には、フローラ女王は矢継ぎ早に各方面に指示を発していた。

 

アバンからの書簡には、魔王軍の来襲が間近に迫っている可能性が高い事、その規模は全大陸に及ぶものになるだろうという事、そして、自身はラインリバー大陸の南にあるデルムリン島という島にいる勇者候補生の指導に行くと言った内容だった。

 

フローラはアバンと会えなかったことを残念に思っていたが、その残された書簡を見た瞬間から為政者としての使命を果たすべく行動を起こした。

 

カール王国の有する騎士団は、大陸最強と謳われている。それは前大戦時から騎士団に『泰然と構え、敵を見極めその一閃で災いを払い王家と国民の盾となること』の精神と技術が引き継がれている点が大きい。

 

この度、カール王国にとって南東からの魔物の襲来の一報を受けて、フローラはその騎士団を逐次戦力投入する事無く、団長ホルキンスを筆頭とする全戦力で迎え撃った。

 

合わせてフローラは、いざという時の住民の避難のために自国の所有する艦船をカールの港に集結させた。

 

また、国内の商人からの協力も仰ぎ大量の荷馬車を確保し、前線と後方の物資の輸送任務に当てるだけでなく、非戦闘員の避難にも活用する手はずを取った。

カール王国は常日頃から物流を重視しているため、街道はどこも石畳で整備されており、迅速な物資の輸送が可能であった点もカール王国には優位に働いた。

 

事前の準備がかろうじて間に合ったカール王国は、軍団としての秩序を保ったまま踏みとどまっていた。

 

「アバン……」

フローラは、居城の自室から南に広がる海を見つめていた。アバンは今、どこにいるのだろうか。

 

アバンが国にいてくれさえすれば、自身も含めて皆が高い士気を保つことが出来るのに……。

 

アバンは15年前に魔王を討伐した後は、めったに国元には戻らず各地を放浪していた。フローラは密かに、次にアバンが国元に戻ってくればもう他国には行かせず、この国に、ひいては玉座の隣に座っていてもらうつもりであった。

 

しかし、ボタンのかけ違いでアバンはフローラとすれ違うようにカールを離れてしまった。アバンからの書簡には、この1年ほど年若い賢者見習いの少年と旅をしていると記されていた。アバンはその少年を、かの大魔導師マトリフに匹敵するとまで評価していた。

 

今もアバンはその少年と、これから会うと記されていた勇者候補生の3人でデルムリン島にいるのだろうか? フローラは集結させた艦船の1隻を、そのデルムリン島に向かわせてアバンを連れ帰ってきたい衝動に駆られていた。

 

しかし、艦船は1隻も無駄にはできない。この集結させた艦船は、もしもの時にカールの住民全員を安全に避難させるためのものだ。今もデルムリン島にいるかどうかすら分からないアバンのために船を出すことは、為政者としてしてはならないことと考え自重していた。

 

……しかし、数日前からフローラには何やら嫌な予感がしていた。

 

もしやアバンの身に何かが……、と。

 

「アバン……」

 

もう一度フローラは、胸にかけているかつてアバンから預かったネックレスを握りしめながら、アバンがいるかもしれないデルムリン島の方角を見つめて呟いた。

 

 

 

 

 

~~~~リンガイア国~~~~

 

ここリンガイア国は、3日前の魔王軍襲来の一報から本日まで、近隣諸国の中でも最大の激戦地となっていた。しかし、同時にリンガイア国の士気は最高潮に達してもいた。

 

今日もリンガイア国の英雄『ノヴァ・ヴァレスタイン』が、戦場から帰還した。リンガイアの町は、3日続けての英雄の凱旋に沸き立っていた。騎乗して優雅に進むノヴァの後ろには、ノヴァの倒したドラゴンの首がいくつも荷車に乗せられて運び込まれていた。

 

「ノヴァ様ーー!」

「こっちを向いて、ノヴァ様ーー!」

 

王宮へと続く道を騎乗しながら進むノヴァに、周囲の住民から無数の花びらと歓喜の声が降り注ぐ。ノヴァは、それらの声に片手をあげて応えていた。

 

 

 

その様子を、王宮のテラスから満足そうに眺めている男がいた。その男の名は、アイスン7世。リンガイア国 現国王であった。

 

アイスンは、魔王軍の襲来の一報があった3日前の事を思い出していた。

 

リンガイア国は15年前の魔王軍襲来の際に、海を挟んだオーザム国からの救援要請に応えて援軍を送っていた。そのため、今回も何か異変があった際には即座に手を差し伸べられるよう用意をしていた。

 

リンガイア国がここまでオーザム国に手厚い対応を取る理由は、ひとえにオーザム国が魔結晶の最大の産出国であったからだった。

 

当初アイスンは、援軍を差し向けた後の魔結晶の優先的売買権をオーザム国に持ちかけるつもりであったため、援軍要請が無かったことに残念な思いを抱いていた。

 

しかし、ここ3日間の魔王軍の攻勢は激烈なものであった。軍務に疎いアイスンでもその程度の事は理解しており、リンガイア国の誇る智将バウスンとその息子『北の勇者』ことノヴァを国の守りとして残しておけた事に、今では逆に神に感謝したい気持ちでいた。

 

「陛下、ノヴァ・ヴァレスタイン、ただいま戻りました」

 

気が付くと、王国の誇る勇者ノヴァが玉座の間に片膝をついて参上していた。

 

「うむ、ご苦労だったな、ノヴァ。今日はゆっくりと休むがよい。明日よりまた働いて貰わねばならぬからな」

 

アイスンはテラス席からノヴァを振り返りそう労った。

 

 

 

 

 

「ノヴァ、よく無事に戻ったな」

 

「はい、父さんもよく御無事で」

 

ここは、リンガイアの町の一角にあるバウスンとノヴァの住まう屋敷だった。

 

バウスンはこの3日間、主に海上にて海竜の群れを相手にしていた。軍船を巧みに指揮し、海上からの海竜の上陸を阻止する。その指揮の巧みさは、他国にまでその声明が鳴り響く智将バウスンの面目躍如といったものだった。

 

「だけど、父さん。そろそろ敵もこの国を手強しと見て、尻尾を巻いて逃げ出すんじゃないかな?」

 

ノヴァはこの3日間で20匹以上のドラゴンを仕留めており、敵を侮り始めていた。そんなノヴァの様子に危うさを感じたバウスンは注意を促す。

 

「いや、逆だ、ノヴァ。敵は徐々に、統制のとれた行動をとり始めている。往々にしてそれは、敵に優れた指揮官が現れた時に発生する」

 

「……つまり、敵の指揮官が前線に出てきたと?」

 

「そうだ。そして、その統制は私の感じるところでは、海上ではなく地上から発せられていると見ている」

 

そのバウスンの言葉に、ノヴァは不敵な笑みを浮かべる。

 

「望むところだよ、父さん。そろそろ知恵のない獣との戦いにも飽きてきた所だったんだ。その指揮官とやら、僕が倒して、この国に足を踏み入れた事を魔王軍に後悔させてやる」

 

バウスンはそのノヴァの言葉を聞き、不安が胸中を占めた。ノヴァは確かに、この国で並び立つ者のいない強者だ。その戦闘能力は、とうに自分などを追い越している。

 

しかし、ノヴァの強さは我流であり、真の強者との闘いを経験していない。

 

バウスンは、半年程前にリンガイア国を訪ねてきてくれた勇者アバンの姿を思い浮かべた。15年前に魔王を打倒した勇者としての声名は耳にしていたが、会ったのは初めてだった。

 

一目見て分かった。この男こそノヴァの心技体を鍛え上げてくれる真の強者だと。そのアバンの方からノヴァの指導を申し出てくれた事をバウスンは神に感謝し、即座にそれを了承した。

 

だが、不幸なことに主君であるアイスンの許可が出なかった。バウスンはその事にいたく落胆した。

 

しかし、諦めきれなかったバウスンはその後密かにアバンの所在を調べていた。表だっての指導を受けることが出来なくても、人目に付かないように、ほんの少しでもノヴァを指導してもらえたらと。

 

主君の意向に背いてでも、息子に指導を受けさせたい。それは、紛れもなくバウスンのノヴァに対する親心だった。

 

しかし、主君に隠れながらの調査では十分な調査が出来ず、その所在を突き止めた時にはアバンは既に国外にいた。

 

あの時、アバン殿の指導を受ける事さえできていれば……。バウスンの胸に悔恨の想いがよぎった。

 

「心配いらないよ、父さん。明日は、その指揮官の首を荷車に乗せて凱旋してやるよ」

 

「……くれぐれも油断をするなよ、ノヴァ。決して敵を侮ってはいかん」

 

「分かっているよ、父さん」

 

 

 

しかし、その翌日戦場に出たノヴァは、リンガイアの町に戻ってくることが無かった。その事実は、リンガイア国民を絶望の淵に突き落とした。それは、リンガイアの国が亡びる3日前の事だった。

 

 

 

 

 

魔王軍の侵攻は、世界各国に衝撃を持って受け止められた。後世、大魔王戦役と呼ばれるこの戦役のどの時点を始まりと捉えるかについては、地上に住まう人々、魔物それぞれによって様々な意見があるだろう。

最も早い時期を主張する者は、勇者アバンが魔王ハドラーを打倒した直後かもしれない。しかし、大多数の者は、大魔王の邪気により世界の魔物が狂暴化し、魔王軍の実態が白日の下にさらされたこの時期を主張するであろう。

少なくとも、ベンガーナ、オーザム、カール、そしてリンガイア、この4国の為政者にとっては、この戦役は既に始まっていた。

 

この戦いの結末がどうなるのか、当時を生きた者達の中にその問いに答えられる者は誰もいなかった。

 

 




これで本当に3章は完結です。次からは4章になります。
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