転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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59話 戦い終わって……

「ポップ。しばらく見ないうちに大きくなったな」

「もう母さんの背、追い抜かれちゃったわね。本当に大きくなって……」

「父さんも母さんも、俺のせいで怖い思いをさせちゃってごめんね」

 

父さんが俺の頭をガシガシと撫でて、母さんは涙ぐみながら俺を見つめている。

 

俺は、戦いの終わった謁見の間で父さん、母さんと1年ぶりの再会を果たしていた。両親をこの場に引っ張り出してきたザボエラへの怒りは収まらないが、こうして無事な姿を久しぶりに見ることが出来たことだけは良かったと思っている。

 

どうやら、ザボエラは昨日突然家に押し入ってきて、二人はそのままあの魔法の筒に閉じ込められてしまったらしい。

 

マァムとダイがそんな俺達を遠巻きに見ている。俺はハッとした。いけない。ダイは両親がいないし、マァムも父親がいない。そんな二人の前で、ベタベタと俺だけが両親の抱擁を受けているのは駄目だ。

 

「父さん、母さん。あそこにいる二人が、今俺がパーティーを組んでいる仲間なんだけど……」

 

俺は簡単に、二人の生い立ちを両親に説明した。それで両親は俺が何を気にしているのか察してくれたんだろう。少し俺との距離を取ってくれた。

 

「ポップ。二人を紹介してくれないか?」

「そうよ。是非ご挨拶したいわ」

 

両親がそう言ってくれたので、俺は二人を呼ぶことにした。

 

「マァム、ダイ。父さん母さんを紹介したいからちょっと来てくれないか?」

 

俺の呼びかけに、遠巻きに見ていた二人がやってくる。

 

「こんにちは! 俺、ダイって言います」

「初めまして。私はマァムです。ネイル村出身です。私達、いつもポップには助けられています」

 

二人の挨拶を受けて、まず母さんが口を開いた。

 

「ダイ君と、マァムさんって、言うのね。私はポップの母のスティーヌです。二人とも、ポップの事をこれまで助けてくれてありがとう。これからもこの子の力になってくれると、嬉しいわ」

 

そう言って、母さんは床に膝を突いてダイと目線を合わせて、ふわりとダイを抱きしめた。急に抱きしめられたダイはびっくりしている。ははっ、ダイの奴、顔を真っ赤にして固まってら。

 

「いつでも家に遊びに来てね。美味しいご飯を一杯用意するから」

 

「は、はい……」

 

「マァムさんもよ。是非来て下さいね」

母さんは、ダイを抱きしめた姿勢のまま、マァムを見上げて声をかける。

 

「はい。……きっと、行かせてもらいます」

マァムは、そんな母さんに微笑みながら返事を返している。

 

「俺は、こいつの親父でジャンクだ。武器屋をやっているから、良い武器が欲しくなったら俺の所に来ると良い。いつでも歓迎するぞ」

 

父さんの言葉に、ダイもマァムも「分かりました」と頷いている。

 

そんな自己紹介が終わると、母さんが立ち上がって、俺の左手首に巻いているミサンガに目を向けた。ん? 何かな?

 

「ポップ。どうやらメルルちゃんと再会できたみたいね。そのミサンガ、メルルちゃんから貰った物なんでしょう?」

 

母さんが、俺の左手首を指さしてそう言った。

 

「え? ……ああ、違うよ、母さん。メルルにはまだ会えていないんだ。これは、アバン先生との旅の途中で知り合ったエルサっていう女の子がくれたんだ。良いだろう? 俺はこれに、必勝の願いを込めているんだ」

 

俺は母さんによく見えるように、手首を顔の前に持ち上げた。

 

「――! そ、そんな……」

お、おい、どうしたんだ。母さんが、突然両手で口を押さえてわなわなと震えだしたぞ。何だ何だ。何が起こっているんだ。俺が母さんの反応にびっくりしていると、母さんが父さんの服を掴んで、俺達に背を向けて何やらひそひそと話し出した。

 

(あなた! ポップが、ポップが……三人も女の子と不誠実なお付き合いをするなんて! 私の育て方が悪かったんだわ。ああ、どうしましょう……)

(おいおい、メルルちゃんはともかく、あの子はそんなんじゃないだろう?)

(何を言っているの! さっきの様子を見ていたでしょう! 絶対、あの子もポップのことが……。ああ、でもエルサさんという女の子は知らないけれど、あの子もとっても良い子に見えるわ。困ったわ。私、どちらを応援したら良いのかしら……)

 

うーん、何を言っているんだろう。声が小さくて聞き取れないな、と思っていると、こっちでもマァムが何やらこそこそとやり出した。

 

(……ちょっと、ダイ。メルルとかエルサとか言う人の事、知ってる?)

(えー、……うーん、知らないなー。アバン先生と二人で旅していた時に知り合ったんじゃない? それが、どうかしたの?)

(え!? べ、別にどうもしないわよ……)

 

何か俺だけ蚊帳の外だなーと思っていると、そんな俺達の所に声をかけてくる人がいた。

 

ロモス王国の王様、シナナ王だった。

 

「ダイ。それに、ポップにマァムと言ったかの。この度は国の危急に駆け参じてくれて、国民を代表して礼をさせてもらうよ。本当にありがとう。おかげでこの国は救われたよ」

 

そう言って、俺達に深々と頭を下げる。突然現れた王様に頭を下げられて、俺達もそうだが両親もびっくりしている。

 

「民も、この国を救ってくれた英雄を一目みたい事だろう。どうじゃ、午後からこの城のテラスで君達を民に紹介したいんじゃが、かまわんかな?」

 

この申し出を、俺達は最初やんわりと断っていたんだけど、ブラスさんや俺の両親にも是非見て欲しいと王様に言われて、仕方なく受け入れることにした。

 

「あ、それだったら、すいませんが、一つだけお願いがあるんですが、よろしいでしょうか?」

 

俺は、一つだけシナナ王にお願いをしておいた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

急遽、一般に開放されたロモス王宮の庭園には、大勢の国民が集まっていた。

 

散乱した自宅や店を建て直している途中であったり、自身や家族が怪我をしてまだ治療中という人達も大勢いるが、このロモスの危機を救った英雄をお披露目すると聞けば、何はなくともその顔を見届けねば、と集まってきていた。

 

「氷の賢者様って、どういうお顔しているんだろうな?」

「俺は、遠くからだったが見たぞ。額にバンダナを巻いていたぞ。あの雪、凄かったよな」

「勇者様って、まだ小さな子供らしいぞ」

「女の子もいるって聞いたぞ。何でも、魔物の親玉を素手でボコボコにしたらしいぞ」

 

そんな風に集まっている群衆の中に、一人の男の子が母親と共にいた。その男の子も、今回の魔物の進撃を食い止めた勇者一行の姿を一目見たくてこの場に集まっていた。

 

 

パパパアーーーーン♪

 

 

突然、辺り一帯に鳴り響くファンファーレの音。

 

集まった群衆はいよいよだと思い、庭園より高い位置にあるテラスを一斉に仰ぎ見た。

 

群衆が一斉に見つめる中、まず彼らの敬愛するロモス国王が現れ、今回の出来事の顛末を説明する。そして、ロモス国王が後ろを振り返り、国の危機を救った勇者達を前に手招きする。

 

一斉に歓声が上がる庭園。

 

テラスの上には、七人の勇者が立っていた。

 

ダイ、マァム、ポップに、でろりん、ずるぼん、まぞっほ、へろへろだった。

 

一人一人紹介されるたびに、沸き立つ群衆。ポップの紹介になると、彼はこういう場が苦手なのか、恥ずかしげに少しだけ群衆に手を振って直ぐに後ろに下がった。群衆の中には、彼にお礼を言う暇も無いまま突然回復魔法で傷を癒された者が何人もいて、この場で「ありがとう」と涙を流しながら大声を張り上げていた。

 

そして、テラスの袖にあるカーテンに隠れる位置で、そんなポップの様子を涙ぐみながら誇らしげに見つめているジャンクとスティーヌの姿もあった。その隣では、ブラスとゴメもテラスの上で笑うダイの姿をにこやかに眺めていた。

 

でろりん達の紹介でも、群衆は沸き立った。皆知っていたのだ。あの騒動の中、破邪呪文を発動させるために、危険を顧みず魔物で埋め尽くされたこの町を一心不乱に走り回っていた彼らの姿を。

 

男の子は、目当ての勇者の姿を見て声を張り上げた。

 

「へろへろさーん! ありがとう!」

 

その声に気づいたかどうかは不明だが、テラスの上に立っていたへろへろが、その男の子の方を見てにこやかに笑っていた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ふー、ようやく終わった。俺、こういう注目されるイベントって、楽器を持った演奏なら大丈夫だけど、それ以外のケースだと緊張しいだから本当に苦手なんだよな。

少し手を上げて、直ぐに後ろに引っ込もうとしたら、マァムがまだ早いって言って俺をグイグイ前に押し出すんだもんな。全く勘弁してくれよ。

 

でも、でろりん達もこの場に呼べて良かったな。王様に、あの人達も勇者だから呼んでくれって頼んだら、直ぐに王様は人を派遣してくれたみたいだ。でろりん達、日頃から何か後ろめたいことをしているのか、一瞬逃げようとしたらしい。だけど、どうやら捕まえに来たわけでは無いと分かってくれて、おとなしく王宮に来てくれた。

 

今、でろりん達もテラスから戻ってきた。皆、恥ずかしそうにしながらも楽しそうに仲間内で声を掛け合っている。ほんと、皆無事で良かったな。

 

俺がそんな事を考えていると、マァムが俺に尋ねた。

 

「ポップ。結局、あなたがあの人達に言うことを聞いて貰った事って、破邪魔法の手伝いだったのね」

 

「そうだよ。だけど、あの賭けの成功報酬とは釣り合わないぐらい危険なことをあの人達に頼んでしまったから、さすがに心苦しいよ」

 

「あら、そしたら、逆に私が君に何か言うことを聞いて貰っても良いのかしら?」

 

俺がマァムと会話を交わしていると、突然ずるぼんさんが俺達の所にやってきた。

 

「……ずるぼんさん。ええ、今回は本当にお世話になりましたから、俺に出来ることなら何でも聞きますよ。何ですか?」

 

「……そうねー。何にしようかな。ふふふ、お姉さん悩んじゃうわ♪」

ずるぼんさんは、そう言って俺に流し目を使ってきた。おお、セクシーだ。

 

俺が、一瞬その姿に見とれていると(あくまで一瞬だ)、突然足の甲に激痛が走った。

 

「――あ痛っ! な、何すんだよ、マァム!」

 

「……虫が這っていたから、掃ってあげただけよ」

 

「今のは『掃ってあげた』じゃ無くて、『踏み潰した』、だろうが!」

 

俺が足をピョンピョンさせて飛び跳ねていると、ずるぼんさんが一瞬マァムの顔を見て言った。

 

「ふふ。あんまりからかうと君がかわいそうだから、これで勘弁してあげるわ」

 

そう言いながら、突然俺に近づき、俺の頬にキスをしてきた。 

 

――! 突然のことに俺は固まってしまっていた。

 

「な!?」

マァムが口に手を当てて、驚きの表情をしている。

 

「これで貸し借りは無しよ! じゃあね、氷の賢者君。賢者らしく、君はもう少し女の子の心の機微を勉強した方が良いわよ」

 

俺が、頬とは言え初めての女性からのキスに呆然としていると、テラスのカーテンの隅でこの様子を息を潜めて見ていた母さんが、口を両手で押さえながらわなわなと震えていた。

 

「そ、そんな……。まさか、四人だなんて。……ああ、不誠実だわ」

 

 

 

 

 

その後、日が落ちる前に、俺は両親を瞬間移動呪文(ルーラ)でランカークス村まで送り届けた。魔法力がほとんど切れていたからどうしようかと思ったが、シナナ王が『魔法の聖水』を提供してくれたから、助かった。

突然武器屋の夫妻が行方不明になったんだ。早く戻らないと村では大騒ぎになっている可能性があるからな。久しぶりに見たランカークス村は、表だっては特に変わっているようには見えなかった。

 

両親は、俺に村の入り口まで送るだけで良いと言ってくれたので、俺は中には入らず、誰とも会わずに再びロモスの王宮に戻ってきた。

 

正直その方がありがたかった。村に入ってしまうと、会いたい人がたくさんいて里心が付いてしまいそうだったから。父さん、母さんからは、皆変わりないと聞いたから、それで良しとしよう。

 

ただ、俺は父さんにまたこんなことが起きないよう、エウレカの里のサーラさんに相談する事をお願いしておいた。

父さんも、そのつもりだったようで、合わせてランカークス村の村長にも相談するつもりらしい。

 

ランカークス村の村長か……。たまに見かけるが、よろよろと杖を突いたおじいさんで、あまり頼りになりそうに見えないんだが、まあ良いか。村長を通じて自警団を動かしてくれたら安心だ。

 

あと、父さんは最近友達になったロンという人がいるらしく、今度ゆっくり出来る時に紹介すると言っていた。ロン……ね。知らないな。どんな人なんだろう。

 

両親には、アバン先生のことを簡単に説明したが、どうやら薄々は察していた様子だった。

 

 

ロモスの城に戻ったら、ブラスさんはもう魔法の筒の中に入っていた。そろそろ日が沈む頃だ。俺の張った破邪呪文(マホカトール)もかなり消えかかっているから、限界だったんだろう。

 

ちなみに、4箇所の輝聖石は、今は各地点で兵士の皆さんが見守ってくれていて、結界が完全に消えたら、回収して俺の所に持ってきてくれる事になっている。破邪呪文(マホカトール)内では、回復魔法の効きが良いので、できるだけ維持しておきたいと言うことらしい。

 

可能なら、もう一度破邪呪文(マホカトール)を使ってくれないかと言われたが、正直魔法の聖水1本で回復した程度の魔法力では、あんな大魔法は唱えられない。申し訳ないが、お断りをさせて頂いた。

 

さて、マァムは、魔の森で話していたように、武術の神様とやらの居場所を王様に尋ねてみたそうだ。その結果、ロモスの町から見てはるか北西の森に隠遁していると言うことが分かったらしい。

 

ただ、普通にこの城から陸路で行くと優に5日はかかりそうな距離だったので、俺が明日マァムの手を引いて飛翔呪文(トベルーラ)で連れて行ってやることにした。どのみち、ホルキア大陸に着いたら、瞬間移動呪文(ルーラ)でマァムを迎えに来ないといけないのだから、俺も修行場所まで付いていく必要がある。

 

ちなみに、当初の目的であるホルキア大陸パプニカ王国行きの船は、シナナ王が快く出してくれることになった。しかし、今回の騒動で船員が散り散りに逃げだしており、渡航中の糧食の手配も直ぐには難しいことから、出航は3日後となった。

 

 

 

そんなこんなで、激動だった1日は終わっていった。

 

 

 

 

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後年、『氷の大賢者』の二つ名で呼ばれることになるポップ・マーカストンに初めて『氷の』という形容詞がついたのは、この大魔王戦役初期の第一次ロモス動乱時だったと言われている。

 

ポップ・マーカストンが、氷結系魔法だけでなく数多の魔法を使用し得る事は周知の事実であるが、この騒乱の折に彼の手から放たれた『氷刃嵐舞 氷系真空呪文(マヒアロス)』による氷雪の嵐が当時亡国の危機にあったロモス国民に強く印象づけられた事が、『氷の大賢者』という異名の発端とされている。

そして、公的にはこの時以降彼が『氷刃嵐舞 氷系真空呪文(マヒアロス)』を使用した記録は確認されていない。

 

残念ながら、『氷刃嵐舞 氷系真空呪文(マヒアロス)』を含めた彼の開発した数々の攻撃魔法の術式は、大魔王戦役から150年経った現在そのほとんどが消失しており、その魔法の詳細を把握しているものは存在しない。

それは、同じく彼が開発した回復魔法及び医療魔法の現在における普及状況とは全く異なっており、彼が意図的に攻撃魔法の次世代への伝承を行わなかった事が消失の最も大きな原因としてあげられる。

その理由については、戦役後に発刊されたポップ・マーカストン自身の著作によって述べられている。曰く、『強すぎる攻撃魔法は、人間及び魔物が手を取り合って地上界の発展を目指すこれからの世界のありように不必要なもの』との事である。

 

だが、彼自身の主張の是非はともかく、彼が自身の魔法技術の師であった大魔道士マトリフ・サザーランドの魔法技術までも後世に残していない点について、一部の魔法使いからは非難の声が上がっている事も事実である。

その非難の声は、主に『師の研究成果を不当に独占した』、『師の想いを冒とくしている』といったものであるが、実の所これらの非難は論評にも値しない。

 

何故なら、当の大魔道士マトリフ自身が臨終の際、『自身の魔法技術の全ての扱いを、弟子であるポップに一任する』と発言している事が公的に記録されているからである。

 

以上の理由から、大魔王戦役から150年経った現在、当時同時期に邂逅した事自体が奇跡とまで言われた二名の不世出の魔法使いの攻撃魔法の数々は消失している。

 

しかし、大賢者とまで謳われた人物が将来起こりうる何らかの危機の可能性まで考慮に入れなかったとは考えられないと捉える一部の人間は存在しており、そういった人々は世界のどこかに大賢者の魔法技術の粋が集められた遺物が存在すると信じている。

 

彼らは、今もその存在を求めて世界中を探索しているが、現在までその遺物の存在は確認されていない。

 

 

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