転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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54話 『魔の森』の冒険

~~~~ネイル村出立後 1日目~~~~

 

「マァム、コウモリ男を頼む! ダイは、おばけキノコを!」

 

「分かったわ!」

「うん!」

 

俺の言葉にマァムは返事を返し、コウモリ男に対して魔弾を放つ。その魔弾には、真空呪文(バギ)の魔法が込められていて、それが命中した途端、コウモリ男は全身を切り刻まれ地表に落ちてきた。

 

そして、ダイはおばけキノコの放った甘い息を飛び上がることで躱し、背後からナイフで切り付ける。深手を負ったおばけキノコは、叫び声をあげながらどこかへ逃げて行った。

 

もちろん俺も、2人の活躍をただ指をくわえて見ていたわけではなかった。俺は、この集団のボスと思われるライオンヘッドの相手をしていた。

 

全く、つくづくライオンヘッドとは縁があることだよ。俺はそう毒づきながら、ライオンヘッドに対して爆裂呪文(イオ)を放つ。俺の右手から発現した複数の爆球がライオンヘッドに襲い掛かり、一瞬でライオンヘッドは血だらけになった。俺は、続けて氷系呪文(ヒャダルコ)を、と思い詠唱しようとしたが、その前にライオンヘッドが地面にどさっと倒れてしまった。

 

あれ? もう終わり? 俺は、かつて戦ったライオンヘッドの進化種との戦いを今でもよく覚えていたから、あまりのあっけない終わりに拍子抜けしてしまった。何でだろう? ギルドメインの森にいたあいつが特別強かったのかな? それとも通常種と進化種ではこれほど強さに差があるんだろうか?

 

いずれにしても襲い掛かってきた敵はすべて排除できたから、俺はようやく一息ついた。

 

ここは、魔の森の一角だった。今日の朝に、ダイとマァムと一緒にネイル村を出発した。クロコダインの勢力圏である中心部を避けて大きく迂回しながらロモス王国に向かっているため、町までは5日程度かかるようだ。

 

そろそろ辺りは薄暗くなってきている。いや、コウモリ男が出現したところを見ると、もう夜と言っても差し支えない時間帯なのだろう。

 

「ポップ。そろそろ野営の準備をした方が良いんじゃない?」

 

マァムが俺に近づきながらそう言った。

 

「そうだな。丁度ここが広場になっているから、ここらで野営しようか」

 

俺達は、火を起こす準備をした。ダイはその辺を駆けまわって枯れ木を集めている。マァムは、朝レイラさんが持たせてくれた鶏肉を小さく切って串に刺している。俺は、アバン先生から預かった輝聖石を、今日のベースキャンプにする予定の広場の四隅に設置していく。よし、用意が出来た。後は、串に刺さった鶏肉を焚き火で焼くだけだ。メラを放って集積した木に火を付けた俺は、ダイに声を掛けた。

 

「ダイ、汗かいただろう。鶏肉が焼ける間に、軽くシャワーを浴びておかないか?」

 

「うん! そうしよう! 俺、汗びっしょりだよ。」

 

昼間の移動で、俺達の身体には汗がべったりと張り付いている。俺もダイも気持ちが悪かったので、デルムリン島でやっていたように温水呪文(メラータ)の魔法で温水シャワーを浴びようと思った。

 

早速ダイが服をこの場で脱ぎ始める。

 

「ちょ、ちょっとダイ! 何しているのよ、急に!」

 

マァムが両手を顔に当てて、突然すっぽんぽんになろうとしたダイを止める。

 

「だいたい、何よ、シャワーって! いったい何をするつもりなのよ!」

 

マァムがよく分かっていない様子なので、俺は右手から温水を出して、シャワーの事を説明した。

 

「……な、何よ、それ。そんな魔法聞いたことないわよ。そんなのおかしいわよ!」

 

「え、でも俺とアバン先生は、旅の間にほとんど毎日やってたぞ」

 

俺はマァムにそう答えながら、巨木の後ろに移動して服を脱ぎ始めた。ダイは既に全裸だ。俺も着ていたみかわしの服を脱いで、丁寧に畳む。この服もアバン先生に買ってもらってから半年が経つ。ネイル村で、レイラさんが破れていた所やほつれていた所を綺麗に直してくれたから、新品のように綺麗になった。これはアバン先生との思い出の品だから、本当に嬉しかった。

 

裸になった俺は、右手から温水を出してダイと二人で汗を流し始めた。うーん、気持ちいい。これでシャンプーやボディーソープがあれば最高なんだけどな。まあこの世界、石鹸もどきみたいなのはあるから、当面はこれで我慢するしかないな。いつか作れないかな、シャンプー。

 

マァムは、俺達のその様子を見て全力でこちらに背を向けた。顔が赤くなっているところが、とてもかわいい。俺は、少しマァムをからかってやりたくなった。

 

「覗くなよ、マァム」

 

「――覗くわけないでしょ!」

 

マァムはこちらを振り向かない。俺は、マァムの答えを半ば予想していながら声を掛けてみた。

 

「どうだ。マァムも汗をかいているだろう。一緒に汗を流さないか?」

 

「――い、一緒になんかするわけないでしょ!」

 

「じゃあ、俺が目を瞑っておくからシャワーを浴びたらどうだ? 気持ち良いぞ?」

 

「目、目を瞑っておくって、そんな言葉信用できるわけないでしょ! ――終わったら、早く服を着なさいよ!」

 

どうしてもシャワーを浴びる気が無いようだ。俺は自分への信用のなさに少し傷つきながら、続けて温風呪文(メラパ)の魔法を唱えて、ダイと一緒に優雅に身体を乾かし始めた。

 

うーん、大自然のど真ん中で素っ裸で身体を乾かすのって、何度経験してもすごい解放感で最高だな。

 

「――早く、服を着なさいって言っているでしょう!!」

 

俺がそんな感慨に浸っていると、マァムの絶叫が森の中にこだました。

 

 

~~~~ネイル村出立後 2日目~~~~

 

「どう、ポップ? 補充出来そう?」

俺の右隣に腰を下ろしているマァムが、俺の手の中にある魔弾銃の弾丸をのぞき込んでくる。

 

今日は、ネイル村を出立して2日目の夜だ。既に晩ご飯を食べた俺達は、焚き火を囲んで思い思い過ごしている。ダイは、元気な事に木の枝で素振りをしている。さっきシャワーを浴びたばかりなのに、また汗かくぞ、ダイ。

 

俺は、先ほどマァムから頼まれた魔弾銃の弾丸に、魔法充填をしているところだ。

弾丸は10発あって、マァムと話し合った結果、攻撃魔法3発、回復魔法5発、補助魔法2発と守備的な布陣となった。

 

それぞれ充填する魔法は、攻撃魔法は氷系呪文(ヒャダルコ)(標準タイプ)、火炎呪文(メラミ)閃熱呪文(ベギラマ)で、回復魔法は、回復呪文(ベホイミ)×4、麻痺解除呪文(キアリク)、補助魔法は敏捷性変動呪文(ピオリム)防御力変動呪文(ルカニ)のラインナップになっている。

 

アバン先生の書いた取扱説明書を見せて貰ったが、残念ながら魔弾に充填できる魔法の種類には制限があるようだ。取扱説明書によると、どの系統も込められる魔法は中級魔法までで、上級魔法は込められないらしい。

 

後、改良した魔法も充填できないので、今魔弾に込めている氷系呪文(ヒャダルコ)は標準タイプだ。更に、同時に2つの魔法を込める事も出来ないようなので、合成魔法のようなものも充填できない。

 

色々と制限がある魔弾銃だが、この魔弾銃の利点は、一度充填してしまえば誰にでも使用できる点と、接近しないと使用できない魔法を遠距離から使用できる点にあると思っている。

 

接近しないと使用できない魔法、つまり回復魔法や補助魔法の類いだ。この間のクロコダインとの戦いの時にこの魔弾に防御力変動呪文(ルカニ)の魔法を込めていれば、俺はクロコダインにあんなに接近する必要が無かった。まあ、今更言っても仕方ない事だけど。

 

「ああ。出来たよ。はい、どうぞ」

 

俺は、充填の終わった魔弾をマァムに返した。

 

「ありがとう、ポップ。それと、もう一つお願いがあるんだけど……」

 

 

 

 

 

「ポップ。その目隠しを外したらどうなるか、分かっているわよね?」

 

「はいはい、分かっていますよ。俺は紳士だから、そんな事をするはずないだろう?」

 

俺は今、マァムの頭上にある木の枝にしがみつき、両目に愛用のバンダナをきつく巻かれた状態で待機している(俺が巻いたわけではない。マァムに目が潰れるかと思うほどきつく巻かれたものだ)。

 

マァムのもう一つのお願いとは、何のことはない。自分も温水シャワーを浴びたいというものだった。まあ、2日続けて俺とダイがシャワーを浴びてさっぱりしている側で、女の子のマァムだけがシャワーを浴びずに我慢するというのも酷な話だったんだろう。

この2日間、しきりに自身の汗の匂いを気にしている風だったし。

俺としては、そんな匂いも好きだったりするんだけどな……。あれ、俺もしかして匂いフェチだったんだろうか?

 

「……じゃあ、出すよ。――温水呪文(メラータ)。……どう、こんな感じで良い?」

俺は前が見えない状態で、40度ぐらいの温水を右手から放出した。

 

「――わ。凄く気持ちいい。ええ、丁度良い具合よ。ありがとう、ポップ」

 

「……どういたしまして。まあ、ごゆっくり」

 

マァムは、鼻歌交じりで身体を洗い出した。俺は、アバン先生やダイとは違うそのシチュエーションに、どうにか煩悩を振り払おうとしていた。

 

この2日間、マァムは自身の戦い方に悩んでいる節がある。俺達3人は、接敵したら基本的にダイが前衛、マァムが中衛、そして俺が後衛のフォーメーションで魔物に対峙している。ダイの腕前はメキメキと上達していっている。

 

やはり、先日のクロコダインとの戦いの経験も大きかったんだろう。動き出しや、死角の取り方、急所への一撃、はたまた俺との連携も含めて上達著しい。

 

かたや、マァムの方だ。マァムだって活躍している。

遠距離からは魔弾銃を的確に敵に命中させるし、接近してはハンマースピアを振り回して敵を殴打している。

魔弾銃は誰にでも使えるように見えて、意外に命中させる事が難しい武器だ。試しに俺も撃たせてもらったが、ろくに当たらなかった。

そういえば、前世でも拳銃で標的を当てる事は難しいと聞いた事があったし、そういうものなのかも知れない。

 

と言うわけで、マァムもしっかり活躍しているんだが、どうも本人は納得していない様子だ。

 

おそらくマァムは、先日のクロコダイン戦を経て、その先を見据えているんだろう。この辺りに頻繁に出没する魔物ではなく、それこそクロコダインのような幹部クラスとの戦いを。

マァムは、先日のクロコダイン戦でハンマースピアによる攻撃や魔弾銃がまるで役に立たなかった事を気にしていた。

 

まあ、クロコダインは頑強の代名詞のような存在だから、それに通じなくてもある意味仕方ないと言えば仕方ないのだが。

 

俺は、その悩みに対する答えを知っている。そう、転職だ。現在のマァムの戦闘スタイルは、僧侶戦士だ。原作では、マァムはそのスタイルの限界を悟り、レオナ姫を救出後武闘家に転職する流れだった。

 

あいにく俺は、マァムが武闘家に転職した姿を知らないが、『ダイの大冒険』という作品は少年誌で連載していたんだ。『転職失敗しました。てへ』なんて結果には、ならなかったはずだ。

 

だから俺は、マァムに武闘家への転職を勧める事は出来るんだが、それを俺の口から言うのは違う気がしていた。あの時もマァムは自分で考え、自分で決断していたんだ。俺は、その時まで待とうと思った。

 

 

結局マァムは、俺の乾燥用魔法 温風呪文(メラパ)まで堪能して大満足だったようだが、最後の最後で、突然俺の目の周辺にだけ突風が吹き荒れ、縛られていたバンダナがずれるというハプニングが発生し、一騒動が起こってしまった。自然現象とはいえ、不思議な事もあるものだと俺は首を傾げながら床についた。

 

 

 

~~~~ネイル村出立後 3日目~~~~

 

side マァム

 

焚き火の火が、消えかかっている。ポップとダイはもう眠りについているのか、時折規則正しい寝息が聞こえる。私は、たき火の隣で横になった体勢で悩んでいた。

 

その原因は、この3日間の魔物との戦いの際の自身の立ち位置についてだった。

ダイが敵の正面で切り結び、私が後方からハンマースピアで殴打したり、時には中距離から魔弾銃でダイの援護をする。

 

この3日間で頻繁に出現する魔物には、その戦い方で通用した。でも、私は敵が先日のクロコダインのような強敵だった場合に、その戦い方が通じるとは思えなかった。

 

そもそも私は、ダイとポップに比べると中途半端だと感じていた。ダイは、魔法は苦手だけど接近戦ではあのクロコダインに深手を負わせられるほどの剣士だ。

 

そしてポップは、接近戦は得意でないと言っているけれど、遠距離戦では誰にも負けないほどの練達の魔法使い、いや賢者だ。

普段のぼへーっとした表情からは想像できないけれど、彼は間違いなく優れた賢者だ。賢者と言えば、パプニカ王国が有名だけど、果たしてそこに彼以上の賢者がいるのだろうか? 正直、彼が魔法を使った戦いで負けるところが想像できない。

 

私の出来る事は、全てダイかポップが代用できる。二人を見ていて、私は、私だけの武器が欲しいと切実に思った。でも、私だけの武器って何だろう? 力は、ある方だと思う。スピードもある、かな? 私は、子供のころからこの森が遊び場だった。今は魔物がたくさん出没するけれど、昔は違った。私は、この森の中で毎日木から木を飛び移ったりしながら遊んでいた。

 

そこまで考えた時、私はもしかしたら自分に適しているかもしれない戦闘スタイルを思いついた。明日、ポップに相談してみよう。ポップなら、何かいいアドバイスを貰えるかもしれない。

 

 

そうだ。それと、ダイにも尋ねないといけないことがある。昨日の件だ。ダイに、ポップの手持ちの魔法の中に突風を発生させる魔法が無いか聞く事を忘れないようにしようと思い、私は眠りについた。

 

 

 

 

~~~~ネイル村出立後 4日目~~~~

 

早朝、俺は一人で棍の型をなぞる訓練をしていた。ダイは、今日は寝坊をしているのか起きてこない。俺は、この訓練をアバン先生から棍を習い始めた頃からほとんど毎日行っていた。型の最後に、俺は闘気を込めずに地竜閃の動きを反復し、息を吐いた。

 

パチパチパチ……

 

突然手を叩く音が聞こえて俺が振り返ると、そこにはマァムがいた。

 

「おはよう、ポップ。今のがアバン流棍殺法なのね。とっても綺麗な動きだったわ」

 

「よしてくれよ、マァム。俺の棍の技量なんて、たかが知れているよ」

 

「そんな事ないわよ。最後の技は、アバン流棍殺法の技でしょう? とても力強かったわ」

 

マァムが、俺が最後に放った地竜閃の動作を誉めてくれたから、俺は少しこの技の事をマァムに語りたくなった。

 

「ああ。あれは、地竜閃っていう技なんだ。……この技はさ、この世界でアバン先生と俺の二人しか使えないんだ」

 

「どういう事?」

マァムは首をかしげている。

 

「アバン先生は、本当は棍の技は修めていなかったんだけど、俺が棍の修業を希望したから槍の技能をベースに俺への指導と並行して作り上げてくれたんだ。それまでは存在しなかった技だから、この技を使えるのはアバン先生以外には俺だけなんだよ」

 

「……そうだったのね。良いわね、二人だけの絆の技というわけね」

 

絆……か。1つしか持っていないけどな。

 

「アバン先生はさ、初伝の技だけじゃなくて、俺のためにわざわざ中伝、上伝の技まで作り上げてくれたんだ。その時には、もう俺に武術の才能が無くて、そこまで到達できないというのが分かっていたと思うのに。……本当に優しい人だったと思うよ」

 

マァムは俺の言葉に少し首をかしげた。

 

「でも、ポップは中伝と上伝の技の型は覚えているんでしょう?」

 

「ああ、型だけはね」

だけど、俺の放った中伝の技では海は割れないし、上伝の技で空は裂けない。

 

『ポップ。よく見ているんですよ。これがアバン流棍殺法 中伝です』

『上伝の技が出来ましたよ、ポップ。名前をなんてつけましょうかね』

『ほら、先はまだまだ長いですよ。初伝の次は中伝、その次は上伝ですよ』

 

俺は、アバン先生の言葉の数々を思い出していた。才能の無い俺に、よく根気強く付き合ってくれたもんだよな。

 

「ほら、覚えているじゃない。それだったら、アバン先生は優しいっていうだけでポップに型を教えたんじゃないと思うわ」

 

「……どういう事?」

俺はマァムの言葉の意味が分からず、問い返した。

 

「アバン先生は、繋いでいって欲しかったんじゃないかしら?」

 

「繋ぐ?」

 

「そう。いつかアバン流棍殺法を習いたいって人が現れた時に、他でもないポップにその技を繋いでほしかったんじゃないかしら。私はそう思うわ」

 

俺は、マァムのその言葉に驚いた。

 

繋いでほしかった? 

 

……確かにそうかもしれない。1年以上アバン先生と刻を共に過ごしたのに、俺はまだアバン先生の真意を受け止めきれていなかったのか。はは、不肖の弟子とはこの事だな。

 

俺は、思わずマァムを抱きしめていた。

 

「――え!? ちょ、ちょっとポップ!?」

 

「ありがとう、マァム。俺、マァムのおかげで、アバン先生からのメッセージを新しく受け取れた気がする。本当に、ありがとう」

 

そうだ、繋ぐんだ。繋げば、俺とアバン先生の絆の技は後世に伝わっていくことが出来る。俺は、その事に気づかせてくれたマァムに心から感謝した。

 

「ど、どういたしまして……」

 

「――! ……あ、ご、ごめん! つい……」

 

い、いけない! 俺は一体何をしているんだ。こんな、自分自身の死刑執行書にサインをするような行動を取るなんて。

 

俺は、急いでマァムを抱きしめていた腕を解いて、身体をマァムから離した。そして当然、この後俺を襲う死刑執行を覚悟して目を閉じていたんだが……。

 

あれ? 鉄拳が飛んでこない?

 

俺が恐る恐る目を開けると、マァムは照れたように横を向いていた。どうしたんだろう? 体調でも悪いんだろうか? 明日雨になるのかな? そうなったら嫌だな……。

 

俺がそんな事を考えていると、マァムが思い出したかのように俺に顔を向きなおした。

 

「――そ、そうだ。私もポップに相談したいことがあったの。聞いてくれる?」

 

相談? それは良いんだけど、さっきのはスルーしてくれたんだろうか? 良かった、どうやら生き延びたらしい……。

 

「もちろん。俺が役に立てることなら、何でも聞いてよ」

 

俺達は、近くに倒れていた巨木に並んで腰を下ろした。

 

 

 

 

 

「……という訳で、私、武闘家に挑戦してみようと思っているんだけど、ポップはどう思うかしら?」

 

マァムの相談内容は、なんと新しい戦闘スタイルについての事だった。……なんで今このタイミングなんだろう? マァムが転職に付いて悩むのはもっと先の話で、しかも確か魔弾銃が壊れたタイミングだったはずだ。魔弾銃もまだ壊れていないのに……。

 

「……えっと、まずどうしてそう思ったの?」

 

「そうね……。自分でも上手く説明できないんだけど、多分置いて行かれたくないなって思ったからじゃないかな。ダイは剣士としてすごい成長を見せているし、ポップだって賢者として誰にも負けない力を持っている。だから私も、私にしかできない、私だけの力を身に付けたくて。 ……ポップは反対?」

 

マァムは不安そうに俺にそう訪ねてくる。

 

そうか、やはりマァムは、この間のクロコダイン戦でこれから先の強敵との戦い方に不安を持っていたんだな。

おまけに俺は、原作ポップより強力な魔法をこの時点で使いこなしている。それに焦りを感じて、原作より早いタイミングで自己を見つめ直したという所かもしれない。

 

この事がマァムにとって良い事なのかどうか正直俺には判断がつかなかったが、今はマァムの背中を押してあげるべきだと俺は思った。

 

「……いや、反対じゃないよ。俺は、マァムの決断を応援するよ」

 

「……良かった。ポップにそう言ってもらえると安心するわ」

 

マァムがほっとしたように胸に手を当てて喜ぶ。

 

「それで、具体的にはどう武闘家の修業を積むつもりなの?」

 

俺がそう聞くと、マァムは、このロモス王国の山中に武術の神とまで言われた人物がいるので、その人の下で修業を積むつもりだと言った。ただ、修行の間俺達と旅を共にできないという事を気にしていたので、俺は一つの提案をしてみた。

 

「それだったら、俺達はこれからロモスからパプニカまで船で移動するだろう? 多分船旅で1週間は優にかかると思うから、その期間を利用して修行してきたらどうかな? パプニカに着いたら、俺がマァムを瞬間移動呪文(ルーラ)で迎えに行くからさ」

 

正直なところ1週間でどれほどの修業が出来るかは分からなかったけれど、船上で1週間を無為に過ごすよりよっぽどいいだろうと思って、マァムに提案してみた。

 

「本当!? そうしてくれるなら、とてもうれしいわ! ありがとう、ポップ!」

 

どうやらマァムも賛成のようなので、方針が決まった。ただ、その武術の神さんとやらの詳しい所在は不明なので、ロモス王国に着いたら王様に聞いてみようという話になった。それほど有名な人物なら、王様かその周りのだれかがその所在を知っているのではと考えたからだ。

 

その日から早速マァムは、戦闘時には武闘家スタイルで戦いだした。元々体幹が鍛えられていたから、俺の目から見る分にはその動きに全く違和感はない。それとマァムには、アバン先生がラグナの村でルーンを相手に拳技を教えていた時の様子を伝えたが、それも熱心に聞いて戦いに取り入れているようだった。

 

ていうか、まだ何の指導も受けていないのに、どうしてサマーソルトキックなんて出来るんだろう? 俺なんて、逆立ち歩きすら出来ないのに……。マァムの運動神経が恐ろしすぎる。

 

 

なお、この日の夜、マァムに2日前の不幸な自然現象が、俺の突風呪文(パキ)の魔法によってもたらされたものだと言う事がバレてしまい、今度こそ鉄拳制裁を受けてしまった。俺は、あまりの衝撃に危うくアバン先生の後を追う所だった。

 

……マァムって武術の神さんの指導受けなくても良いんじゃね?

 

 

 

~~~~ネイル村出立後 5日目~~~~

 

side ダイ

 

太陽が、ちょうど頭の上に昇っている。

 

俺は、ポップとマァムと一緒に大きな岩の上に座っている。今は、皆で昼食を摂っているところだ。

昼食は、昨日の晩ご飯で余ったお米を丸めた『おにぎり』という食べ物だ。俺は、米という食べ物をポップがデルムリン島に持ってくるまで知らなかったけど、どんな料理にも合うシンプルだけど美味しい食べ物だと思う。

ゴメちゃんも、普段は何も食べなくても大丈夫なんだけど、お米は好物みたいで今も俺の隣で小さなおにぎりをチマチマと嬉しそうに食べている。

 

今、マァムはポップに、アバン先生が残した拳技の事について相談している。ポップ自身は拳技の事を知らないようだけど、アバン先生が前にルーンと言う名前の子供に教えていた内容をいくつか覚えているようで、それをマァムに伝えている。

 

実際、マァムは昨日から戦い方を変えている。最初は少し戸惑っていたみたいだったけど、今は開き直ったみたいに拳や足を使って魔物と戦っている。凄く早いスピードで動いたかと思うと、突然魔物に接近して殴ったり蹴ったりしていて、次々と魔物をやっつけている。

 

その姿を見て俺がびっくりしていると、傍にいたポップが「まさに蝶のように舞い、蜂のように刺す、だな」と呟いていた。確かに、俺もマァムの戦い方をそんな風に思った。

 

 

ポップとマァムは、昨日ぐらいから何か雰囲気が変わったと俺は思った。昨日俺が寝坊して目が覚めた時、2人は真剣な表情で倒木に座って話しあっていた。

 

なんだろう。元々仲が悪かった訳じゃあないんだけど、昨日ぐらいからお互いに遠慮が無くなったような気がする。

ポップの方は、マァムに対して前より心を開いている感じがするし、マァムの方もポップを今まで以上に信頼している気がする。

 

ポップが凄い魔法使いという事を俺はもちろん知っているから、マァムもそう感じてくれるのは俺も嬉しい。

 

でも、2人が今まで以上に仲良くなって良かったなと思っていたら、マァムがポップの頭に拳骨を落とすところも見てしまった。俺がマァムに、ポップの魔法について聞かれた直後だったけど、何か余計な事を言ってしまったのかな。ポップがその後、俺の方を恨めしそうに見てきたから、俺は目を合わさずにおいた。

 

だけど、昨日のマァムはいくら何でもやり過ぎだと思った。俺は、後ろを振り返らないようマァムに言われていたから一瞬しか見ていないけど、マァムがシャワーを浴びる時ポップは頭に袋を被された上に身体をぐるぐる巻きに縛られて、右手だけ突き出した蓑虫のような格好で枝に吊されていた。

 

俺は、ちょっとポップに同情した。

 

 

 

 

「うーん、やっぱり塩おにぎりは最高だな。あー美味かった」

ポップがそう言って、岩から立ち上がって大きく伸びをした。マァムによると、もうすぐこの魔の森を抜けて、ロモスのお城が見えてくるらしいから、俺達は気持ちが明るくなっていた。

 

「そうね。でも、おにぎりって力加減が難しいのよね。昨日私が握ったおにぎりは、ちょっと固くなっちゃったし……」

 

「……いや、あれはちょっと固いなんてもんじゃなかったぞ。歯が折れるかと思ったからな、俺」

 

「――お、大げさよ!」

 

マァムとポップが、また口げんかしている。だけど、2人の顔は穏やかだから本気でケンカしている訳じゃない事は分かる。

 

「もうすぐロモスの城が見えてくるんだよね。楽しみだな」

 

「そういえば、ダイは前にロモスのお城に行った事があるんだったわよね。ええ、この分なら日が落ちるか落ちないかぐらいの時間に着くと思うわ。さあ、もうひと頑張りね。行きましょう!」

 

マァムのその声に、「ピ、ピィ!」とゴメちゃんが元気よく答えた。

 

さあ、ロモスの王様に会えたら、次はやっとレオナに会いに行ける。無事でいて欲しいな、レオナ。

 

俺はそんな事を考えながら、マァムとポップの後を追いかけた。

 

 

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