転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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64話 ポップ VS ヒュンケル

ヒュンケルが俺に向かって突進してくる。それに対して俺は、飛翔呪文(トベルーラ)で後方に飛翔し距離をつめさせない。

俺の飛翔呪文(トベルーラ)での移動速度は、ヒュンケルの突進速度を上回っているから、それは問題ない。

さすがに俺も、ヒュンケル相手に接近戦で勝てるとは思っていないからな。

まあ、こちらから勝負を挑んだくせに、逃げ回っているように見える事に若干思うところはあるが、俺は後衛タイプなんだからそれは仕方ないと割り切っておこう。

 

幸い、ここは城の廃墟の中でも、周りに遮る物があまりないちょっとした広場の様になっている。俺が飛翔呪文(トベルーラ)で飛翔するのに大きな障害がなく、それだけは有利な点だ。

 

俺は、後ろ向きに飛翔しつつ、ヒュンケルに閃熱呪文(ギラ)を数発速射で放つ。しかし、案の定その閃熱呪文(ギラ)はヒュンケルの鎧に弾かれ後方に熱線のみが空しく飛び去っていく。

 

だが、その隙に俺は氷系呪文(ヒャド)を放っておいた。俺の放った氷系呪文(ヒャド)は、ヒュンケルにではなく、その手前の地面に着弾し、途端になめらかな氷の膜が出現する。そう、以前ザングレイと戦った時と同じ戦法だ。

 

しかし、ヒュンケルはその氷の膜に足を踏み入れた瞬間、一瞬バランスを崩すもザングレイのように横倒しになること無く、そのまま俺に向かってきた。

やるな、ヒュンケル……。ザングレイとは、体幹の鍛え方が違うと言うことか。

 

「チョロチョロとこざかしい! ――これで!」

 

俺を追いかけていたヒュンケルが、手に持った剣を振りきった。

何だ? 剣の届く間合いじゃ無いぞ、ここは。

 

と思っていたら、突然ヒュンケルの剣が、蛇腹状に変化し長い鞭のようにしなった。そして、それは空中にいる俺の体を拘束しようと周囲を取り囲んできた。

 

――ヤバッ! ヒュンケルの剣にはこれがあったか!

 

俺は即座に自身の周囲に円柱状の氷系壁呪文(アイスウォール)を構築し、蛇腹が直接俺の体に触れないようにした。

 

ガリガリガリ!

 

氷が剣に削られる嫌な音が響く。俺は、周囲を取り囲んだ氷が圧壊する前に、その蛇のように巻き付いた蛇腹剣の腹の中から飛び出した。

 

直後、俺の氷が完全に圧壊され粉々に砕け散った。危なかった……。

 

そして、再びヒュンケルと距離を取って俺は地表に降り立った。ヒュンケルは悔しそうに蛇腹を元の剣に戻し、再び構えた。

 

「ふん……。威勢の良いことを言っていた割には、逃げ回るばかりではないか。そんな有様でよくも俺に勝負を挑んだものだな」

 

うーん、耳が痛い。本当だったら、氷の膜で足を滑らせたら、そのまま地面に氷で縫い止めようと思っていたんだけどな……。

 

ふと、ダイ達の方に目をやると、2人とも俺の事を心配そうに見つめている。おいおい、マァムは右拳から炎が吹き上がっているじゃないか。多分無意識の行動なんだろうけど、このまま劣勢じゃあ、そのうち我慢できずに乱入してきそうだな。

 

よし、次はもう少し攻撃的に行く事にしよう!

 

「――氷系呪文(ヒャダイン)!」

 

俺は、先手必勝とばかりに右手で氷系呪文(ヒャダイン)の魔法を唱えた。途端にヒュンケルの上空に巨大な円錐状の氷の塊が構築される。俺は、氷結系魔法は単純に氷雪を発生させるだけでなく、氷の塊を構築させるという使い方も出来る。今回は、巨大な氷の塊をヒュンケルの上空に作り出した。

 

「――何!?」

 

突如として自身の上空に出現した巨大な氷の塊に、ヒュンケルが驚愕の表情を浮かべる。この氷結魔法の発現速度に、俺は絶対の自信を持っているんだよ!

 

俺は、その巨大な氷の塊をヒュンケルの頭上からたたき落とした。いくらその鎧が魔法の効果を遮断するといっても、物理現象までは防ぎきることは出来ない。氷の質量で押しつぶしてやる!

 

「――くっ!」

 

ヒュンケルは咄嗟にその巨大な氷塊を受け止めようとするが、俺は左手で爆裂呪文(イオ)を放ち、ヒュンケルの足下の地面を爆球で吹き飛ばした。

 

突如足下を崩されたヒュンケルは、落ちてくる氷塊を受け止めることが出来ず、そのまま氷塊の下敷きとなった。

 

「――ガハッ!」

 

さすがにあの大きさの氷の塊に潰されると、ダメージが入ったんだろう。ヒュンケルは、苦悶の声をあげた。

 

俺は間髪を入れず、次から次に巨大な氷塊を倒れたヒュンケルの真上に作り出し、それを次々にたたき落とした。

 

そして、俺は更に両手を突き出し、その氷塊の上に水球を次々と作りだし、それも投下していった。これで氷塊と氷塊が水で接着され、より強固な氷の塊となるはずだ。

 

どれほど続けただろう。ヒュンケルの上に、氷塊が山のようにうず高く積み重なった。

 

どうだろう? これで重さに耐えきれなくて失神していてくれると俺の勝利になるんだが……。

 

俺がそんな事を考えていたら、氷塊の山が下から押し上げる何かによって徐々に崩れていった。

 

まあ、そうだよな。マグマに飲み込まれても死ななかったぐらいだ。氷塊ごときで死ぬはずないよな。

 

俺が氷塊の山が崩れていく様子を見つめていると、ヒュンケルがその氷塊を持ち上げて起き上がってきた。鎧の魔法防御力によって、ある程度の冷気は遮断されているんだろうが、それでも白い息を吐きながら息も絶え絶えの様子だ。

 

「ハァッ、ハァッ! ふざけた真似を……。 もはや許さん! ――闘魔傀儡掌!」

 

――!

 

ヒュンケルの突き出した左手から発せられた闘気状の闇の糸が、俺の体を拘束し、同時に激痛が体中を駆け巡った。

 

「がぁっ! くっ、う、うあぁー!」

 

くっ、これは、とんでもない痛みだ! まるで体中を黒い電流が流れているようだ。頭がスパークして、何か考えるどころではない。

 

「ようやく捉えたぞ。こざかしい魔法使いめ! さあ、次はこの技で引導を渡してやる!

 

そして、ヒュンケルは、手に持った剣の切っ先を俺に向け、右手で突きの体勢を取った。

 

――いけない、あの体勢は! 俺は全身を襲う痛みに必死に耐えながら、ヒュンケルの放つ次の攻撃に意識を集中した。

 

「死ね! ブラッディースクライド!!」

 

やはり、その技か!

 

ヒュンケルの突きの体勢から放たれたその技は、ヒュンケルがアバン先生を殺すために身につけた必殺剣だった。凄まじい程の闘気の渦が俺目がけて押し寄せる。クロコダインの獣王痛恨撃より、その影響範囲は小さい。しかし、その分貫通力が増していることは明白だった。

 

その瞬間、俺の視界にダイとマァムが俺を助けようと、こちらに飛び出してきている姿が映った。駄目だ、まだ乱入してくれるな。

 

 

 

――俺はまだ負けていないのだから。

 

 

 

即座に俺は飛翔呪文(トベルーラ)を使って空に飛翔し、ヒュンケルの放ったブラッディースクライドから際どいところで逃れた。

 

「何!? 闘魔傀儡掌から何故!?」

 

ヒュンケルが、空に逃れた俺を見て驚愕の声を上げる。そう、俺はギリギリの所で闘魔傀儡掌による拘束から逃れ、そのおかげで続く必殺剣ブラッディースクライドの直撃から逃れることが出来た。

 

それは、仕掛けておいた保険が、かろうじて機能したおかげだった。

 

そう、俺は先ほど氷塊に浴びせた水球の中に、幻惑呪文(マヌーサ)の成分を混入しておいた。そのため、ヒュンケルは自分でも知らぬうちに幻惑呪文(マヌーサ)の幻惑にかかっており、俺を闘魔傀儡掌で四肢を拘束したと思いながらも、実際は片足を拘束していたに過ぎなかった。

まあ、片足からでも十分電撃が走ったような痛みは伝わったけどね!

 

ブラッディースクライドを躱した俺は、そのままヒュンケルに肉薄した。

 

必殺剣ブラッディースクライドを放った体勢のまま、まだ次の動作が取れずにいるヒュンケル。

 

――大技を放った直後は隙が出来るもんだよなぁッ!!

 

俺は飛翔呪文(トベルーラ)で一瞬のうちにヒュンケルの正面に移動し、飛翔中に創成した氷の棍でその頭部を覆う兜を弾き飛ばした。

 

「――くっ!」

 

兜を飛ばされ、ヒュンケルの悔しげな表情が露わになる。こうなると、俺の攻撃手段は何でも取れる。催眠水球呪文(ラリホーボール)を直撃させ眠らせても良い。火炎魔法でそのイケメン顔を燃やしてやっても良い。氷結魔法でその頭部を串刺しにしてやっても良い(殺してしまう事になるが)。

 

ヒュンケルがどう動こうと、それより早く俺は魔法を発現させられる。ヒュンケルも、ここまでの戦いで俺の魔法発現の速度が分かっているのだろう。一撃を食らうことを覚悟した目で、俺を睨み付けていた。

 

 

 

……そして、俺が選択した攻撃手段は、右拳による殴打だった。

 

「――がっ!」

 

魔法による攻撃ではなく、闘気も全く纏っていない俺の右拳にその左頬を殴られたヒュンケルは、後方に倒れ込んだ。

 

しかし、直ぐにヒュンケルは起き上がり、後方に大きく下がって俺から距離をとった。

 

 

 

……拳で殴りかかるなんて、この世界に来て初めての経験だな。前世を含めても、小学生の時にした同級生との喧嘩以来だ。思ったより、殴りかかった自分の方の手が痛いもんなんだな。

 

そんな事を考えながら俺は、足下に転がるヒュンケルの兜を拾って、俺から距離を取ったヒュンケルに放り投げてやった。

 

放り投げられた兜を受け取ったヒュンケルは、俺の事を信じられないという目で見ている。

俺達の戦いに乱入しようとしていたダイとマァムも、遠巻きに俺の事を呆然と見つめている。

 

「……何の真似だ、貴様? 何故先ほどの千載一遇の好機をみすみす見過ごした?」

ヒュンケルが、先ほどの俺の行動を訝しげに問いかける。

 

「貴様じゃない。俺の名前はポップだ。よく覚えておけ。それとな、俺は一度だけはお前を魔法ごしじゃ無くて、直接この手でぶん殴ってやりたかったんだよ。今の一発は、俺からの一発じゃ無くて、アバン先生からの愛の一発だと思え」

 

そう、俺はアバン先生の心の内を知ろうともしなかったヒュンケルを、どうしても直接ぶん殴ってやりたかったんだ。この大馬鹿者の兄弟子を。

 

「……一発殴ってみたかっただと? お前は、それだけの為に先ほどの好機をドブに捨てたのか? 信じられん愚か者だな。もはや俺に油断はない。お前に勝機は無くなったぞ」

ヒュンケルが、俺の渡した兜を再び頭に被り、俺を殺気の籠もった目で睨みつける。

 

「勝機が無くなった? さっきも千載一遇の好機がどうのこうのと言っていたな? 千年に一度しかお前に勝てないってか? 自惚れるなよ。いくらその鎧を纏っていたって、お前に勝つ方法は少なくとも7つは思いつくんだ。……今からそれを証明してやるよ」

 

 

 

俺の纏う気配が変わったことに、ヒュンケルは気が付いたのだろう。俺に対して再び剣を構え身構えた。

 

俺は、初めて使う魔法に意識を集中した。……よし、いけるはずだ。

 

「これで終わりだ、ヒュンケル。 ――火炎呪文(メラゾーマ)!!」

 

その言葉と共に、俺の右手の周りに圧倒的な熱量の火の塊が発生する。その熱量に満足した俺は、その火の塊をヒュンケル目がけて放った。

 

「ふっ。何をするかと思えば下らん。たかが火炎呪文(メラゾーマ)では無いか! そら、お前達の愛するアバンの技で迎撃してやろう。 ――海波斬!」

 

ヒュンケルが、俺の放った火炎呪文(メラゾーマ)に対してアバン流刀殺法 海波斬を放つ。しかし、その衝撃波が火炎に届く前に、その火炎は次第に姿を変えていった。

 

そう、火炎はいつしか、『火の鳥』に姿を変えていた。これが、俺がまぞっほの助言によってたどり着いた、俺だけの火炎呪文(メラゾーマ)の最終形だ。

 

「――行け、火炎呪文(フェニックス)! その馬鹿の目を覚ましてやれ!」

 

俺は、火の鳥を海波斬の衝撃波と衝突する寸前、きりもみ回転させ衝撃波を躱させた。そして、当然俺自身も海波斬の射線上から逃れた。このポップ、同じ失敗はしないのさ……!

 

「何!? 火炎が避けただと!?」

何を驚いているんだ。俺は氷結呪文(ヒャダルコ)にも誘導機能を搭載したんだぞ。この火炎呪文(メラゾーマ)、いや、火炎呪文(フェニックス)にも誘導機能は搭載して当然だろう。

 

驚くヒュンケルに、俺の放った火炎呪文(フェニックス)が着弾する。途端に、紅蓮の炎に包まれるヒュンケル。常人なら着弾した時点で灰になりそうなほどの熱量だが、さすがは鎧の魔剣だ。その圧倒的な熱量にも耐えきっている。

 

「く、くくくく。惜しかったな。確かに、この火炎呪文(メラゾーマ)の威力は大した物だ。ここパプニカを滅ぼした時にも、これほどの火炎魔法の使い手はいなかった。俺がこの鎧を纏ってさえいなかったら、お前の勝ちだったと認めてやってもいい」

 

「別に認めてくれなくてもいいさ。その鎧を纏っていても、俺の勝ちなんだから。何か、勘違いしていないか? 俺の火炎呪文(フェニックス)は、まだ終わっていないぞ?」

 

そう、俺の火炎呪文(フェニックス)はまだ煌々とヒュンケルを紅蓮の炎に包み込んでいる。その炎の勢いに陰りは一切見えない。

 

「何? む、な、何故炎が消えない? これほどの長期間燃え続ける火炎呪文(メラゾーマ)など、聞いたことが……」

 

「そりゃあ、その火炎呪文(メラゾーマ)火炎呪文(フェニックス)だからな。火炎呪文(フェニックス)ってのは、死してなお再び蘇る、無限の命の持ち主なんだぜ? そら、更に炎の勢いが増しているぞ」

 

「ば、馬鹿な――! そんな火炎呪文など……!?」

 

俺の言葉と共に、着弾時以上に燃えさかる火炎呪文(フェニックス)。そう、俺が火炎呪文(メラゾーマ)にフェニックスと名付けた理由がこれだ。

 

俺は、火炎呪文(メラゾーマ)を構成する呪文に誘導機能を付与しただけでは無く、術者とのリンク機能も付与していた。つまりこの火炎呪文(フェニックス)は、たとえ俺の手を離れても、いつでも俺の意思でその火力を上下させ維持することが出来る。

 

ただ、火炎呪文(フェニックス)発動中は常に一手を拘束されることになるから、両手を用いても最大で同時に2発までしか放てない事が欠点だが、リンク機能を付与しない火炎呪文(フェニックス)(通常型メラゾーマ)なら何発でも放てるので、ケースバイケースで使い分けが出来る。

 

「ちっ! ど、どれほど火力が続こうが、この鎧に魔法が通じないのは変わら――!?」

そこまでヒュンケルが口を開いたところで、途端にヒュンケルが喉を押さえて苦しみだした。

 

「うっ! こ、これは――! き、貴様! い、一体何を――」

 

やれやれ、ようやく効いてきたか。あまりに効いた様子がないから、こいつ本当に人間じゃないのか不安に思い始めた所だったぜ。

 

「最初に言っただろう。お前が人間を辞めない限り、俺には勝てないってな。俺は、お前のその鎧を攻略対象として見ていない。見ていたのは、最初から人間であるお前だよ」

 

「……ど、どういう事、だ?」

 

「人間が生きていくためには、空気中に酸素が含まれている必要がある。だけど、今お前の周囲には炎が燃えさかっていて、その必要な酸素がどんどん喰らい尽くされている。つまり、お前は酸素欠乏症になって俺に敗れるのさ」

 

「そ、そんな、馬鹿な、事が……」

 

膝をつき、真っ青な顔でうつろな目になっていくヒュンケル。

 

「ゆっくり眠ると良いさ。ただし、次に目覚めた時には、俺の言葉には従って貰うからな」

 

俺のその言葉を聞いたのか聞かなかったのか、とうとうヒュンケルはその目を閉じてうつ伏せに倒れ込んだ。

 

その直後、ヒュンケルの纏っていた鎧の魔剣が、勝手に装備から外れた。

 

俺は、それを見て慌てて火炎呪文(フェニックス)を解除した。そして、念のためにヒュンケルの頭部に睡眠水球呪文(ラリホーボール)をバシャバシャとかけておいた。

 

これで、しばらくは目を覚まさないだろう。

 

さあ、次は『ヒュンケルの説得 その2』だな。頑張ろう。

 

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