「それじゃあ、ダイ。明日の夕刻までには戻るから、おとなしくしているんだぞ。腹出して寝て、風邪なんて引くなよ」
「もう! どこまで俺のことを子ども扱いするんだよ! 心配なんていらないよ!」
俺は今、ロモスの王宮の屋上庭園のような所で、ダイに別れの挨拶をしている。まあ、別れと行ってもたかだか1日と少しだが。シナナ王から教えて貰った場所だと、
「でも、ポップ。マァムの手を引っ張って
「なーに、問題ないさ。俺、この間のクロコダイン戦で接近戦をしたから、戦士職としてのグレードがグーンとレベルアップした感じがするんだよな。それだけじゃ無くて、今なら俺、中伝の技も使えそうな勢いなんだぜ」
「そうなんだ。……それじゃあ、マァム。少しの間離れることになるけど、修行頑張ってね。マァムならきっと上手くいくよ。だって、この間の戦いだって、凄く武闘家っぽかったし」
「ありがとう、ダイ。でも、まだまだ我流の域を出ていないから、しっかり基礎を習ってくるわ。パプニカ王国で会いましょう」
マァムはダイにそう言って、俺に手を差し出す。俺はマァムのその手を握って、ダイに「じゃあな!」と言って、
俺は、マァムの手を引いて颯爽と空を舞った。
~~~~5分後~~~~
「ねえ、ポップ。腕はどんな調子? そろそろ回復した?」
「……いや、まだ無理っぽい。ちょっとまだプルプルしてる……」
マァムが、俺の右腕をマッサージしてくれている。ここは、ロモスの町を出て直ぐのロモスの町を眼下に見下ろすことが出来る高台だ。
俺の計画は最初から躓いていた。
思った以上にマァムの手を引くと言う行為が重労働だったのだ。
想定外だったのは、俺の腕力だ。ロモスの王宮を飛び出して直ぐに、マァムの手を引いている俺の腕がプルプルしだしたのだ。これはまずいと思って、ロモスの町を出て直ぐに軟着陸して、右腕の体力回復をしているのが、今の状況だ。
怪我したわけでも無く、病気でもないから、魔法をかけても右腕は回復しない。
「はー……。クロコダイン戦でグーンとレベルアップした感じ、ね……。どうやらそれは、ただの思い過ごしだったみたいね」
マァムが呆れた様子で、ため息と共に俺をそう評する。
「い、いや、……もしかすると俺の想定以上にマァムの体重が重か――」
――ズガン!
マァムが傍にあった岩をその拳でぶん殴って、まっぷたつに割った。
そして、俺に良い笑顔で「……何か言ったかしら、ポップ?」と言った。
「い、いえ。何も言っておりません……」
以前も思ったが、俺はマァムに武闘家の修業が必要なんだろうかと、今更ながら頭に浮かんだ。
「でも、こんな調子じゃあ、いつまでたっても辿り着かないし、どうしようかしら。――! そうだ、ポップ! こうしたらどうかしら?」
「なあ、マァム……」
「どうしたの?」
「やっぱりこれは、その……。絵面的にまずい気がするんだが……」
「どうしてよ? 私はまだまだ平気よ。ポップだって、まだ魔法力は持つでしょう?」
「そりゃー持つよ。持つけどさー、さすがにこの格好は俺がちょっとその……」
今俺達は再び空を飛翔している。既にロモスの町を出て1時間以上経っている。
……その今の俺達の飛行体勢は、マァムが俺をおんぶした体勢だった。
この体勢はまずい。成人したいい男が、女の子に完全におんぶされている体勢で空を飛行する。俺の男としての矜持が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていっている気がする。
「そんなこと言っても、これだったらポップは体力使わなくて済むし、私はポップの体重を支えるだけで良いんだから、効率的じゃない。四の五の言わずに、もっとスピードを出しなさいよ。朝の遅れを取り戻さないと……」
どうやら俺の抗議は、受け入れて貰えないらしい。仕方なく俺は
……その日ロモスの郊外では、男性が女性におんぶされた状態で空を飛んでいるという摩訶不思議な目撃情報がロモス王宮に盛んに寄せられたという。
「ポップ、このカレーライスって料理美味しいわね。今度、私にも作り方教えてくれない?」
「ああ、良いよ。この料理は、香辛料の使い方がポイントさ」
ロモスの町を出て約10時間後。俺達は、当初想定していた野営地で食事を取っていた。今日の料理は、カレーライスだ。たき火でコトコトと煮込んだカレーと、飯ごうでツヤツヤと炊いた白ご飯で頂いている。
なんか、ここがダイの大冒険の世界と言うことを一瞬忘れそうになりそうだな。まるで、充実したキャンプ泊をしているみたいだ。空を見上げると満天の星がきらめき、明らかに前世より美しく見える。多分、空を覆うスモッグなどが無いからなんだろうな。
魔王軍との戦いを生き残れたら、ゆっくりとこの広大な世界を旅してみたいな。そう考えるだけで、この世界にはどんな景勝地があるのか、今から楽しみになってくる。まあ、生き残れるのかどうかと言う不安は付きまとっているんだけど。
美味しい食事を頂いた後、俺達は焚き火を囲んで温かいコーヒーを飲んでいる。ダイを含めた三人での野営は魔の森で何日か行ったが、二人での野営というのは久しぶりだな。俺はふと、アバン先生との二人旅のことを思い出して、思わず涙腺が緩みそうになってしまった。
「そういえば、アバン先生にあれから一度も聴かせられなかったな……」
俺は思わず、そう独り言を言ってしまっていた。
「なに? 何を聴かせられなかったの?」
マァムがその俺の独り言に反応を示した。
「いや、前にアバン先生に聴いて貰って、気に入って貰った曲があったんだけどね。また聴かせて欲しいって、言われたままになっていたのを思い出してさ」
「へー、ポップって演奏ができるんだ。ねえ、その曲って今演奏できるの?」
「ん? ああ、出来るさ。オカリナは持ってきているからな」
「じゃあ、聞かせてくれない? 私も、アバン先生が気に入られた曲を聴いてみたいわ」
俺は、マァムからリクエストを頂いたので、鞄の中からオカリナを取りだした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
side マァム
ポップが、奇妙な形をした楽器を吹いている。初めて見る形だ。ネイル村にも偶にだが旅の吟遊詩人がやってくることがある。しかし、こんな形の楽器を持っている吟遊詩人は今までいなかった。
~~~~♪ ~~~~♪
優しい、涼やかな音色だった。私は思わず目を瞑り、その旋律に耳を傾けた。いつも飄々とした雰囲気のポップが、こんな演奏が出来たなんて。私は、まだまだポップのことを何にも知らないんだなと思った。
「……以上だよ。どうだった? 楽しい曲じゃあないから、気に入らなかったんじゃないか?」
ポップが、オカリナという名前の楽器から口を離して私に問いかける。
「ううん。そんなこと無いわ。とっても素晴らしい曲だったわ。でも、意外だったわ。ポップがこんなに演奏が上手だなんて」
「本当はリュートの方が得意なんだよ。ランカークス村の家にリュートがあったから、時間がある時にそれで練習していたからさ。ああ、でもアバン先生と旅に出てから一度も弾いてないから、もう腕がさび付いているかも知れないな」
ポップはそう言って、苦笑いをしている。
「へー、リュートが得意なのね。今度機会があったら聴かせてね。……ねえ、ポップ。アバン先生と旅していた時の事とか、教えてくれない? 私、アバン先生とは村の中で修行を受けていたから、外の世界でのアバン先生を知らないのよ。その、ポップが辛くなかったらだけど……」
私は、そう控えめにポップに尋ねてみた。
ポップがアバン先生を、心の底から尊敬していることはよく知っている。
だから、昔のことを思い出させて辛くなるようなら無理をしなくても良いと思ったんだけど、ポップは私のお願いを聞いてくれて、アバン先生との旅の思い出を話してくれた。
ポップが話してくれたその旅の思い出は、私にとって初めて聞く話ばかりでとても楽しかった。
ふふ、話を聞いていると、私もポップの作るたこ焼きが無性に食べたくなったな。今度作ってもらおう。
それと、話の中でメルルさんという女の子の名前も出てきたので、メルルさんとの出会いの話も聞くことが出来た。
メルルさんか……。5年前にポップと出会ったのか。私も、その頃のポップと出会ってみたかったな、と思ってしまった。
それと、エルサさんだ。ポップとアバン先生は、エルサさんの家で2週間も一緒に過ごしたらしい。
……ふーん、そっか。……そうなんだ。それで、別れ際にエルサさんからミサンガを貰ったと。
でもポップは、エルサさんから貰ったミサンガの意味をどういうわけか別の意味で捉えている。
ミサンガは、『その糸が切れるまでに、私を迎えに来てほしい』というメッセージを込めて女性が想い人に渡すものなのに、ポップは何故か、『肌身離さず身に付けていれば、願い事が叶う』という意味で捉えている。
どうしてそういう捉え方をしたのか理解に苦しむけれど、何故か私はポップにミサンガの本当の意味を伝えられなかった。
ポップ自身は、昨日のお母さんの反応に、ミサンガの意味をはき違えているのだろうかいうと疑問を今更ながら持ち始めたらしくて、私に「ミサンガの意味を知っているか」と聞いてきた。
私はその質問に、「ポップの考えで合っていると思う」とつい嘘をついてしまった。一瞬、ポップ、それと顔も知らないエルサさんに対する罪悪感が胸中をよぎってしまった。
……ごめんなさい、エルサさん。
次の日、私達は昨日と同じように私がポップをおんぶする格好で目的地を目指した。
相変わらずポップは、恥ずかしいだのなんだの文句を言っているけど、私はポップの体力が無さすぎるのがいけないと思う。
でも、ポップがこんな風だから、私でもポップの役に立てることがあると思えて、うれしくなる。ポップは、距離を取った遠距離戦なら間違いなく大陸有数の使い手だと思うけど、接近戦は苦手としている。私は、この戦いをポップと最後まで戦い抜くために、ポップが苦手とする分野の技能を絶対に身に付けようと思った。
私がそんな事を考えていると、ポップが声を上げて指をさした。
「あ、マァム! あれ! あれが王様が言っていた目印の山じゃないか?」
ポップの声に、私もポップが指し示す方角を見た。本当だ。王様が言っていたように、山頂が切り飛ばされたように平らになった山が見えてきた。
あそこに、武術の神とまで謳われたブロキーナ様がいらっしゃるんだろうか。私は、はやる気持ちを抑えられなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2日目の昼前、ようやく俺達は目的としていた武術の神とも呼ばれるブロキーナ老師と出会うことが出来た。
最初は老師が、『おしりぴりぴり病』という病に罹患していて弟子を今は取っていないと言っていたから、「だったら俺が医療魔法で治してあげますよ」と言ったら、途端に弟子を取っても良いと言い出した。
ただ、老師の話をよく聞くと、昔はアバン先生とも共に戦ったことのある人のようで、マァムの両親とも面識があったみたいだ。不思議な縁もあるものだと俺は思った。
とにかく、当初の目的どおり、無事マァムが武術の神ブロキーナ老師に弟子入りすることが出来て良かった。
「じゃあ、ポップ。私、ここで少しの間だけど修行をさせて貰うわね。でも、ちゃんとパプニカに着いたら迎えに来てね」
「ああ、もちろん。明日出航してだいたい1週間ぐらいの船旅という事だから、8日後ぐらいに迎えに来ると思っていてくれ」
「分かったわ」
「それじゃあ、ブロキーナ老師。マァムの事をよろしくお願いします。それと、持病の方は本当に治療しなくていいんですか? 遠慮されなくても……」
「いやいや、儂の持病は常に病名が変わっておるから、治療は必要無いんじゃよ」
ブロキーナ老師は、そう言って俺の医療魔法を断った。
常に病名が変わるとは、いったいこれ如何? 俺はなおさら
「……そ、そうですか。それじゃあ、俺はこれで」
そう言って、最後に俺はこの修行場の景色を目に焼きつけて(覚えていないと
その後、無事ロモス王国に戻った俺は、活気が戻りつつある商店街で、いくつか船上で手慰みとなりそうな物を購入して、ダイと合流した。
さあ、いよいよ明日はホルキア大陸パプニカ王国への出発だ。
俺は、アバン先生から渡された鞄を軽く撫でた。
ホルキア大陸では、確実にあの男に出会う。俺は、アバン先生に託されたんだ。これだけは、絶対に俺の手で成さないといけないと考えていた。
※現時点のポップ達の習得魔法と装備品
●ポップ(賢者)
攻撃魔法:火炎呪文(メラ、メラミ)
氷系呪文(ヒャド、ヒャダルコ、ヒャダイン、マヒャド)
閃熱呪文(ギラ、ベギラマ)、爆裂呪文(イオ、イオラ)
真空呪文(バギ、バギマ)
混乱呪文(メダパニ)、即死呪文(ザキ)
極大消滅呪文(メドローア 合成魔法 *封印中)
自己犠牲呪文(メガンテ)
回復魔法:ホイミ、ベホイミ、ベホマ、ベホマラー、キアリー、キアリク
補助魔法:スカラ、スクルト、ピオリム、ルカニ、ラリホー、ラリホーマ、
トヘロス、インパス、マヌーサ、マホトーン、ザメハ、レミーラ、
バシルーラ、フバーハ、モシャス、ルーラ、トベルーラ、リレミト、
トラマナ、アストロン、マホカトール(補助品必要)
オリジナル魔法:ウォーター(水を発生させる)
メラータ(合成魔法。熱湯を発生させる。温度は調節可能)
メラパ(合成魔法 熱風を発生させる。温度は調節可能)
ラリホーボール(合成魔法 ラリホー成分入りの水球)
マヌーサボール(合成魔法 マヌーサ成分入りの水球)
パキ(突風を発生させる)
ファイヤーウォール(炎の壁を発生させる)
アイスウォール(氷の壁を発生させる)
メラゾロス(合成魔法 火炎竜巻 炎の竜巻を発生させる)
マヒアロス(合成魔法 氷刃嵐舞 無数の氷の刃を発生させる)
ドロヌーバ(地面を泥の沼に変化させる)
トンネラー(地中内に存在する特定の鉱石を探し出し抽出する)
インパディ(医療魔法 体に潜む病気の原因を把握する事ができる)
ベホマメント(医療魔法 病気の回復に特化した回復魔法)
特殊技能:魔力圧縮、二重魔法詠唱、アバン流棍殺法『初伝(地竜閃)』
装備品 :みかわしの服、祈りの指輪、アバンのしるし、ミサンガ
●ダイ(勇者)
攻撃魔法:火炎呪文(メラ)
回復魔法:-
補助魔法:-
特殊技能:アバン流刀殺法『初伝(大地斬)』、『中伝(海波斬)』、
アバンストラッシュ(未完成)
装備品 :鋼の剣、鉄の盾、鋼のプロテクター、パプニカのナイフ、
アバンのしるし
●マァム(僧侶戦士→武闘家)
攻撃魔法:-
回復魔法:ホイミ、ベホイミ、キアリー、キアリク
補助魔法:マヌーサ、ザメハ
特殊技能:-
装備品 :旅人の服、魔弾銃(魔弾×10)、アバンのしるし
はい、これにて4章完です。なんか2章、3章と同じく結局最後にまとめて投稿してしまった。自分はこちらの方があっているんだろうか……。
次はいよいよホルキア大陸ですね。
またしばらく充電期間をおいてから、思い出したように投稿を始めさせていただきます。
ここまでお読みいただいた皆様ありがとうございました。