「ポップ君、急に呼び出したりして済まなかったね」
「ありがとうね、ポップ君。君がいてくれて本当に助かったわ」
「いえ、全然かまいません。そんなことより、誰も亡くならなくて良かったです」
今俺は、教会の入り口にある門の下で、マイル神父とマリーさんと会話している。今日は教会で手伝いをする日ではなかったんだけど、自警団の人が、怪我人が大勢発生したから至急教会に来てほしいと家に駆け込んできたから、急遽手伝いに来たのだ。
怪我をしたのは、この村の自警団の人達で、村の外を流れている小川の更に奥に位置する森の中で、獰猛なライオンヘッドと巡回中に出くわし、怪我を負ったらしい。
ライオンヘッドと言えば、足が6本もあり、背中にはコウモリの羽のようなものがついたライオンに似た容貌の獰猛な魔物だ。確か呪文も使いこなし、
俺が教会に駆けつけた時には、3名が首や腹から血を流し命の危険が有るほどの重傷、6名が骨が折れたり、火傷を負っていたりと悲惨な状態だった。命の危険があった3名の内、2名はマイル神父とマリーさんがそれぞれ施療中だったので、残り1名の脇腹から血を流している怪我人の施療に取りかかった。
出血が多すぎて意識がもうろうとしていて今にも命がつきようとしていたので、俺はその怪我人に本気の
マリーさんは
マリーさんの
次にと、辺りを見渡すと、マイル神父が見ている重傷者はどうやら持ち直しそうだと分かった。首からおびただしい量の血が流れていたようだけど、今は止まっているみたいだ。
マイル神父の
重傷者の施療が一段落したようだったので、俺はその他の怪我人の治療を始めた。その他と言っても皆骨折したり失血や火傷を負ったりしているため、気は抜けない。一人一人に声をかけて患部を確認し、しっかりと回復魔法をかけていく。
「ありがとうな、小さな賢者君。君がいてくれて助かったよ。」
「いえ、お役目ご苦労様です。それにしても良くライオンヘッドから逃げられましたね?」
俺は、回復魔法が効いてきて軽口が言えるようになった自警団の一人と会話を交わしている。この人、ジョンさんという名前だったはずだ。
そうそう、そうなんだ、
実は俺、最近『ランカークス村の小さな賢者』と言われることが増えてきたんだ。元々教会で回復魔法を怪我人にかける手伝いはしていたんだけど、2ヶ月ぐらい前に村でネズミが大量発生した時に、糧食屋の主人に頼まれて、大量のネズミを
それを知った一部の人たちから噂が噂を呼んで、こんな異名で俺を呼ぶ人が増えてきている。賢者になることを目指していたけど、実際こういう風に言われだすと、恥ずかしいもんだな。マリーさんも時々、からかいながら俺をそう呼ぶから余計にむず痒い。
「ライナーのおかげだよ。ライナーが持っていた迷い草をうまくライオンヘッドの鼻先に当てることが出来て、奴が意識もうろうとなったところを、全速力で逃げてきたんだ」
なるほど。ライナーというと、ライナー隊長のことだな。30代後半の元冒険者だ。確か7年くらい前に、冒険者稼業を辞めて自警団を組織した人だと聞いている。元冒険者らしく慎重な性格で、回復のための薬草や毒消し薬、とっさの撤退のための道具などを抜かりなく用意する人らしい。今回はその慎重さが役立ったと言うことだな。
「なるほど、それは不幸中の幸いでしたね。でも、ライオンヘッドがこの森にいるなんて初めて聞きました。今まで出くわさなかっただけでしょうかね?」
「いや、あの様子では最近流れ着いてきたはぐれものの魔物という感じがしたな。あっと、ありがとうな、ポップ君。団員の手当てに来てくれて」
そういって声をかけてきたのは、先ほどまで噂をしていたライナー隊長だ。
本人は軽い火傷だからと言って治療を断って、さっきまで重症の団員に必死に声をかけて励ましていた。でも、この人も治療が必要な程度には負傷しているように見えるけど、大丈夫かな?
「いえ、皆さんはいつもこの村のために身体を張ってくれているんです。これくらいの事はさせてください」
「そういってくれると助かるよ。今回ばかりは、何名かはもう駄目かと思っていたが……。本当に君には感謝している」
そう言って、深く俺に頭を下げてくれた。この人、本当に律儀な人なんだよな。俺がストレートに感謝の気持ちをぶつけられてあたふたしていると、ライナー隊長は頭を上げて、フッと笑顔を見せて、こう言ってきた。
「君がもう少し大きければ、是非自警団に入ってもらいたいところなんだがな……。もっとも、ジャンクの奴が絶対に許してくれないだろうが……」
父さんとライナー隊長を含む自警団の人たちは普段から懇意にしている。まあ、武器屋なんだから当然だろうな。この間、ライナー隊長が俺を自警団に入れてくれないかと、父さんと母さんに話をしに来たことがある。
その時は父さんは激高し、母さんは泣き出してしまい、隊長はほうほうの体で家から逃げ出したと後から風の噂で聞いた。
「そう言って頂けるのはありがたいです。まだ身体が小さいので、皆さんと一緒には働けませんが、せめて回復の時だけは協力させてください」
「ああ、こうやって回復魔法をかけてくれるだけでも、とても助かっているよ。それだけでも我が村は恵まれている。後は君が大きくなるのを気長に待っているよ」
「そうだぜ、ライナー。ジャンクに睨まれて、武器の調達が滞るなんてのはごめんだからな」
ジョンさんが、ライナーさんにそう文句を言っている。ジョンさんは、ライナーさんと同じく自警団結成時からの古参だから普段から気安い物言いをライナーさんにしている。
「うるせえよ、ジョン。お前なんてこの間ジャンクの奥さんと長話して、ジャンクにさっさと帰れって怒鳴られていたじゃねえか」
ははは。ジョンさん、そんなことしていたのか。まあ、母さん美人だしな。仕方ないか。
自警団というのは、その名のとおり、村を守る仕事だ。特に多い仕事は、村にやって来る商人や、逆に村から出て行く商人を隣の村や町との境まで護衛をする仕事だ。商人というのは旅の間の安全確保のために、護衛を自前で雇ったりするが、その額も馬鹿にならない。
なので、ランカークス村のような辺境に位置する村に来る時は、村の方が少しでも商人の負担を軽減してあげるために、村から自警団を派遣して護衛代わりの仕事をしている。そうしないと、商人がわざわざこの村に来るのを嫌がってやって来なくなったり、護衛代の分だと言って商品の値段が馬鹿みたいに高くなってしまうからな。村を存続させるための知恵というやつだ。
後は、まあ手空きの時には森に入って、有害な魔物を街道から遠くに誘導したり時には討伐したりと言うことをしている。今回はその最中に起こった事故というわけだ。
俺は、ライナー隊長に軽く黙礼し、去り際に少しだけ隊長の身体に触れて、
ライナー隊長は一瞬不思議そうな顔をした後、身体に負っていた火傷や切り傷が治っていることに気付いたようで、俺の方に目だけで「ありがとうな」と視線を送ってきた。
隊長ともなると、少々の怪我では回復魔法を頼みにくいだろうし、ましてや今ここには重症だった隊員が大勢いる。なかなか回復魔法を頼みにくい状況だっただろう事を俺は理解していたので、何も言わずに回復魔法を行使し、ライナー隊長もそれに対して黙礼で礼をしてくれたのだ。
隊長のような人材はこの村に必要不可欠な存在だから、こんな事はたいしたことでは無いんだよ、と思いながら、その場を後にした。
オリジナルのキャラクターが増えてくると、自分自身でつけた名前を忘れてしまう・・・・・・。