転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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63話 ヒュンケルとの出会い

風光明媚と謳われていたパプニカの町は、閑散としていた。視界に映る範囲で動いている者は、誰もいない。大半の家々が損壊しており、痛いほどの静けさが辺り一帯を覆っていた。

 

俺達はロモス王国の船でここパプニカの町まで運んで貰ったが、船には一足先にロモス王国に帰って貰った。ネルソン船長が俺達の帰りの足を心配してくれていたが、いざとなったら瞬間移動呪文(ルーラ)で帰ると伝え、納得してもらった。

 

「そんな……。ここが、パプニカの町だなんて。お城は、お城はどこに……!」

 

「ダイ、城はあの高台みたいだ」

俺が、高台にあるかつては城だったと思われる建物を指さすと、ダイは城に向かって駆けだした。

 

「あっ、待って、ダイ! ポップ、追いかけましょう!」

 

「ああ!」

 

俺達は、ダイを追いかけてパプニカの町を抜けた先にある高台の城に走った。俺は町を抜ける途中、瓦礫と化した家の残骸に子供の物と思われる靴が片方転がっているのを見て、陰惨な思いを抱いてしまった。

 

知識として知っているのと、実際にこの目で見るのでは偉い違いだな……。つくづく、とんでもない世界に来てしまったな。

 

アバン先生さえいてくれたら、俺は先生の判断に全てを委ねていられたのに……。

 

……やめよう、アバン先生はもういないんだ。俺は、今更考えても仕方の無い事を頭から振り払い、マァムの背中を追いかけた。

 

 

 

 

そこは、確かに城ではあった。しかし、既にそこは城の様相を呈しておらず、屋根は崩れ、瓦礫が散乱しており、ただの1人もこの場所に生き残りの人間がいないことは明らかな様子だった。

 

「……そんな。レオナは、いったい……」

俺達がダイに追いついた時、ダイはその場に膝をつき、この国の第1王女レオナ姫の安否を心配して嘆いていた。

 

「……ダイ」

マァムがそんなダイを気遣わしげに見つめる。

 

「ダイ、レオナ姫はどこかに避難している可能性もある。まだ諦めるな」

俺はダイに後ろから近づき、その肩に手を置いて励ました。

 

「……ポップ。うん、そうだね、レオナの事だからきっと大丈夫だよね」

ダイは、俺の言葉にわずかな希望を見出したようだ。そうだ、きっとまだ大丈夫なはずだ。

 

 

――ケケケケ!

 

その時、不気味な笑い声と共に、突然瓦礫の下から死霊の騎士が複数体現れた。1、2、3……8体か。多いな。

ダイとマァムは即座に戦闘態勢を取った。2人が俺の前に出るが、直ぐに俺の背後からも7体の死霊の騎士が現れた。

 

――チッ! 囲まれたか。

 

「ポップ!」

ダイがこちらを振り返って叫ぶ。

 

「こちらの事は心配しなくて良い! ダイとマァムは前方の敵を頼む!」

 

「分かったわ!」

 

俺の言葉にマァムが右拳にメタルフィストを装備して突っ込む。そして、右拳から炎を吹き上げながら死霊の騎士の頭部にその拳を叩き込んだ。その一撃で致命傷を負った死霊の騎士はその場にガラガラと崩れ落ちていく。

 

そのままマァムは、1箇所に留まること無く次の敵に狙いを切り替え、素早く移動する。ダイもその動きに続いて、鋼の剣で敵を攻撃し始めるが、若干やりづらそうだ。どうやら死霊の騎士には斬撃より打撃の方が有効な感じだな。

 

……と、俺もこちらを抑えなければ。

 

俺は爆裂呪文(イオ)の魔法を唱え、左手から爆球を複数体上空に浮かび上がらせる。そして、それを近づいてきた死霊の騎士に次々と放っていった。

 

鼓膜が裂けるような爆音と爆風が俺の前方に吹き荒れる。

 

更に俺は爆裂呪文(イオ)を放つと同時に、右手で突風呪文(パキ)の魔法を発動した。もちろん風向きを調整し、爆風がこちらに届かないようにするためだ。俺は、過去の苦い経験から、爆裂呪文を使う時はだいたいこんな事をしている。

 

後方の敵はこれで一掃できたようだ。俺が前方に目を移すと、ちょうどマァムが最後の一体を炎の拳で打ち倒すところだった。

 

マァムは、上手くメタルフィストを使いこなしているようだ。俺がマァムに渡したメタルフィストには、3つの魔結晶が組み込まれている。そのうちの2つに俺は火炎呪文と、氷系呪文を刻み込んでいる。

 

これにより、状況に応じてマァムは火炎と氷系を拳に纏わせて打撃攻撃を放つことが出来る。

ちなみに3つ目の魔結晶にはまだ何も刻んでいない。これは、今後有益な魔法を覚えた時に後から刻むつもりだ。

 

まあ、この武器は、死霊の騎士が相手と言うよりは、属性持ちの敵や実体のないフレイムやブリザードを相手とした時にその真価を発揮することだろう。

 

「お疲れ、ダイ、マァム。怪我は無いか?」

 

「うん、俺は大丈夫だよ」

 

「私もよ。ポップの作ってくれたこのメタルフィスト、凄いわね。思いっきり殴っても手が全然痛まないわ」

 

「早速使いこなしてくれているようで、良かったよ」

俺は昨日、そのメタルフィストをマァムに打ち込まれた頭部が再び痛み出した気がして、思わず頭に手をやった。

 

 

パチパチパチ。

俺達がそんな会話を交わしていると、どこからか手を叩く音が聞こえてきた。

 

不意に聞こえてきたその音に驚き、俺達がその音のする方向を見ると、瓦礫と化した柱の陰から1人の男が現れた。

 

ああ、出たな……。俺はもちろん、この男に心当たりがあった。大きな異形の剣を持った、白髪の20歳前後の目つきの悪い男。

 

「……中々やるじゃないか。奇襲をついて現れた死霊の騎士に対して、先ほどの手慣れた動き。……お前達、何者だ?」

 

その質問に対して、ダイが自分達はアバンの使徒だと伝える。

 

「……ほう。奇遇だな。なら、俺はお前達の兄弟子と言うことになるな。俺の名前はヒュンケル。そら、これが俺もお前達と同じアバンの使徒だという証拠だ」

 

ヒュンケルと名乗った男は、自分の胸元から、俺達がアバン先生から授かった物と同じペンダントを出して見せた。

 

ダイもマァムもそれを見て、新たなアバン先生の弟子が来てくれたことに喜びの表情を浮かべている。

 

まあ、ここまでは原作通りの展開だな。だけど、そろそろ茶番はお終いにしよう。

 

 

「……ヒュンケル。あんたの事はアバン先生から聞いているよ。あんた、アバン先生を育ての親の敵と思い込んで、ずっとアバン先生の命を狙っていたんだろう?」

 

「ええ!?」

「ど、どういう事、ポップ!?」

 

俺の言葉にダイとマァムは驚きの声を上げる。

 

しかし、当のヒュンケルは、俺の言葉を何処吹く風の様子で受け止めている。

 

「ほう……。貴様、どこまで知っている?」

 

「多分、全部知っているよ。あんたがとんでもない誤解でアバン先生を憎んでいて、アバン先生が死んだ今、同じアバンの使徒をその代わりに殺そうとしている事とか。……あんた、今は魔王軍に所属しているんだろう?」

 

「誤解だと? ――貴様、俺の父に対して行ったアバンの所業を誤解というか!」

おっと、急に激高し出したな。やはりヒュンケルには、育ての親のバルトス関係の話題は禁句だったか。だけど、あえて言わせて貰うぞ、ヒュンケル。

 

「誤解だね。その誤解を解くために、アバン先生は心を砕いていたというのに、あんたときたら……。おまけに、魔王軍なんぞに所属して何の罪も無い人達をこんなに殺めちまって。あんたとアバン先生にどんな確執があったにせよ、無関係の人達を巻き込む必要は無かったんじゃないのか?」

 

「黙れ! アバンが生きていればこの手で八つ裂きにしてやったが、奴はハドラーごときの手にかかって死んだというでは無いか! ならば、代わりに奴の弟子である貴様らと、奴が守ろうとしたものを破壊するまでよ!!」

 

ヒュンケルは、怒気を立ち上げて俺を睨んでいる。

 

「ポップ! 本当に、こいつ、魔王軍なの!? じゃあ、この町をこんな風にしたのは……」

 

「ヒュンケル、どうしてなの!? アバン先生が一体何をしたって言うの!?」

 

ヒュンケルは、そのマァムの問いに答える。育ての親バルトスを殺したのがアバン先生で、それがために、アバン先生の命を狙っていたと。そして、今では自分こそがこのパプニカ王国を滅ぼした魔王軍六大軍団長の一人、不死騎団長ヒュンケルだと。

 

 

 

「もはや語る言葉はない! 貴様らは、今ここで始末する!」

そう言って、剣を抜き放ち俺達に襲いかかってくるヒュンケル。その狙いは、どうやらまず俺か。まあ、あれだけ煽ったからな。そりゃあ、俺を最初に狙ってくるだろう。

 

「ポップ、下がって! させるかー!」

ダイが鋼の剣を抜刀し、ヒュンケルと刃を交える。そのまま2人は激しい剣戟を繰り広げる。だが、やはりヒュンケルの剣技がダイを圧倒しているようだ。大地斬も海波斬も通じず、次第に追い込まれていくダイ。マァムは、同じアバンの使徒同士で戦うことに抵抗があるのか、戦闘に参加していない。まあ、マァムはそれでいい。それがマァムの良いところだ。

 

「ダイ、下がれ!」

俺の言葉にダイが咄嗟にヒュンケルと距離を取る。それを確認した俺は、即座に魔法を放った。

 

「――閃熱呪文(ベギラマ)!」

 

しかし、魔法による攻撃を予測していたらしいヒュンケルは、その閃熱呪文(ベギラマ)の熱線が自身に迫って来るのを確認すると、ただ一言呟いた。

 

「……鎧化(アムド)

 

その言葉が発せられた途端にヒュンケルの全身を鎧が包みこむ。そして、フルプレートの鎧に包まれたヒュンケルは、無造作に俺の閃熱呪文(ベギラマ)をその身に受ける。

 

閃熱呪文(ベギラマ)が、その鎧の胸部に直撃するも、まるで弾かれたように細かな粒子となって後方に飛び去っていく。

 

なるほど、あれが『鎧の魔剣』の魔法防御力か。

俺は、『鎧の魔剣』が魔法をほとんど通さないことは原作知識で知っていたが、それがいかほどの物かを実際に確かめたくて、先ほど閃熱呪文(ベギラマ)を放っていた。

 

結論から言うと、『魔法が完全に通じないと言うわけでは無さそうだけど、そのためにはとんでもない魔力量が必要そうだから、正攻法は非効率』という感じか。

 

まあ、最初から力押しをするつもりは無かったから、別に良いんだけどね。やはり、攻めるなら中身の方か……。

 

「無駄だ。俺のこの『鎧の魔剣』は、いかなる魔法も通さん。魔法使いでは俺に傷一つつける事は出来んぞ」

 

ヒュンケルはそう言って、『鎧の魔剣』の性能を自慢する。まあ、そんな事はどうでも言い。確認したいことも確認できた。ここからは、俺の仕事だ。

 

俺は、前衛で剣を構えているダイの更に前に出て、ヒュンケルに話しかけた。

 

「なあ、ヒュンケル。俺と1対1の勝負をしないか? 互いに何かを賭けてさ」

 

「何? 俺と貴様がか? クックック、ハーハッハッハ! 貴様、先ほどの俺の話を聞いていなかったのか? 俺の鎧には、いかなる魔法も通じぬ。魔法使いの貴様では勝ち目など無いではないか!」

ヒュンケルが、いかにも俺を頭の悪い奴という目で見て嘲笑する。

 

「じゃあ、俺からの勝負は受けないのか? お前の方が圧倒的に有利なのに、尻尾を巻いて逃げ出すのか? それが、お前が育ての父バルトスから受け継いだ戦士の魂なのか?」

俺のこの安い挑発に案の定、ヒュンケルは目をギラッと光らせ俺を見た。

 

「貴様……。我が父バルトスを侮辱するか? ……良いだろう、それほど死にたいのならその勝負受けてやろう!」

 

よし、乗ってきた。

 

「よし。なら、賭ける物を決めておこう。俺が勝てば、お前には24時間俺の言うことを何でも聞いて貰おう。お前はどうする? お前が勝てば、俺にどうして貰いたい?」

 

「ふ……。下らん賭けだ。俺が勝った時には、お前は既に死んでいるでは無いか。……だが、そうだな。ならば俺が勝てば、お前は生死にかかわらず魔王軍に連れて行こう。ザボエラ辺りがずいぶんとお前に執着していたからな」

 

「決まりだな。なら、その賭けの履行は、俺は亡きアバン先生の魂に懸けて誓う。お前は、亡きバルトスの魂に懸けて誓って貰うぞ」

 

負けてからそれは無しよ、だなんて事は認めんからな。まあ、さすがにこの男ならそこまで見苦しい真似はしないだろうが、念のためだ。

 

「……良いだろう。結果の分かっている勝敗に父の魂を懸けるなど、本来はしたくないが、今回だけだ。父も許してくれるだろう」

 

良し、言質は取った。後は、勝つだけだ。と、思っていたらダイとマァムが慌てた様子で俺に詰め寄ってきた。

 

「ポップ! いきなり何言っているんだよ! 1人であいつの相手をするなんて、無茶だよ! 一緒に戦おうよ!」

 

「そうよ、ポップ! 何勝手に話を進めているのよ! あの鎧を見たでしょう。いくらあなたでも、あの鎧を纏ったヒュンケルに勝つのは無理よ!」

 

2人の心配は良く分かる。だけど、これは、これだけは俺がやると決めていたんだ。

 

「ごめん、2人とも。ヒュンケルの事は、アバン先生から託されていたことなんだ。だから、これだけは、俺にやらせてくれ。絶対に勝ってみせるから。……俺を信じてくれ」

 

「アバン先生から……」

 

アバン先生の名前を出したことで、ようやくダイの引き止めが緩んだ気がする。しかし、マァムはまだ納得出来ていない様子だな。

 

「で、でも負けたら魔王軍に連れて行かれちゃうって……。そんな事になったら、私……」

マァムが心配そうに俺を見ているから、精一杯安心してもらえるよう俺はマァムの手を握って言った。

 

「大丈夫。勝算はあるんだ。何と言っても、アバン先生が対ヒュンケル用に俺に授けていてくれた策だ。俺を信じなくても良いから、アバン先生を信じてよ」

もちろん、アバン先生からそんな策は貰っていない。だけど、ここはアバン先生に対するマァムの信頼を逆手に取らせて貰った。すまない、マァム。

 

「アバン先生が……。……分かったわ。私、アバン先生も、ポップの事も信じているから、絶対に勝ってね」

 

「ああ、もちろんだ」

 

ようやくマァムも承知してくれた。ダイとマァムは心配そうに後ろに下がっていく。

そんな2人を見ながら、俺はヒュンケルの前に足を進めた。

 

 

 

 

「ふん。別れは済んだのか? 今からでも、3人でかかってきても俺は一向にかまわんのだぞ?」

 

ヒュンケルは、ニヤニヤとした笑みを浮かべて俺を見下ろす。こいつ、本当に敵対している時は腹立つ顔するよな。無駄にイケメンだし。

 

「冗談だろ? 1人で勝てる相手に、どうして3人で挑む必要があるんだよ。……1つだけ忠告しておくぞ、ヒュンケル。たとえ魔王軍に所属していても、お前がただの人間であることには変わりは無い。お前が人間を辞めない限り、俺には勝てないぞ」

 

「ほざくな、小僧!」

 

ヒュンケルが激高し剣を構えて俺に向かって突進してきた。

 

さあ、やってみますかね! 

 

『ヒュンケルの説得 その1』ってやつを!

 

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