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マァムが王宮内の謁見の間に辿り着いた時、既にダイはクロコダインと対峙していた。
謁見の間は、部屋を支える柱が何本も倒れ、赤いルビーのような絨毯は一部が黒々と炭化しており、無残な有様を呈していた
そして、何故かダイは、クロコダインの隣にいる鬼面道士に必死に何かを訴えかけていた。
マァムは素早く部屋の中に目を走らせ、敵はクロコダインに鬼面道士、それと壁際にいる数人の悪魔神官と判断した。
ロモス王は? ――いた。敵とは反対側の壁際で、数人の兵士にかばわれる形でロモス王が立っているのを見て、マァムはホッと息を吐いた。
「ヒーヒッヒッヒ。やっと来たかと思えば、あの魔法使いでは無いではないか。おい、小娘! あの魔法使いはどうした!? まさか怖じ気づいて逃げ出したのではあるまいな!」
壁際に立っていた悪魔神官を押しのける形で、背の低い魔道士の様相をした1体の魔族が前に出て、マァムを問いただした。
「ポップが逃げるわけないでしょ! 町を救ったら、すぐにこちらに来るわよ!」
マァムは、背の低い魔族にそう返事を返しながらも、今のこの魔族の言い方では、この魔族の狙いはポップなのかも知れないと思い、不意に底知れぬ不安を感じた。
「チッ。早く来れば良いものを。この儂を待たすとは……」
その魔族は、懐から奇妙な筒のような道具を取り出し、ブツブツと言っている。
「ザボエラ。お前は下がっていろと言ったはず。余計な真似をするな」
クロコダインが、その魔族に命令する。
「分かっておる。儂の狙いはあの小僧じゃ。お主こそ、さっさとこやつらを始末してしまえ。それを使えば造作も無いことじゃろう?」
ザボエラと呼ばれた魔族は、にやりと笑いながら鬼面道士を指さし言った。
「クッ……。お前に言われるまでもない!」
マァムは、2人のそのやりとりを聞いて疑問を感じながらもダイの側に駆け寄った。ダイは、その鬼面道士に向かって、「じいちゃん!」としきりに声をかけている。ゴメもダイの側で「ピィ、ピィ」と悲しそうな声で訴えている。
「ダイ! 一体どうしたの!?」
マァムは、しきりに鬼面道士に話しかけているダイの肩に手を置いた。
「マァム! あの鬼面道士、じいちゃんなんだよ! 俺、どうしたら良いか……」
ダイは、マァムがこの場にいることに今気が付いたような様子で、マァムに必死に訴えかけた。
マァムは、ダイから今目の前にいる鬼面道士が故郷のデルムリン島に残してきたたった一人の肉親とも言える育ての親で、無理矢理この場所に連れてきて敵対させられていると言うことを聞き、激しく憤った。
「――なんて、卑怯な! クロコダイン、あなたそれでも武人なの!? 肉親を人質に取るなんて!」
クロコダインはマァムのその非難を耳にして苦渋の表情を浮かべるも、既に覚悟を決めているのか、ただ一言、鬼面道士にダイ達を攻撃するよう命じた。
その後の戦いは、一方的なものだった。鬼面道士は火炎呪文でダイ達を責め立てるが、ダイとマァムは、反撃することも出来ずただその攻撃を耐え続けることしか出来なかった。
転機が起こったのは、その時だった。
突如、大空を
「な、何じゃこれは! いったい、何が起こったんじゃ!?」
「グ、グォオ! この光は、いったい!」
ザボエラとクロコダインは、突然ロモスの町を覆った
「う、うううう……」
ザボエラの後ろに付き従う悪魔神官達が、頭を抱えながらうずくまる。
「も、申し訳ありません、ザボエラ様。わ、我々は、これ以上この地に留まること、かないませぬ……」
悪魔神官達はそうザボエラに声をかけ、その返事を聞く間も惜しむかのように、謁見の間から飛び出していく。
「あっ、待て! 待たんか、お前達! ……くっ、たかがこれしきの魔法で、逃げ出すとは! 役立たずどもめ!」
ザボエラがその様子に地団駄を踏む。
そして、この
「わ、儂はいったい何を……」
鬼面道士、ブラスもこの
「じ、じいちゃん! 元に戻ったんだね! 良かった!」
ダイが、いつもの様子に戻ったブラスに駆け寄り、その身体を抱きしめる。ゴメも、そのブラスの周りを嬉しそうに飛び回る。
「ダ、ダイ。それにゴメも。いったい、儂は……」
ダイは、ブラスに先ほどまでのことを説明する。
「な、なんと、そんな事に……。しかし、なら儂は何故今無事に……」
ブラスのその疑問には、マァムが答えた。
「それは、おそらくポップの魔法のおかげだと思います。初めまして、ブラスさん。私、マァムと言います」
マァムはブラスにそう挨拶をしながら、激しい戦闘の最中開けられた壁の大きな穴に目を移した。その穴からは、大量の魔物が一斉にロモスの町から退却し始めている様子が見えた。
マァムは、これがポップのやるべき事と言っていたことだと確信していた。町全体を覆うほどの
「お、おのれー! ブラスまで正気を取り戻してしまうとは! 何をしておる、クロコダイン! いずれあの小僧が来るぞ! その前にこいつらを片付けてしまわんか!」
「くっ! ……俺は負けられん。 負けられんのだー! ――獣王痛恨撃!!」
クロコダインはダイ達目がけて、闘気を用いた自身の最大の技である獣王痛恨撃を放った。
ズズーン!
その破壊力は凄まじく、謁見の間の壁を完全に破壊し、辺り一帯に粉塵を巻き上げた。
かろうじてその一撃の直撃は躱したダイ達だったが、皆そのあまりの威力に呆然としていた。
そんな時だった。その破壊された壁の向こうからポップが現れたのは。
「ごめん、皆。待たせたな」
戦いは、次の局面を迎えようとしていた。
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俺は、王宮に入って直ぐにダイとマァム、あとついでにゴメの無事を確認した。よし、皆傷ついてはいるけど、無事のようだ。おっ、ブラスさんやっぱりいたな。だけど、今は以前見た優しい目をしている。良かった、ブラスさんにもしっかり
「ごめん、皆。待たせたな」
俺がダイ達にそう声をかけると、ダイ、マァムが俺に飛びつかんばかりに駆け寄ってきた。
「ポップ! ありがとう、来てくれたんだね。それと、じいちゃんを元に戻してくれてありがとう! やっぱりポップは凄いや!」
「無事だったのね、ポップ。……良かった」
ゴメは、俺の周りを嬉しそうに「ピィ、ピィ」言いながら飛び回っている。はは、くすぐったいよ、ゴメ。
「ポップ君、儂を正気に戻してくれたのは、君じゃそうじゃな。ありがとうの」
ブラスさんも俺にお礼を言ってくれる。ただ、俺はそれを複雑な気持ちで受けていた。
俺がダイ達と無事を確認しあっていると、突如甲高い耳障りな声が聞こえてきた。
「ヒーヒッヒッヒ。ようやく現れおったか。待ちくたびれたぞ、小僧」
俺は、その声を発した人物を見て驚いた。な、何でお前がここにいるんだよ!
「――ザ、ザボエラ!? お前、なんでここに!」
「ほう? 儂はお前とは初めて会うはずじゃがのう……。何故儂の名を知っておるのじゃ?」
え、初めて会う? そ、そうか。あまりに原作の絵面そのままの姿だったので、思わず口走ってしまったな。
「お、お前のことは、以前お前の配下だって言っていたバルバロッサっていう悪魔神官から聞いてたんだよ。背の低い、頭のはげた、甲高い声の最低の主だって言っていたぜ。どう見たって、お前のことだろうがよ」
「な!? お、おのれバルバロッサ。あれほど目をかけてやったというのに、そのような事を……!」
ザボエラは、身体を震わせて既にこの世にいないバルバロッサに対して怒りを発している。
良かった、上手くごまかせたようだ。もちろん、バルバロッサはそんな事を言っていないが、死人に口なしだ。バルバロッサの名誉は、この際どうでも良い。
「……ま、まあそんな事はどうでも良いわ。儂がここに来たのは、小僧。お前を儂の研究材料として頂いていくためよ」
何? 俺を研究材料としていただくだと? 冗談じゃ無いぞ。こんな奴に捕まったらどんな改造手術施されるか分かったもんじゃ無い。俺は脳裏に、ショッカーに捕まって改造手術を施された仮面ライダーの姿が頭に浮かんだ。
そのザボエラの言葉に、ダイとマァムが素早く俺の前に出た。
「そんな事、絶対にさせるもんか!」
「ええ。ポップは絶対に渡さないわ!」
「ヒーヒッヒッヒ。そのような事を言うておっても、その小僧は自分からやってくるわ」
なぬ? 自分からやってくる? どういうことだ? 俺に自殺願望は無いぞ。いや、一度やったけど。いや、その事は今はいい。
俺の疑問を余所に、ザボエラはそう言って懐から2本の筒状の物体を出してきた。
それを見た瞬間、俺は猛烈に嫌な予感に襲われた。こいつ、まさかダイだけで無く俺に対しても何か仕掛けようというのか。
「ヒッヒッヒ。……さあ、出でよ、デルパ!」
その2本の筒の中から現れたのは、両手首を縛られた俺の両親、ジャンクとスティーヌだった……。
「と、父さん! 母さん!」
「「ポップ!」」
俺は思わず、二人に呼びかけていた。父さんと、母さんは、普段着の姿でその筒の中から煙と共に現れた。俺は一瞬、偽物か、と思ったが、二人の目を見て本物だと確信した。1年ぶりに見る二人は俺の記憶と寸分違わず、俺を心の底から心配する目をしていた。
「ザボエラ! 貴様またしてもそのような手段を!」
クロコダインが、ザボエラに声を荒げるが、ザボエラは聞く耳を持たない。
「ヒーヒッヒッヒ。1度やったことでは無いか。2度も3度も同じ事よ」
「グッ! だ、だが……」
クロコダインは、俯き身体を震わせている。
「す、すまねえ、ポップ!」
「ごめんなさい、ポップ。私達……」
父さんと母さんは、自分達がどのようにこの場で扱われているのか理解していたのだろう。俺に対して苦渋の表情をしている。
その二人を、ザボエラの右手から発せられた魔法の光のような物質でザボエラがきつく縛った。
「あぅ!」
「ぐ、うぅっ!」
きつく巻かれた光の帯に苦悶の表情を上げる両親。それを見て、俺はぶち切れていた。
「――てめえ!! ザボエラァ!! 父さんと母さんを離せよ!!」
「ヒーヒッヒッヒ。思った通り効果があったようじゃの。ほれ、両親を助けたければ、これを飲むのじゃ」
そう言って、ザボエラは何やら緑色の液体の入った小瓶を俺とザボエラの丁度中間地点に放ってきた。
俺はその小瓶を見つめる。
あれを飲めばどうなるかは、考えるだけ無駄なことだろう。碌な事にならないことだけは、はっきりしている。
ザボエラは、ニヤニヤした顔で父さんと母さんを縛っている光の帯を俺に見せつけるように左右に振っている。
……こいつ。
覚悟を決めた俺は、その小瓶に向けて足を1歩踏み出した。途端に、ダイとマァムが俺を押さえるかのように止めてくる。
「待って、ポップ! 駄目だよ、行っちゃあ!」
「そうよ、ポップ。待って、きっと何か手があるはずよ!」
ダイは、心底俺を心配している目で、俺を行かせまいと止めている。俺は、そんなダイの目を見ながら、心の中でダイにわびていた。
何のことはない、これはさっきまでのダイと同じ状況に今度は俺が置かれているんだ。
俺は、ブラスさんが囚われてここに連れられてくることを予測していた。
何度かそれを防ぐ方法を考えはしたが、結局良い考えが思い浮かばず、そこで思考停止してしまった。最終的にこの場で助け出せれば良いだろう、と。
だけど、自分の両親が囚われて初めて分かったよ。……これは、きついよな、ダイ。ごめんな、俺お前の気持ちを全然分かっていなかったよ。
俺はダイの頭に手を置き、「ごめんな」と詫びた。
俺は、なおも止めようとする二人を振り切り、その小瓶の場所まで歩いて行った。
小瓶を手にして、中身をよく見る。やはり緑色だ。それも粘度がある。ちっ、これを飲めって言うのかよ。まだ青汁の方が100倍は飲みやすそうだぜ。
「ポップ、やめろ! 俺達のことは気にするな!」
「そうよ、ポップ! そんなの飲んじゃ駄目!」
父さんと母さんが俺を心配して声を上げる。
「ヒッヒッヒ。早う飲むんじゃ。言っておくが、それを
……特別製か。最悪、医療魔法の
俺は、ふつふつと湧き上がる怒りを必死に抑えていた。当然、ザボエラに対する怒りはある。ダイには許容しろよと考えておいて、自分自身に降りかかった途端狼狽する俺自身にも怒っている。
だけど、何より怒っているのは、……お前にだよ、クロコダイン!!
俺は、少し距離を置いて俺のことを見つめているクロコダインを睨み付けた。その瞬間、クロコダインは自身の行っている事を糾弾されるのを恐れるような卑屈な目をした。
その目だ、俺が気に入らないのは! お前、そんな目をする奴じゃないだろう! 俺の知っているクロコダインは、誰に対しても後ろめたいことなど何一つない堂々とした目をしていたはずだろう!
何だってそんな目をしているんだよ!
俺は、クロコダインにどうしても言ってやりたくて、吠えた。
「――クロコダイン!!」
「――!」
俺の言葉にビクッとするクロコダイン。
「お前、これで良いのかよ! お前の中の武人としての誇りとやらは、いったい何処に行ったんだよ!!」
「ぬっ、くっ……」
「こんな、肉親を人質にとって勝とうなんてやり方のために、お前の鍛え上げた肉体があるのかよ! お前、何のためにこれまで研鑽を積んできたんだよ! いい加減に、目を覚ませよ! 馬鹿野郎!!」
「――!」
クロコダインは、俺のその言葉に、その両の目に殺気をみなぎらせて俺を睨み付けた。
ああ、そうだよ。まだその目の方が、お前らしいよ。さっきまでの親に叱られる前の子供みたいな目をしているより、全然良いよ。
クロコダインは、無言で俺の側までやってくる。そして、血走った目で俺を遙か上段から睨み付け、その右手にある真空の斧を大きく振りかぶった。
俺を殺すつもりか? ああ、良いぜ、殺せよ! 言いたいことは言い切ったよ。もう良いよ。まだやりたい事はいっぱいあるけど、ここであんたの心を動かせなかったら、どのみちこの先、生き残れやしねえよ!
俺は、(殺すつもりなら殺せ!)という意志を込めた目で、クロコダインをにらみ返した。
「ま、待て、クロコダイン! そやつは大事な研究材料じゃ! 殺してはいかん!」
「「「「ポップ!」」」」
ブン!
次の瞬間、クロコダインの振り下ろした真空の斧は、その手を離れてザボエラの右手を切断し謁見の間の壁に突き刺さっていた。
「グ、グオオオー! 儂の、儂の腕がー! ク、クロコダイン! 貴様、裏切ったかー!」
ザボエラが、突如腕を失った痛みに絶叫を上げる。同時に、俺の両親を拘束していた光の帯が消え去った。
クロコダインは、そのザボエラの叫びには何も答えず、ただザボエラと俺の両親の間に盾になるような位置に移動し、壁に突き刺さったままの真空の斧を抜き取った。
「早く行け。息子が待っているぞ」
クロコダインは俺の両親にそう声をかける。その声を聞いて、我に返った父さんと母さんは、俺のもとへ走り出す。
「父さん、母さん……。無事で良かった」
「ポップ、済まなかったな」
「ごめんなさい、ポップ」
良かった、父さんと母さんをこの手に取り戻すことが出来た。俺は、1年ぶりに触れる両親の身体を強く抱きしめた。
「くっ! お、おのれー、クロコダイン! この事はハドラー様にも報告するぞ! それで良いのじゃな!?」
「……好きにするが良い、ザボエラ。俺はただ、お前とはこれ以上共に戦いたくない。そう思っただけだ」
「こ、後悔するぞ、クロコダイン! 覚えておれよ!」
そう叫び、ザボエラはどういう手段かその場から忽然と姿を消していった。
後に残されたクロコダインは、そのザボエラが消え去った場所を見つめていた。
そして、その様子を見ていたダイが、クロコダインに声をかけに行った。
「クロコダイン。ありがとう。おかげで俺達――」
「ダイ! 離れろ!」
「え?」
ブンッ!
その瞬間、クロコダインの尻尾がダイを横薙ぎで吹っ飛ばした。地面を転がるダイ。直ぐにマァムがそんなダイのもとに行って、
「ど、どうして……、クロコダイン?」
腹を押さえながら、クロコダインに問いかけるダイ。
そんなの決まっているよな、クロコダイン。今のは、ダイが悪いよ。だって、クロコダインはまだ……。
「勘違いするな、アバンの使徒どもよ! 俺は、ザボエラのやり口が気に入らなかっただけだ。俺は今も、魔王軍六大軍団 百獣魔団の団長 クロコダインよ!」
……だな。俺は、敵ながらその威風堂々としたクロコダインの口上に思わず笑みが浮かんだ。
「ダイ、マァム! そういう事だ。こいつはまだ俺達の敵だ! 気合い入れろよ! こいつは、ここからが強いぞ!」
俺のその言葉に、クロコダインがニヤリと笑う。俺は、両親を王様達の方に逃げるよう促した。もう、俺の頭の中から王様や両親、ブラスさん、ゴメは守るべき対象からは除外している。今のこいつが、非戦闘員を狙ってくるはずがないからだ。
俺は、
そして、クロコダインが俺目指して特攻をかけてきたが、その前にダイとマァムがクロコダインに接近戦を挑み、俺に近づけさせない。ダイの手には、拾った物なのか、いつの間にか鋼の剣が握られている。
マァムの動きが良い。ヒットアンドアウェイで、打っては離れるを繰り返している。クロコダインは、前回戦った時とは全く違う動きをするマァムに困惑している。
それを嫌い、クロコダインが左腕を大きく膨れ上がらせた。いけない! あれを喰らっては!
一瞬の後に放たれる獣王痛恨撃。ダイもマァムも、その攻撃の直撃からはかろうじて避けたが、その闘気流の余波で少なからずダメージを受けている。俺は即座に2人の元に近づき、
直ぐに戦線に復帰する2人。
距離を取ったマァムが、
ちっ、しっかり対策を練ってきているじゃないかよ。
俺は、二人が一瞬クロコダインから離れたタイミングで、
俺の
ちっ、クロコダインのヒートブレスがこれほど強力とは! 俺は
元々俺の魔法力は、
――くっ、しまった!
その攻防の最中、とうとう俺の魔法力が尽きてしまった。途端にヒートブレスの熱波が俺を襲い、俺は壁際に叩きつけられた。ぐっ、か、体が動かない。これが、麻痺って奴かよ!
「――ポップ!」
マァムが咄嗟に、
「どうやら、魔法力が尽きたようだな。無理もあるまい。あれほどの大魔法を使ったのだ。それで、どうする? 魔法力が尽きた後は、指をくわえて仲間の戦いを眺めているか?」
クロコダインが俺をそう挑発する。
指をくわえて見ているか、だと? ふざけんなよ、おっさん! さっきまであんなに卑屈な態度でいたくせに、急に上から目線になりやがって!
「ふ、ふざけるなよ、クロコダイン……。魔法力が尽きたからって、それがどうしたって言うんだよ。……お、俺にはなー、まだ両親から貰ったこの身体と、アバン先生から教わった技があるんだよ! 舐めてんじゃねえぞー! マァム、行くぞ! ダイ、お前は決めの一撃を溜めていろ!」
俺は、目の前に転がっていたロモス兵士の槍の刃先をへし折って、クロコダイン目指して走った。
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マァムは、クロコダインに啖呵を切るポップを見つめていた。もう、魔法力が尽きたというのに、次は接近戦でクロコダインに挑もうとしているポップのその姿は、マァムに強い憧憬の念を抱かせていた。
マァムは、この時初めて自身がポップに対して好意を抱いていることを自覚した。
「―マァム、行くぞ!」
その言葉に弾かれるように、マァムは走った。クロコダインに向かってポップが左前方を駆けている。マァムはその駆ける速度を速めて、ポップの左前方に位置取った。自身の右後方に付いたポップが一瞬舌打ちをしたことに、マァムは気づいていた。
クロコダインに向かって左側を走ると言うことは、クロコダインにとっての右側に当たる。クロコダインは、右手に真空の斧を持っていて、左手には何も持っていない。どちらがより危険度の高いエリアかは、考えるまでも無かった。
マァムは一瞬後ろを振り返り、ポップを見つめて意思を伝えた。
(私が主攻。あなたは助攻)
伝わったはずだ。ポップが不満そうな顔をしている。
マァムは、自身が攻撃の中心になることを譲るつもりは無かった。当然だ。賢者であるポップに接近戦までも攻撃の中心をさせてしまえば、自分の存在意義が無くなってしまう。
マァムは、振り下ろされる真空の斧を掻い潜り、その左拳でクロコダインを殴りつける。知らぬうちに、マァムの拳からは時折薄く白い光が発せられていた。
アバンなどがもしこれを見れば、闘気拳と評していたであろう。
しかし、その程度の練度の闘気拳では、クロコダインはダメージを負わなかった。すぐさま飛び回るマァムに攻撃を加えようとするが、それをポップが邪魔をする。
ポップの手にある木製の棍では、クロコダインの鋼鉄の身体にダメージを与えられるはずもないが、ポップは巧みにその棍をクロコダインの目や口、関節部などに突き込むことで、クロコダインの攻撃を阻害する。
そして、幾度かの攻防の末、マァムがクロコダインに対してサマーソルトキックを放つ。大きく下顎を跳ね上げられるクロコダイン。しかし、マァムはこの攻撃の後空中で無防備な姿をさらしている。
その隙を見逃さず、クロコダインは右手に持つ真空の斧をその無防備なマァムの身体に叩きつけようとした。
その攻撃が決まっていれば、マァムの身体は上下に両断されることになっていたであろうが、その大ぶりの攻撃こそマァムが誘っていたものだった。
マァムが宙でポップと一瞬目を合わせた。ポップは、そのマァムの意図を正確に読み取り、自身の持つ棍をマァムに対して差し出す。
その棍を空中で掴み、巧みに体重移動することで真空の斧による攻撃を躱す。そしてマァムは、そのままクロコダインに対してハイキックを繰り出し、今度はクロコダインの頭部を横に揺さぶった。
短時間に頭部を上下左右に揺さぶられたクロコダインは、さすがによろよろとたたらを踏む。
ポップは、自身とマァムによるクロコダインへの攻撃はこれで十分と判断した。何故なら、先ほどより彼は、背後から刺すような闘気が発せられているのを感じていたからである。
ポップがダイに目をやった時、ダイの額には竜の紋章が輝いていた。
「ぶちかませー、ダイ!」
ポップのその言葉に呼応するかのように、ダイが前傾姿勢のままクロコダイン目がけて突っ込んでいく。その右手には鋼の剣が逆手に握られていた。
「――アバンストラッシュ!!」
その瞬間、謁見の間に凄まじい衝撃音が響き渡り、目も眩むばかりの閃光が瞬いた。
閃光が止んだ時、クロコダインは未だ両の足で大地を踏みしめていた。
――しかし。
「――ガハァ!」
突如口から激しく吐血するクロコダイン。クロコダインは、今日初めて負った傷らしい傷が、自身にとっての致命傷となったことを悟っていた。
その一撃は、クロコダインの鋼鉄の鎧を完全に断ち切り、その鋼鉄の身体を半ばまで切断していた。
おびただしい流血の中、クロコダインは、よろめきながらも壁に空いた穴まで歩いて行く。クロコダインは、満足していた。
意に沿わぬザボエラごときの奸計に乗ってしまい、危うく自身のこれまで培った武人としての誇りを失うところだった。しかし、最後の最後にポップによる魂の叫びに突き動かされ、自身の誇りを取り戻したと感じていた。
願わくば、この誇りを取り戻させてくれた目の前の勇士達と肩を並べて戦いたいとクロコダインは思ったが、この傷ではもはやそれは不可能であろう。
そう悟ったクロコダインは、勇者達に、「強くあれ」という言葉を贈り、壁に空いた穴より地面に落ちていった。
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俺は思わず、クロコダインの落ちた地点に駆け寄り、下を覗いていた。クロコダインは、遙か下で大の字になって一歩も動いていない。命が尽きようとしていることは明白だった。
クロコダイン……。駄目なのかよ? 俺がそんな風にクロコダインを見つめていると、突如上空より1匹の巨大な鳥が急降下してきている事に気が付いた。この鳥には見覚えがあった。そうだ、確かガルーダと言う名の鳥じゃなかったか? 今日の朝、クロコダインをその大きな両足で掴み運んでいた鳥だ。先ほどの
しかし、今この町は
そう考えていると、ガルーダは
ガルーダは、クロコダインの倒れている地点に降り立ち、その大きなかぎ爪でクロコダインを掴もうとしている。しかし、そこにロモスの兵士が集まってきて地面に降り立ったガルーダに矢を射かける。
ガルーダは、体に何本矢が刺さっても気にすること無く、クロコダインの巨体を掴み上げ再び高度を上げ始めた。
俺は、ふと隣に立つマァムの腰に装備されている銃ホルダーに目をやった。良かった、まだ1発残っていた。
「マァム、その魔弾であの鳥がこの近くを飛んだ時に、クロコダイン目がけて撃ってくれないか?」
俺は、撃って欲しい魔弾を指さしながらマァムに頼んだ。
「え、でもポップ。その魔弾は……」
「頼むよ、マァム」
俺はマァムに拝むように頼み込んだ。
「……分かったわ」
マァムは少し考え込んでいたが、俺の希望する魔弾を魔弾銃に装填した。そして、クロコダインが最も近づいたタイミングでマァムは、その魔弾をクロコダインに向けて発射した。
どうだろう? 少しは効いただろうか? 俺の周りの兵士達は、マァムの撃った魔弾を攻撃用と思っていたようで、特に何も起こらない様子で飛び去っていくガルーダとクロコダインを見て残念そうにしていた。
だけど、実際は今マァムに撃ってもらった魔弾は、
俺は、何も言わず俺の言葉に従ってくれたマァムに感謝した。
そして、徐々に小さくなっていくクロコダインを見つめながら、俺は思っていた。
死なないでくれよ、クロコダイン。俺は早くあんたと肩を並べて戦いたいんだから。次会った時は、絶対おっさんって呼んでやるんだからな。
そんな時、俺の頬をマァムの指がつついている事に気が付いた。
「な、何だよ、マァム?」
「ふふ。今日のポップは、ちょっとかっこよかったわよ」
そう言って朗らかに笑うマァムに、俺は照れくさくなって軽口を叩く。
「何言ってんだよ。俺はいつだってかっこいいじゃないか」
「それは無いわね。普段のポップは、ちょっと美人を見たら直ぐに鼻の下を伸ばすから」
「な!? 俺がいつ鼻の下を伸ばしたよ!」
「いつも伸ばしているじゃない! 昨日だって女僧侶に伸ばしてたし!」
「伸ばしてねー!」
「伸ばしているわよ!」
俺達がそんな不毛な言い争いを続けていると、ダイがおずおずと声をかけてきた。
「ね、ねえ、二人とも。もうその辺でやめにしたら。 ……皆見てるよ?」
「「……え?」」
俺達が後ろを振り返ると、そこには、ロモスの王様や兵士の人達、俺の両親、ブラスさん、ゴメが唖然とした様子で俺とマァムを見つめていた。
「ぷっ。……くっくっく」
俺の父さんが笑いをこらえきれなくなったように、声に出して笑い出したのをきっかけに、俺達は皆に笑われてしまった。
「「「「あーはっはっは」」」
俺とマァムは、赤面しながら互いの肘で牽制しあっていた。
……長い戦いがようやく終わったようだった。