転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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52話 激突 獣王クロコダイン

~~~~ロモス南部 魔の森~~~~

 

そこは、ロモス王国南に広がる魔の森の一角だった。

 

鬱蒼とした樹木が繁茂するこの魔の森の奥にある洞窟の中で、1体のリザードマンが不機嫌そうに目を閉じてうなり声を上げていた。

 

そのリザードマンの名前は、クロコダインと言った。

現在ロモス王国の攻略を命じられている魔王軍六大軍団長の1人だ。外見は優に3mは超える背丈と筋骨隆々といった肉体で、その存在感は見るものを圧倒する。身体には、並の人間ならそれだけで押しつぶされそうなほどの重厚な黒い鋼鉄の鎧を纏っている。

 

クロコダインが不機嫌な理由は、先ほどの『悪魔の目玉』を通じたギルドメイン大陸の連絡要員とのやりとりにあった。

 

クロコダインは、自らの配下である百獣魔団を強化するため、7年ほど前にギルドメイン大陸のギルドメイン大森林まで、とある強力な魔物をスカウトに行っていた。

 

その魔物に名は無く、ただライオンヘッドという種の一個体であった。

 

クロコダインは、その森でライオンヘッドの力を試した。そして、その力に十分満足したクロコダインは、ライオンヘッドに配下になることを望み、ライオンヘッドもそれを受諾したはずだった。

しかし、それから7年が経ちギルドメインの森に何度も迎えの魔物を行かせたが、そのライオンヘッドの所在がようとして知れなかった。

 

ライオンヘッドが、配下になるという約束を反故にして行方を眩ませた? いや、クロコダインはそうは考えなかった。

 

一度矛を交わした相手だからこそ分かる。

 

たとえ心変わりをしても、あの魔物は行方を眩ませるのではなく、自身の軍団長の地位を狙ってもう一度勝負を挑む方を選ぶはずだ。

 

クロコダインは、そう確信を持っていた。

 

しかし、その魔物は今になってもクロコダインのもとに現れていない。

代わりにと、魔王軍の後方担当から送られて来た魔物は、クロコダインが望んでいたライオンヘッド種ではあったが、その力と気質には雲泥の差があった。

 

クロコダインは、ギルドメインの森で会ったライオンヘッドに、いずれは自身の右腕を担って貰うつもりだった。あの魔物は、ライオンヘッドという種に収まらず、いずれはその上位種にも至れる魔物と評価していたからだ。

 

どこに行った……。まさか討伐されたのか? ……たかが人間に?

 

クロコダインがそう考えていた時だった。悪魔の目玉から通信が入ったのは。

 

「クロコダイン……。獣王クロコダインよ」

 

「むっ……。おお、魔軍司令殿か。いかがした?」

 

洞窟の天井からぶら下がった悪魔の目玉の目の部分に魔軍司令ハドラーの画像が映されている。クロコダインは、壁にもたれ掛けていた己の体勢を幾分改めて悪魔の目玉に向き直った。

 

「何をしている、クロコダイン。お前には、ロモス王国攻略を命じておいたはず……」

 

「ふっ。駄目だ駄目だ、あの国は。吹けば飛ぶような腰抜けばかりよ。俺自ら手を下さずとも、我が百獣魔団の怪物に任せておけば直ぐにでも落ちるだろうさ」

 

「フフッ。お前は相変わらずだな。だが、今日はその件で連絡したわけではない。我が魔王軍にたてつく者どもが今、お前のテリトリーである魔の森に入りこんでいてな。お前の手で始末をしてもらいたい」

 

「何!? どんな奴らだ!」

ハドラーのその言葉に、強敵らしき相手と戦えると考えたクロコダインは思わず笑みを浮かべる。

 

すると、悪魔の目玉に映る映像がハドラーから魔の森らしき背景の映像に瞬時に変わった。そして、ハドラーの声だけが悪魔の目玉から発せられた。

 

「こいつらだ。背の低い方は戦士のダイ。背の高い方は魔法使いのポップと言う」

 

その二人の姿が悪魔の目玉に大きく映し出されたとたん、クロコダインは大きな笑い声をあげた。

 

「ク、クックック……。ワーハッハッハ!!」

 

「何が可笑しい、クロコダイン?」

 

「グッフッフ。冗談はよしてくれ、ハドラー殿。仮にも獣王の異名をとる俺に、こんなガキ共の相手をさせようと言うのか?」

 

そのクロコダインの言葉を半ば予測していたハドラーは、クロコダインに対していかにこの二人が侮れない存在かを語る。

 

「こいつらを侮るな、クロコダイン。ダイは、この年で既にかつての勇者アバン以上の攻撃力の持ち主だ。こやつにつけられた俺の傷は、まだ癒えんままだ。そして、ポップは年若いが練達の魔法使いだ。こやつは、ダイの力を何倍にも増幅させる、ある意味ダイ以上に危険な男だ」

 

「何と! 勇者アバン以上の攻撃力!? しかもハドラー殿に手傷を負わせたと!?」

 

「そうだ! まだ力を付けぬうちに殺してしまわねば、必ずや我らの脅威となるはず!」

 

「フフフッ……! 面白い!! ハドラー殿を傷つける程の小僧共……。是非とも戦ってみたくなったわ!!」

 

クロコダインは立ち上がり、魔の森をうろついているであろう強敵らしき存在に気炎を上げた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ほんっとに、ごめんなさい!」

 

マァムが俺の前で手を合わせて謝罪している。

 

あの後、俺が意識を回復させ目覚めると、既に誤解は解けていた。

どうやらダイと、あの時助けた女性が擁護してくれたようだ。

 

「いや、良いよ。そう思われても無理ないし。……それに、良い思いもしたし」

俺は、あの時感じた右手の感触を少しでも思い出そうと、右手の指をにぎにぎしながら答える。

 

「……良い思い?」

 

「あ、いや、何でもない、何でもない。気にしないで」

俺のにぎにぎしている手をマァムが冷たい目で見つめ、再び険悪な雰囲気になりそうだったので、全力で否定しておいた。

 

「マァムちゃん。こんな所までごめんなさいね。まさか村の外にこんなに魔物が増えているなんて思わなかったのよ」

 

俺達が助けた女性がマァムにそう言って謝っている。

 

「もう、ララおばさん! ミーナが心配して泣いていたんですよ。『お母さんが水汲みから戻ってこない』って。どうして、こんな奥地まで来ちゃったんですか!?」

 

マァムが、本当に心配していたことが分かるような表情で、ララおばさんと呼ばれた女性に訴えた。

 

「それが、川で水を汲んでいる最中に、毒を持ったスライムに襲われちゃってね。それから逃げているうちにこんな所まで来ちゃったのよ。本当にごめんなさいね。皆さんも、あらためまして助けて頂いてありがとうございました」

 

ララおばさんと呼ばれた女性が、俺達にも改めて頭を下げて感謝を示してくれる。

 

「いえ、良いんですよ。何事もなくて良かったです」

「うん。良いよ、そんな。照れちゃうよ」

 

俺とダイは、ララおばさんにそう返事を返しておいた。

その様子を見ていたマァムが、気が付いたように俺達に問いかける。

 

「そういえば、ポップ達はどうしてこんな所にいたの? 私達の村に何か用事があった?」

 

「ああ、それは……」

 

俺は、マァムのその問いに少しだけ間をおいて答えた。

 

「俺達は、マァム達の村に用事があったというわけじゃなくて、マァム本人に用事があったんだよ」

 

ダイは、俺の隣でうんうんと頷いてる。その俺の回答が予想外だったらしく、マァムは目をパチクリしている。

 

「私に? え、でも、私二人のこと全然知らないわよ?」

 

ふふ。マァムは知らなくても俺達は知っているんだよな。

 

俺は、ダイと目を合わせニヤッと笑った。そして、二人して服の中に手を入れて、ある物を引っ張り出し、それを『ジャジャーン』とばかりにマァムの前に突き出した。

 

「え!? こ、これって、もしかしてアバンのしるし!? まさか、二人とも……」

 

「そう、俺達もアバン先生の弟子なんだ。マァムのことはアバン先生から聞いていたんだ。マァムも、同じしるしをアバン先生から貰っているだろう?」

 

俺のその言葉に、マァムも自分の胸からアバンのしるしを取り出す。

 

「ええ。私も以前アバン先生にこれを貰ったわ。……そうだったのね。だから私に会いに……。あっ、じゃあ、アバン先生は何処に? 近くに来ていらっしゃるのかしら?」

 

俺とダイは、マァムのその質問に直ぐに応える事が出来なかった。

 

「……まあ、その辺の話はもう少し安全な場所に移動してからにしないか。ここは、……まだ危険地帯だ」

俺はそう言いながら周囲を見渡した。

 

「それもそうね、まずネイル村に戻りましょう」

マァムも俺の言葉に納得したようで、その後ネイル村まで俺達を案内してくれることになった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ネイル村は、牧歌的な雰囲気の村だった。辺りは既に暗くなっているから村の全容は分からないが、それほど大きな村ではないだろう。

 

俺達が村の入り口にたどり着くと、小さな女の子が「お母さん!」と言いながらララさんに抱きついてきた。ああ、この子がおそらくミーナちゃんなんだろう。

 

……良かったな、こんな小さな子供から母親を取り上げるような事にならなくて。

 

「ポップ達は、泊まるところ無いんでしょう? この村小さいから宿屋もないし、良かったら私の家に泊まらない? アバン先生の事とか色々聞きたいわ」

 

マァムのその提案に、俺とダイは飛びつくように乗らせて貰った。

 

 

 

「マァムがお世話になりました。母のレイラです」

「こちらこそお世話になりました。ポップと言います」

「ダイです。宜しくお願いします」

 

俺達は、マァムの家のリビングに案内され母親のレイラさんと挨拶を交わした。ゴメも「ピッピィ!」と元気に挨拶をしている。

 

最初、マァムもレイラさんもゴールデンメタルスライムが鞄から飛び出してきて驚いたようだったけど、直ぐになじんだようだ。まあ、ゴメはかわいいからな。今は、昔からの友達のようにマァムの肩に乗って遊んでいる。

 

俺達がまだ晩ご飯を食べてないということをレイラさんが知ると、俺達のために暖かい食事を用意してくれた。ありがたいことだ。

 

そして、食後のお茶をダイと共に頂いていたところだった。

 

「それで、アバン先生は今どこにいるの? どうして2人だけで旅をしているの?」

 

マァムがその質問をしてきたのは。

 

俺はダイと顔を見合わせた。事前にダイとその質問が出た時にどう返事をするのかは、話し合っていた。

 

俺は、軽く深呼吸をして、マァムに答えた。

 

「……アバン先生は、亡くなったんだ。3日前に」

 

俺のその言葉に、マァムとレイラさんは口を押さえて、驚きの表情を浮かべる。しばらくその場に痛いほどの沈黙が流れたが、マァムが口を開いた。

 

「ど、どうして? どうしてアバン先生が……」

 

「3日前、デルムリン島でアバン先生がダイの修行をしているところに、かつての魔王ハドラーが襲ってきたんだ。俺達は全力でハドラーと戦ったんだけど、力及ばずアバン先生は……」

 

「そんな……。アバン先生が……」

マァムが俺のその言葉に涙を流した。そんなマァムをレイラさんが優しく抱きしめ、俺に目を向けた。

「アバン様は、お二人を守っていかれたんですね?」

 

「はい。アバン先生は、後のことを俺達に任せて逝きました。ハドラーが言うには、ハドラーをも超える大魔王バーンという存在が、この地上を滅ぼさんとしているようです。……俺達は、それに対抗するためにデルムリン島を旅立ち、まずはロモス王国に来ました。……ここに、アバン先生の弟子がいると聞いていましたから」

 

俺はレイラさんにそう答えて、泣いているマァムを見つめた。

 

マァムが俺の視線に気付き、涙を拭う。

 

「じゃあ、2人が私に会いに来たのって……」

 

「うん。マァムさえ良ければ、アバン先生の遺志を継いで俺達と一緒に戦って欲しいと思った。ただ、マァムにはマァムの事情もあるだろうから、決して無理強いをしたいわけじゃあないんだ」

 

俺は、最終的にマァムが仲間になってくれることを知っている。だけど、だからといってその前提で誘うのは違うと思っていたから、俺はマァムの意思を確認した。

 

マァムは、考え込んでいる。レイラさんは、そんなマァムを見て、俺達に声をかけた。

「2人とも今日は泊まっていくんでしょう? マァムも悩んでいるようだし、返事は明日でも良いんじゃないかしら?」

 

そうだな、今すぐ決断しなければならないことではない。

 

「そうですね。ごめんな、マァム。急にこんな話をして。俺達今日は泊まらせて貰うから、ゆっくり考えてくれよ」

俺はダイと頷きあい、そうマァムに言った。

 

「……ありがとう、二人とも。うん、よく考えてみる。じゃあ、二人も今日はゆっくり休んで」

マァムは、そう言って自分の部屋に向かった。

 

俺達は、その日レイラさんが整えてくれた部屋で休むことになった。

 

そして、皆が寝静まった深夜。それは突然の事だった。

 

「グォオオオオオオーー!!」

 

凄まじい雄叫びが、ネイル村に轟いた。

俺とダイは瞬時に目を覚まし、部屋の窓から見える魔の森に目をこらした。鳥が一斉に羽ばたき、空に飛び立っている。

 

俺は、気配を察知するなんて特別な能力は無いが、先ほどの雄叫びの意味は分かった気がする。

 

(俺はここにいる。今すぐに来い!!)

 

その声の主がそう言っている気がした。

 

「ポップ!」

ダイが俺を振り返り、真剣な眼差しを向けている。ダイも俺と同じ意思を察したのだろう。俺がダイと共に部屋を飛び出した時、隣の部屋で寝ていたはずのマァムも飛び出してきた。

 

「私も行くわ!」

 

俺達はマァムに頷きを返し、家を飛び出した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

そこは、魔の森の中にある少し開けた場所だった。

大きな岩の上に、一体のリザードマンが仁王立ちしていた。右手には斧を持ち、身体には頑強そうな黒い鋼の鎧を身につけている。

 

俺は、ここにたどり着く前から、待っている相手の予想がついていた。そう、そこにいるのは獣王クロコダインだと。クロコダインは、原作ダイの大冒険で最初は敵として現れるが、途中からダイ達の味方になってくれる頼れる男だ。

 

しかし、今その頼れる男は、俺達を始末せんとその強い眼光で俺達を睨み付けている。

俺はクロコダインを原作通りに仲間にするにはどうすれば良いか、何度か考えたことがある。その考えた末の結論は、『本気でぶつかる』と言うものだった。

 

クロコダインは、曲がったことを嫌う武人だ。下手に小細工などすれば逆に反発されることは目に見えていた。だから俺は原作通り、クロコダインには全力でぶつかる事こそが、最終的にこちら側についてもらう唯一の方法だと考えていた。

 

「よく来たな、ダイ、それにポップとやら! 俺の名は、クロコダイン! 魔王軍六軍団の一つ、百獣魔団を束ねる団長よ! ――さあ、貴様らも武人なら堂々と俺と戦ってみよ!!」

 

クコロダインは、威風堂々と宣言し、ダイの後ろにいる俺とマァムに目を向けた。

 

「後ろの娘は聞いておらんな。俺が用があるのは、ダイとポップだけだ! 逃げたければ逃げても良いぞ!」

 

ちっ、もしかしたらハドラーは俺が死んでいると思っていないかなと密かに期待していたが、しっかり生き残っている事を知られていたか。畜生、当面ダイの後ろに隠れていられると思っていたのに。

 

「……ダイ。相手は見るからにパワータイプだ。力勝負は避けてスピードで翻弄するんだ。マァム、その腰の銃は魔法を撃ち込めるよな? じゃあ、遊撃に回って状況に応じて立ち回ってくれるか?」

俺は、ダイとマァムに作戦を提案した。

 

「――分かった!」

「ええ、分かったわ。ポップは後衛かしら?」

「ああ。そのつもりだ。回復と援護重視で、隙があれば攻撃するさ」

 

「グッフッフ……。逃げずに立ち向かってくるとは良い度胸だ! では、始めようではないか!」

 

俺はその言葉を聞くやいなや、全員に対して補助魔法をかける。

「――防御力変動呪文(スクルト)! ――敏捷力変動呪文(ピオリム)!」

 

俺達を一瞬、青い光が2度包み込む。よし、これで防御力と敏捷力の底上げが出来た。

 

「――! 小癪な! 喰らえい!!」

クロコダインが無造作に右手の斧を振り下ろした。ただそれだけなのに、その一撃は大地を震わせた。

 

「――散れ!」

 

俺は飛翔呪文(トベルーラ)で、ダイとマァムは持ち前のスピードで左右に飛ぶ。直後に聞こえる背後からの轟音。俺がチラッと後ろを振り返ると、背後の岩が真っ二つに裂かれていた。と、とんでもねえな……。

 

「凄い一撃。……あんな攻撃が当たったら」

マァムも唖然として見ている。

 

「グワッハッハ。どうだ、怖じ気づいたか。俺達軍団長は、それぞれの得意分野では魔軍司令ハドラー殿をも上回るのだ。貴様らなど敵ではないわ!」

 

「何をーー!」

 

ダイがクロコダインに切り込む。手に持っているのがナイフなので、致命傷は負わせられないが、スピードでは確実にクロコダインを上回っている。上手くクロコダインに張り付き、集中力を乱す事に成功している。

その隙にマァムが、クロコダインの背後に回りハンマースピアを叩きつける。しかし、重厚な鎧に遮られてダメージが入っているようには見えない。

 

俺は、後方で2人の闘いの様子を見つめていたが、なかなか攻撃魔法を放つタイミングが掴めずにいた。これがアバン先生なら、俺が攻撃魔法を使いやすいように射線を空けたり、絶好の魔法行使の隙を作ってくれたりしてくれる。しかし、ダイやマァムとはまだそこまでの連携が図れるほど共に過ごせていない。マァムに至っては、その戦い方を見る事すら初めてだ。

 

「――あぅ!」

 

いけない! マァムが、クロコダインの尻尾による攻撃で宙に飛ばされた。俺はとっさに飛翔呪文(トベルーラ)を唱え、マァムを空中で抱きとめる。

 

「マァム、大丈夫か?」

俺はマァムを受け止めながら、回復呪文(ベホイミ)をかけた。その効果があったのか、すぐにマァムは意識を取り戻す。

 

「え、ええ。ありがとう、ポップ」

 

「マァム。あいつは、物理攻撃に対する防御力が高い。無理に接近せず、魔弾銃で攻撃を仕掛けた方が良い」

 

マァムは俺の言葉に頷き、地上で膝をついて魔弾銃を構える。その横で俺は、その魔弾に込められている魔法を確認しダイに声を掛けた。

 

「ダイ、下がれ!」

 

ダイが一瞬こちらを見て、クロコダインと距離を取った。よし、今だ!

俺が火炎呪文(メラミ)の魔法を放つのと、マァムが魔弾銃を撃つのは同時だった。

 

「――う、うぉお!?」

 

俺達から放たれた2つの魔法は、クロコダインに命中すると同時にその効果を発揮した。マァムが放った魔弾に込められた魔法は真空呪文(バギ)だった。つまり火炎呪文(メラミ)×真空呪文(バギ)で、小規模ではあるが合成魔法 火炎真空呪文(メラゾロス)に似た火炎竜巻が発動していた。

 

とぐろを巻く火炎竜巻に巻かれるクロコダイン。俺達はその強烈な熱気に顔をしかめる。

 

しかし、火炎竜巻が収まった後、その竜巻の中心部にクロコダインはいなかった。もちろん俺は、クロコダインが燃え尽きたなどとは考えなかった。

 

「――! マァム!」

 

咄嗟に俺は、マァムを抱きしめて宙に飛翔呪文(トベルーラ)で飛翔していた。その直後、俺達の立っていた地面が裂け、クロコダインが地中より姿を現した。

 

なるほど、闘気流で地面に穴をあけて、今の火炎竜巻から逃れたな……。なかなかやるな。俺は、敵ではあるが、クロコダインのその咄嗟の機転にうれしくなる気持ちを抑えられなかった。

 

クロコダインは、幾分やけどを負っているようだが、まだまだ致命傷には程遠い感じだ。そうだよな、クロコダインの最大の武器はこの耐久力だよな。

 

「今の攻撃には、驚いたぞ。……2つの魔法を組み合わせてあのような事をするとは。だが、次はこちらの番よ」

 

クロコダインは、右手に握っている斧を空に高く掲げる。途端にその斧から真空呪文(バギ)系の風の刃が吹き荒れ、俺達に迫った。

 

「ダイ、マァム! 俺の後ろに! ――真空呪文(バギマ)(×3)!」

 

しかし、俺はそれに対抗するように同じく真空呪文(バギマ)の魔法を唱えた。互いのバギ系魔法がぶつかり合うが、俺の真空呪文(バギマ)は魔力圧縮で中級魔法の限界値である3倍の威力に跳ね上げている。一瞬の後、俺の真空呪文(バギマ)が真空の斧による魔力を凌ぎ、逆にクロコダインに襲い掛かった。

 

「な!? ば、馬鹿な! 俺の真空の斧が負けただと! ――が、がは!」

突風がそのクロコダインの巨体を浮かし、クロコダインは背後の大木に叩きつられる。

 

よろめくクロコダインを見て、俺は氷系呪文(ヒャダルコ)を唱えた。途端に右手から13本の氷の槍が発現する。俺は、その全ての氷の槍をクロコダイン目がけて突っ込ませた。

 

小細工は無しだ! ――突き刺され!

 

「――! 舐めるなー!! カァアー!!」

 

だが、それを見たクロコダインは、口からヒートブレスを吐きかけ向かってくる槍を全て溶かす。

チッ、まさか氷の槍全てを一瞬で溶かすほどの威力とは。

 

クロコダインがゆっくりとその巨体を起こす。

 

「――クッ! まさか、これほどの高威力の魔法を使いこなすとは。貴様は、思った以上に高位の魔法使いのようだ。まず標的はハドラー殿に手傷を負わせたダイからと思っていたが、その前にまずは貴様から倒す必要がありそうだな!」

 

そう言うなり、俺目がけてクロコダインが突進してきた! おいおい、今さっきまでハァハァ言ってたじゃないか。どうしてダメージを無視して突貫できるんだよ! 

 

俺はその突進を止めようと、氷系壁呪文(アイスウォール)の魔法を唱え、氷の壁をクロコダインとの間に何枚も作る。

 

「――そんなもので俺を止められると思うな!!」

だが、クロコダインはそれをものともせず、次々と氷の壁に体当たりして壁を砕きつつ突進してくる。

 

そのあまりの突進力に、咄嗟に俺は飛翔呪文(トベルーラ)の魔法で後方に高速移動するが、それでもクロコダインは俺だけを狙って追いすがってくる。

 

「――ポップ!」

俺しか視界に入らない様子のクロコダインに対して、側方からダイが追いすがって攻撃を加える。だが、その攻撃はクロコダインの硬い鱗に阻まれほとんど傷を付ける事が出来ていない。

 

突如クロコダインの左手に何かが着弾し燃え上がる。俺がチラッとその方向を見ると、マァムが魔弾銃を構えていた。おそらく今のは火炎系の魔弾を放ったんだろう。

だが、それでもクロコダインの突進は止まらない。その程度のダメージは、歯牙にもかけていない様子だ。

 

このまま逃げていてもらちが明かないと思った俺は、踏みとどまってクロコダインを迎え撃つことにした。

 

そして、俺がクロコダインの間合いの中に入ったと同時に「――死ねぇ!」と叫び右手の斧を俺の脳天目がけて振り下ろしてきた。これを喰らったら間違いなく俺は死ぬな。俺は、その攻撃の重圧に凄まじい恐怖を感じながらも、精一杯平常心を保とうとしていた。

 

「ポップ! 避けろー!」

「ポップ! 危ない!」

 

もちろん避けるさ! 俺はすかさず突風呪文(パキ)の魔法を唱えて、足元の土をクロコダインの目を狙って飛ばした。

 

「――何!?」

クロコダインが目をつぶされてひるんだ瞬間に、俺はクロコダインと交差するようにギリギリの所で飛翔呪文(トベルーラ)で躱した。

 

「――うぬ! おのれ、逃がすか!」

 

斧による攻撃を躱されたクロコダインは、振り返って再度俺に向かってこようとする。だけど、次はそうはいかない。

 

「ダイ! もう一度攻撃だ! 次は通るはずだ!」

 

ダイは、俺のその言葉に一瞬不思議そうな顔をしたが、直ぐに俺の言葉通りクロコダインに切りかかった。

 

すると、先程までは硬い鱗に阻まれてほとんど通らなかったナイフによる攻撃が、明らかにクロコダインの身体深くまで攻撃が通るようになっていた。

 

「グ、グォオオ! こ、これは一体!?」

クロコダインは、突如として自慢の体表が傷つけられるという事態に混乱している。

 

そう、俺はさっきクロコダインと交差した際に、『防御力変動呪文(ルカニ)』の魔法をクロコダインに対して唱えていた。この魔法は、敵の防御力を一定量下げる効果があるが、遠距離からは使えないという欠点がある。だから俺はギリギリまでクロコダインを引きつけ、交差する瞬間にこの魔法を唱えていた。

 

「凄いや、これならダメージを与えられる!」

ダイは、素早くクロコダインの周りを動きながら次々に切りつける。

 

「おのれー! ちょこまかと! ――グワッ!」

クロコダインは、自身を襲う痛みと闘いながらもダイに対して斧を振るう。しかし、そこをマァムのハンマースピアが襲った。

 

マァムは、クロコダインの防御力が低下したのを見て、接近戦に切り替えたようだ。ハンマースピアを軽々と振り回してクロコダインに叩きつけている。

 

すっげえな、あんな重そうなスピアよく振り回せるよ。俺なんて、持っているだけで精一杯じゃないかな。

 

ダイからは斬撃攻撃を、マァムからは打撃攻撃をくらい、次第に疲弊していくクロコダイン。敏捷力変動呪文(ピオリム)の効果もあるのだろう。振り回される斧による攻撃を、二人は軽やかに避けていく。

 

「おのれー! 貴様らー!」

 

怒りの声と共に斧をダイに叩きつけようとするが、その攻撃は大振りに過ぎた。一瞬早くダイは飛び上がり、そのままクロコダイン目がけて、上空から切りつける。

 

「いっけー! 大地斬!!」

 

咄嗟にクロコダインは左腕を頭の上に掲げ防御態勢を取るが、低下した防御力と大地斬による攻撃力によりその防御はいともたやすく貫かれた。

 

「――グァアッ!!」

 

苦痛の声を上げるクロコダイン。その左腕は骨が見えるほど傷ついており、ドクドクと出血している。

 

深手を負ったクロコダインは、その両の目を爛々と光らせて俺達を睨みつけた。

 

「おのれ! アバンの使徒ども! この屈辱、必ず張らしてやるぞ! ――必ずだ!!」

 

クロコダインの気迫に押され、思わず俺を含めてダイもマァムもその場に立ち尽くした。

 

その隙にクロコダインは、自身の足下に闘気流を放つ事で大穴を作り、その場から撤退していった。

 

 

ふー、どうにか勝てたな。俺は、もちろんこの後クロコダインとの再戦がある事を把握していたが、とりあえずはこの戦いを凌げた事に安堵した。

 

そして、何よりもこの戦いは、ハドラー戦の時のようなイレギュラーがなかったという事に俺は安堵していた。

 

はー、あんな目で睨まれるんじゃなくて、早くクロコダインをおっさん呼びして肩を並べて戦いたいな……。

 

俺は、クロコダインが消えた大穴を覗きこみながらそんな事を考えていた。

 

 

 

そして、そんな俺達の戦いを、背後の木の枝に張り付いた悪魔の目玉が偵察していた事に、俺は気がついていなかった。

 

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