明るい日の光が、俺達の野宿した城の一角に差し込む。不死騎団によって城が破壊されているため、屋根が無い分ダイレクトに日の光を感じる。
今日の正午、俺達は地底魔城でヒュンケルと再び対峙することになる。ヒュンケルを説得するための手は既に尽くしている。後は、あいつがどう決断するかだ。
俺が、日課にしているアバン流棍殺法の型を一通りなぞり終えてダイとマァムの所に戻ると、2人共もう起き上がっていた。
「おはよう、ポップ。昨日の疲れはない?」
「ああ、問題ないよ。マァムも良く眠れたか?」
「ええ、眠れたわ」
そういうマァムの目が少し腫れていることに俺は気が付いたが、俺はそれには何も言わずにおいた。昨日、ヒュンケルが俺達のもとを去ってから、ずっとあいつの事をマァムは気にしている様子だった。マァムは優しいからな。ヒュンケルの生い立ちを知って、放っておくという事ができないんだろう。
「おはよう、ポップ」
「ああ、おはよう、ダイ」
ダイは素振りをしていたようで、少し上気した顔で現れた。ダイは、昨日のヒュンケルとの戦いでまだヒュンケルに簡単にあしらわれている様子だった。いくら船上で修業を行ったとはいえ、一朝一夕で歴戦の戦士であるヒュンケルの剣術に追いつくのは難しいのだろう。
「……地底魔城、何処にあるんだろうね?」
ダイが遠くの景色を見つめながらつぶやく。
「多分あれじゃないのか? なんとなく雰囲気があるじゃないか?」
俺は遠くの方に見える丘を指さす。俺も初めて見るからよく分からないが、丘の上に人工の構造物が見えるから、おそらくあれだろう。
「ヒュンケルは、あそこにいるのね……」
マァムがそう呟いた。
一晩考えた結果、あいつはどんな選択肢を選んだんだろうな。
「おーい、君達ー! こんなところでなーにをしておるんじゃ!?」
俺達の耳に、その声が聞こえてきたのは、そんなタイミングだった。
~~~~地底魔城~~~~
「ヒュンケル様。不死騎団を解散されるとおっしゃられましたが、一体……」
「許せ、モルグ。俺は現時点をもって、不死騎団団長の座を降りる事にする。お前には世話になった……」
ヒュンケルは、自身の腹心とも言ってよかったモルグと言う名のアンデッドに声を掛けた。意思の疎通が困難な自身の軍団の中でも、モルグだけは直接意思を交わすことができる存在だった。
そのおかげで、人間と会話が出来ない立場となっても、モルグと会話を交わすことで彼はこれまでどうにか平常心を保つことが出来ており、モルグに対しての感謝の念がヒュンケルの胸中にはあった。
「そのようなお言葉、もったいない事でございます。不死騎団の兵は、私も含めてもともと人としての生を終えた者の集まり。ヒュンケル様が団を解散されるとおっしゃられるのでしたら、我々もそれに従うまでにございます」
「そうか……」
ヒュンケルは、このモルグという名のアンデッドの過去に今更ながらに興味が湧いたが、それも今更か、と思った。もうじき、自身もこの世界に別れを告げる事になる。ヒュンケルは自身の犯した罪を自覚していた。師であるアバンを憎むばかりか、無関係であったこのパプニカの国まで滅ぼした。大勢の人間を、直接あるいは間接的に殺めてしまった。
自身に怨嗟の声を上げているのは死んだ兵士だけではないだろう。兵士の妻、息子、娘といった家族も皆自身を恨んでいる事だろう。
昨日あの男、ポップはその罪を自分も背負おうと言った。マァム、ダイもだ。
……駄目だ。そんな真似はさせられない。彼らには、何の罪咎を負うべき理由もないのだ。愚かだったのは自分1人。彼らには、誰にも後ろ指を指されない王道を歩んでほしかった。
今少し早くあの言葉を聞けてさえいれば……。ヒュンケルの胸の内に悔恨の念が湧いてくるが、それも含めて自身の運命だったのだろうと考えた。
そろそろ日が最も高く昇る時刻になるだろう。ヒュンケルは、鎧の魔剣を手に携え、彼らアバンの使徒を迎え討つために、地上へと足を進めた。
その後ろ姿を、モルグたち不死騎団の者が頭を下げて見送っていた。
「あそこじゃ。あれがやつら不死騎団の本拠地じゃ」
バダックさんが、地下に続く螺旋階段上の構造物を見下ろしながら俺達にそう言った。
「ありがとうございます、バダックさん。おかげで迷うことなくここまで来れました」
「助かりました、バダックさん。後は私達だけで行きますので、バダックさんは先にお城に戻っていてください。私達も後から向かいますから」
俺達は口々にバダックさんにお礼を述べた。今日の朝、俺達のもとに現れたのは、この高齢の剣士バダックさんだった。俺はもちろん、原作知識でこの人を知っていたが、多少日時と場所が原作と異なっていると思っていたから会えて驚いた。原作通り、高齢とは思えないほど元気いっぱいで、とても楽しい御仁だ。俺、こういう人大好きだな。早くおっさんを交えて3人で飲みたいな。
このバダックさんに会えたおかげで、レオナ姫がパプニカが誇る3賢者に守られているという情報が手に入り、ダイが安心してくれたから良かった。
まあ、3賢者に守られているという事がどこまで安心できる情報かなと思わないでもないが、空気を読んで俺は何も言わなかった。
「うーむ、しかしお主達が、これから不死騎団の団長との決戦に行くと言うのに、ワシだけ安全な所で待機と言うのも……」
バダックさんは、そう言って俺達と一緒に付いていきたそうにしているが、俺達はそれを丁重に断った。
「そのお言葉だけで十分ですよ、バダックさん。この地下迷宮は、大勢で潜り込むと、敵に見つかってしまいそうです。ここは、連携の取れる少人数だけで忍び込むのが良いと思います。どうか、先に城まで戻っていてください」
「……うーむ、あい分かった。ワシも姫様が信じたダイ君やその仲間の力を信じるとしよう! 気を付けて行ってくるんじゃぞ」
ようやくバダックさんは納得して、お城に向かってくれた。
「さあ、行こう! ヒュンケルが待っているからな」
俺の言葉に、ダイとマァムが無言で頷いた。
~~~~地底魔城内 闘技場~~~~
「こ、ここは……」
「ピィィィー」
ダイとゴメが不安そうな声を上げる。俺達は地底魔城に潜りこんだつもりだったが、知らぬ知らぬうちに青空が頭上に広がる闘技場にたどり着いていた。
俺達は地底魔城に潜入後、不死騎団の魔物に追い立てられまくった。そちらが招待したんだから、きちんと案内しろよなと思いはしたが、魔物達は行く先々で通せんぼをしたりするだけで攻撃をしようとはしなかったので、途中からその意図が読めた。
やはりヒュンケルは原作通り、俺達を地底魔城内の闘技場に誘導しようとしている、と。
「ここは、闘技場だな。アバン先生から聞いたことがある。かつて魔王ハドラーが、捕えた人間と魔物をここで殺し合わせていたってな」
俺は闘技場の地面に手を突いて、ダイ達にこの場所の説明をする。闘技場内の土の下からは人間や魔物の骨らしきものが埋まっている。
「その通りだ! よく来たな、アバンの使徒どもよ!」
突然、俺達の頭上にある観客席らしきところから、俺達に声が掛けられた。来たな、ヒュンケル。
「「ヒュンケル!」」
ダイとマァムがヒュンケルを見上げて声を掛ける。
しかし、その声を無視してヒュンケルはゆっくりと観客席内の階段を下りてきて、やがて俺達と同様に闘技場の土の上に降り立った。
「ヒュンケル! もうやめましょう! 私達が殺しあう必要は、もうないはずでしょう!?」
「そうだよ、ヒュンケル! 誤解はもう解けただろう! これからは、一緒にアバンの使徒として魔王軍と戦おうよ!」
マァムとダイがヒュンケルにそう呼びかけるが、既に完全武装で現れているヒュンケルにその声が届いているのかいないのか、その素顔が鎧に隠されていて分からない。
少なくとも分かっているのは、今のヒュンケルからは燃え上がるような闘気が立ち昇っているという事だけだ。
「俺は魔王軍 不死騎団団長 ヒュンケル! 父の言葉を聞いたとは言え、今更生き方を変えることなどできぬ! さあ、死にたくなければ全力で抗ってみるのだな、アバンの使徒共!」
闘技場に降り立ったヒュンケルは俺達を一瞥し、そう声を張り上げた。
「そんな!」
「ヒュンケル、どうして!」
……ヒュンケル、それがお前の答えか。……アバン先生、俺ではヒュンケルを翻意させることが出来なかったようです。……すいません。
……ん? ヒュンケルの目が、昨日の去り際に見た際のように、澄んでいるように見える。少なくとも、俺と戦っていた時のように荒んだ目をしていない。
ヒュンケルは既に頭部の剣を兜から取り外し、いつでも俺達に切り掛かれる体勢を取っている。もしかして、ヒュンケルは……。
そう考えた俺は、ダイに声を掛けた。
「ダイ。ヒュンケルはやる気のようだ。どうだ? 昨日は俺が1人でヒュンケルと戦ったけど、今日はダイ、お前1人で戦ってみないか?」
「え!? 俺1人でヒュンケルと!?」
「ちょ、ちょっと、ポップ! 何言っているのよ! ダイだけで戦わせるなんて、無茶よ!」
俺はマァムの驚きはことさらに無視して、もう一度ダイに問いかけた。
「そうだ。ダイ1人でヒュンケルと対峙してみないか? 俺は昨日やったぜ? 次はダイがやってみても良いんじゃないか?」
「俺が、1人で……」
ダイは俯きながら俺のその言葉の意味をかみしめている。「ちょっと、ポップ」とマァムが俺の服をつかむが、俺はダイの様子だけ見ていた。
そして、ダイが顔を上げて俺に意を決した様子で言った。
「うん、俺1人でヒュンケルと戦ってみるよ。ポップに追いつくためには、ポップがやったのと同じことを俺が出来なくちゃいけないもんね。やってみるよ!」
「その意気だ、ダイ。なに、無理そうだと思えば助けを求めると良い。相手は、お前以上にアバン流刀殺法を究めた男だ。全力でぶつかっていけ!」
「うん、分かった!」
「……話はついたのか? 俺としては、何人が相手でも構わんが。……だが、向かってくる以上、手加減は一切せんからな!」
ヒュンケルは俺達にそう言い放ち、攻撃の態勢をとる。
俺はマァムの背中を押しながら、闘技場の端まで移動した。
「ちょ、ちょっと、ポップ! どうしてあんな無茶な事を言ったのよ! きちんと説明してよ!」
「まあまあ。見ていれば分かるって。ゴメも、そこにいたら危ないから早くこっちに来な」
俺はマァムを宥めながら、2人の様子に目を凝らした。
「本当に良いんだな、仲間の助けが無くて」
「うん、ポップもやった事だ! 俺だってやってみせるさ!」
ヒュンケルは、一瞬だけ闘技場の隅まで移動したポップを見た。あの男は、俺の狙いを察したようだ。小賢しいが、確かに頭の切れる男だ。昨日は、その小賢しい頭脳に不覚を取ってしまった。確かに腕の立つ魔法使いと認めよう。しかし、魔法使いだけではこれからの闘いを切り抜けることは出来ない。魔王軍との戦いを勝ち抜くためには、勇者の力が絶対的に必要だ。
ヒュンケルは、目の前のダイと言う名の子供は、まだアバンの指導をほとんど受けていないと看破していた。素質は認めるが、技術が圧倒的に足りない。
ヒュンケルは、自身のこの世での最後の役割を果たすべく、ダイに切りかかる。
「よく言った! では、自身の吐いたその大言を後悔しながら死んでいくがいい!」
ヒュンケルが剣を振りかぶってダイに突進する。そして、ダイも同じく手に持った鋼の剣を握り直してヒュンケルに相対する。
そして、2人のぶつかり合いが始まった。
ヒュンケルの剣がダイの剣を的確にさばき、そうしてダイが体勢を崩した隙に次々と傷を負わせていく。
「どうした、ダイ! それでも勇者か! そのような力任せの攻撃では、敵に攻撃の意図を読まれ反撃されるだけだぞ!」
「くっそー! まだまだー! くらえ! ――海波斬!」
「甘い! ――海波斬!」
互いの放った海波斬の衝撃波がぶつかり合う。しかし、ダイがその間足を止めているのに対して、ヒュンケルは既に次の行動に移っている。
衝撃波の衝突が収まるか収まらないかのタイミングでヒュンケルは、ダイの側面に移動し切りかかる。
「そら、どうした! 戦いでは2手、3手先を読んで動かねば敵に攻撃される一方だぞ! 勇者と言ってもその程度か!」
「――くっ!」
「ねえ、ポップ……。あれって……」
マァムが2人の闘いの様子を見て、俺につぶやくように問いかける。
「ああ、指導だよ。ヒュンケルは、ダイに剣術の指導をしているのさ……」
「じゃあ、ヒュンケルはもう、魔王軍に戻るつもりはないのね! この戦いが終わったら私達と一緒に魔王軍と――」
「それはどうかな……」
「どういう事? ヒュンケルは、ダイを鍛えようと思ってあんな事をしているんじゃないの?」
マァムは、俺の言葉に訝しげな表情を浮かべる。
「ヒュンケルが、ダイを鍛えようとしているのは間違いないよ。だけど、ダイを鍛えた後、あいつが生きていようと考えているとは言い切れないって事さ……。多分、あいつはアバンの使徒の先達として自身の持てる剣術の全てをダイに伝えて、その後死のうとしていると俺は思うよ……」
「――そんな! そんな事、どうして!」
マァムは俺の言葉に悲壮な表情を浮かべる。
俺には分かるよ、ヒュンケルの気持ちが痛いほど。やはりあいつは、罪の意識にさいなまれているんだろう。
無理もない。あいつの根は優しくて、その上くそ真面目な男だという事を俺は知っている。多くの者を死に追いやっておいて、自分だけのうのうと生きていることを良しとしないんだろう。
さて、どうしたものかな……。
「これなら、どうだ! ――闘魔傀儡掌!」
「――! うわあー!!」
――! 闘魔傀儡掌か。ヒュンケル、本気だな。本気でダイを導こうとしている。
「ダイ! それは暗黒闘気だ! 光の闘気を放つことでしかそれから逃れる事は出来ない! 光の闘気で対抗するんだ!」
俺はダイに大声を張り上げた。俺も昨日、その技を喰らったから分かる。完全に拘束されてしまえば、光の闘気を放つことでしか逃れられないやっかいな技だ。
「無駄だ! 俺の闘魔傀儡掌は、既に貴様を完全に捕えている! さあ、早く逃げなければ串刺しになるぞ!」
そしてヒュンケルは、俺の時と同様、必殺剣ブラッディースクライドの構えを取った。
「「ダイ!」」
俺とマァムの声が重なる。
「喰らえ! ――ブラッディースクライド!!」
凄まじい貫通力を内包した闘気剣が闘魔傀儡掌にとらわれたダイを襲う。しかし、俺はそれが直撃する寸前、ダイが身体全体から闘気を放出しわずかに身体を逸らしたのが見えた。
ドサッ!
ブラッディースクライドの直撃を受けたかのように見えたダイは、そのまま闘技場の上に仰向けに叩きつけられた。
「ダイ!」
「ピィ、ピィ!」
マァムとゴメがそんなダイのもとに駆け寄る。俺も、その後を追いかけた。
「ダイ、大丈夫か!」
俺がダイの身体を起こすと、やはりブラッディースクライドの直撃はどうにか防いでいたようで、胸に装着していた鎧はえぐり取られているが、致命傷は負っていないように見えた。しかし、それでも身体に甚大なダメージを負っていると判断した俺は、ここまでかと思いダイに
だが、俺のその動きは、当のダイが俺の手を握りしめることで止められた。
「……ダイ?」
俺は不審に思い、ダイに問いかけながらその目を見て、驚いた。
ダイのその目は、しっかりと見開いているようでいて、前が見えていないようだった。そう、ダイはまるで、目を開けていながら正気を失っているように見えた。……これは、まさか。
「魔法と……剣。2つを合わせるんだ……」
ダイは、虚ろな目でブツブツとそんな事を言っている。
「ちょっと、ダイ! もう良い、もう良いの! あなたは良くやったわ!」
マァムがそんなダイを止めようとしていたので、俺はマァムの肩に手を置いてそれをやめさせた。
「待て、マァム! ダイが覚醒しようとしている。もう少しだけダイにやらせてみよう!」
「――でも、ポップ!」
「必要な事なんだ、マァム! これからのダイには絶対に必要な事なんだ。もしもの時は俺が止めるから、もう少しだけダイの好きにさせてやってくれ!」
「……ポップ。……分かったわ、でも、本当に最後には止めてよね、ポップ!」
分かっている、分かっているさ、マァム。俺はダイの後ろ姿を見つめながら、そう心の中で返事を返していた。
「ふっ。しぶとく生きていたか……。だが、そんな有様で、俺とどう戦うつもりなのだ。今度こそ引導を渡してくれるわ!」
ヒュンケルはダイに追撃をかけようと、振りかぶった剣をダイ目がけて振り下ろす。しかし、その剣が振り下ろされる寸前に、ヒュンケルの鎧に剣による斬撃の跡が刻み込まれた。それは、一瞬の事だった。
「――何!?」
驚愕するヒュンケル。
ヒュンケルの鎧に傷をつけたダイの攻撃。……それは、魔法剣だった。
「ば、馬鹿な! 魔法と剣を同時に扱うなど、人間にできる事ではない! そ、それが出来る存在は……!」
そうだ。魔法と剣を同時に扱う事は人間にはできない。魔法剣士と言っても良いレベルだったアバン先生ですら、両方を同時に扱う事はできなかった。ダイだけだ……。いや、違う、
今、ダイの右手に握られている鋼の剣は、
その火炎剣を手にし、ダイはヒュンケルと切り結んでいる。先ほどまではヒュンケルに一日の長があったが、火炎剣を手にしたダイには一転して劣勢を強いられているように見える。
ヒュンケルの装備している鎧の魔剣に、次々と傷が刻まれていく。
「くっ! ならばもう一度これを喰らえ! ――闘魔傀儡掌!!」
再びヒュンケルの暗黒闘気がダイを拘束する。
「――ぐっ! ぐぐぐぐ……!」
ダイが苦悶の声を上げている。しかし、ダイがこの技を喰らうのは2度目だ。俺は、ダイの戦闘面における学習能力の高さを嫌と言うほど理解している。1度目は、かろうじて躱した。だったら、2度目は……!
ヒュンケルは、必殺のブラッディースクライドの構えを取る。
「ダイ! 闘気だ! さっき躱したように、闘気を放出してそれから逃れろ! そして、反撃だ!」
「――!」
俺の声が聞こえたのか、ダイが身体全体に闘気を漲らせ始める。
「もう遅い! 喰らえ! ――ブラッディースクライド!!」
ヒュンケルの放った必殺剣が、闘魔傀儡掌に拘束されたダイに迫る。
「ダイ!」
マァムが悲壮な声を上げる。
しかし、ダイはやはり、……
「うぉおーー!」
ブラッディースクライドが直撃する寸前、ダイは闘気を全開にしてギリギリのタイミングで闘魔傀儡掌の拘束から逃れる。
「――何!?」
そして、直後に襲ったブラッディースクライドによる攻撃まで最小限の動きで躱したかと思うと、上空を見上げ声を張り上げた。
「――
その稲妻はヒュンケルではなく、ダイの右手に握られた鋼の剣に着弾していた。目を開けていられないほどの稲光が、ダイの握っている鋼の剣から発せられる。
そしてダイは、俺がアバン先生との旅の間で何度か目にしたあの体勢を取った。
「――ライデインストラーッシュ!!」
「う、うおおお!!」
ズガァーーン!!
ダイから放たれた
轟音と共に巻き上がる土ぼこり。
その土ぼこりが晴れた時、ヒュンケルは闘技場の大地に横たわっていた。鎧の魔剣は、粉々に砕かれている。ん……? ヒュンケルの鎧って原作でこんなに粉々になっていたかな? 鎧の一部が砂状になっているんだが、これって大丈夫なんだろうか。刀身は……、良かった、折れていない。確か刀身が残っていれば、時間がかかっても自然に治る不思議素材だったはずだ。
……と、いけない。俺がそんな事を考えていると、まだ意識の戻っていないダイが、ヒュンケルに剣を構えたまま近づいていく所だった。
ヒュンケルは、静かに近づいてくる弟弟子のダイを、見つめていた。先ほどの技の衝撃で身体がピクリとも動かない。ここまでか……と思った。
短い時間であったが、自身がアバンから教わった剣技は全て目の前のダイに伝えていた。この才能あふれる少年なら、いつかその剣技を自身の物と出来るだろう。
ヒュンケルは、自身に止めを刺そうと近づいてくるダイの姿を見つめながら、ようやく贖罪を果たせる時が来たと、半ば安堵した感情を抱いていた。
ヒュンケルはかすかに動く右腕で、自身の胸の中に潜ませていた『魂の貝殻』と、『アバンの印』を握りしめた。
ようやく、2人のもとにいける。ヒュンケルは、あの世でどのように2人に詫びようと考え始めていた。
そんな時、突然ダイの頭上に球体が浮かび上がり、それがダイの頭部に当たって破裂した。
「おっとっと。……お疲れさん、ダイ。マァム、ダイを頼むよ」
「分かったわ」
俺は、
ダイをマァムに預けた俺は、横たわるヒュンケルに近づいていく。ヒュンケルの目は、(余計な事を)とでも言いたそうに俺を見つめていた。
こいつ、やっぱり死ぬつもりだったな……。そんな事をさせるわけないだろうに。
俺は、ヒュンケルの傍に膝をついて、ヒュンケルにも
「なぜ俺を殺さない。俺は、魔王軍不死騎団団長だぞ。……お前達にとって、俺は憎い敵のはずだ」
ヒュンケルは、俺の回復魔法を受けながら話しかけてきた。
「殺すつもりなら、昨日殺しているさ。言っただろう? お前の事はアバン先生から託されているって」
「それなら、昨日俺に『魂の貝殻』を渡したことで果たされたはずだ。今更――」
「おいおい、子供の使いじゃないんだ。『魂の貝殻』を渡しただけで、アバン先生の想いを果たしたなんて思う訳ないだろう? ……なあ、ヒュンケル。お前、逃げるなよ」
「逃げるな……だと。俺が一体何から、逃げているというのだ」
ヒュンケルは、俺の『逃げるな』と言う言葉に心外そうにしている。分からないのかな? いや、分かりたくないだけなんだろうか?
「逃げているじゃないか。死ねばお前は楽になるんだろう。俺は、この場合、生きる方が苦難の道だと思うぞ。……勝手に自分で自分を裁くなよ」
「生きる方が苦難の道……。しかし、俺はこの国を亡ぼした男だ。もはや俺には生きる資格もないだろう。自分で裁くのがいけないのなら、お前が俺を裁いてくれるのか?」
俺が? 本気で言っているのか? ヒュンケルはまっすぐな目で俺を見つめている。本気のようだ。
「勘弁してくれ。俺にそんな事は出来ないよ。お前が俺の両親や好きな人間を殺したというのならともかく、そうじゃないだろう。お前を裁く人間は、このパプニカの国民じゃないのか? そうだな、パプニカの王族に裁いてもらうのはどうだ?」
「パプニカの王族……。そうか、確かにそれなら俺を断罪してくれるか。……良いだろう、だったらそれまでは生きている事にしよう」
うーん、やっぱりこいつは真面目だな。いや、不器用と言っても良い。心を入れ替えたから、これからはアバンの使徒として頑張るっていう訳にはいかんのかね。
……はー、原作通り、レオナ姫がこいつに大岡裁きをしてくれることを期待しよう。
「ヒュンケル、大丈夫!?」
俺がヒュンケルとの会話を終えたタイミングで、
「大丈夫だよ、ダイ。ちょうど
俺はヒュンケルに手を差し伸べながら、声を掛ける。ヒュンケルは少しだけ躊躇して、俺の手を取り立ち上がる。
「ダイ、それにマァム。……済まなかった。俺が愚かだった。今更お前達に詫びても仕方ないのだろうが――」
「そんなことないよ! 俺、ヒュンケルが仲間になってくれて、本当にうれしい!」
「そうよ、ヒュンケル。どんなに遅くなっても、遅すぎるという事は無いわ。大事なのはあなたがこれから何をするかだと、私は思うわ」
「ダイ、マァム……」
ヒュンケルは、ダイとマァムの言葉に感動したのか、その目に涙を浮かべている。
あれっ? 俺さっきヒュンケルが謝罪した時に名前を呼ばれてない気がする……。えっ、俺昨日あんなに頑張ったのにそんな扱いなの? ちょっとひどくね?
ていうか、今日ヒュンケルがダイに放ったブラッディースクライド、俺が昨日喰らったやつより明らかに殺気が足りてなかった気がするんだけど!
おのれ、ヒュンケル……。やっぱり、昨日その顔を焼いておけば良かった……。
「クカカカカ……! ざまあねえなー、ヒュンケル! 敵に敗れた挙句、お涙ちょうだいとはよ!」
突如、闘技場を囲んでいる壁の上から、ヒュンケルを嘲笑する声が聞こえてきた。俺達がその声のした方向を仰ぎ見ると、そこには、半身が炎、半身が氷の異形の魔物がいた。
「き、貴様は、氷炎将軍フレイザード! な、何故ここに!?」
「「フレイザード!?」」
ダイとマァムが、ヒュンケルのその言葉に驚愕の声を上げる。もちろん俺も驚いていたが、この展開は予測の範疇ともいえる。……やはり来たか、フレイザード。こいつは、このホルキア大陸に来る前は、北のマルノーラ大陸のオーザム国を侵略していたはずだ。
俺の脳裏に、オーザム国で親しくなった人達の顔が思い浮かぶ。ライオネル王は無事だろうか? オーザムの皆は避難施設に移る事が出来ただろうか?
「なぜ貴様がここに!?」
「決まってんだろうが! てめえがもし勝っていたら、ぶっ殺して上前はねてやろうと思っていたんだよ! だが、負けていたとは好都合だ! 生き恥をさらさずに済むように、俺が相打ちって事にしておいてやるよ! 泣いて感謝しろ!」
フレイザードがそう叫び、闘技場内にマグマの塊のようなものを打ち込む。その途端、辺りを異様な振動が包み込む。
ゴゴゴゴゴゴゴ……!
「こ、これは……!?」
ダイが、その不気味な振動に顔色を変えている。
「カカカカ! ちょいとここらの死火山に活を入れてやったのよ! もうじきこの辺りはマグマの大洪水になるぜ!」
「――そ、そんな!」
「おのれ! フレイザードー!」
ヒュンケルが激高し、フレイザードに剣を投げつけるが、わずかに届かず壁に剣は壁に突き刺さった。
「おっと! へへ、歓迎されてねえみてえだな! じゃあ、ここらでおさらばするぜ! せいぜい溶岩の海水浴を楽しみな!」
フレイザードはそう言葉を残して、立ち去って行く。
「ど、どうしよう、ポップ! このままじゃ、俺達マグマに飲み込まれちゃうよ!」
ダイが俺に縋り付くように、泣きついてくる。
え? どうしてダイはそんなに慌てているんだ?
「ポップ! このままじゃあ、私達……!」
マァムまで俺に縋り付いてきて訴える。
……? どうして、2人ともこんなに慌てているんだ? 俺は、2人のあまりの慌てぶりに困惑していた。
おぉ!? ヒュンケルがどこからか、俺たち全員が乗れそうなほどの大岩をその両手に抱えて引きずってきた。どこにそんな大岩があったんだよ!
え? まあヒュンケルはともかくとして、ダイとマァムはもしかして忘れてしまっているのか?
……俺が
「いや、ちょっと落ち着けよ、ダイ、マァム。こんな状況、
俺がその事実を2人に伝えると、2人とも「はっ!?」と言葉を発して固まってしまった。こいつら、本当に忘れていたな……。
「いやいや、マァムなんてラインリバー大陸からこのホルキア大陸までついこの間
「……」
マァムは、俺の言葉にまさに鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。
――!
俺は、そんなマァムの顔を眺めていると、ハッと気が付いてしまった。
――そうか、そうだったのか!
分かった! マァムは、僧侶戦士から武闘家に転職を果たしている。おそらくその時に、マァムの『かしこさ』の数値が、下がってしまったんだ!
俺は、自分の迂闊さに嫌気がさした。こんな単純なことに、今まで気が付かなかったとは。
思えば、その予兆はこれまでにもあった。突然俺の脇腹を肘鉄したり、俺の足の甲を踏みつけてきたり、思えばこれらの行為は全て武闘家に転職し始めてからの事だった。
何てことだ……。この世界に『かしこさのたね』は存在しただろうか? どうにか探し出して、マァムに与えてやらなければ、マァムがあまりに可哀そうすぎる。
俺は、かしこさの実を探し出してマァムに与える事を忘れないように、心のノートに書き込んでおいた。
……っと、『マァムのかしこさUP計画』の事は後にしておこう。さすがに、マグマが俺達の周りを取り囲んできて、少々暑苦しくなってきた。
「さあ、2人共、呆けてないで集まってくれ! ゴメは俺の肩に乗っかるんだ!
俺のその言葉に、ダイとマァムは顔を若干赤らめて集まってくる。ヒュンケルは何故か、名残惜しそうに大岩を手放してやってくる。……なんでそんなに名残惜しげなんだよ!
そして俺は、全員が俺の身体に触れたのを確認して、