転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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大変お待たせしました。第5章 スタートです。今回こそ、計画的に投稿していきたいな。


5章 パプニカ、奪還!!
61話 ホルキア大陸への船旅①


~~~~渡航1日目~~~~

 

机の上で手元を照らしているランプが、規則正しくゆらゆらと揺れている。

既に時刻は深夜と言える時間になっていて、部屋に備え付けられている小窓から見える外の景色は、何も映し出さない。

 

今日は朝早くに、ロモス王国の港町を出航した。

だが、俺はあやうくその出航に寝坊して皆に迷惑をかけるところだった。原因は、でろりんだ。

 

昨日、マァムをブロキーナ老師の所に送ってロモスの町に戻って来たまでは良かったが、その晩にでろりんに捕まった。でろりんは、まぞっほとへろへろと夜の町に繰り出す所だったらしく、ちょうど宿屋で鉢合わせた俺も彼らに連行されてしまった。

 

ダイ? ダイはお子様だから、お留守番だったさ。相当ぶーたれていたが、仕方ない。

 

でろりん達に半ば強制的に連れて行かれた店は、綺麗なお姉さん方がバニーの姿でお酒を注いでくれる、前世でいう所のスナックのような所だった。もちろん俺はこの世界に来てそんな店に行くのは初めてだったが、これも賢者としての社会勉強の一環と俺は考え、仕方なしに彼らと朝までどんちゃん騒ぎをしてしまった。実に楽しい、……いや違った、勉強になった有意義な時間だった。

 

そして、二日酔いに痛む頭に医療呪文(ベホマメント)の魔法をかけて強制的に身体を覚醒させ、急いで明け方に宿屋に戻り、ダイと共に船に乗り込んだという次第だった。

 

全くマァムがいなくて良かったよ。マァムは真面目だから、朝帰りなんてした事がバレたら、どえらい事になる所だった。

 

さて、そんなこんなでどうにか乗り込んだこの船は、ロモス王国所有の軍船で、船長はネルソン船長と言う口髭の似合う気さくな船長だ。

こんなご時世に、貴重な船を俺達のために出してくれて、本当にありがたい事だ。

 

この船は、まだ就航してそれほど経っていないらしく、とても清潔できれいな船だった。以前オーザム国で乗せてもらった船は、質実剛健といった船でああいう船も良かったが、この船も華美すぎる事もなくとても乗り心地が良い。

 

 

「うーん……。zzz……」

ダイは2段ベッドの上段で既に夢の世界に旅立っているようで、時折寝言が聞こえる。

 

俺は、昨日ロモスの町で購入したノートを机の上に広げている。そう、俺は今から日記をつけようとしている。といっても今日から書き始めるため、3日坊主に終わってしまう可能性は十分にあるが。

 

デルムリン島を出てから今日までゆっくりと頭を整理する時間が無かったので、このパプニカに向かう船旅は、俺にとってちょうどいい頭を整理する時間になりそうだ。

 

さて、日記とは言ったが、まずはこれからの事を整理するためにメモを取ろうと思う。ちなみにこの日記は全て日本語で書くつもりだから、誰に見られても全く問題ない。この世界の言語形態は、日本語とは全く異なっているから、推測する事すら不可能なはずだ。まあ、俺と同じく日本から転生してきた奴がもしいたらまずいが、その時はその時だ。

 

さて、まずは頭の整理だ。俺は日本語でノートに書き込みを始めた。

 

俺は正直、デルムリン島でアバン先生に生き残ってもらう事が前提でこれからの事を漠然と考えていた。

 

アバン先生さえいてくれれば、クロコダイン戦は初戦で勝っていたかもしれない。そして、これからパプニカで会うあの男の説得もアバン先生に任せられる。更にその後の氷炎将軍フレイザードに関しても、空裂斬の使えるアバン先生がいれば一撃だっただろう。もちろん、全てをアバン先生に任せていてはダイの成長が無いため、並行してダイの修業も行って貰いつつだ。

 

問題はその後の竜騎将バラン戦だが、さすがにその戦いだけはアバン先生単独では分が悪いから、俺やダイ、ヒュンケル、あわよくばクロコダインが協力する事でどうにか勝てればと考えていた。

 

……はー、こうして改めて書き出してみると、俺がいかにアバン先生に頼り切っていたか、いや、甘えきっていたかを突きつけられた気分になるな。

 

そして、俺が甘えきっていたそのアバン先生は、俺の痛恨の失策で亡くなられてしまった。俺は、今でも衝動的に自責の念にさらされて、時折捨て鉢になってしまう時がある。

 

今思えば、クロコダイン戦で斧で頭をかち割られそうになった時も、そうだった気がする。殺したければ殺せ、と意気込むなんて勇気ではなく蛮勇でしかなかったな……。あの後、俺はマァムやダイからもずいぶんと叱られてしまった。

 

「……ポップ? はれ、何しているの?」

 

おっと。ダイが寝ぼけた様子で上半身を起こした。

 

ダイ……。この物語の中の文字通りの主人公。ダイの目を見ていると、俺は自分がダイに対して非道な行いをしている事を自覚して、思わず目を逸らしたくなってしまう。先日のブラスさんの件もしかり、この後のパプニカでの件もしかりだ。

 

俺は、それらの厳しい経験を通じてダイが大きく成長することを知っているから、ひどい事をダイに対して行っていると自覚しながらも、その大きな流れから逸脱する事無くこの旅を進める事を、既に決意している。

 

「……ポップ?」

 

ああ、いけない。ダイが、怪訝な表情で俺を見下ろしている。

 

「なんだ、起きたのか。今は……そうだな、デスノートっていうノート型の魔道具を作成したからそれにハドラーの名前を書いていたんだよ。これに名前を書かれた奴は、30秒後に心臓まひで死んじまうんだぜ? ハドラーも30秒後にポックリ逝くさ」

 

「ははは……。それなら良かった……ね。……おやすみ……ポップ。zzz……」

 

ダイは俺の話を理解したのかしなかったのか、そのままバタンと倒れ、再び夢の世界に旅立っていった。

 

……はー。デスノートか。そんな便利なノートがあればどれほど良かったことか。バーンだって名前を書いたら一発だ。あ、でも顔を知らないから駄目か……。

 

ああ、いけないな。何を下らない思考に陥っているんだ。いかんな、今も捨て鉢になってしまっている。

 

日記への書き込みを続けよう。

 

アバン先生は死んでしまった。図らずも原作と同じ展開になったわけだ。少なくともバラン戦までは。

 

俺は、将来的にアバン先生が戦線に戻ってくるはずだったと、確信を持っている。

身代わりの石を所有していたからアバン先生は死んでいなかったはずだが、原作ではバラン戦までアバン先生は現れていない。

 

アバン先生は、その間一体何をしていたのだろう? 考えられることは何だろう?

 

魔王軍に密かに捕まっていた? いや、そんな描写は無かったはずだ。その可能性は低いと思う、……が物語の後半に敵として登場するというのは、よく見た展開だ。可能性は0では無いだろう。

 

自己犠牲呪文(メガンテ)の衝撃で記憶喪失に陥っていた? それはありえるかもしれない。記憶喪失というのも、前世で良く見た展開だ。そして、物語の後半に記憶が戻り、その間介護してくれていた女性を涙ながらに振り切り、戦線に復帰する……。うーむ、実にイケメンなアバン先生にありえそうな展開だ。可能性としては有りだな。さっきの敵として現れるケースよりは、可能性は高い気がする。

 

後は何だ……。アバン先生の性格を考えてみよう。アバン先生なら、ダイの潜在能力が自身を超えているという事にとうに気づいていたはずだ。

 

その時、アバン先生ならどうする? ダイに全てを任せる? いや、それは無いな。その場合アバン先生なら自身を見つめ直して、それならそれで何かの役に立とうともがくはずだ。……ダイの強さが純粋な戦闘能力だとすれば、それ以外の力を身に付けて。

 

では、アバン先生だけの強みとは何だ? 魔法、剣技いずれも極めて高い水準で修めてはいるが、№1ではないはずだ。優れた洞察力? それもあるだろう。だけど、それが長期間不在になる理由になるだろうか。

 

アバン先生だけのものだ。何だ、他に何がある。

 

魔弾銃……。そうか、魔道具製作は天才的だ。不在の間、密かに強力な魔道具を製作していた? いや、それも無い事は無いが、何か違う気がする。魔弾銃もそうだが、魔道具が決定的な仕事をするとは、ちょっと考えづらい。

 

それだけだろうか。まだ何かある気がする。

 

その時、俺の目に鞄の中から覗く輝聖石が目に入った。輝聖石……。

 

――! 

 

そうだ、破邪呪文だ!

 

アバン先生は破邪呪文を得意としていた。そうか! もしかするとアバン先生は不在の間、破邪呪文の修業をしていたのかもしれない。

 

そして、強力な破邪呪文を身に付けて物語後半に戦線に復帰する……。俺は今まで検討したいくつかのケースの中で、これが最も可能性の高い説に思えた。

 

しかし、同時に俺は落胆した。破邪呪文は血統がものをいう。俺はつい先日のロモスの町での事を思い出していた。俺が行った破邪呪文(マホカトール)は、アバン先生の行った破邪呪文(マホカトール)の展開範囲の数分の一にも満たないのに、限界以上に魔力を消耗してしまった。

 

以前アバン先生が言っていたように、俺は破邪呪文に全く適性がないわけではないだろう。しかし、アバン先生の域には到底及ばない。

 

どうすれば良いだろうか。適性が少ないと言っても、無理をすれば出来ないわけではないだろう。ホルキア大陸でマトリフ師匠に出会えたら相談してみよう。どうすれば、破邪呪文をアバン先生のように使いこなせるようになるかを。

 

自身のやるべきことの方針が少し定まったことで俺は安心し、ようやく眠気が襲ってきた。ていうか、良く考えたら俺は、昨日徹夜で社会勉強をしていたんだ。この若い身体でも、さすがに2徹はきつい。

 

今日は、この辺りで筆を置いておくことにしよう。

 

 

~~~~渡航2日目~~~~

 

 

「――はっ!」

 

時折ゆらゆらと揺れる不安定な甲板上で、ダイが背後の水球を木刀で一閃する。切られた水球は、途端にただの水と化し、甲板に落ちてそのまま木板に浸透していった。

 

まだダイの周囲には複数の水球が揺蕩っている。その水球をダイは、目隠しをした状態で次々と切り付けていく。しかし、1個の水球がそんなダイの木刀による斬撃をするっと躱し、ダイの身体に直撃した。

 

「――熱っ! 熱っ!」

 

途端にダイは木刀を放り出し、甲板上を熱い熱いと叫びながら走り回り出す。ゴメがその後ろを心配そうに「ピィ、ピィ」と付いて回っている。

 

今日は渡航2日目だ。順調にいくと、パプニカ王国首都に併設された港までは1週間程度らしい。ただ、俺はその直前にマァムを迎えに行く必要があるから、パプニカの町の1つ手前にあるという小さな港町に寄港してもらい、そこからマァムを迎えに行く予定だ。

 

俺に、そうするように勧めたのは、ネルソン船長だ。曰く、「パプニカ国からロモス国への定期便が数日前より途絶えているため、パプニカ国に何か異変が起きていることは確実。お仲間を迎えに行くなら、その手前で合流した方が良い」との事だ。

 

つまり、原作どおりパプニカの町は既にあのような惨状になってしまっているんだろう。俺は、これから会うはずの兄弟子の事をアバン先生から託されている。だから、出来れば少しでもあの兄弟子に罪を犯させないようにしたかったが、どうやら間に合わなかったようだ。

 

となると、おそらく、パプニカの町に着くと原作通りあの兄弟子と邂逅することになるのだろう。

 

あの兄弟子、そう……ヒュンケルだ。歳は、俺より6つほど上だったか。アバン先生が15年前に、当時の魔王ハドラーを討伐した後、その地底魔城から連れ出した少年。

そして、アバン先生の修業を受け、卒業の証である『アバンのしるし』を貰っていながら、密かに育ての親である地獄の騎士バルトスの仇であるアバン先生の命を狙っていた男。

 

アバン先生は、地下迷宮で見つけた『魂の貝殻』をヒュンケルの『闇を拭い去る可能性のある物』と言っていた。それは、そうだろうと思う。俺も原作知識でそれは知っている。

ただ、あのヒュンケルがこれを渡したところで、すんなりと聞いてくれるはずがないとも思っている。

 

戦闘は必至だろうな。俺はそう確信を持っている。そして、ヒュンケルとの戦闘はダイやマァムの力は借りず、俺だけで行おうとも思っている。

 

これだけは譲らない。いや、譲りたくない。これは、俺がアバン先生から託されたものだ。

俺のわがままのようなものだが、これは俺のけじめだ。

 

……ヒュンケルか。接近戦に無類の強さを発揮するまさに戦士職の代表と言った男だ。おまけにほとんどの攻撃魔法が通じない『鎧の魔剣』を装備しているので、魔法戦にも対応しうる防御力もある。気を付けるべきは、闘気剣のようなあいつ固有の技『ブラッディースクライド』だな。あの技の射程距離は、魔法のそれに匹敵する。

 

さて、どうすれば奴に『魂の貝殻』に込められたメッセージを聞かせられるだろうか。……そうだ、ロモスででろりん達に手伝ってもらったのと同じ方法を取ってみるか。あいつは、一度口にした事は守りそうな気がするしな。

 

となると、いよいよあいつに1対1で勝つ必要がでてくるな。『鎧の魔剣』……か。いくつか勝ち筋は思いつく。だけど、一番確実なのはあれだな。この船旅の間に習得できれば良いんだが。

 

「ポップ! ――ポップってば!」

俺が船の甲板に座り込んでそんな事を考えていると、突然ダイが俺の顔の目の前に現れた。

 

「――! わっと、お、驚かすなよ、ダイ」

 

「脅かすなじゃないよ、ポップ。ずっと呼びかけていたんだからね」

 

先ほど喰らった水球が原因で、頭から湯気を出してびしょ濡れになっているダイが呆れた様子で言った。

 

「そうか? ごめんごめん、ちょっと考え事していた。何か用か?」

 

「何か用か、じゃなくて、ひどいよ! 水球を熱湯にするなんて! その前なんて、水球に幻惑呪文(マヌーサ)とか睡眠呪文(ラリホー)が仕込まれていたし! 頭がフラフラしたり、眠りそうになったりで大変だったんだからな!」

 

「そりゃー、仕方ないさ。ただの水球じゃあ、修行に身が入らないだろう? 早く、目隠しの状態で水球に的確に切り付けられるようになればいいのさ」

 

「それは、そうだけどさ……。だけど、こんな修業が空裂斬を覚えるのに本当に役立つの?」

 

「多分……な。アバン先生が言うには、空裂斬は目に見えない物質を切るものだそうだから、目隠しした状態での修業は意味があると思うぜ」

 

そう、俺は今ダイにアバン流刀殺法の上伝にあたる『空裂斬』の修業をさせている。ダイは、中伝の『海波斬』まで習得した時点で、アバン先生の指導が中断してしまった。

クロコダインには、竜の紋章の力でどうにか勝利できたが、最終奥義である『アバンストラッシュ』の真の力を発揮するためには、『空裂斬』の習得は必須だ。

 

もちろん、『空裂斬』の習得はとにかく難しいと聞いているから、一朝一夕で身に付くとは思っていないが、このパプニカ王国への移動中もできるだけの事はしておきたい。マァムだって、今頃ブロキーナ老師のもとで決死の修業を行っているはずだ。

 

「う、うーん。まあ、ポップがそういうなら良いけどさ。でも、次は熱湯はやめてよね! すっごく熱いんだからさ!」

 

「分かった、分かった。じゃあ、もう一度水球を作るから、構えな」

 

「うん、分かった」

 

そう言って、ダイは再び甲板の中央に移動して目隠しをする。俺は、そんなダイの周囲に再び水球をいくつもふよふよと作り出して、適当に動かした。

 

俺はそうやってダイの修業の手伝いをしながら、ロモスの王宮で、でろりんの仲間の魔法使いまぞっほに言われた言葉を思い出していた。

 

俺は、まだ火炎魔法の上位にあたる火炎呪文(メラゾーマ)を習得できていない。どうしても、制御が難しいのだ。

 

火炎呪文(メラミ)までなら制御が出来る。しかし、火炎呪文(メラゾーマ)になると、その圧倒的な火力を持て余してしまい、いつどんなふうに想定外の方向に炎が噴出するか分からず、とてもではないが周りに仲間がいる状態で発動させることが出来なかった。

 

まぞっほは、俺のそんな状況を的確に把握しており、その解決案として『器』を用意することだと助言をくれた。もちろん『器』と言っても、物質的な『器』の話ではなく、概念的な『器』の話だ。

 

『器』……。つまり何か『器』となる存在をイメージする事か。確かに、俺は炎は炎としか捉えておらず、その炎を何かの形に整えるといった発想は今までした事がなかった。

 

器、器ねえ。……動物でも良いのかな? 火炎……。動物……。

 

……火の鳥?

 

 

「――ポップ!」

 

不意に名前を呼ばれた事で、俺はそこで思考を中断させられた。

 

俺が、その声の主であるダイに目をやると、ダイは、今度は全身泥だらけの格好で両手をぶんぶんと振って、不満を身体全体で表現していた。

 

「なんで、今度は水の中に泥が入っているんだよ! おかげで泥だらけじゃないか!」

 

そうだった。新しく作った水球には泥を含ませていたんだった。

 

俺は、ダイのその姿を見て思わず「はははっ」と笑いだしてしまった。そして、その様子を見ていたネルソン船長や周りの船員さん達も、皆一斉に笑いだしていた。

 

 

 

 

~~~~渡航3日目~~~~

 

「ポップ、まだ眠らないの?」

ダイが、2段ベッドの上から、机に向かっている俺を見下ろして、そう声を掛けてきた。今は、航海に出て3日目の就寝前の時間帯だ。

 

「ああ、もう少ししたら俺も寝るよ。今細かい調整部分を作っているところだから、中途半端な状態でやめられないんだ」

俺は、ダイを見上げてそう返事を返した。

 

「そういえば、ダイはブラスさんにきちんとお別れの言葉が言えたか?」

「うん、言ったよ。これからは、ロモスのお城の人がじいちゃんを守ってくれるから、安心したよ」

 

今日の昼間に、俺達はデルムリン島に少しだけ立ち寄って、ブラスさんを島に送り届けてきた。

 

だけど、確かにダイの言うとおりロモスの兵士の方が数人ブラスさんの警護に就いてくれたけど、内心俺は役に立つのかな、とも思ってしまった。

 

まあ、俺が知っている限り再びブラスさんが攫われるという展開は原作では無かったはずだから、大丈夫だと信じたい。

 

「それ、もしかしてマァムのために作っているの?」

ダイが、上から俺の手元を覗きこんで興味深そうに聞いてくる。

 

「ああ。マァムが正式に武闘家になったら、それ専用の武器もあった方が良いだろう? クロコダインとの戦いの時みたいにさすがに素手で殴っていると、自分の拳も傷つくからな」

 

そう言って俺は、机の上に広げている作りかけの魔道武器『ブラスナックル型メタルフィスト』を見つめた。まあ、いわゆるメリケンサックなんだが、それだけじゃあ芸がないから、俺はそれに魔結晶を組み合わせた魔道武器を作ろうとしていた。

素材は、アバン先生との旅に出る前に村から持ってきていた魔結晶や、ミスリル銀を使っている。それほど大きな武器じゃないし、片手分しか作っていないから十分持っていた量で事足りるだろう。

 

「そうなんだ。マァム、喜ぶだろうね。それとね、ポップ。一つ聞きたいことがあるんだけど良い?」

 

「ん? ああ、何だ? 何でも聞いてみ?」

俺は手元のメタルフィストから目を離して、ダイに向きなおった。

 

「うん。ポップ、『ぱふぱふ』って知ってる?」

 

ガタン!

 

俺は、ダイから発せられた驚きの単語に、思わず手に持っていたメタルフィストを落としそうになってしまった。……な、い、今ダイは何て言ったんだ?

 

「……そ、その言葉をダイは何処で聞いて来たんだ?」

 

「うーん、この間ポップ達がマァムの修業先に行った日の夜に、でろりんが教えてくれたんだよね。すぐにずるぼんが、『子供になんて事言っているの!』って、でろりんを怒ってて、結局どういう意味か分かんなかったんだよ」

 

でろりん、あいつはいらん事をダイに教えやがって! まだダイには、10年は早いだろうに!

俺の中で、先日のでろりん達の活躍で抱いていた好感度が、急速にだだ下がりしていった。

 

「……そ、そうなのか。うーん、お、俺も良くは知らないなー。そ、そうだ。今度マァムにでも聞いてみたらどうだ?」

 

「マァムに? うん、分かった。そうしてみる」

 

「あ、いや、待てダイ! やっぱりマァムはまずい。非常にまずい。そ、そうだな、ダイが後10年もしたら教えてやるから、その言葉は今は忘れておけ。この間の俺の朝帰りと一緒だ。忘れるんだ。……良いな?」

 

「えー、10年? そんなに先なの? うーん、分かったよ。じゃあ、お休み、ポップ」

 

「ああ、お休み、ダイ」

 

危なかった……。今のは、またマァムの逆鱗に触れる危険なトラップだった気がする。多分ダイがマァムに尋ねたが最後、マァムが俺に対して何て言葉を教えているんだと、激怒する展開になったはずだ。

 

大丈夫だ、セーフだ。

 

しかし、なんかこういう話を、原作でダイとポップがどこかでしていたような気がするな。全く、思い出したかのように原作修正力が仕事を始めるから、油断できたものじゃないな……。

 

実は俺は、このホルキア大陸に向かう船旅でイメージチェンジを図ろうとしていた。理由は、最近ちまたで囁かれている『氷の賢者』という俺の二つ名だ。

 

氷と言えば、俺の前世の知識でイメージするキャラクターは、『クールなイケメン』だ。どこぞの十番隊長しかりだし、古くは白鳥座の聖闘士しかりだ。俺は、自身に付けられたその二つ名にふさわしい男になる事を、密かに決意していた。

 

俺はもう、マァムに鉄拳制裁を受けていた以前のポップとは違うんだ。

 

『男子、3日会わざれば括目して見よ』、だ。

 

よし、このままニュー・ポップを維持して、数日後に会うマァムを括目させて見せよう。

 

 

 

~~~~渡航4日目~~~~

 

ダイは今、甲板上から遠くの海に向かって意識を集中させている。その海の上には、俺が氷結魔法で作り出した大きな氷の塊が浮かんでいる。

 

空は、昨日までの晴天から一転して曇り空になっている。実はこの曇り空は俺が作り出したものだ。そう、俺とダイは原作でヒュンケルと出会った後に行った電撃呪文(ライデイン)の修行を、今船上で行っている。

 

もっとも、さすがに船の上に電撃呪文(ライデイン)の雷を落とすわけにはいかないから、目標とするものは、海上に浮かべた氷の塊にしている。

 

電撃呪文(ライデイン)を含むデイン系の魔法は、勇者にしか扱えない魔法だ。いや、正確には、竜の騎士にしか扱えないのではないだろうか。多分、同じ勇者のアバン先生も扱えないはずだ。

 

この電撃呪文(ライデイン)という魔法は、今後のダイの魔法剣を軸とした戦闘の要になるはずだ。

しかし、本来この魔法は、使用者自身が天候を操作し雷を落とす魔法だが、まだダイにはその過程全てを自身で行う魔法制御技術が無い。

 

だから俺も、原作ポップがしたように、まず天候操作魔法ラナ系の最下級呪文『天候呪文(ラナリオン)』を覚えて、雷を発生させやすい曇り空にする事で、その習得を手伝うことにした。

 

とは言いながら、この天候呪文(ラナリオン)という魔法、最初は天候操作なんて呪文構造がさっぱり分からず契約出来る気がしなかった。だけど何のことはない、その魔法の呪文構造が記載されている書物がアバン先生の鞄の中から見つかった。

 

もしかすると、原作ポップもこの書物を見て天候呪文(ラナリオン)の魔法を契約したのでは無いだろうか。俺は改めてアバン先生に感謝した。

 

と言うわけで、俺は特に問題なく天候操作魔法 天候呪文(ラナリオン)を習得できた。

 

 

 

ダイの集中は続いている。いくら上空が曇り空になっているといっても、そこから雷を発生させることが困難な事は容易に想像できる。だから、俺は急かすこと無くそのダイの様子を眺めている。天候呪文(ラナリオン)の魔法の維持は問題ない。唱えることでガッツリと魔法力を持って行かれたが、このぐらいの事は想定の範囲内だ。

 

ネルソン船長や手の空いている船員の皆さんが、そんな俺達の様子を遠巻きに眺めている。実は最初、ネルソン船長には天候呪文(ラナリオン)の魔法を船上で唱えることに難色を示された。それはそうだろう。船の安全な運航のためには、晴天が望ましくて何故わざわざ荒天にしなければならないのか、と思うだろう。

 

だけど、これはダイにとって絶対に必要な修行だ。俺はネルソン船長に頼み込んで、荒天といっても曇り空にするだけで嵐を呼ぶわけではない、修行が終われば直ぐに天候呪文(ラナリオン)の魔法を解除すると言って、どうにか了承を得ることが出来た。

 

「よし! 行くぞ! ――電撃呪文(ライデイン)!!」

不意にダイが、大声を上げて電撃呪文(ライデイン)の魔法を唱えた。

 

ズガーン!

 

途端に、上空より一条の雷が氷の塊目がけて落ちてきた。しかし、その雷は氷には命中せずただ海面に落ちただけだった。

 

「やった! 出来た、出来たよ、ポップ!」

ダイは、雷を発生させる事が出来て、大喜びだ。俺達を見守っていた船員の皆さんも「おぉーー!」と歓声を上げている。確かに凄い威力だ。だけど、これで満足して貰っても困る。

 

「ああ、良くやったぞ、ダイ。だけど、どんな攻撃も当たらないと意味が無い。次は、目標に命中させる事を意識してやってみるんだ」

 

「分かった! 次は当てるよ!」

 

その後俺達は、太陽が水平線に沈んで目標である氷塊が見えなくなるまで、電撃呪文(ライデイン)の習得に明け暮れた。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

その日の夜、ダイは小さなメモ用紙がベッドの下に落ちているのを発見した。ダイはそのメモを見つめたが、悲しいかな、字の読めないダイにはその内容が読み取れなかった。ポップに聞ければよかったが、ポップは今ネルソン船長と航海の打ち合わせに行っている。

 

少し悩んだが、ダイはポップがマァムに渡す新しい武器の取扱説明書を作っていたのを思い出した。おそらくこのメモもその一つだろうと考えたダイは、そのメモをマァムの新しい武器を包んでいる袋の中に入れておいた。

 

 

そしてダイは、そのままそのメモの存在を記憶から消した。

 

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